大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・16・花子編《月参りの代理》

2016-04-30 12:52:27 | 小説
・16・花子編
《月参りの代理》



 国府寺の住職が亡くなった。

 国府寺は奈良時代から続く華願宗で、この宗派は自分では葬儀はしない。葬儀は昔から浄土真宗のお寺が請け負う。
 慣例に従って、西慶寺の住職と副住職が昨夜の通夜から出向いている。

 住職の泰淳はわたし(花子)の父であり、副住職の諦観は兄である。

 国府寺の葬儀のため、この日の月参りはわたしが務める。
 今日のお参りは商店街の鎧屋と室井精肉店だ。
「ハナちゃん、お世話になるね」
 玄関から入ると、くだけた言葉だけれど、小父さんが慇懃にご挨拶される。
 ちなみに玄関から入るのは、今日のわたしは西慶寺の僧侶だから。いつもはお店の入り口から気楽に入る。緩やかだけれど、商店街では、昔からのけじめがキチンとしている。

 仏間兼リビングの12畳には小父さんと小母さん、こうちゃん、こざねちゃん、お弟子のきららさんが神妙に並んでいる。

 幼なじみのこうちゃんとこざねちゃんが神妙にしているのには未だに慣れない。
 去年初め月参りに来た時は、わたしの衣姿がおかしくって、こざねちゃんが吹き出して小父さんに叱られてしまった。なかなか使い分けは難しい。

 でも、仏壇の前に座ってお蝋燭とお線香を点けるあたりから様になってくる。

 他の宗派は、香炉にお蝋燭を真っ直ぐ立てるけど、浄土真宗では高炉の大きさに合わせて、2つか3つに折って寝かせる。
 特に教義上の意味は無い。単に火の用心のため。中学に入ってお参りの作法をあれこれ教えられたけど、この火の用心のためというのには笑ってしまった。
 お務めそのものはカタチなので慣れればノープロブレム。
 困るのというか緊張するのは、そのあとのお話し。お参りなので基本的には法話なんだけど、わたしみたいな女子高生坊主が法話だなんてとんでもない。
 世間話というか、檀家さんの生活や関心に合わせた話をする。

「来年は大祖父さまの37回忌ですね」

「きちんと、お寺でやるつもりだよ」
 この返事には、すこし狼狽えた。別に催促したつもりはない。法事も37回忌になると月参りのついでにやるのが普通で、寺の本堂で本格的に営まれることは珍しい。
「祖父さんは、旗絡めの事故で亡くなったからね、旗絡めのためにもきちんとやっておきたんだよ」
 わたしは息をのんだ。
 旗絡めとは、秋に行われる馬揃えで、かつて行われていた勇壮な行事だ。勇壮なために事故が起こることが多く、怪我人が出るのは当たり前で、何年かに一度は死者まで出る。鎧屋の先々代は37年前の事故で亡くなっている。
 旗絡め自身も12年前に廃止になっている。小中学校では旗絡めを模した騎馬戦が行われているが、東京などから転居してきた新住民の人たちからは「組体操同様に危険だ」と言われ、このジュニア版もいつまで行われるか分からない。
 そう言う状況の中での小父さんの言葉に、静かだけどクッキリした想いを感じた。

 次の室井精肉店では、もっと気楽にできた。

「ハナちゃん、噂になってないかい?」
 小父さんの一言でピンときた。りょうちゃんが分かりやすくビクッとしたから。
「あ、国府女学院の……?」
 居並んだご家族が、いっせいにため息をつき、その視線がりょうちゃんに集まった。
「いや、もう終わっちゃった話だからね!」
 りょうちゃんが焦る。
「だいじょうぶですよ。その……りょうちゃんは商店街のマスコットですから」
「マ、マスコット?」
「ハハハ、遼太郎はマスコットか!?」
 兄の潮五郎さんが笑う。
「いっそ、商店街のイメージキャラクターにして着ぐるみにでもなっちまえばいいのに」
 小母さんが煽る。
「でもさ、商店街のイメージって言えば、ハナちゃんたちのアーケーズだろ?」
「おちゃらけキャラがあってもいいんじゃないかなあ」
「そうよ、着ぐるみにすれば可愛くなっちゃうわよ」
「じゃ、こんどの理事会にかけてみるか?」
「そうだ、原案用に写メを撮っておこう!」
「ちょ、ちょっと勘弁してよ!」

 商店街の連休は賑やかになりそうだ……。
 

※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘
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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・208『切れる音・1』

2016-04-30 07:57:59 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・208
『切れる音・1』



 プツン……また切れる音がした。

 パンツのゴムが切れたように密やかな音。だけど、誰かのパンツのゴムが切れたわけではない。
 生徒の興味が切れた音である。そのあと続けざまに三回切れる音がした。これでクラスの半分の生徒の興味が切れた。
 しかし、朽木は、構わずに授業を続けた。もう慣れっこになっている。
 先月の実習生の授業がめちゃくちゃだったので、やり直した分、一週間分は遅れている。なんとしても、摂関政治は終わって武士の台頭まで進まなくては、今年度も日本史は明治維新を過ぎたあたりで終わってしまう。思ったとたんに、また切れる音がした。

 朽木に、この音が聞こえるようになったのは、二年前の校外学習だった。学年全部で京都嵐山方面に行った。一応班編成にしているが、スタンプラリーのような手のかかることはしない。生徒が自然な自主性で仲間ができるきっかけにするという名目で放し飼いである。
 放し飼いというと、まなじり上げた組合の先生方から叱られそうだけど、実態を表現すると、この言葉しかない。
 阪急嵐山駅で降りると、校外学習のアリバイのために集合写真だけは取る。そのあとは校外学習費から各自に1000円と、嵐山近辺の地図だけを渡す。基本は班行動だが、班を解体して二人以上の行動なら許すことにしていた。携帯やスマホのアドレスは全員分掌握している。いざとなったら、どこからでも連絡は取れる。

「さあ、ゆっくり昼飯にでもしましょか」

 学年主任の一言で、互助会で使える料亭で、豪華な昼食をとることになったが、朽木は断った。
 転勤したての副担任、そこまで付き合う気はなかった。転勤一か月余りで、朽木は、この学校に嫌気がさしていた。
 学校の評定は6・2と府立高校としては上の部に入る。転勤が決まった時は喜んだが、一週間で学校の中身が分かってしまった。民間人校長一人だけが、府教委とマスコミにいい顔はしているが、学校は怠惰の一言だ。生徒は程よく自分で勉強し、そこそこの私立大学に合格していく。産近甲龍にそこそこ入っていくことで、師弟ともども自足している。生徒も表面行儀よく、生指上の問題も、転勤以来、新入生のケンカまがいのことが一回と、女生徒が変質者に追われた件があっただけである。

「観ておきたいところがありますので」
「朽木さん、日本史やもんなあ」

 その二言のやり取りで、朽木の単独行動は公認のものとなった。もう朽木は、他の教師と群れる気はなかった。三年四年辛抱して、さっさと転勤する気になっていた。下手に仲間を作ったり重宝がられては、その転勤が延びてしまう。

 視野の中にチラチラと生徒の姿が入ったが、これも無視した。前の学校は、いささかヤンチャナ学校だったが、こういう場では、よく絡まれた。写メを撮ってやったり、弁当のつまみ食いをしてやったり、時には喫煙の現場を発見したり、他の学校とのトラブルの仲裁に入ったり。ところが、いまの学校の生徒は、ちっとも絡んでこない。ま、そういう学校だ。

 嵐山・嵯峨野は、学生のころから何度も来ている。とりあえず大覚寺方面に向かう。生徒の数が次第に減る。愛宕神社を通り過ぎ、突き当りを右に曲がれば大覚寺。左へ行けば化野である。大覚寺は十年ぶりぐらいであった。見慣れた道とは言え、やはり変化がある。
「こんなところに竹林があったかな……」
 民家や店は建て替わっても気づかないことはあるかも。しかし十年とは言え、竹林一つを見逃すわけがない。
 よく見ると――嵯峨天神社――のささやかな札が風に揺れていた。
 嵯峨野に天神さんはないはず……そう思いながらも、不思議さと、ささやかながらも深淵さを感じて朽木は、オレンジ色に変色しかけた朱塗りの鳥居をくぐった。

 小さな無人の社があるだけだった。朽木は、滋賀の旧家の出であることもあり、こういうことでは行儀がいい。ささやかな御手洗所で手を洗い口を漱いで、拝殿に向かった。特に願うことなどなかったが、習慣として柏手をうち礼をする。
 良くも悪くも無心に手を合わせると、後ろで人の気配がした。
 振り返ると真子がいた。

「いやあ、こんなとこまで来るのは、あたしだけかと思うたわ。先生も大覚寺行かはんのん?」
「うん、そのつもりで歩いてたら、この天神さんに気ぃついてな」
「よかったら、写メ撮ってくれます?」
「ああ、ええよ」
 朽木は、ちょっと懐かしい気持ちになり、真子のバストアップと、真子との二人撮りをした。

 朽木は、ハナから、この学校には関心が無かったので、生徒のことはほとんど覚えておらず、大半は名前と顔が一致しない。しかし、この真子だけは、最初から印象に残った。とくに美人というわけではないが、AKBの書類審査ぐらいは通りそうな子で、授業も熱心に聞いてくれていた。
 少し楽しい遠足になったかな。そう思って、大覚寺で真子と集合時間に間に合うまでのんびりと過ごした。

 そして、あくる日から人の心が切れる音がきこえるようになった。

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高校ライトノベル・泉希 ラプソディー・イン・ブルー・3〈泉希着々と〉

2016-04-30 07:01:30 | 小説5
泉希 ラプソディー・イン・ブルー・3
〈泉希着々と〉
        


「泉希ちゃん、このお金……」佐江が、やっと口を開いた。

「はい、お父さんの遺産です」
 この言葉に我に返った亮太が続けた。
「こ、こんなにあるのなら、もう一度遺産分けの話しなきゃならないだろ、母さん!」
「あ、ああ、そうだよ。遺産は妻と子で折半。子供は人数で頭割りのはずだわよ」

 5000万円の現金を目の前に、泉をあっさり亮の実子であることを認めてしまうハメになってしまった。

「残念ですけど、これは全てあたしのお金です」
「だって、法律じゃ……」
「お父さんは、宝くじでこれをくれたんです。これが当選証書です。当選の日付は8月30日。お父さんが亡くなって二週間後です。だから、あたしのです。嘘だと思ったらネットで調べても、弁護士さんに聞いてもらってもいいです。

 亮太がパソコンで調べてみたが、当選番号にも間違いはなく、法的にも、それは泉希のものであった。

 この子を大卒まで面倒をみても半分以上は手元に残る。今日子は瞬間で計算をして、あっさり呑み込んでしまった。
 泉希は、亮太が結婚するまで使っていた三階の6畳を使うことにした。机やベッドは亮太のがそのまま残っていたのでそのまま使うことにした。足りないものは三日ほどで泉希が自分で揃えた。
「お母さん。あたし学校に行かなきゃ」
「今まで行っていた学校は?」
「遠いので辞めました。編入試験受けて別の学校にいかなきゃ!」

「申し分ありません。泉希さんは、これまでの編入試験で最高の点数でした。明後日で中間テストも終わるから、来週からでも来てください」
 都立谷町高校の教務主任はニコニコ顔で言ってくれ、担任の御手洗先生に引き渡した。
「御手洗先生って、ひょっとして、元子爵家の御手洗さんじゃありませんか?」
 御手洗素子先生は驚いた。初対面で「みたらい」と正確に読めるものもめったにいないのに、元子爵家であることなど、自分でも忘れかけていた。
「よく、そんなこと知ってたわね!?」
「先生の歳で「子」のつく名前は珍しいです。元皇族や華族の方は、今でも「子」を付けられることが多いですから。それに、曾祖母が御手洗子爵家で女中をしていました。」
「まあ、そうだったの、奇遇ね!」
 付き添いの今日子は、自分でも知らない義祖母のことを知っているだけでも驚いたが、物おじせずに、すぐに人間関係をつくってしまう泉希に驚いた。

 泉希は一週間ほどで、4メートルの私道を挟んだ町内の大人たちの大半と親しくなった。6人ほどいる子供たちとは、少し時間がかかった。今の子は、たとえ隣同士でも高校生になって越してきた者を容易には受け入れない。で、6人の子供たちも、それぞれに孤立していた。

 町内で一番年かさで問題児だったのは、4件となりの稲田瑞穂だった。泉希は、平仮名にしたら一字違いで、歳も同じ瑞穂に親近感を持ったが、越してきたあくる朝にぶつかっていた。
 早朝の4時半ぐらいに、原チャの爆音で目が覚め、玄関の前に出てみると、この瑞穂と目が合った。
「なんだ、てめえは?」
「あたし、雫石泉希。ここの娘よ」
「ん、そんなのいたっけ?」
「別居してた。昨日ここに越してきた」
「じゃ、あの玉無し亮太の妹か。あんたに玉がないのはあたりまえだけどね」
「もうちょっと期待したんだけどな、名前も似てるし。原チャにフルフェイスのメットてダサくね?」
「なんだと!?」
「大声ださないの、ご近所は、まだ寝てらっしゃるんだから」
「るせえんだよ!」
 出したパンチは虚しく空を打ち、瑞穂はたたらを踏んで跪くようにしゃがみこんでしまった。
「初対面でその挨拶はないでしょ。それに今の格好って、瑞穂があたしに土下座してるみたいに見えるわよ」
 瑞穂は、気づいて立ち上がった。完全に手玉に取られている。
「てめえ……」
「女の子らしくしようよ。ても瑞穂は口で分かる相手じゃないみたいだから、腕でカタつけようよ。準備期間あげるわ。十日後、そこの三角公園で。玉無し同士だけどタイマンね、小細工はなし」
「なんで十日も先なのさ!?」
「だって、学校あるでしょ。それに、今のパンチじゃ、あたしには届かない。少しは稽古しとくことね」

 そこに新聞配達のオジサンが来た「おはようございます」と言ってるうちに瑞穂の姿は消えてしまった。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・45〈高安幻想・4〉

2016-04-30 06:48:22 | 小説6
高安女子高生物語・45
〈高安幻想・4〉
        


 うち自身が元の世界にもどれるかどうか……。

 それが、戻れてしもた!
 正成のオッチャンが、この古墳の石室に身を隠してならあかん事情を切々と説明したあと、なんや匿うたげならあかんようんな気ぃになってきた。どうやら、赤坂城で一暴れしたあと、護良親王の令旨(りょうじ)を受けて再び挙兵しようと潜伏中やったらしい。

「わいは、どないしてもやらならアカンのんじゃ」

 この和歌に十文字足らん言葉に万感の思いがあった。うちらの平成の時代のオッサンらには無い心にしみ通るような響きがあった。

 で、どないかしたらならアカン……と思ったら、元の恩地川のほとりに、うち一人で立ってた。

 ゲンチャが脇をすり抜けていくのにびっくりして、我に返った。
「なんや、夢でもみててんやろか……」
――夢や無い。明日香の心の中に居る――
「え、うちの中!?」
――なんや、様子が変わってしもとるけど、信貴山、高安の山のカタチはいっしょや。これが七百年後の高安か――
「正確には、恩地との境目やけどね。とりあえず家帰るわね」
――あの、高安山の上にある海坊主みたいなんは、なんや?――
「あれは、気象レーダー……言うても分からんやろなあ」
 
 それから、家に帰るまでは質問攻めやった。いちいち答えてたら、通行人の人らがへんな目で見るさかい、シカトすることに決めた。正成のオッチャンも勘のええ人で、うちの迷惑になるのん分かったみたいで外環超える頃には、なんにも聞いてこんようになった。ただ、うちの心の中に居るんで、オッチャンの驚きがダイレクトに心にわき起こって、うち自身ドキドキやった。

「ただいまあ」
「おかえり……」
 めずらしい、お父さんが二階のリビングに居った。と、思たら、もうお昼や。
「明日香。生協来たとこやから、パスタの新製品あるで」
「ほんなら、もらうわ」
 うちは、自分の意志やないのに答えてしもた。どうやら正成のオッチャンがお腹空いてるらしい。
 レンジでチンして、和風キノコバターとペペロンチーネを二つも食べてしもた。

「ああ、おいしいなあ!」
「明日香が、そないに美味しそうに食べるのん久々やなあ」
「ああ、育ち盛りやさかい。アハハ」
 まさか、自分の中の正成のオッチャンが美味しがってるとは言われへん。うちは、それから、自分の部屋に戻ってから、どないしょうかと思た。
「正成さん、ずっと、こないしてうちの中に居るのん?」
――しゃあないやろ。どうやら、この時代では、明日香の中からは出られんようやさかいな――
「せやけどなあ……」
――狭いけど、いろいろある部屋やのう。あの生き写しみたいな絵は明日香やなあ――
 馬場先輩に描いてもろた絵に興味。
――この絵にはタマシイが籠もっんのう。ただ残念なことに、これ描いた男は、明日香のことを絵の対象としか見とらんようやけどな。まあ、大事にし。何かにつけて明日香の助けになってくれるで――
 それは、もう分かってる。
――なんや、知ってるんか。そこの仕舞そこねた雛人形も大事にしいや。もうちょっと、日ぃに当たっていたいらしいで。その明日香の絵ぇとも相性良さそうやさかい――
「分かってます。それより、ちょっとでもええさかい、うちの心から離れてもらえません。なんや落ち着かへん」
――しかしなあ……その日本史いう本はなんじゃい?――
「ああ、うちの教科書。日本でいっちゃん難しい日本史の本」
――おもろそうやなあ……しかし、日本史いう言い方はおかしいなあ。まるで日本いう異国の歴史みたいや。日本国の歴史やったら国史やろが……――

 そう、正成のオッチャンが呟くと、心が軽なったような気ぃがした。

「正成さん、正成のオッチャン……」
――なんじゃい――
 なんと、山川の詳説日本史の中から声がした。
「オッチャン、いま本の中に居てるのん!?」
――なんや、そないみたいやな――
「大発見。オッチャン本の中にも入れるんや。本やったら、なんぼでもあるさかい、本の中に居って」
――ああ、わいも興味津々やさかいな――

 一安心、いつまでも心の中におられてはかなわん。あたしは、新学期の準備と部屋の片づけしてるうちに、正成のオッチャンのことは忘れてしもた。
 気ぃついたんは、夜にお風呂に入ってから。

――明日香、おまえ、なかなかええ体しとったなあ――

 心の中から、オッサンの声がしてびっくりした!
――しかし、明日香、おまえ、まだおぼこ(処女)やねんのう――
 顔のニキビを発見したほどの気楽さで言われたが、言われた本人は、真っ赤になった……。

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高校ライトノベル・泉希 ラプソディー・イン・ブルー・2〈泉希って……!?〉

2016-04-29 06:50:38 | 小説5
泉希 ラプソディー・イン・ブルー・2
〈泉希って……!?〉
       


 泉希(みずき)は、よく似合ったボブカットで微笑みながら、とんでもないものを座卓の上に出した。

「戸籍謄本……なに、これ?」
 今日子は当惑げに、それを見るだけで手に取ろうとはしなかった。
「どうか、見てください」
 泉希は軽くそれを今日子の方に進めた。今日子は仕方なく、それを開いてみた。
「なに、これ!?」
 今日子は、同じ言葉を二度吐いたが、二度目の言葉は心臓が口から出てきそうだった。

 婚外子 雫石泉希

 亮の僅かな遺産を整理するときに戸籍謄本は取り寄せたが、子の欄は「子 雫石亮太」とだけあって、婚姻により除籍と斜線がひかれていただけだった。ところが、泉希の持ってきたそれには「婚外子 雫石泉希」とあるのである。
「これは、偽物よ!」
 今日子は、慌てて葬儀や相続に関わる書類をひっかきまわした。
「見てよ。あなたのことなんか、どこにも書いてないわ!」
 泉希は覗きこむように見て、うららかに言った。
「日付が違います、わたしのは昨日の日付です。備考も見ていただけます?」
 備考には、本人申し立てにより10月11日入籍。とあった。
「こんなの、あたし知らないわよ」
「でも事実なんだから仕方ありません。これ家庭裁判所の裁定と、担当弁護士の添え状です」

 今日子は、家裁と弁護士に電話したが、電話では相手にしてもらえず、身分を証明できる免許証とパスポートを持って出かけた。

 泉希は、白のワンピースに着替えて、向こう三軒両隣に挨拶しにまわった。
「わけあって、今日から雫石のお家のご厄介になる泉希と申します。不束者ですが、よろしくお付き合いくださいませ」
 お向かいの巽さんのオバチャンなど、泉希の面差しに亮に似たものを見て了解してくれた。
「うんうん。その顔見たら事情は分かるわよ。なんでも困ったことがあったら、オバチャンに相談しな!」
 そう言って、手を握ってくれた。その暖かさに、泉希は思わず涙ぐんでしまった。

 今日子が夕方戻ってみると、亮が死んでからほったらかしになっていた玄関の庇のトユが直されていた。庇下の自転車もピカピカになっている……だけじゃなく、カーポートの隅にはびこっていたゴミや雑草もきれいになくなっていた。
「奥さん、事情はいろいろあるんだろうけど、泉希ちゃん大事にしてあげてね」
 と、巽のオバチャンに小声で言われた。

「お兄さん、お初にお目にかかります。妹の泉希です。そちらがお義姉さんの佐江さんですね、どうぞよろしくお願いいたします」
 夜になってからやってきた亮太夫婦にも、緊張しながらも精一杯の親しみを込めて挨拶した。なんといっても父である亮がいない今、唯一血のつながった肉親である。亮太夫婦は不得要領な笑顔を返しただけである。
 母から急に腹違いの妹が現れたと言われて、内心は母の今日子以上に不安である。僅かとはいえ父の遺産の半分をもらって、それは、とうにマンションの早期返済いにあてて一銭も残っていないのである。ここで半分よこせと言われても困る。
「あたしは、ここしか身寄りがないんです。お願いします、ここに置いてください。お金ならあります。お父さんが生前に残してくれました。とりあえず当座にお世話になる分……お母さん……そう呼んでいいですか?」
 今日子は無言で、泉希が差し出した通帳を見た。たまげた。

 通帳には5の下に0が7つも付いていた。5千万であることが分かるのに一分近くかかった。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・44〈高安幻想・3〉

2016-04-29 06:38:25 | 小説6
高安女子高生物語・44
〈高安幻想・3〉
        


「左近、こいつはナニモンや?」

 と、聞いてきたから、あたしの姿は見えるんやろ。
「御館には見えまっか?」
「ああ、おなごのようじゃが、妙なナリやのう」
 そりゃそうやろ、ユニクロのジーンズにトレーナーやもん。
 このオッサンも、けったいや。左近のオッチャンが「オヤカタ」言うてるわりにはみすぼらしい。
「こいつは……そういや、まだ名前聞いとらへんなあ。名ぁはなんちゅうねん?」
「あ、佐藤明日香です」
「佐藤? ぬしは、どこぞの姫ごぜの成れの果てか?」
「はあ……うち、ただの市民です」
「しみん?」
 ああ、市民は明治になってできた言葉や。
「普通の一般大衆です」
 女子高生では通じないだろうと言葉を選ぶ。
「たいしゅう……どんな字ぃ書くねん?」
「ああ、こうです」
 
 うちは地面に「大衆」と書いた。

「これは大衆(だいしゅ)や、どこぞの寺の役僧か?」
 一般に使われてる単語は明治になって、英語を訳すときに作られた言葉が多い……と、お父さんが言うてた。百姓やったら、この時代でも通じるけど。うっとこは農業やない。で、五分ほど言い合うたあと、学者の娘いうことで落ち着いた。

「さよか、七百年も先の平成たらいう時代の学者の娘か」
 感心したようにオッサンが言うた。
「ところで……(二人称につまる)あなたさまは、どなたさんで?」
「わいか。わいは……」
 オッサンは、一瞬左近さんの顔を見た。左近さんは、こいつは大丈夫いうような顔をした。
「わいは、楠木正成や」
「え……河内の英雄、河内音頭の定番、山川の教科書で冷遇されてる悪党の楠木正成さん!?」
「お前の時代では、わいは英雄か?」
「ほら……名前ぐらいは(なんせ、山川でも一行出てくるだけやさかい)」

 知識欲の固まりみたいなオッサンで、うちが知らんようなことばっかり聞いてくる。
 うちは、この正成さんの末路は知ってる。湊川で足利の大軍勢相手に、たった八百人で戦うて全滅する。たしか新田のオッサンと馬があわへんねんや……せやけど、そんなことは言われへん。

「で、明日香はん。しばらく御館をかくもうてはくれへんやろか?」
「ええ!?」

 左近のオッサンの頼みで、歴史上の人物楠木正成をかくまうことになってしもた。せやけど、かくまういうても、うち自身が元の世界にもどれるかどうか……。

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高校ライトノベル・アーケード・15・遼太郎編《りょうちゃんの失恋》

2016-04-28 12:35:06 | 小説
・15・遼太郎編
《りょうちゃんの失恋》



 7時の時報を見ただけでソワソワしてしまう。

 国府女学院のあの子が通りかかるのには30分もあるのに何も手につかない……ということはない。
 毎日判で押したように、顔を洗って朝ごはんを食べてトイレに行って学校の用意をする。
 商店街の人間は店のサイクルで生活している。
 店のサイクルというのは独特な勢いがある。普通の家なら、家族は職場とか学校とか別々の朝があって、それがたまたま同じ家にいてドタバタやっているという感じ? だからボンヤリしていると他の家族に追い越され、自分一人が遅刻したりする。場合に寄っちゃそのまま家に居てズル休みだってできてしまう。ズル休みしたって数日なら気づかれることが無いときだってあるだろう。
 商売をやっていると、そうはいいかない。なんせ親は一日中家に居る。ズル休みなんてすぐにばれてしまうから、出来る相談じゃない。
 商売には勢いがいる。勢いってか元気が無ければお客が減る。特にうちなんか精肉店だから、元気が無ければ肉の鮮度が落ちたように感じられる。
 でもって、うちの朝の勢いは魚河岸みたいな勢いがある。
 長年培ってきた勢いなんで、型になっている。型だから脳みそを使わなくてもできてしまう。

 で、朝のあれこれをキチンとやりながら、頭の中でソワソワしている。

 7時25分、箒を持って店の前を掃除する。小学校の5年生からの日課というか仕事というか。アーケードと交差している原道からお隣りの総菜屋さんのところまでを掃く。
 原道を挟んだ隣の喫茶ロンドンはモーニングの真っ最中。メイちゃんが制服の上からエプロンを付けてウエイトレスをやっているのがガラス窓から見える。筋向いの履物の近江屋では、ふーちゃんがハタキをかけている。日によっては3人揃って店の前を掃いていたりする。

 7時29分、100メートル東の順慶道を曲がってアーケードに入ってくる国府女学院のあの子がやってくる。

 曲がる角にあーちゃんのフラワーショップ花があるので、なんだかお花畑の中から出てきた妖精のように見える。
 ジャンスカの上にボレロ、大きめの白い襟が可愛いツインテールの丸顔を引き立てている。
 見つめるわけにはいかないので、ロンドンの前まで掃除するふりをして、カーブミラーに映る姿や、ロンドンの向かいの店に映る姿を見る。そして彼女が通り過ぎる瞬間、大きくゆっくりと息を吸い込む。スミレみたいないい匂いがする。
 彼女が3メートルほど進んだところで、店の方に戻る。距離にして10メートルほど彼女の後ろを歩く。ほんの数秒だけど、1日で一番幸せな時間だ。

 ちょっと前までは誘惑に勝てずに駅前まで付いて行っていた。

 あの時はふーちゃんに見とがめられ、白虎地蔵の裏でひどい目に遭った。175センチの壁ドンは、はっきり言って凶器だぞ。
 このまま見るだけで終わるのかと思ったら、急展開があった。

「あの、これ君のじゃないかなあ?」
 いつものようにロンドンから、彼女の後ろ3メートルのところをごく自然な形で歩いていた。すると後ろから声がしたんだ。
 直前にロンドン入り口のカウベルが鳴ったんで、ロンドンから出てきたんだろう。声の主は国府にある誠志学院の制服を着ていた。
 で、手には鶯色のブックカバーが付いた文庫本が載っている。
「あ、それ……」
「国府駅で拾ったんだ。君のだね?」
「あ、こないだ急いで降りた時に……!」
「うん、すぐ前を女学院の2人連れが走っていったから。その、後姿で分からなかったけど、ブックカバーのイニシャルとかで。斉藤さん」
「でも……その、よく分かりましたね?」
「うん、電車の中で文庫本読んでる子って、その……あんまり居ないから」
「あ、そ、そうですよね」
「で、妹が女学院で同学年だから」
「そうなんだ……わざわざ?」
「朝は、いつもここのモーニングだから。レジに居たら通りかかったのが見えて」
「そ、そうなんだ」
「もう時間だ、歩きながら行こうか」
「う、うん」

 そして国府女学院と誠志学院の二人連れは、朝のアーケードを駅に向かっていった。

 断じて違う。あの誠志学院は初めてロンドンに入ったんだ。今まで見たことも無いもんな!
「作戦勝ちだよ! アハハハ」
 様子を見ていたふーちゃんに笑われてしまった。
 で、立会演説の原稿を考えてるメイちゃんに「しっかり考えろよ」なんて言ってせかしてしまった。
 ただ、間抜けな自分にイラついていただけなんだけど。メイちゃんはまともに受け止めてしまったようだ。
 でも、花屋のあーちゃんが「ゆっくりで」と言ったんで、元のペースに戻った。
 アーケードの幼なじみは、どこかで帳尻があっている。
 

※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘
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高校ライトノベル・泉希ラプソディー・イン・ブルー〈それが始まり〉

2016-04-28 07:19:21 | 小説5
泉希ラプソディー・イン・ブルー
〈それが始まり〉
        


 業者は123万円という分かりやすい値段でガラクタを引き取って行った。

「まあ、葬式代にはなったんじゃない」
 息子の亮太は気楽に言った。
「でも、なんだかガランとして寂しくもありますね……」
 嫁の佐江が、先回りして、取り持つように言った。

 亭主の亮は、終戦記念日の昼。一階の部屋でパソコンの前でこと切れていた。
 今日子は悔いていた。
「ご飯できましたよ」二階のリビングから呼んだとき「う~ん」という気のない返事が返ってきたような気がしていたから。
 一時半になって、伸び切った素麺に気づき、一階に降り、点けっぱなしのパソコンの前で突っ伏している亮に気づき救急車を呼んだが、救命隊員は死亡を確認。そのあと警察がやってきて、死亡推定時間を午前11時ぐらいであることを確認、今日子にいろいろと質問した。
 あまりにあっけない亮の死に感情が着いてこず、鑑識の質問に淡々と答えた。
「多分、心臓か、頭です。瞼の裏に鬱血点もありませんし、即死に近かったと思います。もし死因を確かめたいということでしたら病理解剖ということになりますが……」
「解剖するんですか?」
 亮太が言った。今日子の連絡で、嫁の佐江といっしょに飛んできたのだ。
「この上、お義父さんにメスをれるのは可愛そうな気がします。検死のお医者さんに診ていただくだけでいいんじゃないですか?」
 この佐江の一言で、亮は虚血性心不全ということで、その日のうちに葬儀会館に回された。葬儀は簡単な家族葬で行い、亮の意思は生前冗談半分に言っていた『蛍の光』で出棺することだけが叶えられた。

 そして、長い残暑も、ようやく収まった10月の頭に、亮の遺品を整理したのである。

 亮は三階建ての一階一室半を使っていた……今日子にすれば物置だった。ホコリまみれのプラモデルやフィギュア、レプリカのヨロイ、模擬刀や無可動実銃、未整理で変色した雑多な書籍、そして印税代わりに版元から送られてきていた300冊余りの亮の本。
 佐江は、初めてこの家に来た時、亮の部屋を見て「ワー、まるでハウルの部屋みたい!」と感激して見せた。同居する可能性などない他人だから、そんな能天気な乙女チックが言えるんだと、今日子は思った。
 そして、一人息子の亮太が佐江と結婚し家を出ていくと、亮と今日子は家庭内別居のようになった。

 亮は、元々は高校の教師であったが、うつ病で早期退職したあと、ほとんど部屋に籠りっきりであった。退職後、自称作家になった。実際本も3冊、それ以前に共著で出したものも含めて10冊ほどの著作があるが、どれも印税が取れるほどには売れず。もっぱら著作はブログの形でネットに流す小説が主流であった。

 パソコンに最後に残っていたのは、mizukiと半角で打たれた6文字。佐江の進言で、その6文字はファイルに残っていた作品といっしょにUSBにコピーされ、パソコン自体は初期化して売られてしまった。
「あ、お母さん、人形が一つ残ってるよ」
 亮が仏壇の陰からSDと呼ばれる50センチばかりの人形を見つけた。
「あら、いやだ。全部処分したと思ったのに……」

 亮は、亡くなる三か月ほど前から、人形を集め始めた。1/6から1/3の人形で、コツコツカスタマイズして10体ほどになっていた。今日子は亮のガラクタにはなんの関心もなかったが、この人形は気持ちが悪かった。
 人形そのものが、どうこうという前に還暦を過ぎたオッサンが、そういうものに夢中になることが生理的に受け付けなかった。
「人の趣味やから、どうこう……」
 そこまで言いかけた時の亮の寂しそうな顔に、それ以上は言わなかった。
 しかし、本人が亡くなってしまえばガラクタの一つに過ぎなかった。惜しげもなく捨て値で売った。

「佐江ちゃん。よかったら持ってってくれない?」
「いいえ、お義父さんの気持ちの籠った人形です。これくらい、置いてあげたほうがいいんじゃないですか」
 佐江は口がうまいと、今日子は思っていた。要は気持ちが悪いのだ。今度の複雑ゴミで出してやろうと思った。

 人形は清掃局の車が回収に来る前に無くなっていた。

「好きな人がいるもんだ」
 プランターの花に水をやりながら、今日子は思った。とにかく目の前から消えたんだから、結果オーライである。

 そのあくる日である、インタホンに出てみると17・8の女の子がモニターに映っていた。
「こんにちは。泉希っていいます、いいですか?」

 それが始まりであった。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・43〈高安幻想・2〉

2016-04-28 06:57:15 | 小説6
高安女子高生物語・43
〈高安幻想・2〉
       


「う、うち、高安の子ぉです!」

 そう言うと、どない見ても大河ドラマの登場人物みたいなオッサンが、刀かまえたまま聞いてきよった。
「高安……ほん近所やんけ。高安のどのへんじゃ!?」
 うちの耳が慣れてきたんか、ダ行の音もはっきり聞こえて、今の河内弁と変わらんようになってきた。せやけど、オッサンの警戒ぶりはそのまんま。言いようによったら切られかねへん。
「えと、高安町の……恩地川と玉串川の間が、いっちゃん狭なったとこで(高安駅徒歩6分言うても分からんやろな)……教興寺の西です」
「あのへんなら、まだうちの在やが、おんどれ……見たことないど」
 その時、通りがかりのお百姓が声をかけた。
「左近はん、なにシコッテはりまんねん?」
「おお、ヤス。おまえ、こいつの顔見たことあるか?」
「え……誰でんねん?」
「誰て、目ぇの前におる、けったいなおなごじゃ」
「左近はん、誰もおりまへんで。大丈夫だっか?」

 そのうち五人六人と人が集まり、オッサンもうちも、様子がおかしいのに気ぃついた。

「い、いや、なんでもないわい。おまえらも六波羅のアホがうろついとるかもしれんよって、気ぃつけさらせよ」
「へえ、そらもう正成はんが……」
 お百姓が、そこまで言うと、左近のオッサンはお百姓のオッチャンをシバキ倒した。
「ドアホ、気ぃつけ言うたとこやろ!」
「す、すんまへん。わしらも、ついあのお方のことが心配で……」
「その気持ちは嬉しい。けど、気ぃはつけえよ。さ、お日さんも高うなった。野良仕事に精出せ!」
「へえ」
 オッチャンらは、それぞれの田んぼや畑に散っていった。

「どうやら、わいの他には、おまえのことは見えんようやな。ちょっと付いてこい」
 左近のオッサンは、スタスタと歩き出した。しばらく行くと見覚えのある石垣が見えてきた。
「オッチャン、あれ、ひょっとして恩地城?」
「せや、わいの城じゃ。後ろの西の方に神宮寺城が見えるやろ。ここは、河内の最前線や」
 恩地城いうたら、今の恩地城址公園。子どもの頃に、よう散歩に来たとこや。
「オッチャン、ひょっとして恩地左近?」
「わいのこと知ってるんやったら、やっぱり在のもんやねんやろなあ。ここから、おまえの家は見えるけ?」
 小高い恩地城からは、高安まで見通せたけど、時代がちゃうんやろ、うちの家がある当たりは、一面の田んぼ。
「あのへんにあるはずやねんけど、時代がちゃうみたいで見えへんわ」
「おまえ、いつの時代から来たんじゃ?」
 
 左近のオッサンは、意外にも、うちが、この時代の人間やないことを直感で掴んでるよう。

「えと……平成二十六年……七百年ほど先の時代」
「ほうか、そんなこともあるんじゃのう……」
「頭、城には、まだ帰りまへんのか!?」
 城門の櫓の上で、オッサンの家来が怒鳴ってる。昔も河内の人間は声が大きいようや。
「ああ、在の東(ひんがし)の方見てくるわ!」
「ご苦労はんなこって!」

 それから、うちらは、信貴山の方に向こうて歩きだした。ここら辺は千塚(ちづか)古墳群の南の方。名前の通り後期の古墳が山ほどある。
「おっと、今日は、ここやないな」
 左近のオッサンは、ちょっと戻って、一つ手前の林の中の石室がむき出しになった古墳の中に入っていった。

 石室は、石の隙間から光が差し込んで、暗いことはないけど見通しがきかへん。奥の方から人の気配が急にした。

 気が付くと、石室の奥に目玉が二つ光ってた……。

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・213『炊飯器の起動音に驚いて』

2016-04-27 07:14:44 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・213
『炊飯器の起動音に驚いて』



 背中の方で、急に音がしたんでびっくりした。

 危うく食べかけのアイスクリームのカップを落とすところだった。
 大げさだけど、死神が来たのかと思った。

 ジー……ゴー……てな感じ。大きな音なら、ここまで驚かない。自動車、飛行機、バイク、隣のおばちゃんがお皿を割る音。学校帰りの小学生の嬌声。筋向いのベスの吠える声。
 そういうのは突然でもびっくりしない。したと同時になんの音だか分かるから。

 で、今のは炊飯器が起動した音。

 こないだ買い換えたばかりで、この子の起動音を聞くのは初めてだった。前の炊飯器は小学校の6年の時に来た。安物だったせいもあって、起動音が大きく、いかにも「今からご飯炊きます!」って感じだったので驚くどころか、不器用で一途なお台所の仲間って感じだった。
 今度の子は、お父さんの稼ぎも増えたので、ナントカ釜の高級品で、前の子とはケタが一つ違う値段。
 むろん、この子のご飯は美味しい。だけど、今の音はいただけない。小さな音でも正体が分からないから、一瞬死神なんて思ってしまう。

 で、こんなご飯を炊き始める時間にアイスクリームを食べているかと言うと、昼抜きだったけど食欲がないから。

 このまま晩御飯を食べても、そんなには食べられない。お昼も抜いているから、体に良くない。だから、少しお腹に刺激を与えておく。
 テスト後の短縮授業なのに、なんで、こんなに遅くなったかというと、補習を受けていたからだ。

 勉強は嫌い。特に理数は。英語は好きだけど、授業は嫌い。[I think therfor i am]は英語のままの方がいい。「われ思う故に我あり」なんて言うと、政治家の演説みたいだ。こないだの英作文で[I love u!]と書いたらペケにされた。[You]を[u]としたのがいけないそうだ。
 だけど、アメリカの若者はYouをuと略して書く。日本語で「おめえ」と言いたいのを「あなた」とあらたまるようなものだ。言葉は生きてこその言葉だ。エイミーはいつも[u]で済ませてくるし、それで通じてる。最初に[You]って打ったら[lazy]とかえってきた。ま、カッタルイてな意味。

 で、今日の補習は英語じゃない。英語はカツカツで50点だったから。

 補習は情報。エクセルとパワーポイントの使い方の実習。パソコンなんて、文字が打てて、ブログ書いたり動画サイトにアクセスできたり、チャットができたら、それでいい。数学なんて、買い物に行って、お釣りの計算ができたらいい。飛行機の最短コースや燃費の計算なんて、航空料金表見りゃ値段で分かるっつーの。安いのが一番。エイミーもあたしも、そのへんは知ってるから、お互い平気で行き来できる。

 もっと訳わかんないのはCO2の計算。マジだけど、地球の温暖化なんてクソまじめに考えてんのは日本だけ。CO2の排出なんて、とっくに利権化してて、日本はいいカモになってるだけなのにね。ま、いいや。アイスクリームの美味しさが炊飯器の音でびっくりして、驚きとともに、頭と舌に焼き付いたから。炊飯器の起動音でアイスの美味しさ実感した人間は、そんなにはいないだろうから。

 今夜は、昨日思いついた詩を広げて短編の小説にすんの。エイミーにも送って、向こうの日系の先生に翻訳してもらう。ちょっと聞いてくれる。その元になった詩。

≪恋の三段跳び≫

 ホップ、あなたに恋をして。ステップ、あなたに近づいて。ジャンプ……しても届かなかった。


 短編を10個ぐらい書いて、中編が3本、長編が1本書けたら、人生、それでいい。
 あたしは、長く生きても20歳ぐらいまで。炊飯器が前の子だったころに分かった。お父さん頑張って一桁上の炊飯器が買えるくらいがんばってくれた。だから、あの子があたしを嚇かしたことは黙っていよう。アイスも美味しくしてくれたし。こうやってブログにも書けたし。

 なんの病気かって?

 それは内緒。コメントもトラックバックもいいです。あなたなりに、そうなんだ。と思ってもらえたらいいです。

 ではエンターキーを押します。読んでくれてありがとう。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・42〈高安幻想・1〉

2016-04-27 06:54:22 | 小説6
高安女子高生物語・42
〈高安幻想・1〉
       


 有馬温泉から帰ってからはボンヤリとしてた。

 なんせ、明菜のお父さんの殺人容疑を晴らして、離婚旅行やったんを家族再結束旅行にしたんやさかい、うちとしては、十年分のナケナシの運と正義感を使い果たしたようなもん。十六の女子高生には手に余る。ボンヤリもしゃあないと思う。

 しかし、三月も末。そろそろ新学年の準備っちゅうか、心構えをせんとあかん。中学でも高校でも二年生言うのは不安定でありながら、一番だれる学年。お父さんの教え子の話聞いてもそうや。ちょっとは気合い入れなあかん。そう思て、教科書の整理にかかった。国・数・英の三教科と、将来受験科目になるかもしれへん社会、それに国語便覧なんか残して、あとはヒモで括ってほかす。
 で、空いた場所に新二年の教科書を入れる。二十四日に教科書買うて、そのまんまほっといた。包みを開けると、新しい本の匂い。たとえ教科書でも、うちには、ええ匂い。これは、親の遺伝かもしれへん。

 せやけど、手にとって眺めるとゲンナリ。教科書見て楽しかったんは、せいぜい小学校の二年生まで。あとは、なんで、こんな面白いことをつまらんように書けるなあと、思う。

 日本史を見てタマゲタ。山川の詳説日本史や! みんな知ってる? これて、日本史の教科書でいっちゃんムズイ。うちの先生らは何考えてんねやろ。わがOGHは偏差値60もあらへん。近所の天王寺やら高津とはワケが違う。ちなみに、うちが、こんなに日本史にうるさいかというと、お父さんが元日本史の先生いうこともあるけど、うち自身日本史は好きやから。

 で、ページをめくってみる。

 最初に索引を見て「楠木正成」を探す。正成は河内の英雄や! で、読んでガックリきた。
――後醍醐天皇の皇子護良親王や楠木正成らは、悪党などの反幕勢力を結集して蜂起し……――
 114ページにそれだけ。ゴシック体ですらあれへん。

 とたんに、やる気無くした。ガサッと本立てにつっこむと、ようよう暖こなってきた気候に誘われて、気ぃのむくまま散歩に出かけた。
 桜の季節やったら近鉄超えて玉串川やねんけど、まだちょっと早い。で、気ぃつくと東の恩地川沿いに歩いてた。
 最近は、川も整備されてきれいになって、鯉やら鮒やらが泳いで、浅瀬には白鷺がいてたりする。五月になったら川を跨いでぎょうさん鯉のぼりが吊されて壮観。そんな恩地川を遡って南へ……。

 気ぃついたら、高安の隣りの恩地まで来てしもた。

「おんろりゃ、ろこのガキじゃ!?」

 ビックリして川から目ぇ上げると一変した景色の中に、直垂(ひたたれ=相撲の行司さんの格好)姿のオッサンが目ぇ向いてた。あたりに住宅も近鉄電車ものうなって、一面の田んぼに村々が点在してた。どない見ても江戸時代以前の河内の景色や。
「おんろりゃ、耳聞こえへんのか!?」
 この二言目で分かった。これはえげつないほど昔の河内弁や。

 昔の河内弁は「ダ行」の発音がでけへん。

「淀川の水飲んで腹ダブダブ」は「よろ川のミルのんれ、はらラブラブ」になる。
「仏壇の修繕」は「ブツランのシュウレン」という具合。

 せやから、今のオッチャンの言葉は、こうなる。

「おんどりゃ、どこのガキじゃ!?」
「おんどりゃ、耳聞こえへんのか!?」

 現代語訳してる場合やない。オッサン、刀の柄に手ぇかけよった!

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高校ライトノベル・アーケード・14・芽衣編《ノートを閉じるまで》

2016-04-26 18:09:35 | 小説
・13・芽衣編
《ノートを閉じるまで》



 りょうちゃんは毎日、あーちゃんは週一回うちのお店にやってくる。

 むろん他の幼なじみもしょっちゅうやってくるけど、この2人は定期便だ。
 うちは喫茶ロンドン。商店街で唯一の喫茶店。飲食店の少ない商店街なので、並の喫茶店に比べると食事のメニューも充実している。
 当然仕入れる食材も多いので、野菜や玉子やお肉、乳製品などを毎日届けてもらっている。種類も量も並の喫茶店より多いと思う。思うって言うのは、他の喫茶店のことは知らないから。何度も言うけど、うちは商店街唯一の喫茶店。

 りょうちゃんが毎日やってくるのは、りょうちゃんの家がお肉屋さんだから。

 毎朝発泡スチロールの箱にお肉を入れて配達してくれる。
「ちわー、お肉の室井でーす!」
 今日も元気に配達してくれた。配達と言っても、室井精肉店は道を挟んだお向かいなので、大抵は30秒ほどで用事はすんでしまう。これで月に5000円のバイト代をもらっているのだから羨ましいやつだ。あたしなんか1日平均3時間くらい手伝って月に1万円。

 え、1万円の方が多いって?

 考えてもみてよね、1日3時間ということは月25日として75時間。時給にして133円なんだよ。そいで家からもらうお金は基本的にこの1万円だけ。
 りょうちゃんは、30秒の25日だから月に13分ほど。むろんイレギュラーで他の配達も入るけど、これで月5000円はどうなんだろう。むろんお小遣いは別にもらっているらしい。らしいというのは、このバイト代のことを話した時、みんなからブーイングだったため、りょうちゃんは口をつぐんでしまったから。

 で、今日のりょうちゃんは15分もうちの店に居た。

「なんだ、もう試験勉強か?」
「ちがうわよ。って、こらー、見ないでよ!」
 あたしはテーブルの上のものを隠したけど、りょうちゃんに一息速くノートをふんだくられた。
「あー、これって立会演説会の……」
「もう見ないでよ!」
「ああ、わりい」
 りょうちゃんは、あっさりと返してくれた。なんだか拍子抜け。
「メイちゃん偉いよ」
「え、ええ?」
 素直に誉めるので、抜けた拍子が戻らなくなってしまった。
「うちの親父も商店会とか郷土史会の役員やってるじゃん。ああいう仕事って大変だもんな。偉いと思うよ」
「なんだか、いつものりょうちゃんじゃないよ……」
「そっか?」
「あ、うん。なんかあった?」
「なんもねーよ。おれだって、いつもバカやってるわけじゃないんだからな」
「う、うん」
「マジ、ちょっと読ませてもらっていいか?」
 あまりに真面目なりょうちゃんだったので、思わず頷いてしまった。

「……て、感じかな」

 しっかり読んで感想を言ってくれた。ベースにしたのがお母さんの原稿だったので基本的には異議なしだった。ただ言い回しが古いので今風に変えてみたらというアドバイス。
「じゃ、今風ってどんなの?」
「そりゃ自分で考えろよ。おれバカだから分かんねえよ」
「さっき、バカじゃないって言った」
「あ、もうバカに戻っちまったから」
「なに、それ!?」
「しっかり考えろよ、連休明けなんてすぐなんだからよ」
「う、うん」
「じゃ、失礼します。毎度アリー!」
 で、帰ってしまった。
「なによ、あいつ……」
 カウンターの中でお祖父ちゃんが笑っていた。

 それから、あーちゃんがやってきた。

「フラワーショップ花です。デリバリーです!」
 そう、週に一回あーちゃんのお店から、お店に飾る花を配達してもらってもらっている。
 ちなみに、あーちゃんはバイト代はもらっていない。ま、いろいろあるってっことです。
「おや、もうバラの季節かい?」
「へへ、花屋は季節の一歩先を行きます」
「そうだね、商売人の要諦だな」
「はいです!」
 そう言って、あーちゃんはお店の3つの花瓶に花を活けてくれる。あーちゃんは美華流師範の腕なので見事に活けてくれる。
「あー、メイちゃん、立会演説の原稿?」
「あ、うん。連休明けたらすぐだからね」
「う~ん、決めてしまうのには、ちょっと早いんじゃないかな」
「え、そう?」
「だって、立会演説って連休明けの木曜日」
「うん、だからもうすぐ」
「花に例えたらなんだけどさ、蕾の時期がなきゃ花って咲かないから」
「ん?」
「養分貯めなきゃさ。バラだって、この時期にはなんとかなるけど、2月に咲かせろってないから」
「それもお説だなあ」
 お祖父ちゃんが賛同した。
「泰介だって、結衣さんにモーションかけるのに2年かけたからなあ」
「いま書くより、いろんな人から意見とか要望聞いてスクランブルにして、直前にまとめたら? いま大事と思っても直前になったら案外つまらないってこともあるよ」
「そうね……」
「それに、せっかくの連休なんだから、そっちも大事にしなきゃ」
「それは、あーちゃんの言う通りだよ」

 お祖父ちゃんが、そう言って、あたしはノートを閉じた。 
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高校ライトノベル・時かける少女 BETA・4《The implementation test=運用試験・2》

2016-04-26 06:52:30 | エッセー
時かける少女 BETA・4
《The implementation test=運用試験・2》



 ミナの瞳が鳶色に輝いた……エノラゲイのクルーたちは目がくらんだ。

 目が慣れると、とんでもないものが前方に見えた。
「機長、前方に自由の女神です……」
「バカな……」
「右一時方向に見えるのはロングアイランドでしょうか……」

 副操縦主のロバートが、小学生が先生に聞くように言った。

「ようこそ、ニューヨークへ。本機は間もなくマンハッタン島を北北東に縦断いたしま~す。真下に見えますのがシンシン刑務所。ニューヨーク湾上空にさしかかりました。しばらく黄昏染まる全米一のパノラマをご堪能くださ~い」
 ミナはニューヨーク観光ツアーガイドのように言った。
「機長、管区防空官制局が所属、飛行目的、目標地点を問い合わせてきました」
 無線通信士のリチャードが、ヘッドセットを外し、すがるような眼差しで機長のポールに言った。
「どこの防空官制局だ?」
「北米、ニューヨーク管区です……」
「オレの方に回せ!」
「回しました」
「こちら陸軍航空隊509混成部隊第6爆撃隊エノラゲイ。本機はただいま特殊任務のために日本本土に向かいつつあり。目標地点については軍規により答えることができない……いや、だから……チ、切れてしまった」
「切ってあげたの。混乱するだけだから。まもなくマンハッタン上空よ」
「……なんだ、舵が効かないぞ」
「コントロールはあたしが握っているの。あなたたちは、これから起こることをよく記憶して。そして歴史の証言者になって」

 眼下に、ヤンキーススタジアム、セントラルパークが通り過ぎて行った。

「もうすぐブロンクス。旋回するわよ」
「高度が低すぎる。ビルに接触するぞ!」
「この機体をよく見てもらうためよ。みんなびっくりしてるでしょ?」
「銃を構えている奴がいる!」
「下の人たちには、こう見えてるの……」

 機種方向に映像が映った。一瞬分からなかった……分かった瞬間最大のショックに襲われた。トニー(飛燕)から撮った映像でニューヨークの街を下にしたエノラゲイは濃緑色の塗装に日の丸が付いていた。
「これが、エノラゲイなのか!?」
「捕獲されたんだから、日本の色になるの。当たり前でしょ」
「いつの間に……」
「ハハ、一瞬で四国の上空からニューヨークへ移動したのよ。これくらいのことで驚かないで」
「迎撃機が上がってきた、どうすりゃいいんだ!?」
 後尾機銃手のジョージが叫んだ。
「大丈夫。ムスタングじゃ追いつけないわ。急上昇するからシートベルトきつく締めてね」
「な、なんだ、この速度と上昇角は!」

 エノラゲイは、60度の上昇角、500ノットで、たちまちのうちに高度10000に達した。

「あなたたちが行こうとしていた広島には13人のアメリカ人の捕虜がいたの。知らないでしょ……上層部は知っていた。でもあなたたちには伝えなかった……リトルボーイを投下するわよ」
「待て、下はニューヨークだぞ! 何十万という人間がいる!」
「広島にもいるわ」
「後生だ、止めてくれ!」
「もう遅いわ。今投下しちゃった……」
「オオ、#”=~|¥&%%&&\\\*=#''"$&!?~~%%!!!!!!」
 機長の叫びは言葉にはならなかった。最大の二乗の衝撃であった。

「人は殺さない。起爆は、高度5000に設定したわ。雲もあるし、直接見た人でも目が焼けることはないわ。5000ならワシントンからでも見えるでしょうね」

 直後5000メートル下、ニューヨーク湾の5000メートル上空でリトルボーイがさく裂した……。

「ファットマンは、モスクワの上空8000でさく裂させました。コビナタさん、なにか変化はありました?」
「モスクワのは、隕石の爆発って発表されたわ。ただクレムリンは知っているから、アメリカの優位は確定的ね。日本は15日に、ちょっとだけ有利な条件で降伏した。何十万という命が救われた……それが、どう影響するかわは、これからの楽しみね」

 コビナタとミナは、世界の木を見上げた。運用試験としては上出来だった……。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・41〈有馬離婚旅行随伴記・6〉

2016-04-26 06:45:40 | 小説6
高安女子高生物語・41
〈有馬離婚旅行随伴記・6〉
   


 朝、かすかな鉄砲の音で目が覚めた。

 旅行なんか、めったにいかへんうちは、いっぺんに目が覚めてしもた。殺人事件やら、明菜のお父さんが逮捕されたりで、興奮してたこともある。明菜は、当事者やから疲れがあるのか、旅慣れてるのかグッスリ寝てる。

 やっぱり、うちは野次馬や。顔も洗わんとGパンとフリースに着替えて、音のした方へ行ってみた。旅館の玄関を出ると、また鉄砲の音がした。
「やあ、すんません。目覚まさせてしまいましたか」
 旅館の駐車場で、番頭さんらが煙突みたいなもん立てて鉄砲の音をさせてる。
「いや、うち旅慣れへんさかい、早う目ぇ覚めてしもたんですわ。何してはるんですか?」
「カラス追い払うてますんや。ゴミはキチンと管理してますんやけどね、やっぱり観光客の人らが捨てていかはったもんやら、こぼれたゴミなんか狙うて来よりまっさかいな」
「番頭さん、カースケの巣が空だっせ」
 スタッフのオニイサンが言った。
「ほんまかいな!? カースケは、これにも慣れてしもて効き目なかったんやで」
「きっと、他の餌場に行ってますねんで。昨日の事件のあと、旅館の周りは徹底的に掃除しましたさかいに」
「カースケて、カラスのボスかなんかですか?」
 単なる旅行者のうちは気楽に聞いた。
「めずらしいハグレモンやけど、ここらのカラスの中では一番のアクタレですわ。行動半径も広いし、好奇心も旺盛で、こんな旅館のねきに巣つくりよりますのや」
 スタッフが、長い脚立をもってきた。
「カースケ居らんうちに撤去しましょ。顔見られたら、逆襲されまっさかいなあ」
「ほなら、野口君上ってくれるか」
「はい」
 若いスタッフが脚立を木に掛け、棒きれでカースケの巣をたたき落とした。

 落ちてきた巣はバラバラになって散らばった。木の枝やハンガー、ポリエチレンのひも、ビニール袋、ポテトチップの残骸……それに混じって大小様々な輪ゴムみたいな物が混じってた。
 輪ゴムは、濃いエンジ色が付いて……うちはピンと来た。

 これは手術用のゴム手袋をギッチョンギッチョンに切ったもん……それも、事件で犯人が使うたもん。そう閃いた。

「オッチャンら触らんといてくれます。これ、殺人事件の証拠やわ!」

 うちは知ってた。殺人にゴム手袋を使うて、そのあと捨てても、内側に指紋が残る。うちのお父さんが、それをネタに本書いてたさかいに。幸いなことに、指先が三本ほど残ってた。

 番頭さんに言うと、直ぐに警察を呼んで、お客さんらのチェックアウトが始まる頃には、見事に鑑識が指紋を採取した。

「出ました、椎野淳二、前があります!」

 今の警察はすごい。指紋が分かると、直ぐに情報が入って現場でプリントアウトされる。写真が沢山コピーされて、近隣の警察に配られ、何百人という刑事さんが駅やら観光施設を回り始めた。

 そして、容疑者は有馬温泉の駅でスピード逮捕された。

 椎野淳二……杉下の仮名を使うてた。そう、明菜のお父さんの弾着の仕掛けをしたエフェクトの人。表は映画会社のエフェクト係りやけど、裏では、そのテクニックをいかして、その道のプロでもあったらしい。

 明菜のお父さんは、お昼には釈放され、ニュースにもデカデカと出た。
 たった一日で、娘と父が殺人の容疑をかけられ、明くる日には劇的な解決。

 この事件がきっかけで、仮面家族やった明菜の両親と明菜の結束は元に……いや、それ以上に固いものになった。

 春休み一番のメデタシメデタシ……え、まだあるかも? あったら嬉しいなあ!

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高校ライトノベル・アーケード・13・芽衣編《え……なに?》

2016-04-25 17:11:13 | 小説
・13・芽衣編
《え……なに?》



「佐伯が連絡してきたよ」

 どこの佐伯さんだと思った。
「ほら、生徒会顧問の佐伯先生だよ」
 こうちゃんがトイレから出てきて、おせんべいに手を出しながら言った。
「ちょっと、手洗わなきゃ!」
「あ、掃除してただけだから」
「そう言う問題じゃ……え、佐伯先生が写ってたの?」
「そうだよ、佐伯先生は、うちの卒業生」
「で、僕や結衣ちゃんとも同期。いっしょに生徒会やってたんだよ。甲、ちゃんと手洗ってきなさい」
「はいはい」
 こうちゃんは、食べかけのおせんべいを咥えて洗面に戻った。
「メイちゃん、あの写真見て気が付かなかったのかい?」
「お母さんのことは、すぐに分かりました。なんだか、あたしそっくりなんで、ビックリして……」
「その右隣が佐伯なんだよ」
「えー、そうだったんですか!?」
「ハハハ、影の薄い生徒だったからな。で、左隣は誰だと思う?」
「え……えと、男の子だってことしか」
「それは残念……」
 おじさんは、バリッとおせんべいを噛み砕いた。
「あれ、うちの親父だよ」
 洗面から戻ってきて、こうちゃんが答えた。
「えー、おじさんが!?」
「そうだよ、真面目な文化部長さ。あ、そうだ……」
 おじさんは、リビングの棚をゴソゴソしはじめた。
「え、その棚って、そんな仕掛けになってるんですか?」
 棚の3段目がズリっと動くと、奥に引き出しが現れた。
「あ、この棚の仕掛けはナイショだからね。特にうちのカミさんには……あった、これだ」
 
 おじさんが取りだしたもの。その一番上には佐伯先生が見せてくれたのと同じ写真が額に入っていた。

「……ほんとだ、おじさんも佐伯先生も面影がありますね」
 おじさんはニヤニヤしている。気づくと、あたしの後ろで、こうちゃんもニヤニヤしていた。
「フフフ……もう一人いるんだけど、気づかないか、メイちゃん?」
「えー、もう一人って……」
「真ん中の……坊主頭」
「え……?」

 30秒ほど見つめて、ビビッときた!

「こ、これって、お父さん!?」
「ピンポーン!!」
「いや、いや、アハハハハ!」
 なぜかおじさんが照れ笑いしだした。
「これさ、芽衣のお母さん口説いてさ、ムクツケキ男子生徒たちが計画的に集団立候補したんだって!」
「そう、だから女子は結衣ちゃん一人だけなんだ」
「そ、そうなんだ」
 あたしは自分のことのようにドキドキしてきた。
「もう昔の話だけど、みんな結衣ちゃんを狙っていたんだ。一番熱心だったのは佐伯だ」
「え、佐伯先生が!?」
「みんなで立候補しようって言いだしたのも佐伯だったしね」
「ど、どうしよう……」
「どうしたんだ、芽衣?」
「佐伯先生の授業、まともに受けられないよ」
「あ、それはあるな。芽衣、お母さんとよく似てるからな」
「ハハハ、もう昔の話さ。割り切ってなきゃ、佐伯も写真見せたりしないさ」
「そ、そうですね。やだ、あたしったら自意識過剰だ」
「いちばん醒めてたのが泰介、メイちゃんのお父さんだったけど、けっきょく泰介が射止めちゃうんだからな。世の中分からんなあ」
「そうだったんだ……」
 
 それから、おじさんたちとお母さんの青春時代の話になって、立会演説の原稿の話はできなかった。

 家までのアーケードをこうちゃんが送ってくれた。
「実は、親父も芽衣のお母さん狙ってたんだぞ」
「え、うそ!?」
「けっきょく振られたんだけどな。それでよかったんだよな」
「え、あ、うん」
 おじさんの気持ちを思うと、ひどくあいまいな返事になってしまった。
「分かってんのか芽衣? もし、親父とお母さんがくっついていたら、オレも芽衣も存在しないことになっちゃうんだぞ」
「え、あ、そそそ、そだね!」

 世の中って、きわどい偶然の上に成り立っているのだと思った。

「そうだ、これ」
「え……なに?」
 こうちゃんは封筒を差し出した。
「え、え、え、これって……」
「バカ、なに赤くなってるんだよ。これ、芽衣のお母さんが立会演説で喋った元原稿、コピーだけどな。記念に親父もらったんだって。貸してやるから参考にしなよ」
「あ、ありがとう」

 あたしは、20何年前のお母さんに助けられることになった……。
 

※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋履物店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘
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