大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・マリア戦記・エピソード01・24『彫刻の森美術館』

2016-11-30 12:43:21 | 小説・2
高校ライトノベル
マリア戦記・エピソード01・24
『彫刻の森美術館』


 マ、マリア!

 まりあの声でみなみ大尉は目が覚めた。
 よっぴき看病していたので、いつの間にか眠ってしまっていた大尉だった。
「大丈夫、マリア!?」
 マリアの布団まで這いよる大尉はすさまじかった。起き抜けのスッピン顔はむくれて、髪はボサボサ、右目は開いているが、左目は目ヤニでくっついて閉じたままだ。おまけに、慌てていたので、膝で浴衣の前身ごろを踏んづけてつんのめり、意識が戻ったばかりのマリアに覆いかぶさってしまった。
「フギュ~~~~」
 マリアは、意識が戻ったばかりなのに窒息するところだ。
「あ、あ、ごめん」
「ワ、お岩さん!?」
 マリアに驚かれるので、大尉は顔をゴシゴシこすり、手櫛で髪を整えた。
「あたしよ、あたし。ペッ、ペッペ、髪の毛食べちゃった」
「みなみさん?」
「そうよ、あんたがお風呂でぶっ倒れるから、もう気が気じゃなくってさ。マリア、一時心肺停止になっちゃったのよ」
「わたしが人工呼吸したの」
 そう言いながらまりあはマリアの首元に手を伸ばした。
「え、なに?」
「コネクトスーツを脱がなきゃ、圧迫されたままだから」
「ちょ、ちょ、痛い、痛いってば!」
 マリアはコネクトスーツを着たままで、脱がせようとすると、まるで皮膚をはがされるような痛みが走る。
「バージョンアップしてるから脱がせられないんだ……脱ごうって、念じてみな」
「あ、えと……」
 マリアは念じてみた。すると、スーツのあちこちに切れ目が走り、マリアが体をよじるとハラリとスーツが脱げた。

「司令のタクラミだったのね……」

 落ち着いたマリアから話を聞いて、みなみ大尉は腕を組んだ。
 保養所地下の浴場は秘密基地に繋がっていて、マリアだけが移動できる仕組みになっているようだ。マリアは、そこで安倍司令一人のオペでヨミの原始体と戦わされていたということが分かった。
「なんだか重力を感じない異世界というか異次元というか、とにかくヨミが、この世界に現れる前の世界らしくて、数は多いけど、ヨミはあたしが出現したことに狼狽えていて、とてもひ弱だった」
「それで、ヨミはやっつけられたの?」
「相当やっつけた……でも、まだ居る……というか、あそこはヨミを生み出す母体のようなところで、反復して攻撃しないといけないような気がしたわ」
「そう……でも、マリアがこんなになっちゃね……」
 みなみ大尉は口をつぐんだ、未整理のまま口に出してはいけないと感じたのだ。

 保養所を出ると、芦ノ湖を遊覧し、強羅で箱根山の迫力を感じながら温泉卵を三人で頂き、彫刻の森美術館に向かった。

「彫刻ってアナログだけど、静かに訴えかけてくるものがあるわね……」
 ハイテクの固まりと言っていいまりあがため息をついた。
「あたしはチンプンカンプンだよ」
 抽象彫刻が多いエリアでみなみ大尉は音を上げる。
「大いなる疑問……これが?」
 マリアが立ち止まったところには、直径一メートルほどの丸い石があった。
「う~ん、なんだか訳わかんなくって縮こまっちゃった感じ?」
 乏しい想像力を駆使して感想を述べる。
「あー、球ってのは、一番体積が小さいものね」
 マリアも納得しかける。
「これって、修理中みたい……ほら、ここに本来の写真がある」
 まりあが示した案内板には、でっかい『?』マークの写真があった。
「なんだ、クェスチョンマークの下なんだ」
「もっとパッと見で分かるものがいいなあ」
 三人は具象彫刻のエリアにさしかかった。
「んーーヌードの彫刻って女のひとばっか」
「みんな劣等感感じさせるプロポーションだわね」
「あ、あそこ」
 まりあが指し示したところには、仁王像のような男のブロンズ像があった。

 三人は、そのブロンズにしばし目を奪われた。

 ブロンズの銘板には『TADIKARA』と刻まれていた。
 
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・『降格機動隊①』

2016-11-30 06:41:21 | ノベル2
高校ライトノベル
『降格機動隊①』
      


 三十八にもなって機動隊に回されるのは、事実上の降格や。

 だいたい、この人事は署長の弱気と志の高さに反比例した、行き過ぎた事なかれ主義や。
 署長はキャリアの腰掛署長、腰掛でもかめへんけど、しょーもないことで人を飛ばさんとって欲しい。

 ことの起こりは、パトロール中に、たまたまアイドルの大島敦子がひったくりに遭うた現場に出くわしたこと。
 アホな犯人で、下見もせんと、相手がアイドルやいうことも知らんと犯行に及んだこと。ついでにオレが大島敦子の熱烈なファンやったことも災いした。

「キャー!」

 と悲鳴が上がると、大島敦子の帽子もグラサンも吹き飛んでしまい、周囲の者が、アイドルの大島敦子が被害者になったことを認識。
 さらに、アホなことに犯人が角を曲がったら、ちょうどパトロール中のオレに出くわしたこと。
 とっさに犯人は、元の道に戻りよったけど、この大石巡査部長の手からは逃げられへん。角を曲がって二三メートルでタックル。取り出しとったナイフはもぎ取った。ほんで三十秒で後ろ手にしてワッパを嵌める。
「二時三十五分、強盗……」そこまで言いかけて被害者たる大島敦子の様子を見る。膝から血が滲みだしてた。

「強盗致傷で、現行犯逮捕!」

 ここまでは良かった。

 大阪のど真ん中で、今をときめくアイドルの大島敦子がひったくりに遭うて、テレビドラマみたいに警官が、それもマッチョでイケメンの大石巡査部長が現れて電光石火の逮捕劇。あたりにいた野次馬は、一斉にスマホを構えて撮影、数分後には最初の十本がYouTubeにアップロードされた。

 問題は、この後。応援と救急車を呼びながら、オレは緊急措置として、ハンカチを食いちぎり、仮包帯として大島敦子の膝に巻いてやった、膝を立てさせ、野次馬が差し出したミネラルウォーターで傷口を洗浄、警察の規範通りの救急措置をとった。その間、大島敦子と犯人がなにやら言っていたが、オレはひたすら職務に専念した。

 で、応援がパトで来たんで、犯人の身柄を引き渡し、サインの一つももらいたい気持ちを押えて、署に戻った。

「君は、バカか!?」

 帰るとキャリアの若僧署長にいきなり罵倒される。
「君がやったことは、全てのテレビとネットで流れとる!」
「はあ、そうですか……」
 やったことと、署長の剣幕が合わへんのであいまいな返事になる。後ろのテレビとパソコンに、いまさっきのオレの活躍が写ってた。
――この逮捕は、過剰でしょうなあ――
 国際弁護士の資格持ってるおっさんが、なにやら言うとる。
 どうやら、犯人の手を捩じりあげた時に、奴の手首を骨折させてしもたみたい。これはオレとしては、まあええこっちゃ。

 後があかんかった。

 大島敦子の怪我の処置をした時に、教則通りに膝を立てさせたんやけど、スケベなアホがローアングルで撮りよって、敦子ちゃんのおパンツが丸見え。で、敦子ちゃんは、しきりと、それを気にして「大丈夫です、大丈夫ですから……あの……あの」と周章狼狽。

 さすがにテレビはボカシかけとったけど、YouTubeはまんま。

 なんや、署内の電話が鳴りっぱなしやと思うたら、抗議の電話がわんさか、ネットは炎上しとった。

 でオレは、第七機動分隊に配置転換。なにごともやることの遅いのが警察含めた役所やけど、これは早かった十二時間後には、第七機動分隊の砦のような門の前に立っていたオレであった。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・カントリーロード・4『駆け落ち』

2016-11-30 06:20:27 | カントリーロード
カントリーロード・4
『駆け落ち』
    

 八重桜も散って、もう初夏と言っていい季節のことだった。

――ま、いいか。

 わたしは、簡単に諦めた。電車の中に帽子を忘れたことを。

 今回も、洗濯物を干していたら、名残の春風に誘惑されて、ふっと飛び出してきた。だから、帽子なんか適当。なんかのキャンペーンでもらったキャップだった。
 バスの時間も迫っていた。で、改札から走ってなんとか間に合った……それが、バス停五つ行ったところで、突然の故障。
「申し訳ありません、代車の手配をしましたので、しばらくお待ち願えますか」
 運ちゃんは、済まなさそうに車内放送をした。乗客の反応はまちまちだったけど、大人しく待っていようという点で一致していた。

「すみません。わたし、ここから歩きます」

 と、簡単にバスも捨ててしまった。一キロほど先の峠に見事な八重桜が見えたので、後先を考えていないというか、インスピレーションを大事にした。バスの故障なので、料金は取られなかった。降りてチラ見したら、バスのナンバーは「4989」の四苦八苦だった。降りて正解だと思った。

 八重桜は、背は高くないんだけど、サッカーコート一面分ぐらいの群落になっていて、それは見事だった。
 年甲斐もなく、妖精になったような気持ちで、八重桜の中を飛び跳ねた。二十分もそうしていると、うっすらと汗ばんできた。リュックからスポーツドリンクを出して一気飲みした。爽快だった。今のわたしを写真に撮ったら絶好のスポーツドリンクのPRに使えると思った。
 峠の下にバスの気配。これに乗れればグッドタイミングだと思ったら、バスは峠下の脇道を、あさっての方角に曲がって行った。双眼鏡でバスを見ると、ナンバーは「4989」だった。どうやら代車が来るまでに故障は直ってしまったようだ。スマホでルートを検索すると、それが正規のルートだと知れた。
 まあ、偶然なんだろうけど、インスピレーションに従って良かったと思った。あのバスに乗っていては、この八重桜は、遠くから指をくわえて、おしまいになっていただろう。

 さて、帰り道。来た道を戻るのには抵抗があった。なにより日差しが真ん前からくるので、暑くてかなわない。反対側にいけば駅まで五キロ。まあ、歩けないことはない。

 一キロ歩いて後悔した。南中した太陽は帽子を被っていない頭を直撃する。さっき飲んだスポーツドリンクが汗になって流れていく。
 
 それは、突然現れた。道の脇が空き地になっていて、そこに可愛い車が停まっていた。助手席の女の子と目が合って、瞬間互いに微笑んだ。しかし、なにか人違いしたんだろう、すぐに表情が萎んでしまい、俯いてしまった。わたしは気まずく、先を急いだが、助手席から女の子が出てきて声を掛けてきた。
「あのう……」
「はい?」
「峠の向こうから、人が来る気配無かったですか?」
「あ……いいえ」
 そう答えて、わたしは流れる汗を、タオルハンカチで拭った。
「あの……もしよかったら、この車で休んでいきませんか?」

「どうもすみませんね……♪」
 後部座席でもらったスポーツドリンクを、半分ほど飲んだ。
「どうせ、駅の方には行きますんで、乗っていってください」
 運転席の男の子が、緊張気味に言った。
「ありがとうございます。地獄で仏です!」
「はあ、どうも……」

 それから、しばらく気まずい沈黙が流れた。

「あの……だれか待ってるんですか?」
「ええ……まあ」
「だから、携帯ぐらい持ってくるべきだったのよ」
「携帯なんか持ってたら、駆け落ちに……」

「え……駆……け落ち?」
「あ、今のは……」
「聞かなかったことに……」
「あ……はい」

 また気まずい沈黙になってしまった。

「この車、ちょっとクラシックですね。でもなんだかカッコイイ」
「でしょう。ぼくの自慢なんですよ。ホンダN360っていいましてね。後ろのハッチバックなんかイカシテて、水中メガネなんてあだ名があるんですよ。純正品なんですよ、車仲間でも有名なんです。これで出てきたんだから、ボクの覚悟の程も家族に通じてるはずです!」
「四十年前の車なんだそうで、これでその……なにしたら目立つだろうなって」
「あ、目立つんじゃなくて、オレのコンセプト。頑なまでにスタイルと意地にこだわった」
「……でも、だれも追いかけてこないよ。家からここまでは一本道だっていうのに」
「……あの、駆け落ちしたん……ですよね?」
「だれも追いかけて来ない駆け落ちなんて、ぼくのコンセプトに反する!」

 どうやら、二人は、追いかけてもらって、発見してもらい、葛藤の末の劇的な展開を期待していたようだ。

 夕方まで待って、けっきょく誰も追いかけてはこなかった……。

「どうだろ、わたしを一日案内していたら遅くなっちゃったってことで、わたしのスマホでお家に電話……」
「……あ、それアイデアかも!」
「そうだよね、こんなに心配されないんじゃ張り合いないもんね」

 で、二人は無事に家に帰った。わたしは二人の友だちということになり、女の子の家で歓待され、一晩泊めていただいた。二人は書き置きもせず、預金通帳も着替えなども持たずに家を飛び出した。携帯はただ忘れたと思われ、ホンダN360も、家族には、ただのポンコツ中古車としか認識されていなかったようだ。

 わたしには、こういう妙な付き合いの友だちが多い。これもカントリーロードのおかげ。洗濯物が少し気になったけど。ま、いいか……。
 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・11(促成魔女初級講座・実戦編・1)

2016-11-30 06:13:37 | ノベル
秘録エロイムエッサイム・11
(促成魔女初級講座・実戦編・1)



 気づくと、真っ青な空があった。

 真由は、どこかで見たことがある空だと思った。東京にはない、真っ青で密度の高い光に満ちた空。
「体の軸線が90度ずれてる。直して」
 清明の声が斜めから聞こえてきた。ゲーム機のコントローラーが一瞬頭に浮かび、R3のグリグリを1/4回転させた。
 目の前にでっかいシーサーの顔があった。

 思い出した。中学の修学旅行で来た沖縄は那覇の国際通りだ。

「瞬間移動には、すぐに慣れるよ。移動の直前に移動する場所のイメージが浮かぶようになる。ボクが手助けしたけど、初めての瞬間移動にしては上出来だ」
「どうして、那覇なんですか?」
 国際通りの歩道を歩きながら、真由は清明に聞いた。
「実戦訓練には、ちょうどいいからさ。まあ、全部歩いても一マイル。歩いて馴染んでみようか」
「武蔵さんと、ハチは?」
「武蔵さんは、基本的には自分が行ったところにしか現れることができない。沖縄には来たことがないからね。連れてこようと思ったら『五輪書』を持っていなければできない。それに初級の実戦だから、ボクでも十分だ。ハチは君が見たシーサーに化けている。邪魔が入らないようにね」

 三十分ほどかけて、国際通りの端から端まで歩いてみた。真由はすっかり旅行気分になっていた。

「なにか気づいたかい?」
「え、あ、すっかり旅行気分になっちゃって……すみません」
「ハハ、それぐらいでいいよ。武蔵さんの座っている姿でも気づいただろう。本当の剣客は、普段はごく普通の姿勢がいいだけのオジサンだ。いつも殺気立っているのは初心者だよ……言った尻から緊張する。リラックス、リラックス」
 そう言われると、真由はすぐにリラックスした。国際通りが素晴らしいのか、真由の才能なのかはよくわからない。
「で、気づいた?」
 清明は、ニヤニヤしながら、もう一度聞いた。はた目には兄妹か、若いアベックの旅行者にしか見えない。二人は完全に国際通りの風景の中に溶け込んでいた。
「えと……よくわかんないです」
「正直でけっこう。通行人の人たちをよく見てごらん。微妙に色の薄い人たちがいるだろう……」
 真由はウィンドウショッピングの感じで、周りを見渡した。
「分かりました、あの学生風のグループなんか、発色の悪いプリンターで印刷したみたいです」
「よし、それが分かったら裏世界に変換。R3ボタンを押し込んで」
 コントローラーをイメージしたのは、ほんの一瞬だった。
「どうだい、なにか変っただろう?」
「……通行人が減っちゃった」
「それでいい。ボクも真由も、あいつらといっしょに裏世界に入り込めた」
「裏世界って……?」
「現実と変わらない世界なんだけど、その道の者だけで戦うダンジョンみたいなもの。現実の人間は、みんな排除してある。きっかけが来たと思ったら、ポケットの中の式神をまき散らして」

 きっかけは、直ぐにやってきた。さっきの学生風たちが、違和感を感じてきょろきょし始めた。

「今だ!」

 清明に言われると同時に、真由は、ポケットの中の紙屑のようなものをまき散らした……!

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・タキさんの押しつ・け映画評・109『ポンペイ/グランド・ブタペスト・ホテル』

2016-11-30 06:00:38 | 映画評
タキさんの押しつ・け映画評・109
『ポンペイ/グランド・ブタペスト・ホテル』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


 これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している映画評論ですが、もったいないので転載したものです。


ポンペイ

 昨今 隆盛を極める「キリスト教関連作品」かと思いきや、思いっきりデザスタームービーでした。

 考えてみりゃ、ポール・アンダーソン(バイオ・ハザード)監督が、そんな映画を撮る訳ゃないか。1959年に「ポンペイ最後の日」ってぇ作品があって、人々を蹴散らして我先に逃げようとするローマ人を、主人公は柵を閉じて阻み、槍に刺される。彼の命が果てる時、神(天使だったかも……いや、キリストだった筈)がその魂を迎えにくる……と言う幕切れでした。
 同じ展開かな? と思って見ていましたが、1/3位から 「どうやら、こら違うなぁ~」と判りました。
 ブリテン島でローマに反逆していたケルトの一族が全滅させられる。一人生き残ったマイロ少年(子役の怨みの視線が尋常ではない。毎度、最近の子供の演技力には驚かされる)は奴隷狩りに捕まり、17年後、無敵の剣闘士となり、ブリテンからポンペイに送られる。 そこでポンペイの剣闘士王アティカスやポンペイ支配者の娘カッシアと出会う。
 マイロとカッシアは恋に落ちるが、折からポンペイにやってきたローマ元老院議員コルブス(K・サザーランド)は、マイロの仇であり、また、カッシアを奪おうとする存在でもあった。 闘技場で、マイロが絶体絶命の危機にさらされた時、ベスビオス火山が火を噴き、ポンペイは絶望の縁に立たされる。
 正直、食いたりません。 本作はアメリカでは不入りで、失敗作とされています。主役のキット・ハリントンは第2のテーラー・キッチュなんぞと言われています。デザスターシーンと、マイロ/カッシアの恋愛は良く出来ていますが、他のドラマが弱すぎる。105分(実質90分)では短すぎた。キーファーが極悪非道のローマ人を上手く演っているが、後一押し。他の登場人物についても描写が足りない。
 思い入れが薄いから(悪役も善玉も)悲しみに繋がらないし、カタルシスも少ない。映像が優れているだけにこれが惜しまれる。 CGを半分以下に押さえて、ミニチュアとセットで撮ったとはいえ、相当に製作費を掛けている。 それがドラマ不足でボツになるとは……キット・ハリントンに同情したくなりました。

グランド・ブタペスト・ホテル

 本作、全米60館強の限定公開から始まって、後に少しは増えたのだろうが、基本的に少数だったはず。ウェス・アンダーソンの作品は、いつも爆発ヒットにはならないものの口コミで評判が広がり、結果、長期に渡って動員数が落ちないという結果となる。
 とは言っても、超大作のように1億$超え……なぁんてな事にはならない。確実にファンに受け、それなりに愛される作品と言える。2012年の「ムーンライズ・キングダム」は4000万$程度の興行収入ながら、10週間に渡ってランキングに留まった。
「ムーンライズ~」は“小さな恋のメロディー”的、お子ちゃま恋愛がベースだったので、多少つらい部分が在ったのだが、本作は遺産相続に絡む殺人ミステリーがベースなのでストレートに面白い(と、私は思ふ) ウェス・アンダーソンは基本的に大人の寓話を作り続けている。 そこにアンダーソンの、今や無くなった物(色んな意味で)への憧憬が入り込む。そして、現実に在りそうなファンタジーワールドが立ち上がる。 今作、ビル・マーレイ他アンダーソン常連組に加え、主役の伝説のコンシェルジュ/グスタフにレーフ・ファインズ(文句なし名演)、その片腕ベルボーイ/トニー・レヴォリ(まだ新人ながら、メチャ面白い)。特筆はティルダ・スウィントンのマダムD、何ちゅう老けメイク!そらまぁ、特殊メイクが発達しとりますから驚くにはあたらんかもしれませんが、アンダーソン作品の中に現れると本当にティルダが老けたのかと思わされる。
 アンダーソンお得意の画も満載、雪の荒野にポツンと電話ボックスが在ったり、ホテルその物もまるでマチュピチュのように有り得ない山頂にデンっと建っております。1930-40年頃のスクリューボール・コメディ・スタイル(古過ぎて私もあんまり見ていません)で作られており、古いと感じる向きも有るかもしれません。若干 好き嫌いに左右されるかも……です。
 アメリカでは、映画館一軒あたり売り上げの記録を樹立、これも10週間ランクイン、最終売り上げはまだ不明ながら、判っている所では5200万$位。多少好みのセンスとは違っても、結構笑える作りになっています。
 まぁ、騙されたと思ってお出かけ下さいまし(ダメでも料金払い戻しはいたしかねます。念の為〓)

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・05『ガンバってみる!』

2016-11-29 12:12:27 | 小説6
高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・05
『ガンバってみる!』
        

 わたしが感動したからと言って他人が感動してくれるわけではない。

 すごく当たり前のことなんだけど、いざ実感して見るとガックリだ。


 コンバットの新兵さんが敵中横断をやるみたいにドキドキして学校に着いても、感動してくれる人なんかいない。
 そりゃそーだよね。
 わたしは何百人もいる玉櫛中学の生徒の一人でに過ぎない。で、何百人の生徒の半分は自転車で通っている。
 同じ制服着て同じような自転車に乗って校門を潜っても、犬や猫が迷い込んできたほどにも気づいてもらえない。

 だけど、尾道少女が自転車に乗れたというのは革命的なことなんだ!

 例えて言うと、女子中学生が初めて宇宙飛行士になるようなものなのだ! わたしにとってはね。
 でも、ここ大阪の高安では「人間だったら歩く」のと「自転車に乗れる」というのは、ほとんど同じ意味なんだ。
 分かってるんだけど、つまらない。

「如月さん、自転車に乗ってるのね」

 担任の和田先生に言われた時には、思わず「ハイッ!」と大きな声で応えてしまった。
「これ自転車保険のプリント。今週中に申し込んでね。それから、ほんまは自転車通学届を提出してからやないと自転車では通学できないから。ま、早く手続き済ませてね」
 和田先生は気づいていた。
 だったら「おめでとう!」の一言ぐらい欲しいと思ったけど、まあ、生徒に目が行き届いている、学校としては上等の方なんだと、自分を納得させる。

「さっそく乗ってきたんやね!」

 師匠の京ちゃんだけは喜んでくれる。
「帰りに二人だけでお祝いしよ!」
 一時間目の体育の後、ひまわりの妖精みたいな笑顔でハグしてきた。
 京ちゃんの体からはお日様のような匂いがした、新発見。
 考えてみると、匂いが分かるくらいの近さで人に接したことが、もう何年も無い。
 わたしって……考え込みそうになるので頭を切り替える。

「わー、ご馳走になってもいいの!?」

 放課後、図書館で十五分だけ時間を潰してから家庭科教室に行った。
「失礼します」の声を掛けて家庭科教室のドアを開けると、出汁の効いたいい匂いがした。
「こっちこっち!」と誘われたテーブルには鍋焼きうどんが二つ並んでいたのだ。
「これ、京ちゃんがつくったの?」
「まーね。あたして家庭科クラブやったりするわけなんよ」

 知らなかった、転校してきてから唯一友だちになった京ちゃんだけど、てっきり帰宅部だと思っていた。

「まあ、あんまり熱心な部員やなかったからね、さ、冷めへんうちに」
「うん」
「「いっただきまーす!」」
 友情の籠った鍋焼きうどんを美味しくいただきました。

「なんだか京ちゃんには世話になりっぱなしだね」

 高安の開かずの踏切にひっかかったので、電車の轟音に紛れる寸前に言った。

 ゴーーーー ガタンガタンガタンガタン ガタンガタンガタンガタン ガタンガタンガタンガタン

 通過してから京ちゃん。
「人も街もいっしょやと思う。同じとこしか通ってなかったら違う景色は見えてけえへん……てか、あたしもミッチーに世話になってるんよ」
「え、なん……」
 聞こうと思ったら特急電車の轟音に遮られてしまった。
 タイミングを外すとシビアな話は続かなくなる。
「大阪の子って、みんな、あんなにお料理が上手なの?」
 やっと開いた踏切に話題が変わる。
「材料がええんよ。安うて美味しいもんが一杯あるからね、あのおうどんなんか一玉十九円やねんよ」
「十九円!?」
「ミッチーも自転車乗れるんや、自分で探してごらん、他にもいろいろある街やからね」
「あ、うん。ガンバってみる!」

 その足で探検に行きたかったけど、まだ運転には自信が無いので――今週中には!――と決心するわたしであった。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・カントリーロード・3『オギノメ分岐点』

2016-11-29 06:49:00 | カントリーロード
カントリーロード・3
『オギノメ分岐点』
    


 わたしの旅はとりとめがない。取りあえずの目的地と、そこへの道が決めてあるだけ……。

 でも、ごくたまに、はっきり目的を持って旅に出ることがある。
 これは、そんなごくたまに目的を持って旅をしたときの、有る意味取り返しのつかない事件だった。

 初夏というのにも、少し間のある時期だった。バイトが休みだったので、わたしは、目が覚めても起きるのがもったいなく、昼までまどろみを楽しんでいた。
 寝返りを打った拍子に、ベッドにオキッパにしていたテレビのリモコンが体の下敷きになった。それでスイッチが入ったんだろう、唐突にテレビが点いた。

 そして、わたしは初めて目的をもって旅にでることになった。

 駅に着くと、目的地まで行く足が無かった。
 テレビの番組でとりあげるくらいなんだから、その近所まで通うバスぐらいはあると思っていた。唯一あるバス停には、逆方向へのバスしか無いことが知れた。
 奮発してタクシーと思ったが、あまりに小さな駅なので、タクシーの姿もない。初老の駅員さんに聞くと、それなら、そっちの方に行くトラックがあるからと、わざわざ駅舎から出てきて話をつけてくれた。運ちゃんは快く引き受けてくれた。

「帰りはどうするんだい?」

 トラックの助手席を降りようとして、運ちゃんが声をかけてきた。
「あ……ここにいる人と、相談して……多分送ってもらうことになります」
「そうか、オレ夕方、また通から、よかったら声かけてくれや」
「はい」
「じゃあな、グッドラック!」
 ここに着くまでの四十分余りで、わたしは運ちゃんにアラアラのことは喋ってしまった。ほんの世間話のように喋ったけど、わたしは、自分の気持ちを鼓舞するために喋った。

『濡羅里(ぬらり)牧場』

 テレビで見たのと同じ看板が、地面から生えたような自然さで立っていた。
 すぐに入って行く勇気は……さすがに無かった。少し道なりに戻って、牧場全体が見渡せる小高い所に行った、白樺の間に適度な灌木があり、身を隠しながら牧場の全景を見るのには、うってつけだった。
 旅行慣れしたわたしは、小さな双眼鏡を出して、斥候のように牧場を偵察した。テレビで見たのと同じサイロや牧舎、直営の生キャラメルの工場などが目に映った。そして……奴を発見した。牧舎の脇からトラクターみたいなのが出てきて、運転席から降りてきたのが奴だった。

 荻野目忠一。それが、奴の名前。テレビに奴の顔が出てきたとき、わたしは運命を感じた。

 オギノメは、中三から高三までいっしょだった。いっしょに特別な意味は無い。偶然中三で同じクラスになり、進学先の高校も同じで、たまたま三年間同じくラスだった。互いに呼ぶときは苗字、それも感覚としてはカタカナだった。それが二人の距離だった。
 二年の修学旅行のクラスレクリエーションのゲ-ムに負けて、罰ゲームをやらされた。大きなポッキーを両方から囓って、どこまで耐えられるかという他愛ないもので、罰ゲームになった五組のカップルのほとんどが、途中で吹き出して陽気に脱落していった。わたしとオギノメは最後までいって唇が重なってしまった。わたしは大げさな悲鳴をあげ、オギノメは真っ赤になった。思えば、あれがオギノメとの距離が自然に縮まるきっかけだった。周りも、旅行中は、そんな風に囃し立てた。でも、修学旅行が終わって学校に戻ると、お互いカタカナの苗字で呼び合う仲に戻ってしまった。

 もう一度だけ、きっかけがあった。

 卒業式予行の帰り、下足室を出たところでオギノメが、わたしを下の名前で呼び止めた。四年間で初めて、オギノメはフライングした。
「なによ……」
「これ……」
 伏せた顔の真下に、制服の第二ボタンが差し出された。
「こんなの今時はやんないわよ」

 それでおしまい……。

 あの時、カタカナの苗字で呼んで「メルアドの交換しようぜ」ぐらいのノリでやってくれたら、わたしは素直に、ワンステップ前に出られた。で、結局そのままになってしまった。

 今朝のテレビは、モーニングショーで濡羅里造六という大俳優がやって、大成功した『濡羅里牧場』の紹介をやっていた。で、わたしが寝返りをうってテレビが点いた時にオギノメがドアップになっていて「ボタン持ってるぞ! まだ勝負ついてないからな!」と、わたしの苗字を言いながら叫んで、みんなに受けていた。
 このテレビを見て、言葉の意味を正確に理解できたのは、わたし一人だろう。
 オギノメは、タブレットを出して何やら真剣に操作していた。ときどき牛や羊の顔を見ているところを見ると仕事のことなんだろう。

 と、そこに生成のシャツにオーバーオールという出で立ちの可愛い子が現れて、なにか親しげに話している。双眼鏡なので、完ぺきな3Dで見える二人は、単なる仕事仲間のそれを超えているように感じられた。
「バカじゃない、わたしって……」
 わたしは灌木林を抜けて道に出て、石に腰掛けた。どす黒い後悔が胸を満たし始めた。

 初夏に近い日差しは、じっとしているとジワジワと汗が噴き出し、一瞬クラっときた。自己嫌悪の頂点。
 その頂から降りるようにして、わたしは立ち上がり、道を歩きはじめて行く……そう、わたしは歩き去っていく自分自身の後ろ姿を見ている。ドッペルゲンガーという言葉が浮かんだ。
「そんなバカな……」
 わたしのナリは、赤いギンガムチェックにブルージーン。どこにでもある恰好だ。ましてここは牧場、そんな子がいてもおかしくは無い。
 その子は、数百メートル先の緩いカーブを曲がるまで見えた。その間、わたしは呆けたように、その後ろ姿を見続けていた。
 背後から、トラクターのような物が近づいてくる気配がした。直感的に、それにオギノメが乗っていると感じ、わたしは灌木林の中に身を潜めた。
 しばらくすると、それが目の前数メートルのところを走っていくのが見えた。運転していたのは、やっぱりオギノメだった。生活が充実しているんだろう。口笛なんか吹いて生き生きしている。
「~さん!」
 直ぐ後ろで声がして、びっくりした。いつのまに現れたんだろう。双眼鏡で見たオーバーオールの女の子が息を切らして立っていた。
「あなた……」
「そう……さっきあなたが双眼鏡で見ていた」
「わ、分かってたの!?」
「わたしはね。荻野目君は分かってないわよ」
「あなたは……?」
「ぬらりひょんの孫娘」
 思い出した、濡羅里造六は芸能界の妖怪と言われて、この牧場の経営を含め、奇行の多いことで有名だ。しかし、孫娘は、いたってまともで可愛い印象。でも……双眼鏡で覗いていたことに気づいていたなんて、やっぱり変だ。
「わたしたちは気づいていたよ、~って言うのは、彼女のことだって。あのタブレットもね、あなたに会ったときになんて言うか、言葉を考えていたのよ。高校の時、直球過ぎて失敗してるから。ここで出会うと安心していたんだけど。あなたが、いつまでたっても動かないものだから、心配になって、裏道から直接登ってきたの」
「わ、わたし……」
 わたしは立ち上がって、オギノメを追おうとした。
「もう、遅いわ」
「だって、たった今……」
「あなた、自分の後ろ姿を見たでしょ」
「あ、あれは……」
「ここはね、人生を分岐させる場所なの。もう一人のあなたは、この道をトボトボ歩いて、後ろから来た荻野目君に声をかけられるの。ほら……」
 彼女は、タブレットを見せてくれた。わたしとオギノメがトラクターみたいなのに乗って、楽しげにこの道をやってくるのが写っていた。わたしはタブレットを持ったまま、道に飛び出した。あたりの風景から、ここに違いない。わたしは、タブレットの視点を変えたりして、牧場の入り口まで来てしまった。でも写っているわたしたちは、どこにも見えない。
「そこに写っているのは、分岐したパラレルワールド」 
「じゃ、この世界の忠一は……」
「居なかったことになるでしょうね」
 タブレットに写っていた、忠一とわたしの姿は、だんだん姿が薄くなり消えていってしまった……あたりを見回しても、カントリーロードが南北に延びているだけだった。

 その後、フェイスブックで、この世界の忠一を発見した。放送局に勤め、可愛い婚約者もいるよう。わたしたちは、高校時代に甘い思い出を共有するオトモダチになった。で、いまもオギノメと呼んでいる。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・10(促成魔女初級講座・座学編・2)

2016-11-29 06:37:12 | ノベル
秘録エロイムエッサイム・10
(促成魔女初級講座・座学編・2)



「わしが、なぜ生涯一度も負けなかったかわかるかのう」

 武蔵は独り言のように言って、庭を眺めている。ただ、言葉の直後に鹿威しの音が入り、真由の心に突き刺さる。
「……負ける戦いはしなかった。ハハ、なんだか言葉遊びのように聞こえるかもしれんが、戦いの極意はこれしかない」
「あの……それだと、あたし、だれとも戦えません」

 真由の正直な答えに、武蔵は方頬で、清明は遠慮なく、ハチはなんとなくニンマリと笑ったような気がした。

「あ、変なこと言いました?」
「いや、正直な答えでけっこう。ここからが話よ」
 武蔵は、行儀よく端正に座っているように見えながら、どこにも力が入っていない。かといって打ち込めば、必ず反撃されるようなオーラがあった。真由の気持ちが分かったのだろう。清明があとを続けた。
「巌流島の話はしっているかい?」
「えと……佐々木小次郎さんに勝ったんですよね。たしか武蔵さんの一番大きな勝負……でしたよね?」
 うかつに多く口に含んだ濃茶は、いささか苦かった。
「あれ、まともにやっていたら武蔵さんの負けだったんだ」
「あの試合、武蔵さんは、わざと遅れてやってきた。悠々と小舟の中で櫂を削って、長い木刀をつくりながらね。小次郎はさお竹と言われるぐらいに長い刀を、すごい速さで繰り出してくる。で、わざと遅れて小次郎をいらだたせた。そして普段の二刀流は使わずに、船の中で作った櫂の木刀をぶらさげて、こう言った。『小次郎破れたり!』遅れてやってきて、お前の負けだって言われれば、たいていの者は多少頭にくる。平常心を失っちゃうね。ここまでならハッタリなんだけど、武蔵さんは畳みかけるように、こう言った『おぬしは鞘を捨てた。その刀は二度と鞘にはもどらん。おぬしの負けだ』」
「ハハ、小賢しいハッタリにちがいはない。いつも使っていた二刀流を使わなかったのも、小次郎の早さに着いていけない可能性が高かったから……そして、二刀流の武蔵が、長い木刀……意表をついたまでのこと」
「ジャイアント馬場って、プロレスラー知ってる?」
「えと……アントニオ猪木の師匠のプロレスラーですね」
 真由はスマホで検索して答えた。
「あの人は、元々はプロ野球のピッチャーだったんだ。最初に長嶋さんと勝負した時は三振をとっている」
「え、そうなんですか!?」
「背の高い人でね。とんでもなく高いところから球が飛んでくるんで、バットの軸線が合わせられないんだ」
「よい例えだ。野球は慣れてしまえば、あとは目と腕で勝てる。剣術は、そうはいかん。一度でも負ければ死ぬということだからな。巌流島勝利の主因はそこにはない。わしが勝てたのは、そうやって死地を選ぶ余裕ができたからだ」
「シチ?」
 ハチが、自分の兄弟の事をいわれたのかと耳を立てた。
「死ぬの死に地球の地とかく。文字通り、相手にとって勝てない死の地点だ」
「武蔵さんは、海を背に横に走り、小次郎の刀の軸線を殺した。つまり、小次郎が振り下ろした瞬間には、わずかに自分の位置がずれる場所まで走った。あせった小次郎は、それを補うために大刀を横ざまに振った……その瞬間、小次郎の上半身は無防備になる。そこを、すかさず武蔵さんは跳躍して、小次郎の脳天を木刀で打った。計算とアドリブの見事なコラボだ」
「それは、買い被りというもの。勝負は死地を選べた霊力。これは、そのときの清明殿から伝授されたものだ」

 武蔵は平気で濃茶を飲み干した。

「座学は、ここらへんでよいであろう。清明殿、真由どのを実地訓練に出そう。式神の作り方を教えてやってはいかが?」
「そうですね、それが、とりあえず役に立つ」

 清明は、はがき大の和紙と鋏をもってきた。いよいよ実践編にはいるようである……」

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・108『CROODS』

2016-11-29 06:24:48 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評・108
 『CROODS』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ



 これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している映画評ですが、もったいないので転載したものです。


邦題“クルードさんちのはじめての冒険”っちゅうドリームワークス製作3Dアニメ。石器時代が舞台です。アメリカで昨年3月公開(アイアンマン3のちょいと前)なんと11週ランクインして2億$位まで売り上げました。
 日本公開……あったんですかねぇ、ちょっと覚えがありません。スターチャンネルで放送されてましたからディスクには成っていると思います。

 クルード家は婆ちゃん(母方)ダッド、マム、反抗期の娘と弟、幼児(女の子)の6人家族の穴居人、ネアンデルタールなんでしょうね、昼間 狩りに出るが遠出はしない、夜は洞窟で身を寄せあっている。道具らしきものも火も持たない。 ある日、松明を持って夜も移動している青年ガイが現れる(クロマニヨンですな)
 時期を同じくして地殻変動が起こり、クルード家のスウィートホームは崩れ落ちてしまう。父/グラグは近くで洞窟を探そうと、あくまで現状維持。ガイは太陽に向かって遥か彼方の山を目指すという、ロウティーンの娘/イップはガイに興味津々。あくまで現状維持したいグラグだったが地殻変動は更に強くなり、一家はガイと共に旅に出る事となる。グラグはスーパーマン的力持ち、ガイは非力だが様々なアイデアを持っている。幾多の困難を乗り越えながら旅を続ける一家だが、目的地に到着しながらも地殻変動に先を越され、大きな地割れに行く手を阻まれる。
 グラグの怪力で割れ目を超えるが、グラグ自身は割れ目を渡れない。 翌朝、別れ難く悲しむ家族のもとに、なんと奇想天外なアイデアでグラグが戻って来る。彼は初めて自分の頭で考え、ガイですら考えつかなかったアイデアで空を飛んだ(まぁ、あり得ませんが……) 一家とガイは旅を続け、とうとう海辺に到達する。と まぁ、人類の進化と大移動を ある一家の旅に仮託して描き、家族の愛情、在るべき姿を提示する。 いやぁ、まことにスンバラシイ出来上がり、決して説教がましくなく押し付けも無い。
 まぁね、アメリカンの感覚ではありますが、日本人にも共感、共有できる範囲です。昔、“フリントストーン”っていうテレビアニメがありましたが(後に実写映画になりました。ジョン・グッドマン主演)、あのフレッド達の御先祖?っちゅう位の乗りだと思えばええと思います。
 日本でも宣伝の打ち方でヒットしたと思うのですが、配給会社には気に入ってもらえなかったようです。 レンタル屋には在るはずですから是非ともご覧下さい。一家全員で楽しめますよ。スターチャンネルを見られる方は6/13, 12:00から再放送があります。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・音に聞く高師浜のあだ波は・11『浜寺公園は高師浜』

2016-11-28 10:58:27 | 小説4
高校ライトノベル
 音に聞く高師浜のあだ波は・11
『浜寺公園は高師浜』
         高師浜駅

 浜寺公園には五千本以上の松がある。

 でも、それだけ。


 運動部の子らが走り込みの中継点やらに使うぐらいで、あたしら一般生徒は球技大会とか、罰ゲームみたいな耐寒マラソンで走らされるというマイナスイメージしかないとこ。
 せやから、わざわざ誘い合って行ったりすることはない。

  こんなところに来てみたかったんだ!

 姫乃の喜びっぷりには、ちょっと驚いた。
 ゲーセンのクレーンゲームで袋一杯のお菓子をゲットしたんで、すみれを呼んで、三人でお茶会をやった。
「ね、転校してきてから、学校と、その周りしか知らないんだけど、面白いとこないのかなあ?」
 高石市というのは基本的に住宅地。そうそう面白いところはない。
 あたしらが「遊びに行こう!」ということになると、南海電車に乗って堺を素通りして難波に行く。ファッションやらアミューズメントいうことになると大和川を渡らんと話しにならへん。
 ただ、難波まで出るにはアゴアシを考えると、最低樋口一葉さんを連れていかなあかん。余裕を持つなら諭吉さん。買い物しよと思たら諭吉さん二枚は欲しい。バイトもしてへん高校生には、しょっちゅう行けるとこやない。
「クリスマスにでも行こか?」
 事情を説明して妥当な提案をすると、姫乃はかいらしい目をパチクリさせた。
「え、あ、そういいうとこじゃなくって……」
「え、じゃ、どんなとこ?」
「えーー例えば高師浜!」

 ということで、浜寺公園に来ている。

 高師浜と言われて、あたしもすみれも一瞬ピンとけえへんかった。
 高師浜と言われて、一番に浮かんでくるのは、わが大阪府立高師浜高校。
「そう言えば、浜寺公園て高師浜やったんとちゃう?」
 すみれが思い至って「あー、そうか」ということになった。

 三人で松林の中を歩く。

 子どものころから来てる浜寺公園だけど、あまり松林の中を歩くことはなかった。
「ねえ、浜に出てみたい」
「え、浜?」
「だって、高師浜でしょ?」
 そう言われて、ちょっと目から鱗。高師浜なんだから浜には違いないはずだ。
「だけど、浜ねえ……」
「とりあえず行ってみよ」
 すみれの提案で『浜』を目指す。

「ここが『浜』だった」

 そこは道路を挟んでコンクリートの土手が行く手を阻んでいる。
「昔は浜だったんやけどね、臨海工業地帯が出来てからはこんな感じ」
 恥ずかしながら、あたしは川やと思てた。
「ちょっと検索してみるね」
 姫乃はスマホでグーグルアースを調べ始めた。
「ほんと、目の前のは海だ。ほら、ここから西は全部埋め立てでしょ、海岸線がカクカクしてる。このカクカクしてるところを無いと想像したら……ほら、目の前が浜辺になる」
 姫乃が画面を一撫ですると、臨海工業地帯が消えて、いま立っているところが海岸線になった。
「「「…………」」」
 目の前の景色に目をやると、圧倒的なリアリティーで工業地帯が見えて、海は川に戻ってしまう。
「もうちょっと想像力がいるみたいやねえ」
 すみれがため息をつく。
「ね、すみれ、弓を射るかっこうしてくれない」
「え、ここで?」
「うん、那須与一とかになった気になってさ」
「え、那須与一?」
 あたしは分かれへんかったけど、すみれは「ああ……」と声を発して臨海工業地帯の方を向くと、エアー弓を引き絞った。
 すみれの弓は何回か見たけど、かっこええ。なんか、ギシギシギシとしなっていく弓の音が聞こえてくるような気がした。

 ピューーーーーーーーン  バシ! 命中!

 きれいに矢を放つと、すみれは口で擬音を入れながら矢の行方を見定めた。
「当たったん?」
「放つとこまではええねんけどね」
 命中はハッタリらしく、ペロっと舌を出した。
 姫乃は土手に上がって矢の行方を追ってたけど、フッと力を抜いて振り返った。

「また来ようよ、イマジネーションが強くなったら見えるかもしれないから」

 気が付くと、西の空が茜色に染まりかけ、三人の影が長く伸びていた。
 
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・カントリーロード・2『ZANGSHING』

2016-11-28 07:25:19 | カントリーロード
カントリーロード・2『ZANGSHING』    


 列車で旅をしていると、わけもなく降りてみたくなることがある。

 ほんの出来心で、目的地が変わることもあれば、そのまま次の列車に乗っておしまいということもある。
 これは、結果的には後者になるんだけど、心情的にはどちらでもない。

 あるローカル線のトンネルを抜けたところに、その駅があった。

 S駅というアナウンスに惹かれたこともあるけど、トンネルを抜けると、両側にワッサカと木々の緑が覆い被さるように茂っていた。
 なにより出口のところでトンネルは湾曲していて、その駅が突然現れたことに驚いた。駅舎は、今時珍しい木造平屋建て、ホームは煉瓦で出来ていて、窓から運転手さんがタブレットを構えていたこともゆかしく思えた……。

 で、気づいたらホームに立っていた。

 列車に乗っていた時には、ロケーションに気を取られ気づかなかったが、ホームの端っこに、ボストンバッグをぶら下げた、セーラー服の少女が立っていた。
 少女は、しばらく去っていった列車のテールを見つめていたが、視線をもどしたときに目が合ったので、互いに目礼した。少女は、列車から降りてきた様子ではない。二両編成の列車の中にセーラー服を着た少女は居なかった。かといって、今の列車には乗らなかった。ただ、なにか名残惜しげとも、逡巡ともつかない様子で佇んでいる。
 思えば、向こうだって変な奴だと思っているのに違いない。へんぴな田舎の駅に降り立ち、それからどこへ行くともなくホームに佇んでいるジーンズにギンガムチェックという流行なんだか、時代遅れなんだか分からない格好で、時代物のバックパック。

「こんにちは」

 五分ほどして、ほぼ同時に同じ挨拶が口から出た。歳が近いようで、お互い体を揺するようにして笑い出した。
「この駅で待ち合わせですか?」
 少女の方から聞いてきた。
「ううん。ただ、なんとなく雰囲気がいいんで降りちゃったの。多分つぎの列車に乗って行くわ」
「ハハ、こんな田舎の駅のどこがいいのかしら」
「いいわよ、トンネルを抜けたら、いきなりこの駅が現れて。なんだか物語の始まりみたいで」
「ロマンチストなのね」
「あなたは?」
「わたしは……どっちなんだろう?」
「は……」
「わたし、宝塚の試験受けたいんです」
「宝塚って……宝塚歌劇団?」
「正確には、宝塚音楽学校」
「ああ、そうね。ごめんなさい」
 改めて少女を見ると、姿勢といいプロポ-ションといい、いかにもそれらしい。
「でも、最後の踏ん切りがつかなくって……」
「このホームまで来て?」
「ええ、列車が来るたびに、あの人が降りてくるんじゃないかって……」
「ひょっとして……」
 わたしは親指を立てて見せた。
「ハハ、ずいぶん直裁的な表現ね」
「ごめん、がさつなタチなもんで」
「あの人は、いつも言ってた。これからの女性は、斬新でなきゃいけないって」
「ザンシン?」
「あ……一歩前に、新しいものを自分の感性で求めて……って感じかな」
 そう言うと、少女はきれいにターンしてアラベスクを決めた。
「上手いわ!」
 拍手をすると、優雅にレヴェランス(ダンスのお辞儀)で返してきた。
「やっぱり、わたし宝塚受けていいかしら」
「いいわよ、それだけの実力があるんなら」
「嬉しい……でも、あの人が、いつ帰ってくるかもしれないし」
「そんなの、別に日にちや時間を決めたわけじゃないんでしょ」
「そりゃそうだけど……宝塚は、また来年もあるし」
「女は斬新でしょ!」
「う、うん……」
 少女は、うっすらと額に汗を浮かべながら、あいまいに頷いた。
「冷たいものでも買ってくるわ」
 わたしは、駅前の万屋さんに行くと駅長さんに、手で知らせて改札を出た。

 ペットボトルを二つ持ってホームに戻ると、少女の姿が無かった。

「お嬢ちゃん、かおるちゃんに会っちゃったんじゃないか?」
「かおるちゃん?」
「セーラー服のボストンバッグ」
「え、ええ……」
 そう答えながら、わたしは少女を捜した。
「そりゃあ、残心を見てしまったのよう……」
 万屋さんのお婆ちゃんが、ホームまでやってきて言った。
「斬新……?」
「うんにゃ、心が残ると書いて残心」

 戦争が終わった直後、かおるという女の子が、復員してくる彼を、このホームで待っていたそうだ。でも、かおるちゃんには、宝塚を受けたい夢があった。宝塚は、昭和十九年・二十年の二年間は生徒の募集を行っていなかった。ようやく募集の始まった二十一年の春から、かおるちゃんは、時にボストンバッグを持って、宝塚を受けようと、このホームに立つようになった。
 でも、トンネルから列車の気配を感じては彼を捜して、けして自分が乗ることは無かった。

 そして、三年が過ぎて、かおるちゃんは結核で亡くなってしまった。

「あたしゃ、幽霊なんかは信じないよ。でもね……このホームがそれを覚えていてさ。そのかおるちゃんの残った心をさ……」
「二三年に一回ぐらいの割で、あんたみたいに感覚の鋭い人には見えてしまうみたいなんだ」
「お嬢ちゃんみたいに話までしたってのは、珍しいけどな」

 ホームの花壇には、野生とも植えたともつかない一群(ひとむら)のスミレが咲いていた。

 次の列車に乗って、振り返ると、トンネル込みで、何かを、誰かを待ちたくなるような駅だと感じた。
「この秋には、この駅も改築。オレも定年、婆ちゃんの店もしまいだ……」
 タブレットを渡しながら駅長さんが言った言葉が頭に残った。

 後日知ったことだけど、鉄道のタブレット使用は、その四年前に廃止されていた……。
 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・〔年賀状を書こう!〕

2016-11-28 07:14:07 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト
〔年賀状を書こう!〕



 年賀状を書こう!

 朝目が覚めて、一番に思った。
 毎年思っては書きそびれ、ひどいときは紅白を聞きながら書いていることがある。
 佳世の年賀状は、正月明けのサインだね。と、友達に言われてきた。去年は開き直って七草粥のイラスト付けてだしたら、結構受けた。

 せり、なずな、ごぎょう、はこべら、すずな、すずしろ、(   )

 にして、カッコの中に入るのは何でしょう? というクイズ付。七日に着いて、ちょうど七番目を抜いておく。
 苦肉の策だったけど「こんな手があったか!」と評判だった。
 でも、同じ手は二度とは使えない。それに「七番目はなに?」といっぱいメールが来たのにも閉口。七草ぐらい調べろよな。といって、書いた本人がなにが入るのか忘れている。まあ、思い付きだからしようがない。

 テスト明けだというのに、きちんと目を通し、柄物のフリースにジーパンといういでたちで顔を洗いにいく。誰かが朝風呂に入ったんだろう、洗面台の鏡は見事に曇って、自分の顔が判然としない。ま、長年付き合ってきた顔なので、多少曇っていても歯磨きに支障はない。
 トースト焼いて、ハムエッグこさえて乗っける。以前はマヨネーズを塗ってからトーストにしていた。美味しいんだけどカロリーが高いので、マーガリンだけで済ませる。冷蔵庫を開けると、古いのが切れていたので、新しいバター風味のマーガリンを開ける。何事も新しいものを開けるというのは気持ちのいいもんだ。スープもインスタントだけど、コーンポタージュ。コーンの粒粒が嬉しい。こいつも四袋入りのが切れていたので、新しいものを開ける。今日はなにごとも新鮮な感じで「オーシ、やるぞ!」という気になる。

 去年みたいにアイデアを期待していては、いつまでたっても書けないので、パソコンから適当なのを選んで、まあ、ごく普通なのにしよう。ただ、下1/4ぐらいは空けておいて、一人一人コメントが書けるようにしておく。
 完全にパソコンとプリンターに頼ったのは、なんだかダイレクトメールじみていて味気ない。

「そうだ!」

 パソコンのスイッチ入れてから思いつく。お父さんが九州に出張したときに買ってきたお土産の志賀島の金印のレプリカ。「漢倭奴国王」と、一見意味は分からないけどかっこいい。部屋に取に戻って、リビングへ……。

 パソコンが、まだ起動していない。いわゆる「立ち上がっていない」 この夏に買い換えたばかり。一分もあれば立ち上がるのに……おかしいなあ。
 あたしは、こういうものには弱いので、兄貴を呼ぶ「おーい、にいちゃん!」

 返事が無い。

 お兄ちゃんだけじゃなくて、お母さんもお父さんも居ない。
「え、今日なんかあったっけ?」
 リビングのテーブルにハガキの束があるのに気付く。喪中葉書だ……。

 娘、瀬田佳代が、この十二月十一日に……そこまで読んで、頭がくらりとした。

「うそ、あたし死んだの!?」
 冷蔵庫を開ける。マーガリンは新品が箱に入ったまま。カップスープも未開封だった。置いたと思った食器はシンクのどこにもない。
 洗面所の鏡は曇っていなかった……自分の姿が見えないだけだ。部屋に戻ったら着たと思ったフリースもジーパンもそのまま、クローゼットの中にある。あたしは、なぜか制服姿のままだ。

 そして、記憶が戻って来た。期末テストが終わって、嬉しさのあまり校門を出たらトラックが迫ってきた。あとの記憶は、さっき目覚めたところまで空白。

 もう一つ思い出した。春の七草の最後は……仏の座だ。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・9(促成魔女初級講座・座学編・1)

2016-11-28 07:06:16 | ノベル
秘録エロイムエッサイム・9
(促成魔女初級講座・座学編・1)



「うかつだったなあ……」

 安倍青年の小さな呟きが、大きく聞こえるほど静かな山荘の中であった。
 安倍が覆いかぶさって、真由がしがみついて、閃光が走ったかと思うと、ここにいた。
 八畳ほどの和室で、縁側に続いた庭にはハチが、何事もなかったように日向ぼっこをしている。その周りは深山幽谷と言っていいほどの山の中である。

「あれは、なんだったんですか?」
「多分、中国の妖怪たち……」
「中国の?」
「うん、単に探りを入れに来ているだけかと思っていたけど。あいつらは実戦部隊だった」
「……あれも、あたしのせいなんですか?」
「真由くんが、南シナ海で中国の巡視船……無意識だけど沈めちゃっただろ。そこから手繰ったんだろうね。渋谷で網を張って、京都に来た時には、人知れず三条あたりに集結していた。ボクも気が付かなかった。油断だね」
「あ、助けていただいてありがとうございました」
 真由はペコリと頭を下げた。渋谷からこっちのことが、少しずつ整理されて、落ち着いてきた。
「あの……安倍さんていったい?」
「総理大臣の親類」
「え?」
「じゃなくて、第八十八代陰陽師頭(おんみょうじのかみ)阿部清明。ま、日本の魔法使いの元締めみたいなもん」
「ああ、野村萬斎さんが、むかし映画でやった」
「だいたい、あんな感じ。陰ながら日本と都を守るのが、うちの家系の仕事。うちのことはおいおい知ればいい。それより君だ。いきなり第一級の敵とみられたみたいだね」
「なんで、あたしが敵なんですか?」
「きみは、ヨーロッパの魔法の正式な継承者だ。まだチュートリアルの段階だけど、磨けば、すごい魔法使いになる。そうならないうちに、君を潰しにかかったんだ。ボクといっしょだったことも災いしたね。日本の陰陽道とヨーロッパの魔法が協定を結んだように思われた」

 庭の鹿威し(ししおどし)が、まるで時間にアクセントをつけるように、コーンと鳴った。

「七十年前の戦争で、京都と奈良にはほとんど爆撃の被害がなかったこと、知ってるね?」
「はい、学校で習いました。日本の敗北が決定的になったんで、文化財の多い奈良と京都は爆撃の対象から外したって」
「あれは、ボクのひい爺さんの仕事だったんだ。ああ、言わなくても分かるよ。日本の首都は東京だ。なぜ東京を守らなかったか……東京は正式には首都じゃない。ケチくさいけど法律のどこにも書いていない。天皇陛下が即位されるのも、東京じゃなくて京都の御所だ。京都の年寄りは、天皇陛下が京都に来られることを『お戻りになった』と、今でもいう」
「でも、東京は大空襲で、原爆以上の犠牲者をだしてます。守れなかったんですか?」
「沙耶くんにも聞いたと思うけど、魔法と言うのは、ここに落ちる爆弾をそっちに持っていくだけのものだ。京都と奈良の分が、東京に落ちてしまった」
「そうなんですか……」
「皇居を守るのが精一杯だった」

 いきなり庭に面した縁側に人の気配を感じた。生成りの木綿の着流しに渋柿色の袖なしを着た老人が、ハチを相手に遊んでいた。

「あ、武蔵さん。お久しぶりです」
 清明が頭を下げた。
「近くを通ったもんでな……山里におると、人恋しくなるものでな。ごめんくだされ」
「あ、どうぞお上がりください。松虫さん、お茶の用意をしてくれませんか」
 いつのまにか、座敷の傍らに和服の女性が座っていて、小さく頷くと、本格的な茶の湯の用意を始めた。
「おぬしの式神は、付かず離れず、まことに様子が良いのう。こちらの娘子が真由どのじゃな」

 鳶色の三白眼が、かすかに和んだ。この顔……宮本武蔵だ! 真由は正直に驚いた。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・107『ビル・カニンガムアンドニューヨーク』

2016-11-28 06:47:42 | 映画評
ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・107
『ビル・カニンガムアンドニューヨーク』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ



 これは悪友の映画評論家滝川浩一が、個人的に身内に流している映画評ですが、もったいないので転載したものです。


  ビル・カニンガム、80歳のファッションカメラマン。20$のワークコート(しかもカメラとこすれて破れるとガムテで繕う)を着て、チャリでニューヨークを走り回る。被写体はホームレスからセレブリティまで差別なし、コンセプトは自前の感覚、自前の哲学、自前の財布。コーディネイターに飾られたファッションには興味なし。年に2回、パリのオートクチュールに出掛けるが、実際に着られる服以外にはカメラを上げない。たとえ半世紀前のデザインであろうとパクリには一切容赦しない、類似デザインは自らの60年に渡る記録の中から証拠を探して並べて告発する。
 ニュヨーカー紙に“オン・ザ・ロード”というフォトコラムのページを持ち、彼のページから最新の流行が生まれる。それは、ファッションメーカーのコマーシャルではなく、生のニュヨーカーのファッショントレンド。かつては、今や伝説のファッション誌の大半を埋めたが、その殆どは無給なのだと言う。提示された小切手は全て破った。報酬によって自らの自由な感覚に掣肘を課せられる事を何より嫌った。
 ビル・カニンガム……リンカーンセンターの狭い一室で写真キャビネットに囲まれて暮らし(リンカーンセンターの改修で、今はセントラルパークを見下ろすアパートメントに移ったが)今でも自転車でニューヨークを走り回る。セレブリティパーティーには興味なし、チャリティーパーティーの中から自らの価値基準に見合った物を選び、出席者の撮影をしにいく。
 ビル・カニンガム……生きた伝説、今日も生きてうごめくファッションを撮り続ける。カニンガム自身、幾分かの資産はあるらしい(でなければ、この自由は担保できない)、しかし、贅沢とは全く無縁。ついでに恋とも無縁だがホモではないと本人が明言している。ただし、ホモに偏見など一切ない。彼にとって、被写体の性別も年齢も一切関係ない。在るのは個人の自由な発想と自己主張。
 もうディスクが出ている、ファッションに興味なしでも構わない。そこに映っているのは、思いっきり粋で自由な爺さんの生き様。一見の価値在り。お薦め〓

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・ライトノベルベスト・『おいでシャンプー』

2016-11-27 12:42:50 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト
『おいでシャンプー』



「摩耶です、よろしくね」

 その一言で、その人は、うちの同居人になった。

 若すぎる…………それが、最初の印象だった。

 
 お父さんは四十六歳。お母さんは……居ないってか、覚えてもいない。わたしが二歳になる直前に交通事故でなくなった。それ以来、お父さんは、男手一つでわたしを育ててくれた。

 中学のころは、イッチョマエに反抗期ってのもやってみた。塾の帰りに友だちと喋って遅くなり、お父さんが心配して迎えに来て、「遅くなるならメールぐらいよこせよ」の一声をシカトして、一晩帰らなかった。ま、その程度には。
「今日から、洗濯物、お父さんとは別にするから」
「あ……ああ、いいよ」
 お父さんは平気な感じで言った。でも、その時手にしたスポーツ新聞は上下が逆さまだった。
 洗濯物を別にすると言っても、洗濯はわたしの係だ。小学五年の冬から、わたしが、自分で言い出してそうした。
「お父さんも、たいへんだろうから」
 というのが表面的な理由だけど、わたしは、なんとなく予感があった。そろそろアレが始まる。アレが始まることは、光子伯母ちゃんが説明してくれていたし、学校でも、女子だけを集めての健康学習でも習っていた。だから、予防線を張って、自分がやるって言った。予想は当たって、アレはお父さんの盆栽の梅がほころぶころにやってきた。でも、あのころは、お父さんのパンツをいっしょに洗うことに抵抗はなかった。
 ただ、中学に入ると、友だちが、冷やかされていた。
「え、あんた、まだお父さんのといっしょに洗濯してるの!」
 で、わたしは別に洗濯することにしたのだ。
 だから、自分のはナンチャッテ反抗期。でも、学校での付き合いなんかでは――わたしも反抗期――と、思えて気が楽。

 三十過ぎから、男手一つで子どもを育てることの大変さは、顔にこそ出さなかったけど分かっている。

「新しいお母さんができるわよ」

 光子伯母ちゃんから、そう告げられたときは正直ショックだった。お父さんから直接聞いてもショックなんだろうけど、最初に光子伯母ちゃんから言われたことが寂しかった。
 でも、その週末に焼き肉食べながら、お父さんから、改めて言われたときは、わりに平気で聞くことができた。

 そして、その日がやってきた。

「摩耶です。よろしくね」

 どう見ても若すぎる。おずおずと歳を聞くと。
「三十二。でも、他の人には内緒ね。それと、わたしのこと、無理にお母さんなんて呼ばなくていいからね」
「……じゃ、摩耶さん」
 早手回しに摩耶さんが言ってくれて、少しホッとした。
 でも、表面はともかく、心の中では、お母さんどころか家族としてもしっくりこない。
 摩耶さんも、家の中を自分色に染めるようなことはしなかった。家具や水回りの配置など、そのままにしてくれていた。
 摩耶さんがやってきて初めて三人で買い物を兼ねて食事に出かけた。買い物を終えて駐車場に戻ったところで、クラスメートのノンカに出会った。
「おーい、真由!」
 ノンカは親友なんだけど、気配りがない。こういう無防備な状況で声かけるか……。
「あら、真由のオトモダチ?」
「あ……親友のノンカ」
「あ、榊原紀香です、真由の親友やらせてもらってます……」
 ノンカは、キョウミシンシンむき出しの顔で、わたしたちを見た。
「妹が、お世話に……わたし真由の姉の摩耶。姉妹っても腹違いなんだけどね」
「お、おい、摩耶」
 お父さんも、さすがにビックリ。ノンカは目を丸くした。
「ハハ、う~そ。ほんとは新しいお母さんなの。なりたてのホヤホヤ、ほら、ノンカちゃん、こっちから見て、湯気がたってるでしょ!」
「ほんとだ……!」
「まさか……」
 わたしも、ノンカと並んでみた。
「……なーんだ、カゲロウがたってるだけじゃん」
「ハハ、ばれたか」
 摩耶さんは、そんな風に、自然に、わたしたちの中に溶け込んできた。

 ある日、摩耶さんはお風呂椅子を買ってきた。
「ジャーン、カワユイでしょ!」
 それは、ほのかなピンク色で、ハートのカタチをしていた。
「ええ、それに座ってシャンプ-とかすんのかよ!?」
 お父さんがタマゲタ。
「これは、女子専用。お父さんは、今までのヒノキのを使ってください」

 わたしは、摩耶さんが来てから、お風呂椅子は使っていなかった。それまでは、お父さんと共用のヒノキのを平気で使っていたけど。わたしは摩耶さんのお尻が乗っかったお風呂椅子に自分のお尻を乗せる気にはならなかった。別に摩耶さんのことが生理的に受け付けないということではなかった。

 お父さん×摩耶さん×わたし=あり得ない……になってしまう。

 お父さんと摩耶さんは夫婦なのだから、だから、当然男女の関係にある。で、同じお風呂椅子にお尻を乗っけることができない。わたしは、摩耶さんが来てから、お風呂マットの上に座ってシャンプ-とかしていた。
 
 摩耶さんは、どうやら、それに気づいていたらしい。

 わたしはグズなので、お風呂は一番最後になることが多い。その晩、お風呂に入ると、ハートのお風呂椅子に使った形跡がない。まあ、買ってすぐなんで、摩耶さん忘れたのかと思った。
 でも、明くる日も、その明くる日も使った形跡がなく、なんだか、わたし専用のようになってしまった。

 その数週間後、わたしは恋をしていた。むろん片思い。彼は二か月前、転校してきて、わたしが所属する軽音に入ってきた。バンドが違うので、話をすることなんかなかった。そいつは敬一っていうんだけど、すぐに、みんなからケイとよばれるようになった。

「あ、ごめんケイ」

 新曲のスコアを取りに部室に入ったら、練習の終わったケイが上半身裸で汗を拭いているところだった。
「男の裸なんか気にすんなよ」
 制服に着替えて、ケイは爽やかな笑顔で部室から出てきた。ケイはな~んも気にせず、白い歯を見せて笑って、下足室の方へ行く。後にはメンズローションと男の香りが残った。

――なんだ、あの爽やかさは――

 これが始まりだった。そのケイに、こともあろうにノンカが想いを寄せてしまった。
「わたし、ケイのこと好きだ!」
 堂々と、わたしに言った。
「真由も好きでしょ?」
「いや、わたしは……」
「ホレホレ、顔に、ちゃんと書いてある。ね、お互い親友だけど、これはガチ勝負しようね!」

 で、グズグズしているうちに勝負に負けた。今日ノンカが校門でケイと待ち合わせして帰るところを見てしまった。

「どうかした?」
 家に帰ると、摩耶さんが、ハンバーグをこねながら聞いてきた。
「い、いや、なんでも……」
「そう……じゃ、使って悪い。シャンプーの中味詰め替えといてくれないかなあ。紫のがわたしの、イエロ-が真由ちゃん用。わたし、こんな手だから。お願い」
 摩耶さんは、ハンバーグをこね回して、ギトギトになった手を見せて、笑った。一瞬魔女だと思った。

「アチャー……」

 オッサンのような声をあげてしまった。
 シャンプーをしようとお湯で髪を流し、手を伸ばした定位置にシャンプ-が無かった。
 詰め替えたときにボンヤリしていたんだろう。わたしってば、自分のシャンプーを高い方の棚に置いてしまった。
 立ち上がれば、直ぐに手が届くんだけど、ハート形のお風呂椅子はプラスチック。立ち上がって座り直せば、冷やっこくなる。そんなものほんの一瞬のことだ……そう思っても、今日の失恋で心にヒビが入っている。こんなことでもオックウになる。
 で、そのシャンプーを見上げた一瞬にお湯が目に入り目をつぶってしまった。

――おいで、シャンプー!――

 理不尽なことを思った。
「あ……」
 目を開けると、自分のシャンプーが目の前の下の棚にある。
――見間違い?――
 まあ、目の前にあるので、深く考えずに使った。で、不覚だった。
「これって、摩耶さんのシャンプー……詰め間違えたんだ」
 摩耶さんのシャンプーはナンタラピュアというもので、わたし的には香りがきつい。ほんとに今日はついてない。

「別に詰め間違えてないわよ」
 めずらしく、わたしの後にお風呂に入った摩耶さんが、髪を乾かしながら言った。
「え、うそ……」
 念のため、風呂場にいって確かめてみたら、たしかに、それぞれのシャンプーが入って、定位置に置かれていた……しかし、自分の髪から漂う香りは、摩耶さんのナンタラピュアであった。

 そして、明くる日、学校で奇跡が起こった。

「真由、シャンプーとか変えた?」

 ケイが、理科実験室前の廊下ですれ違いざまに声をかけてきた。
「あ、ちょっとあってね……」
 二人の後ろでじゃれ合っていた男子がロッカーを倒してしまった。理科のロッカーなのでかなりの重量がある。
「危ない!」
 ケイは、わたしをかばうようにして、廊下を転げた。

 気がつくと、二人抱き合って廊下に倒れていた。そして、ケイのクチビルが、わたしのホッペにくっついていた。
「あ……痛あ……」
 わたしは足を捻挫していた。ケイが肩を貸してくれて、保健室まで連れていってくれた。
 痛かったけど、とても嬉しかった。廊下の向こうの方でノンカが「負けた」という顔をしていた。

「今度倒れるときは、クチビルが重なるといいわね」
 その日は、ケイが自転車に乗せて家まで送ってくれた。で、ドアを開けた瞬間摩耶さんから、この言葉が出た。
「え、どうして……」
「あ……学校から電話あったから」

 そして数か月後、ケイとわたしは自他共に認めるカップルに。
 
 摩耶さんのことは、やっと言えるようになった。

「お母さん……」

 そして、お風呂椅子は、お母さんも使っているよう。シャンプーは、その日次第で中味が違う。でも――おいで、シャンプー――と思うと、思った通りのシャンプーになっている。
 ほとんど、このお母さんは、魔女じゃないかと思ってしまう……。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加