大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・221『溶接マスクとシゲジイと』

2024-05-15 11:25:24 | 小説4
・221

『溶接マスクとシゲジイと』サブ 




 シゲ老人は、今でこそ氷室神社の神主、むつかしい言葉では宮司(ぐうじ)って言うらしいけど、元々は叩上げの坑夫。腕は確かだけども口うるさい年寄で、島のみんなからは「シゲジイ」と呼ばれてきた。

 シゲ老人とか微妙に優しい呼び方をされ始めたのは、及川市長が『市政だより』で、シゲ老人と紹介してからだ。

 本土からやってきた新島民には、そういう穏やかな呼び方がいいらしい。弟子のオレとしては、そういう石鹸臭い呼び方は嫌いなんだけど、本人が気にしていないんだから、仕方がない。

 そのシゲ老人が久々に坑夫のナリで選鉱場にやってきた。

「神社は休みなんすか?」

「神社に休みはねえ」

 なんだか、少し怒ったような口ぶりで、以前そうだったように煙缶の傍のベンチに腰掛ける。

「サブ先輩、あの人はぁ?」「なんか、おっかないっすね」

 本土出身の新人たちが怯える。どうも神社の神主とは分からないようだ。

「また『市政だより』に載せるってからよ」

「で、なんで昔の作業服?」

「神社の特集組むんだそうでよ、神主の紹介でよ、昔のナリのを撮りたいっていうからよ」

「あ、そうっすか(^_^;)」

「久々に着たら、なんか石鹸臭くってよ。ここに来りゃ昔のニオイが付くかと思ってよ。写真とか撮るんなら、ロケーションとしては一番だしな」

「ああ、ほんとだ。石鹸の匂いのシゲさんて、新鮮だなあ」

「こ、こら、嗅ぐんじゃねえ(#>△<#)」

「だって、自分で洗濯したんでしょ?」

「だれがするもんか、ハナのやつがよぉ」

「ええ、ハナが!?」

 ハナも鉱山で働いていた。お岩食堂の手伝いをするうちに神社の巫女も兼ねるようになり、今ではそっちの方が本業になってきている。

「ありゃあ、いい嫁になるぞ。どうだ、サブ?」

「え……ああ、オレは子孫残したい派なんでぇ(^_^;)」

 ハルがロボットなのは、先年の戦争で明らかだ。首の半分を吹き飛ばされて生きている人間なんてあり得ない。

「いや、あいつはサイボーグなんだ。まだ半分近く人間の機能を残してる。ラボのメグミが言ってるから確かだ」

「え、そうなんすか?」

「むろん、そっちの機能も残ってる。まあ、本人に自覚はなさそうだけどな」

「そ、そうなんだ(#'∀'#)」

「まあ、おめえか兵二か……」

 久々に現場にやってきた照れ隠しなんだろうけど、話が飛躍しすぎ……と思ったら、ベテランらしく、選鉱場のあれこれをチェックもしている。

「なんか忙しそうだな」

「あ、選鉱機が新しくなって」

「ああ、優秀だって殿下も村長も言ってたな。変更はもう終わったんだろ?」

「うん、でも、あちこち微調整。新人たちもがんばってるしな」

「おい、ちょっと、その溶接面見せてみろ」

「え、これっすか?」

 新人がコンベアの調整に使っている溶接マスクを取り上げて、溶接棒をスパークさせる。

 バチバチバチ!

「バカヤロ! これは透過率が高すぎる、目を傷めっちまうぞ」

「あ、それは」

 新人はシゲジイには慣れていない、反射的に割って入る。

「先月買った新製品で、試験的に買ったんす。溶接対象も良く見えるって触れ込みだったんすけど、シゲジイの言う通りだから、次のが来たら廃棄に……」

「それも、もったいねえなあ……」

「うん、だから……」

「そうだ、ちょっと、貰っていくぞ!」

「あ、シゲジイ!」

 
 シゲジイは溶接マスクを持って帰ると、それで、拝殿の鳥居越しに太陽を見た。

 すると、いい塩梅に鳥居の輪郭を残しながら太陽が拝める。

「南中したお日さま拝むのがいちばんの御利益だって、シゲジイ喜んでたぞ(^▽^)」

 巫女服のハナが言う。

「ラボのメグミも言ってたけどよ、拝殿の鳥居から空とかお日さまとか拝むと、他よりもドーパミンとかセロトニンの量が違うってよ」

「そうなのか?」

「やっぱ、神さまってご利益あんだなあ」

「そうなんだ」

「うちの選鉱機もスグレモンになったって話じゃねえか」

「ああ、メグミさんの発明でよ。パルス鉱って精錬の過程でへたっちまうんだけど、選鉱の時に特殊なパルス波と振動を加えると、純度が上がるんだ」

「ええ、選鉱するだけで純度が上がんのかよ!?」

「ああ、鉱石がウブなうちにやると地中で生成された時の分子配列がどーのこーので……とにかく効果抜群なんだ!」

「あはは、どーのこーのってのはサブらしくていいな(^○^)」

「げ、現場の穴掘りに理屈はいらねえんだ。け、結果が全てなんだ、結果がな」

「そりゃそうだ、オ、ちょうどお日様が南中してきたぞ! いっしょに拝もうぜ!」

「お、おお」

 溶接マスクを持って拝殿の前に並んで立つ。

「もっと、こっち寄れ、真ん中で拝んだ方がご利益あんだぞ!」

「おお……(;'∀')」

 シゲジイと同じ匂いがする。

 シゲジイの時とは違って、頭がクラクラして、ちょっと困った。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)031・マシュー・オーエン

2024-05-15 06:54:17 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
031・マシュー・オーエン                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです






 車いすの少女が寂しそうに部室棟を見つめている。

 震度5強の地震で倒壊の危険があるといっても、いきなりの立ち入り禁止はないだろうと思った。


 気づくと、ミリーはスマホを出して構えている。


 本当は断ってから写さないといけないのだろうが、そうすれば、少女の自然な寂しさが出ないとも思った。

 ま、撮ってから声を掛ければいいや。

 そう思ってシャッターを切ろうとすると、風がブロンドの髪をそよがせ、顔に掛かってしまって手許が狂った。

 パシャ

 車いすのステップに載った足だけが写り、画面の大半はトラロープで封鎖された部室棟だ。


――ああぁ……うん、ええ写真になった!――


 少女に声を掛けようとしたら、再び髪がそよいだ、今度は目と口にまとわりつく。

「もー、ペッペッペ!」

 髪を整え直した時には少女の姿は無かった。


――ま、足だけしか写ってないし……――


 写真はサイズを変えただけでSNSに投稿した。

 別に、これで世論を喚起しようなどと大それたことは考えていなかった。

――あの校舎を壊すっていうの!?――

――かわいそう!――

――あの足だけ写っている少女は!?――

 いろんなコメントが、主に母国アメリカから寄せられた。
 
 決め手は、伯父からの電話だった。

――あれはひいお祖父さんが日本で建てた記念碑的建築物だよ!――


 伯父は、その後に日本到着の日時と便名をメールで寄越してきた。


「もー、おっちゃんらは気ぜわしすぎ!」

 関空のゲートに現れた伯父夫婦に口を膨らませた。

「よう、元気そうじゃないか!」

「二年ぶりね、すっかり大人びちゃって!」

「おばちゃん、うち汗かいてるよって」

 ハグしてきた伯母に気を遣う。

「ハハ、なるほど、その髪はヒヤシチュウカを連想させるなあ!」

 啓介に言われて、最初はむかついたが、自分でも冷やし中華のファンになると、面白いのでSNSに載せていたのである。

「ひいお祖父ちゃんは、ここのところ見直されてきてね、円熟期の作品はいくつも残っているんだが、若いころの作品はアメリカにも残ってないんだよ。本物だったら大発見だ」

「車いすの少女もいいわね、彼女の細い足が、気持ちを十二分に現している。あの子がやっと見つけた居場所を奪っちゃいけないわ」


 ミリーからすればひいひいお祖父さんにあたるマシュー・オーエンは近年注目され出した建築家だ。


 ミリーはすっかり忘れていたが、自身建築家である伯父は、ミリーの投稿を見て矢も楯もたまらずに日本にやって来たのだ。

「今日は学校休みやから、明後日でも見に行く?」

 電車に乗ったころには、具体的な視察の話になっていた。

「大使館を通じて話はつけてあるよ、この足で見に行くよ」

「案内頼むわね」

「あ、あたし制服着てないし」

 休日でも生徒の登校は制服と生徒手帳に書いてある。ミリーは、こういうところは日本人の生徒よりも律儀なのだ。

「急な話なんだから、私服でもいいんじゃないか?」

「あら、わたしはミリーの制服姿見てみたいわ!」


 ミリーは下宿先に戻って着替えることになった……。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局     
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