大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・高安女子高生物語・16〔明日香のナイショ話〕

2016-03-31 07:18:08 | 小説6
高安女子高生物語・16
〔明日香のナイショ話〕
       


 ここに書いたらナイショにならへん。

 そう思てる人は、大阪人の感覚が分からん人です。
 うそうそ、最後には分かる仕掛けになってるさかいに、最後まで読んでください。

 実は、演劇部辞めよか思い始めてます。
 一週間先には、芸文祭。ドコモ文化ホールいう400人も入る本格的なホール。難波から駅二つ。NN駅で降りて徒歩30秒。ごっつい条件はええんです。
 せやけど、観にくるお客さんが、ごっつい少ない……らしい。
 うちは一年やさかい去年のことは、よう分からへん。
「まあ、80人も入ったら御の字やろなあ」
 今日の稽古の休憩中に美咲先輩が他人事みたいに言う。
「そんなに少ないんですか!?」
「そうや。コンクールかて、そうや。予選ショボかったやろ」
「せやけど、本選はけっこう入ってたやないですか」
「さくら、あんた大阪になんぼ演劇部ある思てんのん?」
「連盟の加盟校は111校です……たしか」
「大阪て270から高校あんねんで。コンクールの参加校は80ちょっと。1/3もあらへん。本選も箕面なんちゅう遠いとこでやるさかい、ようよう客席半分いうとこや」
「うそ、もっと入ってたでしょ?」
「観客席いうのは、半分も入ったら一杯に見えるもんやねん。うちのお父ちゃん役者やさかい、そのへんの感覚は、あたしも鋭い」

 美咲先輩のお父さんが役者さんやいうのは、初めて聞いた。びっくりしたけど、顔には出さへんようにした。

 それから、美咲先輩は、いろいろ言うたけど、要は、三年なったら演劇部辞めるつもりらしい。
 それで分かった。元々冷めてるんや。盲腸かて、すぐ治るのん分かってて、うちにお鉢回してきたんや。
 馬場先輩に言われた「あこがれ」が稽古場の空気清浄機に吸われて消えてしまいそう。
「今は、目の前の芝居やることだけです!」
 そない言うて、まだ休憩時間やけど、一人で稽古始めた。
「えらい、熱入ってきたやんか!」
「午後の稽古で、化けそうやなあ」
 南風先生も小山内先生も誉めてくれた。一人美咲先輩には見透かされてるような気ぃがした。

――明るさは滅びの徴であろうか、人も家も暗いうちは滅びはせぬ――

 太宰治の名文が、頭をよぎった。親が作家やと、いらんこと覚えてしまう。
 三年の先輩らは、気楽そうに道具の用意してる。うちは情熱ありげに一人稽古。
 このままいったら、四月には演劇部は、うち一人でやっていかならあかん。それが怖い。
 あたしは芝居は好きや。せやから、こないだスターの坂東はるかさんに会うてもドキドキウキウキやった。馬場先輩にも「アスカには憧れの輝きが目にある」言われた。
 せやけど、ドラマやラノベみたいなわけにはいかへん。
 新入生勧誘して、クラブのテンション一人で上げて、秋のコンクールまで持っていかなあかん。

 正直、そこまでのモチベーションはあらへん。

 それにしても、忌々しい美咲先輩。こんな時に言わんでもええやん!
 このナイショ話は、芸文祭が終わったら、頭に「ド」が付く。分かりました?

 アスカのドナイショ物語の始まりですわ……。

※ ドナイショは、標準語では「どうしよう」と言う意味です。 明日香

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高校ライトノベル・真夏ダイアリー・55『ミリー、人質になる』

2016-03-31 06:56:43 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・55
『ミリー、人質になる』
    


 わたしたちは、ハドソン川を挟んだ小さな民間航空会社の空港にきていた。

 さすがのアメリカも、この時期、優秀なパイロットが欲しく、この航空会社も、若いパイロットを引き抜かれ、会社も親会社に吸収され、この飛行場は事実上閉鎖されていた。
 もう午後四時をまわっていたけど、夏も近い6月の太陽は、ほとんど空の真上にあった。

「……どうやって、ここに来られたの?」
 手にした銃が無くなっていることにも気づかずに、ジェシカが呟いた。事前にテレポの説明はしたが、実際やってみると、衝撃であるようだ。ミリーもショックで固まっている。
「で、トニーも、あなたと同じアバターとかいうにせ者なの……?」
「会ってみなければ、分からない。コネクションを全部切られてるから、トニーが、ここに居るということしか分からない」
 ここを探り当てることも大変だった。インストールされた能力では探すことができず、教科書の中に隠していたアナライザーを使って、やっと探り当てたのだ。

 目星をつけた格納庫に向かうと、途中で、格納庫のシャッターが開いた。わたしたちは駆け足になった。
 あと三十メートルというところで、エンジンの始動音がした。ダグラスDCー3が動き始めた。

「ストップ!!」

 わたしたちは、三人でダグラスの前に立ちふさがった。やがてトニーの姿をした省吾がタラップを降りてきた。
「あなたは、トニーなの? それともトニーに化けたアバターとかいう化け物なの?」
 ジェシカが、銃を構えた。
「引き金は引かないほうがいい。そこのアバターと違って、僕はトニーの体そのものを借りてるからね」
「くそ……」
 悔しそうに、ジェシカは銃を下ろした。
「もう、ここまで来たら後戻りはできない。もうエンジン回しちゃったからね」
「……このダグラス、ミートボール(日の丸)が付いてる!」
「そう、この戦争で唯一、アメリカと日本で使った、同じ機種。日本じゃ、ライセンス生産で零式輸送機っていうんだけどね」
「トニー、何をするつもり!?」
「戦争を終わらせる。多少強引なやり方だけど……おっとアバターの真夏君は大人しくしてもらおうか……ミリーおいで。いっしょにニューヨークの空を飛ぼう」
「だめよミリー!」
「だって……」
 意思に反してミリーの体は、トニーに近づき腕の中に絡め取られた。
「やることが終わったら、ミリーもトニーも返すよ。むろんトニー本人としてね」
 そう言うと、トニーはミリーといっしょにダグラスの中に消えた。
 そして、ダグラスは、そのまま速度を上げて、ニューヨークの空に飛び立っていった……。

「……これで、よかったの?」
 ジェシカが、ポツンと呟いた……。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・15〔佐藤明日香の絵〕

2016-03-30 07:11:45 | 小説6
高安女子高生物語・15
〔佐藤明日香の絵〕
        


 君の絵が描けた

 朝、トースト食べながらメールをチェックしてたら、馬場先輩のメッセが入ってたんでビックリした。
 ここんとこ、毎朝十五分だけ、絵のモデルをやりに美術室に足を運んでる。まだ一週間ほどで、昨日の出来は八分ぐらいで、完成は来週ぐらいや思てたんで、ビックリしたわけ。

「うわー、これがあたしですか!?」

 イーゼルのキャンパスには、自分のような自分でないような女の子が息づいていた。
「明日香、昨日すごくいい表情してたんで、昨日遅くまで残って一気に仕上げたんだ。タイトルも決まった」
「なんてタイトルですか?」
「『あこがれ』って付けた」
「あこがれ……ですか?」
「うん。もともと明日香は、なにか求めてるような顔をしていた、野性的って言っていいかな。動物園に入れられたばかりの野生動物みたいだった」
 あたしは、天王寺動物園の猿山の猿を想像して、打ち消した。小学校の頃「猿」て呼ばれてたから。ジャングルジムやらウンテイやら、とにかく上れる高いとこを見つけては挑戦してた。
 最後は四年のときに、学校で一番高い木の上に上って、たまたま見つけた校長先生にどえらい怒られた。
「ハハ、そんなことしてたんだ。でも……いや、それと通じるかもしれないなあ。木登りは、それ以来やってないだろ?」
「はい、親まで呼ばれて怒られましたから。それに木ぃには興味無くなったし」
「でも、なにかしたくて、ウズウズしてるんだ。そういうとこが明日香の魅力だ。こないだまでは、それが何なのか分からない不安やいら立ちみたいなものが見えたけど。昨日はスッキリした憧れの顔になってた。それまでは『渇望』ってタイトル考えていた」

 あたしは思い出した。一昨日の帰り道、女優の坂東はるかさんに会うて、真田山高校まで案内したことを。あたしは、坂東はるかに憧れたんや。それが、そのまま残った気持ちで、昨日はモデルになった。

「あたし、今でも、こんな顔してます?」
「う~ん……消えかけだけど、まだ残ってるよ」
「消えかけ……?」
「心配しなくても、この憧れは明日香の心の中に潜ってるよ。また、なんかのきっかけで飛び出してくるかもしれない」
「うん。描いてもろて良かったですわ。あたしの中に、こんな気持ちが残ってるのん再発見できました」
「オレもそうさ。増田って子も良かったけど……」
「けど、なんですか?」
「あの子のは自信なんだ。それも珍しい部類だけどね。満足してる顔より、なにか届かないものに憧れている顔の方が断然いい」

 理屈から言うと、増田さんの方が自信タップリでええけど、馬場さんの言い方がええせいか、あたしの方がええように思えた。

「これ、卒業式の時に明日香にあげるよ」
「え、ほんまですか!?」
「ああ、絵の具が完全に乾くのにそれくらい時間がかかるし、この絵を描いたモチベーションで次のモチーフ捜したいんだ」

 あたしは、高校に入って、一番幸せな気持ちになれた。坂東はるかといい、馬場先輩といい、短期間にええ人に巡り会えたと思た。

 この気分は、放課後まで残って、気持ちを小学四年に戻らせてしもた。

「こら、アスカ! パンツ丸見えにして、どこ上っとるんじゃ!」
「あ、ちゃんとミセパン穿いてますよって」
 
 あたしは、小学校の気分に戻って、グランドの木ぃに上って、顧問の南風先生に怒られた。
「もうすぐ本番や言うのに、怪我したらどないすんねん!」

 芝居の稽古をすっかり忘れた放課後でした。

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高校ライトノベル・真夏ダイアリー・54『二人のミリー』

2016-03-30 07:00:50 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・54
『二人のミリー』
    


「誰よ、あなた……!?」
 本物がスゴミのある笑顔で詰問した。瞬間の動揺。やつはテレポしてしまった……。

 わたしは一瞬、省吾のあとを追ってテレポートしようと思った。
 しかし、同時にジェシカが壁に掛けてあるライフルを持って銃口を向けてきた。

 選択肢は二つだ。ジェシカと本物のミリーの心臓を止めてしまうこと。これなら秘密を知る人間はいなくなる。でも、あまりにも残酷だ。
 もう一つは、本当のことを話して二人を味方にしてしまうこと。
 テレポ-トして、この場から逃げる手もあったけど、ジェシカの銃の腕から、無事にテレポートできる確率は1/4ほどでしかない。わたしは両手を挙げて、第二の選択肢を選んだ。

「分かった、わけを話すから、銃を降ろしてくれない」
「だめ、わけが分かるまでは、油断はしない……」 
 そう言いながら、ジェシカは、わたしの背後に回った。
「あなた、いったい誰? わたしには双子の姉妹なんかいないわよ」
「わたしは、未来から来たの。この戦争を終わらせるために」
「ウソよ、そんなオーソン・ウェルズの『宇宙戦争』じゃあるまいし」
「じゃ、どうして、わたしはミリーにソックリなのかしら?」
「変装に決まってるじゃない。ハリウッドのテクニックなら、それぐらいのことはやるわよ」
「側まで来てよく見て」
 ミリーの足が半歩近づいた。
「だめよミリー、側に寄ったら何をするか分からないわよ!」
 少し考えてミリーは、サイドテーブルの上の双眼鏡を手にとって、わたしを眺めた。そして壁の鏡に写る自分の姿と見比べた。
「……信じられない。ソバカスの位置と数までいっしょ……ワンピースのギンガムチェックの柄の縫い合わせも同じ」
「よかったら、わたしの手のひらも見て。指紋もいっしょだから」
「……うそ……信じられない」
 ジェシカは、銃口でわたしの髪をすくい上げた。
「……小学校の時の傷も同じ」
「そう、トニーとミリーが、あんまり仲良くしてるもんだから、ジェシカ、石ころ投げたのよね」
「当てるつもりは無かった……それって、わたしとミリーだけの秘密。トニーだって知らないわよ!?」
 銃を持つミリーの手に力が入った。
「あ、興奮して引き金ひかないでね……で、分かってもらえた?」
「ミリーとそっくりだってことはね。ミリー、ハンカチを自分の手首に巻いて。区別がつかなくなる」
 ミリーが急いでハンカチを巻いた。ジェシカは、わたしのポケットから同じハンカチを取りだし取り上げた。
 窓の外でレシプロ飛行機の爆音がした。ジェット機の音に慣れたわたしには、ひどくノドカな音に聞こえたが、ガラス越しに見える小さな三機編隊はグラマンF4F。いまが、戦時なのだということが、改めて思い起こされた。
「この戦争で、アメリカは160万の兵隊を出して、40万人の戦死者を出すわ」
「四人に一人が……」
「ジェシカ、あなたのお兄さん……この夏にアナポリスを卒業するのよね」
 わたしは、ジェシカの兄の映像を映してやった。突然暖炉の上に現れたリアルタイムの兄の姿を見て、ジェシカもミリーもビックリしていた。この程度のことは体を動かさずにやれる。これをチャンスにテレポすることもできたが、わたしは二人の信頼を勝ち得ようと思った。
「ショーン……!」
「そして、これが三年後のショーン。海兵隊の中尉になってる。で……」
 わたしは、硫黄島の戦いの映像を出した。気持ちが入りすぎて、映像は3Dになってしまったが、その変化は、ジェシカもミリーも気づかない。
 ショ-ンは、中隊を率いて、岩場を前進していた。突然、数発の銃声。スイッチが切れたように倒れ込むショーン。部下達がショーンを岩陰に運ぶ。ショ-ンは頭を打ち抜かれ即死していた。
「ショーン!」
「……どう、こんなバカげた戦争、止めようとは思わない?」
「これ……ほんとうに起こるの?」
「あなたたちには未来だけど、わたしには過去。なにもしなければ、40万人のアメリカの若者が死ぬ。ショーンも、その中の一人になる」
「トニーは。いったいなにを……?」
「いっしょよ。戦争を終わらせようとしている。ただ、やり方が乱暴なの。で、わたしは、それを止めさせるために来たの。急場のことで、ミリーのコピーをアバターにせざるを得なかったけど」

 わたしは、この時、まだ、わたしの本来の任務を理解していなかった。
 ただ戦争を止めさせ、未来を変えることだけだと思っていた。
 未来は、そんなに甘いものではない。それに気づくのには、まだ時間が必要だった……。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・14〔スターとの遭遇〕

2016-03-29 07:00:00 | 小説6
高安女子高生物語・14
〔スターとの遭遇〕
        


 偶然目ぇが合うてしもた。

 瞬間メガネを取った、その顔は、若手女優の坂東はるかやった。
 あたしは、こともあろうに稽古の後、桃谷の駅まで来て、ミスドの前で台本を忘れたのに気ぃついた。で、振り返ったときに至近距離で気ぃついた。
 なんかのロケやろか、ちょっと離れたとこにカメラとか音響さんやらのスタッフがいてる。休憩やねんやろな。スターは駅前の交差点で、ボンヤリと下校途中の高校生を見てた。で、あたしは、そのワンノブゼム。
 当然、声なんかかけてもらわれへんし、掛けてる間ぁもない。はよせなら、また南風先生に怒られる。

「あなた演劇部?」

 無事に台本を取って、駅に戻ったとき、なんとスターの方から声かけられた。
「あ、はい。OGHの演劇部です」
「OBF、そこの?」
「あ、あれは大阪市立の方です。あたし府立のOGH、元の鳥が辻高校です」
「ああ、そうなんだ。それなら、隣の学校だから覚えてる」
 あたしも思い出した。坂東はるかは、東京の女優やけど、一時家の都合で大阪に引っ越して、府立真田山高校に転校してきたんや。
「そう、その真田山高に行くんだけど、いっしょに行く同窓生が仕事でアウト。どうだろ、よかったらお供してくれないかな?」
「え……!?」

 心臓が、口から出そうになった。スターの一言でスタッフが、集まってくる。

 最初に、勝山通りのお勝山古墳に行った。前方後円墳なんやけど、勝山通りで前方部と後円部に断ち切られてる。このあたりの地名の元になってるわりには、かわいそうな古墳。
「大阪に来て、編入試験受けるとき、西と東を間違えて、ここまで来て気づいたの。なんだか東京と大阪に絶ちきられた自分の人生と重なっちゃって、ハハハ、情けないけど涙が出たの思い出しちゃった」
「テストは間に合うたんですか?」
「うん、時間一時間勘違いして早く来ちゃったから」
「あたしら、意識したことないけど、初めての坂東さんには、そない見えるんですね」
「そうよ。この歩道橋が前方部と後円部を結んでるでしょ。なんだか、わたしの人生を結んでる架け橋に見えてね。実際この歩道橋渡って向こうに回って桃谷駅まで戻ったの」
「ええ話ですね。人と状況によって、モノて違うて見えるんですね。いつもコーチの先生に言われてます。物理的な記憶や想像で感情を作っていけて」
「本格的ね。わたしも気が付いたら演劇部に入れられて、コーチからみっちりたたき込まれたわ」

 それから車で桃谷の駅に戻って歩き始めた。坂東さんの通学路や。

「懐かしいなあ……そこのマックの二階」
「『ジュニア文芸八月号』 あそこで吉川先輩に見せられたんですよね!」
「よく知ってるわね!」
「本で読みましたから。あれ、ちょっとしたバイブルです」
「ハハハ、大げさな!」
「ほんまですよ。感情の記憶なんかの見本みたいなもんですから。親の都合で急に慣れへん大阪に来た葛藤が坂東さんを成長させたんですよね」
「うん、離婚した両親のヨリをもどしたいって一心……いま思えば子供じみたタクラミだったけどね。明日香ちゃんはなに演るの?」
「あ、これです」
「『ドリームズ カム トゥルー』いいタイトルね」
「一人芝居なんで、苦労してます」
「一人芝居か……人生そのものね。きっと明日香ちゃんの人生の、いい肥やしになるわ」
「そうですか?」
「そうよ、良い芝居と、良い恋は人間を成長させるわ」

 あたしは、一瞬馬場先輩が「絵のモデルになってくれ」と言ったときのことを思い出した。あれて、芝居で、あたしが成長してきたから?
「なにか楽しいことでも思い出したの?」
 まさか、ここで言うわけにはいかへん。編集はされるんやろけど、こんな思いこみは言われへん。
「明日香ちゃんて、好きな人とかは?」
「あ、そんなんは……」
「居るんだ……アハハ」
「いや、あの、それはですね」

 あかん、自分で墓穴掘ってる!

「良い芝居と、良い恋……恋は、未だに失敗ばっかだけど」

 あたしも、そう……とは言われへんかった。
「あ、真田山高校ですよ!」
「あ、プレゼンの部屋に灯りが点いてる!」

 どうやら、ドッキリだったよう。学校に入ったら、本で読んだ坂東はるかさんの、お友だちや関係者が一堂に会してた。

 なんや知らんうちに、あたしも中に入ってしもて遅くまで同窓会に参加してしもた。

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高校ライトノベル・真夏ダイアリー・53『禁断のテレポテーション』

2016-03-29 06:46:43 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・53
『禁断のテレポテーション』
    


「やあ、ミリー。ま、上がってくれよ」
「思ったより元気そうじゃないの、安心した」
「ハハ、病気じゃないからね。ただ熱中しちゃうと、もう学校に間に合わない時間になってしまってさ」
「まさか、女の子がいっしょにいたりしないでしょうね?」
「もっとエキサイティングで魅力的なもの」

 フレンドリーだったのは、そこまでだった。

 玄関のドアを閉めると、厳しい顔で、わたしを睨みつけた。
「誰だ、お前は……ミリーは実在の人物だぞ!?」
 
 ウソ……と、わたしは思った。ミリーは、この時代のアメリカに来るために作られたアバターだと思っていた。オペレーターはだれだか分からないけど、実在の人物のアバターを使うなんて、かなり余裕がない証拠。
「ここに来るまでに、誰かに会ったか?」
「ええ、ジェシカに。ついさっき、この家の前で」
「ジェシカは、いまごろ本物のミリーに会っているかもな……ここまでリスクを冒しながらやってくるなんて、相当情報を掴んだ幹部……オソノさんか?」

 省吾は、わたしの正体は分からないらしい。黙っておくことにする。省吾がトニーというアバターでやろうとしていることは、とんでもないこと……らしいことは分かっている。そして、その実行が目前に迫っていることも。ただ、以前ワシントンDCに来たときよりも情報も、アバターの設定も不十分だった。ことは急を要するもののようだった。
「わたしが、だれだか明かすことはできない。でも、あなたが、これからやろうとしていることは、どうしても阻止するわ」
 省吾は指を動かし掛けた。テレポテーションの前兆だ。わたしは反射的に――やめろ――と思った。
「くそ……テレポテーションを封じる力も持っているのか」
 わたしは、自分にそんな力があるとは知らない。ただ――やめろ――と、思っただけ。
「省吾……いや、ここじゃトニーね。トニーがやろうとしていることはルールから外れてる(具体的には分からないけど)やらせることはできないわ」
「まあ、いいさ。今日はまだ二日だ。時間に余裕はある。アバターといえ人間だ、いつまでも緊張した状態で、僕の行動を邪魔できるわけじゃない」
「そう、あなただって同じ……根比べね」
 わたしたちは、外見的にはソファーに座ってリラックスしていた。まるで恋人同士がくつろいでいるように……でも、精神的には、全力で対峙していた。一瞬も息を抜けない。

 そのとき、ドアのノッカーが鳴った。

「わたし、ジェシカ。やっぱ心配でやってきちゃった……トニー、トニー、居るんでしょ。ミリーもいっしょなんでしょ」
「ご指名だ、君が出てやれよ」
「いいわよ。近くに居さえすればテレポブロックは解けないから」
「半径どのくらい?」
「地平線の彼方ぐらい……はい、待って。いま開けるから」
 ドアを開けると、ジェシカの明るい顔があった。
「やっぱ、気になってやってきちゃった……真実が知りたくて」
 ジェシカの、すぐ横に本物のミリーが現れた。ドアの陰に隠れていたようだ。

「誰よ、あなた……!?」
 本物がスゴミのある笑顔で詰問した。瞬間の動揺。やつはテレポしてしまった……。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・13〔小野田少尉の死〕

2016-03-28 07:02:19 | 小説6
高安女子高生物語・13
〔小野田少尉の死〕
        


 お父さんが元気がないことに気ぃついたんは、昨日やった。

「お父さん、どないかしたん?」
 久々の休日で、あたしはスゥエットの上下にフリ-スいう定番のお家スタイルで朝ご飯食べてた。
「小野田さんが亡くならはった……」
「オノダさん……どこの人?」

 あたしは、お気楽にホットミルクを飲みながら、お父さんのいつになくマジな視線を感じた。うちは佐藤で、お母さんの旧姓は北野。オノダいう親類はおらへん。淡路恵子やら中村勘三郎が亡くなったときもショボクレてたから、古い芸能人かと思た。

「明日香には分からん人や……」

 お父さんは、そう言うて、一階の仕事部屋に降りていった。
「誰やのん、オノダさんて?」
 同じ質問をお母さんにした。
「戦争終わったんも知らんと、ルバング島いうとこでずっと一人で戦争やってたけったいな人。それより明日香、家におるんやったら、洗濯もんの取り込み頼むわ。お母さん、友だちと会うてくるから、ちょっと遅なるよって」
「うん、ええよ。551の豚まん買うてきてくれる?」
「店が、近くにあったらな。それより、家におんねんやったら、もうちょっとましな格好しいよ。ちょっとハズイで」
「へいへい」

 三階の自分の部屋に戻って、ストレッチジーンズとセーターに着替えてパソコンのスイッチを入れる。

 なんの気なしに、お父さんが言うてた「オノダ」を検索した。候補のトップに小野田寛郎というのが出てたんでクリックした。

 で、ビックリした。

 穏やかそうな笑顔やのに目元と口元に強い意志を感じさせるオジイチャンの写真の横に、みすぼらしい戦闘服ながら、バシっときまって敬礼してる中年の兵隊さん。一瞬で芸能人やないことが分かった。
 十六日に肺炎で東京の病院で亡くならはった。思わずネットの記事やらウィキペディアを読んだ。

 1974年まで、三十年間も、ルバング島いうとこで戦争やってはった。盗んだラジオで、かなりのことを知ってはったみたいやけど、今の日本はアメリカの傀儡政権で、満州……これも調べた。中国の東北地方、そこに亡命日本政府があると思てはったみたい。日本に帰ってからは、ブラジルに大きな牧場とか持ってはったみたい。細かいことは分かれへんけど、画像で見る小野田さんは衝撃的やった……1974年の日本人は、今のあたしらと変わらへんかった。せやけど小野田さんはタイムスリップしてきたみたいやった。

 あたしの好奇心は続かへん。昼過ぎになってお腹が空いてくると、もう小野田さんのことは忘れてしもた。

 で、コンビニにお弁当を買いにいった。お父さんは粗食というか、適当にパンやらインスタントラーメン食べて済ましてるけど、あたしはちゃんとしたもんが食べたい。
「アスカやんけ」
 お弁当を選んでたら、関根先輩に声をかけられた。心臓バックン!
「美保先輩はいっしょやないんですか?」
 と、ストレートに聞いてしもた。
「美保はインフルエンザや」

 で、二人で高安銀座の喫茶店に行ってランチを食べた。

「アスカと飯食うなんて、中学以来やなあ」
「そうですね」
 そこから会話が始まった。喋ってるうちに小野田さんの顔が浮かんできた。無意識に先輩のイケメンと重ねてしまう。

――覚悟をしないで生きられる時代は、いい時代である。だが死を意識しないことで日本人は、生きることをおろそかにしてしまっているのではないだろうか――

 ネットで見た小野田さんの言葉がよみがえる。憧れの先輩の顔が薄っぺらく見えた。
 その時店に入ってくるお客さんがドアを開け、その角度で一瞬自分の顔が映った。しょぼくれてはいてるけど、先輩と同じ種類の顔をしていた。
「なんや元気ないけど、身内に不幸でもあったんか?」
「みたいなもんです。遠い遠い親類」
「そうか、そらご愁傷さまやな」
「ええんです、ええんです。さ、食べましょ、食べましょ!」
 それから、互いに近況報告。二月の一日に芝居する言うたら「見に行く」て言うてもろた。ラッキー!

 家に帰ってパソコンを開いたら、蓋してただけやから、小野田さんのページが、そのまま出てきた。
――もういいよ。少しだけ分かってくれたんだから――
 小野田さんに、そう言われたような気がした。

 小野田さんは、ルバング島に三十年いてた。偶然やけど、お父さんが先生やってたのも三十年。お父さんは昭和二十八年生まれ。小野田さんが帰ってきはったときは大学の二年生やった。想いはあたしよりも大きかったんやろなあ。

 一階の仕事部屋に籠もってるお父さんと、無線ランで、ちょっとだけ通じたような気ぃがした。

 しかし、お父さんの元気がない顔に三日も気ぃつかへんかったんは、やっぱり今時の女子高生なんかな。

 

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高校ライトノベル・真夏ダイアリー・52『ニューヨーク郊外・1942』

2016-03-28 06:49:04 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・52
『ニューヨーク郊外・1942』
    


 気が付くと、1942年6月2日、ニューヨークの郊外にいた。

 少し違和感を感じた。わたしは視点を第三者モードにして、自分の姿を見た。
 ギンガムチェックのワンピースの上には、ブロンドのポニーテールが載って、脇にブックバンドでまとめた教科書を挟んでいた。前回、ワシントンDCに行ったときよりも、わたしらしくなかった。どうやらイングランド系アメリカ人のようで、肌は白く、瞳はブルー。頬に少しソバカスの名残が残り……頭の上には、02ーMILLIEというIDが付いていた。これは、この時代の人間には見えない。同じ時代に来ている未来人同士が互いに認識しあえるように付けられたIDだ。前回は、これが無かった。タイムリープした未来人が、わたし一人だったせいだろう。その他、いろんな情報が新しくインストールされている。

「ハイ、ミリー!」

 声が掛かって、後ろで自転車のブレーキ音がした。
「ハイ、ジェシカ!」
 この子はジェシカで、ハイスクールの同級生(ということになっている)で、ブルネットの髪をヒッツメにして、陽気なパンツルックである。
「トニーのとこ?」
「うん、ここんとこ休みが多いから」
「成績はいいけど、あいつなんか変よね」
「変……?」
「あ、いやゴメン。そういう意味じゃないの……」
 わたしは、そんな気はなかったけど、ジェシカの顔には、なんだかトニーを非難がましく言ったような後ろめたい色が浮かんでいた。
「ミリーには勝てないわ」
「どういう意味?」
「わたしも、今日の欠席にかこつけて、トニーに会いに行くつもりだったの……でも、たかが二日休んだだけで、お見舞いってのも、ちょっとフライングだわよね」
「ジェシカ……」
「いいの、これでふっきれた。トニーとは上手くやってね。BALL(ボール=卒業式に付随したパーティー)楽しみにしてる!」
 そういうと、ジェシカは口笛を吹きながら、ゆるい坂道を下っていった。
 
 わたしは、この世界では、卒業間近のハイスクールの最上級生で、トニーとは恋人同士に設定されている。
 分かりやすく言えば、恋愛シュミレーションゲームのようなもので、成り行きによるイベントの発生やら、分岐がいくつもある。ただ、それがゲームと違うのは、これは現実であり、イベントや分岐は楽しむためではなく、予期できないリアルなアクシデントとして起こる。
 つまり、それだけリスクの大きいタイムリープであるということ。
 さっきのジェシカは、理性的にも感情的にもバランスのとれたいい子。でも、理性も感情も人一倍大きく、時に自分でコントロールできなくなることがある。トニーへの愛情は、インストールされたわたしの疑似感情よりも強い。早くトニーに会って問題を解決しなければ、とんでもないことになりそうな予感。

 ドアをノックして二呼吸ほどすると、ガレージの方から、トニーが現れた。頭の上には、01-TONYのID。

「ハイ、ショーゴ!」わたしは、明るくフレンドリーに、そして、正確なIDで奴に呼びかけた……。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・12〔もう、あなたの……〕

2016-03-27 07:10:40 | 小説6
高安女子高生物語・12
〔もう、あなたの……〕
       


 え、なんで目覚ましが!?

 頭が休日モードになってるんで、しばらく理解でけへんかった。
 せや、今日はドコモ文化ホールで、裏方の打ち合わせ兼ねてリハーサルやった!

 朝のいろいろやって……女の子の朝ていろいろとしか言えません。こないだリアルに書いたら自己嫌悪やった。
 高安から、鶴橋まで定期で行って、鶴橋から地下鉄千日前線。NN駅で降りてすぐ。
 ちょっと早よ着き過ぎて、ホールの前で待つ。南風先生と美咲先輩がいっしょに来た。
「お早うございます」
「なんや、まだ開いてないのん?」
 ほんなら、玄関のガラスの中から小山内先生が、しきりに指さしてる。
「え……」
「ああ、横の関係者の入り口から行けるみたいですよ」
 美咲先輩が言う。こういうことを読むのは上手い。

――ほんまは、美咲先輩の芝居やったんですよ!――

 思てても、顔には出しません、勝つまでは……ただの思いつきの標語です。
 ちょっと広めの楽屋をとってもろてるんで、直ぐに稽古。
 台詞も動きもバッチリ……そやけど、小山内先生は「まだまだや」言わはる。
「エロキューションが今イチ。それに言うた通り動いてるけど、形だけや。舞台の動きは、みんな目的か理由がある。女子高生の主人公が、昔の思い出見つけるために丘に駆け上がってくるんや。十年ぶり、期待と不安。ほんで発見したときの喜び。そして、そのハイテンションのまま台詞!」
「はい」
 ほんまは、よう分かってへんけど、返事は真面目に。稽古場の空気は、まず自分から作らならあかん。
 稽古が落ち込んで損するのんは、結局役者や。ほんで、今回は役者はあたし一人。

 よーし、いくぞ!

 美咲先輩は気楽にスクリプター。まあ、せえだいダメ書いてください。書いてもろて出来るほど上手い役者やないけど。

 もう、本番二週間前やさかい、十一時までの二時間で、ミッチリ二回の通し稽古。
「もう、裏の打ち合わせやから、ダメは学校に戻ってから言うわ」
 小山内先生の言葉で舞台へ。南風先生はこの芸文祭の理事という小間使いもやってはる。ガチ袋にインカム姿も凛々しく、応援の放送部員の子らにも指示。
 本番通りの照明(あかり)作って、シュートのテスト。
「はい、サスの三番まで決まり。バミって……アホ、それ四番やろが。仕込み図よう見なさい!」
 南風先生の檄が飛ぶ。放送部の助っ人はピリピリ。美咲先輩はのんびり。
 美咲先輩は、本番は音響のオペ。で、今日は、まだ音が出来てないから、やること無し。

 正直言うて、迷惑するのは舞台に立つあたしやねんけど、学年上やし……ああ、あたしも盲腸になりたい。

「ほんなら、役者入ってもろてけっこうです」
 舞台のチーフの先生が言わはる。
「はい、ほなら、主役が観客席走って舞台上がって回って、最初の台詞まで、やりましょ。明日香いくぞ!」
「はい、スタンばってます!」

 一応舞台は山の上いう設定なんで、程よく息切らすのに走り込むことに、先週演出変えになった。

「……5,4,3,2,1,緞決まり!」
 あたしは、それから二拍数えて駆け出す。階段こけんように気ぃつけながら、自分の中に湧いてくるテンション高めながら、走って、走って、舞台に上がって一回り。
「今日こそ、今夜こそあえるような気がする……!」
 ああ、さっきまでと全然違う。こんなにエキサイティングになったんは初めてや! いつもより足が広がってる! 背中が伸びてる! 声が広がっていく!

「よっしゃ、明日香。その声、そのテンションや、忘れんなよ! 舞台の神さまに感謝!」

 小山内先生は、舞台には神さまが居てるて、よう言わはる。ただ、気まぐれな神さまでいつでも、誰にでも微笑んではくれへん。
――あと二週間、微笑んどいてください――
 心の中で、そないお願いした。

 さあ、昼ご飯食べたら、学校で五時まで稽古。がんばろか……。

 そない思うて、観客席みると美咲先輩が他人事みたいに大あくび。
「もう、あなたの毛は生えたのだろうか!?」
 美咲先輩めがけてアドリブを、宝塚の男役風にかます。さすがにムッとした顔……舞台のチーフの先生が。
――え、なんで?――

「あの先生はアデランスや、アホ!」
 南風先生に怒られてしもた。

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高校ライトノベル・真夏ダイアリー・51『再びジーナの庭へ』

2016-03-27 06:55:52 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・51
『再びジーナの庭へ』
    


 気が付くと、ジーナの庭にいた。

 そう、あの時空と時空の狭間のような、穏やかだけどバーチャルな空間。
 
 わたしは、自然に、ジーナの四阿(あずまや)に足を向けた。
「……お久しぶりです」
「わたしには、ついさっき。ここは時間の流れ方がちがうから」
「すっかり、ジーナさんのナリが身に付いてきましたね」
「バカを待つには、この方がいいかなって……」
「バカって、わたしのことですか?」
「かもね……でも、あなたはフィオの役回り。ポルコ一人じゃ空中戦はできないわ」
「じゃ……」
「そう、省吾のやつ。危ないから一度引き戻したんだけどね」
「あ……昨日図書室で見たのが?」
「そう、そのあとすぐに向こうに行っちゃったけど」
「え、また行っちゃったんですか!?」
「そう、昭和15年から戻ったばかりだっていうのにね」
「昭和15年……限界を一年超えてる」
「三国同盟を阻止するんだって。あれがなきゃ、アメリカと戦争せずにすんだから……むろん失敗。戻ったところを、あなたに気づかれるようじゃね」
「じゃ、今度は?」
「昭和16年のアメリカ……」
「なにをやってるんですか?」
「さあ……連絡をとれないようにしているから、あの子」
「わたしは、なにを?」
「そう……その決心がつかないまま、あなたを呼んじゃった」
「じゃ……」
「お茶でも飲んで、わたしも考えるから」
「はい……」

 アドリア海は、どこまでも青かった……波音……紅茶のかぐわしい香り……。

 ふと我に返ると、ジーナさんの姿が無かった。
 テーブルの上に手紙があった。

――けっきょく決心がつきません。ラピスラズリのサイコロを振って、出た目に従ってください。

 わたしは、ラピスラズリのサイコロを振った。そんなに力を入れたわけじゃないのに、サイコロは、テーブルの上をコロコロと転げ回った。そして「赤い飛行機」という面で止まりかけて、コロンと転げた。

 サイコロは、1942年6月2日を指して止まった……。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・11〔あたし絵のモデル!〕

2016-03-26 07:25:25 | 小説6
高安女子高生物語・11
〔あたし絵のモデル!〕
        


 二つ目の時計のベルで目が覚めた。

 せや、今日から、あたしは絵のモデルや!
 フリースだけ羽織って台所に。とりあえず牛乳だけ飲む。
「ちょっと、朝ご飯は!?」
 顔を洗いにいこうとした背中に、お母さんの声が被さる。
「ラップに包んどいて、学校で食べる!」
 そのまま洗面へ。とりあえず歯ぁから磨く。

「ウンコはしていけよ。便秘は肌荒れの元、最高のコンディションでな」

 一階で、もう本書きの仕事を始めてるお父さんのデリカシーのない声が聞こえる。
「もう、分かってるよ。本書きが、そんな生な言葉使うたらあきません!」
 そない言うて、お父さんの仕事部屋と廊下の戸ぉが閉まってるのを確認してトイレに入る……。
 しかし、三十分早いだけで、出るもんが出えへん……しゃあないから、水だけ流してごまかす。
「ああ、すっきり!」
 してへんけど、部屋に戻って、制服に着替える。いつもはせえへんブラッシングして紺色のシュシュでポニーテールに。ポニーテールは、顎と耳を結んだ延長線上にスィートスポット。いちばんハツラツカワイイになる。
「行ってきま……」
 と、玄関で言うたとこで、牛乳のがぶ飲みが効いてきた。
 二階のトイレはお母さんが入ってる。しゃあないんで一階へ。
 用を足してドアを開けると、お父さんが立ってた。ムッとして玄関のある二階へ行ことしたら、嫌みったらしくファブリーズのスプレーの音。

 いつもとちゃう時間帯なんで、上六行きの準急が来る八分も前に高安駅に着いてしもた。
 めったに利用せえへん待合室に入って、まだ温もりの残ってる朝ご飯のホットサンドをパクつく。向かいのオバチャンが「行儀悪い」いう顔して睨んでる。あたしも逆の立場やったら、そない思うやろなあと思う。
 時々サラリーマンのニイチャンやらオッチャンやらが食べてるけど、これからは差別的な目ぇで見いひんことを心に誓う。

 高安仕立ての準急なんで座れた。ラッキー! 高校生が乗る時間帯やないので、通勤のニイチャンやらオッチャンが見てるような気がする。フフ、あたしも捨てたもんやないかもしれへん。
 どないしょ、鶴橋のホームかなんかで、スカウトされたら!
「あ、わたし、学校に急いでますので……」
 それでもスカウトは付いてくる。なんせイコカがあるから、そのまま環状線の内回りへ。
「ぼく怪しいもんじゃありません。○○プロの秋元と言います。AKBの秋元の弟なんです。よかったら、ここに電話してくれない? 怪しいと思ったらネットで、この電話番号検索して。ここに掛けて秋元から声掛けられたって言ったら、全て指示してくれるから。それから……」

 そこまで妄想したところで、電車は、たった一駅先の桃谷に着いてしもた。鶴橋のホームでスカウト……ありえへん。

 学校の玄関の姿見で、もっかいチェック。よしよし……!

 美術室が近くなると、心臓ドキドキ、去年のコンクールを思い出す。思い出したら、また浦島太郎の審査を思い出す。あかんあかん、笑顔笑顔。

「お早うございます……」
「そのまま!」
 馬場先輩は、制服の上に、あちこち絵の具が付いた白衣を着て、立ったままのあたしのスケッチを始めた。で、このスケッチがメッチャ早い。三十秒ほどで一枚仕上げてる。
「めちゃ、スケッチ早いですね!」
「ああ、これはクロッキーって言うんだ。写真で言えば、スナップだね。ダッフル脱いで座ってくれる」
「はい」
 で、二枚ほどクロッキー。
「わるい、そのシュシュとってくれる。そして……ちょっとごめん」
 馬場先輩は、あんなにブラッシングした髪をクシャっとした。
「うん、この感じ、いいなあ」
 十分ちょっとで、二十枚ほどのクロッキーが出来てた。なんかジブリのキャラになったみたい。
「うん、やっぱ、このラフなのがいいね。じゃ、明日からデッサン。よろしく」

 で、おしまい。三十分の予定が十五分ほどで終わる。そのまま教室に行くのんはもったいない思てたら、なんと馬場先輩の方から、いろいろ話しかけてくれる。
 話ながら、クロッキーになんやら描きたしてる。あたしはホンマモンのモデルになった気ぃになった。

 その日の稽古は、とても気持ちようできた。小山内先生が難しい顔してるのも気ぃつかんほどに。

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高校ライトノベル・真夏ダイアリー・50『指令第2号』

2016-03-26 07:09:39 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・50
『指令第2号』
    


 わたしには分かった。窓辺によった瞬間、省吾はタイムリープしたんだ。
そして一年近く、向こうにいて、今帰ってきたところ。むろん本人に自覚はないけれど……。

 その夜、潤と二人でテレビの収録があった。

「ねえ、真夏。たまにはうちに遊びにおいでよ。お父さんも会いたがってるみたいだし」
 収録を終えた楽屋で、潤が気楽に言った。
「うん……でも、お母さんがね」
「いいじゃん、仕事で遅くなったって言えば。大丈夫、泊まっていけなんて言わないから」
 どうやら潤は、準備万端整えているようだった。お母さんに電話したら「あ、事務所の人からも電話あったから」と言っていた。

「うわー、ほんとにそっくりなんだ!」
 玄関を入るなり、潤のお母さんが叫んだ。おかげで、お父さんに再会する緊張感はふっとんでしまった。
「女の子は、父親に似るっていうけど、ここまでソックリだと、母親のわたしでも区別つかないわよ。ほんと真夏さん。よく来てくれたわね!」
「やだ、わたし潤だよ」
「あ、そかそか、アハハ、とにかく楽しいわよ。ま、手を洗って。食事にしましょう」
 わたしはパーカーを脱いで分かった、潤からもらったパーカーだった。
「そんなパーカー見てやしないわよ。お母さんのボケは天然だから」
 うちのお母さんも暗い方じゃないけど、ときどき言うジョークなんかシニカルだったりする。潤のお母さんは、ちょっとした面影はお母さんに似ていたけど、ラテン系の明るさだった。キッチンへお料理を取りに行く間にも、お父さんのハゲかかった頭を冷やかしながら、先日の大雪についてウンチク。足にまとわりつくトイプードルに「あんたにユキって名前付けたの間違いだったわね」とカマシ、壁の額縁の傾きを直しながら、ガラスに映った自分に「ナイスルックス!」
 ただ、キッチンにお料理を取りに行くだけで、うちのお母さんの五倍くらいのカロリーは消費しているように思えた。お話を聞くと、学生のころイタリアに留学していて、そのときにイタリアのラテン的な騒がしさが身に付いた……と、本人はおっしゃっていた。
「あれは、留学から帰ってきてから撮った写真ですか?」
 向かいの壁にかかった、ご陽気なサンバダンスのコスで、顔の半分を口にして太陽のように笑っている写真に目を向けた。
「ああ、あれは、日本で地味だった頃のわたし」
「え……!?」
 あきれたわたしのマヌケ顔に、テーブルは大爆笑になった。

「ブログは、ちゃんと更新してる?」
 潤は、自分の部屋に入るなり、スリープのパソコンをたたき起こして言った。
「ううん、あんまし……ウワー、潤のブログって可愛いじゃん!」
「ベースは事務所の人に作ってもらったの。あとは、その日その日あったことテキトーに書いとくだけ」
「わたしも作ってもらおうかな……」
「そうしなよ、わたしなんか季節ごとに替えてもらってんの。あ、スクロールしたら、前のバージョンなんか分かるわよ」
「ふーん……なるほど」
 感心しながらスクロールしていると、急に潤がバグったように動かなくなった。
「潤……」
 潤だけじゃなかった、エアコンの風にそよいでいたカーテンもモビールも止まっている。半開きのドアのところではトイプードルのユキが固まって……覗いたリビングでは、潤のお母さんも、お父さんもフリ-ズしていた。
 わたしは、予感がして、潤のパソコンに目を向けた。

――指令第2号――

 あの時といっしょだ。そこで意識が跳んだ……。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・10〔なんや、よう分からへん〕

2016-03-25 07:05:10 | 小説6
高安女子高生物語・10
〔なんや、よう分からへん〕
 


 一昨日と昨日はクラブの稽古やった。

 休みの日の二日連続の稽古はきつい。せやけど、来月の一日(ついたち)が本番。やらんとしゃあない。

 二年の美咲先輩を恨む。

 健康上の理由には違いないけど、結果的には盲腸やった。盲腸なんか、三センチほど切って、絆創膏みたいなん貼っておしまい。三日で退院してきて、大晦日は自分の家で紅白見ながらミカンの皮剥いてた。と、お気楽に言わはる。
「あそこの毛ぇ剃ったんですか?」
 と聞いてウサバラシするのがやっと。今さら役替わってもらわれへんし、南風先生も替える気ぃはあれへん。
 まあ、あたしもいっぺん引き受けて台詞まで覚えた芝居やさかいやんのんはええ。

 せやけど、指導に来てるオッサン……ウットウシイ!

 ウットウシイなんか言うたら、バチがあたる。
 小山内カオルいう演劇の偉い先生。うちのお父さんとも付き合いがあるけど、南風先生は、小山内先生の弱みを握ってる(と、あたしは思てる!)ようで、熱心によう指導してくれはる。
「明日香クン、エロキューション(発声と滑舌)が、イマイチ。とくに鼻濁音ができてへん。学校の〔が〕と小学校の〔が〕は違う」
 先生は見本に言うてくれはるけど、違いがよう分からへん。字ぃで書くと学校の〔が〕は、そのまんまやけど、小学校のは〔カ゜〕と書く。国語的には半濁音というらしい。
「まあ、AKBの子ぉらでもできてへんさかいなあ……」
 あたしが、十分たっても理解でけへんさかいに、そない言うて諦めはった。

 問題は、その次。

「明日香クン、君の志穂は、敏夫に対する愛情が感じられへんなあ……」
 あたしは、好きな人には「好き」いう顔がでけへん。言葉にもでけへん。関根先輩に第二ボタンもらうときも、正直言うて、むりやりブッチギッた言う方が正しい。
 関根先輩が、後輩らにモミクチャにされてる隙にブッチギってきた。せやから、関根先輩自身はモミクチャにされてるうちに無くなったもんで、あたしに「やった」つもりはカケラもない。第一回目では見栄はりました。すんません。
 あと半月で、OGH高校演劇部として恥ずかしない作品にせなあかん。

 ああ、プレッシャー!

 S……佐渡君が学校に来た。びっくりした!
 きっと、我が担任毒島先生が手ぇまわしたんやろ。一瞬布施のエベッサンで会うて、鏑矢あげたこと思い出したけど、あれやない。あんな戸惑った……いや、迷惑そうな顔してあげたかて嬉しいはず無い。毒島先生が「最後の可能性に賭けてみよ!」とかなんとか。生徒を切るときの常套手段やいうことは、お父さん見てきたから、よう分かってる(後日談やけど、ほんまはよう分かってへんかった)

「本当に描かせてくれないか?」

 食堂で、食器を載せたトレーを持っていく時に、馬場さんが、思いがけん近くで言うたんで、ビックリして、トレーごとひっくり返してしもた。チャーハンの空の皿やったんで、悲惨なことにはなれへんかったけど。

「は、はい!」

 うかつに返事してしもた。

 なんで、あたしが……なんや、よう分かれへん。

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高校ライトノベル・真夏ダイアリー・49『アルバムのその子たち』

2016-03-25 06:51:26 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・49
『アルバムのその子たち』
    



 画像を検索してみると……それがあった。

 福島県のH小学校の同窓会……と言っても校舎はない。
 ほとんど原っぱになってしまった運動場の片隅に「H小学校跡」という石碑。そして草原の運動場での集合写真。野村信之介さんは、ブログの写真と同じ顔なのですぐに分かった。
 会長が、グラサンを外して写っていた。仕事中や事務所では見せない優しい顔が、そこにはあった。

 そして、小高い丘の運動場の縁は、あらかた津波に削られていた。でも、その一角、デベソのように張り出したところに連理の桜があった。削られた崖に根の半分をあらわにし、傾き、支え合って二本の桜が重なり、重なった枝がくっついていた。崖にあらわになった根っこも、絡み合い、くっついて一本の桜になろうとしていた。
 そのさりげない写真があるだけで、コメントはいっさい無かった。
 でも、『二本の桜』のモチーフがこれなのはよく分かった。でも、照れなのか、あざといと思われるのを嫌ってか、会長は乃木坂高校の古い記事から同じ連理の桜を見つけて、それに仮託した。
「会長さんも、やるもんねえ」
 お母さんが、後ろから覗き込んで言った。
「真夏でも発見できたんだ。きっとマスコミが突き止めて、話題にすることを狙ったのよね。さすが、HIKARIプロの会長だわ」
「ちがうよ、そんなのと!」
 わたしは、大切な宝石が泥まみれにされたような気になった。

 そして、気づいた。仁和さんが見せてくれた幻。幻の中の少女たち。仁和さんは「みんな空襲で亡くなった」と言っていた。わたしは、その子達を確かめなくてはならないと思った。

「え、これ全部見るのかよ!?」
「うそでしょ……」
 省吾と玉男がグチった。
「全部じゃないわよ。多分昭和16年の入学生」
「どうして、分かるの?」
 ゆいちゃんが、首を傾げる。この子はほんとうに可愛い。省吾にはモッタイナイ……って、ヤキモチなんかじゃないからね!
 わたしは、お仲間に頼んで、図書館にある昔の写真集を漁っていた。

 ヒントはメガネのお下げ……ゲ、こんなにいる。どこのクラスも半分はお下げで、そのまた半分はメガネをかけている。
 でも、五分ほどで分かった。ピンと来たというか、オーラを感じた。いっしょの列の子たちは、あのとき、いっしょにいた子たちだ。
 
 杉井米子

 写真の下の方に、名前が載っていた。両脇は酒井純子と前田和子とあった。
 三人とも緊張はしているけど、とても期待に満ちた十三歳だ。わたしたちに似たところと、違ったところを同時に感じた。
 どう違うって……う~ん うまく言えない。
「この子達、試合前の運動部員みたいだね」
 由香が、ポツンと言った。そうだ、この子達は、人生の密度が、わたし達と違うんだ……。
「ねえ、こんなのがあるよ」
 玉男が、古い帳簿みたいなのを探してきた。

 乃木坂高等女学校戦争被災者名簿

 帳簿には、そう書かれていた。わたしは胸が詰まりそうになりながら、そのページをめくった。そして見つけた。

 昭和二十年三月十日被災者……そこに、三人の名前があった。

「どうして、真夏、この子達にこだわるの?」
 由香が質問してきた。まさか、この子達が生きていたところを見たとは言えない。
「うん……今度の曲のイメージが欲しくって」
「で、この子達?」
「うん、この子達も三人だし、わたしたちも女子三人じゃない。なんとなく親近感」
「……そういや、この杉井米子って子、なんとなく、ゆいちゃんのイメージだね」
「うそ、わたし、こんなにコチコチじゃないよ」
「フフ、省吾に手紙出してたころ、こんなだったわよ」
「いやだ、玉男!」
「ハハ、ちょっと見せてみ」
 省吾が取り上げて、窓ぎわまで行って写真を見た。
「ほう……なるほど」
「でしょ!?」
「うん」
 そう言って、振り返った省吾の顔は引き締まっていた。
「……省吾くんて、いい男だったのね。わたしがアタックしてもよかったかなあ」
「こらあ、由香!」
「ハハ、冗談、冗談」

 しかし、冗談ではなかった……わたしには分かった。窓辺によった瞬間、省吾はタイムリープしたんだ。
 そして一年近く、向こうにいて、今帰ってきたところ。むろん本人に自覚はないけれど……。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・9〔布施の残り福〕

2016-03-24 07:33:24 | 小説6
高安女子高生物語・9
〔布施の残り福〕
       


 休みの日に家に居てるのは、あんまり好きやない。

 建物としての家には不足はあらへん。二十五坪の三階建てで、三階にあたしの六畳の部屋がある。

 お母さんは、学校辞めてから、テレビドラマを録画機に録って、まとめて観るのが趣味。半沢直樹やら相棒やら映画を録りダメしたのを家事の合間に観てばっかり。で、家事のほとんどは洗濯を除いて二階のリビングダイニング。

 お父さんは、自称作家。ある程度名前は通ってるけど、本が売れて食べられるほどやない。共著こみで十何冊本出してるけど、みんな初版第一刷でお終い。印税は第二刷から10%。印税の割合だけは一流作家やけど、初版で終わってたら、いつまでたっても印税は入ってけえへん。劇作もやってるから上演料が、たまに入ってくるけど、たいてい高校の演劇部やさかい、高校の先生辞めてから、やっと五十万あったかどうか。で、毎日一階の和室に籠もって小説書いてはブログで流してる。どうせお金になれへんねんやったら、この方が読者が付く言うて。
 お父さんは、去年還暦やった。見果てぬ夢いうたらかっこええけど、どことなく人生からエスケープしてるような気ぃがする。せやから、先生辞めてから五年にもなるいうのに、精神科通うて薬もろてる。まあ、両親のことは他でも言うとこあるさかい、あたしに関わるとこだけ言う。
 あたしは、たった三人の家族がバラバラなんがシンキクサイ。まさか家庭崩壊するとこまではいけへんやろけど、家庭としての空気が希薄や。
 で、あたしは用事を作っては外に出る。明日と明後日はクラブの稽古がある。取りあえず今日一日や……で、布施のエベッサンに行くことにした。

 大阪のエベッサン言うたら今宮戎やけど、あそこは定期で行かれへん。よう知らんし、知らんとこいうのは怖いとこと同じ意味。あたしは、基本的には臆病な子。

 それに、もう一つ目的がある。けど、今は、まだナイショ。

 休日ダイアの電車て、あんまり乗れへんよって、高安で準急に乗り損ねて各停。山本で一本、弥刀で二本通過待ちして二十分かかって布施へ。
 八尾よりショボイけど、布施も堂々たる都会。まあ、高安を基準に考えたら、たいていのとこが都会。
 で、今日は人手がハンパやない。駅の階段降りたとたんにベビーカステラやらタコ焼きの匂いがしてくる。露店に沿って歩いてみたかったけど、いったん別のとこにハマってしまうと、本来の道に戻られへん性格。せやから、脇目もふらんと布施のエベッサンを目指す。

 商売繁盛で笹持ってこい。日本一のエベッサン。買うて、買うて福買うて~♪

 招き歌に釣られて商店街の中へ、小さな宝石店のところで東に曲がると布施のエベッサン。
 まずは、御手洗所で作法通り左手から洗い、右手、口をすすいで拝殿へ。気ぃつくとたいがいの人が、手ぇも洗わんと行ってしまう。あたしはお母さんから躾られてるんで、そのへんは意外に律儀。お賽銭投げて、まずは感謝。いろいろ不満はあるけど感謝。これもお母さんからの伝授。それから願い事。芸文祭の芝居が上手いこといきますように、それから……あとはナイショ。
 それから、熊手は高いんで千円の鏑矢を買う。これがあとで……フフフ、ナイショ!
 福娘のネエチャンは三人いてるけど、みんなそれぞれちゃう個性で、美人から可愛いまで揃ってる。こんなふうに生まれついたら人生楽しいやろなあと思う。
 ふと、馬場さんが「モデルになってくれないか」言うたんを思い出す。あたしも捨てたもんやないと思う。同時に宝石店のウィンドーの鏡に写る自分が見える。ふと岸田 劉生の麗子像を思い浮かべる。

――モデルはベッピンとは限らんなあ――

 そう思って落ち込む。
 北に向かって歩いていると、ベビーカステラの露店の中で座ってるS君に気づく。学校休んで、こんなことしてんねんや……目ぇが死んでた。
「佐渡君……」
 後先考えんと声をかけてしもた。
「佐藤……」
 こんな時に「学校おいで」は逆効果や。
「元気そうやん……思たより」
 佐渡君は、なに言うたらわからんようで、目を泳がせた。あとの言葉が出てこうへん。濁った後悔が胸にせきあがってきた。
「これ、あげる。佐渡君に運が来るように!」
 買うたばっかりの鏑矢を佐渡君に渡すと、あたしは駆け出した。近鉄の高架をくぐって北へ。あとは足が覚えてた。

「ええやんか、たまには他人様に福分けたげんのも」

 事情を説明したら、お婆ちゃんは、そない言うてくれた。
「かんにん、お婆ちゃん」
「なんや世も末いうような顔してたから明日香になにかあったんちゃうかと心配になったで」
「たまにしか来えへんのに、世も末でかんにん」
「まあ、ええがな。明日香、案外商売人に向いてるかもしれへんで」
「なんで?」
「ここやいうときに、人に情けかけられるのは、商売人の条件や」
 お婆ちゃんは、お祖父ちゃんが生きてる頃までは、仏壇屋で商売してた。子どもがうちのお母さんと伯母ちゃんの二人で、結婚が遅かったから、店はたたんでしもたけど、根性は商売人。

「ほら、お婆ちゃんからの福笹や」

 お婆ちゃんは福沢諭吉を一枚くれた。
「なんで……」
「顔見せてくれたし、ええ話聞かせてくれたさかいな」

 年寄りの気持ちは、よう分からへんけど、今日のあたしは、結果的にはええことしたみたい。
 景気づけにお仏壇の鈴(りん)三回叩いたら、怒られた。

 ものには程というもんがあることを覚えた一日やった。

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