大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・志忠屋繁盛記・5『トコ&トモ、新人お巡りさんをイジル』

2012-10-31 11:23:55 | 志忠屋繁盛記
志忠屋繁盛記・5
『トコ&トモ、新人お巡りさんをイジル』
    



 トコ(叶豊子)は、志忠屋のカウンターで、タキさんや、Kチーフが手際よく料理を作っているのをみているのが好きだ。
 タキさんが、トコの顔ほどもある手で小気味よくタマネギを刻んでいるのを見ているだけで、なんだか魔法のように思え。そうやって、調理を見ていることが彼女にとって癒しであり、普段は、なんだか思い詰めたような顔になり、ときにハンパな馴染み客には誤解を与える。

――叶さん、なにかマスターに深刻な話があるんとちゃうやろか……?

 実のところは、ただ呆けているだけで、それで仕事の疲れを癒しているのである。
 ところが、今日のトコは、少し違った。トモちゃんが復帰したこともあって、ひどく楽しげで、タキさんも、Kチーフも、そうであろうと思っていた。
 ただ、当のトモちゃんは、そればかりではないように感じていた。

 少し明るすぎる……と言っても、トコが喋りまくったり、アハハと馬鹿笑いしているわけではない。
 BGで流れている、ジャズに軽くスゥイングしながら、リズムをとり、ニコニコしている。
 ちょうど、ナベサダの「カリフォルニアシャワー」がかかっていたので、そのノリは、ごく自然で、投げかけてくる話題も、トモちゃんの娘のはるかのことなどで、ごく普通。
 しかし、トモちゃんは、そこに微妙な違和感を感じた。さすが作家……というほど売れているわけではないが。

 店の前を、交番の大滝巡査部長がパトロールに出るのが、見えた。トモちゃんは閃いた。
「ね、トコちゃん、これから二人でカラオケいこうか」
「え、いいんですか。わたしは嬉しいけど!?」
「いいでしょ、もう今日は十分働いたでしょ、わたし」
「まあ……」
 タキさんは苦笑いで応えた。
「OKね、じゃ、トコちゃん、行こうか!」
「うん!」
 遊園地へ行く子どものように、トコは喜んだ。

「ちょっと、すみません……」
 トコは、びっくりした。店を出て角を曲がったら、すぐにトモちゃんが交番に入ったからである。
「はい、なんでしょうか!?」
 まだ制服が板に付かないところが初々しい新米の若いお巡りさんだった。若い頃の米倉斉加年(ヨネクラマサカネ)に似ていると思ったのは、二人が見かけよりも歳をくっている証拠である。
「あの、この近所に志忠屋って、イタリアンのお店があるの、ご存じないかしら?」
 トモちゃんの質問に、トコは思わず吹き出しそうになった。
「シチュー屋でありますか?」
「あ、そのシチューじゃなくて、志すの志に忠犬ハチ公の忠」
「は、ハチ公で、ありますね」
 お巡りさんは、壁の地図とにらめっこを始めた。
「……南森町の一番出口から、少し行ったところだって聞いてきたんですけど……」
 トコも、調子を合わせてきた。
「一番出口というと、すぐ横ですが、イタリアンのお店となりますと……」
 お巡りさんは、見当違いの堺筋や天神橋筋を探している。
「お巡りさん、ひょっとして東北の人?」
「あ、分かりますですか?」
 分かるもなにも、アクセントが完全な東北訛りである。
「なんとなく、雰囲気が」
「いや、気を付けてはおるんですが……」
「ううん、とっても真面目なお巡りさんて感じですよ」
「はあ、恐れ入りますです。ええと、ピエッタ……ミラノ……ちがうなあ……」
「ごめんなさい、お手間とらせて」
「いいえ、お二人は東京の方でありますか?」
「ええ、わたし、南千住。この子は葛飾の柴又」
「あ、それって寅さんで有名な!?」
 トコは、瞬間で柴又の出身にされてしまった。
「自分は寅さん、大好きなんです。駅前に寅さんの銅像ができましたでしょう!」
「あ……ええ。カバンもって腹巻きに雪駄でね」
 トコは適当に答えたが、若いお巡りさんは、本気で嬉しくなった。
「自分は、行ったことはないんですが、寅さんの映画はDVDで全部観ました。やっぱりマドンナは、浅丘ルリ子のリリーさんですね!」
「は、はい、そうですね!」
 寅さんの映画をあまり観たことがないトコは、頭のてっぺんから声が出た。
「あ、志忠屋でしたね、志忠屋……」
「お巡りさんは、東北のどこ」
「はい、石巻です」
「石巻……じゃ、大変な被害に……」

 地図をたどっていた、お巡りさんの指が止まった。

「はい……妹が……でも、二日目に発見されました。どろんこでしたが、女性警官の方が、きれいにしてくださって……まるで眠ってるみてえに」
「そうだったの……」
「生きていたら、ちょうど高校三年です」
「うちのはるかといっしょ!?」
「は、高校生のお子さんがおいでるんですか?」
「あらいやだ、歳がばれちゃう」
「いんや、なんだか、お二人ともとてもお若くて、なんだかキャリアのオネーサンて感じですよ」
「お恥ずかしい」
 トコが、正直に照れた。
「で、大阪には?」
「はい、伯父がいましたんで、転居して、その年に警察学校に入ったです」
「そう、苦労なさったのね……」
「はい……いいえ。あれで自分は警察官になれたんです。それまで、警察官て、当たり前のように思ってました。でも、あの震災じゃ、警察も、自衛隊も、アメリカ人の兵隊さんもどろんこになって……妹が見つかったときは、いっしょに……こんたにめんこい子が、こんたにめんこい子がって、泣いてくださって。自分は、自分の妹をめんこいなんて、言ってやったことねえもんで……あ、こんな話ばっかしてまって、志忠屋でしたね……」
 トモちゃんもトコも、とてもお巡りさんに申し訳ない気持ちでいっぱいになってきた。
「あ、そうだ!」
 お巡りさんの顔が、パッと明るくなった。
「隣がレストランなんで、そこで聞いてみます。いや、先週の非番の日に大滝、あ、ここの先任の巡査部長なんですけど、連れていってもらって。うん、あそこのマスターならきっと……」

 その十秒後、お巡りさんは、志忠屋の自動ドアをくぐった。

「先日はどうも……あ、隣の交番の秋元と申します。いま交番に志忠屋ってイタリアレストラン探してご婦人が来られてるんですが、本官は、恥ずかしながら近辺の地理に慣れておりませんので、マスターならきっと……」
「志忠屋は、うちやけど」
 と、タキさん。
「え……あ、はあそうであったんですか。いや、失礼いたしました!」

「ごていねいに、どうもありがとうございました!」
 二人は、最敬礼でお礼を言った。
「いいえ、どういたしまして。灯台もと暗しでした。自分こそ恥ずかしいかぎりです」
 秋元巡査は、任務を成し遂げた清々しい顔で敬礼した。
「お巡りさん、よろしかったら、お名前うかがえません。お巡りさんに、こんなに親切にしていただいたの初めてなもんですから」
「は、はい、自分の名前は……」
「お名前は……?」
「……秋元康であります」

 世の中には、いろんな秋元さんがいるもんだと思いつつ、二人は志忠屋に戻った。いや、戻らざるを得なかった。
 秋元巡査は、二人が志忠屋の自動ドアに入るまで、敬礼しながら見送ってくれたのである……。


『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』    

 10月25日に、青雲書房より発売。

青雲書房直接お申し込みは、定価本体1200円+税=1260円。送料無料。
送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。

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青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp  ℡:03-6677-4351

また、アマゾンなどのネット通販でも扱っていただいておりますので、『まどか、乃木坂学院高校演劇部物語』で、ご検索ください。

 このも物語は、顧問の退職により、大所帯の大規模伝統演劇部が、小規模演劇部として再生していくまでの半年を、ライトノベルの形式で書いたものです。演劇部のマネジメントの基本はなにかと言うことを中心に、書いてあります。姉妹作の『はるか 真田山学院高校演劇部物語』と合わせて読んでいただければ、高校演劇の基礎連など技術的な問題から、マネジメントの様々な状況における在り方がわかります。むろん学園青春のラノベとして、演劇部に関心のないかたでもおもしろく読めるようになっています。
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高校演劇・戯曲の書き方を教えてくれた人・藤本義一さん死去

2012-10-31 07:57:26 | エッセー
戯曲の書き方を教えてくれた人
藤本義一さん死去



 今朝、10月31日、ショックなニュースが流れてきました。

 作家、藤本義一さんの死去です。享年79歳、肺炎であったようです。

 藤本義一さんは、前世紀の70年代、東の井上ひさし、西の藤本義一と言われ、故司馬遼太郎さんと並び、関西に最後まで活動の拠点を持った。希な作家でした。今東光師が亡くなったときも、追悼公演の『お吟さま』の本を執筆されました。

☆大人の世界を見せてくれた人
 1965年から始まった11・PM(イレブンピーエム)の司会を、大橋巨泉と共に務め、親や学校が教えてくれない大人の世界を、当時中学生、高校生であった、ぼく達に教えてくれました。ギャラは、大橋巨泉の1/7しかないことが、分かっても、とりたてて文句をいうこともなく、やってこられました。ぼく達は、この11・PMからいろんなことを学びました。
 また、橋下徹氏が府知事になったとき、彼の文化政策にいち早く反対の立場を表明され、けして、橋下ブームに便乗することなく、文楽を始め、大阪の文化の大事さを訴え続けてこられました。
 昨年は、学生時代に書いた戯曲『虫』が、劇団往来によって上演されたことを喜こばれ、会場まで足を運ばれました。『虫』は、戦後顧みられなくなった上方落語に目を向け、主人公の落語家の芸人としての意地と、おかしみを通して、上方落語の魅力。戦後の興行界の変化、大阪下町の人情などを、とても学生とは思えない筆遣いで書いておられました。

☆戯曲の書き方を教えてくれた人
 これは、記憶が正しければ、11・PMでおっしゃっていたことだと思うのですが、本来小説家である藤本さんのところに戯曲執筆の話が舞い込んできました。おそらく『虫』ではなかったかと思うのですが、その時、藤本さんは、依頼に、こう答えました。
「書かせてもらいますけど、ちょっと待ってくださいね、ボク戯曲て、よう分からんさかい」
 そう言って、藤本さんは100本の戯曲を読んで、そして、ようやく、依頼された戯曲を書き始めたそうです。
 今の高校演劇に一番欠けている「人の本を読む」ということの、当たり前の大切さを教えてくれた人でもありました。
 今東光、司馬遼太郎と並んで、その死がこたえた作家でありました。先日の桑名正博に続きこたえました。
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高校ライトノベル・TSREDUREエッセー『月のあかり 桑名正博の死』

2012-10-29 08:07:45 | エッセー
TSREDUREエッセー
『月のあかり 桑名正博の死』




 ――桑名正博が死んだ――

 ボクは、音楽のことは、まるで分からない。でも桑名正博の名前ぐらいは知っていた。
 ひょっとしたら、と思って調べてみたら、出身は同じ大阪市だった。ボクよりは三ヵ月若く、悪友の滝川浩一とは4日しか違わない生まれだった。

 息子さんの美勇士さんは、三十路にはいっておられ、父と同じ道を歩んでおられるらしい。わたしの息子は、やっと十六で高校生。
 
 ボクは、音楽のことは、まるで分からない。息子は中学のころから、いわゆる軽音に目覚め、あっと言う間に、アコステ、エレキをマスターし、ボーカルをやるためにボイトレにも通いだした。ボクは、小中学校9年間いながら、リコーダーも吹けなかった。音符が読めず。音楽のテストの日は、朝からお腹が痛くなった。
 息子は、幼児のころからやすやすと音符を読み、七歳で始めたピアノも、まだ続いている。

 ボクは音楽のことは、まるで分からない。でも、息子の、ギターはともかく、歌がまるでダメなことぐらいは分かる。息子の歌に、なんのメッセージもエモーションも感じない。先日は文化祭で、初めて息子のライブを聴いた。観客をさえ意識していないことに驚いた。ボクは芝居が少し分かる程度だけど、音楽も芝居も同じエンタメである。最低伝えたいという気持ちが無ければ、それは空回りしているだけで、ダメなんじゃないかと思う。

 ボクは音楽のことは、まるで分からない。でも伝えることの大事さと難しさは分かっているつもりである。息子は、いつか、そこにぶつかって頭を抱えるだろう。みんな、そうやってエンタティナーになっていく……いければいいが。

 『月のあかり』を聞いてみた。しっかりメッセージもエモーションある。下戸なのでアルコールはダメだけど、静かに、コーヒーを飲んでもいいなあ、と、感じた。
 夜道を歩いていて、月のあかりのありがたさを感じることは、まず無い。
 しかし、澄んだ秋空に月のあかりがなければ、夜空は、ひどくとりとめがないものになってしまう。
『月のあかり』を、聞いて、あ……どこかで聞いたことがある。と、思い出した。
 月のあかりの無い秋の夜空は、寂しい。寂しいに決まっているじゃないか。


『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』        

 青雲書房より発売中。大橋むつおの最新小説! 

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高校ライトノベル・志忠屋繁盛記・4『300グラムのステーキ』

2012-10-28 18:13:05 | 志忠屋繁盛記
志忠屋繁盛記・4
   『300グラムのステーキ』



 300グラムのステーキを目の前にして、タキさんとKチーフはため息をついていた。

 ため息をつくほど旨そうなのではない。いや、旨そうなのである……見た目には。いやいや、このステーキを作るプロセスを見ずに、これを出されたら、だれだって旨そうと思うのに違いない。
 ところが、オーナーシェフのタキさんも、Kチーフも作るプロセスを見ている。
 正確には、ステーキの原料を知っているのである。

「あのなあ、トモちゃん……」
「なんか文句あんの?」
「いえ、いただきまーす!」
 タキさんとKチーフは、幼稚園児のような素直さで、お箸を構えた。

「どうよ、けっこういけるでしょ」
 トモちゃんは、カウンターに並び、いっしょに300グラムのステーキを主菜にしたマカナイの昼食を食べだした。トモちゃんが完食し、二人のオッサンが、なんとか2/3ほどを食べ終えたころ、〈準備中〉の札も構わずに女子高生が入ってきた。
「こんにちは……」
「あ、はるかちゃん……」
 Kチーフがすがるような眼差しで女子高生を見上げた。タキさんは「お……」と一瞥をくれただけである。
「あ、こんなもの二人に食べさせてるの!?」
「ここは食べ物屋のくせに、栄養管理がちっともできてないんだから」
「それにしても大根のステーキ200グラムはきついよ」
 と、はるかという女子高生は、オッサンたちに同情した。
「200ちゃう、300や」
 タキさんは、そう言うと、残った大根ステーキを口の中に放り込み、シュレッダーのように咀嚼すると、シジミのみそ汁で一気に胃袋に収めた。
「タキさんも、Kさんもオジサンなんだからメタボは仕方ないよ。ね、タキさん」
「はるか、それ、あんまりフォローになってへんで」
「別にメタボを非難してるわけじゃないんですよ。あ、言葉がいけないんですよね。ポッチャリてかデップリってか……あ、貫禄、貫禄!」
「おまえも、女優のハシクレやねんから、もっと言葉にデリカシー持たなあかんで」

 そう、この女子高生は、坂東はるかというれっきとした女優なのである。昨年の秋にひょんなことで東京の大手芸能プロである、NOZOMIプロにスカウトされ、高校生のまま女優になってしまった。詳しくは『はるか 真田山学院高校演劇部物語』をお読みいただきたい。
 そして、名前からお分かりであろうが、この志忠屋の新しいパートとしてやってきた、坂東友子の娘でもある。
「はるか、四時の新幹線なんじゃないの」
「そうだよ。六時間目からは、早引きしてきた」
「まさか、その制服のまま行くんじゃないでしょうね?」
「このままの方が、目立たなくっていいんだよ」
「うん、それアイデアやと思いますわ」
 Kチーフが、こっそりと大根ステーキの残りを始末しながら、賛意を表した。
「はるか、今、あんたの顔は全国区なんだからね、おちゃらけたこと言ってたら……」
「冗談よ、ちゃんと着替える。タキさんおトイレ借りますね」
 はるかは、ものの二分あまりで着替えて出てきた。ラクーンファーコートに大きめのキャスケットを被ると、顔の2/3が隠れてしまい、よほど近くに寄らなければ、本人だとは分からない。
「ほう、そんなんが似合うようになってきたんやなあ……」
 タキさんは、感じ入った声で言った。タキさんの言葉は、包み込むような父性を感じさせる。はるかは、こういうタキさんの物言いが好きだ。
「ありがとう、タキさん。お母さんのことよろしく。また、変なもの食べさせられそうになったら、言ってくださいね。じゃ、お母さん、制服とかよろしく」
 はるかは、制服と学校カバンが入った袋を目の高さにあげた。
「そこ、置いとき。帰りにオカンが持って帰るわ」
 タキさんが、伝票の整理をしながら、カウンターの横をアゴで示した。
「お店は、コインロッカーじゃないし、わたしは、はるかの付き人じゃないんだからね」
「わたしはね、お母さんが、他人様にご迷惑かけてないか、見に来たんだよ。お母さんは、なんでも自己流通す人だから」
「この店のことを思ってやってんの、ちょっとタキさん邪魔。ねえKちゃん……」
 トモちゃんは、タキさんの横の椅子に上がって、ソースの缶詰や、パスタの残量をチェックして、Kチーフに報告、Kチーフは、それをメモると、食材屋に電話をする。
「まあ、確かに並のアルバイトの倍は働いてくれるさかいなあ」
「そう言っていただければ……でも、なんかあったら言ってくださいね。このヒトは、とことんのとこで男心分かってないとこがありますから」
「グサッ……はるか、ちょっと生意気すぎ!」
「じゃあ、行ってきま~す」
 はるかの語尾は、自動ドアがちょん切ってしまった。
「ええ、お嬢さんですねえ……」
 Kチーフが、感心と、ちょっぴり憧れのこもった声で言った。

 手際よく、始末と準備を済ませると、Kチーフは窓ぎわのベンチ席で横になり、タキさんと、トモちゃんは、パソコンを取りだし、互いにもう一足の仕事を始めた。
 そう、タキさんは映画評論家であり、トモちゃんは、小なりと言えど作家の端くれ。互いに文筆だけでは食えないところが共通していた。

 ディナータイムになって、最初にやってきたのは、店の常連であるトコこと、理学療法士の叶豊子であった。
「わあ、トモちゃん、復帰したん!?」
「うん、編集の内職って、やっぱガラじゃなくって。それにタキさんが、どうしてもって言うから」
「当分、やってはるんでしょ!」
「うん、半永久的にね」
「そんな契約はしてない!」
「タキさんは、魔女と契約したのよ」
 タキさんが、厨房で目を剥き、慌てて十字をきった。その漫才のようなやりとりを、トコは、子どものように身をよじりながら喜んで見ていた。

 その姿にトモちゃんは、何かあったな……と、女の勘が働いた……。

『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』 

 2012年10月25日に、青雲書房より発売。全21章ですが序章のみ立ち読み公開。
 
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 このも物語は、顧問の退職により、大所帯の大規模伝統演劇部が、小規模演劇部として再生していくまでの半年を、ライトノベルの形式で書いたものです。演劇部のマネジメントの基本はなにかと言うことを中心に、書いてあります。姉妹作の『はるか 真田山学院高校演劇部物語』と合わせて読んでいただければ、高校演劇の基礎連など技術的な問題から、マネジメントの様々な状況における在り方がわかります。むろん学園青春のラノベとして、演劇部に関心のないかたでもおもしろく読めるようになっています。


       
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タキさんの押しつけ映画評『サイボーグ009/アルゴ』

2012-10-27 18:22:58 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
 『サイボーグ009/アルゴ』


これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が仲間内に流しているホットな映画評ですが、もったいないので、本人の了承を得て転載したものです。



☆サイボーグ009
 石森章太郎の009/第1シーズン 「ブラックゴースト 黄泉編」及び、最終章「神々との戦い編」を知悉し、あのラストを受け入れた人にのみお薦めする。それ以外の人には絶対納得出来ない。
 神山監督は石森ワールドを知り尽くし、その美点も欠点も 石森章太郎の先見性・作品世界に提示される思想・それ故の苛立ち…総てを神山の理解の中で昇華して本作の製作を行っている。従って、原作世界(石森ユニバースと言い換えても良い)の肯定的視点に立たなければ、本作の良し悪しは解らない……どころか説明抜きのラストに怒りすら覚えるだろう。
 エヴァンゲリヲンのファンには理解いただけると思うが、エヴァテレビシリーズを全く見ずに 劇場版第一作を見た人間(私です)の理解不能と苛立ち・怒りを想像していただきたい。テレビシリーズを見ていて、ラスト2話の展開はファンを四分五裂に引き裂いた……あの混乱も思い出していただきたい。
 エヴァは今回の劇場版「序」・「破」
 そして間もなく公開の「Q」において再構築されるようだが、予告を見る限り その内容は不明であり、さらなる混乱も予想される。最終話が第4作として噂される「四」ないし「死」としてでるならば、それを見るまで評価は出来ないのだが……。
 
 さて、懐かしき「SFの集中と拡散」の時代を共有する兄弟姉妹たちよ、アタシャ石森が生きていて 脚本製作に携わったのかと思ってしまいました。あの懐かしきサイボーグ・島村ジョーが再び目の前に現出しようとは……これは奇跡と言って決してオーバーではない。決して神山監督の能力を見くびっていた訳ではないが、ここまで見事に石森ユニバースを再現されるとは思っていなかった。
 確かに、せめて2部作品にしてもっと丁寧に作ってくれと思わんでもないが(途中で姿を消すメンバーがいたり、結局 最期まで正体不明の少女がいたりする) この唐突なぶった切り感……我々も当時「石森の中途半端」として怒り狂った、いわばご都合主義にしか見えないストーリー展開を是正して「石森ワールド」の完成(当然、神山解釈による)を目指して欲しかった。
 
 ではあるが、本作の在り方を認めたいと思う。

「彼の声」という存在(現象)が現れる。何らかの陰謀なのか、「彼」が「神(唯一神・創造主)」なのかは解らない。この謎に解答を与える為のストーリーの切断なのだが、それにしても、何故009只一人だけがその結論に至ったのか……そこんところのセンテンスがいくら何でも不足している。或いは、極めて熱心なキリスト教信徒なら、考えるよりもっと直感的に理解してみせるかもしれない。
 石森がクリスチャンであったかどうかは知らないが、彼の作品世界にキリスト教的思想が深く関わっているのは間違いない。神山の仕事はそこまで斬り込んでいるという事なのだろう。 作画は見事と言う他ない、3DCGと手描きアニメの合体の おそらく最高作品である。3D映像も問題ない、これなら差額を支払っても文句は無い。原作「黄泉編」のラストにシンクロするシーンがある。私の中には 悲しむフランソワーズを抱き留めたハインリッヒがジョン・ダンの詩を口ずさむシーンが浮かんだ。009フリークなら滂沱の涙必至であります。どちらかと言えば「貧乳タイプ」の003が「攻殻~」の素子並みに爆乳に成っているのは神山サービス? そうそう、イワンの両目がチャンと出ていて なかなかハンサムな赤ん坊でありました。これもサービス?♪


☆アルゴ
 イランのアメリカ大使館占拠時の実話です。全く忘れていました。ベン・アフレックの監督としての手腕は本物です。「ザ・タウン」でも唸りましたが、今作でも唸りっぱなしです! 完全脱帽。話は実話である分 結果は知れている訳で(大成功だった)、それをこれだけサスペンスフルにハラハラドキドキさせながら見せる手腕は物凄いの一言。本作は今年度アカデミーの一角を狙っていると言われますが 納得であります。映画に含まれる政治性・アメリカ政府の欺瞞・アメリカ人の正義・原理主義への嫌悪感……総てのバランスがギリギリに線引きされている。
 このバランス感覚が素晴らしい、まさにBRAVO~!!であります。
 にしても、原理主義ってのは嫌ですねぇ、反吐が出ます……いやいやイスラムだけじゃありませんキリスト教だってコミュニズムだって一緒です。世の中、中庸で自由なのが一番、イラン人のパーレビに対する憎しみや 何故パーレビがそこまで嫌われるか その裏でアメリカが果たした役割……そんな事は全部理解した上で、ヤッパリ原理主義は受け入れられない。そんならお前の個人的な怨みはどうなんだって?…そんな痛い事は聞いては成りませぬ。アハハハ 勝手勝手~チャンチャン。
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高校ライトノベル『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・序章』

2012-10-26 20:38:57 | 小説
まどか 
乃木坂学院高校演劇部物語
    

主人公まどかの冒険とともに演劇の基礎と、マネージメントが分かるノベライズドテキスト(『はるか 真田山学院高校演劇部物語』姉妹版)

大橋むつお

この話に出てくる個人、法人、団体名は全てフィクションです。

『序章 事故』
 ドンガラガッシャン、ガッシャーン……!!

 タソガレ色の枯れ葉を盛大に巻き上げ大道具は転げ落ちた。一瞬みんながフリ-ズした。
「あっ!」
 講堂「乃木坂ホール」の外。中庭側十三段の外階段を転げ落ちた大道具の下から、三色のミサンガを付けた形のいい手がはみ出ていた。
「潤香先輩!」
 わたしは思わず駆け寄って、大道具を持ち上げようとした。頑丈に作った大道具はビクともしない。
「何やってんの、みんな手伝って!」
 フリ-ズの解けたみんなが寄って、大道具をどけはじめた。
「潤香!」
「潤香先輩!」
 皆が呼びかけているうちに、事態に気づいたマリ先生が、階段を飛び降りてきた。
「潤香……だめ、息をしていない!」
 マリ先生は、素早く潤香先輩の気道を確保すると人工呼吸を始めた。
「救急車呼びましょうか!」
「早く」
 マリ先生は冷静に応え、弾かれたように、わたしは中庭の隅に行きスマホをとりだした。
 一瞬、階段の上で、ただ一人フリ-ズが解けずに震えている道具係りの夏鈴の姿が見えた……乃木坂の夕陽が、これから起こる半年に渡るドラマを暗示するかのように、この「事件」を照らし出していた。


 ロビーの時計が八時を指した。わたしの他には、道具係の夏鈴と、舞監助手の里沙しか残っていなかった。あまり大勢の部員がロビーにわだかまっていては、病院の迷惑になると、あとから駆けつけた教頭先生に諭されて、しぶしぶ病院の外に出た。まだ何人かは病院の玄関のアプローチのあたりにいる。わたしと里沙はソファーに腰掛けていたけど、夏鈴は古い自販機横の腰掛けに小さくなっていた……いっしょに道具を運んでいたので責任を感じているのだ。
 時計が八時を指して間もなく、廊下の向こうから、三人分の足音がした。
「なんだ、まだいたのか」
 バーコードの教頭先生の言葉は、ほとんどシカトした。
「潤香先輩、どうなんですか?」
 マリ先生は、許可を得るように教頭先生と、お母さんに目配せをして答えてくれた。
「大丈夫、意識も戻ったし、MRIで検査しても異常なしよ」
「ありがとう、潤香は、父親に似て石頭だから。それに貴崎先生の処置も良かったって、ここの先生も。あの子ったら、意識が戻ったら……ね、先生」
 ハンカチで涙を拭うお母さん。
「なにか言ったんですか、先輩?」
「わたしが、慌てて階段踏み外したんです。夏鈴ちゃんのせいじゃありません……て」
「ホホ、それでね……ああ、思い出してもおかしくって!」
「え……なにがおかしいんですか?」
「あの子ったら、お医者さまの胸ぐらつかんで、『コンクールには出られるんでしょうね!?』って。これも父親譲り。今、うちの主人に電話したら大笑いしてたわよ」
「ま、今夜と明日いっぱいは様子を見るために入院だけどね」
「よ、よかった……」
 里沙がつぶやいた。
「大丈夫よ、怪我には慣れっこの子だから」
 お母さんは、里沙に声をかけた。
「ですね、今年の春だって、自分で怪我をねじ伏せた感じ。あ、今度は夏鈴のミサンガのお陰だって」
 マリ先生は、ちぎれかけたミサンガを見せてくれた。
「……ウワーン!」
 夏鈴が爆発した。夏鈴の爆泣に驚いたように、自販機がブルンと身震いし、いかれかけたコップレッサーを動かしはじめ、すぐに、自販機とのデュオになった、


 一段落ついたので、状況を説明しとくわね。
 わたし、仲まどか。荒川区の南千住にある鉄工所の娘です。
 中三の時に……って、去年のことだけど、近所のはるかちゃん。はるかちゃんは一歳年上なんだけど、幼なじみなんで「はるかちゃん」そのはるかちゃんが入ったのが乃木坂学院高校。去年、その学園祭によばれて演劇部のお芝居を観てマックス大感激! 
「わたしも、この学校に来よう!」と、半分思ったわけ。半分てのは、下町の町工場の娘としてはちょっと敷居が高い……経済的にもブランド的にもね。

 演劇部は、とにかくステキ!
 ドッカーンと、ロックがかかったかと思うと、舞台だけじゃなくて、観客席からも役者が湧いてきた! 中には、観客席の上からロープで降りてくる役者もいて、「怖え~!」と思ったけど、思う間もあらばこそ。集団で、なんか叫びながらキラビヤカナ照明に照らし出され、お台場か横アリのコンサートみたい。ゴ-ジャスな道具に囲まれた舞台で舞い踊り、そこからは夢の中……お芝居は、なんか「レジスト!」って言葉が散りばめられていて、なんともカッコヨク「胸張ってます!」って感じですばらしかった。「レジスト」って言葉には、コンビニのレジしか連想できなかったけど、あとで兄貴に聞いたら「抵抗」って意味だって分かった。
 この時主役を張っていたのが潤香先輩。もう、そのときから「オネーサマ」って感じ。
 で、この時、はるかちゃんは三角巾にエプロン姿で人形焼きを、かいがいしく売っていた。
 演劇部のお芝居のコーフンのまんま、ピロティーに行って、はるかちゃんから売れ残りの人形焼きをもらい、はるかちゃんのご両親といっしょに写メの撮りっこ。
 今思えば、はるかちゃんちの平和は、この頃が最後。今思えば……て、同じ言葉を重ねるのは、わたしに文才がないから……と、わたしの落胆ぶりを現しております。
「明るさは、滅びのシルシであろうか……」
 中三のわたしには分からない言葉を呟きながら、はるかちゃんは三角巾を外した……。
 と、その時!
――ただ今より、乃木祭お開きのメインイベント。ミス乃木坂の発表を行います。ご来場の皆様はピロティーに……と、校内放送。
 三位くらいからの発表かと思ったら、いきなりの一位の発表。その一位がなんと……。
――ジャジャジャーン(ドラム)一年A組、芹沢潤香さん! 
 そう、さっき見たばっかしの潤香先輩!
 ピロティー中から「ウォー!」とどよめき。潤香先輩はいつの間にか、かつて在りし頃の『東京女子校制服図鑑』のベストテン常連の清楚な制服に着替えて、野外ステージに登りつつあった。
 そして、タマゲタのは……。
――準ミス乃木坂は(ドラム)……一年B組の五代はるかさん!
 一瞬ピロティーが静まった……。
「え……」
 本人が一番分かっていなかった。


『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』 

 2012年10月25日に、青雲書房より発売。全21章ですが序章のみ立ち読み公開。
 
お申込は、最寄書店・アマゾン・楽天へお願いします。

青雲書房直接お申し込みは、定価本体1200円+税=1260円。送料無料。
送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。

お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。

青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp  ℡:03-6677-4351


 
 このも物語は、顧問の退職により、大所帯の大規模伝統演劇部が、小規模演劇部として再生していくまでの半年を、ライトノベルの形式で書いたものです。演劇部のマネジメントの基本はなにかと言うことを中心に、書いてあります。姉妹作の『はるか 真田山学院高校演劇部物語』と合わせて読んでいただければ、高校演劇の基礎連など技術的な問題から、マネジメントの様々な状況における在り方がわかります。むろん学園青春のラノベとして、演劇部に関心のないかたでもおもしろく読めるようになっています。


       
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高校ライトノベル・志忠屋繁盛記・3『志忠屋亭主驚く!』

2012-10-26 15:04:25 | 志忠屋繁盛記
志忠屋繁盛記・3
     『志忠屋亭主驚く!』




「え、うそ……!?」

 そう言ったなり、志忠屋亭主・滝川浩一は沈黙してしまった。

「マスター、鍋ふいてまっせ」
 Kチーフの声で、やっとタキさんは正気にもどった。
 午後三時、志忠屋のアイドルタイム(休憩と、ディナーの準備の時間)で、まかないの正体不明のパスタを食べたあと、タキさんは、FM放送から流れてくるお気に入りの曲とデュオしながらソースを煮込んでいた。
 そこで、バイトのSちゃんが、油断しきった背中に切り込んできたのである。
 と言って、Sちゃんが厨房の包丁を振りかざし、タキさんに斬りつけたわけではない。

 しかし、タキさんにしてみれば、まさに背中を切られたようなショックであった。
 Kチーフは、何事にも動じない、料理人であるが、タキさんは違う。
 喜怒哀楽が、人の十倍ぐらい早く、ハッキリとでてしまう。特に驚いた時は、赤ん坊のように、行動や思考が停止してしまう。
 心理学用語ではゲシュタルト崩壊という。最前線にいる兵士が、水平線の彼方から無数の敵艦隊が現れて呆然とするようなものである。
 映画評論家でもあるタキさんの頭には『THE LONGESTDAY』の映画でノルマンディー要塞を護っていたドイツ軍兵士が、同じような状況で、連合軍の艦隊を発見したシーンが、浮かびっぱなしになった。

「……で、いつから辞めるんのん?」
 やっとタキさんが言葉を発したときには、吹きこぼれていたソースはKチーフの手によって弱火にされ、危うくおシャカになることをまぬがれた。
「……今月いっぱいで」
 Sちゃんの言葉に、タキさんは少し安心した。今月いっぱいなら、まだSちゃんを説得し翻意させることが、できるかもしれない。タキさんはマッチョなわりには口が立つ。若い頃から、高校生集会や、所属していた演劇部の関係で、大阪の高校演劇連盟のコンクールなどで、言葉巧みに論じて、ある年など、審査員に審査のやり直しをさせたぐらいのオトコである。
「あの、マスター……今月いっぱいいうことは、今日でおしまいいうことでっせ」
 ソースの鍋をかき混ぜながら、Kシェフが呟いた。
「え……?」
「そやかて、今日は十一月の二十六日。で、金曜日。Sちゃんのシフトは木金土。明日の土曜は電気工事で臨時休業……」
「……そ、そんな、ま、Sチャン座って、話しよ」
 タキさんは、厨房からカウンターに回り、Sちゃんと並んで座った。

 志忠屋のメニューは旨いものばかりである。値段も、この南森町界隈ではお値頃である。
 しかし、客というのは、必ずしも、美味さ値段だけで来るものではない。バイトのSちゃんMちゃんの魅力でもっている部分がかなりある。だから昼のランチタイムこそ、店の前に十人ぐらいの列が出来ることがあるが、ディナータイムは今イチである。あきらかにSちゃん、Mちゃんの力は大きい。
 静かでおっとりしたSちゃんは、男性女性の両方から人気があった。彼女がオーダーを取って、厨房に声をかけるときに、半身に体をひねったときに、エモ言えぬ可憐さがあった。また、彼女の「いらっしゃいませー」「ありがとうございましたー」は、語尾をのばしたところに長閑さがあり。この声だけで癒されるという客がいるほどであった。花に例えれば、コスモスの花束のような子であった。
 Mちゃんは、逆に向日葵のように明るく、その明るさも店の規模に合ったもので、例えれば、ちょうど程よい花瓶に、小ぶりの向日葵が生けてあるようであった。花あってこその花瓶。SちゃんMちゃんのいない志忠屋は、いわば、花が生けられていない花瓶のようなものである。
 それにタキさんは、Sちゃんに初恋の女性の面影を重ねている。それはKシェフでさえ気づかないことであるが、四十年近い付き合いのわたしにはよく分かった。
 初めてSちゃんを店で見かけたとき、「あ、X子によく似てる」と、わたしは思った。その気配を敏感に感じたタキさんは――黙っていーっ!――という顔をした。

「サオリさんが、いい先生を紹介してくださったんです……」
「ほんなら、フランス行くんか……」
 タキさんは、絶望の声を絞り出した。
 サオリさんとは、本名サオリ・ミナミ。けして南沙織のデングリガエシではない。
 日系フランス人と結婚したキャリアのオネーサンで、夫の任地が長らく日本の神戸であったこともあり、この店の古くからの常連であった。外向的で好奇心の強いサオリさんは、国籍を問わず友人知人が多い。
 そのため、東日本大震災のとき関西に避難してきた関東の友人の面倒をよくみて、震災直後は、店がフランス人を中心とした外国人の情報センターのようになった。
 その中に、たまたま絵の先生がいた。
「え、フランスで絵の勉強ができるんですか!?」
 Sちゃんは、そのフランス人の絵の先生の言葉で、飛躍してしまった。

 Sちゃんは、画家志望で、夜は絵の個人レッスンを受けている。そのためアルバイトを水木金に集中させ、他の日は、イラストの仕事のかたわら、自分の作品制作に当てている。
 以前から、絵の先生から、「フランスで勉強できたらね」と、半分夢のように言われていた。自分でも夢だと思っていた。ところが、そのフランス人の絵の先生の話で俄然現実味をおびてきた。

 問題は、フランスでの身元引受人であった。それが今回、解決したのである。
 サオリさんの夫が本国勤務になり、フランスに戻ったので、サオリさんが身元引受人になってくれることになったのである。
「そやかて、Sちゃん、フランスで暮らすいうたら大変やで、だいいち言葉が……」
 無駄とは思ったが、タキさんは、最後の引き留めをした。
「あ、それなら、去年からやってますから、日常会話的には問題なしです」
 これで、たきさんは、白旗を揚げた、そして白壁を示した。
「え……ここに描いていいんですか!?」

 志忠屋の壁は名物であった。
 
 もともと駐車場スペースに作った店舗なので、壁は、ただのブロック壁である。外側は丹念に塗装されていてブロックには見えないが、内側はブロックの壁そのままに、白い塗料を塗っただけで、ブロックの境目がよく分かり、近くのラジオ局のゲストたちなどがやってきては、ブロックごとにサインやメッセージを残していく。いつの間にか大阪の通の人間の評判になり、テレビの取材を受けたり、雑誌に取り上げられたりして、中には、この壁の写メを撮ることを目的にやってくる客がいるくらいである。
 つまり、この壁に描けるのは有名な人間だけで、一番新しいのはNOZOMIプロのチーフプロディユーサーの白羽であった。

 Sちゃんは、その白羽の横ワンブロック置いた壁面に、コスモスの花束の絵と、自分のサイン、日付を書いた。
「……お世話になりましたー」
 長閑に伸ばした語尾と、たたんだエプロンを置いてSちゃんは、店をあとにした。
「若いて、ええのう……」
 見送りがてらに店の前に出てきたたきさんは、Kチーフの肩を叩いて、ため息をついた。
 Sちゃんは、交番の角を曲がるとき、一度振り返り、ペコンとお辞儀をした。交番の角は、すぐそこなで、Sちゃんの表情が良く分かった。その目は、希望と一抹の寂しさが入り交じって潤んでいた。

「次の、アルバイト探さならあきませんなあ……」
 店に戻りながら、Kチーフが力無く言った。
「急場に間に合う言うたら、あいつしかおらへんやろ……」

 タキさんは、白羽とSちゃんの間に挟まれた空白をアゴでしゃくった。

「え……まさか、あの子が!?」
「ちゃう、あの子のオカンや」
「あ、ああ……」
 
 Kチーフは複雑な笑顔になった……。


まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』 

 2012年10月25日に、青雲書房より発売。全21章ですが序章のみ立ち読み公開。


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 このも物語は、顧問の退職により、大所帯の大規模伝統演劇部が、小規模演劇部として再生していくまでの半年を、ライトノベルの形式で書いたものです。演劇部のマネジメントの基本はなにかと言うことを中心に、書いてあります。姉妹作の『はるか 真田山学院高校演劇部物語』と合わせて読んでいただければ、高校演劇の基礎連など技術的な問題から、マネジメントの様々な状況における在り方がわかります。むろん学園青春のラノベとして、演劇部に関心のないかたでもおもしろく読めるようになっています。


       

 
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高校ライトノベル・志忠屋繁盛記・2『志忠屋亭主の正体』

2012-10-24 08:21:18 | 志忠屋繁盛記
志忠屋繁盛記・2
『志忠屋亭主の正体』




 地下鉄の階段出口をぬけると、そこは雪国であった。

 突然の夕立であったことも、大雨であったことも、常夏の日差しであったことも、頬なでる風に秋を感じたこともあった。
 それくらい、わたしは通っている。通い詰めるという程ではない。月に一度ぐらいのものである。
 大阪の人でないと分からないが、わたしは上六の日赤病院の帰りに、志忠屋に寄る。ランチタイムのピークを避けるため、上六の近鉄百貨店の書籍売り場で小一時間あまり時間をつぶしてからいく。
 地下鉄は谷町線で、近鉄百貨店の地下二階から、そのまま地下通路を三百メートルほど歩き、谷町線のホ-ムにいたる。そこから、四つ目の駅が南森町である。その間地上に出ることがない。時間にして二時間ほど、わたしは、地上の世界とは無縁で志忠屋にたどり着くのである。

 で、地下鉄の階段出口をぬけると、そこは雪国であった……ということになる。

 地下鉄の階段出口はMS銀行の一階の一部に食い込み、向かいの歩道から見ると、銀行のドテッパラに開いた口から、人が吸い込まれたり、吐き出されたりするように見える。一度、このことに気づいてしまうと、上六の光景の落差もあり、なんだか自分がお伽の国の人間であるような錯覚におちいる。
 出口を出て右に折れると、直ぐ横が交番である。たいして大きな交番ではないが、いつもお巡りさんが二人ほどのどかに、収まっていらっしゃる。東京のように、交番の前に後ろで組んで、帽子を目深に被り、四方に目を配りながら立っている威圧感はない。どうかするとお茶をすすりながら日報のようなものを書いていたり、道に迷った人に丁寧にハンナリと地図示しながら教えていたりする。
 そののどかな交番の角を曲がるとMS銀行の裏口になっていて、その北側にある四階建てビル。
「ビルというほどのもんじゃありませんよ」
 と、ビル自身が頭を掻いているように見えるほどささやかなビルの一階に、その愛すべき志忠屋がある。
 施行途中までは、駐車場のスペースになるはずであったが、たった二台ほどの車しか入らないような、それにするよりも、堂々とビルの一階部分としてテナントとして入れたほうがニギヤカシになるとオーナーが判断し、建設途中に店舗スペースとなり、四半世紀前に志忠屋が開店した。

 その、かわいい客席十五席ほどの店の亭主が、我が悪友・滝川浩一である。
 
 高校生の頃は、アメフトのマッチョでありながら、高校生集会のウルサガタであるという、当時流行の心情左翼的な面もあり、大阪の高校演劇では、わたしとは異なり、反主流派で、コンクールにはめったに参加しないが、コンクールには顔を出し、ハンパな審査などには遠慮無く噛みついていたりした。で、同時に地元八尾のアンチャンたちの兄貴分的な存在でもあり、家の宗旨であるカトリックの……信者には、いまだになってはいないが、なにくれとなく教会行事の手伝いもやるという可愛げもあった。
 
 高校二年の時に恋をした。一人前に……いや、十人前ほどの。
 駆け落ちを覚悟し、学校を長欠して、万博の工事現場で目一杯働き、百万あまり稼いだ。
 しかし、その恋がゴワサン(この男の場合、破局とか、恋に破れてなどという生っちょろい言葉は似合わない)になると、大阪の北新地で三日で使い切ってしまうという豪快さであった。

 この滝川浩一(以下タキさん)について書き出すときりがない。
 あと一点、人並み外れた読書家であり、映画ファンであるとだけ記しておく。志忠屋の亭主のかたわら、映画評論でも、名を成している。
 下手な描写より、彼の映画評論をサンプルに挙げた方が早い。

タキさんの押しつけ映画評
『アウトレイジ・ビヨンド』


 これは、悪友の映画評論家滝川浩一が、身内仲間に個人的に送っている映画評ですが、もったいないので本人の了承を得てアップロードしたものです。


 なんだ 馬鹿やろう! 今時のヤクザが こんな単純な訳ゃねえだろが。
 
 それに いきなり出てくる外国人フィクサーってな何なんだよぉ。大友(たけし)がなんぼか自由に動ける言い訳じゃねぇか。片岡(小日向)が知らねえってのはおかしいじゃねぇか。大体が中途半端なんだ。
 何さらしとんじゃ ボケィ!
 脚本も演出も たけしが一人でやっとるんじゃ、こんなもんで上等やろがい! それより、関西の会が「花菱会」っちゅう名前なんはどないやねん! アチャコかっちゅうんじゃ ボケィ!……。
 
 と言う、まぁ、お話でござりました。役者さんは気持ち良さそうに、実にノビノビと演ってはります。特に西田敏行なんてなアドリブ連発、一番気持ちよさそうに演ってはります。
 ある意味、どうしようもない閉塞状況にある日本のガス抜きを狙ったギャグ映画とも言えそうですが、残念ながら半歩足らずです。
 ギャグとリアルのギリギリラインを狙ったんでしょうが、結局 前作と同じように役者の力で助けられてはいるものの設定が甘すぎて、ストーリーテリングもご都合主義。
 バンバン殺される割には陰惨なイメージにならないのだが、もう少し説得力が欲しい。ここまで見え見えで警察が動かないはずが無い。アイデアとしては面白い(但、使い古しやけどね)、後は発展のさせかたでもっと面白くなるはず…少々残念、原案たけしで脚本は切り離した方が絶対良かった。 ただ、今回 大友の悲しみが表現されており、前作に比べてこの点は評価出来る。
 結局、何をどう足掻こうともヤクザの泥沼から抜けられない大友の姿を描けなければ本作の意味は無い訳で、さて それをリアルバイオレンスに仕立てたとのたまうが…それこそ悲しいかな コメディアンたけしの魂はどこかで笑いに繋げてしまう。
 問題はたけし自身にその自覚が無い事なんだと思う。それにしても、石原(加瀬亮)の処刑シーンには大笑いしそうになった。最高のブラックギャグでした。

 
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高校ライトノベル・志忠屋繁盛記・1『そよ風の志忠屋』

2012-10-23 11:07:28 | 志忠屋繁盛記
志忠屋繁盛記・1
     『そよ風の志忠屋』




「オス」…………この一言が、マスターのいつものアイサツである。

「いらっしゃいませ」
 普通の店なら、この一言から始まる。
「何名様ですか……タバコはお喫いになりますか……何番テーブル、何名様です」
 てな具合に続く。

 これから気まぐれで書こうとしている志忠屋は、そういう店ではない。

 店の自動ドアを入って、首を九十度も振れば、店の全体が見渡せる。
 左手の西方向には、テーブルが二つ。正面から右手の東方向にはカウンターがある。
 テーブルとカウンターを合わせて十五人ほどのお客が入ると満席になるような、こぢんまりした店である。
 店の名前から、ご想像はつくと思うが、シチューをメインにした、イタメシ屋のようである。
 ようである。という曖昧さは、わたしの料理に対する知識の無さからきている。

 で、「オス」というマスターのあいさつである。

 マスターは、普通のお客に対しては、きちんとあいさつする。
「いらっしゃいませっ」
 本人は、ほとんどえびす顔のつもりでいるが、わたしが見ると、ビートたけしの『アウトレイジ・ビヨンド』に出てきそうなスゴミがある。大半のお客は、マスターの声のみを聞いて、あとはパートのSちゃんやMちゃんに可愛く誘導され、お冷やとおしぼりを出されメニューに集中する。
 SちゃんやMちゃんと書いたが、別にSMの店ではない。マスターのタキさんを除いて仮名にするためである。わたしは固有名詞を覚えるのが苦手なので、安直にS・Mとしているだけである。ちなみにチーフシェフはKさんである。チーフと言っても、厨房には、マスターのタキさんとKさんしかいない。チーフと呼ぶのは心意気と、Kさんの、マスターに劣らない技量からきている。
 
 この志忠屋はシチューをメインにしているが、パスタの味わいも一際で、わたしは、いつもパスタ「海の幸」をオーダーする。
 以前、パスタ料理で有名な「○の○」という店に行ったことがある。食べ終わると、シェフがカウンターから、顔を出し「どうですか、おいしいでしょ!」と、感想を押しつけてきた。
 わたしは極端な出不精で、近年外出を、あまりしない。従って外食することは、ほとんど無いので、パスタは、まだ「スパゲティー」と言われた頃の喫茶店などのものと、志忠屋のそれしか知らない。この「○の○」のパスタはひどかった。あいまいに方頬で笑って無言で伝票を掴んだことを覚えている。
 志忠屋のパスタは、わたしの少ない外食経験から言っても、最上級と言っていい。

 で、再び「オス」というマスターのあいさつである。

 マスターとは、四十年来の○友同士である。○の中に「親」「良」「悪」のいずれかを入れるのは、読者のご判断に、お任せする。
 そういう○友関係なので、わたしには「オス」ですまされる。この「オス」に対するわたしの返事は「オ」あるいは「ウ」で済ませてしまう。
 わたしは、月に一度の通院の帰りに、ランチタイムを少し外して志忠屋にいく。「海の幸」をオーダーして、食べ終わったころにランチタイムが終わり、「アイドルタイム」という休憩と、ディナータイムの仕込みの時間になる。この時間になって店に居座っているのはわたしぐらいのものである。店のスタッフ(マスターとKさん、Sちゃん、あるいはMちゃん)がマカナイの昼食をとっている間、わたしはコーヒーを頂いている。そして、五時近くまで居座り、タキさんと世間話や、芝居、映画、書評などを語り合う。
 語り合うなどと標準語でかくと、お上品に聞こえるが、タキさんもわたしも、河内のど真ん中の八尾市の住人である。
「オッサン、オバハン、オヤッサン、イテモタランカイ。シバくぞ。シメなあかんな。あのクソッタが……」などと方言丸出しである。芸術的、あるいは学術的単語を抜いて文字におこせば、まさにビートたけしの『アウトレイジ・ビヨンド』のようになる。

「マスター、ここですわ」
 kさんがカウンター席の後ろでつぶやいた。

 この志忠屋の店内には、そよ風が吹いている。食い物屋であるので、絶えず換気扇が回っているので、並の店のように、空気が環流している。
 しかし、この志忠屋は、どこか外から壁の隙間から、風が吹き込んでくるのである。チーフのKさんは、その道のプロである。換気扇の回る音は、食い物屋としてはBGのようなものであるが、どこかの隙間から入ってくる微かな風音は、とても気になるのである。そっして、やっとその原因を突き止めたのである。
「こら、配管と壁の隙間やなあ……」
 タキさんは、ポニーテールをきりりと締め直して答えた。
 誤解のないように申し上げておくが、マスターのタキさんはオネエではない。十年ほどやったサラリーマンを辞め、料理人の道に入ってから、髪を伸ばし始め、日頃はチョンマゲというかポニーテールにしている。

「とりあえず……」

 ということで、紙をちぎって突っこみ、後日、本格的にコーキングで隙間を塞いだ。
 しかし、その翌月行ってみるとやはり風を感じる。
「まだ、風が吹き込んでるで」
「そうか、ちゃんと直したんやけどなあ」
「そやけど……あ、このオレ自身が、そよ風なんかもしれへんなあ」
 わたしのウィット(のつもり)にタキのオッサンはニベもなく、こう言った。
「なに、ぬかしとんねん。病院行きさらせ」

 わたしには、持病のメニエルがある。ときに、風が吹き渡るような耳鳴りがすることがある。タキさんはそれを知っていて、暖かい河内弁で忠告をしてくれたのである。

 しかし、それとは別に、耳でも聞こえず、体にも感じない風が、この志忠屋には流れている。
 わたしの駄文と言っていい作品群の中の『オレンジ色の自転車』は、親の理不尽な理由で転校を余儀なくされた「はるか」という少女の心情が、明るくサラリと書けていて、かなりアクセスも多い。その『オレンジ色の自転車』は、この、そよ風感じるカウンター席で、二十分ほどで書き上げたものである。
 他にも、いろんなアイデアが、ここのカウンターで浮かんできている。

 そよ風さまさまである……。

☆この物語はフィクションです……が
 志忠屋は、大阪は地下鉄南森町一番出口、徒歩30秒のところに実在する店で、マスターのタキさんこと滝川浩一は、本当に四十年来の○友である。わたしの作品『はるか 真田山学院高校演劇部物語』『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』には実名で店ごと登場しております。
 映画評論家としても名を成しており、作品を書くときの、映画や食文化、風俗の監修などで助けてもらっております。わたしのブログの中の『押しつけ映画評』などは、彼のものを転載させてもらっております。
 今回、不定期ではありますが『志忠屋繁盛記』として書いていこうと思い立ちました。


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タキさんの押しつけ映画評『エクスペンダブルス・2』

2012-10-20 20:30:36 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
『エクスペンダブルス・2』



これは、悪友の映画評論家滝川浩一クンが個人的に流している映画評ですが、面白く、鮮度も良く、もったいないので、本人の了解を得て転載したものです。



 いやいや、1もそうでしたけど、オッチャン達が楽しそうにやっとりまんなあ。アクションは前作を遥かに凌駕、「ACT OF VALOR」っていうNAVY SEALに関する本物映画が有りましたが、明らかに影響うけとります。

 ここまで来ると、人間なんて単なる血袋を肉で包んだだけの存在かいなと思わせられる。ヤンキーが「水滸伝」を現代版でやっていると思えば 当たらずとも遠からずですね。
 本作には新メンバーが何人か出とりますが、その中の一人チャック・ノリス(古くは「ドラゴンへの道」でB・リーと対決した空手チャンプ、他に「デルタフォース」、「地獄のヒーロー」等 所謂地獄シリーズ)の扱い方が別格。チャック・ノリスは アクションがハイテク化していく流れの中にあって、愚直な位 真っ正面から殴る、蹴る、ぶっ放す一筋で来た人、存在が「生きた伝説」に成っている。なんせ「チャックは一輪車でウィリー走行が出来る」??????とか「地獄には“チャック・ノリスお断り”の立て札が建っている」なんぞと言われていたり、彼の仕事に対して「継続は力、低俗は聖なり」なんて言われていたりする。
 スタローンですらチャックに対しては剥き出しの敬意を払っているってのが ありありと判ります。色んな意味でホンマモンっちゅう事なんでしょうねぇ。 前作では ほんのチョイと出だったブルースとシュワルツェネッガーも大暴れ、ブルースが「戻ってきすぎだ」とか「溶鉱炉で溶かすぞ」とやるとシュワルツェネッガーが「イッピ カイ エー」と切り返す。まぁ他愛無いんですが結構ツボにハマって大笑いしちまいました。
 しかし、アイデンティティがまるっきり“中坊”ですねぇ「ツオイ奴が偉い!」……ここまでやったら爽やかですらありますわ。
 そんでもってスタローンの丸太のごとき両腕はやっぱりそのまま、こうなると元には戻らんのでしょうねぇ、あの腕で日常生活が出来るのが不思議に感じます。今回ミッキー・ロークが出ていないのがちょっと寂しい。たまには頭空っぽにしてエヘラエヘラ楽しめる映画もええもんです。

 エクスペンダブルス3には誰が出るんでしょうねぇ…続編の話は今んとこ有りませんが、アタシャ勝手に盛り上がっております。
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高校ライトノベル・大阪の高校演劇『スニーカーエイジ・二人のユウキ』

2012-10-19 13:34:45 | 小説
大阪の高校演劇
『スニーカーエイジ・二人のユウキ』



この話にはフィクションであり、出てくる団体、個人は実在のものではありません。



 偶然のイタズラで、あの子とすれ違った。心臓止まりかけて、わざと無視したふり……。

 どこかで聞いたようなフレーズだったが、雄貴の頭に浮かんだのは、まさにこれだった。
 厳密に言えば偶然ではないかも……いや、やっぱ、偶然だ。それもAクラスの偶然。

 最初の出会いは、去年の秋。この環状線F駅のホ-ムだった。
「ユウキ!」
 という声に思わず振り返ってしまった。自分が呼ばれたのだと思った。
 振り返ると、一瞬で自分ではないことが分かった。
 同じF駅で降りる、御手鞠女子高校の生徒が、同じ学校の仲間に声をかけていたのだ。
「ユウキ」と発音する名前は、女の子でも、たまにある「祐希・優希・夕貴・夕姫」などである。

 そのユウキは泣いていた。で、そのユウキの友だちが声をかけたのだ。
「もう、昨日のことやったら気にせんとき」
「うん。大丈夫そんなことやないし」
「……ほんなら行こか」
「うん」
 二人の御手鞠が、階段のほうに向かった……ハンカチを落としていった。
「これ、落としたよ」
 雄貴は親切心とも言えない反射神経で、それを拾って声をかけた。
 二人の御手鞠は、びっくりして振り返った。
「ども……」と、ユウキは言ってふんだくるようにハンカチを雄貴のてから受け取ったってか、奪い取った。
「……しょうもないなあ」
「シ!」
 そう言って、一瞬二人が振り返った。互いにムッとした視線が絡んだ。
――しょもない……は、ないだろう。親切でで拾ってやったのに!
 そう思う心と、二人の御手鞠の顔が焼き付いた。オトモダチの方は人並みだったが、ユウキの方は、なんとかロ-ザって、ハーフのタレントの子に似た子で、雄貴はムッとしながらも一目惚れしてしまった。
 単に、タレントのローザに似ているからではない。ユウキの目は、何かに勝負して……たぶん負けた悔しさに美しく涙していた。雄貴は、そこにトキメキを覚えた。
 少し遅れて改札に向かうと、今度はオトモダチの方がカバンをぶちまけていた。どうやら定期を出そうとしたはずみで、カバンの中味が引っかかってしまったようだ。OLさんらしき人が手伝っていた。
「すみません」
「ありがとうございます」
 と、二人は恐縮していた。
――チ、オレんときは「しょうもない」だったのに……。
 でも、こぼれたジャージで分かった「OTEMARI・D・C」と背中にロゴがあった。
――ああ、御手鞠の演劇部か。

 それから、何度かホームや駅前で見かけることはあったが、雄貴はそっと目の端でとらえるだけ。運が良いと、ホームの鏡に映っているユウキをトキメキながら見ることもできた。

 あれから一年後、駅の人混みの中、ユウキとすれ違った。制服がこすれ合うぐらいの近さ。ユウキのセミロングが、雄貴の鼻先をかすめていき、その残り香に雄貴の胸に電気が走った。
 しかし、登校の時間帯、それも部活などで早朝登校する7時過ぎ。ユウキは、改札を出るのではなく、改札から入ってきて、ホームに向かっていた。それも思い詰めた顔で……。


「どうしてタイミング合わないかなあ!」
 阿倍さんに叱られた、今日の練習で3回目だ。
「ベースは、バンドの柱なんだからさ。ぐらつかれると、やってらんえの!」
「ちょっと休憩入れよう。とんがってても、前に進まないから」
 バンマスの福井さんが、穏やかに言った。さすが三年生のベテラン、練習の緩急を心得ている。

「なんか悩んでる。それも女のことだろ?」
 スポーツドリンクを一気飲みして、阿部さんが直球を投げてきた。
「いや……そんなことあるって」
 阿倍さんは、この四月に東京から転校してきた。そしてなんの迷いもなく、雄貴が所属する軽音に入ってきた。雄貴の軽音は部員が100人もいるので、三年生といっても新参者で、本当なら選抜メンバーのボーカルなんか、とてもできないんだけど、阿部さんは男並みの声量と歌唱力があり、特に高音の音の張り方など仲間として聞いていても惚れ惚れする。阿倍さんのおかげで、今年は、なんとスニーカーエイジの最終選考にのこった。で、舞洲アリーナの決勝に出られることになった。で、朝練、夜連と忙しい毎日。

 で、安倍さんは、ちょっと変わっている。休憩時間に占いをやってくれる。占いと言っても他愛ない恋占いや、ラッキーアイテムなんか。パーカッションのジローなんか「明日は赤いカバンで登校すること!」と言い渡され、オモシロ半分でお母さんの赤い旅行鞄で学校にやってくる途中、トラックにはねられかけた。運ちゃんは「赤いカバンで気が付いた、あれがなかったら……」と冷や汗を流していたそうだ。
「好きな子のことが気になってるでしょ?」
 図星だった。で、正直にユウキのことを話した。
「ついといで……」
 情報処理室に連れられて行った。
「靴下脱いで」
「え……」
「いいから、脱ぐ脱ぐ」
 雄貴は、しかたなく脱いだ。
「あ、片方だけでいい……これ、お母さんが洗ってるのよね」
「はい……」
 阿倍さんは、そういうとスポーツドリンクを口に含んで拭きかけた。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前……」
 と、呪文を唱え始めた。
 すると、靴下から、すえた臭いとともに白い煙が立ち上り、靴下の上でサッカーボールぐらいの大きさになり、空中にわだかまった。
「おお~」
 と、関心している間に、阿倍さんは松井須磨子を検索して、CPの画面に表示した。
「雄貴クン、その煙のタマ吸い込んで、吐き出してくれる」
「え……」
「いいから、早く!」
 言われたとおりにやると、吐き出した煙は人のカタチになった。その人のカタチはしだいにはっきりし、女子高生らしくなってきた。雄貴は一瞬ユウキが現れるのかと思ったが、顔かたちがはっきりしてくると別人であることが分かった。かわいい子なんだけど、見覚えがない。でも、どこか懐かしさを感じさせる子だった。
「えい!」
 阿倍さんが気合いを入れると、パチっと、その子の目が開いた……でも、その目は何も見ていなかった。
「だれ、この子……?」
「くやしいけど……雄貴の妹」
「え……オレ、末っ子……なんだけど」
 雄貴には、姉と兄がいる。どちらもごく平均的な社会人と大学生であった。特にベッピンやイケメンというわけではなかった。雄貴がそうであるように。
「キミの一つ下に子どもがいたんだよ。三ヵ月で堕ろされちゃったけど。おしいね、ちゃんと生まれて育ってたら、こんなになってたんだよ」

「うそだろ……オレの妹が、こんなに可愛いわけがない!」

 十分ほどかけて、阿倍さんは、雄貴に理解させた。やっと、そう思えると、その「妹」は、ゆっくりと「兄」に視線を向けた。で、つぶやいた。

「うそ……わたしのお兄ちゃんて、こんなに不細工なの!?」

 兄妹ゲンカになりそうになったが、阿倍さんはかまわずに操作をつづけた。USBケーブルCPのエンターキーを押した……松井須磨子の情報と技術が「妹」に上書きされた。
「じゃ、これから御手鞠女子のユウキって子のところへ行ってもらうわ」
「え……どうやって?」
 阿倍さんは、返事もしないでCPを操作して……なんと御手鞠女子高校のCPを呼び出した。
「えと……演劇部で、名前がユウキ……あった、2年B組36番・元宮優姫。念のため写真出しとくね」
「間違いない、この子だよ、この『おいで シャンプー』みたいにいい髪の香りの……!」
「まあ、お兄ちゃんにしちゃあ趣味いいね」
 妹がニクソイことを言う。

「一つ確認しとくわね。雄貴クン、これで優姫ちゃんの悩みは解消するけど、これをネタにして優姫ちゃんのことモノにしようなんて考えてないでしょうね?」
「ないない。オレは、ただ彼女のことが心配なだけ……ほんと」
「見返りを求めない愛ってことでいいのよね」
「だよね」
 阿倍さんと妹が睨んでくる。

「大丈夫なようね、もともとヨコシマな心だったら、雄貴クンの妹だって、こんな風に実体化もできなかったけどね。じゃ、いくよ」
「あ、その前に……」
「なに?」
「あ、いいや。この仕事が終わってからで」

 阿倍さんは、優姫の写真にカーソルを合わせると、マウスをダブルクリックした。妹は数秒かけて優姫にインストールされていった……。


 優姫は、一年のころから悩んでいた。お芝居が大好きで、大阪の高校演劇永遠の名門校と言われる御手鞠女子高校に入学、憧れの演劇部にも入った。持ち前の才能で、一年生ながら、主役の一人に抜擢された。そして、大阪のコンクールを順調に勝ち抜き、近畿大会にまで出場した。しかし、近畿大会では、あえなく敗退した。あんなに立派な道具を持ち込んだのに、舞台美術賞さえ獲れなかった。
 そう、なんの……賞もなかったのである。
 二年になってからは、顧問と上演台本や演出、演技指導に疑問を持つようになった。でも、大阪高校演劇の神さまと言われている顧問には逆らうことはもちろんのこと、異見を言うこともはばかられた。勢い稽古に熱が入らず、顧問や先輩たちから疎まれはじめた。そして、ある日の朝練で、いたたまれなくなった優姫は学校そのものを抜け出してしまった。

 明くる日から、優姫は人が変わったようになった。顧問や先輩にも遠慮無く疑問や問題を突きつけ納得いくまで異見を述べた。しかし、演劇というのは総合芸術であるので、全体のアンサンブルを壊すところまではしなかった。ただ、自分の演技については自分流を通した。
 近畿大会で御手鞠女子は、二位にあたる優秀賞と、優姫が個人演技賞を獲った。老年の審査員は「松井須磨子が生きていたら、こんな人だっただろう」とまで誉めてくれた。

 そして……優姫は演劇部を辞めた。プロダクションから個人的なスカウトもあったが、それも断った。

「はい、任務終了!」
 近畿大会が終わった日に、妹がもどってきた。
「おつかれさま」
「ありがとう」
 阿倍さんと、雄貴がねぎらってくれた。
「で、お願いなんだけど……」
 遠慮がちに妹が言った。
「なんやねん?」
 兄の雄貴は、優しく聞いた。
「わたしに名前を付けて……」
「それは、できないわ」
 阿倍さんがキッパリと言った。
「ええやんか、名前ぐらい。兄ちゃんが、ええ名前付けたる!」
「だめ! 名前をつけたら、この子は、ほんとうに実体化してしまう。この子は、この世には存在しないのよ。それを居たことにするほどの力は……ごめん。わたしには無い」
 冷たいほどにキッパリしていたが、阿倍さんの心には灯が灯っていることを、妹は感じた。
「……いいの、無理言ってごめんなさい。じゃ……涙が出る前に、消去して」
「もちろん。いくわよ!」
「待って!」
 雄貴は、阿倍さんからマウスを取り上げた……はずなのに、妹の姿はポリゴンの粗いCGのようになり、数秒で、ただの点になって消えてしまった……。
「そっちのマウスよりも、こっちのワイヤレスマウスの方が優先になってるの……ごめんね」

 
 明くる年のスニーカーエイジで、雄貴は偶然に優姫と知り合いになった。優姫は、演劇部を辞めた後、軽音に入った。そこでも、メキメキと頭角を現し、秋のスニーカーエイジでは選抜メンバーのメインボーカルになって出場した。そろって舞洲の本選に出たが、優姫は雄貴を上手いベースプレイヤーとしか見ていなかった。
 でも、雄貴はそれでもよかった。互いに上手い同士として観られれば、それでいい。

 演奏中に、雄貴は視線を感じた。前列に居る優姫や、OGになった阿倍さんのは最初から分かった。
 その視線は、ノリノリの観客の真ん中から感じた。それは……妹だった。

――兄ちゃんありがとう。名前付けてくれて。

――オレ、付けたか……?

 妹が消える寸前、雄貴は机に手を着いた。で、右手の小指がAのキーを押したのだ。そして同時に、手にしたマウスが転がり落ちて、変換キーを、ケーブルがエンターキー押した。モニターには小さく「亜」と出た。そのことに、阿倍さんも、雄貴も気がつかなかった。
 そして、中途半端に「亜」と名付けられた妹は、時たま姿をあらわすことになった。

 悔しいことに、妹は歳をとらない。中途半端なせいであろう。
 その日も、歌ってドラマもこなす優姫のバックバンドをやっていた雄貴には、公開録画を観ている妹の姿が見えた。あいかわらずのティーンエージャー。雄貴は来年……還暦である。


『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
発売予告!!
 

 10月25日に、青雲書房より発売。

お申込は、最寄書店・アマゾン・楽天へお願いします。

青雲書房直接お申し込みは、定価本体1200円+税=1260円。送料無料。
送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。

お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。

青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp


 このも物語は、顧問の退職により、大所帯の大規模伝統演劇部が、小規模演劇部として再生していくまでの半年を、ライトノベルの形式で書いたものです。演劇部のマネジメントの基本はなにかと言うことを中心に、書いてあります。姉妹作の『はるか 真田山学院高校演劇部物語』と合わせて読んでいただければ、高校演劇の基礎連など技術的な問題から、マネジメントの様々な状況における在り方がわかります。むろん学園青春のラノベとして、演劇部に関心のないかたでもおもしろく読めるようになっています。


       



 
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高校ライトノベル・大阪の高校演劇『OK高校演劇部・Traditionol Dorama Clab』

2012-10-17 13:07:44 | 小説
大阪の高校演劇
『OK高校演劇部・Traditionol Dorama Clab』


この話にはフィクションであり、出てくる団体、個人は実在のものではありません。



――わたし、クラブ辞めたから――

 由美子からメールをもらったのは。ことしの「アケオメメール」であった。
 以下辞めた理由が簡単に書いてあった。
 去年のコンクールでは、由美子のB高校はエントリーはしたが、棄権してしまった。
 で、2か月後のアケオメメールが、これであった。以下辞めた理由が簡単に、そして、またカラオケつきあってね。と続いた。一斉送信のアケオメでなかったことや、短い文面ながら、同い年の女子高生としての辛さや、意気込みが感じられたので、フラッグを付けて保存にしてある。
 しかし、このメールが自分の運命を変えるジャンプ台になるとは、朱美自身思いもしなかった。

 由美子との出会いは、一昨年のコンクールだった。
 朱美と由美子は学校が違う。由美子は小規模演劇部の府立B高校。朱美は大阪でも随一と言われる伝統大規模演劇部である私学のOK高校。この「演劇部」ということだけが共通項の二人が仲良しになったは、一昨年のコンクールで生徒実行委員会でいっしょになったからである。
 二人は、本選の舞台係になった。出場校の道具の搬入、バラシ、搬出の手伝いを主任務とする係である。
 最初のオリエンテーションで、隣り同士になった。

「やあ、おたく、OK高校の人!?」
「え、あ、はい」

 これが、二人の最初の会話であった。
OK高校はみなおそろいのTシャツを着ている。黒地に赤で「OKH・D・C」と書いてあり、大阪の高校演劇では、このTシャツだけでも有名であった。
「あなた、どこの学校?」
「B高校」
 と、言われても、朱美はピンとこなかった。OK高校は、この二十数年予選落ちしたことがなく、本選のレギュラー校。かたやB高校は今世紀に入って常に予選落ち。格が違いすぎた。
 しかし、二人は気が合った。なんというか、芝居に対するモチベーションが同程度で、先生や生徒実行委員長の説明に「ホー」「ナルホド」などの感嘆詞が同時に出ることがしばしばで、すぐ後ろの御手鞠高校の生徒に笑われた。

「え……?」
「おかしい?」

 そう聞くと、「双子みたい」と言われ「アハハ」と笑ったら、先生に怖い目で見られた。で、メアドの交換をやり、その日のうちに、お互いの関係は「仲良し」のカテゴリーに入ってしまった。

 こんなことがあった。リハの日、4番目の学校がリハを終えたあと、真田山学院高校の子達が、道具置き場で困った顔をしていた。
「どないかしました?」
 朱美が気づいて声をかけた。
「あの……衣装置きたいんだけど、うちの道具置き場にたどり着けなくって……」
 その子は、きれいな標準語で答えた。標準語でも嫌みがないのは、きっと関東から越してきた子なんだろうなあと、朱美も由美子も感じた。
「ちょっと、なんとかしますわ」
 そう言って、由美子が、道具置き場の山に向かった。
「荷物、それだけですか……はい、なんとか……ユーミン、これ手渡しでおくるさかいに」
「オーケー」
「ごめんなさい。わたしたち、制服に着替えちゃったもんで……」
 標準語が恐縮した。スカートで、この道具の山を越えることは出来ない。

 ガシャ……由美子が、わずかに足を踏み外し、小さな音をたててしまった。
「おい。リハの最中やぞ……!」
 担当の先生が、小さな、しかし、良く通る声で下手から注意した。

 本選は、北摂の「よみきり文化ホール」でおこなわれる。このホールはテレビの実況などをやりやすくするために、奥行きが間口と同じぐらいある。それで、舞台真ん中の第一ホリゾント幕(中ホリ)を降ろし、舞台の後ろ半分を道具置き場に使っている。

 先生に注意されたので、由美子もしかたなく、道具の山から下りてきた。
「おまえら、マニュアル読んでないんか!?」
「読みました」
「はい」
「リハ中に道具の出し入れはでけへんて、書いてあるやろ!」
「これ、衣装やから、ええと思いました」
「とにかく、リハ中は、あ・か・ん」
「じゃ、リハが終わるまで待って、置かせていただきます。ありがとう二人とも」
「リハが終わっても、あかん。道具はリハのあと道具置き場に置いたら、本番前まで触ったらあかんや!」
「これ、道具じゃありません、衣装です。衣装については規定は無かったと存じますけど」
 真田山の標準語が、ていねいに、でもきっぱりと意見を言った。朱美も由美も、もっともだと思った。
「キミなあ、道具置き場に置くもんはみんな道具なんや!」
「そんなあ……」
「だいたい、リハでもないのに、その標準語は、なんやねん。普通に喋れよ……」
 その時、下手でペンライトが振られた。標準語には分かっていたのだろう、その合図で、標準語は紙袋を持って下手の袖に行った。シルエットから真田山の山田さんだと分かった。道具係のチーフだ。
「駅のコインロッカーにいれることになりましたので……」
 標準語は、戻ってくると、そう一言言って頭を下げて、行ってしまった。
 
 あらためて、道具の山を見渡してみた。2/3はOK高校と御手鞠高校の道具だった。真田山はリハが早かったせいもあり、道具は一番奥の畳一畳ほどのスペースにチンマリと置いてあった。朱美は、これでいいのか……と、初めて疑問を持った。

 真田山の標準語の子にはすまない気持ちのままだったので、真田山の山田さんにメモを預けようと、その子の名前を聞いた。
「坂東はるか。この5月に東京から転校してきたばっかり」
 やっぱり……そう思ってメモに名前を書いた。

 この年も、由美子のOK高校は上位の優秀賞だった。大阪は最優秀と優秀賞の上位二校の計三校が近畿大会に出られる。で、いつもの通り近畿大会では選外だった。

 それから、朱美は由美子とメルトモになり、春と夏の講習会では示し合わせて、同じワークショップを受けたりした。夏には由美子が頼み込んで、OK高校の稽古の見学もやった。
「どないやった?」
 朱美は、少し得意顔で由美子に聞いてみた。
「うん、すごい。すごかったよ!」
 正直な感想ではあったが、どこがどのようにすごかったのか、由美子はうまく言えなかった。朱美も、その返事で十分満足した。

――でも、あんなすごいことB高じゃ真似できないなあ(^#0#^)――
 と、メールが返ってきた。ちょっともどかしかった。

 ある日、朱美は、母に小言を言われた。
「ちょっと、電話中なんだから、静かにしてよ」
 朱美は妹と普通に話していたつもりだったが、自分の地声が大きくなったことに初めて気が付いた。
 正直嬉しかった。
 嬉しいことが、もう一つあった。

 クラブの先輩にコクられた……☆

 他愛のない付き合いだった。メールのやりっこや、休みの日には万博公園の民俗学博物館に行ったり。みんな遊びには梅田などの繁華街に行く。万博公園の、それも民俗学博物館に来る物好きはいない。
安くて、涼しくて、人は少ないし、絶好のデートスポットだった。
 夏の終わりに少しだけ飛躍した。
「泳ぎに行こうや」
 と、彼が言った。少し迷ってOKと返事。ただし、条件をつけた……。

「わー、めっちゃきもちええ!」
 ウォータースライダーを滑り落ちて、由美子が叫んだ!
 そう、条件とは由美子を同伴することだった。三人というわけにもいかず。先輩は、他校の友だちを連れてきた。
 朱美は、オレンジ色だけが取り柄のワンピースだったけど、由美子は堂々のビキニだった。それもショッキングピンク。パレオが付いているのが、せめてもの乙女心ではある。
「ユーミン、こぼれかけ!」
 ウォータースライダーを滑り落ちて、水面に上半身を現した由美子に朱美が注意した。一瞬で由美子は顔を赤くして胸を押さえたが、言われたほどにはこぼれかけてはいなかった。ただ周辺の男どもの注目を集めるのには十分だった。確かに由美子のプロポーションはいい。朱美は予想していたが、これほどだとは思わなかった。そして、注目した視線の中に、自分のカレが含まれていたので、朱美は潜って、カレの足をすくった。カレは慌てふためき、朱美にしがみついてきた。
 ほんの一瞬だったけど、朱美は初めて男と肌を触れあわせてしまった。しこたま水を飲んで水面に出と、由美子が大笑いしていた。

 帰りに、4人でカラオケに行った。春休みに由美子と行って以来のカラオケだった。
 そこで異変に気づいた。高音がまるで出ないのである……。
 念のため、医者に行った。
「だいぶ声帯が太なっとるなあ。八百屋のオッサンみたいやで」
「八百屋のオッサン!?」
 声が裏返った。
「なんか、ヘビメタみたいなロックでもやってんのんか?」
 医者はカルテを書きながら、咎めるような口調で聞いた。
「いいえ……ちゃいます」
「ほな、なんや?」
「……演劇部です」
「演劇部!?」

 その話を、そのまま顧問の先生にした。
「考えすぎ、君らは若いから、卒業したら、すぐに元の声に戻る。高校演劇は条件の悪いとこで芝居せなあかんさかい、これぐらいの声やないとあかん」
「そうですけど……」
「まあ、気になるようやったら、しばらく発声練習ひかえとき」

 朱美はその指示に従って、三日ほど発声練習をひかえて、みんなの声を聞いていた。そして確信した。この発声は間違ってる。
 去年のコンクールの講評でも言われた。「声は出てんだけどね……」審査員はそこまでだったけど、真田山のコーチが指摘していた。
「声は、張るもんと違う。響かせるもんやで」
 朱美たちは、言われれば、とりあえず「はい!」と元気よくお返事はする。しかし、顧問は別として、他の人間に対しては聞き流しである。朱美は思いきって真田山のコーチのブログを開いてみた。
 基礎練習に関するブログで、講評で言っていたことが、より詳しく書かれていた。

――声は、声帯から出たこえを硬膏蓋(こうこうがい)にぶつけてマスク共鳴……。
 そして、気になることが書いてあった。役は演ずるのではなく、感じることが大事。稽古中はちゃんと見るべきものを見て、聞くべきものを聞いているか、演技していないときの役者にこそ注目すべきである。

 朱美は体調不良を理由……じっさい、調子は悪かったが、初めてクラブの稽古を見学した。

 驚いた……うちの芝居って、ただ力んでいるだけだ。だれもきちんと聞いていないし、見てもいない。いろいろ演ってはみるが、最終的には顧問が示した通りに動いているだけだ。ちっとも心に響かない。

 朱美は、休部届を出した。

 先輩のカレは静かに、でも必死で止めた。
――分かってるんじゃん。わたしが、今度のコンクールでうちの演劇部に見切りをつけそうなこと。
「先輩、いまやってる役、今みたいに静かにやったほうが、必死さが出ますよ。今の先輩のメッセージは、ちゃんと伝わってますから……」
 先輩は絶句した。先輩は予感していたのかもしれない。わたしが演劇部を辞めたら、先輩との仲も切れてしまうんじゃないかって……。

 その年のコンクールで、OK高校は最優秀をとった。観客席もそこそこ反応はしていたが、大阪で一番と言われるOK高校の芝居でも、キャパ600の観客席は七分の入りでしかなかった。
――なんだ、身内だけで喜んでいただけなんだ。
 朱美はネットで調べた、観劇のセオリー通りに上手の一番奥の席で観ていた。あの観客席の真ん中にいては、こういう見方はできなかっただろう。

 それから、自然に演劇部へ行く足は遠のき、ただ籍を置いているだけの幽霊部員になった。学校では少し気まずかったけど、大事な青春、いつまでも無駄にはできない。
 由美子を誘って、その12月のスニーカーエイジを舞洲アリーナに見に行った。
 16000人の観客席が一杯だった。演劇と軽音楽とではありようがまるで違うが、観客と感動を共有するパフォーマンスとしては同じである。
 気づいたら、由美子といっしょに涙流してリズムをとっていた。
 演劇のコンクールではショボイ学校も、軽音でポップスやロックをやらせるとこんなに違う。

 帰りに、二人でコーヒーショップに寄った。しんじられないことだけど、お喋りな二人が、舞洲から、このコーヒーショップまで一言も口をきかなかった。

「わたし、演劇は捨てない……」
 ココアが、薄く膜を張ったころ、朱美がつぶやいた。
「よかった、辞める言うんちゃうかと思た!」 
 由美子は素直に喜んだ。
「けど、クラブは辞める……」

 それから半月ちょっと、お正月のアケオメメールを見ている。
――そうか、由美子もその気になったか。もっとも一人じゃクラブでもあれへんやろさかいにねえ。
 そうして三が日が過ぎた。正月気分が抜けてから、もう一度スマホを出した。
 元旦の由美子のメール以外にも来ていた、先輩のカレからも。デコメたっぷりのそれを削除して、もう一度由美子のメールを見る。デコメも絵文字もなしの無機質なスマホの文字が立ち上がってくる。友人として……いや、これは、同じ時代を生きる女子高生としての挑戦状だ。
 そう感じたとき、着メロの音がした。由美子からだ。期待と不安でしばらく開くことができなかった。

――わたし、決めた。

 朱美は笑ってしまった。まるでパレオを外したビキニのように最小限な言葉。そしていさぎよさ。

――ユーミン、こぼれかけ!

 そう返信して、朱美は、パソコンのマウスをクリックした。
 血圧の低いパソコンは、気を持たせながらゆっくりと画面を映し出してきた。
 そこには、半月かかって調べた、劇団の研究生募集の要項があった。

 高校演劇はクラブだけじゃない。高校生が演る演劇なら高校演劇……まちがってないよね。
 そう自分に問い直して、朱美はカーソルをあわせ、マウスをもう一度クリックした……。


『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
発売予告!!


 10月25日に、青雲書房より発売されます。この『小悪魔マユの魔法日記』に出てくる、ブティック・ローザンヌの娘美優の母校でもある乃木坂学院高校が舞台のノベルです。

お申込は、最寄書店・アマゾン・楽天へお願いします。

青雲書房直接お申し込みは、定価本体1200円+税=1260円。送料無料。
送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。

お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。

青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp


       
 
 
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高校ライトノベル・大阪の高校演劇・『B高演劇部・イノベーション!』

2012-10-16 12:24:00 | 小説
大阪の高校演劇
『B高演劇部・イノベーション!』


この小説はフィクションであり、実在のいかなる団体、個人とも関係はありません。

「エー、まだ書けてへんのん……!!」

 手にした、段ボール箱を放り投げて、由美子は叫んだ。
 段ボール箱の中の一杯のイチョウの葉っぱが派手に舞い上がり、ピロティーは、葉っぱだらけになった。
 言われたタケシは、その飛び散ったイチョウの葉っぱを見て、不覚にも「イケテル」と思った。舞台一面のイチョウの葉っぱ。その上に下手の前に制服姿の自分。上手奥に由美子。
「まだ、賭けていないの……!!」
「そんな簡単に人生賭けるものなんか見つからねえよ……」
「臆病者!」

 ドラマチックでイケテル幕開きや! 自称「劇作家のタマゴ」それが顔に出てしまった。
「ちょっと、タケシ、本気で書く気あんのん!?」
 由美子の剣幕に、後輩たちが……たちと複数形で言ってもショコタンとマユの二人きりであったが、二人でも複数、少しでも多く見えるように「後輩たち」と表現している。その後輩たちが震え上がるほど、由美子の一喝には迫力があった。

 B高校はちゃんとした名前があるのだが、その学校の偏差値や実力から、前世紀の終わり頃から、だれ言うこともなく、イニシャルをとってB高というようになった。むろん印象としてBクラスの学校という二流意識からである。
 一昔前は、少し違った。
 B高と言っても、生徒も先生達も「B級グルメ」のB意識(美意識)があった。
 大阪という街は、安くて美味い物にアイデンティティーがある。かつて、美味くて安くて早いをモットーに関東から、単品主義のファストフードチェ-ンが進出してきたが、半年で撤退を余儀なくされた。大阪は同程度の金額で、もっと美味い物が食べられるB級グルメの店が星の数ほどある。
 B高校という略称というか愛称には、そういう大阪特有の誇りがあった。
 しかし、今世紀になり、偏差値も50を割り込み、府教委の「特色ある学校づくり」という路線にも失敗。もっとも、この「特色ある学校づくり」で成功した高校は、ほとんどなかったが……。

 そのB高校の中でも、演劇部は極め付きのB級であった。

 部員が10名を超えたことは、一度もなかった。コンクールはたいてい予選落ちであるが、そこがB級の持ち味、前世紀に三度本選出場を果たし、近畿大会で優秀賞という名の二等賞をとったこともあった。
 その、自分たちが、まだ生まれる前の過去の栄光にすがって、演劇部は、細々とつづけられてきた。
 由美子とタケシは同じ2年生。3年生はいない。引退したのではなく、はなから居ない。二人が入部したときから、一つ上の部員はだれもいなかった。当時の3年生が二人いたが、その二人が卒業してからは、しばらく、由美子とタケシの二人になってしまった。
 危機感を持った由美子は必死で新入生の勧誘に走り回った。顧問の福田先生にも新入生の資料を調べてもらい、中学で、演劇部の出身者を探してもらったが、これが、なんと皆無であった。
 ネットで検索すると、大阪の中学演劇は、ほぼ壊滅状態であることが分かった。
 
 由美子は、百人近い新入生に声をかけた。そして、やっとショコタンとマヨの二人をゲット。この二人の獲得には、短編小説が二つ書けそうなくらいのエピソードがあるが、本題へ……。

 大阪は、創作劇でなくてはコンクールには絶対勝てない。B高演劇部の過去の栄光も全て創作劇である。
 夏の連盟の講習会でも、劇作のワークショップは人気があった。
 劇作など、そう簡単にできるものではない。しかし、ワークショップを受けると書けるような気になってしまう。講習会は8月の初旬に行われる。コンクールは11月の初旬。中間考査の時期を除けば、2か月半と言ったところ。
 ネットで劇作を検索していると、「本書きには最低3か月が必要」と、ある劇作家が書いていた、ちょびっと気になった。
「数ある文化部の中で、創作に偏重しているのは、演劇部だけ、吹奏楽の全て、軽音のほとんどが既成の曲をやっている」
 その下りで、由美子はポテチの袋をまさぐる手が止まったが、タケシのメールで、気を取り直した。

――すごい芝居が書けそう。ビートたけしの映画がヒント。『五人の部長』乞うご期待!――

 この、タケシのコピーにだまされた。
 タケシの名誉のために言っておくが、タケシにだますつもりなど、コレッパカシもなかった。
 タケシ本人は、書けるつもりでいた。実際、食堂できつねうどんをすすりながら、タケシは熱く語った。
「五人の演劇部の部長が、地区総会のあと、公園で高校演劇について熱く語るんや。ほんで、自分らのアイデアやら、部活のしんどさ、ウザイ学校やら、家のこと話してるうちに一本の本ができるんや。グチこぼして、気ぃついたらドラマができあがんねん。そんで、5校合同で、合同公演やろいう結末。で、おまけが着いてて、主人公の男女2人が、憎しみを超えて結ばれるいうサブストーリーもあんねん!」
 そう言い切ると、たけしは、うどんの最後の一本を小気味よく吸い上げた。

 この、糸の切れた凧の勢いに、うっかり乗ってしまった。

 登場人物が5人なので、1人足りない。
「足らんなあ……」
 そうため息をついていると、遅れて部室に来たショコタンが言った。
「うち、心当たりあります!」
 で、軽音から借りることになった。シゲチャンというボーカル。軽音は部員が100人もいる。文化祭でも全員が出られるわけではない。しかし、シゲチャンはやりたくてしかたがない。そこで、劇中1曲歌わせることで話がまとまった。ついでにショコタンが軽音と掛け持ちしていることも分かったが、シゲチャンを獲得したことで、帳消しになった。ショコタンはそこまで読んでご提案にいたったようである。ちなみに、ショコタンのお父さんはアパレルの営業だそうで、駆け引きの上手さはは親譲りのようだ。

 で、なぜ、由美子たちがイチョウの葉っぱを集めているかというと、軽音のお手伝いなのである。
 軽音は、人数も多く、演奏時間も長いので、講堂なんてミミッチイところでの演奏は、鼻から考えていなかった。グラウンドに特設のステージを八百屋飾りにして、照明や音響も大学の専門課程をやっている先輩たちが、ほとんど無料で協力してくれている。最低の費用も部員から一律1000円を集めて、さらにPTAからも10万円の協力金が出ている。なんと言っても、軽音は、この夏の軽音の全国大会「スニーカーエイジ」の予選に通り、12月の舞洲アリーナの出場がきまっている。ウワサでは、ロ-カル局ながらテレビも取材に来るらしい。
 そこで、八百屋飾りのステージを秋色に染めることになり、一面のイチョウの葉っぱを敷き詰めるこに……で、演劇部が、それを引き受けることになった。
 そして、文化祭1週間前の今日から、それにかかったわけである。それが……。
 
「エー、まだ書けてへんのん……!!」

 に、なったわけである。由美子が、段ボール箱一杯のイチョウの葉っぱをまきちらしたのも、ムベナルカナである。
「わかった。あとはウチがやる!」
「せんぱ~い……」
「ユーミン………」
 後輩と、タケシの声が同時にした。由美子は、タケシがてにしたプロット帖をふんだくった。
「明日の朝までには書き上げる。みんな文句言わんとってや!」
 由美子は、カバンをからげてさっさと校門を後にした。
 ショコタンとマユは、荒ぶる神を見送るように、由美子の後ろ姿と、「タヨリナ」を絵に描いたようなタケシ先輩を見比べ、タケシが大きなため息をついたので気落ちしたが、腐っても先輩。
「頑張りましょう……」
 と、声をかけた。こともあろうにタケシはオナラでもって、その激励に答えた。
「こら、あかんわ」と、思った後輩であった………。

――あの、演劇部にはいりたいんですけど……。
――なんやて……?(ハエの飛ぶ音)
――だから、演劇部に……。
――クラブやったら、向こうの……ほら、見本がきよった。
 そこに上手(かみて)から、シゲチャンがワイヤレスを持ってきてビーズの曲を、あらかじめ録音しておいた歌声と合わせて、松本・稲葉のユニットにして歌いだし、新入生はそれに聴き惚れ、軽音へ、そのあと、由美子とタケシのコントのような言い合いになり幕が下りる……。

 文化祭の演劇部の出し物は、この自虐的なコントになった。むろん由美子の一夜漬けの作品。ほとんど、日頃のウップンを吐き出すだけなので、リアリティーがあり、意外にも観客には受けた。

 しかし、とても、こんなんものをコンクールに出すわけにはいかない。タケシはギリギリまで粘ったが、コンクール予選の一週間前にダメになった。ショコタンとマユが稽古に来なくなった。二人とも軽音に流れてしまった。

「あれ、B高は出えへんの?」
 予選会場で、受付をやっている由美子に、馴染みのA高の顧問が話しかけてきた。
「はあ、いろいろありまして……」
 由美子は、あいまいに答えた。たとえ棄権してもコンクールには役割がある。
 B高は、午前の受付に当たっていた。タケシは拗ねてやってこないので、由美子が一人でやっている。
「まあ、この地区は御手鞠高校の指定席やからね」
 A高校の顧問は、そう言って、会場に入っていった。

――そうおっしゃる先生の地区も、欽漫高校の指定席でしたよね……。

 この話には、後日談がある。大阪の高校演劇連盟は、浪速高校演劇連盟というが、この度、大手エネルギーメーカーとの提携で、NANIWA高校演劇創作脚本賞を創設。
 で、タケシは、これに自分の作品を応募。目出度く最優秀にえらばれ、新聞の地方欄にも載った。
 その記事を読んで、由美子は、一生で一番長いため息をつき、退部届を書いた。ただネガティブな気持ちからではなかった。新しいことを始めようと思っている。

 由美子にとっては、イノベーションではあった……。

『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』        

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タキさんの押しつけ読書感想・『ホビット』映画化に先立って

2012-10-15 18:02:34 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想・
『ホビット』映画化に先立って


これは、悪友の映画評論家・滝川浩一氏が個人的に『ホビット』映画化に先立って読み散らかした読書感想を仲間内に流した物ですが、映画鑑賞にあたって、お役に立てればと、本人の了解を得て転載したものです。



 前に読み返したのが「指輪物語」の映画化前だから、かれこれ10年以上前になる。
 今回 「ホビット」が映画化されるのでまたひっぱり出して読み返した。 日本での創刊は1951年、 もう60年になる。

 確か、「指輪物語」を発表しようとしたが、あまりの長大さに出版社が二の足を踏み、プレ編を童話仕立てにして出したのが本作だったと思う。
 トールキンの創作の原動力は、イギリスに神話の無きを悲しんでの事、当時 同じ大学の教授であった C・S・ルイス(ナルニア国物語の作者)と共に書き始めた。文学者であると共に言語学者でもあったトールキンは、ストーリーを錬るのと同時に「エルフ」や「ドワーフ」の言語を作ったり、各種族の詩や歌(作曲もやった)を作ったり、本編には書き込まない「世界創世神話」をも作っていた。
 ルイスの方は、ナルニア著述にあたって そこまでアンダーラインを引かなかったようだ。アスランがルーシー達の世界では違う名前で呼ばれている(キリスト)と さっさと裏を割っている。
 さて、「ホビット~行きて帰りし物語」は早々にベストセラーとなり「指輪~」出版の背中を押す事と成るのだが、今回再読して、その世界観のまとまり方に改めて気づかされた。
 作家は、その処女作に 後に続く数々の作品の総てを詰め込んでいるものだといわれる。物書き各位におかれては異論もおありだろうが、私の読書経験からすると十分に首肯できる。ましてや「ホビット~」はトールキンの気か遠くなるような未整理草稿の上に成立している。これ以後、「指輪物語第1部~旅の仲間」に修正が入ったかどうかについては記憶が不確かなのだが、ホビットから指輪1の間は密接緻密に繋がっていて 些かの齟齬も無い。そして「指輪~」で語られる膨大な物語のエッセンスをプレ冒険談として語り尽くしている。まさにトールキンの総てがここにあると言って差し支えないと断言できるのである。
 
 トールキンは、世界を三千年を一区切りとして、三つの三千年紀を語っている。唯一神がまず天使を生み、天使達との合唱の内に世界が創世されていく。この時、不協和音を出した天使が悪魔となり、もともと繋がっていた神界と地上を引き離す原因となる。悪魔を滅ぼさんと地上に残った天使達は後のエルフ達の先祖となる。悪魔対天使の戦で悪魔は滅ぼされるが、その一番弟子と一部眷属はしぶとく残り、この弟子が 後に魔法の指輪を作り、悪魔族対エルフ・人間連合の大戦争となる。
 この戦いもエルフ・人間側の勝利となるのだが、この時 指輪を破壊しなかった為、悪魔の弟子を完全には滅殺できず、後に禍根を残す事となる。
 記憶が定かではないが、確か 悪魔対天使の戦いまでが第一の三千年紀で、悪魔の眷属との戦争が第二の三千年紀の二千五百年、この時 とあるホビットが指輪を偶然拾い 山深くに隠れてから五百年、この間に彼は怪物ゴラム(瀬田貞二訳ではゴクリと名付けられている)へと変身してしまう。
 世界創世から第二の大戦争までの五千五百年の話は、トールキンの死後 彼の子息が膨大な草稿を整理して「シルマリルの物語」として出版している。その後の五百年に関しては「指輪物語 第三部~王の帰還」巻末補講に触れられている。
 現在 日本語訳では、未発表草稿の内から 比較的まとまった逸話を集めた。「知られざる物語(全二巻)」が発行されている。イギリスではトールキンの遺稿総てを整理し 全十巻の本がある。知る限り未だ邦訳はされていない筈で、今回の映画化によって日本語訳が出版されるかもしれない。トールキンフリークとしては涎を垂らして待っているのだが……。
「指輪物語 第三部」で主なる登場人物達はこの世を去り、新たな三千年紀が 今度は人間の世紀として始まる…今は その第三の三千年紀の終末期と捉えられる。さて人間は無事に第四の三千年紀を迎えられるのだろうか…というのがトールキンの含みである。
 翻訳者の瀬田氏に対して何の含みも無いが、ただ、宗教的考察に欠けるきらいがある。訳自体も少々古くなっているので改訂訳を望みたい所。さらに言うと、ホビットがウサギの人格化ではないかと指摘されている。ホビット~ラビットで、至極当然な連想であるがトールキン自身それに言及してはいない(筈である) 瀬田さんは岩波文化人であって、どうしても唯物的思考のお人と思われる。
 イデオロギー・フリーでなおかつ宗教的教養のある人の訳で読みたいものである。いやなに、私が自在に英語を操れれば良いのですがね…………アハハハ。
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タキさんの押しつけ映画評『今更踊る4/I am No.4』

2012-10-14 13:40:05 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
『今更踊る4/I am No.4』


これは悪友の映画評論家、滝川浩一クンが個人的に流している映画評ですが、おもしろいので、本人の了解を得て転載したものです。


☆踊る大捜査線4
昨日、今更ながら見て来ました。本作を見て 「良かった」 「感動した」……当然いらっしゃるでしょう。全くOKです、理解できます…そういう方々、以下を読むと気分が悪くなります。ここで このメールを消去しちゃって下さい。

 さぁて、何なんやろねぇこんな映画を平気で公開出来る神経が解らん。CX系の仕事に触れる時、その昔「夢工場」ってぇイベントに行って感じた怒りがふつふつと蘇る…中途半端、ごまかし、騙し、引っ掛け……お台場のビル 爆破したろかい〓〓
 大体「踊る~シリーズ」は テレビ番組は まだ面白く見れたが劇場版はイマイチ(違う?) 3作目なんざ単なる同窓会だし、こんなもんテレビ特番で十分、それをCMで騙して強引に商売にしちまう根性が気に入らない〓
 今作も青島が倒れるシーンに銃声を重ねて予告を流した。ひでぇ騙しで 全く関係ない〓
 画面に本筋とは全く関係ない小ネタ、小芝居が入るのはいつもの事ながら、本作は過剰、しつこすぎてイラつく、早い話が邪魔。芝居だけならまだしも小道具にも仕込み多数…煩わしいにもほどがある。
 この流れの行き着く先がFinalと銘打ちながら 後1本位は作れる含みに成っている。 警察庁の長官・次官の首が飛んでシリーズの締めに成るのだが、この辺のテリングは弘兼健治の「課長 島耕作」のパクリじゃないか、脚本の君塚もCX御一統さん、さもありなん。警察庁No.1と2の首を飛ばすなら製作・亀山と監督・本広の首も飛ばせば良い…ちゅうかCXが飛べよ!
 最大譲歩して、亀山・本広は1年かそこら一切の仕事から手を引いて休めよ。脚本・君塚も含めて この三人にまともな作品は一つも無い、織田裕二はさっさとこのトリオから離れた方が良い、今後のキャリアを考えたら そうする事は絶対必要。CXも「騙してでも客を集めれば勝ち」ってぇ体質を改めなければ またいつぞやみたいに落ち込んでしまうぞ〓〓〓

☆I AM No.4
 wowowでやっていたので事はついでと見てしまった。
 善玉宇宙人が地球に居て、悪玉宇宙人に追い掛けられているという…まぁよう有りがちな話、例に拠ってアメリカの田舎町が舞台、なぁんも新しい仕込み無し、それでいてラストはシリーズ化したいスケベ心むきむき。まぁアメリカで大ズッコケしているし 日本でも殆ど無視されたので、よもや続編は無いとおもいますがね。プロデューサーは「トランス・フォーマー」のマイケル・ベイ、この人こんなんしかよう作らん。さすがに阿呆のガキヤンキーもそこまでは踊らんかったようでありますなぁ。ええとこテレフィーチャーならどないかなったかもしれんが、新人使ってこのストーリーでヒットさせようなんざ…なんぼ「トランス・フォーマー」を当てたからって 舐めすぎとりまんなぁ。
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