大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:178『期待に胸を膨らませ』

2021-03-31 09:29:05 | 小説5

かの世界この世界:178

『期待に胸を膨らませ』語り手:テル(光子)    

 

 

 積もる話は山ほどあるんだけど、取りあえずはイザナギ・イザナミのこと。

 

 海に潜ったヒルコとアハシマにも気持ちは残ったけど、三羽のカモメのように並んでオノコロジマに戻った。

「すごい大木!」

「ほんとうは、アメノミハシラという柱だ」

 沖に出て戦っているうちにアメノミハシラの周囲はさらに緑が深くなっていて、わたしたちは、ミハシラの下の方が、程よい洞になっているところに落ち着いた。

「あちこち芽吹いて大木のようになっているけどね、この世界の生命の根源だ」

「この世界? えと……オーディンとかヴァルハラとかの世界じゃなくて」

「あちらからすると異世界だけど、わたしの世界の神話世界だと思う」

「というと、日本の?」

「そうよ、どんな力が働いているのか分からないけど、ここからやり直せということなんだと思う」

「や、やり直し……」

「わたしはワクワクしている。とりあえず、ここではラグナロク(最終戦争)は起こらずに済みそうだからな」

「ヒルデも、嫌だったの?」

「ロキ達を世界樹の女神に送った後は、真っ直ぐ父の主城ヴァルハラだ。そこで父は命ずる『ラグナロクの準備をしろ』とな……」

 ヒルデは言いよどんでしまう。テルにしても、あそこまで付き合った旅だから、十分聞く資格はあると思うんだけど、いまは触れるべきじゃないと思う。

「予感がするよ」

 ちょっと眉根にしわを寄せて返した。

「あ、今の表情可愛いぞ」

「よ、よしてよヒルデ(^_^;)」

 冷やかされて思い出した、冴子に「それは反則だ」と言われたわたしの癖だ。

 話がマジになり過ぎたり、話をここまでにしておきたいときに出てくる子供のころからの癖。

 話を打ち止めにするだけじゃなくて、半ば無意識に自分の可愛さをアピールしてしまう。ちょっと、際どい卑しさがある。

「ここはさ、たぶん日本神話の世界。それも一番最初の国生み神話のころだと思う」

「ラグナロクにはならないの?」

「無いと思う。日本神話はキチンと習ったことが無いけど、そう言うのは無かったはずだ」

「えと……だったら、観てればいいだけ? 人のゲーム動画みたくにさ!?」

「それは、どうかな。ここに来て、いくらも経っていないけど、もう二回も戦っているぞ。一度は、ついさっきだ、テルもいっしょに戦っただろうが」

「あ、そうなんだ」

「今回はスマホが使えるようで、一応の流れは分かるんだけども、どこでどの程度干渉することになるか分からない」

「まあ、気楽に行こうではないか。テルも戻ってきたし、このまま進んで行けば、他のメンバーも戻って来るような気がするぞ」

「そうね、取りあえず、あの二人を見守らなくっちゃ……」

 ゴソゴソゴソ

 三人並んで、斥候のような気分になって洞の淵に茂っている草をかき分ける。

 男女神は生まれたままの姿で、背を向けてミハシラを周っている。

 二人とも、さっきの失敗を取り戻す意気込みと、互いへの興味で、この高さから見てもハッキリわかるくらいに赤くなって、再びの出会いに期待を膨らませている。

 一種の吊り橋効果だな。

「膨らんでいるのは期待だけかぁ?」

「なんか、いやらしいっす」

「なにがイヤラシイ、わたしは胸の事を言ったんだ、期待に胸を膨らませって言うだろうが」

「あ、なんかごまかした」

「い、いやらしいって言う方がいやらしいんだぞ」

「ヒルデ、なんか息、荒くないっすか?」

「そ、そんなことは無いぞ、そういうケイトの方が赤いぞ」

「ち、違うっす(#'0'#)」

「二人とも静かに」

「テルは落ち着いてるっすね」

「こいつは、ムッツリなだけなんだろ(#'∀'#)」

「う、うるさい、ほら、二人がまた出会うわよ!」

 イザナギ・イザナミの二神は、学校の円形校舎ほどの太さになったミハシラを周って、二度目の出会いを果たそうというところだった……。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

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らいと古典・わたしの徒然草58『道心あらば』

2021-03-31 06:54:44 | 自己紹介

わたしの然草・58
『道心あらば』     



徒然草 第五十八段

「道心あらば、住む所にしもよらじ。家にあり、人に交はるとも、後世を願はんに難かるべきかは」と言ふは、さらに、後世知らぬ人なり。げには、この世をはかなみ、必ず、生死を出でんと思はんに、何の興ありてか、朝夕君に仕へ、家を願みる営みのいさましからん。心は縁にひかれて移るものなれば、閑かならでは、道は行じ難し(以下略)


 仏の道を学び、生死の迷いを捨て去ろうとするならば、坊主になって出家すべきだ!
 トチ狂った兼好の余計なお世話であります。略した後半では「死を見つめない者は畜生と変わる所あるのか」とまでのお節介ぶりです。

 兼好自身、坊主のナリはしていますが、都の中に身を置き、俗世間との付き合いにまみれてよく言えたものですねえ。真偽のほどは定かではありませんが、足利氏の重臣高師直(こうのもろなお)のラブレターの代筆をやったり、祭りや宴会などにも喜んで顔を出したりしています。

 まあ、そういう自分を振り返って、かくあらまほし(こうであったらいいなあ)の話なんでしょうね。

 なので、「かくあらまほし」の話しをしたいと思います。

 わたしは、子どものころは画家になりたかった。なぜか……他に取り柄が無いからです。小学校のころ、算数などは、一年遅れで理解していました。ローマ字がまともに書けるようになったのは中学になってから。音符が読めないので音楽の授業も嫌いでした。運動神経が鈍く体育も敬遠。高校に入ってからは、絵と芝居ばかりやっていました。昨年演劇部の同窓会で、後輩にこう言われました。
「大橋さん、学校に勉強しにきてはったんとちゃうでしょ」
「そうや、絵描くのんと、芝居だけしに行ってた」
 美術の授業は好きだった。先生は和気史郎というプロの油絵の先生で、梅原猛氏、瀬戸内寂聴氏は和気先生を『狂気と正気の間の芸術家』と賛辞したほどの人であります。学校で、ちゃんと進路を見据えて生徒扱いしてくれた唯一の先生でもあります。ある日、先生がおっしゃいました。
「大橋君、きみ美術の学校にいかないか」
 大人から、初めてかけられた「かくあれかし」の言葉でした。大げさにではなく身が震えて、そして担任に相談しました。
「美術の大学行きたいんですけど……和気先生にすすめられ……」
 担任は椅子に座って背中のまま、顔も見ないでこう言いました。
「美術の大学は、実技の他にも試験があるねんぞ」
 で……お終いになってしまいました。
 わたしは後年教師になりましたが、生徒が相談に来たときは、必ず正対して顔を見て話すことを心がけました。

 和気先生は、卒業記念の湯飲みの原画を無料で描いて下さいました。生徒たちも和気先生を単なる美術の講師ではなく、人間的な師と仰いでいるようなところがありました。先生は無心に絵を描く生徒には実に優しく、美術室は施錠されることが無く、好きな時に好きなだけ絵を描かせてくださった。逆にいい加減な態度で授業に臨む生徒には厳しく、授業中抜けて食堂に行っていた生徒には作品を取り上げ本気で怒鳴っておられました。怒鳴られた生徒の中には、コワモテの学園紛争の闘士も混ざっていて、他の先生は、そういう生徒には一歩引いた物言いしかしませんでした。この歳になるまでいろんな人間の怒鳴り声を聞きましたが、和気先生の怒気を超えるものを聞いたことがありません。
 担任は、その卒業記念の原画に、和気先生の落款をもらおうとして断られました。落款があれば作品となり、それだけで途方もない値打ちが付く。生徒たちは、密かに、担任を軽蔑しました。
 和気先生は、わたしが卒業したあと、正規の教員(担任業務などの校務ができる)が欲しい管理職に申し渡され、退職されました。
 そのころも、今でも、学校は間違った選択をしたと思っています。
「かくあらまほし」ということを、きちんと言える大人は少ない。
「かくあれかし」ということを、きちんと心に刻める若者も少ない。

 それからのわたしは芝居だけでありました。わたしが人がましく見てもらえるものは絵と芝居しか無かったので、消去法で芝居が残りました。
 消去法ではありましたが、いま振り返ると頑張っていましたね。早朝から学校に行き、演技の基礎練習をやって、昼休み、放課後は部室で何かしら演劇的な試行錯誤をくり返していました。自然とエチュ-ドが有効であることに気づき、哀れな後輩を捕まえては相手をさせていました。
 青春とは臆病なもので、何か、誰かに後押ししてもらわなければ前に進めないものです。結局、芝居も一歩腰が引け、アマチュア劇団、高校演劇の世界の中で「ま、いいか」で五十年が過ぎてしまいました。人間はNHKの朝の連ドラのようには成長しませんね。
 
 今、和気先生の晩年の歳に近くなってきて、若い人に「かくあらまほしき」と言えるだけのものは、わたしの中にはまだありません。しかし、若者たちがやっていることで「これは違う」と思うことが気になりだしました。ポジティブに「かくあれかし」とはなかなか言えないことがもどかしい。
 いつだったか、電車の中で初任校の卒業生に声をかけられた。聞くと、社会科の教師になっていました。
「先生の授業聞いてて、社会の教師になろと思たんです」
 わたしが教師になった理由は不純です。教員採用試験を受けることをプータロウでいることの言い訳にしていました。で、五回目の試験を受ける半年前に父が病気で仕事を辞めました。
 これに受からなければ、我が家は食っていけない。それで、人生で初めて食うための勉強をして、なんとか通りました。
 教師になってからは、教えてもらった先生達を頭に浮かべ、あんな教師にはならないでおこうと思ってやってきました。とても和気先生のように人格で圧倒できるような教師ではありませんでした。
 くだんの卒業生、ひょっとしたら「大橋のような教師にはなりたくない」と思ったのかもしれませんねえ。世の中には、わたしたちの世代が好んだ「反面教師」という言葉があります。

「かくあらまほし」というものは難儀なもんですなあ、兼好さん。

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真凡プレジデント・38《琢磨の本気の本気》

2021-03-31 06:33:18 | 小説3

レジデント・38

《琢磨の本気の本気》      

 

 

 ここだけの話だが、俺はハッカーだった。

 

 小六の時にアメリカの国防総省や中国国務院や日本の防衛省のCPに侵入した。

 侵入するだけで、特段の悪さはしない。

 ただ一度だけ、主民党政府の震災や原発への対応のまずさ、一ドル八十円の円高、この円高で親父の仕事はかなりきつかった。その他いろいろ子ども心にも許せなくて霞が関一体のPCを混乱させたことがある。

 詳しくは言えないが、俺の介入が無ければ、主民党の政権は、もう半年は続いていたと思う。

 しかし、他にいろんなことに興味のあった俺は、子どもらしいミスを犯してしまった。

 霞が関の公的機関すべてをマヒに追い込んだんだけど、うっかり霞ケ浦管理事務所のPCをダウンさせてしまって、霞ケ浦の水利・水質管理に多大な支障をきたしてしまった。

 以来、ハッカー活動は止めていたんだけど、今度の件では、いささか頭に来てやってしまった。

 

 取材中の記者とディレクターの過去を洗い出すのは簡単だった。

 

 人の不正行為にはトコトン厳しいが、自分には甘いのがマスメディアだ。

 記者は酒を飲ませたあげくに女性に乱暴を働いていたこと、ディレクターはタレントの薬物使用をスクープするために、血のにじむ思いで薬物から遠のいていたタレントに大麻を吸引させた。その二件を調べ上げて事に及んだ。

 中継の現場で逮捕されてしまったので、テレビ局としても庇いようがなく、二人は即刻クビになった。

 しかし、学校への取材そのものは止まなかった。

 入試の採点ミスで不合格になった女子が訴えてきたことが発端であるが、マスメディアは、この子を焚きつけた。

――法的には、原状回復を訴えるのがスジだよ――

――え、原状回復って?――

――キミの合格と入学を認めさせることだよ――

――そんなことできるの?――

――できるよ、というか、そうしないと『遺憾の意』を表されておしまいになるよ――

――イカンノイ?――

――『ごめんなさい』と発表して、あとは何も変わらない。世間は三日で忘れるよ――

――それはヤダ――

――だからね、合格と入学を認めさせることだよ。そうしないと学校も教育委員会も懲りない――

――う、うん、分かった――

 そう誘導したのだが、調子に乗る奴は、いつでもどこにでもいるもので、こういう奴が出てきた。

――だったら、間違って合格したやつを辞めさせるべきだ――

――そいつの合格を取り消せ!――

 

 先日までは、それは可哀そうだというのが多数だったが、テレビ局の巻き返しの中で息を吹き返してきた。

 真凡たちの努力で、間違って入学したそいつ……橘なつきへの風当たりは再び強くなってきた。

 なつきが、もうちょっと勉強できたらなあ……。

 偶然を装ってコンビニで出会ったなつきに、そう思ったが、なつきには、それを補って余りある善良さがある。

 この梅雨時にフードをスッポリかぶってスナック菓子を買いに来たなつきに声をかけるのもはばかられ、俺は次のステップを踏むことを決意したのだった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

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せやさかい・198『銀之助の秘密の秘密はSOS団』

2021-03-30 09:22:52 | ノベル

・198

『銀之助の秘密の秘密はSOS団』さくら     

 

 

 え、年上やったん!?

 

 意外な人が意外にも年上やって、ビックリすることてありません?

 小学校の担任の先生が見た目より年上やいうのが分かって驚いたことがあります。

 仮にA先生と呼んでおきます。

 小柄なツインテールで、着てる服もピンクとかエメラルドグリーンとか、それが、白い肌にピッタリで、ちょっと憧れてました。ほら、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の桐乃のファッションに似てるんです。

 クラスでA先生の事をネットで調べた奴がおったんです。奴と呼ぶからにはけしからん奴で、むろん男子で、しょーもない奴!

 A先生の出身高校を突き止めて、小学生とは思えん能力で卒アルやら文集やらを見つけてきよって、うちらが思てるより十歳も年上やったという事実を突き止めよった。

「あのなあ、ツインテールは、リフトアップのためやねんぞ」

 生き物係で、ウサギ小屋の世話してるときに、こっそり言いよった。

 リフトアップいうと、オッパイの事やた思てたので顔中が?マークになった。なんで、ツインテールにしたらオッパイがつり上がるのか?

「ちゃうちゃう、顔のしわとかたるみとかや」

 そう言うと、そいつは兎の耳を持って吊り上げよった。

「ほらな」

 なるほど、ウサギの目ぇがつり上がってウサギに化けたキツネになった。若いと言うよりは怖い顔になる。

「ウサギの顔はシワとかはないからな」

 家に帰って、半信半疑でお母さんに聞いた。

「リフトアップしたら、若く見えるのん?」

「ああ、なるよ……ほら!」

 両手でこめかみのとこをグッと上げるお母さん。

「おお!」

 ひいき目に見んでも五歳くらいは若返る。

「そうか、お父さんは、こういう顔してるお母さんに惚れたんや!」

「アハハハ」

 笑って手を離したとたんに、元のアラフォーさん。

「…………」

「そう露骨に残念な顔しなやあ!」

 お母さんとはじゃれ合っておしまいやったんやけどね。

 

 プールの授業の時に、先生のスイミングキャップが取れたことがある。

 水泳なんで、ツインテールも解してキャップの中にまとめてたんが、ザバっと出てしもた。

 スッピンやったこともあって、先生の素顔は、まさかと想像してたよりも老けて見えてしもてた。

 正直、ショックやった。せやけど、これは単なる前フリ。

 

 次元はちゃうけど、それと同じくらいショックなことを銀之助が言いよった。

 

「涼宮ハルヒは十八歳なんです!」

「ええ!?」

 留美ちゃんといっしょに驚く。

 涼宮ハルヒはうちも好きなアニメ。詩(ことは)ちゃんもDVD持ってて、いっかい通しで見せてもろた。

「元はラノベで、2003年から、ずっと出てるんです」

「え?」

 2003年いうたら、うちなんか影も形も無い時代や。

「ずっと出てるって……完結してなかった?」

 留美ちゃんは目の付け所がちゃう。

「はい、去年の秋に『涼宮ハルヒの直感』が出たんです!」

 

 涼宮ハルヒというとSOS団。

 クラス開きの自己紹介で「東京出身、涼宮ハルヒ。ただの人間のは興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのとこに来なさい、以上!」とぶちかます。

 アニメはとっくに完結してるんで、ラノベも終わってると思ってたら、とんでもない、まだまだ続いてたんです。

「それで、僕も、ひとりSOS団をやってるんです!」

 ちょっとぶっ飛んで、銀之助講演会を締めくくりよった。

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真凡プレジデント・37《琢磨の本気》

2021-03-30 06:42:53 | 小説3

レジデント・37

《琢磨の本気》      

 

 

 

 こんな取材は止めてください。

 

 静かに三回繰り返した。

 相手は各社との取材合戦に、いささか興奮気味だ。俺が先日の列車停止事件の張本人だという興奮もあるんだろう。

 こういう場合は、相手よりも冷めたトーンで静かに繰り返す方がいい。相手がいっそう薄っぺらに見えるからだ。

 三回繰り返したところで、スタジオから――話を聞いてやれ――の指示があった。一点リードだ。

 

「ありがとうスタジオの青木プロディユーサーと報道局の佐藤さん」

 あらかじめ調べておいたスタジオの責任者の名前を上げて置く。

 スタジオに軽いどよめきが起こったのが、取材チームの表情からでも分かる。

「本件の決定は教育委員会です。学校は、その指導に従っているだけです。入試当時の学校長・教務主任・入試委員長は、すでに退職・転勤されています。取材するなら、当事者にあたるべきでしょ。単に絵面がいいからというだけで学校に押しかけられるのは迷惑な話です。そんな基本的なウラも取らないで取材に来たとしたら、取材のリテラシーやマスメディアの常識をわきまえない行為だと言っていいでしょう、どうなんですか?」

「いや、でも、世間の注目は……」

「数字さえ取れればいいというゲスな狙いからだけじゃないですよね」

「それは、もちろん」

「じゃあ、お引き取りください。こんなことをされては授業も部活も満足にできない」

「だから、学校の裏通りからやってるし……」

「そこの立て看板や住居表示を映しといて、それはないでしょ。ネットの時代、これで学校名は秘匿したということにはならないでしょう、それに上空のヘリコプターはオタクのでしょ」

「でも、我々を追い返したら、ますます学校は疑われるわけで……」

「威力業務妨害です、通報しますよ」

「だから、そうはならないように……」

「見えるでしょグラウンド、みんな部活どころじゃないんです。あの三階では補習をやっていますが、みんな落ち着きがない、カーテンの隙間から、こっちを伺ってるんですよ」

「それは、ぼくらの……」

「責任ではないと? らちがあきません……」

「なに、いまスマホ触ったのは?」

「あらかじめ用意していたものを添えて通報しました、通報先は……」

 スマホを掲げて見せてやった。地元警察始め、当該放送局以下主要メディア、文科省、CNNテレビまで135か所余りに流れた。

「それに、あなた方の対応には幻滅しました。この二十四時間以内に、この行き過ぎた取材と放送に局として陳謝し回復措置をとらない限り、僕は市民として許される範囲で報復に出ます」

 そこまで畳みかけた時にパトカーがやってきた。

「な、なんですか! 正当な取材ですよ! 横暴なことは止めて……」

 警察は、その場で記者と現場ディレクターに任意同行を求めた。

 取材の苦情対応にしては大げさなのだが、警察は譲らない。

「潔白なら行った方がいいですよ、もし無事に出てこられたら、その時は取材してもらえるように協力しますから」

「ほんと?」

「僕が、今まで嘘を言ったことが無いのは御承知でしょ。そうだ、こうしましょう。僕も警察に同行しますよ(^▽^)」

 そう言うと、警官もありがたがり、記者もディレクターも大人しく俺と一緒にパトカーに乗った。

 二人は一晩警察に泊まることになって、俺も自分の意思で泊ってやった。

 あくる日、いったん保釈されて俺と一緒に警察署を出たところで逮捕されてしまう。

 それぞれ婦女暴行と薬物使用教唆の容疑だ。

 俺は、警察で二人に関するあれこれを写真や映像付きで開示してやったからね。

 その後の取材には協力してやった。駆けつけてきた他局や新聞の取材にね。

 ね、ちゃんと約束通りだろ。

 俺は戦うとなったら、あいつらの吐く息の成分まで調べ上げてかかるんだ。ニュースソースは勘弁してほしいけどね。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問
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誤訳怪訳日本の神話・32『やっぱり、こいつは大っ嫌いだ』

2021-03-29 09:18:30 | 評論

訳日本の神話・32
『やっぱり、こいつは大っ嫌いだ』    

 

 

 スサノオの意地悪の三回目の続きです。

 

 一回は蛇の岩屋、二回目はムカデの岩屋に放り込みますが、オオナムチはスセリヒメが機転を利かせて事なきを得ました。

 三回目は、自慢の強弓で鏑矢を撃って、それを取りに行ってこいとオオナムチに命じます。

 弓矢の射程距離はせいぜい400メートルですから、小学校の外周を一周するほどの距離。

 ひとっ走り行ってこようと張り切るオオナムチですが、スサノオの矢は見渡す限りの草原の中に落ちてしまっています。

 草はオオナムチの腰の高さほどに繁茂していて、容易に見つけることができません。

「ええと……どこに落ちたかなあ……」

 オオナムチという若者は、言われたこと、命ぜられたことに疑問を持ちません。

 白兎のところでも兄のヤソガミたちに言われるままで、怒るということがありません。

 手間山の赤猪と偽って真っ赤に焼けた岩に押しつぶされ……これは一度死んでいます。体を押しつぶされたうえに、石焼き芋のように焼かれてしまいますが怒った様子がありません。

 スサノオの二度のいじめに遭っても、翌朝には「おはようございます」と挨拶しているようなありさまです。

「こいつ、どんな神経しとんじゃ!?」

 スサノオは、逆に切れやすいオッサンです。

 感情の量が大きい男です。

 子どものころは母親のイザナギが居ないと言っては手足をジタバタさせてしょっちゅう地震を起こしていましたし、高天原でも姉のアマテラスがブチギレて天岩戸に隠れるほどの悪さをします。

 そもそも、高天原に行ったのもスサノオの乱暴を持て余したイザナギに「お姉ちゃんのアマテラスには母の面影がある」と父に言われ、矢も楯もたまらなくなったからです。その勢いは凄まじく、アマテラスは「バカ弟が攻めてきた!」と、高天原の軍勢を引き連れて出撃したほどです。

 ヤマタノオロチを退治した時は、痛快な働きをしますが、その原動力は彼の大きすぎる感情量です。

 古事記を素材にした東映アニメに『わんぱく皇子のオロチ退治』がありますが、ここでのスサノオはオロチをやっつけるため神話世界第一の名馬と言われたアメノフチコマを乗りこなします。

 アメノフチコマは「あんたを乗せてやってもいいけど、あたしの走りっぷりを〇十分(時間は忘れました)瞬きせずに見てんのよ!」と言われ、一度も瞬きせずに見極め、見事自分の乗馬にしています。

 こういう激しく感情量の多いオッサンは、何を考えているか分からない、感情の揺らめきさえ見えないオオナムチは、たまらなくイライラする若造なんでしょう。まして、愛娘のスセリヒメがぞっこんなのですから、いらだちはマックスなのです。

 スサノオは、オオナムチが正直に鏑矢を探している草原に火矢を射かけて焼き殺そうとします。

 キャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 スセリヒメはムンクの『叫び』のような悲鳴をあげます。

 草原は一晩燃え続け、とてもオオナムチは生きていないだろうと思われました。手間山の赤猪の時も、オオナムチはちゃんと焼け死んでいますから。

「いいか、ああいうなまっちろいクソ男は、こういう死に方をするんだ。目を覚ませスセリヒメ!」

 理不尽な説教を垂れる父親にスセリヒメは言葉もありません。

 すると、ブスブス煙る焼け跡の向こうから声がします。

―― おとうさーーーん、ありましたよーーーーー ――

 呑気な表情で焦げた鏑矢を掲げてノンビリと歩いてきます。

「!?」

「オオナムチ!」

 スセリヒメはピョンピョン飛んで喜びます。

 スサノオは苦虫を嚙み潰したような顔をして思いました。

―― やっぱり、こいつは大っ嫌いだ ――

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らいと古典・わたしの徒然草・57『かたはらいたく、聞きにくし』

2021-03-29 06:41:26 | 自己紹介

わたしの然草・57
『かたはらいたく、聞きにくし』  



徒然草 第五十七段

 人の語り出でたる歌物語の、歌のわろきこそ、本意なけれ。少しその道知らん人は、いみじと思ひては語らじ。すべて、いとも知らぬ道の物語したる、かたはらいたく、聞きにくし。

 中途半端な知識や経験で、あれこれウンチクをたれるのはウザイだよなあ……。
 これを、兼好のオッチャンは、自分の専門の和歌に例えて言っています。

「歌詠みは下手こそよけれ天地(あめつち)の動きいだしてたまるものかは」
 宿屋飯盛の狂歌を思い出します。
 これは古今和歌集の序、「力をもいれずして天地を動かし…」をもじったものであると言われています。
 この狂歌は、宿屋飯盛の意図を超え、中途半端を超えて専門家さえ疑ってかかれ。と言う風に聞こえます。

 子どもの頃、社会主義や共産主義の国が世界の半分あって、なかなか捨てたもんじゃない。と教えられました。唯物論の初歩を教えられ、遠回しではあるが、マルクス・レーニンの考えと、それを理念として、当時現実に存在していた国々は正しいとも教えられました。
 しかし前世紀末にそういう国々は地上から姿を消しました。子どもの頃、朝日新聞の天声人語で入江徳郎氏がアジア某国に行き、その国を礼賛したものを読んだことを思いだします。

――ホテルから見える街は清潔で、労働者たちが隊列を組んで合唱しながら整然と職場から帰る姿に、この国のすばらしさを感じた。そういう内容でした。
 中国の文化大革命を頼もしく思っていた時期がありました。
 高三のとき『誰も書かなかったソ連』という本を読みました。あまりに習ったこととかけ離れたことが書かれていたので、先生に聞いてみました。
「アメリカはもっと矛盾に満ちた国だ」と答えられました。
 その『誰も書かなかったソ連』の姿が現実であることは、ソ連が崩壊してから知ったし、もっと矛盾に満ちたアメリカが健在であることで、わたしは先生や著名人の言うことを鵜呑みにはしないニイチャンになりました。

 わたしは、高校二年を二回やりました。つまり落第なのですが、専門用語では原級留置と警察のお世話になるような言い方をします、高校生のスラングではダブリと申します。
 わたしは落ちた時に先生達から、こう言われました。
「オマエが落ちるとは思わんかった……」余韻の部分には軽蔑と非難のニュアンスがありました。
 わたしは、いわゆる品行方正な生徒で、留年が決定する、ほんの二週間前には在校生代表として、卒業式で送辞を読んでおりました。
「前代未聞だ!」と東京帝大卒の先生ななじられました。
「送辞を読んだ在校生代表が原級留置になるなんて、聞いたことがない」と続きます。
 純真だったわたしは自分を責めました。しかし現場の先生になって気づきました。
 留年する生徒には、成績面はもちろんのこと、出欠状況にも前兆があります。わたしは留年した年二十日ほどの欠席がありました。当時の生徒の出欠管理などいいかげんなもので、現実には三十日は欠席しています。わたし が教師になったときは、成績、出欠ともに担任、教科担当は厳格に掌握していて、一学期末から本人への指導はもちろんなこと、保護者への連絡と連携指導は当たり前のことでした。
「オマエが落ちるとは思わんかった……」は、教師と学校の怠慢でしかありません。今こんな言葉を留年決定時にい言えば、学校は指導の責任を問われます。

 目出度く三年に進級したとき驚きました。学年の落第生が三人同じクラスになっていました。落第など学年に一人いるかいないかの学校だったので、落第三人組は喜びました。
「わあ、大橋君と○○君もいっしょや!」
 落第女子がそう言って笑いました。無邪気なものです。
 学年の他の担任の先生も「卒業できるようにがんばれ!」と、励ましてくださいました。
 現職になって分かったことですが、留年などの問題を抱えた生徒は、どの担任も持ちたがりません。で、キャリアや分掌の仕事などを考え、話し合って、そういう生徒は分担して受け持つのが普通です。
 わたしたち落第三人組を引き受けたのは、カバさんでした。
 むろんあだ名です。
 お顔と動きの緩慢さから付いたあだ名で、学年主任の先生であられました。担任会で引き受けてのない三人組を主任の責任で、お引き受けになったのであろうと思います。いわゆる貧乏くじ。
「がんばれよ!」と励ましてくれた他の先生たちは、留年生の受け持ちにはなりたくなかったのだと思います。学校とは社会の縮図、それも一時代遅れの縮図です。わたしが高校で教わった教養は美術の他は、ただ一つ。
「反面教師」の四文字でありました。

 どうもいけません、かたはらいたくから脱線して終わってしまいます。

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真凡プレジデント・36《琢磨の膝カックン》

2021-03-29 06:17:47 | 小説3

レジデント・36

《琢磨の膝カックン》      

 

 

 俺は世間の高校三年生よりはできる男だと思う。

 勉強はもちろん、身体的能力も、物事への洞察力も忍耐力もリーダーシップも表現力も、他にいろんなこともな。

 でも、スターになったり、将来政界に打って出て総理大臣を目指したり、そんなことは考えていない。

 さしあたり、平穏な高校生活を全うし、とりあえず大学に入れればいいと思っている。

 ちょっと前、テレビ局の企画に乗って司法試験の過去問をやった。

 ひょんなことで、ネット上、現役の国会議員にして弁護士で国務大臣経験者の某氏と論戦になり、絡んできたテレビ局の陰謀に乗ってしまったからだ。

 

 結果的に、俺は合格、某氏は落第の点数だった。

 

 高校生に負ける弁護士ってどうなんだ!

 野党が勢いづいて、あちこちで某氏を揶揄し、嘲笑った。

「今度は、ぜひ、野党の○○さんとやりたいですね」

 学校までやってきた記者に言ってやった。

 もと検事の女性議員の名を上げておいたが、野党を貶めることはご法度のようで、みごとに無視された。

 

 まあ、それもいい。政治には興味ないし、俺は、俺の周囲が平穏で、程よく活気づいていれば、それでいいんだ。

 

 今回は二年前の入試に不手際があり、本来合格していたはずの女の子が落とされたという事実が発覚した。

 その子は、入試の開示請求をおこない、採点ミスで落とされたことを知ったのだ。

 それ自体は去年の話なんだけど、学校も教育委員会も初期対応をあやまり、その子はへそを曲げてしまった。

 その子なりに調べてネットでも評判になりかけたころ、その子とは逆に、落ちていたはずの子が受かっていることに気が付いた。

 それが、橘なつきだ。

 生徒会会計にして我が天敵北白川綾乃のクラスメート。生徒会選挙に絡んだ一連の事件で俺の意識圏の中に入ってきた田中真凡の親友でもある。

 ここまでの展開が気になったら、ちょっと手間だが読み返してほしい。一つ一つは平凡な日常だが、とっても非日常的な、世界がひっくり返りそうな出来事が起こりそうな予感がすると思うぜ。『ブラジルの一匹の蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こす』的な展開がな。まだまだ萌芽と言っていい段階だが……まあ、あまり煽るような言動は慎もう。

 ともかく、なつきに罪は無いし、その子もなつきを貶めるつもりはない。

 ただ、面白いから世間もテレビ局も騒いだ。俺が予感しているようなことではなく、単に視聴率が稼げそうな面白さ。そいつのために連日学校を取り巻いては、あることないこと取材していく。

 もちろん学校名は伏せているが、そんなものは建前だけで、登下校の生徒にインタビューを求めたり、コメンテーターに好き放題なことを言わせては視聴率を稼いでいる。

「今日も○○高校前に来ております。二度目の取材を申し入れてありますが、断られてしまいましたので、やむなく学校の裏手の一般道からお送りいたしています。視聴者の皆さまからは学校名の公表など望む声が上がっておりますが、わたしたちは一般生徒の皆さんの平穏を侵したくはありませんので、このような隔靴搔痒のような取材方法をとっております」

 わざとらしく電柱の所番地表記にモザイクを掛けて収録の真っ最中。

 

 カックン

 

 正義の味方ヅラの放送記者に膝カックンを食らわせるところから始めてみた。

「わ、わ、なにを!?」

 オタオタする放送記者は、間抜けた阿呆面で俺を確認すると、媚びた顔で迫って来た。

「あ、キミは列車事故を未然に防いだ柳沢琢磨くん!」

 先月までは付けていたサイコパスの称号を外して、友だちのような笑顔を振りまいてきやがった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問
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魔法少女マヂカ・204『上野公園を目指して』

2021-03-28 09:16:16 | 小説

魔法少女マヂカ・204

『上野公園を目指して』語り手:マヂカ    

 

 

 日本橋を渡る。緩いアーチになっているので、渡るにつれて、橋の向こう側で待っている背の高い方の霧子の首が現れる。

 心配してくれていたんだ、わたしとブリンダの姿を認めると年頃の女学生らしく零れるような笑顔になる。その笑顔に触発されてノンコがジャンプ。両手を挙げて全身で「おかえり!」を言っている。この二人に害が及ばなくてホッとする。

 

「二人で、なんか暴れてたやろ?」

 腕組みしてノンコが不足顔。

 霧子は気づいていないが、ノンコは準魔法少女なので、なんとなく分かっているようだ。

「ちょっとな、でも、もう大丈夫だ」

「さ、帰るよ」

「え?」

「うちも、なんかしたいいい!」

「無事に終わったんだぞ、帰って授業うけるよ」

「ええやんか、うちもぉ! うちらもぉ!」

「子どもみたいなやつだな」

「子どもや、まだ女学生やぞ!」

「しょうのないやつだな」

「霧子は?」

「うん、わたしも、自分でなにかやってみたいかな」

「じゃ、ほんとに上野に行ってみる?」

「「いくいく」」

 話が決まって、日本橋を渡りなおして東に向かう。

「摂政殿下の御一行も無事に通られただろ?」

 これには霧子が食いついてきた。

「感動したわ!」

「そう、わたしも見たかったなあ!」

 ブリンダも調子を合わせる。

「侍従たちを従えておられるんだけど、あちこちで立ち止まられ、ご自分の目で追確かめになっておられた。時々ご下問になっておられるご様子だったけど、何度かは、ご自分で聞いておられた。少佐の軍服をお召しだから、聞かれた方もすぐには殿下だとは気づかずに、生の声で応えていて、一度はこちらの方をお向きになって、小さく頷かれた」

「霧子見つめすぎや」

「新畑は来なかったか?」

「うん……」

 新畑に関しては触れてほしくない様子だ、今はそっとしておこう。

 

 う……

 

 一瞬顔をしかめたノンコだが、それ以上声にするようなことはしなかった。

 上野公園に着くと、それまで大通りを歩いていては気づかない臭いが立ち込めている。

 震災そのものから十日近く立っている。

 この上野公園では震災直後から数万人の被災者が避難して来て、あちこちでバラックとも言えないものを作って住み着いているのだ。

 その間、まともに風呂にも入れず食事もままならない状況が続いている。

 百年後の令和なら、取りあえずは学校などの緊急避難施設を使うことができるが、大正時代に、そんなものはない。上野公園は広さこそはあるが、しょせんは公園だ。風呂はおろか、生活用水の施設もトイレさえない。避難民は、あちこちに穴を掘って簡易トイレにして、当局は消毒用の石灰を散布するくらいしかできていないだろう。

 プップー!

 クラクションに驚かされる。

 陸軍のトラックが三台入ってきたのだ。

「警備の部隊か」

 ブリンダがアメリカ人の感覚で見当をつける。

「ちがう、食料を配給しに来たんだ」

 トラックの荷台には『被災者用配給物資輸送部隊』と膜が張ってあり、所属部隊は『一師』とあるから、帝都防衛に当っている第一師団のようだ。

 トラックの姿が見えると、避難民の人たちが集まり始めた。

「警備部隊は何をしている? このまま配給を始めたら暴動が起こるぞ」

 ブリンダが心配する。

「その心配は無いと思うよ、ほら、巡査が……」

 巡査が二人現れて、穏やかに列を作って並ぶように指示している。人数が多いので、ほとんど身振り手振りのジェスチャーで、レトロな巡査服と相まって、どこかテーマパークのキャストめいて見える。

「あれで間に合うのか? 銃も持たずに……トラックにも数人の兵隊しか乗っていないぞ」

 巡査と兵隊が敬礼し合い、わずかに言葉を交わしただけで、穏やかに配給が始まった。

「この時代から日本人はこうなのか……」

 警備と言うよりは整理係のような巡査、特に警戒する様子もなく丸腰で荷台から配給物資を下ろす兵隊。避難民一人一人に手渡しする兵隊、もらった米や物資を受け取ると、けして卑屈ではなくお辞儀して後ろの者と交代する人々。

「最後尾のプラカードがあったら、コミケと変わらへんわ」

「コミケ?」

「さあ、わたしらも手伝おうか」

「配給をか?」

「もっと学生らしいこと……あっちだ」

 わたしは三人を先導して欅の間に幕を張った『帝都大学学生会援護所』を目指した。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 

 

 

 

 

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らいと古典・わたしの徒然草56

2021-03-28 05:18:22 | 自己紹介

わたしの然草・56
『よき人の物語するは』  



徒然草 第五十六段

 久しく隔りて逢ひたる人の、我が方にありつる事、数々に残りなく語り続くるこそ、あいなけれ。隔てなく馴れぬる人も、程経て見るは、恥づかしからぬかは。つぎざまの人は、あからさまに立ち出でても、今日ありつる事とて、息も継ぎあへず語り興ずるぞかし。人あまたあれど、一人に向きて言ふを、おのづから、人も聞くにこそあれ、よからぬ人は、誰ともなく、あまたの中にうち出でて、見ることのやうに語りなせば、皆同じく笑ひののしる。いとらうがはし。
 をかしき事を言ひてもいたく興ぜぬと、興なき事を言ひてもよく笑ふにぞ、品のほど計られぬべき。
 人の見ざまのよし・あし、才ある人はその事など定め合へるに、己が身をひきかけて言ひ出でたる、いとわびし。

 これは人付き合いについての兼好のの意見、感想というか、処世術ですね。

 久しぶりに会った人に、自分のことばっかし喋りまくるのはアカンと言います。
「おれさ、あれから、あんなこと、こんなことあってさ。そんでよ……」
 という具合で、自分の事しか言わない。会話で大事なのは、いかに人の話が聞けるかにある。
 わたしも久方ぶりの人は、まず相手の話を聞くことにしています。
 教師をやっていて身に付いたことであります。
 懇談などやっても、「お子さんの成績がどうのこうの」などとは始めません。
「お家のほうでは、いかがですか?」から始める。
「いや、ちょっとも言うこと聞きませんわ」
「どんな話をしはるんですか?」
 あとは、出てきた話に合わせます。
「いや、うちの主人が、ちょっとも子どものことやら、家のことは言わしませんねん」
 ああ、このお母ちゃんは、かなり自分の亭主のことに不満があるなあ、と知れます。
 ひとしきり、亭主の棚卸しを聞く。長くなりそうだったら、こう提案する。
「お母さん、なんやったら、別に時間とってお聞きしましょか」
 十人に一人ぐらい「そうしてもらえます!?」になる。
 そう答えたお母さんの大半は、それだけで終わりになる。
 ごく稀に、本当に、もう一度やってくるお母さんがいます。最長で、六時間喋っていったお母ちゃんがいました。子どもへの不満から始まり、果ては自分の半生記を語り出す。
 それをとぎらせず、ひたすら聞く。黙って聞いていてはいけない。「ほー」とか「それから?」とか合いの手を入れる。「大変でしたなあ」「よう辛抱しはりましたなあ」などと親和的な言葉も挟む。

 生徒に対しても同じで、相手の言葉から、話のトッカカリをつかんで話を聞きます。

 男子生徒が、女子生徒を叩く現場に出くわしたことがあります。当たり前なら暴力行為で、すぐ生活指導室に引っ張っていき、事情聴取、そして主担や生指部長に報告、で、停学処分となります。周りに他の教師や生徒もおらず。二人が個人的関係であることも承知していました。「夫婦ゲンカやったら外でやってくれよ」から始めました。女の子の表情も伺う。涙目ではあるが、「二人のことやねん」と目が言っています。
 で、二三日様子をみる。夫婦ゲンカは収まっている。で、時を置いて聞いてみる。
「なんでどついたんや?」
「しょうもないこっちゃねん。こないだ待ちきっとったら用事できて行かれへんかってん。ほんなら、あのブス、ムクレよったさかい」
「あほか、おまえら」
「エヘヘ……」
 と、話して収まりがつく。
 これ、普段から生徒との関係ができていて、また生徒同士の関係を承知していなければできない芸当であります。

 よそのクラスの懇談で、こんなことがありました。たまたまPTAの担当だったので、その懇談に来たお父ちゃんのグチを聞くことができました。
「子どもを、私立の大学にやりたい言うたんですわ……」
「ほう、で、なにか?」
「担任のセンセ、いきなり『三百万用意してください。四年間でそのくらいかかります』ですわ」
 子どもにしろ、親にしろ、私学の大学に行かせるのには、それなりの葛藤があったはずです。なんせ、わたしの学校は進学と就職が半々なのです。まずは、進学と決めたことへの敬意を持ち、経緯を聞かなければならりません。そのお父ちゃんは、息子の進学のため自動車の買い換えを諦めたそうなのです。そんな話を食堂でうどんをすすりながら伺いました。
 
 先日、ご主人の母国フランスに帰る女友達の送別会を六人でやりました。前述したような会話のコツを心得たもの同士であったので、話題の振り方も程よく、互いの近況をほぼ等分に聞くことができました。わたしは高校演劇関係でカタキを作りすぎると意見されました。友人は、日本人がいかにフランスを尊敬しすぎているかについて述べ、間接的にフランスに行くのがイヤだということをおもしろおかしく話してくれました。この友人の子どもは三人いますが、上の二人は日本に留まり、上の子は自衛隊に志願するとのことで、一般論としては賛成。個人的には「もうちょっと考えたほうがいい」と言っていました。これから先、自衛隊は体と命を張った任務が増えそうだからとの心配からです。

 よき人の物語するは、人あまたあれど、一人に向きて言ふを、おのづから、人も聞くにこそあれ(本当にできた人の話は、大勢の人に語っているようでも、一人一人に語りかけているようでいいんだよなあ)
 こんな人は少なくなった。

 先の大震災のおりの天皇陛下(いまの上皇陛下)のお言葉など、これであったように感じました。そういうと「おまえはカタヨッテいる」と言われます。陛下は当時の石原慎太郎都知事が「被災地のお見舞いは、皇太子殿下にお任せになっては」との意見具申にいちいち頷かれ、会談の終わり、会場の出口で立ち止まられ、こうおっしゃったそうです。
「やはり、被災地へは、わたし自身で行きます」
 さすがの石原氏も汗顔であったそうです。こういう話に日本人はドンカンになってしまいました。兼好の時代の日本人は、人の話を聞くアンテナの感度が、今の日本人よりよかったのではないかと感じてしまいます。鎌倉仏教が隆盛になったのは、兼好のオッチャンより少し前の時代でありましたが、感度がよかったからこそ、日蓮、法然、親鸞などの「よき人」の話が素直に入ったのではと想像します。今の時代ならば中程度の新興宗教で終わっていたのではないでしょうか。
 

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真凡プレジデント・35《ペス》

2021-03-28 04:54:31 | 小説3

レジデント・35

《ペス》        

 

 

 呼び出されたのは中町公園。

 なつきの部屋で当てのない啖呵を切ってしまったところでスマホに電話がかかってきて、中町公園に呼び出されているのよ。

 

 噴水そばのベンチに座っていると、見覚えのあるわんこが、ダラダラとリードを引きずりながらやってきた。

「あ、キミは……」

『おう、おいらペスだぜ』

「え!?」

 わんこが喋った!?

『んなわけないだろ、俺だよ俺』

 落ち着いて聞くと柳沢琢磨の声だ。

 でもってよーく見ると、ペスの首輪に小さなスピーカーが付いていて、声はそこから聞こえてくる。

「なんで、こんな……本体はどこにいるんですか?」

『探すんじゃない。俺からは見えてるから安心してくれ』

 そっちは安心でも、こっちは面白くないよ。呼び出されたと思ったら、こっちからは姿が見えないで、そっちからだけ見えてるなんて気持ちが悪い。

『先日の鉄道事件で面が割れてるからな、下手に会ってるところを見られたら真凡も迷惑するだろ……ほら、西側の道路に車が停まってるの見えるだろ、あれ、毎朝テレビの覆面だ。俺が現れたら密かにカメラを回すつもりだ。向かいの喫茶店には週刊文潮の記者がいる。だから、ペスと遊んでる感じで話してくれ』

 目の端っこで確認すると、なるほど言われた通り状況だ。

「それで、どうするんですか?」

『学校にも、落とされた子にも問題はあると思うんだけど、細かいことはいい。バカ騒ぎにして俺の平安な環境をかき乱すマスコミが許せない。一週間でカタをつけるから、その間、俺を信用して待っていてくれないか。なつきの問題も本編を解決すれば自然に収まるよ、早まって退学届けなんか出さないように見てやってほしい』

「そ、そうなんだ」

 ちょっと悔しいけど、柳沢ならやり遂げるような気がする。

『おう、真凡も、ちょっと安心した顔になったな』

「ま、まあ……て、見えてるんですか?」

『ああ、スピーカーの他にカメラも付いてるんでな』

「え!?」

 わたしは慌てた。

 だって、お座りしたペスの位置からだとスカートの中が丸見えなのだ。

『ああ、だいじょうぶ。ライトまでは付いてないから、陰になってるところは見えてない。納得がいったら、ペスを連れて公園を出てくれ、角を曲がったところで元の飼い主が待っている。うん、あの小学生。あいつが家まで連れてきてくれることになってるから。じゃあな』

 わたしは、ごく自然な感じでリードを持って公園を出て行ったのだった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

 

 

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銀河太平記・037『対空戦闘のあとサロンにて』

2021-03-27 09:59:41 | 小説4

・037

『対空戦闘のあとサロンにて』ヒコ   

 

 

 大したことはなかったよ。

 ほら、対空戦闘訓練の最中に天狗党の待ち伏せに遭って実戦に切り替わった。

 敵戦闘機は一万近くいたけど、大半はドローンで、対空戦闘のモチベーションとスキルのまま戦闘に突入したので、言われなければ実戦とは感じなかったかもしれない。

「いやあ、屁みたいなもんだったすよ(#^▽^#)」

 戦闘が終わって、コスモスさんが提案して、サロンで休憩になった。

 それで、ダッシュが戦闘中のテンションのまま頭を掻く。

 ミナホとコスモスさんがキッチン型のレプリケーターとテーブルの間を往復して飲み物や食べ物を配膳してくれている。未来とテルが「わたしたちも」と腰を浮かせるが、「いいわよいいわよ、この船は勝手が分かってないとね(^▽^)」「ドンマイドンマイ(o^-^o)」と躱される。

「君たちが動いたら、わたしもジッとしているわけにはいかなくなるよ」

 元帥が軽口を言われて、みんなクスリとなる。

 元帥の見かけは絶世の美女だけれども、先の満州戦争で瀕死の重傷を負って、ダンサーロボットのJQのにソウル移植したもので、中身は日本陸軍の総帥、実年齢は傘寿に届こうかという老将軍、むろん男性だよ。

「船長は、天狗党の攻撃のタイミングが分かっていたのですか?」

 宮さまが僕たちも思っている質問をされる。たしかに、アルルカンは天狗党の攻撃を警告していたけど、厳密な攻撃時刻を言ったわけではない。

「船長の勘です」

 コスモスさんが笑顔で答える。

「船長は、危機が迫るとお尻が痒くなるんですよ~」

 ミナホが付け加える。

「船長、痔なんすか!?」

 ダッシュも遠慮がない。火星は基本的には開拓地なので、上下の区別が緩いんだ。

「本船のサニタリーは完ぺきですよ」

「感覚遺伝というものだな、何代も軍人をやっている家系には、そういう症状を見せる者がいる。ヨイチは鼻がムズムズしただろう?」

「昔の話であります。さっきの攻撃にも感じませんでしたし」

「地上戦闘じゃ完ぺきなんだがな、我が副官は」

「あら、ひょっとしてヨイチ准尉殿は宇宙空間は初めて?」

「は、ずっと地上配置のまま元帥の副官になりましたので」

 ちょっと意外だ、軍人で宇宙勤務が無くて、個人的にも宇宙経験が無いというのは、令和の時代に飛行機に乗ったことが無いくらいの珍しさだ。しかし、シャイな人なんだろう、膝の上の手を握って俯いてしまった。

「ああ、コスモスの言う通り、俺のは先祖からの遺伝みたいだ。戦いが迫るとむず痒くなるよ、大戦(おおいくさ)の前だと足の指とかもな」

「それって、水虫が蒸れてるだけじゃ?」

「ハハハ、バラしちゃいかんぞ、火星少女」

「ヨイチはよくやってくれるので、つい手放せずにいて、苦労ばかりかけている」

 庇うように元帥、いい主従関係だ。うちの父と上様もこういう関係なんだろうか、しばらく会っていない父のことを思い出す。

「しかし、アルルカンが予告したほどの攻撃ではありませんでしたね」

「威力偵察だったな」

「船長も、そう思われますか?」

「ドローンとは言え、一万機も相手にすれば、こちらの乗員の個性や癖をサンプリングできるだろうからな」

「そうだったんですか、やっぱり現役の軍人さんは違いますねえ」

「殿下、職業病みたいなもんですよ」

「あら、テルちゃんは、お眠かしら?」

 気が付くと最年少の同級生は舟をこいでいる。頭脳は火星でも有数の高校生だけど、体は十歳の女の子だ、ヨイチさんが目配せするとコスモスさんがケットを出して未来が受け取って掛けてやる。

 わずかのうちだけれども、ファルコンZの船内は、ちょっとした家族の雰囲気になってきた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
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らいと古典・わたしの徒然草・55『家の作りやうは、夏をむねとすべし』

2021-03-27 06:42:22 | 自己紹介

わたしの然草・55
『家の作りやうは、夏をむねとすべし』  


徒然草 第五十五段

 家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、堪え難き事なり。
 深き水は、涼しげなし。浅くて流れたる、遥かに涼し。細かなる物を見るに、遣戸は、蔀の間よりも明し。 天井の高きは、冬寒く、燈暗し。造作は、用なき所を作りたる、見るも面白く、万の用にも立ちてよしとぞ、人の定め合ひ侍りし。


 日本の家屋は、弥生の昔の高床式倉庫から、夏の暑さと湿度を気遣った作りになっていました。むろん一般の人々の家屋が高床になるのは、都市部では江戸時代。地方にいくとどうかすると昭和に入ってからというところもあります。
 では、庶民の家屋は夏に弱かったか。いや、エアコンなど無くても、けっこう涼しかったようです。
 江戸時代までの庶民のほとんどは、弥生の昔の縦穴住居とあまり変わらない住まいに住んでいた。近代に入り庶民の家も人がましくなっても、夏には強い生活空間でありました。
 日本建築では、壁というものが、あまり存在しません。たいがい障子一枚が外界との境であり、屋内の部屋の仕切も襖一枚であります。

 南こうせつの『妹』という名曲の中にもあります。

~妹よ~襖一枚隔ててぇ~いまぁ~小さな寝息をたててる妹よ~♪

 そう、夏は障子を開け放ち、襖を取り払えば涼しかった。都市部でも緑が多く、地面もアスファルトで塗り固められるということもありません。昼過ぎの暑い盛りになると、近所のオバチャンたちがホースで盛大に水を撒きます。打ち水などというヤワで上品なものでなく。ちょっとした防火訓練並の撒きようでありました。
 ホースから放たれる水に、時に小さな虹がかかることもあって、子どもたちは、オバチャンたちがホースで盛大に撒く水の中をキャーキャー言いながらくぐり抜け、程よく濡れて涼んでいました。
 土がむき出しの道路は、すぐに水を吸い込んだし、お日さまは残りの水を蒸発させ、その蒸発していく中で道路の空気は冷まされ、開け放った家の玄関や襖、障子を緩やかな冷風となって、通り抜けていきました。
  
 七十年代の歌に、こんなフレーズのものがありました。

 ~通り雨、過ぎた後に残る香りは夏このごろぉ~♪

 そう、夏には香りがありました。今よりも、もっと濃厚な香りが。
 あれは、地面がアスファルトで塗り固められることもなく、家々の玄関や障子が開け放たれていたからこそ感じられた香りなのでしょう。
 夏の朝などは、集団登校のため、ちょっと遅れたりすると、同じ班のガキンチョ仲間が、玄関の中まで入ってきて、呼ばわった。
「むっちゃん、もう時間やでぇ」
 近所のオバチャンたちもよく玄関に立っていた。
「田舎から、こんなん送ってきたよってに、少ないけど、どうぞ」
 あるときは、裏庭が共用になっている縁側に、友だちや、オバチャンたちが顔を出した。
「むっちゃん、熱下がったんかいな」
 明治生まれの隣りの年かさのオバチャンなど、そのまま上がり込んで、おでこの熱を診てくれたりしてくれたりしました。

 わたしは三歳のころ行方不明になったことがあります。もちろん、わたし自身には記憶がありません。
しかし、そのときはご近所総出で探して下さったそうです。三軒となりのオッチャンは元陸軍の優秀な下士官で、瞬くうちに近所の人たちに捜索の手はずを指示しました。当時の大人達は、子どもの遊び場所をよく心得ていて、三十分ほどで心当たりの捜索を終えたそうです。
 しかし、わたしの行方は要として知れない。元下士官のオッチャンは三人のオッチャン、オバチャンを指揮して、所轄の警察署までの道の角に配置し、いつでも捜索願を出せる体制をとった。そして索敵範囲を電車道の向こうまで広げました。
「電車道やと、難儀やなあ……」
 なんせ、交通事故の死者が年間数万人の時代であります。
「もう、捜索願出したほうがええで」
 元陸軍准尉のパン屋のオッチャンが、作戦変更を提案。筋向かいの元海軍さんが走りかけたころ、わたしは、見知らぬオバチャンに手を引かれて戻ってきた。
「カネボウの方から来ました」
 その人は、電車道のその向こうの方でウロウロしていたわたしを不審に思い、訪ね訪ねしながら、わたしを連れてきてくださったそうでした。
 丙種で、戦争に行けなかった父は、元陸軍さんや、海軍さん、国防婦人会、女子挺身隊のみなさんに頭の下げっぱなしであった……そうです。
 まさに『三丁目の夕日』の世界でありました。

 夏の日本家屋の有りようから三丁目の夕日まで行ってしまいました。

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真凡プレジデント・34《胸を叩いた》

2021-03-27 06:22:29 | 小説3

レジデント・34

《胸を叩いた》  

 

 どう書いていいかも分かんなかった……

 

 ベッドの上、接する壁に同化するように膝を抱えるなつきが顔も上げずに、やっとそれだけ言った。

 階下ではアイドルタイムが終わって賑わい始めたお店の気配。

 お好み焼き屋たちばなは流行っている店だけど、それに甘えて休むわけにはいかない。おばさんもなつきのことが気にならないはずはないんだけど、定休日以外に休んでしまうと、とたんに客足に影響する。

 それに、ホームドラマじゃあるまいし、母親がちょこっと声をかけて解決するような問題でもないことも分かっている。

 中坊のときグレかかったときも「まあ、麻疹みたいなもんだから」と気楽に構えていたおばさんだけど、ほんとはどうしてやりようもなかったんだ。せめて普通に店を開けて元気にお客さんの相手をして見せることで娘を支えているんだ。

 いつもなら年中出しっぱなしのコタツに収まる。

 なつきはベッドとコタツの谷間、わたしは壁側というのが定位置。

 でも、なつきが定位置に収まらず、ベッドの上でクマのぬいぐるみといっしょに膝を抱えていては、入り口近くに腰を下ろすのがやっとだ。ドアの向こう、あと二段上ったら廊下というところで健二が心配そうにしているのも気になるしね。

「なつきは、悪いことなにもしてないよ。がんばって進級もしたし、だれにひけ目を感じることもないんだよ」

「でも、ほんとに合格していたのはあの子で、わたしは届かない成績だったんだから。あの子が怒るのも無理ないよ、怒って当然だよ。真凡に支えてもらってやっと借り進級だよ、ほんとなら二年生にもなれない成績で、真凡が居なかったら、この三月でやめてるところだったよ……」

「そんなことない、いくらわたしが居ても、なつきが、その気になってなきゃ進級なんてできてなかったよ」

「わたしバカだけど、分かってるよ自分がバカだってことは」

「とにかく早まらないで、なつきが学校辞める理由なんてどこにも無いんだから!」

「学校辞める時は一筆書かなきゃならない、でもって、いざ書くとなると『たい学とどけ』だったか『じひょう』だったかも分かんない。いろいろ書いて調べて、やっと分かった。退学届だって、送り仮名はいらないんだよね、『退学届け』って書いたらダメなんだよ。良く読んだら『退学』に『届け!』って間抜けの願望みたいで笑っちゃう……ほんで自分で書いてもダメで、学校の指定の用紙で書かなきゃならないって、でも、学校に行く勇気出なくて……」

「なつき……」

 ちょっと言葉が続かない。

「だって、スマホにもネットにも『おまえがヤメロ!』って書き込みが一杯で、もう、とってもやってけないよ」

 それはその通り、心無い書き込みは、学校のホームページだけでなく、普通の生徒たちにも中町高校というだけで書きこまれている。生徒全員じゃないだろうけど、マスコミとかネットで叩かれまくって、そのいら立ちをなつきに向けてくる奴もいる。

「そんなの、わたしが許さない! そんなやつら、わたしがやっつけてやる、わたしは中町高校のプレジデントなんだから! なつきは会計だろ、会計は会長の部下なんだよ、部下が困ってる時に助けるのは会長の役目なんだからね! 任せとけ!」

 啖呵は切ったが当てがあるわけじゃない。

 でも、親友だったら、当てがあろうがなかろうが、ドンと胸を叩いておくのが当たり前だと思った。

 これでも、江戸の昔から数えて十三代目の江戸っ子なんだから!

 

 胸を叩いたところで、スマホが鳴った。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

 

 

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やくもあやかし物語・70『そいつ!』

2021-03-26 09:07:32 | ライトノベルセレクト

やく物語・70

そいつ!』    

 

 

 染井さんが満面の笑みになった。

 

 えと……人間じゃないよ。

 通用門(校舎の建て替えで通用門に格下げになった昔の正門)の脇に立ってる古い桜の木。ときどき、女生徒の姿になって学校やその周辺を歩いていたりするんだけどね。

「立派に咲いたわねえ……」

 そんなに大きな桜じゃないんだけど、他の桜よりも少し花の色が濃く、咲いてる花の密度も高い。

「待ってても出てこないわよ」

 出てこないわと言いながら出てきたのは愛ちゃん。

 通用門脇にある銅像。

 憶えてるかなあ……昔の校長先生が臨海学習の遠泳で、おぼれた生徒を助けようとして亡くなったの。

 その校長先生の銅像を建てようとしたら、先生の奥さんが「目立つことは苦手な人でしたから」と言って、『愛の像』ってタイトルで女生徒の像になった。その『愛の像』も時々実体化して現れる。それが愛ちゃん。

「たまには二人で散歩しようよって誘ったんだけどね、『今年は咲くことに専念したいの』って言って、化ける力まで総動員して咲いてるの。だから出てこないわよ」

「そうなんだ……ちょっと残念」

「アハハ、染井さんは桜の木なんだからさ、こうやって見ているのが本来の付き合い方だよ」

「それもそうね」

 ユサユサユサ

 染井さんが風に揺れた。揺れたんだけど、まだ満開になったばかりで花弁は散ったりはしない。

「頑張ってるんだね」

 振り返ると愛ちゃんの姿もない。居ないのに視線を感じる。

「あれ?」

 視線を追ってみると、それは正門(いまの)の方からやってくる。

「杉野君?」

 図書部の委員仲間の杉野君だ。

 杉野君が近寄って来る。

 ちょっと変だ……。

 なんて言うのか……杉野君は、わたしのことを意識しているみたいで、ここのところ口をきいていない。

 その杉野君が、向こうから近づいてくる。

 表情が分かるところまで近づいてくると、杉野君は口も動かさずに言葉を発した。

『よう……いい調子だな』

「え……」

 一言言って、わたしを戸惑わせると、杉野君は、そのまま魔王のような足どりで戻っていってしまった。

「杉野君……?」

 おかしいよ。

 そう思うと、わたしは遠ざかる杉野君の背中を追いかけた。

 角を曲がったらお地蔵さんの通りというところで追いつく。

 声をかけようと思って息を吸い込んだら、杉野君が振り返った。

「いい気になんなよ、こいつの気持ちにも応えずに」

 蛇みたいな目をして…………え……こいつは杉野君じゃない?

「やっと気づいたか……邪魔すんじゃねえぞ」

 そう言うと、杉野君の姿が二重になった。

 一つは杉野君だけど……もう一つは、合格発表の日の自習時間に見かけた半透明の男子生徒だ!

 こいつは質の悪い妖で、勾玉の力でやっつけたはず!?

「バーカ、やっと気づいたか」

 こいつ、杉野君に憑りついたんだ!

 わたしは、一歩引きさがると同時に胸の勾玉を強く握った!

「バーカバーカ、そんなもんが俺に効くかよっ!」

 そう言うと、そいつの姿はわたしの前から掻き消えた。

 退治されたわけでも消滅したわけでもない、だって、空の彼方から、そいつの怪人十面相みたいな高笑いが響き続けたから。

 アハハハハハハハ

 なんとかしなくっちゃ!

 ちょうど角を曲がったらお地蔵さん。わたしに勾玉を託したお地蔵さんの祠だ。

「お地蔵様、どうしたらいいんだろ!?」

「…………」

「なんとか言ってください!」

「……ごめん、あいつの力は、わたしを超えている。手出しはしないことだ、勾玉はあいつには無力だけど、やくもを守ることはできる、とにかく近づかないことだ、近づいてはいけない……」

「お地蔵様……」

 

 家に帰って風呂掃除をするために着替えてビックリした。

 勾玉に細かなヒビがいっぱい走って、胸のそこが、日焼けをしたように赤くなっていた……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け

 

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