大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・182『メイド長のエクボ』

2020-10-31 14:24:32 | 小説

魔法少女マヂカ・182

『メイド長のエクボ』語り手:春日メイド長    

 

 

 あら、旅順開城以来!

 思わず呟いてしまいました。

 田中執事長が鼻歌を口ずさんでいたのです。

 

 過ぐる日露の戦役では、現当主の尚孝さまは士官学校を繰り上げ卒業されて少尉に御任官され、我々使用人は尚孝さまが旅順以外の任地に征かれますようにとお祈りばかりしておりました。

 軍団長の乃木将軍は、ご子息お二人とも旅順の戦いで亡くされ、乃木家は嫡流の跡継ぎの男子が居られなくなられました。

 高坂家は尚孝さまの他はお姫さまばかり。尚孝さまに万一のことがありましたら、五代遡った御分家様がお継ぎになられます。御分家様は、とかく噂の多きお方で、口には出さずとも、ずいぶん心配したものでございます。

 それが旅順の開城で尚孝さまの御生還への道が大きく開けたのですから、まだ若い執事であった田中執事長が思わず鼻歌を口ずさむのもむべなきことでございました。

「おや、そういうメイド長も方頬にエクボが出ておりますぞ(^▽^)/」

「え、エクボだなんて、これは歳相応のほうれい線ですよ!」

「あはは、お互い嬉しい時には出てしまうものだね」

「ほ、ほんとうに……」

 あとは二人で泣き笑いになってしまいました。

 

 今日は、霧子様が〇カ月ぶりにご登校遊ばされるのです。

 

 正直なところ、西郷家からお遣わされた二人が、こんなに早く結果を出してくれるとは思っても居ませんでした。

 朝の御挨拶(という名目でお起こしに参るのです)に伺おうと、霧子様のお部屋に通じる廊下に差し掛かりますと、すでに霧子様は制服に御着替えになられて西郷家のお二人を従えておられたのです。

「春日、今まで心配をかけました。今日より霧子は西郷家の二人といっしょに学校に通います。よろしく用意をして下さい。わたしは御仏間でご先祖様にご報告申し上げてからダイニングに向かいます。二人を案内しておいてちょうだい」

「え、あ、はい、承知いたしました」

 駆け出しのメイドのようなご返事をしてしまいました。

「あら、春日ってエクボが出るのね」

「お、おからかいにならないでくださいませ。こ、これはほうれい線でございます(;^_^A」

「おお、霧子様もエクボに気付かれたのですか。いやいや、君臣相和し、目出度いことです」

「ですから、ほうれい……あ、お出ましになられます」

 

 高坂家の御玄関は東に向かって開いており、ちょうど車寄せにお出ましになった時に朝日がスポットライトのように差すようになっております。アプローチにお立ちになった霧子様は、そのスポットライトに照らされ、舞台の真中(まなか)にお立ちになったように輝いておられます。

「では、これより学校に向かいます。見送りご苦労でした」

「行ってらっしゃいませ!」

 他の使用人たちと共にご挨拶申し上げます。

 運転手の松本がパッカードのドアを開け、西郷家のお二人を従えて後部座席に収まられます。

 おそらくは西郷家の真智香さまのお力なのでしょうが、当の真智香さまは何事もなかったように、典子さま霧子お嬢様に続いてお乗りになられます。

 お三方をお乗せしたパッカードは、ゆるりと車寄せを周ってご門を出て行きました。

 お見送りを終わって朝のお掃除。

「さあ、みなさん、朝のお仕事、キリキリと働きましょう!」

 ふと御玄関の鏡に映った自分の姿に目が停まります。

 いっしょに映り込んだメイドたちと鏡の中で目が合い、我知らず狼狽えてしまいます。

 どうやら、わたしの頬を見ております。

「こ、これは……エクボです。文句ありますか!?」

 メイドたちは、笑いをこらえてフルフルと首を振って、まあ、たまにはこんな朝もいいでしょう。

 

 

 

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まりあ戦記・026『俺の三回忌・2』

2020-10-31 06:30:28 | ボクの妹

戦記・026
『俺の三回忌・2』     



 日向ぼっこの気楽さで、親父はまりあに言った。

「箱根での戦いは成功だ、まりあもよく頑張ってくれた」
「うん……」
「ヨミは異空間にいる間に叩くにかぎる。三次元戦闘なら一回の出撃で一体撃破するのがやっとだが、異空間なら数百体のヨミを消滅させられる、事実まりあは634体の原始体を撃破した」

 まりあは、さらなる異空間での戦いを強いられるのかと気が重くなった。
 ヨミとは二度戦った。一度はベースに来た直後、ヨミの完熟体と。二度目が異空間で634体の原始体。
 いずれも、戦いの後は死ぬんじゃないかと思うくらいボロボロになった。
 異空間で戦った方がはるかに効率のいい戦いができる。同じボロボロになるのなら戦闘効率のいい異空間戦がまし。
 そう自分には言い聞かせてきた。
 でも、親父の口から直に言われると、正直に――辛い――という気持ちがせきあげて来る。

「統合参謀本部から、異空間戦闘を禁止すると命ぜられた」
「え……どうして?」
 思いのほか棘のある言い方に、親父は直ぐには言葉を返さなかった。

 まりあは二重の意味で驚いた。
 親父が極秘でオペレートした異空間戦闘が、統合参謀本部とはいえ外部に漏れていたこと。
 もう一つは禁止されたことを理不尽に思う自分の心に。二重の驚きがまりあの棘を鋭くさせた。

「ウズメの正規の戦いは、ベースの周囲に分散配置した正規ウェポンを装着して行う。異空間では初期搭載されている固有ウェポンだけだ。異空間戦闘を認めると、正規ウェポンは無用の長物になってしまい、それは国内防衛産業の存在意義を否定してしまうことになる。俺が考え出した異空間戦闘は時代の先を行き過ぎたようだ。これからは従来の三次元戦闘一本でいく」
 それだけ言うと、親父は回廊の階段を下り始めた。
「待って」
「なにが聞きたい?」
「なんで、あたしに話すの? あたしは、命ぜられたら三次元でも異空間でも戦うわ、そんな裏事情聞かされても不愉快になるだけ」
「あとで聞いたら、もっと不愉快になるだけだからな。じゃ、行くよ」

 まりあは階の一番上に腰かけたままボーっとするしかなかった。ちょっと不憫だ。

「まりあ、お斉(おとき=法事の後の会食)が始まるぞ」
「うん……兄ちゃん!?」
 不憫に思ったせいだろうか、俺は一瞬生前の姿でマリアに話しかけてしまった。直ぐに消えたけどね。

 だいぶ疲れてるなあ……

 ペシペシ

 まりあは自分のホッペを叩くと「エイ」と小さく掛け声をかけて本堂に戻った。

「精進料理かと思ってたわ!」
 みなみ大尉が子どもみたいに喜んでいる。お斉に出てきた料理は海老・蟹・肉の三大スターを中心に若者向けにアレンジしたごちそうばかりだ。俺も思わずいっしょになって食べくなった。
「ヘヘ、朝からみんなで作ったんだよ」
 衣を脱いで気楽なセーター姿になった観音(カノン)がクラスメートたちといっしょに料理を並べる。
「ちょっと失礼」
 まりあは、お皿に料理を大きく盛った。
「そんなに食べたらブタになるわよ」
 まりあが突っ込む。
「いいえ、これは……兄貴にね」
 山盛りを俺の遺影の前に置いた。

「こんなにお供えするんだ、生き返ってみせたら~……な~んてね!」

 チーーーーーン

 リンを大きく鳴らすと、お斉のテーブルの中に戻って行った。

 ありがたい三回忌ではあった。

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ポナの季節・80『てっきりポナだと思った』

2020-10-31 06:19:27 | 小説6

・80
『てっきりポナだと思った』
       


 

 てっきりポナだと思った。

 ポナはもぎたてレモンのようだけど、その人は同じ柑橘系でも夏みかんほどに座りの良さがあった。

「きみ、ポナの知り合い?」
「どうして……」
「ハハ、だって『ポナ』って声かけたじゃない」

 しまったと思った時は、その人について近くのマックに向かっていた。

「そっか、それでポナに声かけづらかったのね……」
 形のいい唇が、マックシェイクを吸い上げた。
「ああ、やっぱシェイクの飲み方なんか大学生ですね」
「プ、よしてよ、シェイクが横っちょに入っちゃう。ほんの四か月前までは現役だったのよ」
「見かけたときは、ポナそのものでしたよ。なんてのか……歩いていても、なんだか背中に羽が生えてるみたいで」
「どんな羽根?」
「えと……小さな天使の羽みたいな」
「あたしには小悪魔の羽みたく見えるけどね……どう、この飲み方は」
 背中に電気が走った。片肘ついて、少し上目づかいにストローを咥えるしぐさはポナそのものだった。
「ポナ……」
「そっか……それほどポナのことが好きなのね」
「でも、嫌われてるから……」
「でも、さっき声かけてきたじゃん」
「とっさだったから……」
「ポナは、きみがデモに行ったぐらいで嫌いにならないわよ。ただ、あの子は『去る者は追わず』ってとこがあるから、放っとくとほんとうに切れちゃうわよ」
「……大丈夫でしょうか」
「きみ次第。でも、フライングしないでね。ポナはライブとお芝居が命のお子ちゃまだから、今のところは友だち以上のことは望まないでね」
「はい、おねえさん」
「がんばって、大輔くん」

 大輔は改札まで優里を送った。後姿と残り香は、やはりポナといっしょだった。

 スマホを持って三十分、メールにしようか電話にしようかで悩む。意を決して電話に決めると、ポナから電話がかかってきた。
――おひさ~! 元気してる? そう、ところで明日会えないかな。来週芝居やるんでチケとか渡したいの――
「うん、あ……」
――どうかした?――
「ごめん、明日は家族で墓参りだ……」
 大輔はご先祖さまを呪った。
――じゃ、今からじゃだめ? 渋谷ぐらいなら出ていくけど――
 大輔は二つ返事でOKした。

 四時間前優里を見送った改札からポナが出てきた。

 ポナは軽々とノースリーブの白いワンピースをひらめかせ、ほんとに天使に見えた。

 大輔は、さっき呪ったばかりのご先祖さまに感謝した。
  



ポナと周辺の人々

父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
平沢夏   未知数の中学二年生

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かの世界この世界:118『四号戦車試乗会・1・いい考えがあるわ』

2020-10-31 06:09:58 | 小説5

かの世界この世界:118

『四号戦車試乗会・1』語り手:ブリュンヒルデ      

 

 

 朝食のあと、子どもたちを四号に乗せてやることになった。

 

 ヘルムには軍隊が無い。だから戦車なんか見たことも無いのだ。

 キャタピラで動くものといったら、ブルドーザーとかユンボくらいしか知らない。

 四号の最高速度は時速三十八キロでしかないが、ブルドーザーに比べればスポーツカーだ。実弾を撃つわけにはいかないが、よく見えるところで砲塔をグルンと回して空砲の一発も撃てば喜んでくれるだろう。

 

 しかし、困った。

 

 希望者が三十六人も居るのだ。

 最初に乗っていた二号に比べれば大きい戦車だが、それでも定員は五人だ。定員以外に乗せるとなると、子どもと言っても二人がやっとだろう。ユーリアの兄であり、子どもたちの先輩でもあるヤコブは真剣に考えるが、いい考えが浮かばないようだ。その悩んでいる姿も兄妹らしくて、われわれ乗員は顔だけ真剣にして微笑ましく見ている。

「いい考えがあるわ」

 手際よく朝食の片づけを終えたユーリアが指を立てた。

「考え? ジャンケンでもさせるか、停めたまま乗せるので勘弁してもらうとか?」

「だめよ、お兄ちゃん。夕べは大人たちのお楽しみで、子どもたちは我慢してたんだから、ちゃんとやってあげなきゃ」

「と、言っても、二人ずつじゃ今日一杯かかっても終わらないかもしれないぞ」

 ヤコブがヘタレ眉になってため息をつくと、ユーリアはピンと庭のベンチを指さした。

「ベンチを戦車の上に固定するのよ。あれだけ広けりゃ三人掛けが二列置ける。砲塔のハッチが三か所あるから、そこにも一人ずつ。合計九人。でもって、裏の丘の上まで駆け上がるの。そうしたら四往復でいける!」

 

 ユーリアの提案に、裏の丘を見上げた……なかなかのアイデアだ。

 丘の上なら、四号が登っていくのも降りていくのも見られる。いいや、ユーリアの家からでも見られる。

 四往復で済むだけじゃなくて、丘の上に居てもユーリアの家で待たされても退屈することはない?

 ユーリア偉い! このブリュンヒルデが誉めてとらすぞ!

「それにさ、希望する大人たちもトラックとか車で付いていくの。丘の上で、ちょっとしたお弁当とか開いてピクニック気分とかもいいんじゃない?」

「あーー、それいい!」

 ロキが子どもらしく、その気になって手を挙げる。

「おまえに聞いてない」

「イテ!」

 タングリスにポコンとやられる。

「それでさ、せっかく丘の上なんだから花火とか上げようよ。大砲撃つだけじゃ能がないからさ」

「そうよ、それいいわ。たしか町長さんとこの倉庫に打ち上げ花火の道具があるはずよ。お母さん借りてくるわ」

「それなら、いっそ四号の主砲で撃てるように細工するよ!」

 ヤコブがメカニックらしい提案をして話が決まった。

 

 たちまち、町をあげてのイベントになってしまった!

 

☆ ステータス

 HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

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オフステージ・142「学食の自販機前にて」

2020-10-30 13:41:29 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)142

『学食の自販機前にて』千歳     

 

 

 昇降口を横目に殺して車いすを進めると、学食に通じるスロープになる。開け放ったドアから自販機のサンプルをチラ見。よし、午後の紅茶無糖は残っている。

 

 スロープは健常者用の四段の階段に対し直角に付けられている。

 二段分下りたところでクニっと360度折り返して、さらに二段分下りて学食の前に着く。

 折り返のところは生け垣のスペースに被っていて、学食の入り口からは死角になって見えなくなる。

 

 その折り返しの所で止まってしまった(;^_^A

 

 自販機の前に啓介先輩が立ってしまったのだ。

 ちょっと気まずい。昨日のヘリコプター不時着事件で先輩にお姫様抱っこされて、その時のドキドキがまだ残ってるから。

 先輩が行ってしまうまで待とう。

 ゴトンと音とペットボトルを取り出す気配、足音が遠ざかる。

 よし。

 車いすを超真地旋回(ガルパンで憶えた言葉)させて、下りの勢いのまま自販機へ。

 百円玉二個を握って……固まってしまった。

 ウソ……午後の紅茶無糖は無情の売り切れ赤ランプ。

 

 啓介先輩が最後の一個を買ってしまった……。

 

 ショック…………ついさっきまで買えると思っていた午後の紅茶無糖が売り切れてしまったこと。そして、最後の一個を買ったのが啓介先輩だったこと。

 なんだかドキドキしてきた。

 悲しいから? お目当ての午後の紅茶無糖が無くなったから? それとも?

 え……なんで涙が?

「あ、これ欲しかったのか?」

 声が降ってきたので二度ビックリ! 見上げると啓介先輩。

「え!?」

「あ、ボンヤリしてて、もう一つ買うの忘れてて……俺は、どれでもええから、ほれ、これは千歳にやるわ」

「あ、いや(;'∀')」

「俺は、これ……っと……」

 先輩は缶コーヒーを二つ買って「んじゃ」と顔も見ないで行ってしまった。

 

 あ、お金渡してない。

 

 数秒、ボーっとして気づいた。

 車いすを超真地旋回させて校舎に戻る。

 先輩が向かったのは三年生のブロックだ。

 エレベーターに乗って、三年のフロアを進む。

 二つ目の教室で発見。

 声をかけようと思ったら、先輩の他にもう一人。

 え……須磨先輩。

 急に胸のドキドキが高鳴ってきた……。

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まりあ戦記・025『俺の三回忌』

2020-10-30 06:47:59 | ボクの妹

戦記・025
『俺の三回忌』      


 

 自分で言うのもなんだけど、今日は俺の三回忌だ。

 専光寺の須弥壇の前には鮮明なことだけが取り柄の俺の写真が置かれ、写真を乗せた経机に『釋善実(しゃくぜんじつ)』という法名を書いた半紙がぶら下がっている。過去帳があるんだから、わざわざ法名を晒す必要はないんだけど、まりあのこだわりなので仕方がない。
 
 二年前の俺は、まさか死ぬとは思わなかった。

 だから遺影にふさわしい写真がなくて、まりあは手っ取り早く生徒手帳の個人写真を遺影に使った。で、それを更新することなく、四十九日法要と一周忌に使い、今日の三回忌にも使っている。もうホトケサンになってしまったんだからこだわることもないんだけど、せめてディズニーランドで撮った笑顔の写真にしてほしかった。

「ディズニーランドの写真は、お兄ちゃんケンカしたあとで、前歯が一本欠けてるからね」

 俺と同じことを言ったみなみ大尉に説明した。
「でも、まじめ写真の方が、まりあの守護霊って感じがするね」
 アンドロイドのマリアが軽く言う。軽い言葉なんだけど、俺には響く。

 そうなんだよなあ、俺ってまりあの守護霊なんだろう。守護霊らしいことは何もしてやれないけどな。

「じゃ、そろそろ始めるわね」

 まりあのクラスメートにして専光寺副住職である釈迦堂観音が、まりあの耳元で囁いた。
 さんざめいていた本堂が静かになり、各自が出す数珠のチャラチャラした音がする。
 一周忌はまりあとお向かいのオバチャンだけだったが、三回忌の今日は、ちょっと賑やかだ。

 法事って、ま、パーティーだから。

 まりあの軽いノリに共鳴してくれたというか、言葉の通りに受け取ったまりあの友だちが六人も来てくれ、引率ということで担任の瀬戸内美晴先生まで来てくれている。
 あ、そしてベースからみなみ大尉と徳川曹長も。

「それでは、釋善実、俗名舵晋三さま三回忌の法要を務めさせていただきます」

 観音(かのん)ちゃんに似た面差しのご住職が開会宣言。
 何度聞いてもお経というのは眠くなる。
 参列のみんなは、お寺での法事が珍しいのか居眠りするような者はいなかったが、俺は、ついつい記憶が飛んでしまう。
 こんなお経を毎日聞かされたら、しまいには二度と目が覚めなくなるんじゃないかと思ってしまう。
 
 そうか、こうやって眠ってしまうことが往生なのかもしれないなあ……。

 ふと目が覚めた。

 エッ!?

 ビックリした。なんと親父が、俺の前で焼香をしている!
 親父は仕事最優先の人間で、俺が死んだときも、葬式に十分顔を出しただけだ。四十九日にも一周忌にも現れなかった。いや、ベースにまりあを呼びつけた時でも娘としてのまりあに声を掛けたことも無かった。
 ホトケサンである俺はうろたえたが、当のまりあは平然としている。まりあの友だちたちは――だれなんだろう?――という顔だ。

「まりあ、ちょっと」

 焼香が終わり、本堂の中は「お斎」と言われる法要後の食事会の準備に入り、長い座卓やらお斎の料理やらが並べられ始めた。
 一同が副住職の観音ちゃんの指示でテキパキと動く中、親父はまりあを本堂外の回廊に呼び出した。

 さすがに、まりあもムっとした顔になった……。
 

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ポナの季節・79『ポナの制服を優里が着たら』

2020-10-30 06:36:54 | 小説6

・79
『ポナの制服を優里が着たら』
       


 

「……お母さん、高校の制服どこかなあ?」

「クローゼットの中……無いの?」
「探した……見当たらないの」
「へんねえ……そうだ、春にみなみちゃんに貸したげて、そこに……こっちかな……おかしいわね、そっちの衣装ケースは?」
「……見当たらない」

 仕方なく優里はポナの夏服を持ち出して地下鉄に乗った。

「エキストラの人は、この大部屋で着替えて五分後スタジオに入ってください。貴重品と着替えはロッカーに。よろしく」
 そう言うとADは足早に駆けて行った。
「ごめんね、急にピンチヒッター頼んで」
 女学院の夏服姿で瑞穂が手を合わせる。
「こっちこそ遅れてごめん、制服見つからなくってさ、これ妹の借りてきちゃった」
 思い切りよくTシャツを脱ぐと、それで汗を拭いて一分で優里は着替えた。
「あら、ピッタリじゃない!」
「うん、妹とサイズいっしょだから。行こうか、みんなスタジオに向かってる」
 優里は着替えたものをトートバッグにザックリ入れてロッカーにぶち込んだ。

 出番は五カット、どれも高校生の合唱部のコンクールシーンで、エキストラは同じ制服ごとに固まった。
 世田女は優里一人だったのでフレームの端の方。最初はディレクターの指示通り動いていたが、少しは目立ちたくなり、ホールで主役が振り返るシーンでは、すぐそばを通ってみた。収録は順調で昼を挟んで二時半には終わった。

「優里、初めてにしてはやるじゃん」
「そう?」
「横と後ろだったけど、カメラがアップで抜いてた。放映されるといいね」
「ハハ、編集でカットよ……わ!」
「どうかした?」

 大部屋を出る時、汗のまま服を突っ込んだので着替えに持ってきたTシャツまで汗臭くなっていた。

「開き直れば、これはこれでいいかも」
 ビルのガラスに映る自分に呟いて、優里は世田女の制服のまま帰ることにした。高校を出てまだ四か月なのですぐにその気になった。
 渋谷で途中下車し、陰を拾いながらウィンドショッピング。すっかり感覚が女子高生に戻ってしまう。
 小間物屋さんでシュシュを買ってしまった。
「こんなもの、制服でなきゃ似合わないのにね……」
 呟きながらポニーテールのゴムをシュシュに替えてみる。
「あら、おいしそう」
 アイスクリームを買った。現役のころよりも少し奔放な高校生になった気がした。
「こういう気分は久々……初めてかな」
 わずかだけど振り返る人がいる。何年かぶりでスキップしてしまった自分に驚く。
「ダメだ(#´ω`*#)調子に乗っちゃう……か~えろ」

「………!」

 渋谷の駅で声をかけられる。振り返ると修学院の制服が思い詰めた顔で立っていた……。
 

※ 主な登場人物

父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
平沢夏   未知数の中学二年生

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かの世界この世界:117『落花狼藉の夜が明けて……』

2020-10-30 06:24:43 | 小説5

かの世界この世界:117

『落花狼藉の夜が明けて……』語り手:タングリス      

 

 

 

 テルが呟いた言葉通りだった。

 明るさは滅びの徴であろうか 人も家も暗いうちは滅びはせぬ

 夕べは、その明るさに身をゆだねるしかなかった。

 ポルカだサルサだヨサコイだのと高揚していくうちに裸にされて、あっという間にヘルムの民族衣装に着替えさせられた。南欧風の衣装は提灯袖の半袖で胸ぐりが大きく開いていて、スカートは二重に穿かされたパニエでフワフワだ。スカートなどは軍籍に入ってからは身につけたこともなく。久々に自分の性別が男ではないことを自覚した。

 酔いつぶれたふりをして雑魚寝の中に加わった。

 みんな幸せそうに鼾をかいたり歯ぎしりしたり言葉にならない寝言を言ったり花提灯を膨らませたり……だが、ほとんどの大人たちは寝たふりだ。

 横のオッサンの手が寝返りうった勢いで、わたしの胸に落ちてきた。

 手の主はドキッとしたのがバレバレなのだが、意識的に手をどければ眠っていないことが分かってしまう。また寝返りのタイミングをつかむまで、そのままにしておいてやった。

 夜半、ヤコブ親子が話し合っているのに気付いた。

 母親のアグネスも、十七歳で生贄に選ばれていた話には驚いた。平和な楽園に見えているが、その内実は他のオーディンの地と同様に悩みを抱えているようだ。

 ヘルムに立ち寄ったのはグラズヘイムへの便船であるシュネービットヘンの修理のためで、ヤコブの問題は余力があればくらいのつもりでいた……だが、この深刻さ、わたしがダメと言っても姫は助けてやる気持ちになっておられるだろう……姫のご性格と姫ご自身の境遇を考えると捨て置かれるとは思えない。

 朝、皆が起きだすのに合わせて、大きく伸びをする。ロキとケイトは地元の子どもたちに交じって熟睡中、夕べむしり取られた軍服をかき集めて素早く着替える。起きるタイミングを掴めないでいるテルと姫を起こすと、開け放たれたキッチンの窓からいい匂いがしてくる。

「みんな、酔い覚ましの朝ごはん! さっさと食べて片づけ手伝ってね!」

 ユーリアの元気な声が庭いっぱいにこだました。

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まりあ戦記・024『彫刻の森美術館』

2020-10-29 06:14:47 | ボクの妹

戦記・024
『彫刻の森美術館』     


 

 ま、まりあ!

 マリアの声でみなみ大尉は目が覚めた。
 よっぴき看病していたので、いつの間にか眠ってしまっていた大尉だった。

「大丈夫、まりあ!?」

 まりあの布団に這いよる大尉はすさまじかった。起き抜けのスッピン顔はむくれて、髪はボサボサ、右目は開いているが、左目は目ヤニでくっついて閉じたままだ。おまけに、慌てていたので、膝で浴衣の前身ごろを踏んづけてつんのめり、意識が戻ったばかりのまりあに覆いかぶさってしまった。
「フギュ~~~~」
 まりあは、意識が戻ったばかりなのに窒息するところだ。
「あ、あ、ごめん」
「ワ、ゾンビ!?」
 まりあに驚かれるので、大尉は顔をゴシゴシこすり、手櫛で髪を整えた。
「あたしよ、あたし。ペッ、ペッペ、髪の毛食べちゃった」
「みなみさん?」
「そうよ、あんたがお風呂でぶっ倒れるから、もう気が気じゃなくってさ。あんた、一時心肺停止になっちゃったのよ」
「わたしが人工呼吸したの」
 そう言いながらマリアはまりあの首元に手を伸ばした。
「え、なに?」
「コネクトスーツを脱がなきゃ、圧迫されたままだから」
「ちょ、ちょ、痛い、痛いってば!」
 まりあはコネクトスーツを着たままで、脱がせようとすると、まるで皮膚をはがされるような痛みが走る。
「バージョンアップしてるから脱がせられないんだ……脱ごうって、念じてみな」
「あ、えと……」
 まりあは念じてみた。すると、スーツのあちこちに切れ目が走り、まりあが体をよじるとハラリとスーツが脱げた。

「司令のタクラミだったのね……」

 落ち着いたまりあから話を聞いて、みなみ大尉は腕を組んだ。
 保養所地下の浴場は秘密基地に繋がっていて、まりあだけが移動できる仕組みになっているようだ。まりあは、そこで舵司令一人のオペでヨミの原始体と戦わされていたということが分かった。
「なんだか重力を感じない異世界というか異次元というか、とにかくヨミが、この世界に現れる前の世界らしくて、数は多いけど、ヨミはあたしが出現したことに狼狽えていて、とてもひ弱だった」
「それで、ヨミはやっつけられたの?」
「相当やっつけた……でも、まだ居る……というか、あそこはヨミを生み出す母体のようなところで、反復して攻撃しないといけないような気がしたわ」
「そう……でも、まりあがこんなになっちゃね……」
 みなみ大尉は口をつぐんだ、未整理のまま口に出してはいけないと感じたのだ。

 保養所を出ると、芦ノ湖を遊覧し、強羅で箱根山の迫力を感じながら温泉卵を三人で食べて彫刻の森美術館に向かった。

「彫刻ってアナログだけど、静かに訴えかけてくるものがあるわね……」
 ハイテクの固まりと言っていいマリアがため息をついた。
「あたしはチンプンカンプンだよ」
 抽象彫刻が多いエリアでみなみ大尉は音を上げる。
「大いなる疑問……これが?」
 まりあが立ち止まったところには、直径一メートルほどの丸い石があった。
「う~ん、なんだか訳わかんなくって縮こまっちゃった感じ?」
 乏しい想像力を駆使して感想を述べる。
「あー、球ってのは、一番体積が小さいものね」
 まりあも納得しかける。
「これって、修理中みたい……ほら、ここに本来の写真がある」
 マリアが示した案内板には、でっかい『?』マークの写真があった。
「ん……クェスチョンマークの下なんだ?」
「パッと見で分かるものがいいなあ」
 三人は具象彫刻のエリアにさしかかった。
「んーーヌードの彫刻って女のひとばっか」
「みんな劣等感感じさせるプロポーションだわね」
「あ、あそこ」
 マリアが指し示したところには、仁王像のような男のブロンズ像があった。

 三人は、そのブロンズのたくましいフォルムにしばし目を奪われた。

 ブロンズの銘板には『TADIKARA』と刻まれていた。
 

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ポナの季節・78『T駅下車 東へ500メートル』

2020-10-29 06:01:40 | 小説6

・78
『T駅下車 東へ500メートル』
       


 T駅を降りて北に向かうと天下のT大学。

 涼しげな林の中に見え隠れ、そっちに行きたい衝動にかられるが、今日の用事は駅の南側。
「うわあ、陽に焼かれるうう(^_^;)」
 そうボヤイたのは吉岡先生。先生は二の腕までの腕カバーを装備して、白い日傘をパシュっと開いた。

 今日は来週に迫った「アゴダ劇場演劇祭」の下見と打ち合わせだ。

 劇場までの道は東西に延びているので日陰が無い。ポナたち生徒は日焼けは気にしないが、滴る汗に往生した。
「あー、ブラウス洗濯したてなのに」
「あぢい~」
「ちょっと、道の真ん中で腋の下拭くか~(;^_^A」
「そう言うミホこそ胸拭いてんじゃん」
「見えないようにやってっから」
「あんたら、女捨ててるなあ……」
「そう言うレイ、なにモソモソやってんの?」
「……おパンツ食い込んだ」
「ちょっと、世田女の看板しょってるんだから、品よくしなさい」
 先生の一言で口はつぐむが、名門世田女の面影はない。それほど劇場までの五百メートルは暑かった。

 汗みずくで劇場まで来ると、M高校の一団が出てきた。

「おさきです」
「こんにちは……あら」
 M高校はポナたちとすれ違うと、横丁から出てきたスクールバスに乗り込んだ。
「……いいなあ、ドアツードアだよ」
「……汗かく暇も無いね」
「あんたらも部に昇格したらバスに乗せてあげるから」
「うちの学校、バスないですよ」
「そっか……じゃ、修行と思いなさい」
「…………」

 打ち合わせは簡単だった『クララ ハイジを待ちながら』という芝居は手間がかからない。照明は地明りの点けっぱなし、道具は箱馬三つですむ。

「じゃ、時間いっぱい稽古させていただきます」
 ポナと友子が舞台に上がった。
 途中ポナが演ずるシャルロッテが袖にはけ、ドンガラガッシャーンと派手な音がして階段を転げ落ちる場面がある。もちろん袖にはけてからなので、落ちるところは音だけである。
 袖にはけて、ポナは効果音がステレオになっているのに気づいた。
「なにやってんの、ノリちゃん?」
 ポナのアンダスタディー(いざという時の代役)の中村典代が箱馬の山を崩してひっくり返っていた。
「エヘヘ……ちょっと熱が入りすぎちゃった」
 どうやら、袖でポナの演技をコピーしようと張り切っていたようだ。
 反対側の袖をすかして見ると、ミホが同じように照れ笑い。ミホは友子のクララをコピーしていたようだ。

 暑がりがそろっている演劇同好会だけど、来年は部に昇格できそうな気がしてきた。

 予定が終わって劇場を出ると、みんなの制服は塩を噴いていた。駅までの五百メートルを戻る。塩分濃度は、さらに高くなりそうだった。 


☆ 主な登場人物

父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
平沢夏   未知数の中学二年生

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かの世界この世界:116『やっぱり間違ってる……』

2020-10-29 05:51:04 | 小説5

かの世界この世界:116

『やっぱり間違ってる……』語り手:ブリュンヒルデ       

 

 

 ゲフ ゲップ

 

「ああ、カルトとエッケハルト」

「あいかわらずの大食いなんだな」

「話を続けて」

 

 続いてオッサン二人が寝ながらゲップをしたので、三人は会話を続けた。

「むかし、エッケハルトのお祖父さんが市長をやっていてね、ヤコブと同じことを言ったんだよ。予定された犠牲は受け入れがたい、ヤマタのご加護はありがたいが、島の平和は島のみんなで勝ち取って守っていくって。すると、島の他の市長や町長からも賛同者が出て、お母さんは生贄を免れたんだよ。エッケハルトのお祖父さんは島の若者を募って討伐隊を組織してね、半年の間は蘇ったクリーチャーと懸命に戦った」

「負けたの?」

「十三人の犠牲者が出てね……みんなよく戦ったから、犠牲者は全員討伐隊の若者たち……たまらなかったわ」

「それで?」

「申し出たの『やっぱり、わたしを生贄にして』って……」

「じゃ、じゃあ……」

「ヤマタは拒絶したわ『おまえは、もう歳を取っている』って。実は、その半年の間にヘルムの暦がグレゴリウス暦に変わったの。ヘルムの指導者たちはオーディンの国との交易を盛んにするために、暦をオーディンに合わせたのよ。ヤマタに言われて気づいた、わたしは、もう十八歳になっていた」

「じゃ、どうしたの?」

「今年は十三人の血をもって了としよう、若い男の血もなかなかであったぞ。どうだ、今後は十三人の若者であってもかまわぬぞ」

「十三人かよ……」

「むろん、受け入れられるはずもなく、十七歳の女の子が選ばれるようになった」

「でも、母さん、その話は初めて聞くよ」

「記録から抹殺されたもの……十年もたてば社会は忘れる」

「そうなんだ……だから、お兄ちゃん。やっぱ、わたし行くよ」

「分かっておくれ、ね、ヤコブ……」

 

 母のアグネスは優しくヤコブの手に自分の手を重ねた。 

 そして、ヤコブの溜息がして、それが合図であったかのように、わたしは眠りに落ちてしまった。

 眠りに墜ちながらも思った、自分の事のように思った……やっぱり間違ってる……。

 

☆ ステータス

 HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

 

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まりあ戦記・023『親父一人の企て・2』

2020-10-28 07:19:09 | ボクの妹

戦記・023
『親父一人の企て・2』    



 深い海の中を落ちていく感じだ。

 海であるわけはなんだが、コクピットの外は密度の高い液体という感触なのだ。
 ウズメは高度な水密構造になっていて、関節や接合部から水が入ることはない。たとえ入って来たとしても、コアであるコクピットが浸水することはあり得ない。もし深さ千キロの海があったとして、そこにウズメが潜ったとしても、その水圧に耐えられるように造られている。千キロと言うのもコンピューターの設定限度であり、実際は、それ以上である。
 だが、ウズメのあちこちが水圧に耐えかねてギシギシきしむ音がする。今にも圧潰しそうで、とっくに死んでいる俺が言うのもなんだけど、生きた心地がしない。

 ブラフね。

 まりあは平然としている。こいつの腹の座り方はハンパじゃない。
 こういうところを見込んで、親父は、まりあをウズメのパイロットに選んだんだろうか。
 まりあのコネクトスーツはウズメと同期していて、ウズメを自分の身体のように動かせるし、デカブツのウズメが感じたことは皮膚感覚としてまりあが感じられる仕組みになっている。
 そのコネクトスーツを通して感じる水圧を、まりあはブラフと読み取ったのだ。

 抜ける!

 とたんに水圧が消えて、鈍色の無重力空間に放り出される。
 奇妙な感じだ……空間そのものが狼狽えてくたびれている。
 例えて言うと、ビッグバンによって生まれた宇宙が広がるだけ広がって、膨張の頂点に達し、今まさに収縮して滅んでしまう寸前のような戦きだ。

 まりあは皮膚感覚のままウズメを旋回させた。

 このあたり……!

 まりあがトリガーをひくと、ウズメの胸元からギガパルスが発射される。
 パルスの軌道は虹色に輝き、輝きの彼方で星屑が舞い散った。

 ザワーー!

 何かが動く気配がした。

 ザワ ザワワーーー!

 気配が動くにつれて、まりあは身じろぎし、それに合わせてウズメが動く。

 そこだ!

 まりあの指が動き、胸元の他、ウズメのあちこちからギガパルスが発射される。
 なんだか、ウズメは虹色の光を放ちながら舞い踊っているように見える。

 そこ! そこ! そこ!

 ウズメの攻撃は的確で、ギガパルスの到達点では、花火大会のクライマックスのように光に満ちた。

 来る!

 閃いた時には、ウズメは組み敷かれていた。
 生き残りのヨミが半実体化して組みついてきたのだ。
 ウズメの反応も早かったので、バックをとられることはなかったが、身動きがとれない。
 やがて、ヨミの体からは十本以上の触手が現れウズメの体を締めあげ始めた。
 コクピットの中では、まりあがウズメと同じ姿勢で喘いでいる。受け身になるとシンクロしていることが裏目に出る。
 まりあの顔に冷たい汗が流れる。

 まりあ、あの技だ!

 仏さんの身でありながら、俺は叫んだ!

 通じたのか、まりあはヨミを巴投げにした。小学校のころ俺が初めて負けた時のまりあの技だ。
 巴投げそのものは不発だが、一瞬ヨミの締め付けが弛んだ。
 ウズメは胸元と股間からテラパルスを発射し、ヨミを粉砕した。

 勝った…………

 勝利を確信して、まりあは気を失ってしまった。
 

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ポナの季節・77『ライブの途中海辺にて』

2020-10-28 07:09:12 | 小説6

・77
『ライブの途中海辺にて』
         


 内陸のA町での慰問ライブが終わるとクタクタだった。

 午後からはS市でのライブが待っているので、ポナたちSEN48のメンバーは、走るマイクロバスの中、思い思いに休息をとっていた。

 ポナは眠ってしまうとテンションが下がってしまうので、なんとか眠らないようにブログに寄せられたコメントを読み、そのいくつかに返事を打っていた。
「まめねえ、ポナ」
「起きてたんだ、安祐美」
「いま目が覚めたとこ……あ、もう海沿いを走ってる」
「ほんとだ、なんだか時間がとんだみたいな……」
「ハハ、ポナ起きてたんでしょ」
「ずっとコメント読んでたから…………きれい……この海が津波になったなんて信じられない……ねえ、安祐美……あら、もう寝てる」

                  

 そのときスマホが振動した。
「え…………」
 スマホの画面には目の前と同じ海岸の景色が写っていて、それがまばたきをするたびに大きくなってポナの視界いっぱいに広がって目の前の景色と重なって、十秒もすると車窓から見える景色と区別がつかなくなってきた。

「え、なにこれ……」

 瞬間目をつぶる、ごく間近で波音がした。

「え、いつの間に着替えたの?」

 砂浜に立つSEN48のメンバーは水着姿になってポナを見ている。
「なに言ってんの、ポナだって水着じゃん」
「ビーチボール持ってるくせに」
「え……ほんと」
「いくよ、渚まで駆けっこ!」
「あ、待って!」

 それからポナたちはスタッフもいっしょに浅瀬で泳いだりビーチボールで遊んだりした。

「もうちょっと沖まで泳いでみたいな」
「そうだね、沖の方までクリアーだもんね」
「ポナ、ダメかな?」
「あたしに聞かれても……」

「大丈夫ですよ、岬のとこまでは背が立ちますから!」

 クラブ帰りだろう、女子高生が道路の方から明るくアドバイスしてくれた。仲間が四五人いるようで、みんなお日様の子供のようにニコニコしている。
「ありがとう。じゃ、みんな、あの岬まで行くよ!」
「オーシ!」
 ポナを先頭にみんなで岬まで泳いだ。

「ああ、爽快だ!」

 叫んだときはマイクロバスの中にいた。
「騒がしいなあ、ポナは」
 となりの由紀が不服そうに言う。
「え、いま岬まで……みんないっしょに泳いで……」
「アハハ、ポナ寝ぼけてる」
「あそこでスイカ売ってるから、車とめて井上さんが買いにいってる」

 首を捻ると、道路を挟んで直売店があり、アシスタントの井上さんが戻ってくるところだった。

「キャー、スイカ、スイカ!」
「うーん、たまらん!」
「ホッペが落ちる!」
「体重増える!」
 スイカを食べながら海の方を見ると『遊泳禁止』の札が立っている。
「あれえ……でもさ……」
 振り返って気がついた。さっきまでクタクタだったみんなが元気になっている。
「じゃ、午後のライブに出発しまーす」
「オー!」
 井上さんの張りきった声に、みんなが答えた。

 それから四時間……

 S市のライブが終わって同じ道をもどった、あの海辺を通過、スイカの直売店は影も形もなかった。

 グーグルマップで確認すると、周辺には高校や中学も存在しなかった。
 



ポナと周辺の人々

父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
平沢夏   未知数の中学二年生

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かの世界この世界:115『ヤコブとユーリアの母』

2020-10-28 06:52:44 | 小説5

かの世界この世界:115

『ヤコブとユーリアの母』語り手:ブリュンヒルデ      

 

 

 

 ヘルムの平和のためには必要なのよ

 

 みんなが寝静まっているので、囁くような声でもよく聞こえた。

 ユーリアを真ん中にして親子三人が語り合っているのだ。

 内容もさることながら、その密やかさは立ち入ってはいけない雰囲気だ。呼吸を乱さないように気を付けて目を閉じた。

「それは分かっている、でもユーリアの兄として納得できない。親子兄妹は骨肉だ、その骨肉を引き剥がされようという時に他人やヘルムがどうのこうのって関係ないよ」

「でも、お兄ちゃん。ヘルムが平和でなきゃ、我が家の平和も無いのよ。でしょ、ヤマタの力が衰えれば島の外ばかりじゃない、大昔にヤマタが封印したクリーチャーたちも蘇って災いをもたらすのよ」

「それでもいやだ、間違ってるよこんなこと!」

「聞いて。ヘルムにもオーディンの国にも車が走って飛行機が空を飛んでるわ。車や飛行機を使うことによって昔では考えられない便利な生活を送っている。でも、車や飛行機の事故で、毎年数千人の人が命を落としている。その人たちは、みんなが便利さや快適さを享受するための生贄と同じだよ。ううん、ヤマタは四年に一回しか生贄を要求してこない。四年に一人犠牲になるだけで四年間の平和が約束されるのよ。生贄に捧げられる日まで、ヘルムの人たちは女王のように扱ってくれる。わたしが居なくなった後のお母さんの生活も保障してくれる。そのことでわたしが命を長らえることは無いけど、それがヘルムの人たちの優しさだと思うのよ。お兄ちゃん、間違えないでね、わたしは、ユーリアは喜んで生贄になるんだからね」

「それでも、間違ってるよ。予定される犠牲と言うのは間違ってる! そんなの人の生き方として間違ってる! 間違った犠牲の上に築かれる平和とか繁栄は偽物だ!」

「お兄ちゃん……」

「ヤコブ、聞いておくれ」

 ほとんど口を挟まなかったお母さんが語り始めた。

 自然な寝息をたてるのに苦労する。傍らの四号の乗員たちは気持ちよさそうに眠っている、こんな大事な話をされて、よく寝ていられるもんだ。やはり、わたしは主神オーディンの娘にして堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士、我が名はブリュンヒルデなるぞ! この親子の相克を見過ごしにはできない!

「わたしも、十七の歳でヤマタの生贄に選ばれたんだよ」

「「お母さんが!?」」

「不思議だろ、こうして生き延びて、あんたたちを産んで育てたんだからね」

「生贄になって生きているなんてあり得ない……」

「どういうことなんだ、母さん?」

 わたしの耳も研ぎ澄まされた。しっかり聞こうと寝返りを打ったら、同時にロキが寝返って、わたしの口と鼻を塞いでしまう。

 ウ……ウグググ

 息が出来ない。

 一分近く辛抱したが、限界だ。

 プハーーー!!

「「「なに?」」」

 しまった、親子三人がこっちを見ている!

 

☆ ステータス

 HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

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まりあ戦記・022『親父一人の企て・1』

2020-10-27 06:05:23 | ボクの妹

・022
『親父一人の企て・1』    


 

 

 軍の保養施設なので、食事は部屋までは運んではくれない。

 一階の食堂で食べなければならない。
「あーーー食った食った!」
 のけ反るようにお腹を突きだすと、ポンとお腹を叩くまりあ。
「もっとゆっくり食べなさいよ」
 食事よりもお酒がメインの大尉が文句を言う。
「いやあ、マリアにマッサージしてもらったら快調で、速い!安い!美味い!になってしまう!」
「なんだか牛丼屋ね、せっかくの剣菱が横っちょに入ってしまう」
「こんな調子で食べていたら、マッサージで落ちた4%が、すぐに戻ってきてしまうわよ」
「わりーわりー、一足先に部屋に戻ってるね~、マリア、みなみさんのお相手よっろしく~」
 まりあは、ひらひら手を振ると食堂を出て行った。

 カッポーン…………コーン…………

 誰かが入っているんだろう、地下の浴場に続く階段からいい音が聞こえてくる。
「よし、もうひと風呂入ってこようか」
 ここにきて、まだ一人で温泉に浸かっていないことを思い出して、階下の浴場に向かった。
「このお風呂は初めてだな~」
 露天風呂にばかり入っていたので、地下の浴場は初めてだ。

 カラカラっと女湯の引き戸を開けたところで意識がおぼろになった。

 え…………?

 気づくとお湯の中に居た。それも全身がお湯の中に浸かっている。
 首を上に向けると、自分の髪がユラユラとお湯の中で揺らめいているのが見える。

――お湯の中なのに息が出来る?――

 手を伸ばすと壁に当たった。触ってみるとガラスのような感触がする。しかし、壁は仄かな緑色に光って、その先は見えない。

――心地いんだけど、ここは? これってなに?――

 手探りで、そこが人一人をゆったり入れる卵型の容器であることが知れる。
 閉所恐怖症ならパニックになるかなあ……そんなことを思ったりしたが、まりあには心地いい。
 再び目がトロンとしてきて、まりあは胎児のように、ゆるく丸まった。

――気持ちよさそうにしているところで悪いが、目を覚ましてくれるか――

 頭の中の声に起こされて目を開けると、容器の壁が素通しになって、ラボのような機器に取り巻かれていることが分かる。
 視線を感じて前を向くと、透明になった容器の向こうに、父である舵司令の顔が見えた。

――あ――

 ゆるく開いた股間のあたりに司令の顔があるので、まりあは慌てて足を閉じた。

――いまカプセルの底が開く。開いた先は小さなキャビンだ。キャビンにはコネクトスーツが掛けてある、それを着ると床がせり上がってきてシートになる。シートはそのままウズメのコクピットに運んでくれる。とりあえず、そこまでやってみてくれ――

 親父が手を動かすと、説明通りのことが起こり、まりあはコクピットに収まった。

――まりあの適応レベルを引き上げて運用システムを変更した。今までは五人でオペレートしていたが、このシステムならば、わたし一人でやれる――
「みなみ大尉とか、他の人は居ないわけ?」
――わたし一人だ。このシステムを構築するために、メンバーには休暇を出した。そして、まりあたちが、この保養施設に来るように誘導したんだ。ここは、ベースの最前線基地の一つだ――
「……今から迎撃?」
――迎撃じゃない、攻撃、それも奇襲攻撃だ。ヨミが成熟する前に撃滅する――
「えと、お父さん」
――なんだ?――
「……なんでもない」
――予備知識は与えない。ある程度分かってはいるが全てではない、予想外のことが起こると対応を誤るからな、出くわした状況に素直に反応しろ、その方が道が開ける。では、秒読みに入る……30秒前、29、28……――

 親父の企てに不安が湧いたが、深呼吸一つして未知の接敵に備えるまりあであった……。
 

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