大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・トモコパラドクス・73『ジョワ!』

2018-11-30 06:17:50 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・73 
ジョワ!
          

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであった……この連休は、ハルといっしょだ。


 ボールを目より少し高いところへ持っていってやる。

 たったこれだけ。

 たったこれだけのことで、ハナはボールを目で追い、首が上がり、お座りの姿勢になる。で、そこですかさず「お座り!」という。あとはイイコイイコをしてやると、ハナは昨日一日でお座りを覚えてしまった。

 滝川に教えてもらった方法だけど、こんな簡単にいくとは思わなかった。さすがは歴戦の義体ファイターだ。

 それに示唆的でもあった。単にハナの躾だけではなく、これからの友子の生き方も教えられたような気がした。それは、まだ閃きに過ぎなかったが、感覚的なヒントがあった。

「ハ、あたしって犬並みか!?」

 そう呟くと、ハナが「ワン!」と言って喜んだ。

 台風が接近している。

 中部、東海地方では、突風による犠牲も出ていた。
 今年は、異常気象で、関東地方でも竜巻が多発して大きな被害を出している。三十年前の人生の中でも、こんなことは無かった。地球は大きく見て温暖化などはしていないが、いささか異常気象であることに違いはない。

 新聞によっては、北極海の氷が無くなったらどうなるか、などと心配させる記事が載っていたりする。でも、この新聞社は、友子が生身の女子高生であったころ、こんなことを書いていた。
「二十一世紀の初めには、石油は枯渇するであろう。急がれる原発建設」
 石油は、無くなるどころか、技術の進歩により、海底の深層からの採掘も行われ、未だに枯渇の気配はない。論調も変わった。
「原発の廃止を世界の潮流に。火力発電に拍車を!」
 
 新聞の浅はかさはともかく、この台風による被害はなんとかしなければならない。
 いくら友子でも、台風そのものを消し去ることは出来ない。とりあえず自分ちとご近所だけは守らなきゃ。真一も、春奈も旅先で、心配しているだろう(こんな時に行く方も、行く方だけど)

 友子は、気象衛星や、近隣の気象台のCPUとリンクした。

 どうやら、このあたりで竜巻の気配である。「ようし、手を打とう!」と決心した。
 物置を探っていると、古いカッパが出てきた。材料としては、少し少ないので、長いゴムホースも流用し、分子変換をして、ウルトラマンの着ぐるみをこさえた。
 ホースが少し余ったので、ハナ用のウルトラスーツも作って、着せてやった。

 ジョワ!

 そう叫んで、ハナといっしょに高度三千メートルを目指しワープした。本物(?)みたいに飛んでいっては、すぐに発進地点が突き止められ、大騒ぎになる。
 
 しかし、かけ声が「ジョワ!」なのには苦笑した。
「ウルトラマンさんは、何がお好きですか?」
「ジョワ!」
 という、チョー古いギャグを無意識にかましたからである。当たり前に生きていれば、四十六である。無理もないなあ。そう思う友子であった。

 あちこちに積乱雲が出来ていた。すぐに解析して、竜巻を起こしそうなものを選んだ。
 積乱雲は、上空に寒気団が入り込み、地上の空気を吸い上げることでできる。だから、積乱雲を小さなうちに熱して、雨にしてしまえばいいのである。

 友子は、プラズマ弾の破壊力を、全て発熱に転換して、積乱雲目がけて撃ち出した。地上から見れば、空中で稲光がしたように感じるだろう。

 近くで、積乱雲が閃光、続いて轟音がして消滅した。

 目を望遠に切り替えると、ウルトラマンメヴィウスが、同じようにプラズマ弾を撃っていた。どうやら紀香も同じことを考えたようだ。

 こうして、首都圏で、竜巻の被害は、ほとんど出なかった。ただ、何人かのプロカメラマンが、望遠で、スペシウム光線を発射するウルトラマンを動画サイトに送ったが、良くできたCGであるという評価でおしまいになった。一部の映像専門家が「あれは、本物だ!」と、言ったころには、世間の関心は、とっくに別のところに行っていた。

 ただ、ハナだけが、あのときの快感が忘れられず、空が曇るたびに吠えるので、時々ウルトラマンにならなければならない友子であった。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・72『連休 ハルといっしょに』

2018-11-29 06:40:39 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・72 
『連休 ハルといっしょに』
        

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであった……この連休は、ハルといっしょだ。


 一郎は、ペットホテルに預ければいいじゃないかと言った。

 でも、ハルは家に来て、やっと一週間。そして、まだ生後五十日の赤ちゃんである。とても二日も手放して、旅行なんかできない。

 ということで、この三連休は、ハナと二人で家で過ごすことにした。

 躾なきゃいけないことが、いっぱいあるし、なにより、ハナの主人は自分であると思わせなければならない。
 ハナは、賢い子で、トイレは三回ほど失敗したあと、すぐに覚えた。大きい方は散歩の途中にと、散歩に連れだし、ものの百メートルも走らせるともよおしてきたようで、道路の真ん中でうずくまった。直ぐに道路の端に連れて行き、ウンチ袋を手に待ちかまえた。
「よし、健康なウンチだ!」
 友子は、袋の口をカタ結びにすると、イイコイイコをしてやった。公園の側まで来ると、ハナはキョロキョロし始めた。ひょっとして滝川さんのコーヒーショップが現れたのかと見回したが、単なるハナの願望のようだ。午後に、もう一度お散歩に連れて行こうと思った。

 うちに帰ると、嫌がるハナをシャンプーしてやった。お湯の温度に気をつけ、犬用のシャンプーで軽く一回。すぐにタオルでくるんで、リビングへ。ドライヤーの弱で、乾かしてやる。
 さあ、これから躾と思ったら、ハナは、気持ちよさそうに眠ってしまった。あまり気持ちよさそうでカワイイので、そのまま抱え込んで、友子も横になった。

 小さな温もりが、とても愛おしかった。

 あたしのことを、人間だと思ってくれている。そして、なんのクッタクもなくその身を預けている。やっぱりハナを飼って正解だったと感じた。こんなに無条件で友子を信じ受け入れてくれる存在は、他にはいない。
 
 友子は、自分もお昼寝モードにして、少しまどろんだ。

 昼からは、本格的な躾に入った。

 散歩から帰った後、ミルクを飲ませてあったので、室内トイレに連れて行き、おしっこを促す。
「ハナ、おしっこ!」
 まるで、スイッチが入ったみたいに、おしっこをした。終わるとブルっと身震いして、後足で砂をかけるようにした。本人もうまく出来たのがうれしいのかドヤ顔になる。なかなかの奴である。

 次ぎに、狭い庭に出てボール遊び。投げてやると、教えもしないのに口でくわえて持ってくる。賢い奴と思ったが、単に遊んで欲しいだけなんだと理解した。
 その次の、お座りが、なかなかできない。
「お座り!」
 と、言っても、うろうろしたり、まとわりついたり。
 掴まえてきて、無理にお座りの姿勢をさせるが、効き目がない。
 あまり真剣に「お座り」を念じ続けたので両隣の中野さんと森さんが庭でお座りをしていた……。

 昼過ぎに、もう一度お散歩に行った。なんとなく滝川さんに会えるような気がしたから。

 今度はあたり。
 公園の角に『乃木坂』の看板で出ていた。
 ハナとポチは、店の庭でじゃれあっている。滝川が、コーヒーを一口飲んで切り出した。
「こないだの、渋谷事件。娘さんの名前はミズホだった」
「ええ、あたしの中ではミズホクライシスのファイルにカテゴライズしてあります」
「以前、未来にリープしたときは、栞だった……」
 
 友子のCPUはバグりそうになった。

「そ、そうです……なんで、いままで気づかなかったんだろう」
「理由は、二つ考えられる。トモちゃんの未来がパラレルか……娘が二人いるか」
「わたし……どちらも真実。どういうことなんだろうか?」
「今は、あんまり深く考えない方がいい。そのうち分かる時がくる。それより、ハナちゃんにお座りをさせしょう」
 滝川が、ポチを呼ぶと、ハナもノコノコ付いてきた。
「こうやるんだよ……」
 滝川は、一発でハナをお座りさせた。
「こんな、簡単なやり方が……!」

 友子は、いろんな問題の糸口が、瞬間見えたような気がした。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・71『ミズホクライシス・終焉』

2018-11-28 06:26:08 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・71 
『ミズホクライシス・終焉』
         


 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……そのマッタリ生活が破綻。第五世代の義体の攻撃を受けた。


 荒川を吹く風は、もう秋を感じさせる……。

 ハナは、生まれて初めての秋風の中を走り回っては、鼻をひくひくさせている。ポチは完全な保護者のつもりで、ハナの側を離れず、二匹で河川敷を走り回っている。

 渋谷の大惨事のあと、丸一日は平穏だった。しかし、学校にいても街を歩いていても気が休まらない。敵は友子の意思にかかわらずワープさせることが出来る。一昨日は乃木坂に着いたつもりが、渋谷だった。また第五世代の義体は、攻撃してこない限り人間と区別がつかない。さすがにバテて、今日は学校の帰りに現れたカフェ『乃木坂』に入って、息をついた。
 滝川は、最初居なかったが、足許にポチの気配を感じると、目の前のシートに座っていた。

 思わず安堵の笑みがこぼれ、気がつくと、この荒川の土手に座っていた。子犬のハナも現れて、こうして、ポチと遊んでいる。

「当分は安心していいよ……」
「大丈夫なんですか……?」
「ああ、敵もかなりの無理をしている。一般の人たちを巻き込めば、トモちゃんを仕留められると踏んだ。それでハンパな改造も含めて、第五世代の義体を五体も送り込んで失敗した。当分はやってこない」
「でも、敵は、まだいるんでしょ?」
「第五世代の義体は、作るのに時間と金がかかる。あいつらはプロトタイプだ、改良も考えると、相当かかると踏んでいい」
「でも、好きな時代にリープできるんでしょ。だったら、いつでも来られるんじゃ……」
「タイムリープには、条件がいる。太陽と地球と月の位置が揃わないとできないんだ。経験から得た予測だけどね」
「そうなんだ」
「それに、トモちゃんには第五世代を感じる感覚が育ってきていると思う」
「え……」
「あの、ポチを、よく見てごらん」
「……あ、犬の義体だ!」
「そう、第五世代の実験用に作られた犬なんだ。最初は敵だったけど、オレに懐いてしまった」

 幼稚園ぐらいの女の子と男の子が、二匹の犬を見つけて歓声をあげた。ポチも、ハナも子供たちが大好きで、二匹と二人は、河川敷を走り回っていた。子供たちは犬を掴まえようと必死。ハナは、二三分で女の子に掴まえられ、喜んでいる。ポチが吠える。相手にして欲しいのだ。
 ハナも気まぐれで、すぐに女の子の手から逃げると、ポチを追いかけ始めた。
 二人と一匹に追いかけ回され、ポチはご機嫌。傍らで見ているお母さんたちも安心な犬だとわかったのだろう、子供たちと同じように笑っている。
 ポチは、巧みに身をかわし、なかなか掴まえさせない。

 一瞬だった。

 男の子が飛び込むようにしてポチを掴まえようとし、ポチは、たちまち身を回転させた。すると風が起こって、男の子は吹き飛ばされ、数メートル先の川に落ちてしまった。
「あ、あいつ、昔のクセ出しやがった!」
 滝川は、土手を駆け下り、川に向かおうとした。
 ポチは、一瞬で状況を把握し、川に飛び込み、ほんの数秒で、男の子を助け上げた。
 男の子は、水浸しになったが、泣きもせずにポチをもみくちゃにしていた。お母さんが、男の子を裸にして、タオルで拭いている間、ポチは申し訳なさそうに頭を下げてあやまっていた。
「一応、飼い主も謝っとくか。あ、その前に」
 滝川は、バッグの中から紙飛行機を取りだし、こう言った。
「飛ばすから、ずっと見てて、落ちたところが分かるように。えい!」
 紙飛行機は、スッと空に飛んでいった。そして肉眼では見えない視界没になった。友子の目は自動追尾が出来る……一瞬紙飛行機が消えた。

「え……」

 声が出ると、そこは友子の家の前だった。カバンは足許に。紙飛行機は、ハナがくわえて尻尾を振っていた。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・70『ミズホクライシス・激突』

2018-11-27 06:45:21 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・70 
『ミズホクライシス・激突』
        

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……そのマッタリ生活が破綻。第五世代の義体の攻撃を受けた。


 乃木坂に着いたと思ってドアを出たら、そこは渋谷の駅前だった。

 自分でワープしたわけじゃない……誰かにワープさせられたんだ。その瞬間殺気を感じ、アナログで高速移動した。滝川さんからもらったメモリーの直感だ。
 移動の瞬間、すぐ前にいたオジサンの首がすっ飛ぶのが見えた。ワープしたバスケ通りからでも、オジサンの体が立ったまま、二メートルほどの高さに血を吹き出しているのが分かった。首のないオジサンの周囲に悲鳴が上がった。
 友子は、あらかじめ制服を直ぐに変換できるようにしていたので、バトルスーツになっていた。
0・5秒で、敵の位置が分かった。交番の前で、スマホを見ながら歩いているフェリペの女生徒が、それであると知れた。右手のスマホがパルスブレイド。使用後の55度の余熱が感知できた。友子は躊躇せずに、パルス弾を撃った。敵はスマホを見ながら一瞬驚いた顔になったが、次の瞬間、パルス弾の直撃で、80%生体組織である第五世代の義体が血しぶきと生体の断片や肉片をまき散らしてバラバラになった。周囲で、また悲鳴が上がった。並の人間には、自爆にしか見えないだろう。敵は、わざと通常のパルス弾を使っている。あいつらは義体専用のパルス砲を持っているはずなのに……!

「お母さん、敵は、まだ4体いる!」

 ミズホがワ-プしてきて耳元で囁いた。瞬間パルス弾の気配。ミズホはワープで、友子はアナログの高速移動で、一体の義体の後ろに回り込んだ。義体は青学あたりの女子大生に擬態し、パルス弾発射直後に前方にシールドを張っていた。
「アナログの高速移動は分からないようね」
 言いながら、パルスブレイドで縦に真っ二つにした。一瞬右半身が反応して振り返ろうとしたが、左半身が付いてこず、生体組織と大量の血液を吹きだして倒れた。次の瞬間には、三方からパルス弾が飛んできた。側にいた通行人三人が、友子の代わりに弾を受けてバラバラになった。

「卑怯だ! 一般人を巻き込んで!」

 高速移動しながら、友子は悔しくなった。高速移動で、姿をくらませるのは二秒が限界だった。二秒後には、居場所が突き止められ、パルス弾が飛んできて、その都度通行人が犠牲になる。
 高速移動に、乱数は使っていない。使えば、すぐに読まれて、攻撃されることは、学校の屋上の戦いで分かっている。

――ミズホ、ワープは直ぐに読まれる。乱数無しの高速移動で!――

 滝川からもらったメモリーのお陰だろう。友子は、人にも物にもぶつからずに移動できるが、ミズホは無理なようで、主に建物の陰や屋上を使って移動している。二度目にすれ違ったとき、ミズホの右腕は無かった。

 三体目を倒したとき、友子はおかしいと感じた。

 もう、敵の残りは一体のはずなのに、攻撃の密度が変わらない。この一帯には、友子達が逃げられないようにバリアーが張ってあるので、敵も新戦力の投入は出来ないはずだ。

――お母さん、こいつら、五分で復活する!――
――ミズホ、冷静になって。生体を破壊しても、こいつらは破壊されたことにはならない。おそらくCPUが生きている限り、リペアしてしまうんだ――
――ど、どうしたら、キャー!――
――ミズホ、どうした!?――
――左足が!――
 友子は、0・1秒遅らせて、ミズホの前に出た。櫻女学園のナリをした義体が、ミズホにトドメを刺そうとしていた。友子の反撃を予想して、背中と側面にはバリアーを張っていたが、パルス砲を撃つために、前はがら空きだった。
 パルス弾で破壊したあと、CPUを探した。0・4秒で発見した。
「くそ、足の踵にあったんだ!」
 一撃でCPUを破壊したが、寸前にCPUは信号を発していた。

 直感だった。信号を受信し、ほんの一瞬信号を送ってきた義体をアナログの高速移動で追いつめた。さすがに歴戦の義体たちのメモリーだ、30秒で追いつめ、バリアーが張れないように、敵を抱きしめ、パルス砲の右手を捻り、しっかりと、右足の踵をぶち抜いた。神楽坂高校の女生徒に擬態していた義体はぐったりとなって、動かなくなった。
「こいつが、司令義体だったのね……」
 残り3体を破壊しようとして、移動しかけた刹那に体が反応して、横様に飛び、死んだふりをしていた義体の頭をパルス弾で破壊した。直後、右頬をパルス弾がかすめた。司令義体のメインCPUが直前に命じた指令で、右腕がパルス弾を撃ったのだ。

 あとの三体は、第四世代に司令義体による再生機能をつけただけの改良型だったので、司令義体を破壊したあとは、容易く破壊できた。

 ミズホの手と足の再生を手伝い終わったころに、救急車とパトカーが何台もやってきた。
 渋谷、早朝無差別テロと、マスコミは報じた。犠牲者は13人。そのうち身元が判明したのは8人。残りは義体である。判明のしようがない。
 その身元不明の遺体のDNA鑑定に入る前に、遺体は20%の金属部品と共に消えてしまった。

 今度は、こちらから、仕掛けなければと、決心する友子であった。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・69『ミズホクライシス・膠着』

2018-11-26 06:42:13 | トモコパラドクス

ライトノベル・トモコパラドクス・69 
『ミズホクライシス・膠着』
       

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……そのマッタリ生活が破綻。第五世代の義体の攻撃を受けた。


 早くしないと、いい犬は売れちゃうよ! 

 友子は子どものように時めいていた。


 太田のハニートラップを始めとする、C国同業者の問題やら、先日の第五世代の義体からの攻撃などで、鈴木家の面々は、少しナーバスになっている。

「ねえ、犬飼ってみようか?」

 母であり、義妹である春奈が言い出した。友子のCPUも、予期せぬ提案に安息とメンテナンスへの自然な効果を予感した。
「ネットで検索してたら、この店が目に飛び込んできたの!」
 で、隣接するA市のペットショップに、一郎の車で急行することになった。
 車に乗り込むとき、お隣の中野のオッサンと目が合ったが、自然な挨拶ができた。中野のオッサン……いや、中野さんも、元高校教師らしい落ち着きを取り戻してくれたようだ。

「この子! この子がいい!」

 まるで、吸い寄せられるように店の奥の柴犬のゲージに向かった。
 友子は、義体なので、人にしろ動物にしろ、その性格や特徴などが一発で分かる。ペットショップに入ったとたんに、無意識にCPUを犬の識別に特化させた。
 そして、飛び込んできたのが、目の前の生後40日の柴犬であった。DNAまで鑑別し、その可愛さ、かしこさ、健康、自分や家族との相性など、撫で回すように何度も繰り返しトレースした。この子にも、その気持ちは伝わるようで、尻尾を千切れんばかりに振った。
「よし、物事は直感が大事だ。春奈、こいつでいいか?」
「う~ん、賢そうね。犬ぐらい賢いのにしとこうか」
「なんだか、それじゃ、あたしたちがバカみたいじゃない」
「ハハ、こいつに見習って、おれ達も少しかしこくなろう!」
 そういいながら、一郎は子犬の説明書きを。春奈は値段と、ここ一年に子犬にかかる費用を計算していた。

 ゲージとキャリーもいっしょに買ったころには、犬の名前も決まった。

 帰り道は、穏やかな道を選んだ。
「ハナ、もうじきお家でちゅよ~」
 キャリーから出して、後部座席で、春奈が付けたばかりの名前で、子犬とじゃれていた。
「あ、あのお店、ペット持ち込み可だよ!」

 ちょっとした林の側に、コーヒーショップがあった。その名も「ドッグズ」

 店に入ると、かわいいオネーサンがオーダーを取りに来た。ちゃんとペット用の飲み物もある。
「まあ、お宅の子になったばかりなんですね。じゃ、子犬用のミルクサービスさせてもらいますね!」
 その子がジュンであることは、入店と同時に分かった。友子は瞬間で自分の分身を作り、自分は別の女性に擬態して、化粧室から現れ、窓ぎわの滝川がいる喫煙席に着いた。
「おまたせ」
「どうやら、また一苦労の様子だね」
「うん、一昨日、第五世代の義体に襲われた。友だちが助けてくれたけど、危ないところだった」
「あの義体は自信作のようだったよ。まだ名前もないプロトタイプのRXだけど、いきなりの実戦投入。君が勝てる確率は1%もなかった。紀香くんの機転で助かったんだ。来週には、また攻勢に出てくるだろう」
「ハ~……」
 友子がため息をつくと、雑種だけど、毛並みのいい中型犬がやってきた。
「ぼくの相棒、トモちゃんのため息にも反応するようにしてある。ポチ、それ渡して」
「アウ~ン」
 ポチが、アゴの下に隠していた、それを渡してくれた。
「首輪?」
「ああ、それを付けておけばハナちゃんはワープできる。トモちゃんの思念だけに反応してね。いずれ、役に立つときがくると思う。それから、君には、これをあげよう……」
 いきなりCPUにメモリーが飛び込んできた。反射的にCPUはウィルスと認識して、拒否した。
「大丈夫だよ。ボクと仲間の戦いのメモリーだ。第四世代の我々だけど、経験値は第五世代には負けない、きっとなんかの役に立つ」
「ありがとうございます」
 友子は、そのメモリーを受け入れた。ザワっと全身に粟粒がたった。
「スゴイ戦いを経験されてきたんですね……」
「具体的な戦闘のメモリーは再現できないようにしてある……十六歳の君には、凄惨すぎるからね。あ、タバコ切らしちゃった。ごめん、向かいのタバコ屋で買ってきてくれないかな」
「いいわよ」

 道路を渡ると、すぐ後ろにマイクロバスが止まった。
「かなこぉ、どこ行ってたのさ!」
「へ……」
 そのとき、友子は初めて自分がももタロのメンバーの一人に擬態していることに気づいた。

――本物は、体調不良で、ボクが保護している。悪いけど半日代わってあげて――
――滝川さんって、ももタロのファンだったんですか!?――

 返事はなかったが、半日ももタロをやる決心をした。一郎と春奈が、友子の分身とハナを車に乗せて道路に出てくるのが目の前に見えた。

 で、当然のごとく、ドッグズはただの林の一角に戻っていた……。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・68『ミズホクライシス・予兆』

2018-11-25 06:39:51 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・68 
『ミズホクライシス・予兆』
       

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……そのマッタリ生活に破綻の兆しが……。


 退屈な授業が終わって大あくびすると、隣の麻衣の視線を感じた。

「ハハ、ノドチンコまで見えちゃった!」
「なによ、麻衣の視線感じたから……」
 アクビと一緒に出た涙を手の甲で拭っている間も、麻衣は笑っている。
「大あくびの顔のまま、人の顔見ない方がいいよ。なけなしの可愛さが台無しよ」
「いつになく絡むわね、このコーラ女」
「ちょっと目ぇ覚まししに行かない?」
 友子の返事も待たずに、麻衣は、教室を出て行った。

「まだ、三時間目の前だよ。コーラ飲むか普通?」
「友子も飲みなよ、目が覚めるから」
 自販機のボタンを、拳で叩いたら、二個出てきた。
「あ、ラッキー! ほれ」
 麻衣はコーラを、友子に投げて寄こした。
「よそで飲もう、人の目に付くから」
 そう言って、校舎の階段に向かった。入れ違いに自販機の前を、生指の池波が通るのを感じた。乃木坂学院は、休み時間も自販機は動いているが、生指は、あまりいい顔はしない。特に、昼休みでもないのに教室に飲み物を持ち込むのは御法度である。

「あれ……」
「ドンマイ、ドンマイ」
 いつもなら施錠されている屋上へのドアの鍵が開いていた。さすがに友子は警戒し始めた。しかし、屋上をスキップしながら給水塔の方へ行く麻衣は、まったくの麻衣で、脳天気さに変わりはなかった。

「プハー……ゲフ!」

 いつも通り、顔に似合わない大きなゲップをする麻衣に、友子は苦笑い……で、気が付いた。ゲップの中に義体にしか分からない、暗号が含まれていたのである。

――お母さん、またヤツラが動き出した。気を付けて――

「瑞穂……」
「ゲフ――学校にスパイがいる――」
 友子も、コーラをあおった。
「ゲフ――麻衣はどうしちゃったのよ?――」
「ゲフ――五十分だけ、トイレで眠ってもらった。次の時間には帰すわ――」
「ゲフ――情報をちょうだい――」
 麻衣に化けた瑞穂は、残りのコ-ラを一気飲みした。
「プハー……ゲフ、ゲフ!――圧縮して送った――」
「ありがとう、コーラも、たまにはおいしいわね」

「だめでしょ、女の子が下品にゲップばかりして。屋上の使用も禁止のはずよ」

 見知らぬ女生徒が立っていた。瞬時に友子は、全生徒の資料を検索したが、こんな女生徒はいない。

 でも、義体特有のオーラもノイズも感じなかった。全身をスキャンしても、生身の人間である。虫歯の治療痕、二日目の便秘さえも読み取れた。
「気を付けて、こいつは新型の義体。あたしも、そうだけど……」
 そう言ったとき、瑞穂はもう、自分本来の顔に戻っていた。横顔が自分に似ている。そう思ったとき、破壊の兆しを感じて、跳躍して給水塔の上に瑞穂と共にへばりついた。校舎内や、グランドから見られないためである。
「ここじゃ戦えない。ワープ……!」
 ワープした瞬間、なにかに弾かれて、屋上に叩き戻された。
「この空間は閉じてあるの、ワープはできないわよ」
 また、破壊の兆し。
 友子は母子で跳躍し、屋上のコンクリートにジャンプの姿勢のまま降り立った。
「おかしい、今の衝撃なら、給水塔は破壊されているはず!」
「新型のパルス砲、義体にだけ効果があるの」
「分子変換は……」

「効かないわよ、ちゃんとバリアーを張ってある」
 女生徒の義体がニクソク言う。

 三十秒ほど屋上で、友子と瑞穂は逃げ回った。パターンを読まれないように、乱数ムーブにしたが、それでも読まれたようだ、二発ほどパルスがかすめていき、制服はズタボロ、髪はチリチリになってしまった。瑞穂も派手に動き、パルス砲を放ったが、バリアーに阻まれて、まるで効果がない。
――お母さん、この乱数を使って!――
 瑞穂から送られた乱数で跳躍したが、やはり読まれている。三発目がかすめていき、ブラのストラップを吹き飛ばした。
――瑞穂、あなたの乱数も読んじゃった。あたしは第五世代の義体だからね――

 ドーン……!

 いきなり、女生徒の義体が、血しぶきと肉片、特殊金属のパーツをまき散らして爆発した。同時に、学校近くの空で、カラスが落ちていくのが分かった。

「危ないとこだったね」

 左腕の肘から先が無くなった紀香が、屋上に跳躍してきた。
「今の、紀香が?」
「うん……」
「左手の先をミサイル代わりにしたんですね……でも、どうやって?」
「あたしはカラスを狙ったのさ。カラスとこいつが同軸で重なったところで、発射。こいつにはロックオンできないからね」
「ちょっと危ない秋になりそうね」
「感想言ってる前に、そのナリなんとかしなよ。もう千切れ掛けのパンツ一枚だぜ」
「紀香の片腕もね」
「それと、この義体の始末もね」
「こいつ臭いね」
「八割、人間と同じ生体組織だから」

 友子は、義体の残骸を分子分解し、そこから制服と、紀香の左手を、間に合わせに合成した。
「この左手、動かないよ」
「とりあえずのダミー。組成が違うんで、完全に同じものはね。昼休みにでも、診てあげる」
「たのむよ。これじゃ、ご飯もたべられやしない」

 学校の前の道路でノビていたカラスは、やっと脳震とうが治って「アホー」と一声鳴いて飛んでいった。

 危険な秋を感じさせる風が三人の頬を撫でていった……。
 

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・67『今は もう秋……』

2018-11-24 06:11:59 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・67 
『今は もう秋……』
         

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……


 なれの果てから、またメールが来た。これでもう三通目である。

 主に高校演劇の在り方や、津波のことをとりあげることの説明をしている。
 友子も、大人しく恭順の意を示せばすむことなのだが、こういう情熱と現実からの逃避を取り違えたオッサンは許せなかった。
 フェリペのなれの果ては、山坂といってS劇団を出ている。

 三通目を二度見たときに感じた……。

「あら、本当に来るとは思わなかった」
「オレも、本当に来てしまうとは思わなかった」

 江ノ電『鎌倉高校前』のプラットホームで、友子は、ある女性に擬態して山坂を待っていた。学校には、自分の分身を行かせている。

「水曜が休みだってこと、覚えていてくれたんだ」
「三回、学校休んでデートしたでしょ」
「二回だ。古い思い出だけど、まだ記憶は確かだ」
「いいえ、三回。二回目に海辺でキスして、三回目は、ホテルの前で、先生は車停めたの」
「ハハ、あんな冗談、まだ覚えてんのか」
「じゃ、あのファーストキスも冗談だったんだ」
「若かったんだ……」

 それきり、二人は黙り込んで、目の前に広がる湘南の海を見つめた。

 十分ほどすると、下りの電車がやってきて、遅刻した生徒が二人降りてきた。生徒は二人に興味を示すこともなく、改札を出て行ってしまった。それをきっかけに山坂が口を開いた。

「海辺に出ようか」
「うん、稲村ヶ崎の方に行こう」

 天気は良かった。前線は、遠い日本海側を通過中たが、湘南は波が意外なほど高く、犬を散歩させている人を二人見ただけで、サーファーの姿はなかった。
「なんだか、二人で砂浜買い占めたみたいだな」
「フフ、十五年前も同じこと言ったよ」
「ハハ、オレって、進歩ねえなあ」
「その表現はよくないな。せめて、変化しないぐらいがいいよ。それも胸張って」
「なんだか、それじゃ、オレが自信うしなったみたいじゃないか」
「先生、三回目に言ったよね。十八になったら免許取れって」
「ああ、車に乗ったら世界が変わるからな」
「だから、免許取ったんだよ」
「ほんとか、オレ知らなかったぞ」
「卒業まで、内緒にしておこうと思ったら、ほんと、先生が言う以上に世界が変わっちゃった」
「おまえの世界が変わったのは認める。自動車を通り越して飛行機だもんな」
「わたし、CAやりながら、世界中のお芝居観てんのよ」
「ほう……」
「ねえ、石の投げっこしましょうよ」
「この波じゃ、水切りは無理だぜ」
「砲丸投げよ。どこまで投げられるか」
「ハハ、そんなの勝負にならないって」
「CAをバカにしちゃいけません。はい、これくらいかな」

 友子は、ソフトボールぐらいの石を二個拾った。

「一二の三よ!」
「分かった」
 二人で声を揃えて、石を投げた。友子の石が少し遠くに飛んだ。
「やったー!」
「同じくらいさ。でも、力つけたな」
「去年、中央大会観にいったのよ」
「なんだ、顔ぐらい出せばいいのに」
「わたし、顔に出ちゃうから」
「……どういう意味だ?」
「ちっとも変わってないとこ。ああ、こんなのを日本一の高校演劇だなんて思ってたんだ。ヤでしょ、そんなクソナマイキなOGは」
「無理いうなよ。たかが一二年で舞台に立つやつばっかなんだぞ」
「CAだって同じ。劇団の研究生だって、同じよ。でしょ?」

 山坂が、何か言いかけると、友子は、134号線の下に行った。

「あった!」
「なんだよ……」
「ファーストキスのしるし!」
「え……」
「あのあと、先生、ずっと海見てたでしょ。わたしその間に、このコンクリートに石でシルシつけたの」
「どれ……?」
「これ!」
「……この縦棒か?」
「縦棒じゃないわよ、少し斜めだけど、アルファベットの『I』よ」
「I……イニシャルじゃないな」
「アイよ。愛を一番簡単に、人に分からないように書こうと思ったら、これが一番でしょ」
「そうなんだ……」
 山坂と友子の目があった。ひとしきりの潮騒……山坂が、一歩友子に近づいた。友子は静かに目を閉じた。
「な~んちゃってね。ハハ、その気になった?」
「バ、バカにすんのか!?」
「尖ってはいけません。わたしは、今日、これをこうしに来たの……」

 友子は、勢いよく『I』に横棒を付け加えた。

「ペ、ペケ!?」
「違うプラスよ。足す引くの記号のプラス」
「プラス……」
「そう、先生も人生の半ばは過ぎたんだから。プラス思考でいかなきゃ」
「プラス思考か」

 山坂は、しばし、その記号を手でなぞった。

「碧(みどり)……」

 山坂が振り返ったとき、碧の友子の姿は無かった。

 噂では、フェリペの山坂の指導が変わったそうである。友子にメールが来ることも無くなった。

 そして、数か月後、山坂は知った。碧という卒業生は、着陸事故で、乗客を助けようとして、たった一人殉職していた。

 そう、あのプラスは、墓標のシルシでもあったんだ……。

 友子は、やっとトゲが一本抜けたような気がした。
 

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・66『……なれの果て』

2018-11-23 06:29:27 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・66 
『……なれの果て』
        

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……いよいよ夏休みも終り。さあ、いよいよ九月だ!。


 なれの果てからメールが来た。

 友子は、またムナクソが悪くなってしまった。

 昨日の九月一日は防災の日で、あちこちで防災訓練などが行われた。
 しかし、一般の高校生である友子には関係なく、そぼ降る雨の中、演劇部の城中地区の地区総会に部員全員……と言っても、妙子と紀香の三人で参加しにフェリペ学院高校まで、地下鉄で行った。

 友子はおぼろにに感じる土地の記憶に、センサーの感度を上げた。

 土地や空間というものは、激しい事件や、事故があると、記憶として焼き付いてしまうことがある。夏休みに軽井沢大橋で見た女性などは、まさにそれで、勘の鋭い人には見えてしまい、幽霊と勘違いされる。
 東京は、あちこちの空間が戦時中の記憶を持っており、感度をノーマルに設定していても、そういう記憶がよく飛び込んでくる。
 でも、昨日は違った。阿鼻叫喚地獄ではあったが、それは関東大震災のそれであった。三年前の震災もひどかったが、リアルに見える友子には、火事で焼け死ぬ人が多く、所によっては、東京大空襲のそれよりも悲惨なところもあり、友子は、そっとセンサーの感度を下げた。紀香も同様に下げたのか、目が合って、思わず互いに顔を伏せてしまった。

 地区総会会場のフェリペ学院は、東京でも名うての名門演劇部で、総会の前にフェリペ学院の作品の参考上演がある。昔は、総会の定足数に達するまでの時間、先に来た学校の人たちが退屈しないように、簡単なエチュードを見せるだけだったが、あまりに上手いので、近年は、フェリペ学院の自信作を見せるようになり、フェリペ学院の演劇鑑賞会のようになってきている。

「まあ、良くも悪くも勉強になるから」

 紀香の、その言葉で妙子も友子も付いてきたのである。

 客電が落ち、会場が暗くなると、薄いブルーのライトが微かに点いて、雨合羽にビニール傘を持った女の子達が観客席に八人ほど現れ「ジャスト レイニング ジャスト レイニング……と、あどけなくではなく、幽霊のように陰鬱に唄う。そして、カットオフしたかと思うと……。

 ドーン!! 

 特大の和太鼓を叩いたような音が暗闇のなかで、響いた!
 無垢な妙子は、これ一発で、芝居の世界に引きずり込まれたが、スレている友子と紀香は、ご大層な客の掴み方をするものだと、かえって、あとの展開を心配した。プロ、アマ、高校演劇にかかわらず、こういう幕の開け方をして、肝心の芝居で崩れるところが多いからだ。

 闇の中で、緞帳が開き、薄暗がりのなかで、這いつくばったような十人ほどのコロスが、「ヘーイ、へーイ……」と口々に観客席の方に手を伸ばし、誰かに呼びかけている。

――ああ、これは……津波の芝居だなあ――
――みたいね、ちょっと違和感だけど――
 友子は紀香と、CPU同士で会話した。
――『ツー・ナミ』って、タイトルだから、もっかい津波の描写があるわよ――
 紀香が見切ったように言った。

 話は、こうだ。震災の被災地から「波」という名前の小学生が、東京に疎開してくる。波は津波の中、避難中に姉の「海」の手を放してしまい、姉はそのまま行方不明になってしまう。波は、姉の手を放してしまったことがトラウマになってしまい、ほとんど口をきかない子になってしまう。夜になると、時々押しつぶしたような声で独り言を言う。その声が、姉の海とそっくりなのである。
 そんな波を、疎開先で不憫な目で見る大人達、同情しながらも気持ち悪がる子供たち。
 その子供たちの中に奈美子という同年配の女の子がいる。この子だけは、波のことを、ちゃんと友だちとして扱ってくれる。
 そして、奈美子は、姉の手を放してしまった罪悪感から波を解放してやろうと、その瞬間を再現してみせる。
 今度は、ソヨソヨ、ヒタヒタという音がしだいに大きくなり、耳を圧するほどになり、照明は、それに反比例して、暗くなる。そして、波は気づく。
「手を放して! 波まで津波にさらわれる……」
 そう言って、姉の海は、自分から手を放して行った……。
「わかったでしょ波。お姉ちゃんの気持ちが……」
「でも、でも、あたしが海姉ちゃんの手を放してしまったことに変わりはない。あたしが悪いんだ」
「お姉ちゃんは後悔してないよ、波を助けられたんだから。それにお姉ちゃんは独りぼっちじゃない」

 奈美子が、そう言うと、数人の子供たちがやってくる。

「あたしたちもね、不慮の事故で死んだ子達なんだよ。みんな、新宿やら環八やらで、交通事故で死んだんだ。お姉ちゃんも、あたしたちも同じ。仲間なんだから、そして仲良くやってるんだから!」
 と、同化と友情のカタルシスで幕が降りる。

「いかが、でしたか。感想があったら遠慮無く聞かせてください!」
 演じ終わった充足感いっぱいに部長がマイクを握った。
「凄かった」「感動した」「迫力ありました」「上手かったです」などの感想が続いた。

「一言いいですか」

 紀香が手を上げた。
「はい、乃木坂学院さんですよね?」
「ええ、部長の白井紀香っていいます」
「はい、どうぞ」
「津波で亡くなった子と、交通事故で亡くなった子とでは、死の意味が少しちがうと思うんです。この芝居は、共感と、そこから来るカタルシスを見せんがために、作られたもので、作る動機が……ちょっと違うと思うんです。カタルシスのために津波を素材にしただけ、津波の効果も、劇的な効果を狙っただけで、被災者の方々の実感とはかけ離れています」

 その時、顧問の先生が舞台に上がり、語り始めた。

「そりゃあ、完ぺきだとは言わないけども、こうやって津波のことを取り上げることは意味があるんじゃないかなあ」
 今度は、友子が発言した。
「先生は、この作品を書くにあたって、また、作るにあたってフィールドワークされたんですか?」
「そ、それは……」

 その言葉で、友子にも紀香にも分かってしまった。このR学院の先生は若いころに劇団Sにいた、思うところあって高校の先生になり、自分のクラブを劇団にしてしまったのだ。友子も紀香も、場や空間の記憶として、かつての災害や、戦災をじかに知っている。だから違うと感じた。この人と、これ以上話しても無駄だと感じた。

「ま、芝居の作り方って、それぞれですから。どうぞ、これからもご精進ください。失礼しました」

 それで、終わらせるつもりだったが、その後の総会が終わったあとも、友子達を論破しようと、この先生は口に泡をとばした。
 友子も紀香も穏やかに聞き役にまわり、最後は、メアドの交換までやった。

「演劇青年のなれの果てだね……」
「あんな言い方しなくても、よかったんじゃない?」
 と、妙子は、乃木坂学院の良心を代表するように、控えめに言った。
「でも、あんなの誉めてたら、東京の高校演劇がダメになっちゃうよ」
 すると、妙子が意外なことを言った。

「ダメになるんなら、一度潰れてみてもいいんじゃないかな」

 で、友子は、今朝、ムナクソの悪いメールを持て余しているのであった……。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・65『お隣の中野さん・2』

2018-11-22 06:06:13 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・65 
『お隣の中野さん・2』 
        

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……いよいよ夏休みも終り。さあ、今度は、お隣の中野のオッサンだ。


「中野のオジサン、自己嫌悪なんて簡単なところに逃げ込まないでね」

 正直、中野は自己嫌悪というような麗しげなものではなく、ただパニックに落ち込んでいるだけだった。しかし、七十歳にもなろうかという元高校教師に自己分析をさせ、正しい十年余りの余生(日本人の平均寿命から割り出した)を、心静かに送ってもらうには、自己嫌悪のうちに閉じこもっているだけでは、なんの進歩ももたらさない。

 なんと、友子は七十歳の元教師を、ソクラテスのように論破し、中野の精神を救済させようとしている!

「中野のオジサンは、昭和42年から、ずっと独身で、教師と党員であることに生き甲斐をもって生きてきたのよね」
「その命題の置き方は間違えている。わたしがずっと独身であったことと、教師、党員であったことを並列に並べれば、誤謬に満ちた結論しか導き出せない」
「もう、ムツカシイこというんだから。ガチガチの教師で、コチコチの党員だったから、女性に巡り会う機会が無かったのよ。あ、話は最後まで聞いてね。オジサンは、そうでありながら、求めている女性像は、まるで違った……ここに不幸があった」
「……どういうことかね?」
「オジサンは、自分と同じ、教師であり、党員である女性には魅力感じなかったのよ」
「それは、意味が違う。彼女たちは、同志であり、そういう対象なんかではない!」
「じゃ、簡単な実験」
 友子はタブレットを出した。
「今から、ここに八人づつ女性の写真が出てきます。時間は二秒間。ただ見てくれるだけでいいから」
「見るだけで、いいのか?」
「うん、いくよ」

 友子は、八人づつ、延べ1600人の若い女性の写真を見せる。それは、過去に中野が出会った、同僚、後輩、そして生徒。通勤途中で電車の中で、チラ見したのから、無意識な憧れを持った女性などから選ばれた人たちであった。友子は、二秒間の間に、中野がどの女性を見、瞳孔の開き具合から血圧、心拍数まで計って結論を出す。

「じゃ、今から、一つのグループを一人0・2秒ずつ見てもらいます……」
 中野の瞳孔は小さくなり、心拍数、血圧も低くなっていった。簡単にいうと興味が無いのだ。
「じゃ、次のグループ行きますね……」
 中野の瞳孔は大きくなり、心拍数、血圧も高くなった。要するに、好みの女性達であった。
「なんだか、懐かしいような顔もあったような気がするが」
「オジサンが、興味を持たなかったのは、同業の党員、またはそういう傾向を持った女性。興味を持ったのは、そういう思想的な傾向とは真逆な女性達。で、魅力を感じた女性の平均値を出すと……これ」

 それは、オカッパに近いボサボサ髪、今で言うとボブに分類される女学生の姿であった。試しにほんの0・1秒水着姿にしたが、中野には変化が無かった。

「オジサン、やっぱりダテに七十年生きてないね。反応がとても複雑だわ。憧れと、反感が両方ある」
「そうかい、自分じゃ意識してないけど」
 友子は、その平均値を数値化して、自分のCPUのデータと照合してみた。
 なんと、一番の近似値は、友子自身だった。

 でも不思議だった。普段、隣から感じる中野の視線は、顔、胸、お尻で、関心の順は逆で、単純なスケベエジジイだと思っていたが、さっきの水着姿には反応していない。

『おまえは、また資本論なんか読んで。こんなもんで世界なんか理解できないわよ。弟が時代遅れのマルクスボーイだなんて、姉ちゃんやだからね!』

 瞬間、中野のお姉さんの姿が、言葉といっしょに浮かび上がった。

――そうか、女性の理想像は、お姉さんなんだ……十七で亡くなってる。これが意識下にあったんだ。ちょっと、あたしにも似てるなあ――

 甘いと思われるかもしれないが、友子は、その日のことは何も、誰にも言わなかった。それどころかフェイスブックから、中野と共通の友人が一人いる59歳の女性にフレンド依頼を中野宛てに出させた。自然で無理のないタイプの女性だった。

 心拍数などを計っていて、友子には分かってしまった。中野の寿命は、あと二三年。友子でも手の施しようがない心臓と、血管の障害がある。若い頃の教師時代の無節操が祟っている。中野は彼なりに、いい教師を勤め上げた気で居る。
 
 資本論をバイブルに、タイプの女性と晩年に仲良くなって生涯を閉じてもいいんじゃないかと思う友子であった。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・64『お隣の中野さん・1』

2018-11-21 06:49:45 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・64 
『お隣の中野さん・1』 
       

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……いよいよ夏休みも終り。さあ、今度は、お隣の中野のオッサンだ。


 後ろから音もなくやってくるワゴン車には、とっくに気づいていた。

 車は友子をいったん追い越して、前方、電柱一つ分のところで止まった。ナンバープレートは偽装してある。
 友子は、女子高生らしく、少し怯えた風で車の横をすり抜けようとした。むろん車の助手席側である。チラ見した車の中に人影はなかった。

「静かにしろ、黙って車に乗るんだ……!」

 くぐもった男の声がした。男は友子の背中に鋭いものを当て、左手で、友子を抱きかかえるようにして、助手席側に回ると、友子を。助手席に押し込んだ。この時男は、友子の胸を握るように押さえ、押し込むときにお尻を同じように掴むようにした。正直キモかった、お決まりの目隠しもされたが、友子は我慢した。

「さ、騒ぐと、こ、殺すからな!」
「は、はい……」
 車は発進し、男は、震える手でボタンを押した。ナンバープレートが切り替わった。なかなかのスグレモノである。むかしマジックに凝っていたときの技術が生きたことに、男は、これから先の計画も成功するのではないかと、期待に胸を膨らませた。

 男は、ルート上の防犯カメラをチェックし、なるべく写りこまない生活道路を選んで、目的地に着いた。

 住宅地を少し離れた廃工場の一つのシャッターが、男のリモコンで開いた。瞬間男は周囲を見渡す、手順が僅かに狂ったのである。本来なら、暗視スコープで周囲の安全を確認してから、シャッターを開けるはずだった。やはり、根は小心者、僅かなミスに気が動転するが、周囲の安全が確認できると、ゆっくりと車をバックで工場に入れ、シャッターを閉めた。

 友子は、予定通り全身にショックを感じた。シートのリクライニングがいっぱいまでまで倒されたのだ。胸には制服越しに鋭利なものが当てられ、男が全身で覆い被さってくるのを感じた。男の荒い息が聞こえる。友子が後ずさりすると、後部の座席は倒され、畳二畳近くの平たい空間になっていることが分かった。

「いい子だ、大人しくしていたら命までは取ろうとはいわないからな……!」

 胸に当てられた鋭利なものが、制服にくいこんでくる……ようし、予定通りだ。

 男の頭には、もう次の自分の成功した様子が、シミュレーション通りに頭を駆けめぐった。
 セーラー服は、女の服で一番脱がせやすい。ファスナー一つと、上下のホックを外せば、バナナの皮を剥くよりもたやすい。そして、その次は……。

「そこまでよ、中野のおじさん」

 それまで恐怖におののき、身を震わせていた女子高生が、ガラリと落ち着き払った声で、まるで、試験時間の終了を告げる教師のような声で、なんと正体まであばいて言ったのである。

「ウ、ウワー!」

 パニックに落ち込んだ中野は、大声をあげ、車から這い出ようとした。
――もう、これじゃ、逆じゃんかよ!――
 友子は、中野の足を掴まえると、後部の二畳足らずのスペースに、引きずりもどした。

「さあ、そろそろヘリウムガスの効き目もなくなったでしょう。あれで声変えられると、笑い堪えるの大変なのよ」

 いよいよ、ジイサンといってもいい、隣人・中野のオッサンへの友子の説教が始まる……。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・63『友子の倍返し!・2』

2018-11-20 06:53:38 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・63 
『友子の倍返し!・2』 
       

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……いよいよ夏休みも終り、いよいよ始業式……弟であり、父である一郎の尻ぬぐいをする友子であった。


 彼女は、C国のカレとイチャイチャしていた。太田は、ただ泣きの涙であった……。

「泣いておしまいなの?」
 友子は、太田の不甲斐なさに、ただただ呆れなおすばかりであった。
「こんなのもあるのよ」
 イチャイチャが、次のステップに進んだ映像も無修正で見せてやった。太田は、ただ悲しそうに、涙と鼻血を流すばかりであった。
「この子はS市の党幹部の娘でね、オヤジが作った会社のCEOに収まろうって思って、今度のことを計画したのよ。彼女がフィクサーであり、実行犯のボスよ。で、相手の男はね……」
 映像から、男の顔のモザイクを外した。
「あ、こいつは……!?」
 今度は一郎が熱くなった。男は新製品の情報を盗み、会社から10億の金をC国の子会社に融資させ、焦げ付かせた張本人である。

「分かった、二人とも。こういう仕掛けなのよ、情けないなあ、落ち込むしか手がないの? いい歳したオッサンがさ!」
「だって、姉ちゃん……」
「姉ちゃん?」
 太田がビックリした。
「バカだな一郎。理性ってものがないのよ。太田さん、悪いけど、しばらく眠ってもらうわね」
「起きたら記憶はないんだろうね……」
「当たり前でしょ。一郎の会社のためなんだから、今回は特別。ほっといたら、一郎は首だろうし、会社だって損失が大きすぎて、人員整理しなくちゃならなくる」
 友子は、口にケーブルをくわえると、パソコンに繋いだ。
「なに、やってんの?」
「盗まれたUSBを繋いだら、内容が書き換わるようにしてんの。五十年前のC国製のルージュになるわ。これでよし!」
「十億の融資は、姉ちゃん?」
「明日、証券市場が開いてからね。十億は、証券のカタチになってるのよね、なんとかしとくから、太田さんお願いね。じゃ、あたしクラブの日曜稽古だから」

「ハハ、そりゃ、朝から面白そうだったじゃん」
 紀香が、面白そうに言った。
「でも、流行りの倍返しにしたいわね」
「それなら、こんなアイデアがあるよ」
 妙子が、一生懸命に稽古しているのに見事に付き合いながら、それだけの情報交換を、二人はやった。
「……て、わけよ」
「ナルホドね!」
 さすがに、稽古が止まってしまった?
「なにが、ナルホド?」
「ああ、妙子の演技よ。イイ線いってたよ」
「え、ああ、そう?」
 嬉しそうにはにかむ妙子。実際、妙子の芝居は良くなっていたので、あながちウソではない。

 敵もなかなかのもので、昨日の月曜で、証券取引を操作して、証券価格を一気に20%も引き上げた。あらかじめ紀香に言われて織り込み済みの事態だったので、昨日は静観。
 そして、膨らみきった証券に、アメリカの不良な債権を山ほど付けて証券市場に流した。敵が持ち出した証券は、あっと言う間に、二十億の不良債権を含んでしまい。五分で一億ずつ負債がふくらんでいった。気づいたC国の会社は、すぐに手を打とうとしたが、手続き上子会社化してあり、破綻したことにしてあるので、親会社が処理に乗り出せたころには、親会社の総資産額を超えてしまい、昼には親会社自身が破綻した。

「姉ちゃん、会社の証券が、今日一日で倍の金額になったよ!」
 家に帰ると、一郎が喜びの余り、友子にハグしてきた。この様子を、隣の中野は羨ましそうに見ていた……。
「で、それをさっさと売って十億もうけたんでしょ。感謝しなさいよ、お姉ちゃんに」
 喜ぶ弟を、半分情けなく思いながらも、笑顔だけは、向けてやって、自分の部屋に向かった。

 友子は悔しかった。今日も天気予報を外してしまい、倍返しの200円を取られたのであった……。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・62『友子の倍返し!・1』

2018-11-19 07:13:28 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・63 
『友子の倍返し!・1』 
       

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……いよいよ夏休みも終り、いよいよ始業式……と思ったら、もう日曜日。


「倍返しだからね!」という怖ろしげな紀香の電話がスマホにかかってきた。

「ち、仕方ねえなあ!」と、相手を先輩とも思わぬニクソイ返事をした。
 もっとも紀香とは、学校で、第三者が居ない限り、友だち言葉で話すことにしている。公式には、紀香は未来からやってきた義体で、『友子の娘が極東戦争を起こす』という未来の予測のために監視していることになっている。しかし、それは今世紀の地球温暖化と同じく利権化した仮説……伝説で、紀香とは、監視する監視されるフリをして仲良くしている。

 新学期といっても半日授業。退屈なので、『倍返しごっこ』を始めたのである。
 明日の天気を予測して、百円かけるのだ。
 両方が同じ予測で当たれば、何も無し。両方とも外れば互いに百円を払う(客観的には意味はないのだが、ゲームだから面白い) で、片方が外れば倍の二百円を払うことになっている。
 ただし、予測について、互いのCPUは使ってはいけないことにしている。ネットに出ている天気図だけをもとに、あてっこするのである。ズルができないように、予測するときには、互いにリンクして、CPUを使っていないことを確認する。
 で、二日目にして友子は、初めて予想を外してしまった。

「くそ、倍返ししてやりたいなあ!」
 父であり、弟である一郎がため息混じりに大きな独り言を言った。母であり義妹である春奈は、今日はクラス会に行って留守である。

 友子は、すぐに一郎の思いが飛び込んできて、そのアマチャンぶりに呆れた。

「そりゃ一郎、あんたが甘いのよ」
「なんだ、心読んだのか?」
「それだけハッキリ恨んじゃったら、読まなくってもわかってしまうわよ」
「だったら、どうして甘いなんて言うんだよ!」
「日本の感覚で、商談したり契約したりするからよ」
「でもなあ……」

 中身は、こうである。C国から受け入れた熱心な研修者に、新製品のルージュの製法を盗まれたのである。おまけに、彼の勤務態度の良さに気をよくして派遣してきた子会社に十億円の融資をしたのであるが、この子会社が、計画倒産をしてしまい、十億の融資は焦げ付いてしまった。
 おまけに、研究職の太田を引き抜かれてしまった。

 太田は、この春に一郎たちと一緒に新製品のルージュを開発した後輩であるが、同じく研修生として引き受けていたベッピンさんのハニートラップにひっかかって、今朝、一番の飛行機でC国に渡ってしまったのである。まさか太田に限ってはと、一郎らしく甘く見ていた。
「まあ、尖ってないで、コーヒーでも飲みなよ」
 友子は、外から見れば、特に隣の元高校教師の中野が薄いカーテン越しに見れば、娘が甲斐甲斐しく、父親にコーヒーを入れてやっているように見えているだろう。

「ウッ、姉ちゃん、このコーヒーしょっぱいよ!」
「あたしは、ただ、塩のカップを置いただけよ。ちょっと見ればすぐに分かるのに。やっぱ一郎は抜けてて、アマチャンだよ」
「まさか、姉ちゃんがするとは思わないだろ!?」
「ハハハ、尖らないの。お姉さまがが倍返ししてあげるから」
「ほ、ほんと!?」

 隣の中野は、微笑ましい日曜の親子の団欒に見えると共に、友子にヨコシマナ心を燃え上がらせているが、それは、ドラマになるには、もう少し時間がかかる。

「お金の方は、証券会社が開いてからやるとして、とりあえず、太田さんを取り戻してくる」
 そう言うと、友子は二階への階段を上がった。中野の死角に入るために……。

 太田は、C国の彼女のことで頭がいっぱいであった。
「本社が、子会社に不動産投資をさせて焦げ付かせてしまって。このままじゃ、お父さんは、責任をとらされて、会社を首になるわ」
 会社の給湯室で泣いていた彼女から、三日がかりで聞き出したのが、このお盆明け。少し迷いはあったが、今朝、決行してしまいC国S市行きの飛行機の中で、一人高揚していた。
「太田様、後ろのP席の窓ぎわのお客様が、ご用があるとおっしゃっておられますが」
 キャビンアテンダントのオネーサンが優しく後部座席を指し示した。首を回して、そっちを見ると見慣れた彼女の頭が見えた。
「ありがとう!」
 キャビンアテンダントのオネーサンが友子であることにも気づかずに、太田は後部座席に急いだ。

「もう、ほんとに日本の男ときたら!」
 そう呟くと、スッと姿を消した。

「ありがとう、ボクと同じ飛行機に乗ってくれたんだね!」
 彼女は、ゆっくりと窓から、太田に顔を向けた。
「お久しぶり、太田さん」
「!……君は、鈴木先輩のお嬢さん!?」

 次の瞬間、目の前が真っ白になり、気が付いたら、同じ飛行機の同じシートに、友子といっしょに座っていた。
「友子ちゃんがどうして?」
「周りを見てごらんなさい」
「……あ!?」

 それは同型機ではあるが、日本航空のS市発羽田行きの飛行機であった。

「とりあえず、あたしの家に来てもらおうかしら」

 二時間後、太田は、友子といっしょに、友子の家のリビングに居た……。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・61『友子の夏休み グータラ編・3』

2018-11-18 07:01:37 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・61 
『友子の夏休み グータラ編・3』
      

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になったん…未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……いよいよ夏休みも終盤、グータラを決め込む友子であった。


 桜島は、5000メートルの噴煙を上げていた。

 友子は、これだと思った!

 
 友子は、起こりもしない極東戦争のために開発された義体である。そのことが、利権化してしまい。友子は存在し続けなければならない。ストレスはハンパではない。従って、並のグータラでは、発散のしようがない。思い切ったガス抜きが必要だ。

「で、なにしようってのよ?」

 二日続けて遊びに来た紀香が、気乗り薄げにも聞く。
「極東戦争のシミュレーションやってみようかと思って!?」
「起こりもしない?」
「だから、面白いんじゃない。これくらいのことやらないと、あたしたち義体には息抜きにもならないわよ」
「でも、CPUのバーチャルでやっても……ひょっとして、本当にやってみるつもり!?」
 返事の代わりに、友子は身に合わない豪傑笑いで応えた。

――大変であります。尖閣諸島東方海域に、旧ソ連軍の大艦隊が出現いたしました。アドミラル・クズネツォフ級空母3隻を中核とした機動部隊で、総数60隻に及び……いま、関連のニュースが入ってきました。ロシア政府は、この旧ソ連軍の艦隊は、ロシアとはなんの関係もないと、周辺諸国に通達いたしました。続いて……尖閣諸島の西南に旧日本海軍そっくりの大艦隊が出現しました。これが映像であります……海上自衛隊の発表によりますと、大和型戦艦2隻……どうやら、特徴から、前が大和、後方が武蔵のようであります。続いて、長門、陸奥……高速巡洋戦艦、榛名、金剛、比叡、霧島と続き、その周囲を巡洋艦、駆逐艦が続いております――

「なんで、空母出さないのさ」
「作戦よ、作戦」

――中国政府は、日本の陰謀であると非難し、周辺海域の中国の艦船を避難させました。日本政府も、この旧帝国海軍の艦隊は日本政府が関わったものではなく、全くの不審艦隊であると発表いたしました。双方の艦隊の距離は50キロに迫り……あ、今ソ連艦隊の空母群から次々と艦載機が発艦しております!――

「スホーイ33の対艦ミサイルで、ドッカン、ドッカンやっちゃうからね!」
 紀香の鼻息は荒い。友子はおもむろに高速戦艦4隻を艦隊の前方に展開した。まともに勝負しては、友子に勝ち目はない。なんと言っても亜音速で飛んでくるミサイルである。

「全機、ミサイル発射!」

 合計120発の対艦ミサイルである。現代のイージス艦でも、飽和攻撃で、全ミサイルの撃破は難しい。
 友子は、それまでに、着弾観測用の零式観測機と零式三座水偵を12機発艦させていた。
「なに下駄履き飛ばしてんのよ、砲戦になる前に、そっちは全滅よ」
「どうかな……」

 なんと、12機の下駄履きは、120発のミサイルを撃ち落としはじめた!

「そんなバカな!」
「見かけで判断しちゃいけません」
「機銃の弾に自動追尾装置つけるなんて反則だ!」
「勝てば、なんでもありよ」

 そうこうしているうちに、ソ連艦隊は日本艦隊の射程に入ってきた。
 傲然と火を吐く大和、武蔵の46サンチ砲。高速で接近した巡洋戦艦4隻も、主砲を打ち始めた。
 ソ連艦隊も対艦ミサイルを撃つが、そのほとんどが高角砲に撃ち落とされる。
「アナログの高角砲が対艦ミサイル撃ち落とすなんて不合理だ!」
「でも、こっちの主砲はアナログのままよ」

 下駄履きが、本来の弾着観測をし始めたので、日本艦隊の弾は確実に当たり出した。

 結果は、旧日本艦隊の一方的勝利、旧ソ連艦隊は、ほとんどが撃沈された。

「どうだ、庭でバーベキューでも……」
 一郎が、呼びかけると、二人はスホーイ33と零式水偵でドッグファイトの真っ最中であった。二機の背後には沈み行くソ連艦隊。
「お前ら、こんなの国際問題になるぞ……」
 一郎の声に一瞬気を取られた隙に、スホ-イの30ミリ弾が水偵に当たったが、複葉機であるために、主翼の間をすり抜けてしまった。
「今だ!」
 水偵の後部座席の7・7ミリ機銃がスホーイのコックピットをぶち抜いて勝負がついた。
「負けたあ!」
「勝ったあ!」

 次の瞬間、ソ連艦隊も日本艦隊も分子にまで分解され、その姿がきれいに消えた。

 友子たちが、バーベキューをしている間に、周辺諸国は、居なくなった相手に非難のしまくりであった。

 なんの痕跡も残さなかったので、アメリカと日本のゲーム会社が一時疑いの眼差しで見られたが、技術的に不可能であるといわれ、国際的なハッカー集団のせいにされ、決着した。

 友子のウサバラシも、かなり人迷惑ではあった。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・60『友子の夏休み グータラ編・2』

2018-11-17 06:14:35 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・60 
『友子の夏休み グータラ編・2』
      

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になったん…未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……いよいよ夏休みも終盤、グータラを決め込む友子であった。


 
 宿題なんか、あっと言う間に出来る友子だが、あえてグータラやってみることにした。

 さすがに英数理の三教科は、グータラといっても、CPUが反応してしまい、並の高校生の百倍くらいの早さで終わってしまった。

 問題は読書感想文である。

 よくもまあ、これだけ傾向性の強い本を選んだなというショ-モナイ本のオンパレードであった。
 野間宏『真空地帯』 小林多喜二『蟹工船』 大岡昇平『レイテ戦記』 徳永直『太陽のない街』と、プロレタリア文学が続いた後、石坂洋次郎『青い山脈』 太宰治『斜陽』『人間失格』 やっと、今風なもので、井上ひさし『父と暮らせば』である。

 書こうと思えば、市民派をいまだに自認してはばからない国語の小林先生を感涙にムセバセるぐらいのチョウチン感想文などいくらでも書けるのだが、それでは面白くない。
 友子自身、小林という先生を好きになれなかった。沖縄戦の生き残りである理事長先生のことを、「沖縄県人の犠牲の上で生き残った人も居るには居ますがね」と間接的に揶揄する。

 友子は知っていた。理事長先生は、自決を決めてはばからない村長を殴り倒して手榴弾を箱ごと取り上げ、白旗を用意させ、英語で「民間人が大勢いる、彼らを助けてやってくれ!」と叫び、自分たち兵隊はガマの裏口から陽動のために駆け出した。
 八人で駆け出した分隊は、岩陰まで来たときには四人に減っていた。そして、最上級者の曹長は肩に貫通銃創を負っていた。伍長であった理事長は、ここまでだと思った。
 理事長は、取り巻く米兵たちに降伏を申し出た。曹長は拳銃を出した……仲間は伍長が撃たれると思った。曹長は自決しようとしたのである。戦死した小隊長から小隊を預かり、それも最後には、自分を含めて四人にまで減ってしまった。その責任をとろうとしたのである。負傷して力のない曹長の拳銃は他の仲間が取り上げ、四人は無事に捕虜になった。

 それでも、理事長は、どこかで贖罪の意識があった。数十名の民間人は助けたが、他に大勢の罪もない県民が命を落とし、自分たちは助かった。
 もし、あの時、曹長も戦死して、自分が最上級者になっていたら……曹長と同じことをしていたのではないかと。だから、自分が九十の歳を越えて生きていることに申し訳なさがあり、死ぬまで乃木坂学院の理事長を務めようと決心している。
 だから、くちばしの黄色い小林のような先生が市民派を気取り、どのような本を課題図書にあげても一言も言わず、ただニコニコしている。それを思うと友子はムナクソが悪くなり、CPUで、資料を集積し、戦前の蟹工船に関わる資料を全て集めた。
 結果は、予想していたが、蟹工船に関わる資料の多くが、その力仕事に見合うだけの賃金を払っていたことの証明になった。たしかに多喜二が書いたような事例も存在したが、多喜二が小説の中で書いたように、同じような反乱は起こらなかった。

 友子の『蟹工船』の読書感想はA4で百枚を超えた。

 改めて蟹工船を読み返すと、そこには搾取と被搾取の価値観しかなく、仕事への「やり甲斐」という観念が抜け落ちていることに思い至った。

「え、小林先生って、『資本論』でさえ剰余価値説(ほんの入り口)までしか読んでないんだ……」
「なに真面目に宿題なんかやってんのよ。うわあ、信じらんない。百枚もあるじゃん!」
 気がつくと紀香が、人がましくお客さんとして、座っていた。
「グータラ、人間的に夏休みを過ごそうと思ったら、こうなっちゃったのよ」
 友子は紀香のCPUにリンクしないで、アナログな人間の言語で喋ったので、一時間半ほど二人は言い合いし、時に爆笑し、リビングで聞いている父真一と、母である春奈は喜んだ。
「友子も、やれば年頃の女子高生らしくできるんじゃないか」
「そうね、ウフフ……」

 もっとグータラに徹しなければと、心に誓う友子であった。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・59『友子の夏休み グータラ編・1』

2018-11-16 07:30:31 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・59 
『友子の夏休み グータラ編・1』
      

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になったん…未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……いよいよ夏休み。王さんの別荘を引き上げて一波乱。


 夏休みもとっくに後半。あとは、当たり前に女子高生をやってみようと思う友子であった。

 というわけで、友子は、緊急アラームだけを残して、あとの機能を停止させた。つまり、ほとんど人間として生きてみることであり、義体であることをしばらく忘れようというわけである。

 で、今日は父であり弟でもある一郎が広告代理店からもらってきた優待券で、家族三人で『風立ちぬ』を見に行くことにした。
「化粧品と飛行機の違いはあるけど、モノを作る情熱や、憧れという点ではいっしょだからな」
 と、一郎。
「わたしは、死を覚悟の上のロマンスが楽しみ。ハンカチ三枚持って来ちゃった」
 と、義母である春奈も少女のようである。

 友子は、その気になれば映画館に行かなくても、作品全体を知ることなど朝飯前だが、一応家族である、一郎や春奈と同じ映画を映画館で観て共感したかった。

「お。中野さんじゃりませんか?」
 隣の中野と一緒になってしまった。

「こりゃ、鈴木さん。ご家族で映画ですか?」
「ええ、忙しいもんで、映画に行くぐらいが精一杯ですわ」
「このご時世、忙しいのはなによりですよ。どうですか、また新聞お願いできませんか?」
 と、中野は如才ない。
 中野は、いわゆる団塊の世代で、数年前に高校の教師を退職してからは、K党の党員活動を生き甲斐にしているオッサンである。なぜか体を横向きにして列の中で三人分ほどのスペースを取っている。
「いやあ、アベノミクスの恩恵にまだあずかれませんでね、未だに、リーマンショックで、給料下げ止まったままなんです」
「それに、オタクの新聞、来月から値上げでしょ。まあ、夏の休日でも、仕事でもらったチケットで、映画観るのが精一杯ですから……」
 春奈はニベもない。
「まあ、景気が戻りましたら、またよろしく」
「あら、今の政権じゃ、景気回復は見込めないというのが、党の見解じゃなかったですか、おじさん」
 友子も遠慮がない。
「これ、友子、失礼じゃないか」
 一郎がたしなめていると、二十代前半とおぼしき女の子が声を掛けてきた。
「中野先生、どうもお待たせしました。地下鉄一本乗り損ねたもので」
「いやいや、わたしも今来たところだから、さ、順番は取っておいたから、ここに並びなさい」
「いいんですか、わたしたちなら後ろ回りますけど」
「いやいや、最初から三人分確保しておいたし、そんなに混んでもいないから」
 たしかに、七分ほどの人数だが、友子は少し不愉快だった。いつもなら、並んでいる人たちの心を読むのだが、今日は封印している。見回した感じでは迷惑顔な人はいなかったし、他にもポップコーンを買いにいったりして、「おまたせえ!」と、横から入ってくる人もいたので、まあいいかと思った。

 映画は美しく、感動的だった。

 命のはかなさ。しかし、はかないが故に、「生きめやも」と強く願う人間の可憐さ、愛おしさ。そして突き抜けるような空への憧れに満ちていた。
 一郎は、鼻をかむフリをして。春奈は、堂々と三枚目のハンカチを涙でぬらしていた。
 友子も、人間モードになっていたので、正直に感動した。限りある命、限りない夢のパラドクスが、愛おしく羨ましくも思えた。

「兵器を作る人間の葛藤が描かれとらん……」

 気がつくと、前の席に女の子と並んだ中野のオッサンが、やや大きな声でぼやいていた……。

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