大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・047『朝飯前のラビリンス・2』

2024-05-18 11:16:46 | カントリーロード
くもやかし物語 2
047『朝飯前のラビリンス・2』 




 おちついて考える。


 あわてて動くとろくなことがない。

 まずは……名前だ。

 人にもあやかしにも名前がある。

 名前というのは取っ手なんだ。

 カップには取っ手があるでしょ。コップには無いけどね。

 コップにはお水とかジュースとかの熱くないものをいれるから取っ手が無い。

 でも、コーヒーや紅茶のカップには取っ手がある。

 熱いものをいれるからだよね。

 冷たいものでも量が多くなれば取っ手が付く。ね、ビヤホールのジョッキなんて、ごっつい取っ手がついてるよね。

 取っ手が無いとめちゃくちゃ扱いにくい。

 でしょ、コーヒーカップに取っ手が無くって直に掴むのって難しいでしょ?

 日本の茶碗とかには取っ手が無い。

 熱々のお茶をいれた湯飲み茶わんだって、直に持つ。アプローチというか把握というか掴まえかたというか、日本は独特で重要なことなんだけど、それは、またべつの機会にね。

 ここはヤマセンブルグ。ヨーロッパだからヨーロッパのやり方でいく。

 つまりね、やくも流の取っ手を、さっさとつけてしまう。

 正式には、下を噛みそうな横文字の名前なんだろうけど、そんなの検索も詮索もしない。

 おまえは……朝飯前のラビリンスだ!

 グニュ

 廊下の景色が、いっしゅんゆがむ。

 はんぶん腹が立って、はんぶんは動揺してる。ざまあみろ。

 で、奴の正体なんかどうでもいいという感じで、御息所の気配をさぐる。

 御息所はもともとは鬼の手だし、 ついさっき怒ってプンプンしたところだから、その気になればすぐに分かる。

 …………え?

 ちょっと意外だった。

 てっきり、たくさん並んでるドアのどれか。あるいは裏をかいて反対側の窓のどれかだと思った。

 でも、御息所の気配は廊下の天井からしてくる。

 でも、迷いはしない。

 気配がもれてくる天井のところをめがけてジャンプ!

 グヮラリ

 すごくいやな感じがして重力の方向が90度変わって、いっしゅんで天井が壁に変わってドアが現れて、そのドアの下の方にぶつかる!

 バッターン! ゴロゴロゴロ……

 鍵をかけ忘れていたドアは簡単に開いて、わたしは部屋の真ん中あたりに転がっていく。

 痛っあ……!

 お尻を押えて起き上がると、ベッドの布団の隙間から御息所が顔を覗かせている。

『ちょ、どうしたのよ!?』

 ついさっきケンカしたのも忘れて目をぱちくりさせる御息所。

「あやかしよ! 廊下に出たとたんにあやかしがぁ(>〇<)!」

『あ、あやかしの気配……でも、遠ざかってる』

「え……あ、ほんとだ」

 台風が遠ざかっていくのを早回しにしたらこんな具合……そんな感じで気配は遠のいていく。

 やつは、名前を付けられたことで気分を悪くし、御息所の気配でわたしがまやかしを見破ったんで逃げていったんだ。


 とりあえず、最初の一匹はやっつけた。

 
 メモ帳の一ページを破って『朝飯前のラビリンス 成敗』と書いて壁に貼った。


☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)034・部室棟が見える窓

2024-05-18 06:18:47 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
034・部室棟が見える窓                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 へーーここがタコ部屋やねんなあーー!


「よかったら入りませんか」

 千歳が勧めると「うん、ありがとう! よっこらせ!」と、ミリーは窓から入って来た。

「あ、ごめん!」

「わ! あわわわ……」

  グニュ(#'▢'#)

 間近に着地したミリーは、狭い床にタタラを踏んで、延ばした両手で千歳の胸を掴んでしまった。

「いや、ほんまにごめん(;'∀')!」

「あ、あ、ごめんはいいですから、手をど、ど、どけてください꜀(>д<꜀ )」

「ごめんごめん!」

 慌ててどけた手を、握ったり開いたりするミリー。

「自分以外のオッパイ初めて触った……アハハ、なんやったら、うちのオッパイ触ってみる?」

 胸を突きだしたミリーに、両手をブンブン振ってイラナイイラナイをする千歳。

「今からお茶にするから、空いてるとこ座れや」

「うん、おおきに!」

「えと、紅茶とコーヒーどちらにします?」

「うちはコーヒー、あったらミルクも砂糖も」

「おれもコーヒー」

「あたしは紅茶」

「はい、じゃ、これお茶うけです」
 
 千歳は器用に身体を捻って、背もたれの後ろからお菓子の袋を三つばかり取り出した。

「千歳の車いすって、いろんなものが付いてるのねえ」

「電動にしたんで、ちょっと余裕なんです」

「えー、そうやったんか、気いつけへんかった」

「へー、どれどれ」

「あ、やだ、じろじろ見ないでくださいよー」

「そだね、ここ狭いから、今度、広いところで見せてよね!」

「え、あ、えと……」

「先輩、お湯が噴いてる!」

「わ、あわわわ」

 いつのまにか、狭さが距離の近さになり嬉しくなってきた。

「ここから、部室棟がよう見えるんやねえ……」

 コーヒーカップを両手で包むようにして、ミリーが呟いた。

「部室棟たすかってよかったねえ」

「ほんまや、こんどばっかりはアカンかと思たもんな」

「汚い建物としか思ってなかったけど、すごいものだったのね」

「わたしもビックリです、なんかの縁でしょうねえ、ひいお祖父さまの設計だなんてね……」

「補強すんねんやろか、解体修理するんやろか」

「ここから、ゆっくりと見届けですねー」

 そこまで聞いて、ミリーが振り返った。

「ね、うち、演劇部に入れてくれへんやろか?」

「「「え(゚д゚)!?」」」

「部室棟が、どないなっていくか、ここから見てみとなってきたよって」

「お、おう!」

「いいじゃん!」

「ぜひとも!」


 度重なる危機と妥協と思惑の末に、演劇部は定足数の四人になった……。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局     


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