大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・(緑の庭に集いて)

2016-01-24 17:57:59 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・(緑の庭に集いて)         


 てっきり、オレ一人かと思っていた。

 月明かりのそこには、もう三人の先客がいた。
「なんだ、芳雄もきたんか?」
 篠原に見つけられると、他の二人も振り返った。
「なんだ、芳雄も緑にふられた口か?」
「ハハ、三人もか」
「芳雄も照れてないで、こっちこいよ」

 声で正体が分かった。ついさっきまでいっしょだった、篠原、阪本、鈴木の三人だ。

 ついさっきまで、飲み明かしていた軽音のメンバーだ。ボーカルの鈴木が言い出して、十五年ぶりでメンバーが集まって、コンサート……ならよかったんだが、同じ軽音の仲間が開いている飲み屋を借り切ってミニ同窓会をやっていたのである。町はずれの小公園。目の前の道路の彼方に、不法駐車のトラックが一台見えるだけだった。
「今でも、これで飯食ってるのは芳雄だけだな」
 鈴木が、ベースを弾く真似をすると、他の二人が笑った。懐かしさに少し揶揄が混じっていると感じたのは、オレのヒガミかもしれない。
 ベースをやっているとは言え、ミュージシャンのイメージからは少し遠い。週二回温泉地のアトラクションのバックで演奏する以外は、ごくたまにローカル局でのバック演奏をやる。それ以外は、大手楽器店でバイトの店員。そう自慢できた境遇ではない。

 ギターの鈴木は中学の教師になっていた。でも、音楽ならともかく社会科だ。
 阪本は、絵に描いたようなサラリーマンで、メンバーの中でただ一人の既婚者だ。この夏にはオヤジだと自嘲を装って照れていた。客商売の勘で、幸せなんだろうなと思った。
 パーカッションの篠原は、運送屋でトラックのハンドルを握っている。緑の手は握り損ねたようだ。
「しかし、妙だよな。みんな、ここで緑といっしょにクッチャベッていたのに、いっしょになったことないんだもんな」
 鈴木が、ブランコに腰掛けて言った。

「まあ、三か月で転校しちまったから、そういうこともあったかもしれんなあ」
「突然の転校だったよな。オレなんか、いっしょの大学行こうって粉振ってたんだけどよ」
「あ、それずるい!」
 鈴木の抜け駆けに、二人が純情に反発している。

 オレは、もっと自慢できるし、ミゼラブルでもある。あの唇の感触が蘇ってきて、自分で頬が赤くなるのが分かった。公園が禁煙なのは分かっていたが、気づいたらタバコをくわえて、さっきの店でもらったマッチで火を点けいた。オッサンばかりなので、文句を言うものもいない。
「キスしたの、芳雄が初めて……」
 バカなおれは、思わずほくそ笑んだ。十五年前の、ほんの唇が触れただけのことが、そんなに自慢できることでもないんだがな。男ってのは、幾つになってもガキだと、嬉しさ半分自嘲半分。
 半分喫ったタバコを放り投げると、偶然隣のブランコのスチール製のシートに落ちた。

 三人が、思い思いに、月明かりの下、密かに緑の庭と呼んだ小公園で、それぞれの緑の思い出に耽った。

 しばらくすると、ブランコが微かな振動とともに、握った鎖がほのかに暖かくなった。
「どうかしたか?」
 篠原が、ついでのように聞いた。オレは唇のことを除いて説明した。
「自意識過剰だって……なんともないぜ。なあ」
 篠原は、他の二人にも促した。

「芳雄クンは間違えていないわよ」

 気づくと目の前に、白衣を着た女が立っていた。

「緑は、芳雄クンのことをしっかり覚えていたわ。だからセンサーが反応した」
 女がブランコの鉄柱を軽く叩くと、その部分が葉書大に開いた。中には小さなイコライザーのようなものやら、モニターがあった。
「緑の趣味は、芳雄クンだったみたいね」
「え……なに、それ?」

「あ……!」

 鈴木が、驚きの声を上げた。なんと、公園の入り口にあのころのままの緑が立っていた。そして、緑の後ろには不法駐車のトラックが。
「だめでしょう、勝手に出てきちゃ」
「なんだか、この三人の人たち、懐かしくって……」
 緑は、三人の顔を順に見て、オレの方に近づき、じっと目を見つめた。
 年甲斐もなく、心臓が踊り出した。
 緑は、真ん前まで来ると背伸びして、オレに瞬間キスした。

「なんだか、とても懐かしいわ……」

「困った子ね。自律機能が昔とは比べものにならないから。今夜のことは忘れてもらうわね」
 女は、そういうと、スマホのようなものの画面を指でワイプさせた。そして、記憶が途絶えた。

 朝、四人揃って、公園で目が覚めた。とても懐かしい気持ちが、消え残った火のように、心でチロチロしていたが、オレは誰にも言わなかった。言おうにも気持ちだけで、なにも覚えていないのだからしようがない。

 緑の庭を出るとき、道の向こうを見たが、不法駐車のトラックはいなかった。

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高校ライトノベル・不思議の国のアリス・4『回覧板と犬の糞』

2016-01-18 07:48:41 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・4
『回覧板と犬の糞』
    



 アリスは、日本のことは、となりのTANAKAさんのオバアチャンから聞いてわりと知っているほうだ。ネットでも事前にかなり調べていた。伯父さんが東京のアメリカ大使館に勤めているので、そこからの情報もあった。

 でも、見ると聞くとじゃ大違いということがいろいろあった。千代子のうちに来て三日目、回覧板というのを初めて見た。
「これが、あの伝説の回覧板か!」と感激した。

 トントントカラリンと隣組 まわしてちょうだい回覧板♪
 助けられたり 助けたり♪


 TANAKAさんのオバアチャンがよく歌っていた歌の中に出てくる回覧板! 仮名しか分からないアリスはまるで中味が分からなかったが、シャメに撮って保存した。
「千太、お隣に回しといて」
「ええ、またオレがあ……?」
 親子の会話を聞きつけて、立候補した。
「ほんなら、ウチがいきます!」
「そう、ごめんね。ほんなら、こっちがわのお隣の鈴木さんやさかいに」
 そう言って、千代子ママはハンコを押した。これがまた感動! アメリカにはハンコはない。よほどハイソで、トラディッシュな家なら、郵便の封緘(ふうかん)用のロウにペタンとその家のマークのスタンプを押すことがあるが、普通の人は持っていない。
 千代子ママは、象牙色のハンコを取りだし、ペタンと軽く押した。○の中に「渡辺」というファミリーネームが器用に彫り込まれていた。
「ちょっと見せてもらえます?」
「ああ、ハンコ。どうぞ、こんなもんが珍しいのん?」
「はい、ごっつい珍しいです……これが、渡辺家のシンボルなんですねえ……」
「こんな認め印でええんやったら、こんど作るったげるわ」
「ええですよ、こんな高価なもん……」
「たいしたことないよ、表通りの彰文堂行ったら、二千円ほどで作ってくれるさかい」
「ワオ、ほんまにええんですか!?」
「うん、留学記念にあげるわ。どんな字いにするか、千代子と相談して決めとき」
「ほんまに、おおきに、おおきに!」
 アリスは、思わず千代子ママにハグした。千代子 ママはびっくりしたようだけど、不器用に、でも暖かくハグしてくれた。

 お隣の鈴木さんの家のドアホンを押した。
「あの、隣の渡辺さんのイソウローですけど、回覧板もってきました」
 いきなり外人が、英語訛りの大阪弁で「回覧板ですう」では、驚かれるだろうと思い、アリスは丁寧に言った。カメラ付きのドアホンなんだろう。「やあ、外人さんやわ……」と、いう声がした。
「……そう、交換留学生のホームステイやのん」
「はい、アリス・バレンタインて言います。どうぞよろしゅうに」
 それから、大阪弁が上手だと誉められ、また、TNAKAさんのオバアチャンの話になり、回覧板は緊急でない限り、郵便受けの上にでも置いておけばいいこと、でもアリスならいつでもOKなど話してくれた。

 日本で、驚いたこと。犬の糞がほとんど落ちていないこと。

 TANAKAさんのオバアチャンには「道歩くときは、犬のウンコに気いつけや」と言われていた。最初の日、関空から、千代子の家に行くまで、そのウンコが気になって、下ばかり見ていると「なんか気になるのん?」と千代子に言われた。で、話をすると「ああ、昔は、よう落ちてたなあ」と千代子パパが言った。シカゴの公園などに行くと、役所が設置した「犬のウンコ袋」なんかがあるんだけど、日本には、そういうものがないのにウンコが始末されている。アリスは、やっぱり日本人はエライと思った。でも、やはり道路は気になる。「例外が、たまにある」と千太が言ったから。
 そしたら500円コインが落ちているのを見つけた。
「ワオ、500円コイン!」
「アリス、ウンがええなあ」
 千代子パパの言葉は、大阪人らしいギャグかと思ったら。
「もろといたらええねん、500円くらい」
 日本人の評価の針が、アリスの中で揺れた。
 こういうのを「ネコババ」というのだろうと、アリスは学習した……。

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高校ライトノベル・神崎川物語

2016-01-17 10:36:27 | 小説・2
神崎川物語             

わたしの中に住み着いた少女
 

「え、また、あの役やるの?」

 その子は、こたつの中に両手両足をつっこみ、こたつの上にアゴを載っけ、ミカンを見つめながら不足そうに言った。
 セミロングの髪が、こたつにかかり、前髪のすき間から不満そうな片目が覗いている。

 この子……この少女は、いつからか住み着いた。
 最初は気配……いや、単なるインスピレーションだと思っていた。
 わたしの作品は百五十本ほどあるが、その多くに十代の少女が登場する。
『犬のお巡りさん』の子ネコちゃんになったのが最初。
 最近は『はるか 真田山学院高校演劇部物語』のはるかになったり、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』では、まどかになったりした。

『乃木坂学院高校演劇部』では、はるかとまどかの二役をやらせたりしたので、ご機嫌ナナメである。

 この少女の姿が見え始めたのは、『女子高生HB』の第一章を書き始めていたころであった。
「わたしはHB,シャーペンの芯じゃないよ……」
 と、最初の一行を書いて、あとが続かず、座卓で唸っているときに、こいつが現れた。
 目の前に気配を感じ、パソコンのモニターから顔をずらすと、目の前でコワイ顔をして、今のように、座卓にアゴを載っけて、わたしを観ていた。
 それから、なんの不思議もなく、わたしの中に住み着いた。

「違うよ、四十年前から、ずっと住んでいるんだよ」
 と、ホッペを膨らませる。

 わたしが、本を書いているうちは、わたしが書斎代わりにしているリビングの片隅で遊んでいる。
 わたしと違って、本が好きな子である。
 大した本というか、ムツカシイ本は読まない。赤川次郎や、氷室冴子がお気に入り、数は少ないが浅田次郎の本も読む。
「わたし、ポッポ屋が好きなんだ」
 ある日、機嫌のいいときに、事のついでのようにそう言った。
「あ、そうなんや……」
 わたしの気のない返事をとがめるでもなく。わたしの好きなコーヒー牛乳を二つ冷蔵庫から持ってきて、一つをわたしの前に置き、もう一つは、自分で飲みながら、佐藤愛子が兄であるサトウハチロウの悪口を書いたエッセーを読んでいた。

「『妹』書き直してみる気ない?」
 と、振ってきた。

『妹』はわたしが三十九年前に書いた戯曲で、十数回の上演実績がある。
 しかし、十年ほど前に、北陸の劇団で演られて以来、上演はおろか、わたしの記憶の中でも引き出しにしまったものになっている。
「あれなあ……三億円事件がでてくるから、かなり手え加えんとなあ」
 気のない返事をして、パソコンに目を落とすと、「テネシーワルツ」のメロディーが聞こえてきた。
「ん……」
 顔を上げると、少女が目を潤ませながら、じっとわたしの顔を見て、「テネシーワルツ」をハミングしている。
「どないしたんや?」
「このドンカン!」
 そう一言残して、少女は消えてしまった。

 何分か、そのままボーっとして……気がついた。
「テネシーワルツ」は『ポッポ屋』で、出てくる曲である。
 主人公の乙松が、亡くなった妻や、赤ん坊のうちに死なせた娘ユッコを思い出すときに出てくる曲である。

「そうやったんか……」
ドンカンなわたしは、やっと気づいた。
 その少女は、わたしの……妹であった。


 わたしは、三つ年上の姉と二人姉弟である……戸籍上は。
 姉の上に、昭和二十四年生まれの兄がいた。月足らずで生まれ、この世に三十分しかいなかった。当時の医療技術では、育たない未熟児であった。取り上げた産婆さんは、父にこう言った。
「死産やいうことにしとくさかいにね」
 たとえ、三十分でも生きていれば出生届をださねばならず、同時に死亡届も出さねばならない。
 つまり、葬式を出さねばならない。当時臨時工であった、貧しい父にそんな余裕はなかった。だから産婆さんは気を利かして「死産」としたのである。
 初めての子、それも待ちわびていた男の子。父と母の落胆は大きかった。 
 親切な、アパートの人たちが、ささやかな葬儀をやってくれた。
 ミカン箱の棺にオクルミにくるまれ、ほ乳瓶一本と、ささやかな花々を入れてもらい、子犬のような大きさの兄はリヤカーの霊柩車にのせられ神崎川の河川敷に葬られた。父は目印に子供の頭ほどの石をおいて墓標とした。
 しかし、そのささやかな墓は墓標ごと、その年のジェーン台風にさらわれてしまった。

 まだ、二十四歳でしかなかった、父と母は落胆し、このことが貧しい夫婦の一生の負い目となった。

 明くる年に、姉が仮死状態で生まれた。産婆さんの懸命の蘇生措置でやっと息をとりもどした。父と母は、初めての娘に「三枝子」という、パッとしないが、精一杯の想いをこめて、めでたい名前をつけた。「三枝の礼」からとった名前である。
 その三年後にわたしが生まれた。姉弟の中でただ一人まともに生まれた子であった。名前を「睦夫」とつけた。愛称は「むっちゃん」で、こう呼ばれるのは女の子が多く、子供のころは嫌だった。大学にいって分かった。「睦夫」の「睦」は、さるやんごとなき方の名前から一字をとっている。しかし画数が多いので、ペンネームは「むつお」としている。

 わたしは、嫌いなことはしない子であった。
 一番嫌いなことは勉強で、高校二年で留年し、三年の二学期にも担任から、「卒業があぶない」と言われた。
 普段、あまり口もきかない父が、始めて言った。
「睦夫、おまえには妹がおったんや」

 衝撃であった。わたしの三歳のときに母が身ごもった。あいかわらず臨時工であった父と母に、三人の子を育てる経済力は無かった。
 やむなく、その子は堕ろされてしまった。
 女の子であった。
 わたしは、十九歳で高校生をやっていたので、妹の姿は十六歳の高校一年生のそれであった。
「おまえが生きているのは、早産で死んだ兄ちゃんと妹のおかげやねんぞ」
 無念の思いを、父は、そう表現したのである。
 還暦までに半年を切ったわたしは、どこから見てもくたびれたオッサンであるが、妹は、いつまでたっても十六歳の少女のままである。
 可憐であると感じるよりも、いつまでも、わたしが衝撃を受けた時の姿であることが、わたしには重荷である。

 わたしは、母のお腹を隔てて、三ヶ月の間、妹といっしょにいた。
「生まれたら、あれもしたい、これもしたい」
 という想いがあっただろうと、不甲斐ない兄は思う。
 そして、自分が堕ろされると決まったとき、妹は、わたしに背負いきれないほどの想いを託していった。

 わたしは、男の子のくせに針仕事が好きで、劇団をもっていたころ、たいていの衣装は自分で作った。オンチなわりには歌が好きである。物心ついて最初に読んだ本は『オズの魔法使い』『不思議の国のアリス』であった。
 ママゴトも好きな変な男の子であった。高校に入って入部したクラブは、男子が一人もいない演劇部であった。


 また気配がするので、パソコンのモニター越しに覗いてみると、こたつにアゴを載っけて妹が言った
「今度のはるかは、ポニーテールでいくわね」
 妹の名前は、聞かずとも分かっていた。

 栞(しおり)という。

 わたしの人生のページに「ここ忘れるべからず」と挟まれた栞である。

「今度は、ひとのことじゃなくって、栞のことも書いてね」
 そう、ナレナレシく言う。こいつには、いっぱい借りがある。
「はいはい、書かせてもらいます」
「はいの返事は一回だけ!」
 で、とりあえず、この短編を書いている。
 そのあいだ、妹はミカンの皮を剥いている。
「兄ちゃんも、わたしもビタミン不足だから」
「そう……かな」
「うん、そうだよ」
「栞は、ビタミンの何が不足してんねん?」
「このドンカン」
「なんやねん?」
「ビタミンIにきまってるじゃん」

 Iが愛のカケコトバであることに気づいたころには、栞はパソコンのモニターの中で、まどかを演じておりました。
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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・〔普通科高校の劣等生・10〕

2016-01-14 07:32:54 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト
〔普通科高校の劣等生・10〕



 あろうことか、友美はマスコミに露出してしまった。

 むろん未成年なんで、仮名だし、顔写真にはモザイクがかかっている。
 だけど、こんなもの関係者なら正体が直ぐに分かる。SNSなどに実名と顔写真が出ることに、さほど時間はかからなかった。
 伸子の話では、ノンフィクションで本を出す企画も来ているらしい。現職教師と生徒の許されざる関係! センセーショナルだ。少なく見ても1万くらいは売れるだろう。1000円の本で、印税5%(上手くいけば10%)として500万円!

 むろん良いことばかりじゃない。露出したことで社会的に叩かれることもあるだろう。でも賛同してくれる人たちだって同じか、それ以上出てくるだろう。友美のメールなんかを伸子が見せてくれた。伸子は大ごとになって、ビビっている。だから普段同じクラスにいても他人のふりをしている。オレは落葉で伸子は登坂で通っていて、伸子が停学になって担任と生指の梅本が来た時には、家中オレの痕跡が消され、存在しないことにもされた。

 でも、その伸子がメールを見せた。

 二つのことが分かる。伸子が相当まいっていることと、友美に文才があること。国語嫌いの劣等生が言うんだから、本当にうまい。下手なラノベを読んでいるより面白い。
 友美は自信があるんだ。これをきっかけにライターになろうとしている。見た目も学校で10人に一人ぐらいに可愛いから、そっちのほうでも狙っているかもしれない。

 オレの伸子への忠告は、ただ一つだった「関わんな!」 伸子はあっさりと頷いた。正直、クラスで他人の関係になっていたことを、オレは喜んだ。

「トドム君、話があるの……」

 ミリーが、目を潤ませて、そう切り出したのは、絵の仕上がった成人の日だった。この三か月で、ミリーはみるみるきれいになっていった。なんて表現したらいいんだろう。バカなんで上手く言えないけど、AKBの選抜の子がデビューしたときと卒業したときぐらいに違いがあった。
「なんだよ、オレは単に絵を描いただけだから、あんま難しい話は分かんねえよ。劣等生だしさ」
「ううん、こんなに、あたしのことを見つめて、しっかり描いてくれたんだもの。トドム君なら分かってもらえる……いえ、もう気づいてる」
「え……」
「ほら、その顔。気づいてるんだ」
「いや、絵とか写真のモデルになると、大人びた魅力が出てくるもんだよ」
「トドム君は正直だ……あたし早期老化症候群なの」
「え……?」
「去年の春に、保険にはいるためにDNA検査して分かったの。ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群でもコケイン症候群でもない。老化の速度は人の三倍。あたし18歳だけど体は25歳ぐらい。二年もすれば30歳……10年すれば60を超えてしまう。長生きしても40歳がいいとこでしょう……」
「ミリー」
「このごろ老化の速度が早くなっているような気がするの……ひょっとしたら30まで持たないかもしれない」
「それで、オレに絵を……?」
「うん。自分の一番いい時の姿を残しておきたかったから……泣かないでよ。これでも希望を捨てたわけじゃないんだから」
「なんか治療方法はないのか?」
「そのために日本に来たの。日本の医療技術はすごいけど、規制が厳しくて自由な研究がでいない。でも密かに、この難病の研究をしている人がいるの。それにあたしは賭けているの」
「……治りそうなのか?」
「この三か月は上手くいかなかった。でも上手くいった」
「え、でも……」

 ミリーは裸のまま、オレに抱き付いてきた……。

 あくる日からは、ミリーは学校にやってこなくなった。
 出来上がったキャンパスはミリーの家だが、オレは、ミリーの了解を得て写真に撮った。
「……そうだったのか!」
 思わず声になってしまった。授業中だったので先生に注意された。伸子は、相変わらず他人顔。
 ミリーは、ほんの数週間だったけど、理想的な大人の女になったんだ。それが上手くいったということなんだ。オレも初めて人を好きになった。

 今は、三回目の落第にならないように励んでいる。基本的には普通科高校の劣等生なんだから。

                                 落葉 留 

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・〔普通科高校の劣等生・9〕

2016-01-13 07:35:43 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト
〔普通科高校の劣等生・9〕



 人の口には戸が立てられない。

 伸子の停学の原因になったエスケープしてまでの、鈴木友美の話は、あくる日には密やかな、そのあくる日には公然とした噂になってしまった。

 高校教師が、生徒と性的な関係。問われる教師のモラル!

 そんな見出しで新聞、テレビ、ネットなどで流れてしまった。陣内先生は、管理職を飛び越えて、教委から事情聴取をされた。世論の高まりからいって当然だろう。劣等生でも、これくらいは分かる。
 家庭訪問したときの八重桜、梅本両先生の事情聴取は見事だった。暗に知っているというカマをかけて伸子に迫っていた。
「オレたちは、知ってるんだ。ただな、伸子。友美との友情を考えるんなら、伸子の口から言うべきだと思う」
「そうよ。お腹の赤ちゃんは日に日に成長して、ほっておいたら……その、取り返しのつかないことになるわ。友美さんも、伸子に結論を言って欲しかったんじゃないかな」
「そうだ、人間は、相談するときには結論を持っているんだ。伸子は、なにも答えてはやれなかったんだろ、そうだろ?」
「伸子、あなたの一言で、全ての歯車が回り始めるのよ。友美さんを前に進ませてあげて。ね」

 こういう時の八重桜さんは役者だ。このあとの数秒の沈黙の後に、伸子は、全てを泣きながら喋った。オレは劣等生の勘から、先生たちは、まだ確信するには至っていないと思った――まだ喋るな、伸子!――オレの本音は、それだった。

 陣内先生は懲戒免職になった。まあ、当然だろう。
 だが、この話にはどんでん返しがある。

 友美の妊娠は、想像妊娠だった。

 性的な関係があったのは確かだが、友美は、それを想像妊娠にまで広げて、陣内さんに結婚を迫った。ティーンにありがちな暴走だ。
 陣内さんは、はっきりした答えを言えずにいた。それが友美の暴走を飛躍させた。伸子にエスケープという非日常的な状況で告白することによって、悲劇のヒロインになった。あとは伸子に熱烈な同情をしてもらい、自己陶酔を深め、陣内さんの気持ちを引き付けたい。
 そのことが、どんな結果を生むかまでは想像していない。
 想像妊娠は、関係者の中で秘密にされた。結局陣内さんが、一人ワリ喰ってクビ。

 オレは、友美のしたことは遠慮気味に言っても間違っていると思った。

 言うのも癪だけど、友美は女子100人を集めたら5番目くらいには入る美人だと思う。着やせするタイプで、細めの顎にパッチリお目目に涙袋。目の位置が標準より下にあり、自分でも美人の自覚がある。そして成績もいい。
 でも、こんな子は学年に二三人は、学校全体だと10人ほどはいる。
 友美は、意識の底には沈めているけど「もっと注目されたい」という気持ちがあったんじゃないかと思っている。

 こんなことを言っちゃお袋に悪いけど、お袋は若いころは友美に似たかわいい子だった。悪人とまでは言わないけど、親父は、これに引っかかった。夫婦の事はお互い様だと思っている。だけど、お袋は若いころにイケてたところがマイナスになってきているんだ。頬のプックリは豊齢線になってきたし、涙袋は、いささか垂れてきて、ただの厚ぼったい目になってきた。髪も腰が弱くなり、ブローするのに時間がかかるようになった。でも、怪物というほどではない。ちょっと若作りのオバサンというレベル。
 オレが思うのには、親父はお袋の見場の衰えは、そんなに気にしていないと思う。ただ、それに抵抗し、自分にイラつき、時に八つ当たりされるのがやなんだと思う。その心の貧しさが離婚の要因の一つだったと思う。ま、今は開き直ってるので、それなりに親しい同居人としては認め合ってはいるようだ。

 友美は賢い子だから、そういう先のことまで分かっちゃうんだろう。高校で10人に一人だから、大学に行ったら100人に一人、大人になったら、ちょっとイケてる程度。それを見越して、自分を女として差別化が図りたい。そんなとこだったと思う。一昔前だったら女として傷になることが勲章になる。ちょっとため息だ。

 予想通り、友美は、他の子とは違う目で見られるようになった。伸子は、いいダシに使われたんだと……劣等生の兄貴としては同情してやろうか……と、思ったけど、やめた。理由は、あれから友美と、いっそう仲が良くなったことで想像してほしい。

 クリスマスが近くなってきたころに、ミリーの絵は、八割がた描き終っていた。並のヌードの絵なら完成だ。
 ただ、ミリーは、描いていくにしたがって美しさが深まっていく。
――オレ、惚れちゃったかな?――
 とも思った(なんせ、親父の息子だ)。だけど、生意気だけど、絵描きとして見ても、ミリーは急速に完成された女になりつつあった。

 そして、年明けには、大きな展開が待っていたのだ……。


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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・〔普通科高校の劣等生・8〕

2016-01-12 07:46:08 | ライトノベルセレクト
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〔普通科高校の劣等生・8〕



 家に帰ると、オレの居場所が無くなっていた!

 うちは3LDKなので、妹の伸子とは10・5畳の部屋をシェアリングしていた。一応折り畳みの間仕切りはあるんだけど、普段は半分開けて、テレビや本棚の入ったボードなんかを共有している。で、それぞれ間仕切りで隠れたところにベッドを置いて一応のプライベートスペースと言うことにしてある。ドアは別々にあるんだけど、つい便利なので手前の妹のスペースのドアを使っている。子供の頃に間仕切りなんかしていなかった頃の名残で、伸子も特になんとも言わないので、そういうことになっている。

 ところが、その共用のドアを開けると、間仕切りが完全に閉められて、オレは行き場所が無くなって茫然とした。

「あ、兄ちゃんのは全部そっちのほうにやっちゃったから。出入りも自分のドアを使ってね」
 そう言われて部屋を見渡すと、テレビはもちろんボードも完全に取り込まれてしまって、オレの本とかフィギュアとか、オレに関するものは、何一つ見当たらない……いったい、なんの仕打ちだ!?
 オレのスペースのドアは、普段使わないので、背の低いボードなんかが置いてあって普段は開けることができない。それが、スッと開いた。
 中は、完全に物置状態に成り果てていた。リビングに置いてあった、小学校の頃のトロフィーやら、ソファーに載っていたオレ用のクッション。ダイニングのオレの椅子から、玄関のサンダル……。
「あ、これもしまっといてね」
 伸子は、いまオレが玄関で脱いだばかりの靴まで持ってきた。
「ほんとは、お父さんのも片付けてあったんだけど、スペース的にね。だから、内縁の男がいることにした。ちょっと同情を買うシュチュエーションになったと思わない?」

 オレは、ピンときた。玄関のドアに出てみると、勘はあたっていた。表札が登坂だけになっていて、落葉のは外され、表札プレートが張ってあった周りの汚れもきれいに拭かれていた。
――これは、担任の家庭訪問があるんだ!――

 前も言ったけど、うちの両親は出来心で離婚し、そのうちに引っ越し先を探すのが面倒になり。経済的には一緒にいる方が何かと便利なので一緒に暮らしていながら、所帯は別と言うことになっている。だから、当然学校も伸子は母子家庭。オレは父子家庭と思われている。
 オレは劣等生と言う以外、なにも問題のない生徒だ。
 妹も、今日の午前中までは問題のない普通の女子高生だった。それが授業をエスケープして、生活指導の部屋に連れていかれ、だんまりを決め込んだ上に、国語の福田先生を張り倒してしまい、エスケープと対教師暴力で停学になったのだ……慣例から言って、教師の家庭訪問がある……そうだったんだ。

 それから、お袋が帰ってきた。事情は伸子本人と学校からの連絡で知っている。いろいろ愚痴をこぼしたあと、オレに、外に出てろと言った。で、ついでに晩飯の材料を買いにスーパーまで行けということになった……ところで、玄関のチャイムが鳴った。
 オレは、仕方なく物置と化した自分のスペースに潜り込んだ。

 なんせ、狭い3LDKだ、リビングで喋っていることがまるまる聞こえてくる。

 やってきたのは、担任の八重桜(ハナより前にハが出る)さんと、生指の梅本のオッサンだ。
「……だんまりの訳がわかったよ」
「友情からだったのね……」
 梅本と八重桜さんの話は意外だった。
「二組の鈴木が、全部喋ってくれたよ……」

 それから、しばらくダンマリが続いた。

「鈴木さん……妊娠してるのよね」
 八重桜さんが言うと、伸子がワッと泣き伏すのが分かった。
「友美も同じ時間にエスケープしとったんで、直ぐに分かった。妊娠のことも直ぐに話した。だけど、相手の男のことは言わないんだよな」
「登坂さん、事情を知ってたら教えてくれない。こういうことは男に責任があるの。なんたって鈴木さんは未成年なんだから」

 伸子は、泣き崩れるばかりで、なかなか答えを言わなかったが、冷静に考えれば大人の力を借りなければ解決のしようのない問題だ。伸子は、しゃくりあげながら真相を言った。
「相手は……数学の陣内先生です」

 !!!……思わず声が出てしまうところだった。陣内と言えば、この春に来たばかりの新卒教師で、一部の女生徒からは人気があった。しかし、商品に手を出さないというのは労働者の基本だろう!
 事情が確認できたので、しばらく話した後二人の先生は帰って行った。事態は、一生徒の停学問題を超えてしまった。

 あくる日津守から、伸子の停学は3日になったことを教えられた。レギュラーよりも4日短いので、津守は首を捻っていた。さすがの情報屋にも、新卒教師の不始末は伝わっていないようだった。

 分からないと言えばミリーだ。ヌードの絵を描く理由を言うと言って4日になるが、あれから何も言わない。まあ、無理に聞くこともないと思って、オレは二度目のミリーの絵を描くために成城に向かった。

 慣れかもしれないけど、ミリーのヌードは、前よりもスタイルが良く、肌の色艶にも大人びた美しさを感じた……。

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・〔普通科高校の劣等生・7〕

2016-01-11 07:49:39 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト
〔普通科高校の劣等生・7〕



 妹が停学になった。

 劣等生のオレが言うのもなんだけど、妹の伸子は高校生としての道を外している。
 国語の授業をエスケープし、昼休みに教室に戻って来たところを御用になった。いわゆるエスケープという奴だ。

 普通エスケープは、授業をやっていた先生と生活指導の先生に詫びを入れ一札書いて放免になる。
 ところが、伸子は「すみませんでした」とは言ったものの、どこに行っていたかと、なぜ抜けたのかを言わなかった。当然放免にはならない。伸子は5時間目の半ば過ぎに生指の梅本先生と教室に戻って来た。梅本は授業してる世界史の藤田先生に耳打ちした。藤田先生は意外な顔をしたが何も言わなかった。伸子は鞄に一切合財詰め込むと、プイと教室を出て行こうとして、梅本先生に頭を張られ、不承不承教室に頭を下げて出て行った。
「ノブなにしたんだろう!?」
「あれって、停学のパターンだよね」
 教室が少しかまびすしくなった。ミリーは不思議そうな顔で見送っていた。
「静かにせえ、授業続けるで!」
 藤田先生が、普段は使わない大阪弁で、みんなを注意した。

 休み時間に、三年(ダブらなければオレが居た学年)の情報屋の津守に聞きに言った。

「ああ、なんだかエスケープの理由も場所も言わないんで国語の福田が切れちまってさ。大声出したら、その登坂伸子ってのが福田のこと張り倒しちまって対教師暴力が加算されて、そのまま停学。ま、事情によるけど、一週間は固いな」
 伸子は、飛び切りの優等生というわけではないけど、今までソツなくやってきて、生指のお世話になんかなったことがない。だから、こういう場合の身の処し方が分からない。劣等生であるオレは、授業こそ真面目に受けないが、最低の仁義の通し方は知っている。家に帰ったら、正しい停学の有り方を教えなければならない。と、心に誓った。

 理由を言わないと言えば、ミリーだ。

 日曜に絵を描きに行ってサンルームでいきなりヌードになられた時はたまげた。女の裸なんて、伸子と風呂の脱衣場で事故といっていいニアミスして、ほんの一瞬見ただけで、こんなに完全なヌードにお目にかかったのは初めてだ。
「下着の線なんか残っちゃいけないから、生成りのワンピースだけにしといたの」
 ミリーはそれを言ったあと、お父さんお母さんも承知しているとしか言わなかった。静かな目をしていたけど、聞いても絶対言わないだろうという顔をしていたので、粗々のデッサンと肌の色を試しに置いて、その日は終わった。絵具もキャンパスもメーカーの名前しか知らない最高級品だった。

「落葉君待って!」

 オレが、あまり呼ばれたくない苗字でミリーが声を掛けてきた。
「うん、いいよ」
 オレは、そう言うと駅一つ分歩いて下足室からミリーと歩き始めた。
「登坂さん、どうしたのかな?」
「あ、エスケープして、先生シバキ倒したんで停学だって」
「そうなの……なにがあったんだろ」
「ま、学校クビになるようなことはないからドンマイ、ドンマイ。それより話あるんだろ。隣の駅まで18分だぜ」
「あの下書きと肌色の出し方にお父さんも感心してたわ。お母さんも、あたしも描いてもらおうかしらって。アハハ」
「アハハ、二人描くほど精力ないよ」
「精力?」
 オレは、自分の言葉の使い方で赤くなってしまった。
「あ、その……気力。人間は顔もそうだけど、肌の色合いなんかすぐに変わってしまうんだ。観察して、これって思うものを絵具で翻訳していくような作業なんだ。ミリーはバイリンガルだから分かると思うんだけど、言葉や単語ひとつでニュアンスぜんぜん違ってくるじゃん」
「あ、こないだの『You』と『u』みたいなもんね」
「そうそう」
 それから、英語のスラングについて話が飛んでしまった。隣の駅が見えてきた。
「で、肝心の話は?」
「あ……絵を描いてもらう理由をトドムには話しておきなさいって、お父さんが……」
「……でも、言えそうにないな。また今度でいいよ」
「うん……ありがとう」

 ミリーは言えない歯がゆさと言わずにすんだ安堵感で目が潤んでいた。

 で、今度は、オレが家に帰って目が潤むことになる……。

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・〔普通科高校の劣等生・6〕

2016-01-10 07:42:34 | ライトノベルセレクト
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〔普通科高校の劣等生・6〕




 ミリーの家は、天下に名だたる成城だった……。

 二百坪はあるだろう。でも、建物の品がいいので、外観は、それほどのお屋敷とは感じさせない……と言っても、他のお屋敷と比べての話で、オレを3LDKの自宅と比較して、気後れさせるのには十分なお屋敷だった。

 ドアホンを押すとミリー自身の声がした。
「どうぞ、そのまま入ってきて。ロックはすべて解除してあるから」
 玄関だけで、オレの部屋よりも広い。ミリーは生成りのワンピースで迎えてくれた。制服姿のミリーしか知らないオレには、とても新鮮だった。同時に難しいと思った。生成りのコットンというのは表現がとても難しい。オレが持ってきた授業用の12色の油絵具ではとても表せないだろう……てなことを心配しているうちにリビングに通された。
「あら、絵の具持ってきてくれたのね」
「あ、うん。だって絵を描くんだろ。その……ミリーの肖像画。キャンパスは一応8号。ま、今日はとりあえずデッサンだけで終わりそうだけどね」
「あの……一応うちで絵具とか用意してあるの。できたら、それを使って欲しいんだけど」
 その一言で、かなり高級な絵具と画材を用意してくれているような気がした。12色以上の絵具を使ったことのないオレにはとても嬉しい。オレって、そのへん素直に表情に出る方なんで、ミリーも直ぐに喜んでくれた。
「朝の光を大事にしたいんで、お茶飲んだらすぐにかかってくれる?」
「うんうん、朝の光って人間の肌を一番きれいに見せるんだ。すぐとっかかろう……アチチ!」
 急いでお茶を飲んだので、舌をやけどした。そんなオレが可笑しいんだろう、ミリーはコロコロと笑った。

 サンルームは、12畳ほどの広さで三方が格子の入ったガラスの壁になっている。淡いグリーンを基調とした内装で、人物画を描くのにはうってつけだ。
 覆っている布が取られるまで、それがキャンパスだとは気付かなかった。なんちゅうか等身大。オレは12号以上のキャンパスなんて使ったことが無いから、サイズが分からない。畳一枚分と言えば分かるだろうか。
「ウワー……とりあえず、顔のデッサンだけやらせてくれる。人物画は顔が命だからね、描いてもらいたい姿勢と表情くれるかな」
 ミリーはあらかじめ決めていたんだろう、スックと立つと斜めに向き、上半身をこちらに捻り、軽く微笑んだ。
「お家の人は……挨拶とかしなくてもいいのかな?」
「親は二人ともお出かけ。家政婦さんはお休み」
「え……じゃ、兄弟とかは?」
「トドムくんは?」
「あ……オレも一人っ子。で、親父と二人の父子家庭」
「……そうなんだ」
 ミリーの表情が少し曇った。
「あ、おれ、そういうの気にしてないから。そんなの気にしてるようならダブって二度目の二年生なんかやってらんねえから」
「アハハ。トドムくんのそういうとこ好きよ。なんで、こんなユニークな生徒落第させるかなあ」
「学校にも好かれてんの。三年で出られたら寂しいって」
「アハハハ……」
 ひとしきり笑ったり喋ったりしているうちに、デッサンが出来上がった。
「え、あたしって、こんななの?」
「うん、オレの目を通してだけどね。そこの鏡を見てみろよ」
 ミリーは、デッサンを持って鏡の前に立った。
「……なるほど、あたしから迷いを取ったら、こういう顔になるんだ」

 オレは、分かっていなかった、ミリーの中の迷いや悩みを。互いに美しい誤解をしていたと思う。逆に、ミリーの迷いや悩みを正確に知っていたら、この肖像画は引き受けられなかっただろう。
「じゃ、キャンパスに下書きしていこうか!」
「うん!」

 ミリーは生成りのワンピースを脱いだ。その下はなにも身に着けていなかった……。

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・〔普通科高校の劣等生・5〕

2016-01-09 07:20:35 | ライトノベルセレクト
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〔普通科高校の劣等生・5〕



「あたしの絵を描いてくれないかしら」

 昼休みに、食堂でBランチをほとんど喰い終わったところで、オレの席の前に座り込んで、まるで転校生が、慣れない校内の様子を聞くような気楽さで聞いてきた。もっともミリーは本物の転校生だから、ごく普通の会話に見えてるはずだ。
 このオファーに対するオレの反応と返事を説明する前に、なんでオレが一人でB定食を喰っているかを話しておく。

 妹の伸子は弁当だ。妹は入学以来弁当にしている。理由は簡単、その方がオレと兄妹であることを人に知られないためである。ほんでまた、お袋の仕込みが良かったわけじゃないけど、料理はうまい。食材は週一遍の生協で注文しておいて、朝10分ほどでお花畑みたいに可愛い弁当を作る。
 で、なんで、オレが食堂で一人ぼっちだったかと言うと、親友の澄人が推薦入試の面接で学校を公欠しているからだ。
 オレは、クラスには溶け込んでいない。ダブりであることもあって、クラスでは最初から敬遠されていた。絵が上手いことも、あまりプラスにはならない。絵と言うのは、なんとも孤独な芸術で、音楽のように群れることがない。また和気先生は授業中は静謐(せいひつ)を大事にしている。なんともストイックな時間のストイックな生徒という印象なんだろう。

 ミリーの絵の申し込みは、それほど意外じゃなかった。ミリーは本当に、夏休みの宿題の絵に感動してくれたし、そんな気配はしていた。ま、オレは自分で言うのもなんだけど、本当に風采の上がらない高校生だったので、学校でミリーの絵を描いても妙な噂にはならないだろう。
 なんせ、ミリーは好奇心旺盛だ。クラブの半分以上は体験入部している(2年の秋の体験入部は、いたって珍しい)。で、たいていのクラブで、レギュラーの部員より上手い。軽音じゃ、ギター、ベース、パーカッション、ボーカルのいずれもセミプロ級。吹部でも、スーザホン以外は見事にこなし、コンクール前の演劇部じゃ、試しにやった主役を去年個人演技賞を取ったP子よりもうまくやってのけ、テニス部じゃ、エースを完膚無きまでに叩きのめした。ただ二年と言うことで、どこのクラブでも歓迎されず。ミリー自身も「楽しかったわ、ありがとう!」と明るい言葉を残して一回ポッキリで来なくなる。
 で、オレは美術部員でもないのに、よく放課後の美術室には出入りしていた。和気先生が「描きたい人はいつでも来なさい」と美術室を解放してくれていた。だから、オレがヒョッコリ行って、二日ほどでミリーの絵を描いても、誰も不思議には思わないだろう。

 ところが、話は少し違った。

「うちの家に来て描いてほしいの。キャンパスも少し大きめだし、時間もしっかり掛けて欲しいの」
 で、スマホに地図ごと家の場所を送ってもらった。
 あ、オレって携帯持たないのが主義だったけど、お袋に持たされてしまった。理由がメゲる。関西で小学生の女の子が誘拐されて殺されるという事件があった。で、お袋は、スマホを持たしておけばGPS機能もあるので、オレが、そういう犯罪……を犯す恐れが低くなると判断したのだ。むろん口では「こういう時代だし、いざってときにもね……」とか言ってた。

 だけど、オレは心が読めてしまう。

 いささか実の母親に猟奇的犯罪の有力候補だと思われているのはショックだったけど、オレの日常を客観的にみれば「さもありなん」と感じた。スマホというのは、やはり人間を堕落させる道具だと思う。ミリーから住所を教えてもらう時だって、メモなら目を通した段階で気づく。スマホというのは音もせずにダイオードが光っただけで、情報転送が完了したことが分かる。
 でもって、並の神経していれば、その場で地図と住所の確認をしただろう。オレは転送しっぱなしで当日まで地図の確認を怠った。このへんの気楽さが、オレをして「蛙の面に小便」の劣等生たらしめているのかもしれない。

 ミリーの家は、天下に名だたる成城だった……。
 

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高校ライトノベル・時かける少女・76『スタートラック・16』

2016-01-09 07:02:38 | エッセー
時かける少女・76 
『スタートラック・16』 
       

 昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子(みなこ)は、密かに心に想う山野中尉が、沖縄特攻で戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメた。死と時間の論理をすり替えて、その三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ湊子の時間軸は崩壊して、時のさまよい人。時かける少女になってしまった……目覚めると、今度は西暦2369年であった。ファルコン・Zでの旅、今度は「三丁目星」だった。

☆……三丁目の星・4


 警察だ、電波法並びに放送事業法違反で、家宅捜査する!


 銭形警部のような、トレンチコートの刑事が宣告した。同時に、何十人という鑑識……それにCIA(アメリカの秘密情報部)も混じっていた。
 電話、ラジオ、テレビと、そのアンテナ。電波の受信発信に関する物は全て押収され、事務所は水洗トイレのタンクの中まで調べられた。

――マークプロ、ソ連のスパイか!――

 夕刊のトップ記事に、デカデカと出た。

――マークプロからは、何も出ず。警察の勇み足!?――

 朝刊では、早くも、当局の捜査を疑う記事になった。明くる日にはアメリカの国家航空宇宙諮問委員会(NASAの前身)の実験失敗の影響と、陰謀説が流された。前者はアメリカの、後者はソ連の噂と疑心暗鬼であった。

 とにかく、世界中のラジオやテレビからは、毎日周波数(チャンネル)を変えて、マークプロの陽子やザ・チェリーズの映像や歌が流れてくるのである。

 少しずつではあるが、世界中にファンが増え始め、Jポップという言葉で呼ばれ出した。
 JにはJAPANとJACKの両方の意味がある。

「音楽で、世界が変わるかもしれないんですね!」
 アメリカとソ連の記者のインタビューを受けた後で、陽子が感動して言った。
「まだ、まだ序の口。これからが本番だ。それから、今の記者の半分はCIAとKGBだ。コスモス、あいつらが仕掛けていった盗聴機を全部回収しといてくれ」
「わかりました」
 コスモスは、そう言うと一枚のメモを陽子に見せた。
――記者からもらったカメオを見せて。喋らずに――
 陽子が、黙って差し出したカメオの中に盗聴機が組み込まれていた。そして、事務所からは二十個の盗聴機が発見された。

 マーク船長は涼しい顔をしている。
「バルス、この企画、実行に移してくれ」
 企画書は、陽子やミナコにも回された。

「SJK47!?」
「うん、新宿47のこと」
「これって……そう、AKBのパクリ。ただ違うのは、インターナショナルを目指すとこ。将来的には世界の女の子でアイドルユニットを作ろうと思う」
「アイドル……ハンドルなら分かるんですけど」
 陽子が江戸っ子らしい聞き方をした。
「そう、ハンドルだよ。世界を平和の方向に向けるためのね」
 
 それは、マークプロ最初の後楽園球場ライブで、発表された。

「今日は、こんなにたくさんの人たちに集まっていただいて、ありがとうございます。最後に、みなさんに、お知らせがあります。ミナコちゃん、ミナホちゃん、どうぞ」
「マークプロは、新人を発掘することになりました。一人や二人じゃありません……」

「47人です!」三人の声が揃い、後楽園球場にどよめきが起こった。

「これは、まったく新しい歌手のグループです。英語でユニットと表現すれば分かっていただけるかもしれません」
「例えれば、宝塚歌劇団に近いものがありますが、わたしたちが目指すのは、誰もが歌えてフリが覚えられて……うまく言えませんけど、ミナホお願い」
「世界中がハッピーになれるような歌を、みんなで歌っていこうと思います。歌がうまくなくても、ダンスが苦手でもいいんです。なにか光る物を持っている人を求めています」
「いわば、根拠のない自信と夢を持っている人たち。そこから始めます」
「年齢は12歳から25歳の女性。一応です。光っているひとなら大歓迎!」

 そうやって、SJK47が始まった。

 一年のうちに三期生まで入り、総勢141人の大所帯になった。二期生からは外国人もチラホラいる。選抜メンバーの15人程をマスコミに売り出し、Jポップはあっと言う間にインターナショナルになった。
 中には、CIAやKGBのスパイも混じっていたが、ことエンタメに関して優秀であれば、お構いなし。
「実は、このミーシャはKGBのスパイなんですよ!」
 そんなことを、ミナコなどのリーダーは平気で言う。言われた本人はビックリするが。観客はジョークだと受け止める。
 マークプロには、政治的な秘密なんて何にもない。自分たちも観客のみんなも楽しくやっているだけだ。スパイは三人公表された。アメリカのジェシカ、中国のミレイ。でも、みんな和気アイアイだった。

 そんなある日、新宿のSJK劇場公演のあとの握手会で悲劇がおこった。

 ミーシャが狙撃されてしまった……!

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト〔普通科高校の劣等生・4〕

2016-01-08 07:11:55 | ライトノベルセレクト
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〔普通科高校の劣等生・4〕



 完璧な劣等生というのは、あまりいるもんじゃない。

 なにかひとつ取り柄ってか、その点にかけては負けないものがある。ゲームであったり、テッチャンであったり、アニメであったり、ラーメンの味わい方であったり。でも、それって学校の勉強とはなんの関係もなくって、本人の自信喪失以外の何にも結び付かない。

 幸い、オレの取り柄は、人の心が読めること。だから、本当に相手を怒らせたり、自分がイジメのターゲットになる前に適当に言って、破局にならずに済んでいる。でも、これだと単に小動物が大きな動物の機嫌や動きをあらかじめ感知して逃げ回っているようでみじめったらしいだけだ。現にそういうタイプの劣等生は他にもいて、大概の奴が一年の二学期には自主退学していく。
 オレは分かっている「がんばれ、おまえは期末で60点以上とれば上がれるんだ!」と、担任は言う。でも、そいつにとって60点というのは、ほとんど100点と同義なんだ。先生だってとれないことを承知で60点と言っている。
「お前は、もう進級は無理だ」
 そう言ってしまうと、今の世の中ハラスメントになる。だから、先生たちは「もう進級は無理だ」と思いながら「がんばれ60点!」を言っている。心が読めるというのは、時に残酷な本性を、見たくもないのに見させてくれる。

 幸い、オレには、ほんの2単位だけど、成績に直結する取り柄がある。

 美術の成績だけは、学年で断トツだ。
 子供のころから、暇があったら絵を描いていた。アニメとかイラストとか言うんじゃない。ひたすら写実的に描く。中学で、そこらへんの美大生程度のデッサン力があった。入試に美術があったら、もうちょっとコマシな学校にいけただろう。いや、逆に言えば内申の美術10が入試判定に大きな影響を与えたであろうことは疑う余地が無い。

 九月の中ごろに、夏休みの宿題になっていた油絵の優秀作品の発表があった。

 美術の先生は非常勤講師で、この春からは和気士郎という風采の上がらないオッサンが非常勤でやってきたが、ネットで検索してブッタマゲタ! なんと中堅画家の新人会というグループのホープだった。有名な私鉄の会長あたりがパトロンで付いていて、キャンパスサイズ1号あたり、8万円はするというプロだった。
 プロだけに、やることはストイックだった。一学期の中間までは徹底的にクロッキーとデッサンをやらせた。
 で、自分で言うのも気恥ずかしいけど、オレは先生に見込まれた。
「う~ん、ちょっといいかな」
 和気先生は、そう言いながら、オレのデッサンに手を加える。「手がちょっと……陰影がちょっと……」と言いながら、気づくとほとんどオレの線は残っていなかった。でも、オレは他の教科のようにやる気無くしたりすることは無かった。直されたところは「ああ、なるほど」というものばかりだった。言われたことに注意しながら描いたら、次は確実に上手くなっていた。理屈ではなく、見た目で直ぐに分かるところが、絵の素晴らしいところだ。

 で、オレの絵は特選に選ばれたんだけど、ラッキーとアンラッキーが両方やってきた。

 アンラッキーは、絵のモデルが妹だったということ。
 前に言ったけど、夏休みの宿題は妹とシェアリングした。互いに半分の労力で済むからだ。しかし、芸術の宿題だけはシェアのしようがない。オレが美術で、妹は音楽だから。
 オレは、妹がハーパンにTシャツ、立膝で寝っ転がって、読書感想用の文庫を読んでいるところをスケッチし、それをもとに4号の油絵を描いた。
「若さが、夏の日差しと相まって、印象派を思わせる華やぎが素晴らしい」の選評付。
「落葉くん、あのね!」
 妹は、そう言って、オレを階段の踊り場まで引っ張って行った。言わずとも怒っている……黙ってモデルにしたことを。で、心配している。兄妹であることがバレるんじゃないかと。

 妹の怒りは二日で収まった。

「この子、顔見えないけどかわいいね」と評判がたったからである。
 人間は顔かたちだけじゃない。何気ない身のこなしや姿勢に、その人間の本性が出る。事実ニクソイ妹だけど、これを描いている間は、若い集中力がテーマだった。特に可愛いを意識して描いたわけではない。可愛いとか好きをテーマにすると、よっぽど芸術的に感動していないと媚びた絵になってしまう。オレとしては、そこらへんの猫を描くような気安さで描いた。
 妹も、学校と家では180度態度が違うので、ついに見破られることは無かった。

 ラッキーは転校生のミリーが感動したことだ。

「トドムって、英語の時間もクールだったけど。絵の腕すごいね!」

 で、このあと、とんでもないことを言いだしたのだ……。

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・〔普通科高校の劣等生・3〕

2016-01-07 07:37:20 | ライトノベルセレクト
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〔普通科高校の劣等生・3〕



 うかつにも心を読んでしまった!

 正確には、読もうと思う前に飛び込んできた。
 二学期の始業式、担任の八重桜(ニックネーム)さんが、転校生を連れて教室に入ってきた。帰国子女で秋野美理という。お父さんが日本人で、お母さんがカナダ人というハーフ。で、当然のごとく可愛い。髪はブルネットとブロンドの間ぐらいで、それを頭のスィートスポット(顎と耳の延長線上で、一番ポニーテールが映える)でポニーテールにしている。スタイルもいいんだろう、制服が入学案内のパンフレットのように似合ってる。
 で、さすがは半分カナダ人。笑顔の振り向け方や、目線の配り方など堂に入ってて、まるで、ベッキーみたいなタレントさん。

「カナダのトロントから来ました……」
 なんと彼女は社会のM先生より上手い北米地図を描くと、五大湖をサラリと描き、オンタリオ湖の傍にトロントとワシントン、ニューヨークを描き入れバカでも分かる出身地を示した。
「トロントというのは、ヒュ-ロン族の言葉で「人の集まる場所」という意味で。あたしも人の集まる学校とかは、好きです。名前は秋野美理と書くけどもこれは、英語のMillieを漢字にあてたもんで、どうか気楽にミリーって呼んでください」
 短く的確、簡潔な自己紹介にみんな好感を持ったようで、拍手が沸き起こった。

 しかし、オレには読めてしまった。

――なんて、ボンヤリした連中! 評定5・6! ハア、こんな連中と一緒にやるわけ? カナダに居たら、この秋からは三年だってのに、なんで、二年なわけよ。制度か単位だか知らないけど、人間は、もっと実力で判断しなさいよ! ま、とにかく歳は言わないように。日本人には18で二年だなんて、落第としかとらないだろうからね――

 ミリーの表情と、中味が全然違うことに気づいてしまった。女が恐ろしいのは妹とお袋で良く分かってるけど、こんなに内側と外側の違うのは初めてだ。で、おまけに席が、オレの隣になってしまった。クラスのみんなの気持ちが押し寄せてきた。

――羨ましい~!――

 オレは、こういう多重人格者とは、あまり関わりになりたくなかったが、あくる日の英語の時間に、不可抗力で起こってしまった。
「夏休みの思い出を、英単語10個以上使って表現しなさい」
 という無理を言った。オレは辞書を駆使して「二回目の二年生、しっかりがんばろうと蝉しぐれを聞きながら思い。宿題は半月でやり遂げました」と。そつなく書いた。実際は、妹と宿題を折半してアンチョコ見ながらやっつけただけ。
「落葉くん、いい心がけね」
 と、お誉め頂いた。だが、ミリーの英作文に、英語の先生は(カナダの帰国子女とは気づかずに)ケチをつけた。
「秋野さん。高校二年になって、こんな間違いしちゃいけませんね」
「be動詞が抜けてるし、二人称の『U』は、なんなの。こんなの通じないわよ」
「普段は、ずっとそれで通してるんですけど」
「いけませんねえ。中学一年程度の間違いですよ……」
「じゃ、どう書けばいいんですか?」
「みんなも、見てらっしゃい。こんな風に……」
 と書きだしたら。ミリーが途中で笑い出した。
「何が、おかしいの!?」
「すみません。でもその文章はひどく……」
「なにが、ひどくなの?」
「古典的というか、文語的で、まるで大統領か総督に出してる手紙みたい……なんです」
「なんですって! あたしはね、これでも……」
「先生、『u』てのは、スラングで『YOU』のことなんです。チャットやってたら、みんなそんなんです」

 オレは、特にミリーの肩を持つつもりじゃなかった。ただ、不毛ないさかいが起こるのと、英語の先生がネイティブのミリーにズタズタにされるのが嫌だったからだ。どうも子供の頃の親同士のいさかいにゲンナリしたトラウマかもしれない。

 これが、思わぬ結果を生むんだよなあ……。

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・〔普通科高校の劣等生・2〕

2016-01-06 08:27:15 | ライトノベルセレクト
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〔普通科高校の劣等生・2〕



 オレには、魔法とは言えないけども特技がある。

 ここ一発と言うときに、相手の心が読める。確率で言うと85%ぐらい。だから特技と言っていいと思う。
 でも、念のため繰り返しとくけど、いつも読めるというわけじゃない。いつも読めたら落第なんかしない……いや、ちょっと違うな。

 カッコつけるわけじゃないけど、試験の時、人の心を読もうとは思わない。実力じゃないのに優等生の心から答えを読んでまで合格点を取ろうとは思わない。だから、素直に欠点を取る。ここまで読んでくれた人は、オレの事をシニカルな反体制的な人間と尊敬してしまうかもしれない。オレは、そんな尊敬に値するような人間じゃない。いや、ほんと。

 気ままなんだという自覚もある。去年の学年末テストでも、親友の高砂澄人からノートを借りた。いっちょ前の悪あがきだ。
 でも、澄人のマメな性格を表す字やノートの美しさには感動したが、書いてある中身の無機質さにはゲンナリした。国語にしろ英語にしろ、生きた言葉をどうして死体を解剖するように無意味にいじくりまわすんだろう。「You」をスラングでは「u」と縮めて表現する。プレステのチャットで覚えた数少ないオレの英語の知識。でも、オレは感動した「You」も「u」も発音すれば大差はない。会話にもスピード感が出る。ただ、アメリカにもシャワーみたく言葉を発してないと落ち着かない人間はいるんだなと思った。
 会話っていうのは、間があってこその会話だと思う。「なるほど」「そうなんだ」「だけどな」などと考えながら会話していると、自然な間が空く。だからこそ人間と言うのは共感して友達なんかになったり、恋人や夫婦になったりする。

 ラインやメールも同じだと思う。やりとりに隙間ができるのが嫌だから、絶えず返事を打たなきゃならないハメになる。だから、オレは、ある時期から携帯を止めた。パソコンはやっている。メールは、そこで受ける。パソコンは持ち歩くもんじゃないから「なんで、直ぐに返事よこさないのか!」などと責められることはない。

 あ、オレが聖人君主でないことを言っておかなきゃ。

 澄人からノートを借りて、オレはしばらくホッポラカシだった。ノートの中身の無機質さもあるけど、やっぱオレの気ままなんだと思う。
「トドム(留)そろそろノート返してくれないか」
 澄人は遠慮がちに言った。これに、オレはとんでもない返事をした。
「澄人は、このノートが無くても進級できるだろうけど、オレはこのノートが無ければ落第するんだ!」
 言いながら、オレは『走れメロス』のメロスに仮託した太宰治の言い訳のような気がして、受話器を置いた後すごい自己嫌悪に陥った。澄人は、メールじゃなくて固定電話で話してくれた。オレは澄人らしい距離の取り方だと思い、かつ反省した。

 オレは、直ぐにノートを持って……澄人の家にチャリを飛ばした。

「いいのかよ、トドム?」
「大丈夫、大丈夫、そこのコンビニでコピーしてきたから。最初から、こうすりゃ良かったんだよな、アハハ」
 そう言って、オレはA4の紙袋を澄人に見せた。

――トドム、見栄張りやがって――

 澄人の心が読めてしまった。だけど、澄人は「そっか、そうだよな。がんばれよ」としか言わなかった。
 オレの見すぼらしい自尊心を、澄人は笑顔で労わってくれた……。

 そうそう、オレの親が離婚したのに同じ家にいるってこと話してなかったよな。

 うちの両親は、オレが小5の時に離婚した。オレは親父に、妹の伸子はお袋に引き取られることになった。
「兄ちゃん!」
 妹は、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしてオレに抱き付いてきた。オレもきつく抱きしめて泣きながら妹の髪をグシャグシャにした。
 でも、あてにしていた実家にもどることができなくなって、お袋は、そのまま居続けになった。

 親父とお袋が、こうなるのには数年の確執があった。オレは保育所のころから感じていた。「ただいま」「おかえり」という何気ない言葉にも親の気持ちを推し量る子になった。オレが人の気持ちを読めるようになったのは、このへんに原因があるのかもしれない。

 お袋は、そのまま居続けた。で、いつの間にか離婚状態は解消してしまった。いっそ元に戻ればと思ったが、言いだせば、今度こそ、本当に別れてしまいそうで、オレは言えなかった。親父もお袋も、それを恐れて休戦みたいなバーチャルな平和な家庭を続けていた。

 ああ、なんか話がマジっぽい。今度は、もっと真っ当な劣等生の話すっから!

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト〔普通科高校の劣等生・1〕

2016-01-05 07:30:34 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト
〔普通科高校の劣等生・1〕



 魔法科高校の劣等生ならカッコがつく。

 普通科高校の劣等生は洒落にならない。敬遠はされるが、同情はされないし友情も持ってもらえない。
 でも、オレはあんまり気にしない。並の劣等生じゃない。なんせ、学年でたった一人の留年生だ。三学年を通じて成績が原因で留年しているのはオレ一人だから、もうスコブル付きの劣等生。

 昨日、二回目の修学旅行から帰ってきた。そう、オレは二回目の二年生をやっている。

 二回行って分かった。修学旅行は前回と同じ沖縄二泊三日。組合の先生には悪いが、反戦学習の修学旅行は止めた方がいい。理由は書くと長いのでよす。ただ一言、あの戦争を反戦の立場からだけ教育すると、日本人やってるのが嫌になる。
 だいたい、オレは学校の教師を尊敬できない。東京大学を出た先生が二人いる。一人は数学、一人は国語。数学はご丁寧に去年も今年もいっしょ。二人とも落第した最初の授業で、オレの顔を見て驚いていた。留年生は進級判定会議で、時間をかけて審議される(落ちた時、担任が『いったいどれだけの時間をおまえの審議にかけたか!』と恩ぎせがましく言っていた)にもかかわらず、オレのことを覚えていない。学校でたった一人の落第生なのに!

 魔法科高校じゃないから、魔法は使えないけど、並の生徒には見えないものが分かる。

 東大出て、公立高校の教師ってドーヨ。能無しを絵にかいたようなもんじゃん。教育改革の志高く、あえて教師をやったというのなら、まだ尊敬の余地はある。でも、学校で、ただ一人落第した生徒も憶えていないようじゃ、会議もロクに聞いていない証拠。

 社会でM大学を出た先生がいる。近在でも最底辺の大学で、教員採用試験に通るような学生は、まずいない。この人は高校でも大学でも落第し、講師を三年やってやっと採用試験に通った強者。最初の授業は感動した。講師二年目の春にお父さんが亡くなり、切羽詰って勉強したら通ったという一発屋。授業の最初にゼロの概念について教えてくれた。『永遠のゼロ』から脱線しての話だった。
「100-100はゼロだ。1億にゼロを掛けてもゼロだ。そして、ゼロを目に見える形では見ることができない。でも感じることはできるよな」
 先生は、そう言って教卓の上を示した。
「何もない。これは無だ。でもここに、一本のチョークを置く。ここにマイナス1チョークとする……何もない教卓に戻ったが、これはゼロだ。無と似てはいるが、マイナス1というドラマがあったという点で決定的に違う。分かるかなあ……ここにX=1 Y=1の点がある。ところが、点と言うのは面積を持たない。だからここに描いた点は座標軸を示す記号に過ぎない。どう黒板に描いてもパソコンのモニターに出しても面積をもってしまうからな。面積のあるものは点じゃない。この点を目に見えるように示すことは不可能なんだ。しかし、君たちはゼロも、この点も頭の中では明らかに認識できる。出来たな!? これが物事を理解するということだ! 出来たということは高校生として十分な能力があるということだ!」
 ロジックの技なんだろうけど、この説得力には感心した。しかも天下の劣等M大学の出身なのだ!

「……今年も同じ話してたよ」

 妹が、家に帰ってからうんざり顔で言った。ちなみに妹とは同じ学校の一年違い……つまり、落第してからは同じ学年。しかも同じクラスになってしまった。M大学の先生は選択授業が違うので、オレは今年は受けていない。M大学の先生の評価は、オレの中でワンランク下がった。

 ちなみに、妹とはクラスでは他人の顔をしている。親が離婚しているので苗字が違う。妹が入学したらバレルかと思ったが、学校は苗字が違うということで、他人と思っている。学校に出した書類には同じ住所になっているのに。学校がいいかげんな証拠。

 え、なんで親が離婚したのに住所がいっしょ? 鋭いツッコミ!

 それは、また明日のお楽しみ。 

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト『赤田先生の自転車』

2016-01-04 08:40:20 | エッセー
ライトノベルセレクト
『赤田先生の自転車』
        


 赤田先生の自転車は年甲斐もなく、赤い自転車である。

 厳密に言うと赤ではなく、オレンジ色に近い。
 信じられないが、もう四十年も乗っている。最初は、ほとんど赤だったのが四十年の歳月のうちにオレンジ色になってしまった。
 しかし、それ以外は、どこから見ても新車同然だった。磨き抜かれたフレームやハブ。効きのいいブレーキ。ダイナモで少しペダルが重くなるがLEDライトに負けないくらい明るいライト。ライトの色はLEDと違って、尖った明るさではなく、ちょっとアンバーがかった懐かし色。ベルのチリリンという音もどこか優しげ。
 みんな、赤田先生の人柄が反映されていると思っている。手入れを怠らず、大切にしてきたんだと思っていた。
 実際、赤田先生の家に行った先生や生徒は、その扱い方の良さにビックリする。

 なんと赤田先生は、自転車を自分の部屋に入れている。まるで家族のように。

 赤田先生は、新任のころから、この自転車で通勤し、出張に行き、家庭訪問に行った。
 よほどの遠距離。たとえば沖縄の修学旅行でもなければ、他の交通機関を利用することは無い。
 以前ヤンチャな学校に勤務していたころ、アクタレのアベックの生徒が、先生の自転車を盗んで、学校を抜け出そうとしたことがある。五メートルも行かないうちに、女の子が後輪のスポークに足とスカートを巻き込まれ、男の子は急ブレーキをかけた。そんなにスピードは出ていなかったのに、男の子は前に投げ出され頭蓋骨を、女の子はスカートが引き裂かれたアラレもない姿で両足首を骨折した。

 で、自転車には傷一つ付かなかった。

 子どもを助けたこともある。路地から飛び出した小学生が赤田先生の自転車にぶつかり、自転車のすぐ後ろを走っていたトラックに轢かれずにすんだことがある。自転車にぶつかった小学生は「まるで抱き留められたみたい」と言い。実際怪我一つしなかった。この時は、とっさに子どもを助けたということで、赤田先生は、警察から表彰状をもらった。

 そんな自転車に乗って仕事に行くのも、今日が最後である。

 今日は、三学期の終業式。赤田先生は、終業式を最後に事実上退職する。三月の残った日々は、有り余る有給休暇にした。
「赤田先生は、三十七年の長きにわたって、この自転車に乗り、生徒諸君のためにがんばってこられました。お休みになられたのは、ご両親が亡くなられたときと、インフルエンザで出席停止になったときだけであります」
 校長先生の言葉に、生徒達の中から泣き笑いの声が上がった。
「それじゃ、みんな。これでさようなら! みんなもがんばるんだぞ!」
 赤田先生は、ニコニコ笑いながら大きく手を振り、グランドを一周して、校門から出て行った。
 学校のフェンスには、生徒達や先生達がしがみつくようにして手を振りかえしてくれている。

 学校は、少し高い丘の上にあるので麓に行くまで、学校のみんなから見えている。

 赤田先生が、坂の下の橋に差しかかったとき、自転車は急に跳ね上がり、欄干を超えると十メートルほどの高さから、真っ逆さまに川に転落した。

――陽子ちゃん。やっぱり君は、僕を許してくれなかったんだね。三十八年前、僕は、ほんのチョイ借りのつもりで、赤い自転車を盗んだ。まさか、それが高校で同級だった陽子ちゃんの自転車だとは思わなかった。あの時、君は亡くなって三日目。ちょうどお葬式が終わって、陽子ちゃんは火葬場で焼かれていた。それで、駅前に置きっぱなしにしていた自転車に憑りうつったんだよね。僕は陽子ちゃんが好きだった。だから、僕は嬉しかった。それから、毎日同じ部屋で暮らして愛し合った。でも、君は自転車。僕は人間。いつかはお別れの時がくる。好きな女の人ができる度に君は邪魔をしたね。だから、僕は定年のこの歳まで独身だった。でも、ネットで知り合った女の人と僕は仲良くなった。今日家に帰って部屋に入ったら、自動的に陽子ちゃんをロックできるように仕掛けを業者の人に頼んでおいたんだ。それも君は見破っていたんだね。そして、こうやって……ぼくは嬉しいよ。怖いほどに嬉しいよ。僕は……――

 そこで赤田先生の意識はとぎれた。

 その後、川から海まで捜索されたが、赤田先生も自転車も見つからなかった……。

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