大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・012『あんたさん』

2019-04-30 15:05:41 | ノベル
せやさかい・012
『あんたさん』 
 
 
 
 テイ兄ちゃんが放っておくわけがない。
 
 金髪の美少女が門前に来て妹と談笑している。
 むろん、わたしと留美ちゃんも居てるねんけど、テイ兄ちゃんには金髪の美少女しか見えてへん。
 
「やあ、ちょうどお饅頭頂いたところだから、いっしょにどうぞ」
 歯磨きの宣伝みたいに白い歯を光らせ、作務衣の手にはホウキなんか持って、インテリ坊主風に現れた。
「うわー、お坊様だ! え? え? さくらちゃんのお兄さん(正しくは従兄なんやけど)? こちらがお姉さん(正しくは従姉)なんですか!?」
「こっちが、おんなじクラスで文芸部の榊原さん!」
「は、初めまして、酒井さんにはお世話になってます、榊原留美です」
 留美ちゃんが挨拶すると、身についた坊主の慇懃さで挨拶を返すテイ兄ちゃん。
 坊主の挨拶は丁寧なほど職業的慇懃さで出てきたもんで、見かけの割に気持ちは籠ってへん。せやけど、留美ちゃんが感動してるんで、なにも言いません。
 
「お饅頭なんて、いつでもあるんですよ」
 
 お茶とお饅頭をテーブルに置きながらコトハちゃんが笑みをこぼす。お寺の娘やから、こういう動作と言葉遣いは、そのへんの旅館の仲居さんよりサマになる。
「「ありがとうございます」」
 頼子さんと留美ちゃんが初々しく頭を下げる。テイ兄ちゃんもにこやかに受け答えして、頼子さんとお近づきになりたそう。でも、本堂の方から「諦一ぃ~」と伯父さんの声がして、仕方なく尻をあげる。
「桜もすごかったですけど、境内にはいろんな木や花があるんですね!」
「ポピーにアセビにハナミズキ、ガーベラにツツジ……ハハ、わたしも知らないのがある」
 ケラケラ笑ってもコトハちゃんはベッピンさんや。
「そうだ、お祖父ちゃんが写真に撮ってたのがある」
 立ち上がってボードから写真帳を出してきた。
 写真帳には季節ごとにお寺で咲く花の写真と解説が載っている。お祖父ちゃんはマメな人やけど、こんなん作ってたなんて知らんかった。
「檀家さんや、お寺を尋ねてきた人に説明と言うか、喜んでもらうために作ったらしいわ」
「へー、そうなんだ!」
 お母さんの「そうなんだ」と違う、感動の「そうなんだ!」を発する頼子さん。ちょっとだけ「そうなんだ」を見直す。
「お寺って、本当は来てもらってなんぼってところがあって、夕陽丘さんみたいに興味を持ってもらうのが狙い……なんて、言ってるけど、ようは見せびらかしたいだけ。よかったら、いつでも見に来てちょうだい。お饅頭ならいつでもあるから」
「はい、お言葉に甘えて、また来させてもらいます! あ、お経……」
 
 本堂の方からナマンダブナマンダブが聞こえてくる。
 
「陰気臭くてごめんなさいね、うちの商売だから、朝と夕方は、阿弥陀さんにお経唱えるの」
「ナマンダブって……南無阿弥陀仏のことですか?」
「ええ、そうよ。ずっと昔に南無阿弥陀仏が訛ってナマンダブになったらしいわ」
「そうなんだ……安泰山と書いてアンタサンと読むのもそうなんですか?」
「あ……そうかな、たぶん。普段から気にしたことないから」
 わたしは――気にしたことないどころか、安泰山という山号じたい知らんかった。
「でも、うちの学校は同じ字で安泰中学って書いて、アンタイって普通に読むんですですよね」
「え、あ……そうね。あら、今まで不思議だなんて思ったことも無かった」
「あ、ごめんなさい。こういうことが気になると放っておけない性質で」
「あ、ううん。こういうことに疑問を持つなんて、大事だし素敵なことだと思うわ。こんどお祖父ちゃんにでも聞いてみてお知らせするわ」
「すみません、変なことが気になって(^_^;)」
 
 その後、お祖父ちゃんに聞いて分かったんだけど、頼子さんが推測した通り、安泰山が訛ってアンタサンの読みになったらしい。
 ちなみに、家の前の道路を如来通りというのも、うちの如来寺という名前から来たらしい。
 安泰中学というのは、なんのことはない、このあたりの地名が安泰というところからきているんだそうだ。むろん読み方はアンタイで、うちのお寺との関係は……また調べとくということやった。
 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中       クラスメート
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲・ノラ バーチャルからの旅立ち・9

2019-04-30 10:50:02 | 戯曲
連載戯曲
ノラ バーチャルからの旅立ち・9

※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最終回に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください。


  


時      百年後
所      関西州と名を改めた大阪

登場人物
好子     十七歳くらい
ロボット   うだつの上がらない青年風
まり子    好子の友人
所長     ロボットアーカイブスの女性所長
里香子    アナウンサー(元メモリアルタウンのディレクター)
チャコ    アシスタントディレクター




 下手から里香子がマイクを持ってあらわれる。

里香子: いかがでしたでしょうか。このメモリアルタウンをめぐるエピソード。
 ささやかではありますが、このお話の中には、この二十二世紀がかかえる心の問題が見え隠れしているように思えます。
 二十一世紀からこちら、さまざまなものがバーチャル化していく中で、けしてバーチャルにしてはいけないものがある。
 そういう思いでわたしたちメモリアルタウン制作委員会は、この町を造りあげました。
 そして最後にこのドラマを……しかし、残念ながら……(こみ上げてくるものをねじ伏せて)
 前世紀からいっこうに改善されない財政状況の中で、この町は事業仕分けされ、消えていこうとしています。
 会場のお客様にはモデムの故障で、町の様子をごらんいただけませんでしたが、
 なにか一つでも心の中に、あなただけのメモリアルタウンが芽吹いてきたのなら幸いです。
 テレビをご覧の視聴者のみな様、会場のみな様に厚く御礼を申し上げます。
 では、これで失礼いたします。本日は、ほんとうにありがとうございました。(深々と頭を下げる)

 間、下手からチャコがあらわれる。

チャコ: おつかれさまでした(ぞろぞろとキャストたち「おつかれさま」と声をかけながら集まる)
 はい、タクシーチケット。それから、お弁当食べない人は始末しますからね。
所長: この局の弁当サイアクなんだもんね。
まり子: じゃ、わたしもらってかえりますね。落ち目の役者なもんで。
所長: またまた、三本もレギュラー持ってんのに。
まり子: 三本とも、ワンクールだけっすよ。
所長: 進一君、あんたよかったわよ。今度うちから、オファーくるようにしたげようか。
チャコ: やりー!
進一: どうも……。
チャコ: よかったね、プロになれるかもよ。わたしブースに行ってます(去る)
所長: じゃ、おつかれぇ……。
まり子: あのオバチャン口だけだからね。
所長: なんか言った!?
まり子: いいえ、口もとがとてもおきれいだから、どこのルージュを……。
所長: ふん……。(去る)
まり子: 福井さーん!(追いかけて、去る)
好子: じゃ、わたしも、これで……進一君。
進一: うん?
好子: ……なんでもない(去る)
進一: 叔母さん。ほんとうに好子には会えるんだろうね?
里香子: 大丈夫よ。この番組、数字は二十はかたいから。
進一: ロボットアーカイブスを出てから、好子の足どりが……。
里香子: だいじょうぶ。進ちゃんだって迫真の演技だったもの。
進一: ぼくは演技じゃないよ。現実のことなんだから。この再現ドラマに出ることで……叔母さん……NOBCの力を信じて。
里香子: 好子ちゃんを、あんなふうにプログラムしたのも、
 わたしが、お姉さんと進ちゃんの情にほだされてのことだったんだから。ねえ、ヤマちゃん!……あとは運だけど、大丈夫よ。
進一: 信じて待つよ。ヤマさんもよろしく! じゃあ……。
里香子: 進ちゃん。
進一: はい?
里香子: ……なんでもない。
進一: ほんとに、ほんとにだいじょうぶなんだよね!?
里香子: だいじょうぶよ!!
進一: じゃあ……よろしく(去りぎわに、入れ違いに入ってきた好子とぶつかりそうになる)じゃまだよ、亜里砂!
好子: 亜里砂だって……やっぱり、だめなんだ。
里香子: あやうく喋っちゃうとこだったわよ。
好子: すみません……ヤマさんも!
里香子: どうして自分から言わないの「わたしが、ほんとの好子」だって。
好子: わたし、マスクが替わっただけなんですよ。そのせいで声も少し変わったけど、中味は「好子」のまんま。
 だのに進一君、ぜんぜん気がつかない……。
里香子: あなたもガンコね。ここへきてまだ賭けにこだわってるの?
好子: もう賭けじゃないんです。
里香子: じゃあ。
好子: わかったんです。進一君の求めているのは、亡くなった妹「好子」の姿形をしたお人形なんです。
 それほどヤマさんの腕がすごかったってことでもあるんですけど。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・時かける少女・84・スタートラック『ベータ星滞在記・2』

2019-04-30 06:33:12 | 時かける少女
時かける少女・84・スタートラック
 
『ベータ星滞在記・2』      



 
 監視されている様子はなかった。

 幽閉という言葉が似つかわしいが、ミナコたちも、あまり外へ出てみようとも思わなかったので、ファルコン・Zのクルーは、とても中途半端だった。
 外へ出てはいけないと言われているが、建物ではない。首都ベータポリスから出てはいけないということだけだったので、ほとんど自由と言ってもよかった。

「今朝は、納豆定食にしてみました」
 まかないのメグさんが、ワゴンで朝ご飯を運んできた。
「うわー、なつかしの水戸の納豆だ!」
 ミナコが一番喜んだ。みんなもそこそこメグさんの料理は気に入っていた。
「ゲ、納豆!?」
「嬉しい、メグさんのアイデア?」
「いいえ、ファルコン・Zに相談して、料理は作っています。今朝の納豆は難しいんで、ファルコン・Zが合成してくれたものですけど、明日からお出しするお味噌やお醤油はレシピを教えてもらって、あたしが作ったものが使えそうです」
「船の中じゃ、こんなの食べたことないわ!」
「ファルコン・Zも、ここに来てから余裕みたいですね」
 ミナホが、楽しそうに納豆をかき混ぜている。
「船のCPUは航行中は、運行と警戒で手一杯ですからね。遊び心が出てきたんでしょうね」
「で、オレの嫌いな納豆か?」
 船長がボヤク。
「マーク船長にファルコン・Zから、メッセージです」
「なになに……この際、嫌いなネバネバ系を克服しましょう。おせっかいなやっちゃ」

「ねえ、AKBのフリ覚えたの。見て!」
 メグさんの娘メルとパルがやってきて、上手に歌って踊って見せた。
「あ、『恋するフォーチュンクッキー』じゃん!」
「うん、街で流行りかけてるの!」
「なんで、そんなん知ってんねん?」
「ファルコン・Zがネットで流してるわよ。他にもいろんなこと教えてくれる」
「あたし、今度は『大声ダイアモンド』マスターしたいな」
「『フライングゲット』が、いいな」
「ね、キンタローバージョンてのあったけど、なあに?」
「あ、あれAKBの準構成員。あんまり真似すると首とか腰にくるわよ」
「うん、じゃあ、オリジナルをマスターしてくるね!」

 フォーチュンクッキーを口ずさみながら行ってしまった。

「可愛いお子さんですね」
「ほんとは、片方男の子だったらよかったんですけどね」
「メグさん、お若いから、まだまだでしょう」
 早くも食べ終わったコスモスが親しげに言った。
「三人目は……とても難しいんです。この星じゃね」
 メグさんは、軽くため息ついてお茶を注いでいった。
「どうしてなんですか?」
 ミナコは、大昔の中国の一人っ子政策を思い出した。
「水銀のせいなんです……」
「水銀……?」

 そこに、メイドのメナが急ぎ足でやってきた。

「みなさま、王女殿下のお越しです!」

 そして、ラフなチノパンにシャツジャケットの姿で王女が現れた……。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・017『衛生長 吉田美花』

2019-04-30 06:09:40 | ノベル2
 時空戦艦カワチ・017 
 『衛生長 吉田美花』          


  テレビに映ってた友梨亜ちゃんはメッサかっこよかった!
 
 戦闘服やヘルメットは友梨亜ちゃんの魅力を隠してるし、むろんスッピンやけど、やっぱり魅力的や。  
 他の隊員の人らも黙々と任務を遂行しててかっこええ。  
 せやけど、わたしには友梨亜ちゃんがヒーローや。 
 女の子にヒーローは可笑しいけど、自衛隊の看護師やってんねんから、やっぱりヒーローや。 
 着の身着のままのお婆さんが、何べんも友梨亜ちゃんと、仲間の隊員さんに頭下げてはる。 付き添いの女の子もおしゃまにお礼を言うて、お婆ちゃんの脚を支えてる。ほんまは肩を支えてあげたいんやろけど背が足らへん。 それでも気持ちはお婆ちゃんを支えてるし、お婆ちゃんも嬉しそう。
 
 次は赤ちゃんを抱っこしたお母さん。どうやら赤ちゃんに元気が無いんで心配らしい。 さっそく友梨亜ちゃんは、お母さんに問診しながら赤ちゃんを触診。テキパキした仕事っぷりやけど、患者さんをぞんざいに扱うたり、せかしたりはせえへん。中学でブイブイいわしてたスケバンの頃の面影はない。 
 スケバンの頃の友梨亜ちゃんも嫌いやなかった。外では知らんけど、わたしらには優しいおネエチャンやったし。
 
 カメラがパンすると、非難所前の道路で横断幕が広がった。
 
――戦闘服で救援活動をする自衛隊に反対!――
 
 昔の友梨亜ちゃんやったらブチ切れとったやろなあ。 
 ブチ切れる友梨亜ちゃんもカッコよかったけど、そんな横断幕広げた人らに関わりもせんと避難者の診療やってる友梨亜ちゃんは、もっとカッコええ。 
 美人の友梨亜ちゃんはテレビ局も分かってるようで、何回も出てくる。 被災した人には悪いねんけど、わたしはカッコええ友梨亜ちゃんが見れるんで、テレビやらネットで被災地の様子を見るのが楽しい。
 
「友梨亜ちゃんの自衛隊看護師カッコええなあ……」
 
 学校の芸術鑑賞みたいに体育座りで見てるわたしにお母さんが声を掛ける。 「友梨亜ちゃんは看護師違て、お医者さん。自衛隊のお医者さんの学校出たんやて」 
 すごい! やっぱり友梨亜ちゃんはご町内のヒーローや! 「お医者さんは無理やけど(勉強もでけへんし、根性もない)、自衛隊の看護師さんくらいにはなりたいなあ」     
 三人兄妹の出がらしと言われてるわたしには珍しい建設的な呟きをした。
「美花はなられへんなあ」
 「なんでやのん!?」 
 体育座りのまま振り返った。後ろの席から消しゴムのカスほってきよった男子に切れた時のことを思い出す。 
 お母さんはビクっとして言うた。 「日本国籍ちゃうから自衛隊には入られへんよ」
  ガーーーーーン
 めっちゃショック! 空が落ちてきたみたいなショック! 足許の地面がいきなり海になったようなショック!
 いつか言わならあかんと思てたらしいけど、こんな時に言わんとって欲しい……。
   衛生長の吉田美花を転送室で迎えた時、美花は一番に聞いてきた。 「えと……外国籍でも構いませんか、航海長?」 「生まれも育ちも河内なら問題ないわよ」 「ああ、よかった!」
 
 衛生長の最大の美点は、このポジティブな素直さだと思った。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・020『お引越し』

2019-04-29 14:14:18 | 小説
魔法少女マヂカ・020  
『お引越し』 語り手:マヂカ   


 ここに住むことになったのは不可抗力だ。

 友里の事が気になって後をつけたら、妹の茜里を助けてしまった。そんために「この辺に住んでるから(^_^;)」と口から出まかせ。
 大塚駅から徒歩六分のところに家を借りた。女子高生の一人暮らしも不自然なのでケルベロスを姉ということにして引っ越してきたのが昨日のこと。
 ご近所の手前もあるので、引っ越しやら手続きはリアルにやった。
 トラックで荷物を運び、ケルベロスを「お兄ちゃん」と呼びながら掃除や片づけ、合間に役所の届や電話の手続き、ガスや水道の開栓をやってもらい、町会長さんとご近所へのあいさつ回り。気のいいお向かいさんがゴミの回収やら分別のしきたりなどを教えてくれる。
「どうもありがとうございました」
 挨拶して家に戻ると、もうすぐ日没と言う時間。
「あーーくったびれたああああ」
「男にもどらないでよ!」
「どうせなら兄貴って設定にしておいてもらいたかったぜ、ご近所の手前、必要な時だけお姉ちゃんやるのも疲れるぞ!」
「仕方ないでしょ、兄なんてことにしたら偽装で実は……なんて変な興味持たれちゃうでしょ」
「ま、いいけども。肝心の友里のことは江の島弁天に丸投げしてしまうことになってしまったじゃないか」
「いいのよ、友里さえ幸せになってくれたら。ポイントは別の所で稼ぐから」
「じゃ、今日のところは消えていいか?」
「だめよ、これから引っ越し初日の晩御飯」
「食べなくったって、どうってことないだろ」
「ダメダメ、明日出すゴミにはちゃんと晩ご飯の弁当ガラなんかが入ってなかったら疑われちゃうわよ」
「んなの、魔法でササッとさ……」
「文句言わない、コンビニ行って買って来るから、お姉さんらしくして待ってて」
「はいはい」
 女らしく居住いを正したケルベロスの綾香がお茶を沸かしに立って、わたしはお財布を掴んで玄関へ。五センチほど開けたカーテンからは、その姿がお向かいさんに見えているはずだ。

 コンビニでお弁当を買って、五六歩出たところで巫女さんが立っていた。

「あ……」
 東池袋の生活道路に巫女さんが立っているのは、やや不自然。そう思ったら、巫女さんは帰宅途中のOLさんという感じになった。
「えと、神田明神さんとこの巫女さんですよね」
「はい、今度の要海友里さんの件は、江の島弁天さんに依頼されたので、ポイントは2です」
「えー、結果オーライだったんだから、5くらいはちょうだいよ」
「決まりですから仕方ありません。その代わりと言ってはなんなのですが、江ノ島に憑りついている化け物を退治してください。それができたら10ポイントに戻します」
「でも、争いごとはダメなんじゃないの?」
「いいえ、江ノ島は管轄外ですし、弁天様もお喜びになります。神田明神グループの評判も良くなるでしょうし」
「え? わたしって神田明神グループなの!?」
「ケルベロス、いえ、綾香さんにはお伝えしてありますが」
「もう、仕方ないなあ」

 かくして、江ノ島の化け物退治に出向することになってしまった魔法少女マヂカなのであった。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲・ノラ バーチャルからの旅立ち・8

2019-04-29 11:18:49 | 戯曲
連載戯曲
ノラ バーチャルからの旅立ち・8


※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最終回に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください。

  


時      百年後
所      関西州と名を改めた大阪

登場人物
好子     十七歳くらい
ロボット   うだつの上がらない青年風
まり子    好子の友人
所長     ロボットアーカイブスの女性所長
里香子    アナウンサー(元メモリアルタウンのディレクター)
チャコ    アシスタントディレクター



進一: 何が嬉しいだ。こんなものただのまやかしじゃないか!(モジュールを投げ捨てようとする)
まり子: 進ちゃん……!
進一: ……ごめん。これじゃ二十一世紀の高校生といっしょだよね(モジュールの電源をおとし、ポケットにしまう)
まり子: さ、帰ろ。またあの踏切をわたって、あの街を通って……
 (まり子、そっとカバンを差し出す。一瞬ためらって、進一そのカバンを受け取る)
進一: このメモリアルタウンみたく、割り切りゃよかったんだよね。
 そしたら好子にあんな負担かけなくてすんだんだ……ここのディレクター、ぼくの叔母さんなんだ。
まり子:叔母さん?
新一: よくわきまえてるよね。よくできてるけど、バーチャルなんだってとこ隠してないもんな。やろうと思えば、できたのにな!
まり子: そうね、でも、今は考えちゃダメよ。
進一: ……うん。
まり子: さ、行くわよ。

 踏切をわたりかけると、所長が息を切らしてやってくる。

所長: よかった、間にあった!
進一: まだなにか?
所長: メモリーをいくつか交換すれば直りますよ。
進一: え……?
所長: 今、スキャナーをかけたとこなんですけどディフェンサーがメモリーをよく護っていて、
 修理可能なことが分かりました。むろん、あちこちガタがきてるんで、相当なオーバーホールにはなりますが。
進一: 本当ですか!?
所長: 我々も驚いてます。あの子のCPUは、意志が強い、生きようとする意志が。
まり子: 好子ちゃんのCPUが……。
所長: 外からの刺激です。つまり、周囲の人たちの刺激がうまく働いて、ディフェンサーを初期設定以上に強力にしたんです!。
進一: 刺激というと……。
所長: 友情とか愛情とかですよ……あなたたちの。 
進一: 愛情……。
まり子: 直してあげてください、ぜひ! 
所長: お父さま、お母さまのご意志も確認させてもらいますが、ひと月ほどお預かりすればいいでしょう。
進一: お願いします。ありがとうございました!
所長: 申し上げておきますが、今度はアンドロイドとして扱ってやってください。
 それがあの子にとっても自然なんです。そちらで設定された無理なメモリーは消去しておきますから。それじや(去る)
まり子: よかったね、進ちゃん。
進一: うん。さ、帰ろうか。
まり子: こっちのほうが近いよ。
進一: メモリアルタウンを通って帰りたいんだ。
まり子: そうだったね。
進一: ごめんね。
まり子: うん。いいよ。気持ちわかるから。
進一: よし、じゃあ、あの郵便ポストまで競争しようか。負けたほうがタイ焼きおごるんだ。閉鎖になったら食べられないからね。
まり子: いいの? 足の長さ見ても勝負見えてるよ。わたし陸上部だし。
進一: いいんだよ。ただ走ってみたいだけ!
まり子: タイ焼き、ごちそうさま。
進一: いくぞ。よーい……ドン!
まり子: ピューン……(フリーズしてしまう)
進一: ……まりちゃん……まさか、まりちゃんもアンドロイド? 
まり子: ハハハハ、うっそぴょーん。ちょっと驚かしただけ。
進一: そりゃないよ。おれ、死ぬほどびっくりしたよ。おれ、心臓弱いんだからさ。ねえ、ちょっと待ってたら! 
まり子: ここまでおいで! アハハハ……。
進一: まりちゃん、待ってたらあ……!

 二人上手に駆け込む。 
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・016『砲雷長 山本計時』

2019-04-29 06:37:55 | ノベル2
時空戦艦カワチ・016
『砲雷長 山本計時』   





 いいアイデアに違いなかった。

 スペースバトルの中にラブコメがありドタバタスラプスチックに笑い転げながら人類救済のアイテムを十万光年の彼方に求めるRPG。
 選択肢によって目標の惑星が変化する。

 デフォルトのキスカンダルの他にメスカンダルとオスカンダルがある。

 キスカンダルは男女の愛、メスカンダルは百合、オスカンダルはBLとベタな設定だが分かりやすくていい。
 分かりやすいフラグ立てでストレスなく攻略できるが、コアユーザーには物足りない。
 そこで戦闘スタイルでも分岐するように仕込んでおく。
 通常兵器であるパルスレーザー砲や艦載機コスモSによる攻撃を主体に戦っていけばキスカンダル第一層へ到達しレギュラーなエンディングを迎える。Hシーンは一ヒロインにつき3~5で体位は10くらい。
 肉を切らせて骨を切る的な戦法で敵艦隊の中央に躍進しテラ光子砲をマックス+20%の力で主力を撃滅。その時の自己損失が大破認定であればキスカンダルの深層に到達できて、隠れヒロインの攻略が可能になり、Hシーンは10まで増える。体位は文字通り48手。
 これをヌルヌル動かそうというのだから、PCにどれだけのスペックを要求するのか?
 WindowsPXはもちろんのこと7でも諦めてもらおう。最低でも8は当たり前、10でスイスイくらいの要求。
 まあ、Hに関しては社内でも定評のあるワンニャンに任せて置こう。彼なら革命的なHを表現してくれるのに違いない。
 俺が考えるのは戦闘システムの構築と気持ちのいいリアリティーだ。

 で、夕べから八通りのシステムを試し、八つ目のテラ光子砲の重層発射で気が遠くなってしまった。

「山本さん、山本さん、起きてください山本さん」
 目を開けると田中航海長の顔があった。脈をとっているのはサクラ二曹だ。

 で、俺は時空戦艦カワチの……砲雷長!?

「転送した時にはまだ寝ていたから医務室に連れてきたの、あちこち弱ってるようだから、ちょっと安静ね。まだ衛生長の配置が無いからサクラ二曹が代役、また後で様子見に来るから大人しくしていてね。じゃ、サクラ、お願いね」
 航海長はサクラに目配せするとブリッジの配置に戻っていった。
「航海長、なんだか美味しそうな匂いがしていたね……って、そういう意味じゃなくて!」

 俺はエロゲの制作を生業としているが、リアルではしごくノーマルだ。サクラ二曹のようなリアル美少女には口の利き方に気を付けなければならないぞ……でも、これって俺の夢か妄想の世界だよな?」

「航海長は烹炊長兼務ですから。砲雷長は元々スカニエのプランナーやってらっしゃったんですよね」
「あ、それは俺の黒歴史」
「でも、ゲームのコンセプトは、そこで培ったんですよね。バトルの展開はスカニエ随一だったとか……」
「夢ばっかり追いかけていてもね」
「今度はエロとバトルの融合ですね」
「エロとバトルは双頭の鷲なんだよ、ゲームの柱なんだ、ここで妥協するとスピンオフした時の鬱がハンパないからね、自己評価クソゲーで当たるより、原価回収ギリギリの神ゲーでありたいよね」
「ですね、今度はきっと報われますよ」
 妄想世界のキャラなんだろうけど、サクラ二曹とは気が合いそうな気がする。惜しむらくは……。
「あら、その指はキーボードの操作ですね」
「え、あはは、そうだけどね……あれ?」
 サクラのバストを八センチ大きくしようとしているのだが、いっこうに大きくならないぞ。
「乗員は全員デフォルトのままだから変わりようがないですよ」
「え、そなの? 妄想にしては不自由なんだな……あれ?」
 腕を上げようとしたら、右ひじの裏側に点滴の針が刺さっている。注射嫌いの俺にいつの間に……あ、妄想だから痛みとかないのか。
「こんど目覚めたら、艦長に会っていただきます。さ、しばらく休んでくださいね」

 そういうと、サクラは優しく掛け布団を掛けてくれた……。

「砲雷長お休みになりました……はい、まだ妄想と思っておられるようです、次に目覚められましたら……」

 サクラがどこかに報告を入れている……相手は……ま、いっか、もうちょっとこのまま……」
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・時かける少女・83『ベータ星滞在記・1』

2019-04-29 06:24:49 | 時かける少女
時かける少女・83 
『ベータ星滞在記・1』      
 
 
 
 直後に大きな衝撃がきて、ミナコは気を失った……。
 
 意識が戻ると、ファルコンZのコクピットは大混乱だった。 「ドライビングサーキット、オールグリーン」 「ナビゲートにウィルスは発見できません」 「装甲復元まで、30秒!」 「ベータ星艦隊、パルス砲発射を確認!」 「到達まで、32秒!」 「船の頭を敵に向け、シールドを最小にして集中防御!」 「だめです、コントロールがききません!」 「救命艇で脱出!」 「間に合いません!」 「くそ、ここまでか……」 「パルス弾到達まで20……自爆していきます。パルス弾……全弾自爆しました」
 
 一瞬でコクピットは静寂になった。
 
「なんでや……」
「船長、船の識別コードが地球に戻りました……」  その時、船が動き出した 「コントロールが、戻ってきたんか!?」 「……いいえ」 「牽引ビームか?」 「いえ……ファルコンZが、自分の意志で動いています」 「こいつが……船長はオレやぞ!」
 やがて、装甲は復元され、シールドは解除、コントロールは戻らず、船はベータ星艦隊と共にベータ星に向かった。
 「みんな、ええ子にしとけよ。いつ撃たれても文句の言えん状況やさかいな」 

 ベータ星の宇宙港に着陸すると、千人ほどの部隊に取り囲まれ、上空で待機している艦隊の砲口は、ファルコンZに向けられていた。
 後部ハッチが開くと、船長を先頭にミナコたちは、千人の部隊が銃口を向ける中、指揮官の前に進んでいった。入れ替わりにベータ兵が何人も船の中に入り、捜索をし始めた。
 「理由は分からんけど、抵抗はせえへん……手え降ろしてもええかな?」 
「手を上げろとは言っておりません。捜索は念のためですあしからず」 
 副官が、なにやら耳打ちした。
 「船内にも異常はないようですな。それでは、我々の指揮官に会っていただこう」
 「え、将軍、あんたが指揮官じゃないのか?」
 
 その時、一台の戦闘指揮車が一同に近いところで停車。兵士一同が不動の姿勢をとった。
 
「ようこそ、ベータ星へ。マーク船長と、そのお仲間のみなさん」
 小柄な戦闘服姿の少女が、にこやかに声をかけた。
「あなたは……」
「ベータ星のマリアです」

  ベータ星での滞在が始まった……。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲・ノラ バーチャルからの旅立ち・7

2019-04-28 14:12:48 | 戯曲
連載戯曲
ノラ バーチャルからの旅立ち・7  

  
※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最終回に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください。
 
時      百年後
所      関西州と名を改めた大阪

登場人物
好子     十七歳くらい
ロボット   うだつの上がらない青年風
まり子    好子の友人
所長     ロボットアーカイブスの女性所長
里香子    アナウンサー(元メモリアルタウンのディレクター)
チャコ    アシスタントディレクター



好子: もうロボットもアンドロイドも買わないよ。
ロボ: 無理スンナヨ。ボクヨリイイアンドロイド見ツケレバイイ。
好子: だって、もういやだ。こんなお別れ……。
ロボ: 人間ダッテイツカハ死ヌ。ロボットダッテ同ジ。
 人モロボットモ、オタガイタスケアイ、思イアッテ生キテイクンダ。
 ソノトキソノトキ、セイイッパイ生キテ、ソシテイツカ別レノ日ガヤッテクル。
 ソノ日マデ、ミンナ宇宙ニ一ツダケノ花デイレバイインダヨ。ソモソモ人生トイウノハ……。 
好子: ハハ、やっぱ、ダサイ。入学式の校長先生の話みたいだよ。
ロボ: 好子ンチハ、家族ミンナ寂シガリダカラ……気ハヤサシクテ、チカラモチノアンドロイドガ必要ダネ。ソウシナヨ。
好子: そうね。とびっきりカッコよくて、男っぷりのいいアンドロイドにするわ。
 鼻筋が通って、声は品のいいバリトン。休みの日には白馬に二人乗りして、湖のほとりを散歩すんの。
 そいで、宿題みんなやってくれて、お掃除、洗濯、お買い物、ぜーんぶしてくれて。アルバイトも行ってくれて、
 月に百万くらい稼いでくれる! そんなアンドロイドが……アンドロイドが……いいわけないじゃん! 
 人もアンドロイドも見せかけのカッコよさじゃないよ。
 たとえ短足で、ぶさいくでも、いっしょに暮らして、心が通いあってることが大切なんじゃない。
 そんなアンドロイド……ロボットは、ロボくん一人しかいないんだもん。
 わたしにも、お母さんにも、ロボくん一人しかいないんだもん……!
ロボ: 好子チャン……。
好子: なーんちゃってね。ね、けっこう感動的なクライマックスになったじゃん。
 あたし、演劇部に入ろうかなあ。
 それとも、そこらへんのオーディション受けまくって、アイドルにでもなっちゃおうかしら。
 正体不明の新人アイドル相保好子! 清純にして可憐。
 しかし、その瞳には世の男性をとりこにして止まない小悪魔のかがやきが! その底知れぬ彼女の本性やいかに!? 
 そのときは、ロボくん。きみがわたしの付き人になって、ファンからのヤマほどのプレゼント両手にかかえて……
 かかえてくれるあなたはもういないのよ……ロボくん……ハハハ、どうしてわたしは、こう情緒不安定なのよ……。

 ロボットアーカイブスの所長が、あらわれる。

所長: 昼間お電話のあった相保さんですね。
好子: は、はい。
所長: 登録IDを、お見せいただけますか。
好子: はい、これです(ポケットからIDカードを出し、所長にわたす)
所長: (IDカードを、コンソールにかける)シリアスナンバー183699……のアンドロイドの廃棄をご希望なんですね。
 (カードを受け取って、逃げるように所長の側を離れる好子)
好子: …………。
所長: お電話では、そううけたまわっておりますが。
ロボ: ハイ、廃棄デス。アチコチ寿命ガキテ、ポンコツナモンデスカラ。
好子: スクラップですか?
所長: しかたありませんね。ここまで旧式だと。
ロボ: ナルベクヤサシクオネガイ……シマス。
所長: いいわよ(好子に)よろしいですね。
好子: …………。
ロボ: 好子……。
好子: ロボくん……。
所長: では、ロボくんむこうへ。
ロボ: ハイ(所長に示された上手方向に歩き出す)
好子: ロボくん!

 好子、思わずロボに駆け寄ろうとする。所長の前を通ったとき、所長はコンソールを好子の首にあてる。
 「ピューン」と電子音をさせて、そのままの姿でフリーズ。進一、つまり今までのロボ、ゆっくり振り返る。
 その動きは人間のそれである。

進一:(いままでのロボ) 好子……。
所長: 終わりました。

 まり子、息を切らせてやってくる。 

まり子: 進ちゃん……。
進一: 終わったよ。

 進一、好子のまぶたを閉じてやる。

進一: 最後まで、自分を人間だと思って……ずっと、ずっと、ぼくを心配し続けてくれた。
 CPUの限界を超えて、胸を痛め続け、心配し続け、混乱して……。

 所長、コンソールのボタンを押す。好子は楽な姿勢になり、カバンを落とし機械的に前を向く。目も開くが、そこにはもう光はない。   

 
 


コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・015『補給長 中村清美』

2019-04-28 06:37:56 | ノベル2

時空戦艦カワチ・015
『補給長 中村清美』    
        



 民自党政府の陰謀だあああああああああああああああ!!

 手が付けられなかった。

「なんで、こんなのリクルートしたんだ…………」
 田中航海長はお手上げをした。
 転送室の外ではメグミ一曹がポーカーフェイスで待機している。
 案内役の自分が乗り出してはかえってこじれると思うから。
 
 今日リクルートされたのは補給長だ。

 民自党衆議院議員中村清一郎の娘の清美。
 十三歳でアイドルになり十五から三年間新人賞やら紅白出場にノミネートされたが、ここ一発のところで漏れてしまい、二十歳になったころにはテレビ出演もガタッと減ってしまった。

「でも、清美って、とってもピュアだよね」

 そう誉められたのは情報バラエティーでマスコットをしていた時。
 準レギュラーのコメンテーター伊藤多麻子だった。
 伊藤多麻子は左派系の女性論客のリーダーで民自党内閣打倒の急先鋒だ。
 父の清一郎とは真逆である多麻子の主張はとても新鮮で、しばしば清美の舌鋒鋭いコメントに感激して涙ぐんだ。
「積極的平和主義というのは自ら進んで武器を持たないことなんですよ!」
 父の老獪な演説に子どものころから辟易していた清美には、震えの怒るような衝撃だった。
「万一の時は、無抵抗非暴力! ガンジーはこれでインドの独立を勝ち取ったのよ!」
 チェ・ゲバコと言われた多麻子が拳を振り上げた時には感激のあまり本番中のスタジオで気絶してしまった。

 その縁で、あくる年にはアイドルを辞めて改進党議員の秘書に収まった。

 そんな清美は、いくら基本情報をインストールされたとは言え、時空戦艦カワチに招かれたことが拉致としか受け止められなかったのだ。
 こんなことをするのはミサイルを撃ち込んでくるX国か民自党の裏組織しか考えられなかった。

「分かった、君はゲストだ」

 航海長に代わって転送室に来た喜一艦長は宣言した。
「忌まわしい、こんな軍国主義の軍艦になんか乗ってられないわよ、間違ってるわよ! なにがゲストよ! これじゃ併合とか言ってよその国を植民地にするのといっしょじゃない! 拉致反対! 軍国主義糾弾! すぐに地球に帰してよ!」
「帰してあげたいし、私たちも帰りたい。でも帰った大阪はこうなんだよ」
 喜一はコンソールのタッチパネルに触れた。

「あ……もどったじゃん」

 清美は改進党大阪本部が見える地下鉄の地上出口を出たところだ。
――そうだ、ここから本部に向かう途中で記憶が無くなったんだ――
 とたんに三十五度の外気に晒されて、みるみる汗がにじみ出してくるのが分かった。
 
 最初の角を曲がると、同党の秘書仲間の二階堂の姿が見えた。

――そうだ、二階堂さんに出会って「暑い暑い」を連発して……――
 二階堂が気を利かして、自販機でスポーツ飲料を……買いに行ってる。
「いいです、事務所から持ってきたのがありますから」
「温くなってるでしょ、冷たい方が……」
 ガシャポンとペットボトルが落ちてくる。
 二階堂とは反対側の陰にハンカチをパタパタさせている自分が居た。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
 ペットボトルを受け取ると、ボトルの冷たさと二階堂の暖かさが同時に伝わった。
――ここよ、記憶が無くなったのは――

 次の瞬間、視界が真っ白になった。そして衝撃が来た。

 ペットボトルが瞬間で中身ごと蒸発し、目の前の自分と二階堂は人の形をした炎になり、息を呑む間もなく灼熱の路面に叩きつけられ粉々になった。

「キャーーーーーー!!」

「今のはシミレーションだけど、地上に戻ったら直後にこうなるんだ」
「こ、こんなの、悪質なプロパガンダよ……」
 そう言いながらも、重ねて戻してくれとは言わない。
「とりあえず君の部屋に案内させよう。メグミ君、案内してもらえるかい」
「承知しました、補給長……失礼しました清美さん、こちらへどうぞ」

 悄然となりながらも清美はメグミ一曹の後を付いて行っている。

「ま、補給の仕事はしばらくないだろうしな……」

 舷窓から見える地上には、相変わらず炸裂直後のミサイルが3Dのバグのように輝くシミになっていた。
  
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・時かける少女・82『ベータ星の秘密』 

2019-04-28 06:26:16 | 時かける少女
時かける少女・82 
『ベータ星の秘密』   
        




☆………突然の攻撃

「ガンマ星なんかには行かへんぞ」
 マーク船長の答は簡単だった。
「なぜなの、船長?」
「ベータ星は、母星のガンマ星と係争中や。連邦の外交船でもないのに、行く義務はない」
「でも、王女様が困ってるって」
「忌々しいアルルカンめ、バルス、代わりに説明したってくれ。オレは寝る!」
「なんで、ふて寝……」

 キャビンデッキに降りる船長に一言言おうとしたら、バルスが話し始めた。

「係争中の星にいって、儀礼ではなくて、王女の慰めなんかに行ったら、係争に巻き込まれてしまう」
「母星のガンマ星の支配宙域も広いわ。うまく行っても、その後、進路妨害されるかもしれない」
 コスモスが、あとを続けた。
「わたしも悪い予感がする……」
 ミナホがミナコの肩に手を置いて言った。
「どうも、あのアルルカン大使には裏があるような気がする」
「それにベータ星には、水銀の海がある」
「水銀の海?」
「星のあちこちに散らばっているけど、合わせると地中海ほどの広さになる。ベータ星人は水銀に耐性があるが、地球人には毒だ」
「水銀中毒になるのね」
「ああ、大気中の水銀濃度は、地球の95倍だ。地球人の滞在時間は一週間が限度だ。そんな星の王女様を慰めにいったら……分かるだろ、ミナコ」
「パルスキャノン反応。シールド展開!」
 コスモスが忙しく、パネルを操作する。バルスは、右舷のキャノン砲をオートにした。パルスキャノンをパルスキャノンで相殺するのだ。
「だめだ、30秒後に飽和攻撃になる。全弾はよけきれない。衝撃に備えろ!」

 そのとき、船長がパジャマ姿で駆け上がってきた。

「おい、船の識別コードがガンマ船になってるぞ!」
「こっちのモニターでは、地球船です!」
「コントロールをオレによこせ!」
 スタビライザーの限界を超えて、船長は曲芸のような操縦をしてパルス弾をかわしていく。ミナコはコックピットの中を転げ回った。
「だめだ、次の三発ははよけきれない!」

 直後に大きな衝撃がきて、ミナコは気を失った……。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・時かける少女・81『銀河連邦大使・2』 

2019-04-27 06:28:02 | 時かける少女
時かける少女・81 
『銀河連邦大使・2』           




☆………銀河連邦大使2

 大使の船は大したものだ……。

 最初はのんきにダジャレが出るほど、豪華なもてなしを受けた。
 船内には25メートルのバーチャルプールがあった。よほどの客船でもないかぎり、リアルな25メ-トルプールは無い。たいてい、5メートルのバーチャルプールで、水流を作って距離感を出している。実感は25メートルでも、ハタから見ていると5メートルしかないので、なんだかプールに泳がされてますって感じで、見ばのいいもんじゃない。うんと昔の感覚で言うと、下りのエスカレーターを登って永遠の階段を上っているような錯覚をするのに似ている。
 それが、この船ではリアルに25メートル。設定の仕方では、カリブや地中海の海も再現できて、一時間のつもりが三時間も泳いでしまった。

 泳いだ後は、マッサージをしてもらった。ファルコン・Zは電子マッサージ機があって、一瞬で凝りをほぐすのだけど、なんとも味気ない。実際人にやってもらって、少しずつ凝りがほぐれていくのは快感だった。
 プールもマッサージも大使がいっしょだった。水着の大使はモデルのように均整のとれたからだつきをしていて、同性のミナコが見てもほれぼれした。

「さ、あとはお食事にしましょう」

 食事は、流行りの古典日本料理。それも肩の凝らないバイキング式だったので、大使船のクルーといっしょになって、美味しく楽しい食事ができた。
 
 自然と会話も弾んでくる。
「あなたたちは、楽しむ天才ね」
 大使から、お褒めの言葉をいただいた。
「よかったら、お願いしてもいいかしら?」
「何でしょうか?」
「ベータ星に寄ってもらいたいの」
「ベータ星?」
「ええ、国王が亡くなられて、マリア王女が、とても気落ちしてらっしゃるの」
「そりゃ、お父さんでいらっしゃるんですものね」
 ミナコが庶民的な答をした。
「……女王になられるんですね」
 ミナホは、核心をついた答をした。
「ええ、いろいろ難しい星だから、自信を無くして落ち込んでいらっしゃる。あなたたちが行って慰めてくれると嬉しいんだけど」
「それは……」
 ぜひ……と応えようとしたらミナホに先を越された。
「船長と相談してみます。航路については船長の権限ですから」
「ええ、もちろんそうでしょう。私からのお願いとしてお伝えくださいな」

 どうやら、その話が目的であったらしく、そのあとはうまくあしらわれて、三十分ほどで、ファルコン・Zに帰ってきた。

「さよか、あのオバハン、そんなこと言うてきよったんか」

 マーク船長の目が光った……。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・014『松本シンジ機関長』

2019-04-27 06:00:57 | ノベル2

 時空戦艦カワチ・014

『松本シンジ機関長』          

 

 食堂のおばちゃん!?
 

 松本シンジの第一声だ。
 

 カワチのAIがリクルートした機関長は田中航海長が勤務する高校の二年生だ。

 それを知った田中航海長は食堂のおばちゃんのナリで出迎えた。

「らっしゃ~い!」

 いつもなら、このあとに「(注文は)なにする?」が続く。だが、目の前のおばちゃんは航海長だ。

「シンジ君は機関長だから、これ、制服ね」

 おばちゃんは食堂のトレーに載せた制服をカウンターに見立てたコンソールの上に置いた。

「えと、あ……」

 いつもの習慣で受け取ってしまうと、あとは昼時の食堂の流れだ。

「つかえてるから、さっさとしてね」

 言われたシンジはパーテーションの向こうに回った。

「あの、オレ航海長なんて務まりません」

「習うより慣れろ、着替えた服はトレーに載せて返却口ね。セルフサービスだから」

「う、うん……」
 

 着替え終わってパーテーションを出ると、艦長付き従員のメグミ一曹に代わっていた。
 

「じゃ、わたしに付いて来てくださいね、松本シンジさん」

 うっかり目が合ってシンジはドギマギする。

 女の子と目が合ったなんて、ここ何年無かったことだ。たまに目が合っても完全無視か、まるで路上のウンコを見るような目つきだった。 それが手を伸ばせば届きそうな近さで肯定的な笑みを浮かべてフルネームで呼んでくれる。
 

「は、はい」
 

 応えて転送室を出ると、おばちゃんが航海長の制服ボタンをはめながらやってくるところだ。

「食堂のナリで艦長室にはいけないもんでね。後でご飯持ってってあげるから、あんた朝ごはんどころか、夕べの晩御飯だって食べてないでしょ」

「う、うん」

 学校も家も居心地の悪いシンジは晩飯はコンビニ、朝飯抜きというのがデフォルトだ。

「前を歩いてるのは艦長付き従員のメグミ一曹。他にサクラ二曹とテルミ一士が三交代で務めてる。三人とも気のいい子だから仲良くね」 「えと、でも……」 「務まるわよ、必要なことはインストールされてるし」 「いや、むりむりむり!」  

 そうこうしているうちにラッタルを上がり中甲板後尾の艦長室が見えてきた。何人かの乗員とすれ違って言葉を交わした気がするのだが、いや、思い違いかもしれない。
 

「ちゃんと敬礼を返して、機関科の乗員には指示をしていたわよ」 「え、そんな、なんにも覚えてへんし!?」 「インストールされたスキルのせいだけど、それだけじゃ務まらないわよ。さ、入るわよ」

 艦長室の前に立つと、田中航海長は一瞥でシンジの服装をチェックした。学食のカウンターに並ぶ生徒たちの様子を無意識に気に掛けるおばちゃんの気の良さが出てくるのだ。この鋭くも暖かいチェックで学食には通えているシンジなのだ。

「うん、入学直後の初々しさね。よし、いくよ」

「艦長、航海長と共に航海長をお連れしました」
 

 メグミ一曹が声を掛けると艦長室から「入れ」の応えがする。
 

「やる気満々でないところが素直でいいと思うよ」  

 自己紹介が終わっての小林艦長の言葉に嫌味は無い。学校でこう言われたら、その後に来る言葉に嫌気がさして俯いてしまうところだ。

「あの……どうしてオレが機関長なんですか?」

 シンジは一つの答えを予想していた。予想通りの答えだったら……腹は立たない、腹が立つほどのエネルギーは自分には無いと自覚している。あったら、さっさとケンカか対教師暴力で退学している。

 だったら聞かなければいいのだが、聞いて「やっぱりなあ……」と落ち込まなければ収まらないシンジだ。

「松本君の適性だよ。むろん艦のAIの推薦もあるが、最後はわたしの判断だ」

 ちょっと意外だった。  

 多分、家業が自動車修理でエンジンとかミッションとかの扱いに慣れているから……学校の先生は、いつもそれを言っていた。そこから進路先を演繹されて「松本には向いているから」と言われて、反発するように今の普通科に進学したのだ。

「松本君は自分が空っぽだと思っているだろ」

 その通りだ、十七年の人生で得たものはゴミみたいなことばかりだ。ゴミは入ってくるたびに捨てている。自分の中に意味のあるものなんか何もない。

「空っぽだから、これからいっぱい入るということだ。ほら」

 そう言うと、艦長はシャンパンのボトルを持ってグラス、いつのまにかランチの用意がされていて、艦長が注いでくれているのだ。並のグラスだったら溢れるような量が注がれても溢れない。肉薄のグラスは見かけの五割増くらいに入るように思われた。
「おっとと……」
 さすがに溢れた。
「ハハ、今のは悪い見本。松本君はゆっくり様子を見ながら注いでいけばいいさ」
 

 艦の速度がわずかに上がったような気がした。
 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲・ノラ バーチャルからの旅立ち・6

2019-04-26 15:45:13 | 戯曲
連載戯曲
ノラ バーチャルからの旅立ち・6 

  

※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最終回に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください。

時      百年後
所      関西州と名を改めた大阪

登場人物
好子     十七歳くらい
ロボット   うだつの上がらない青年風
まり子    好子の友人
所長     ロボットアーカイブスの女性所長
里香子    アナウンサー(元メモリアルタウンのディレクター)
チャコ    アシスタントディレクター

 
好子: もうロボットもアンドロイドも買わないよ。
ロボ: 無理スンナヨ。ボクヨリイイアンドロイド見ツケレバイイ。
好子: だって、もういやだ。こんなお別れ……。
ロボ: 人間ダッテイツカハ死ヌ。ロボットダッテ同ジ。
 人モロボットモ、オタガイタスケアイ、思イアッテ生キテイクンダ。
 ソノトキソノトキ、セイイッパイ生キテ、ソシテイツカ別レノ日ガヤッテクル。
 ソノ日マデ、ミンナ宇宙ニ一ツダケノ花デイレバイインダヨ。ソモソモ人生トイウノハ……。 
好子: ハハ、やっぱ、ダサイ。入学式の校長先生の話みたいだよ。
ロボ: 好子ンチハ、家族ミンナ寂シガリダカラ……気ハヤサシクテ、チカラモチノアンドロイドガ必要ダネ。ソウシナヨ。
好子: そうね。とびっきりカッコよくて、男っぷりのいいアンドロイドにするわ。
 鼻筋が通って、声は品のいいバリトン。休みの日には白馬に二人乗りして、湖のほとりを散歩すんの。
 そいで、宿題みんなやってくれて、お掃除、洗濯、お買い物、ぜーんぶしてくれて。アルバイトも行ってくれて、
 月に百万くらい稼いでくれる! そんなアンドロイドが……アンドロイドが……いいわけないじゃん! 
 人もアンドロイドも見せかけのカッコよさじゃないよ。
 たとえ短足で、ぶさいくでも、いっしょに暮らして、心が通いあってることが大切なんじゃない。
 そんなアンドロイド……ロボットは、ロボくん一人しかいないんだもん。
 わたしにも、お母さんにも、ロボくん一人しかいないんだもん……!
ロボ: 好子チャン……。
好子: なーんちゃってね。ね、けっこう感動的なクライマックスになったじゃん。
 あたし、演劇部に入ろうかなあ。
 それとも、そこらへんのオーディション受けまくって、アイドルにでもなっちゃおうかしら。
 正体不明の新人アイドル相保好子! 清純にして可憐。
 しかし、その瞳には世の男性をとりこにして止まない小悪魔のかがやきが! その底知れぬ彼女の本性やいかに!? 
 そのときは、ロボくん。きみがわたしの付き人になって、ファンからのヤマほどのプレゼント両手にかかえて……
 かかえてくれるあなたはもういないのよ……ロボくん……ハハハ、どうしてわたしは、こう情緒不安定なのよ……。

 ロボットアーカイブスの所長が、あらわれる。

所長: 昼間お電話のあった相保さんですね。
好子: は、はい。
所長: 登録IDを、お見せいただけますか。
好子: はい、これです(ポケットからIDカードを出し、所長にわたす)
所長: (IDカードを、コンソールにかける)シリアスナンバー183699……のアンドロイドの廃棄をご希望なんですね。
 (カードを受け取って、逃げるように所長の側を離れる好子)
好子: …………。
所長: お電話では、そううけたまわっておりますが。
ロボ: ハイ、廃棄デス。アチコチ寿命ガキテ、ポンコツナモンデスカラ。
好子: スクラップですか?
所長: しかたありませんね。ここまで旧式だと。
ロボ: ナルベクヤサシクオネガイ……シマス。
所長: いいわよ(好子に)よろしいですね。
好子: …………。
ロボ: 好子……。
好子: ロボくん……。
所長: では、ロボくんむこうへ。
ロボ: ハイ(所長に示された上手方向に歩き出す)
好子: ロボくん!

 好子、思わずロボに駆け寄ろうとする。所長の前を通ったとき、所長はコンソールを好子の首にあてる。
 「ピューン」と電子音をさせて、そのままの姿でフリーズ。進一、つまり今までのロボ、ゆっくり振り返る。
 その動きは人間のそれである。

進一:(いままでのロボ) 好子……。
所長: 終わりました。

 まり子、息を切らせてやってくる。 

まり子: 進ちゃん……。
進一: 終わったよ。

 進一、好子のまぶたを閉じてやる。

進一: 最後まで、自分を人間だと思って……ずっと、ずっと、ぼくを心配し続けてくれた。
 CPUの限界を超えて、胸を痛め続け、心配し続け、混乱して……。

 所長、コンソールのボタンを押す。好子は楽な姿勢になり、カバンを落とし機械的に前を向く。目も開くが、そこにはもう光はない。   

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・019『江ノ島・2』

2019-04-26 13:44:27 | 小説

魔法少女マヂカ・019  

『江ノ島・2語り手・友里 

 
 
 えと……あの……服着てもらえませんか。
 
「え、どうして?」
「だって、海水浴のシーズンじゃないし、いや、シーズンだって素っ裸って人はいませんから」
「江ノ島の弁天様って素っ裸って決まってるよ」
「え、いや、他の人の目がありますから……」
「時間が停まってるからいいじゃない」
「でも、いつ動き出すか分からないし、ひょっとしたら時間が停まっても見えてるかもしれないし……だいいち、波は打ち寄せてるから、ちゃんと時間が停まってるのかも」
「あ、そっか……」
 
 ポロローン
 
 弁天様が琵琶を一掻きすると、ゲーム画面がフリーズしたみたいに波が停まった。当然なんだろうけど波の音もカットオフしてしまい、磯臭さも消えてしまった。
「え……あ、あ……」
「臭いだって、いろんな微粒子が飛んでるのを吸い込んで感じるんだからね、停まってしまうと、微粒子を吸い込まなくなって、こうなっちゃう」
「えと……じゃ、波だけは」
 
 ポロローン
 
 
 潮騒が戻って、波も打ち寄せるようになった。
 しかし、切れていたスピーカが急に回復したみたいに、いきなりのカットインなので、たじろいでしまう。
「ハハ、やり直し」
 
 ポロロ~ン
 
 ドップ~ン!!!
 
 マックスの波音がカットインしてビックリしてしまった。
「ごめんごめん、波音の調整なんて、頼朝くんが北条政子を口説き落とす時にやって以来だったんでね……これくらいかな?」
 
 ポロ~ン
 
 今度は静かにフェードインしてきたので、やっと落ち着ける。
 弁天様のコスも、今どきのジーンズにカットソーに変わって、やっと心臓のドキドキも収まった。
 
「えと、弁天様が、なんのご用なんでしょうか?」
「目と鼻の先で落ち込まれてると気になるのよ、ほら、わたしのお堂の真ん前でしょ」
 弁天様が指差した先、海を隔てた江ノ島の中腹に江の島弁天の甍が見える。
「それに、友里ちゃんのご先祖も、ずっと信仰してくれてたしね。江戸時代にはけっこう寄進もしてくれたしね。カスタマーサポートって感じでもある」
 
 ポロ~ン
 
「そうなんですか」
「友里ちゃんは構えすぎで過敏すぎなのよ。もっと普通でいなきゃ」
「普通ですか……普通って難しいです」
「でもね、構えすぎてると、さっきの波の音みたいに失敗するよ」
「でも……」
「テンプレート設定をやってみよう」
「テンプレート?」
「うん、手伝ってあげるから、やってみ」
 
 ポロ~ン
 
 琵琶の一掻きで、目の前にツールバーが現れた。
 
 ピアノの鍵盤の十倍ほどのフェーダーがあって、その上のインジケーターが並のように揺れている。
 
「説明してると長くなるから、わたしが示すフェーダーを下げてごらん」
 
 弁天さんが指を動かすと、数十個のフェーダーが点滅し始めた。
 
「点滅が収まってグリーンに変わるところまでやってみ」
 
「は、はい」
 
 指示に従って操作する。五つほど調整の難しいものがあった。ストライクゾーンが極端に狭く。なかなかドンピシャにならない。
 つい、スマホかタブレットの要領になってしまい、指で画面を大きくしてしまう。すると、目盛りの間隔が広がって、うんと調整がしやすくなる。
 
「……こんなもんでいいですか?」 
 
「おっけおっけ。これで必要以上に構えたりはしなくなるから。それと……」
 
 弁天様は、違う画面を呼び出した。
 妹が事故に遭った東池袋の道路だ……わたしが歩いている。お母さんと妹を見つけて……逃げずに、そのまま歩いて行く。
 わたしの横を、車が追い越して、同時に子犬を追いかけて妹が飛び出す。
 
 危ない!
 
 わたしの声は間に合わずに妹は撥ねられてしまった。
 
「分かったかな、友里ちゃんが通りかかっても間に合わないのよ。友里ちゃんは自分で思うほど反射神経良くないからね。今のだって……ほら、妹の飛び出しに気づいて声をあげるまで二秒近くかかってる」
「そうなんだ……」
「たいていの人間はこうなるから、あまり気に病まないでね」
「は、はい」
「次は、家族の問題ね。ほら、あそこを見て」
 
    「龍連の鐘 時間」の画像検索結果
 
 弁天様が指差した砂浜には見覚えのある『龍連の鐘』が立っていた。金の前には南京錠を着ける鉄柵まで用意されている。
「あれって……」
 江ノ島の対岸にあるはずのないものにビックリして振り返ると、弁天様の姿は無かった。代わりに――YOUKAI――と苗字を彫り込んだ南京錠が落ちていた。
 
「ねえ、こっちおいでよ!」
 
 いつのまにか時間が動き出して、龍連の鐘のところに両親と妹、妹が千切れそうなくらいに手を振って、わたしを呼んでいる。
 
「あら、友里ちゃん、準備の良いこと!」
 
 お母さんは南京錠をわたしが用意したものと思って喜んだ。
 
「新名所かもな。ほら、恋人に限らず、全ての人の繋がりを豊かにしますと書いてある」
「ひょっとして、うちが一番乗りかもよ!」
 妹がピョンピョン跳んで喜ぶ。
 
「じゃ、さっそくやってみようか!」
 
 お母さんの提案で、鐘を鳴らして南京錠を掛けた。
 
 いつのまにか、はるか伊豆半島の向こうに夕日が没しようとしていた……。
 
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする