大橋むつおのブログ

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劇評『無音のレクイエム』大阪憲法ミュージカル2016

2016-06-04 10:15:16 | 評論
       劇評『無音のレクイエム』
   大阪憲法ミュージカル2016



 主催:大阪憲法ミュージカル プロディーユース:劇団到来 後援:大阪弁護士会 大阪府 大阪府教育委員会
 大阪春の演劇祭り参加作品 演出:鈴木健之亮 会場:大阪ビジネスパーク円形ホール 6月2日~5日


 ☆大成功のモブ芝居

  この芝居の主役はモブです。その他大勢、通行人、エキストラ、仕出し……いろんな言い方がありますが、80人にもなろうかという台詞のない人たちです。

 幕が上がると、数十人のモブたちが、三々五々昭和15年の千日前を行きかいしているところです。

 親子連れ、女学生グループ、女給さん、易者さん、劇場や活動の人たち、春団治と女、春団治のかみさん、リヤカーのおっさん、非番の兵隊さん などなど……。

 その人たちが実に生きています。

 年齢や職業立場に見合った速度で歩いていて、それぞれに目的と興味を持っています。そして、テンポと圧がなんとも大阪なのです。
 大阪の人間は全国で一番歩くのが速く、賑やかです。
 モブなので声量は押えられているのですが、みんな程よいテンションでキョロキョロし、連れの有るモブはペチャクチャ会話をしています。
 東京や地方に行くと実感するのですが、大阪の繁華街はキョロキョロとペチャクチャが一杯です。それが、この芝居では幕開きから活き活きと活写されています。
 宮崎アニメでは、背景になるガヤにも台本があり、そのためにガヤが活き活きしていることに定評があります。同じ……いや、それ以上のことが、この舞台では行われていました。
 演出の鈴木君の腕の確かさもうかがえますが、モブの人たちが、この公演を楽しみ、演出意図を自分たちの感性にまで昇華しているのが分かりました。

 ☆モブの中から浮き出てくる主人公たち

 芝居の中心になるキャラたちは、最初はモブの中に居ます。
 弁士志望の青年、千日前の食堂の娘、常盤座文芸部の青年、モブの中からチラチラと台詞のある役として立ち上がっては、すぐにモブの中に溶け込んでいきます。それが繰り返されるうちに時代は進んでいきます。

 弁士志望の青年は千日前の雑踏の中で存在が明らかになっていきます。思わず白雪姫の一節を弁じ、モブたちの関心を集める。そして常盤座の人たちとの交流、弁士見習いになり、食堂の娘と育む恋、弁士としての初舞台、文芸部の青年との交流、そして戦争、召集され戦地に向かう、戦地での文芸部青年との再会、復員後の食堂の娘との奇跡的な再会という大団円。

 そのドラマが、全てモブたちの日常の中に現れてきます。

 映画館の中のモブたちは秀逸でした。スクリーンに映る映像にキチンと反応しています。年齢や性別性格によって反応はまちまちですが、全体としてはむき出しに反応する戦前の大阪人の圧が良く出ています。弁士志望の青年が初舞台を踏むときの圧が、そのまま舞台のモブたちが表現してくれているので、面白くも素直に共感できました。
 これらの表現は『三丁目の夕日』で、鈴木オートに初めてテレビがきて、町内のみんなで力道山のプロレスに熱狂したシーンに匹敵します。

 ☆あえて苦言を

 モブ芝居というか群集劇として大成功しているので、それ以上は余計なことなのですが。
 主役たちのドラマが希薄です。
 主人公と彼女との出会い、育まれる恋、そして別れと再会。これがドラマとして希薄です。特に主人公が復員して、北陸に戻っていた彼女と再会するところは簡単すぎて、観客の感情や共感がついていきません。オッサン役のモブが「これで終演です」と言っておしまいになるのは、マンボウの尻尾のように唐突です。

 空気としては十分に大阪の雰囲気は出ているのですが、ドラマの部分、そこにもう一歩大阪らしさが欲しいと思いました。

 検閲で、常盤座の台本が全て不許可になり、みんな愁嘆するところがあります。
 ただ嘆くのではなく、検閲の網をあの手この手で潜り抜けてきた事実があるのではないかと思います。当時、吉本の芸人さんたちが中心になって『わらわし隊』という慰問団を結成して実績を挙げた事実があります。隙間を縫うように工夫された大阪の笑いがありました。
 徴兵でとられた大阪のニイチャンたち。配属された部隊の隊長が、なんと幼なじみ。で、戦闘中にテンパり、軍刀を閃かせ「突撃!」と叫んだときに「アホ、いま突っ込んだら死んでまう!」「思いとどまれ、おっちゃんおばちゃんらが悲しむ!」と壕の中に引きずり戻した。そういうマンガみたいなこともありました。
 地方の部隊が進駐して現地の中国人たちと軋轢がおこりますが、大阪の第八連隊が入れ替わると上手くいったこと、
 八連隊は「またも負けたか八連隊、それでは勲章九連隊」と手毬唄に織り込まれたように、日本一弱いとされた部隊ですが軍政には定評がありました。
 大阪大空襲のときは事前に東京の参謀本部から第四師団に情報が伝えられていました。
「大阪市民に警報を出したい」
 師団長以下の幹部は決心しますが「機密情報である」という大本営に押し切られ市民の犠牲が大きくなりました。このとき、師団の幹部と東京から来た高級軍人との間に軋轢があったことは、当時の師団司令部勤務の兵隊たちには知られていたことでした。

 国防婦人会が憎まれ役で出てきますが。

 国防婦人会というのは、それまで夫の階級に寄って序列が決まっていた夫人組織を、大阪のオバチャンたちのアイデアで、かっぽう着さえ着ていれば、みんな平等な組織にしたものです。
 そういう大阪らしさ、たくましさ、元来戦争を好まない気風などが描かれていればと思いました。

 もう一つ例を。

 週番将校は、就寝前に営内放送で軍人勅諭を諳んじることが、全国の陸軍部隊で行われていました。
 地方の部隊で、読み間違えた将校がいました。彼は、その日のうちに自決してしまいました。
 作家の司馬遼太郎さんは軍隊時代、週番になったとき、よく読み間違いしていました。でも、自決もせず、特段のお咎めもなく「福田(司馬さんの本名)はしゃーないやっちゃ」で済んでいました。

 この芝居はよくできていますが、このまま設定を東京にしても他の地方にしても通用してしまいます。

 今少し大阪らしさ、気質、気風というものが出てくればと思いました。
 そして、時代は、そんな大阪らしさも踏み倒し踏みにじって進んでいったというスゴミが出ればと思いました。
ジャンル:
小説
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1 コメント

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Unknown (Akiko Oguchi)
2016-06-16 10:09:56
素人なんで、モブ芝居なんて語句も知らなかったけど、褒めてもろてんの、ウチらやん!と、めっちゃ嬉しくなりました。通行人が要るって言われた時、千日前をウロついてるジモッティの少し与太ったオッちゃんのつもりになって遊んでました。ふううむ……あれでよかったんや、と、またまた自己満足に浸ってます。おおきに!
苦言の部分はウチらの関与するところではないのでスルーしときます。☺️

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