大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『大橋むつお:ノラ バーチャルからの旅立ち』

2017-01-27 06:04:11 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『大橋むつお:ノラ バーチャルからの旅立ち』



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

 これは悪友の映画評論家・滝川浩一が身内に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。


なんか、ほのぼのと胸の中から暖かくなる作品達やね、一気に読み切ったよ。

俺はノラが一番好きやね。好みのSF設定だし、落ちが二重になってるし。 WOWOWで「イヴの時間」のアニメやってました。テレビ放送があって(? 知らんけどね)それの劇場版らしい。
 タイトルと同じ名前の喫茶店があって、アンドロイドが普通に存在する未来、その喫茶店では人間とロボットを区別しない、それがルールですと、わざわざ入り口はいった所のボードに書いてある。
 ちょっと別な事をしながら見ていたから……でも、ノラを読んでから、何か気に成ってきた。もっかい見るわ。   ちょうど旧タイプが破棄されるタイミングで記憶回路が初期化されても、ノイズ入りで在るかなきかの記憶にすがっているロボットが悲しい……そこだけ、妙に覚えてます。他に、恋人が死んで引きこもった女の子の所に、その恋人ソックリに偽装されたロボがやってくるってのもあったなぁ。何? こういった設定が流行ってたんかい? 俺、最近 深夜帯のアニメを全く見てないから解んねーでんす。

 クララは、やり方によっては、立派に不条理劇になるよね。そのバヤイ、ちょっとしたホラーテイストがまざるとええんやない? ただ、そうすると、始めのチャット部分に弱い所があるかな。ハイジが来てからラストまでが短いから、チャット部分で匂わせるか、それでラストにドンってひっくり返す。まぁ、大橋さんはそんなつもりで書いてないから、俺の勝手な読み込みやけどね。でもな、これでクララはほんまに一歩踏み出せるんかな。ちょっと書き足りないんじゃない? 結論は観客に預けるにしても、問題点をも少しはっきり見えるようにしたほうがええような…… 。

 星に願いを……も、可愛いね。ただ、志穂がトコとトシ君の関係を知らなかったって所が……ムムゥなんだよな、王子の存在もファンタジーと現実の間に浮いたまんまに成ってるように思えるし。この距離感は嫌いやないけどね。

 すみれの~は懐かしいねぇ、高演の芝居を思い出すなぁ……あれが優勝じゃないなんて、いかん!怒ってたのを思い出したよ。この本が埋もれちゃうなんて(いや、これだけがそうなるってんじゃなく。今は本の回転が早いからなぁ)もったいなさすぎやね。誰か推薦図書とかにしてくれへんのかなぁ。 とにかく、書き続けてね、継続は力だよ。 ネット小説もええけどさ、脚本も続けようぜ。 高校生向けだけじゃなく大人向けにも書いてみようよ。

 大橋むつおは埋もれたらあかんでぇ。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『池井戸潤:銀翼のイカロス』

2017-01-26 06:23:32 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『池井戸潤:銀翼のイカロス』




昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

 これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している読書感想ですが、おったいないので転載したものです。



北方版「水滸伝」「楊令伝」「岳飛伝」……漸く、頭からの読み返しが終わり、久方ぶりの新刊です。

「ロスジェネの逆襲」に続く“半沢直樹”シリーズ第四弾。半沢は本店に戻り、営業第二部次長に返り咲いています。
 前回の活躍からすると、平取部長……最低でも、と 思わんでもないんですが、この人 周りの迷惑考えずに喧嘩三昧ですからねぇ、敵を作り過ぎて、合併銀行内融和を図る中野渡頭取としては、あまり優遇人事が出来ないんでしょうね。これが生産現業なんかだと、一発で15人抜き出世しますな。
 半沢君、どんどん扱い金額がデカくなり、今回は500億の債権絡み、とうとう政治家も絡んできます。モデルに成っているのは「日航倒産」と「民主党の政権奪取」……いずれも日本を揺るがした大問題ではありますが、割と軽いタッチで仕上げてあります。半沢の行動原理は、ただただ“まっすぐ”ですから、普通は考えにくい選択を重ねて行きます。
 通常、本作のような“政策判断”に絡むマターはもっと複雑怪奇で、「快刀乱麻を斬る」なんて事をやっちまうと、後の混乱の方が深刻になります。 まぁ、民主党政権下では、「ありえね~!」と叫びたくなるような醜態が繰り返され、果ては こちらも呆れて笑うしかなくなりましたから……案外このストーリーもリアルなのかもしれませんがね。
 半沢が窮地に立たされ、そこから如何に反撃するかのシテュエーションを楽しむ作品ですから、ストーリーには一切ふれませんが、正直、反撃の方法に新し味が無いですね。金融現場では、これしか無いでしょうし、あんまり珍奇な事をされると、それこそリアルが滑り落ちるでしょう。とはいえ、少々先読み出来てしまいます。 その分、中野渡頭取の苦悩と決断を盛り込んで、これまで「謎の人」であった頭取の正体を開かしたりしています。

 評価としては、一級の金融小説ですが、第一作「俺たちバブル入行組」を超えられないように思います。

 真山仁の「ハゲタカ」程にぶっ飛んだ設定にも出来ないでしょうから、作者としても辛いでしょうねぇ。 本作は、明らかにテレビの2ndシーズン用に急がされた経緯もあると思います。日本ってのはまだまだ貧しいんでしょうね、熟成より消費優先です。決して つまらない訳じゃないんですが、段々軽く成っていると感じるのは私だけじゃないと思います。

 半沢はこの辺にして「水滸伝」を読み終えて(直訳本も含めると、通算15~6回読み返してますか?)毎回思うんですが、アタシャ梁山泊頭領/及時雨・宋江っちゅうオッサンに全く魅力を感じません。
 同じく「項羽と劉邦」の劉邦や「三国志」の劉備なんかも全くあきません。なんでこんなオッサンを担ぎ上げて、名だたる英傑達が従うのか理解不能。北方謙三にせよ、司馬遼太郎にしても、このオッサン達を魅力的な人物に描こうとしていますが……どうもあきません。
 元々の中国原典が問答無用で「この人が親分なんだ」っちゅう書き方で、ある種の「中国人の理想」なんかなぁとも思うんですが、なぁんか納得行かない。三国志をよんでいても、つい呂布に肩入れしたくなります(最強戦士だが、あまりにも馬鹿)、だから、並み居る英傑達が純粋で一本気な所に、何やらウダウダと口先だけのオッサンはウザイのであります。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『岳飛伝九』

2017-01-25 06:17:13 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
 『岳飛伝九』



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


 これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している読書感想ですが、もったいないので転載したものです。


久方振りの新刊です。ずっとスティーブン・ハンターの旧作を読んでいました。

「真夜中のデッド・リミット」に掛かったところで、これで手持ちのハンター作品は終了です。
 今回、読み返してみて、よ~く解ったのが「真夜中~」と「さらば、カタロニア戦線」の二作以外は、極一部にせよ、全部“スワガーサーガ”に繋がっているという事です。
 日本でのスティーブン・ハンター作品の翻訳出版は、出版社が三社にまたがり、また、出版順がバラバラだった為、その有機的繋がりが分かりにくかった訳です。
 今、改めて作品世界が見えています。これまでも部分的に読み返す事はあったのですが、「極大射程」から順を追って全部読んだのは初めて、やって良かったです。銃器がサブの主人公ですから、そちらに興味の無い方には苦痛になると思うので、万人にお薦め出来ないのが本間に惜しい。

 さて「岳飛伝」です。

 南宋と梁山泊は海上でとうとう開戦、呼応している訳ではないが、金とも開戦となり、ウジュ対呼延凌の間で火蓋が斬られる。南方では、秦容と岳飛に対して大里に侵攻した南宋軍が牙を剥き始める。
 ここ2巻、眠ったような展開だったのが、一気に動き始めています。
 経済戦も、ここ2巻に張られていた伏線が明らかになっている。「水滸伝」はこうじゃなくっちゃ面白く無い。   まぁ、小説ですから、沙門島が落とされて孫二娘が死んだりします(これでオリジナルメンバーの生き残りは8人)が、やむなしですね。彼女がここで死ぬ意味が分かりません。北方御大の価値観に“?”マーク一つです。
 物語的には岳飛が梁山泊にまた一歩近寄り、蒋ケン材も梁山泊に助けられる。これで間盛忠が梁山泊に取り込まれたら(無い話ではない)ある種の形が出来上がる。
 なんせ秦カイが、アホの官僚剥き出しになってきたし、ダラン(金の丞相)が死んで、金の宮中も大混乱。ウジュが軍事クーデターを起こして収拾しようとする。いずれにしても、後、ン十年で蒙古に飲み込まれるとも知らず、みんな懸命の権謀術数、読んでいて泣けて来ます。
 さて、ほんまに北方文豪……この先、モンゴルをどう絡めるつもりなのでしょうねぇ。
 また、楊令の遺児・胡斗児は、このまま、ウジュの子として生涯を終えるのか(な訳ゃぁ無え) 風雲急を告げる岳飛伝、次巻は一体いかなる仕儀となりますやら。いや、ほんまにやめられまへんなぁ。
 北方御大、物語途中でご病気など召されませんよう……楽しみに待っとりますでございます。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評・小太郎の左腕/逆説の日本史他2編

2017-01-24 06:38:32 | 映画評
タキさんの押しつけ書評
小太郎の左腕/逆説の日本史他2編



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは、悪友の映画評論家・滝川浩一の書評です。


小太郎の左腕

「のぼうの城」和田竜の三作目です。今回は全く架空の国を舞台にした戦国物語ですが、相変わらず読みながら画がまざまざと浮かぶ筆力は健在です。
 ただ、少しずつスケールが小さくなって行ってるのが少々気がかりです。この人、本来が脚本家ですから、あんまり小説に時間が裂けないのかも……。
 ある国の山中に鉄砲狩人の村があった。戦国のご多分に漏れず、この国も隣国との間に紛争が有った。この紛争に鉄砲狩人の孫が関わって行く。この孫、少々足りないのか 虐められてもニコニコ笑うばかり、同年代の子供達はそれなりに鉄砲を操るが、件の孫は全く下手。ところが、ある 特殊な銃を与えると、本領発揮 神手の狙撃手となる。
 この男の子の正体と、生来 底抜けに優しいこの子供が如何にして人を撃ち抜く狙撃手となるのか? それが主軸で、そこに他の人々の愛憎がからまる。鉄砲フリークの私といたしましては、いかに神の手を持つ狙撃手とはいえ、先込め火縄銃の射程圏が余りに大きいのには興醒め。いかに優れた砲手がいても、所詮 青銅の大砲とアームストロング砲じゃ勝負にならなかったのと(幕末の馬関戦争……長州vs英仏蘭米連合艦隊)同じ。まぁ、戦国ファンタジーだと思えば(ちゅかファンタジーだし)ええんですが、当時の事情やら雰囲気やら やたらリアルなんで、少々バランスがおかしかったです。

“逆説の日本史”

 週刊ポスト連載中のシリーズもとうとう幕末までやって来ました。この本も年一冊しか出ないんで見落としがち……ひょっとしたら去年の買ってないかも? 本巻はその幕末、長州が京都から追われ、益々尖鋭化する中、外国船に喧嘩売ってケチョンケチョンにやられるまでの2年間だけを解説しています。
 恐らく、日本人の行動原理・哲学・目指すべき未来像などが、坩堝に巻き込まれたごとくに千変万化した2年間……これを事細かに解説してあります。
 幕末維新史に関心の在る方必読! 史料主義学者に対する毒舌も健在なり(とはいえ、これはもうやめた方がええと思うんですが……) “

蘇るスナイパー
 スティーブン・ハンターの旧作を漸く全部読み返して、いよいよ未読の部分に突入いたしました。今作はボブ・リー(BL)・スワガーのベトナムにおける先輩であり、No.1スナイパーを名乗っていた男が、突如4人の男女を狙撃し、自らそのライフルで自殺する。
 事件は明白な結末を迎えるが、FBIニック・メンフィスに協力要請されていたBLには違和感が有った……って所から始まるのでありますが、始めの方に何やら強引な展開があって、“????”な違和感が有りました。違和感はこの後も続き、二冊目の前段まで少々イライラするのですが、BLが絶対絶命の危地を脱する辺りから俄然面白く……と言うより“腑に落ち”はじめます。そうなってくると「BLならこうするだろう」という予測もつきだして……まぁ、こういう読者の先読みを封じる工夫なんでしょうね、マンネリにしないための努力です。
 ラストは大サービスシーンになっとりましてカタルシス満開です。解説がいつもの関口氏じゃなかったのが残念。BLサーガフリークのお兄さんが書いてますが、くいたりまへんです。

星間商事社史編纂室  

 三浦しをんの新作です。題名からして“舟を編む”的な作品かと思いきや……まぁ、詳しく書くのは止めときますが、ハッキリ言ってお勧めしません。ある種の読者には受け入れられるかもしれませんが、私はダメでした。 編纂室に腐女子がいました……的お話でありますが、肝心の社史に関するストーリーがあまりにもヤッツケ仕事です。くすりとも笑えませんでした。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評『犬の力』

2017-01-23 06:13:11 | 映画評
タキさんの押しつけ書評
『犬の力』



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

 これは、映画評論家・滝川浩一の書評を転載したものです。


えっ?そんな映画があるのか?

 と思われた皆様、ハァイ! 正解です、“犬の力”という映画はありません。
 これはドン・ウィンズロウの小説です。 絶対読め! と友人がわざわざ持ってきてくれました(角川文庫) 内容はDEA(麻薬取締局)局員のアート・ケラーとメキシコの麻薬カルテル/バレーラ・パサドール(一統)との30年に渡る まさに血を血で洗う抗争の物語。

“犬の力”とは何を指すのか……旧約聖書/詩篇22章:窮地からの解放を神に祈る言葉の中に「剣」と共に、民を苦しめる“悪の象徴”を表す言葉として書かれています。
 虚構の中にCIAのコントラ支援(ちゅうかアメリカ政府やけどね)なんかの事実が絡められ、さながら70年台からの30年に渡るアメリカ/メキシコの裏面史を読む趣です。
 DEAのアートはメキシコからやってくる麻薬を止めようとやっきに成っているが、メキシコ官憲はやる気無し、どころか麻薬シンジケートに買収されて 信頼できる者はほんの一握り。DEAも、どこか腰が引けている。
 アートはあくまでも法に則って対処しようとするが全く歯が立たず絶望する。様々な難事が降りかかり、また、コロンビア解放戦線やら武器密売に中国軍が絡み、アートの中で何かが瓦解する。
 表面は法の執行官だが、徐々に「悪に対抗出来るのは、さらに強力な悪だ」と確信していく。“俺の中に犬の力を感じる”と……ラストは良くできたサスペンスになっていますが、カタルシスは無い。極めて後味の悪い幕切れとなっている……まぁ、現実です。
 全編からウィンズロウの怒りの叫びが聞こえて来る。

さて、長い前置きでしたが、映画評になんで書評かっちゅうと、本作がアメリカのクライム(ノアールでも良いが)映画を理解する上で道案内をしてくれるからです。
 昨年のコーマック・マッカーシー脚本の「悪の法則」を見る前に本作を読んでおけば、マッカーシーが行間に埋めていたサイドストーリーが全て見えてきます。 数年前、東野圭吾「白夜行」のテレビドラマ化に際して、小説に書かれていない事件の裏工作を総て描いて見せました。小説とドラマの相乗効果の最良の例でしたが、まさにこれと同じ効果が出ています。コーマック・マッカーシーは「総てが悪意なんだ」「具体的力を持たぬ者は悪に関わってはならない」と描いて見せましたが、ウィンズロウは悪に対するに いかに力を得るかに言及しています。
 アメリカが「法治国家の皮を被った自警国家」だと繰り返し書いてきましたが、まさに人が「我が身は我が守る」という結論にいかにして導かれるかが延々と描かれています。そして、力には必ず、さらに大きな力を持つものが存在し、その高みに至らないなら結局 良くても失敗、悪くすれば破滅してしまう。絶対的真実。
 ノアール作品ばかりではありません。バットマンにせよ、スパイダーマンにせよ、「自警」と言う意味では一緒です。 殊に、クリストファー・ノーランがリブートしたバットマン/スーパーマンに顕著に見てとれます。 バットマンの物語の中では善悪の境界が常に揺らいでいますし、リブート3部作は悪対悪の構造になっている部分が大きな割合を持っています。 ヒーロー物語だと、最後に大ドンデン返しトリックで全部チャラにしてしまう訳ですが、これがリアルクライムだとそうは行きません。 出した結果は、総てキャラクターが担がねばなりません。
 本作ラストがサスペンススリラーに有りがちな展開になっており、もしかしたら何もかも綺麗に収まるか……と一瞬思いましたが、そんな訳ゃぁありませんでした。 なんとも重苦しい幕切れを迎えます。これがアメリカの真の姿だとまでは言いませんが、かなり正解に捉えられているとは言えます。読み切るのに結構体力が必要ですが、一読後には自由の国・アメリカ(今時こんな呼び方しませんか?逆に言えば自由の国だからこその捻れです)の別の顔が見えてきます。
 物事を鳥瞰するとか相対化して見るのとは意味が違います。こんな小理屈は別にしても、極めて重層的に組み上げられた物語。 裏切り、罠、怒り、謀略、暴力、権力抗争、出会い、別れ、…死、死、死、死……実に様々な要素が精緻に組み上げられており、だからこそ虚構と知りながらも現実を見せつけられている気分にはまり込みます。

 これをこのまま映画にしてほしいもんですが、半端な作品になるでしょうね。 それじゃ意味がないんで、まぁ 本で楽しむしかないでしょう。「楽しむ」って言葉がまず違うと言われそうではありますが。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評・隆慶一郎“一夢庵風流記”

2017-01-22 06:18:10 | 映画評
タキさんの押しつけ書評
隆慶一郎“一夢庵風流記”




昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。


新感線の五右衛門を見て、隆さんが読みたくなりました。

 本作は原哲っちゃんの“花の慶次”の原作であります。 一代の傾希者(すきもの)前田慶次郎を主人公にした伝奇物語、何遍読んでも 読み出したら止まりません。
 前田慶次郎っても殆どの方には馴染みがないかもしれませんが、もとの出自は滝川一益の一党、それが前田利家の兄の養子となり、本来なら前田家の家督相続人だったが、主君信長の指図で前田家家督は弟の利家に譲られた為、養父利久の死を持って前田家とは縁が切れる。まるで戦う為に生まれたような人で、数少ない記録からだけでも、その剛勇、想像にかたくない。
 以前、NHKの大河で及川ミッチーが演じとりましたが、全くのイメージギャップ、なんで? と思ったもんです。
 前田慶次郎は記録や残存する旅日記からみて、単なる野卑な武人ではなく、深く広い教養人であった事も間違いありません。

 “カブク”=“反権威”ですから相当の覚悟と腕前がなければかぶけるものではありません。織田信長にせよ秀吉にせよ一代の傾希者であった事は違いありませんが、その事よりも“天下人”としての評価が先に来て、その視点から見られる為、自由な一個の人間としての評価は二の次になります。その点 慶次郎は浪人を貫いた(最後は米沢藩上杉家の御家人になりますが)ので、個人としての生き様はさらに鮮烈に浮かび上がってきます。
 四代以降の徳川の時代、戦が無くなり、それでも中央集権/幕府の権威を保つ為、無理矢理持ち込んだ儒教による「主、主たらざれども 臣、臣たるべし」なんてな雁字搦めの存在ではなく(…こんな時代には“カブク”なんてな不可能)武士がもっと自由だった時代に生きた傑物のお話。
 恐らく日本人が世界最強の戦人だった時代(世界中の鉄砲の半数近くが日本に有ったと言われています) “唐入り”が秀吉の妄想(と決めつけるのは酷かもしれませんが)ではなく、信長が生きていたなら、もっと違う展開やったんでしょうね。少なくとも制海権を奪われるような無様は無かった筈です。  
 まぁ 繰り言です。武士がまだまだ自由であった時代においても、さらに突き抜けた存在だった男の物語です。“秩序”ってのは有り難いもんで、ルールに従っていさえすれば身の安全は一応保証されるんですが……そんな世界に息苦しさを覚える魂も……特別な存在じゃなく、誰の中にも少しはあると思います。そんな憂さを払ってくれるお話です。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評『“第三の銃弾”以降』

2017-01-21 06:36:15 | 映画評
タキさんの押しつけ書評
『“第三の銃弾”以降』



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。


本来、スティーブン・ハンターの未読本が6冊もある事が判ったので、早速それらを読みたい所ですが、それ以上に“第三の銃弾”に関わるボブ・リー・スワガー主人公の過去作を読み返す事に気持ちが引っ張られました。

“極大射程”“狩りのとき”“ブラックライト”と読み返しました。後、“ブラックライト”と直接関わる“ダーティーホワイトボーイ”に明日からかかるつもりです。
 前にも書きましたが、スティーブン・ハンターの小説の登場人物群の中で一番異彩を放つのは銃と銃弾です。ハンターに関して こんな論評が有ります 「ハンターはトム・クランシーが原子力潜水艦を使ってやった事(レッドオクトーバーを追え)を、ライフルを使って表現した」……う~ん、言い得て妙であります。ただ、忘れてはならないのが ハンターは銃を前面に置きながらも、そこに“人間”が屹立している姿をはっきり書き記していると言うことです。
 しかも、作中でボブがこだわり続け、会話するのは……既に死んでいる父/アール・スワガーであり、ベトナムでスボッターを勤め、除隊を目前に倒れたダニー・フェン(しかもボブの妻はダニーの元妻)です。
 もう何十年も前に死んだ人々の死の真相に迫って行く、それは在るか無きかの……しかし、注意深く見れば明白な過去の事実を丁寧にたどる旅であり、現代のオデュッセウス ある種の冥界巡りとも言えるでしょう。
 この物語の中で人間も、さらに自身を取り巻く環境も大きく変化していくが、武器の本質は変わらない。ハンターは乾いた無機物に過ぎない武器が、それを手にする人間の心の有り様によって千変万化する様を追う事で人間心理の奥深くに切り込んで行く。一時期、大藪春彦にはまって 恐らく全著作を読んでいるが、ハンターを知った後では正直色褪せる。なんぞと書いてしまうと、あの世の大藪さんに狙撃されそうではあるが、やはり人物の厚みが違う。
 得意の銃にしても解説の深さが違う……これは酷ってもんですねぇ、所詮 日本にいたんじゃ解らない事の方が多いですからね。私の武器への興味、なかんずく銃に対するこだわりは大藪作品を通して培われていますから、悪口はいけませんや。
 ハンターの描く“スワガーサーガ”には通底する哲学が有ります、世界観と言い換えても良いのですが、評論家の関口さんが的確に書いています。「ヘラクレイトスは“戦争は万物の父である”と説き、ホッブズは これを人間行動に当てはめて“自然状態においては万人は相互に敵同士である”と結論。サルトルは更に進めて“二人の人間があいまみえるとき、必然的に戦闘状態が生じる。そこでは互いに相手の主体性を奪い取ろうとする。地獄、それは他人である。”と断じた。 これを世界の状況に俯瞰するには政治・経済的レトリックを重ねてみればよい。共産圏においては弁証法的唯物論/階級闘争であり、資本主義においては競争神話/個々人の私利追求の総和がいつの間にか公益になると言う幻想である。
 サーガの登場人物群は、まさにこの原則上に生きていて、この時間軸上で古いアメリカ人と新しいアメリカ人が対峙する。 この新旧の対話の中で、新しいアメリカ人は自分が何者であるかを考え、古いアメリカ人は自らのアイデンティティを示す。

 読者は読み進めて行くうちに自身のアイデンティティあるいはレーゾンデートルに思い至る。単なるアクションサスペンスでは有り得ない。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評『スティーブン・ハンター“第三の銃弾”』

2017-01-20 06:27:13 | 映画評
・タキさんの押しつけ書評
『スティーブン・ハンター“第三の銃弾”』




昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。



ハンターの“スワガー・サーガ”最新刊にして最上級ミステリーです。

 スティーブン・ハンターはアメリカ地方紙の映画評論をスタートにガンアクションスリラーの書き手として、頂点に君臨しています。代表作“極大射程”はマーク・ウォールバーグ主演で映画化(面白かったけど原作に比べると数段落ちる)されています。
 当初は大規模軍事作戦物を書いていましたが、ベトナムでの天才スナイパー(狙撃手)ボブ・リー・スワガーを主人公とするシリーズで一気にこのジャンルのトップに躍り出ました。シリーズはボブの父親アール・スワガー、ボブの息子クルーズを主人公とするものもあり、親子三代の“スワガー・サーガ”になっています。
 ハンターには独特の語り口があり、かつ 銃に関する膨大な知識が解説され、またそれがストーリーの重要部分になりますから、銃に関心のない方には少々辛いかもしれません。

 しかし、本書は一読に値すると確信します。

 本書“第三の銃弾”とは1963年テキサス州ダラスにおいてJFケネディの頭蓋を砕いた三発目の弾の事です。
 JFK暗殺はテレビの初衛星中継の日に偶然合致、中継を見る為に多数の日本人がテレビの前に座っていた所に いきなりニュースとして流れました。 私は10歳でしたが 当時受けたショックは今でもはっきり覚えています。犯人は2時間後に捕まったリー・ハーベイ・オズワルド(以下LHO)。彼は共産主義者であり、一時期ソ連邦に亡命していた経歴があり ソ連情報局の暗躍が疑われましたが、翌日 移送されるLHOをジャック・ルビーというストリップクラブ経営者が射殺した為、暗殺の背景は解らなくなりました。 その後、アメリカは“ウォーレン委員会”を組織して事件の徹底究明を目指しましたが、発表された報告書(総てが公開された訳ではない)は不備な点が多々あり非難にさらされました。
 改訂版が確か3~4回出され、その都度 報告書は厚みを増しましたが、内容的には初版と大差ありませんでした。ずっと批判されているのは

①LHOの単独犯だと決めつけている
②銃・弾薬の分析に当たった人物が適任ではない
③事件の背後に対する考察が薄い…との3点がもっとも多いようです。

① LHOは元海兵隊狙撃手ではあるが、腕前は一級狙撃手(二級とする説もある)であって“特級”ではない。そのような程度の人間に かくも見事な狙撃が出来るのか? 観衆の証言によると、少なくとも三方向からの銃撃音が報告されている(但、当時のダラス/エルムストリートは地形/ビル・道路の位置から反響し易い条件下にあり、ダラス教科書倉庫からの銃撃音が反響したと考えるのが常識的) 反響を考慮するにせよ、教科書倉庫と隣り合ったビルからの狙撃も考えられるのではないか。② LHOが狙撃に使用したライフルは“カルカノ”という第二次大戦中イタリア軍の正式銃であるが、63年当時ですら欠陥品とされていた。しかも、LHOのキャリアは銃についている照門/照星を使ってのものであり、スコーブ使用によるキャリアはない(ソ連亡命中のキャリアも判明している) 押収されたカルカノにはスコーブが装着されていたが、至極安物であり(日本製) 4本のボルトで固定すべきなのに ボルトは2本しか締まっていなかった。 三発の銃撃があったが、命中したのは二撃・三撃目の二発。一発目はパレードカーの左後方の縁石に当たって数個に割れ 跳弾となって車のフロントグラスにぶつかり運転手の足元から発見された。二発目はJFKの背中から射入、骨を避けて首、胸、腰を傷つけた後 身体から飛び出して前席のシート越しに知事を襲い、病院で知事の服から発見された。(一発の弾が このような複雑な動きをするものか疑問視されたが、現在証明されている)

 問題の三発目、これはJFKの左耳横から右に向けて入り、彼の後頭頭蓋を脳漿と共に後方に吹き飛ばした。しかし、この弾丸は発見されていない。運転席から発見された破片がそれではないかと言われたが、如何なる人体の形跡も付着していなかった。
 このため、教科書倉庫からの(後方からの)銃撃ではなく、前方あるいは横からの第二第三の別人による狙撃が疑われたが 何ら証拠形跡が見つからず、JFKの頭蓋中で跳ね回った後外に飛び出したか 頭蓋中で爆発して粉々になったものと推定された。
 しかし、これはどちらも有り得ない現象で、LHOが使用した銃弾は非力な弾丸であり 頭蓋を貫通したならその時点で脳内に残留するしかない。また、そんなエネルギーがあるなら、第二射命中弾はJFKの骨を避けずある程度真っ直ぐに入って突き抜ける。 また、使用された弾丸は鉛の上に銅でコウティングされた徹甲弾であり、徹甲弾はパンクション(見かけ爆発…炸薬によらず、みずからのエネルギーで崩壊爆発する)を起こさない。
 これらの指摘は63年当時も常識的意見であったが、何故かウォーレン報告書には明確な説明がなされていない。③ JFKのダラス訪問は比較的急遽決定され、さらにパレードルートは2日前まで解らなかった。それをこのようにして用意待ち伏せできたのには相応の巨大なバックの思惑が動いたと考えるのが妥当だが、報告書は深くは突っ込んでいない。じつは この部分の調査報告が一番伏せられており、総て公開されたなら黒幕が現れると言われているが 現在は五里霧中である。

 このような経過から、すでに50年の時を経ながら未だに関係書籍の花盛りであり、中には単なる妄想の域を出ないものもある。
 しかし、LHOを殺したルビーも殺されており、その後15年程の間に暗殺捜査に関わった人間 または何らかの形で調査・陳述した人々の内30数名が自然死以外の死を遂げており、この事件の闇を更にひろげている。
さあて、本書はJFK暗殺時点ではまだ少年であったボブ・スワガーが、ちょうど30年後に狙撃事件に巻き込まれる(極大射程) 彼は雁字搦めの罠を噛み破り、途中から無理矢理見方につけたFBI捜査官ニック・メンフィスと共に逆襲に出る。最後に残った罠も仰天の機転(周到な準備というべきか)でひっくり返す。このラストのトリックは これ以降の多くの作品に影響を与えている。 それから20年、ボブの元にある女性から調査依頼が舞い込む。JFK暗殺にもしかしたら絡むかもしれないと思われたが、ボブをつき動かしたのは提示された証拠のコートに付着した小さなタイヤ痕だった。それは50年前の事件に留まらず、ボブ自身に降りかかった20年前の事件の亡霊をも呼び覚ました。
「極大射程」事件を絡ませつつ JFK暗殺の真相に迫っていく。勿論 小説であるからスワガー・サーガ世界のなかでのストーリーですが、JFK狙撃の第三の銃弾について これほど明解に喝破した説を知りません。思わず息を呑みました。JFK暗殺にいたる背後事情やLHOの行動動機はサーガの中のフィクションですが、これも思わず唸る説得力です。
 銃/銃弾に興味のない向きにはまことに読み辛いかもしれませんが、ミステリーファンなら絶対読むべき一冊ですよ!

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評『百田尚樹:ボックス!』

2017-01-19 06:36:07 | 映画評
タキさんの押しつけ書評
『百田尚樹:ボックス!』



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している書評ですが、もったいないので転載いたしました。


BOX…「箱」を意味する名詞であるとともに、「ボクシングする」という動詞でもる。

 だから本作は「箱!」ではなく、(ボクシングで)戦え!の意味。プロボクシングで「ファイト!」と言うのと同じ意味です。
 百田さん、今回もジャンルが変わり 文体も変化している。高校ボクシング部が舞台で、天才的ボクサー/鏑矢とその友人/優希、副顧問の高田(20代女性)の三人が主人公。文体は三人称だが、優希と高田の視線から交互に語られ、鏑矢が自ら独白する事がない。この構成が面白い。

 これは「あしたのジョー」の学園青春物語です。我々の世代……百田氏は若干若いが……は ボクシングと言えば「あしたのジョー」を抜きには有り得ない。こいつはジョー、こっちが力石、段平のオッツァンもいる。漫画のドヤ街ほどではないが、舞台は西成の高校。荒川土手は淀川に代わって、舞台設定も見事にはま
り込む。
 基本的なボクシング知識とアマチュアボクシングについて、やけに詳しく説明してある。現実にボクシング部に取材もしているが、百田氏も高校生ボクサーだったらしい。ちょっとビックリいたしました。 これもホンマに上手い小説です。ボクシング題材の小説ってのは たくさん有りそうで 実は殆どありません。漫画なら絵で、映画なら映像で 戦いの迫力を表現できますが、これを「文字」でとなると難しい。本作では、まるで試合会場にいるかのごとくに感じますから これは尋常の表現力ではありまん。

 リング上でステップするキユッキユッって音、バンチが決まった時の内臓に響く音、ボクサーの息づかい飛び散る汗……目の前に浮かび上がっています。
 そして、サブキャラクター達も 実に見事に描き込まれ それぞれに重要な役割を担っている。何より みんな肉体を持って生きています。全員が「青春の懊悩」の真っ只中、悲劇のヒロイン(始めはとてもそうとは思えない)も登場する。
 単なる青春ストーリーではなく、人間の成長をボクシングを通して語る小説です。ラストが予定調和すぎて嫌なんですが……これが百田尚樹のハッピーエンド、認める事にいたします。

 ボクシングに関心無くとも また 女性の鑑賞にも耐える作品です。以前に 市原隼人主演で映画化されています。 百田氏に無関心だった頃の映画なので未見、こら探してこんといけません。 ただ、あんまり過度の期待は……やろなぁ〓

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評『真山仁:コラプティオ』

2017-01-18 06:38:57 | 映画評
タキさんの押しつけ書評
『真山仁:コラプティオ』



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

 これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。

corruptio:汚職・腐敗を指すラテン語

 単行本が出た時に読んでますが、文庫を間違って買ってしまいました。 改めて、初刊時より今の方が時代にマッチしていると思います。
 東北大震災に際して彗星のごとく現れた救世主にしてカリスマ的政治家・宮藤と若き政治学者にして宮藤の秘書官を勤める白石/大新聞の記者/神林。この三人を中心に政治の深層を探る。

 初刊 平成23年より今の方が時代に寄り添っているというのは、何も安倍政権を揶揄しているのではない。物語はもっと普遍的なテーマを追っている。初刊刊行時、多分に予言的な内容を持って本書は世に出た。
 未曽有の災害に当時の為政者の化けの皮が剥がれ落ち、日本人は強力なリーダーを求めていた。その風を背に受けて宮藤は首相に登りつめる。力強い言葉とカリスマ性を武器に その支持率は右肩上がりに上がっていく。 まぁ、あまりストーリーには触れない方がよろしい。ご想像通り、政権に疑惑の影がさす。果たして真相は? という疑問を追って物語は進行する。

 真山仁は、あの「ハゲタカ」の作者です。今回、経済ミステリーから「政治」に舞台を移しての作品。読み出すと止められなくなるのは「ハゲタカ」と全く同じです。「ハゲタカ」シリーズと同じく、状況の薄皮が一枚剥がれ落ちるたびに少しずつ違う風景が顔を出す。この状況変化をどう考えるか、どう対処するか……登場人物達の立場は微妙に変化し、心中は引き裂かれていく。この人間心理の移り変わりの筆致はさすがです。
「最良なるものの腐敗は最悪である」というラテン語成句がありますが、我々は「最良なるもの……と信じていたもの…」というように書き換えないでしょうか。あまり違いは無さそうですが、書き換えた方には責任転嫁があります。「私は騙されていた」……どうでしょうか。
元の成句には「腐敗は避けられない、如何なるものにも」という意味が込められているのです。ラテン語成句じゃありませんが「騙すなら騙すで騙し通してくれ」ってのがありますが、その方が少なくとも心は平安だって事なんですね、その結果 奈落に落ちるとも……なんてな覚悟がある訳じゃありません。人間ってのは どこか他力本願で、ジッとしていれば誰かがどこかに運んでくれると幻想しがちです。
 その意味で、本作の主人公達は 自ら浄化の道を取ろうと……最善ではないにせよ……努力しています。とはいえ、最後の為政者の言葉を鵜呑みにはできないし、そこまで追い詰めた側も その後の進展に責任がとれるのか? 状況に関わり続けるのか?という疑問が残る。

 現実には有り得ない理想論を振り回すつもりはありませんが、本作がこれで完結するとするなら……私には「絶望」の二文字しか見えない。想像力の欠如?
「ハゲタカ」と同じく、本作の主人公達が、この後 如何なる地平を切り開くのか、是非とも続編が読みたいと思います。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評『米中開戦③④』

2017-01-17 06:32:16 | 映画評
タキさんの押しつけ書評
『米中開戦③④』



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が、個人的に身内に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。


書評始める前に ①②の時の訂正です。

 前回 本シリーズがクランシーの遺作だと書きましたが、ごめんなさい もう1シリーズあります(やったね〓)Command Authority ロシア大統領(元KGB!!!)の秘密をめぐって、30年前のジャック・ライアン・シニアの冒険と、現在のジュニアの活躍が交差する話だそうで、現在 翻訳作業中 さて 出版はいつなんでしょうねぇ。
 も一つ情報、現在公開中の「エージェント:ライアン」は一応 3部作予定でしたが、当初予定していた売上が不可能だってのがほぼ確定、シリーズ化にストップがかかっていましたが なんとか継続させるようです。主演のクリス・パイン/キャシー役キーラ・ナイトレイはそのまま、ケビン・コスナーについては分かりません。今作もそうだし、次回の最終作も映画化は不可能ですから、今度は脚本にこだわって作ってほしいもんです。

 で、本作の話です。一気に話は展開し始める、もう怒涛の勢いです。
 ハッカーの中枢に攻撃を加えるが、捉えたハッカーからはなかなか情報は得られない。ヘンリー・アソシエイツの正体も風前の灯火、最前線の鍔迫り合いはどちらも決定打を放てない。そんな中、中共の物理的攻撃は日々エスカレートしていき、サイバー攻撃も本格化する。
 ハッカー対ザ・キャンバスの戦いも佳境を迎えるが、どうも中共側が半歩先を行っている。ライアン大統領とジャック・ジュニアはアメリカを勝利に導けるのか、クラークはどこて活躍するのか。
 殊に④は 息接ぐ間もないほど急坂転がるような展開ながら、あくまでもリアル。
 クランシーのシリーズに対して「こんな都合良く行くかい!」とお怒りの方がいらっしゃいますが……「そりゃあ小説なんだから」とは申しません。クランシーの言いたいのは、勿論エンタメ作ですからアクションの迫力は強調してありますが 中心をしめるのは「如何にして正確な情報を集め、正当に受け入れ分析出来るかが 総てを決定するんだ」という事です。
 ここで言う“情報”とは、他の何物でもない“ヒューミント=人的情報”の事です。確実なヒューミント無くしては何事も失敗する確率が高くなるんだ! とクランシーはシリーズ第一作「レッドオクトーバーを追え」から書いているのです。
 ジャック・シニアが大統領になって以来、日本を始め中共、ロシアと戦争の連続でした。

 各シリーズ共に 全面戦争の可能性がありましたが、問題の核心部分をピンポイントに潰す事によって最小限戦闘で終わらせています。まぁ、現実にはいろんな考え方の人間、利益の相反する勢力が存在しますから、人間最悪の選択「戦争」の長期化を望む者だっています。ライアンシニアが極めて理性的正義の人(よくボーイスカウトだって言い方をされます)だからこれで済んでいる訳で……確かに「小説なんだから」としか言えませんがね。

 作品の中に何を求めて読むか ですが、クランシーの本シリーズが 今の世界の一面をリアルに描いている事に疑いはありません。 話を戦争から生活/仕事に入れ替えれば 我々にも様々なサジェスチョンを与えてくれます。
 とはいえ、気楽にお楽しみいただくのが第一であります。小理屈こねるのが私の悪い癖(杉下右京かい?) ごゆっくりお楽しみ下さい。〓

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評『トム・クランシー「米中開戦」①②』

2017-01-16 06:11:45 | 映画評
タキさんの押しつけ書評
『トム・クランシー「米中開戦」①②』



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が、個人的に身内に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。


今や亡きクランシーの遺作、前半2巻です。

 ジャック・ライアン・シニアは前期大統領時代に一度 中共と戦争していますが、大統領職に返り咲いて 再度 中共と戦争になりそうです。

 物語上の中共・総書記は政治的クーデターにあい、絶体絶命の危地を解放軍主席によって助けられる。 解放軍主席は軍事的欲求が強く、総書記は自身の安泰の為 その欲求に荷担する。目指す所は南シナ海の完全制覇・香港/マカオの本土化・台湾統一。香港/台湾を経済特区として一気に財政の立て直しを図ると共に揺るぎないアジアの帝王の席に着くというもの。
 当然、アメリカが黙っている訳はないのだが、主席の元には世界最高のハッカー軍団がいた。元々 人民解放軍のハッカー軍団を作り上げた男がいて、彼は嘘の罪で収監され、後 脱獄、香港マフィアに匿われ マフィアの為に働く事を隠れ蓑に 実は解放軍の為にイリーガル活動を行っている。彼らは巧妙に全世界をハッキング、マフィア組織をも操り 自らは表に出ない。
 
 ペンタゴンもCIAも侵入に気づいてはいるが、証拠を掴めず 名指しで中共を非難できずにいる。

 そして中共は南シナ海の制覇の実力行使を発表、時期を同じくしてアメリカの無人機が複数コンピュータージャックされ使用不能となる。ジャック・ライアン・ジュニアは、全く別の案件を追う内に このハッカー軍団へと迫る。また、ハッカー側もジュニアの所属するヘンリー・アソシエイツ(ザ・キャンバスの隠れ蓑)を探ろうと触手を伸ばしている。アメリカ国内ではFBIにも目を付けられ、ジュニアの恋人が利用される。

 かかる危機状況下、実行部隊のボスだったクラークは前回作戦で負った傷がなおらず、自ら引退を申し出ている、しかも同時期 クラークの宿敵ロシア工作員がハッカー軍団にリクルートされている。現在、双方共に 相手のすぐ近くに迫っている、どちらが先に相手の正体を掴むのか? 先手が圧倒的に有利なのだが……って所で2巻終了、早く続きが読みたい~!

 本作が優れているのは、中共の描き方です。過去に一度戦っているのですが、それ以降 現在までの中共を良く読み解いて あり得る状況を作り上げた点にあります。
 現実に解放軍ハッカーによってステルス情報が盗まれ、それをコピーして“殲”シリーズの戦闘機を作ったのは間違いなく、これに関して表立った抗議はしませんでしたが、当時 陽動として行われた財務省等へのサイバー攻撃を中共名指しで抗議しています。
 中共サイバーテロ部隊を構築した人物は良く知られた中国人ハッカーで、彼は後に金融詐欺に関わったとして逮捕されています。彼がその後どうなったかは分かりませんが、本作設定にあるように中共の偽装の疑いも拭えません。
 また、新列島線設定/警戒空域拡大と領空的運用/台湾への接近……あからさまになったのはクランシーの死後ですが、彼は見事に予言しています。
 当然、フィクションですが これまでの作品と同じく緻密な積み立ての上にストーリー構成されていますから リアルで読みあきしません。

 後半 出ましたらまた書きます。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評『百田尚樹「幸福な生活」』

2017-01-15 06:09:20 | 映画評
タキさんの押しつけ書評
『百田尚樹「幸福な生活」』



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が、個人的に身内に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。


何となく百田尚樹の正体を見たような気がします。

 この本は短編集で、一編20頁足らず、ざぁっと読み進んで 最後のページをめくると一行の“落ち”が現れる。
 さて、この“落ち”が問題です。はっきり言ってガハハと笑うでなく、思わず背筋に冷たいモノが走るでなく、やられたぁ!と叫ぶ程の物は一つも無い。
 そう“無い”……無いのだが……総て、微妙にこちらの予測がはずされる。面白くない訳では決してない。面白いのだが、なんか、どこかで見たような聞いたような……まぁ、似たような展開の話は数多あるが、一つ一つの“落ち”は間違いなく独創的なのだと思いいたる。けったいな作者であります。
 しかし、彼のキャリアのスタートがバラエティーの構成作家だという事を考えると……これは さもありなん……ですね。
 構成作家ってのは、何を書いてもそこそこ面白くなければならない。しかも、自分が語るのではなくタレントが喋って面白く聞こえるように書かなければならない。文章スタイルにこだわりなんか持っていたら出来る仕事ではない。
 食べ物の味と同じく、人が何を面白いと感じるかは主観の世界で 万人共通の“ツボ”は有り得ない。だからこそ、少数が笑い転げる事より 多数がアハハと軽く笑える地平を探る。いわば、本書は そういうテクニックに長けた物書きの手になるブラック・ショート・コント集と言えるだろう。
 あまり えらそうには言えない、百田尚樹の作品はこれでまだ4作目……ただ、先日の「モンスター」の元ネタ(逆にモンスターをショートにした?)と覚しい一編があったり、「永遠の0」に用いられている論理展開と同じテクニックが見て取れる。

 先日、「モンスター」を評して「“海賊と呼ばれた男”なんかに比べれば、吹けば飛ぶような」と書いたが、言い方を替えると「同じ作者の本とは思えない」と言う事です。作品の目指している所が全く違いますからね。こういう作家は稀にいますが、結構珍しい。以前のSF作家には割と存在しました。筒井康隆、星新一なんかは最たる人々ですし、開高健、山口瞳なんてなCM畑出身の作家も自由自在なカメレオン作家でした。
 断言まではようしませんが、ひょっとしたら“百田尚樹”はとんでもない作家なのかもしれません。
 結局、読み倒さんと まだまだ解らんっちゅう事です。励みますわ。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想:東野圭吾「疾風ロンド」

2017-01-14 06:20:32 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
東野圭吾「疾風ロンド」



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


この書評は、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流しているものですが、もったいないので転載したものです。


相変わらず一気に読ませる力量は「敬服」の一言です。

 東野圭吾は大学工学部の出身です。論理構成能力は当然お持ちでしょうが、それは論文構成のそれであって、散文のそれはまた違うテクニックです。散文の構成にも数学的論理は必要なのですが、通常、感動的な文章構成にはマイナスに働くと言われています。
 しかし、世の中には天が二物も三物も与える人がいるんですねぇ……散文構成に数学的センスで磨きをかけるのは天才の技です。
 本作もこれまでの作品に負けず劣らず、読者をドンドン引っ張って行くのですが……最近作に感じる不満も現れます。
 すなわち、謎の解明者として湯川学か加賀恭一郎を探してしまうのです。この二人のキャラクターは言わずと知れた東野圭吾ワールドの二大主人公です。この二人が登場しないとなると、彼らに匹敵する魅力的な主人公が必要になります。
 当然、全く市井の一個人が主人公になるストーリーだってある訳ですが、読者が東野圭吾に求めるストーリーには物語の真ん中に主人公が屹立していなくてはなりません。だからと言って、そんなマーケットリサーチに従うがごとき作品を作る義理は作者に無いのは自明の事。ただし、読む者を問答無用に飲み込んでしまうような作品に仕上げないと、どこか「食い足りない」と言われてしまいます。
 全く読者のワガママではありますが、それが流行作家たる人の義務(……は、言い過ぎかな? さすがに)っちゅうもんです。
 まぁ、そこまで言わないとしても本作には多少不満が残りました。登場人物が全員小粒(全体に一人一人の掘り下げが浅い)なのが最大の欠点で、読者が感情移入する存在がいない。この点、同じ問題を抱えた「夢幻花」と共通しますが、「夢幻花」にはまだ話の中心になるキャラクターが存在しています。
 本作ではスキー場に隠された「ある品物」をいかに見つけるかに意識が注がれ過ぎ、人物の掘り下げがしきれていないと言えます。流行作家である以上、多作を強いられるのは仕方がないでしょう、ダン・ブラウンのように数年に一作ってな訳には行かんでしょうが、しかし、もうちょい落ち着いた創作環境を与えてあげる事が出来ないもんなんですかねぇ……。
 他にも、結末に至るストーリーになんとなく「やっつけ」臭が漂います。これも、主人公に力があれば、無理苦理押さえがきくのですが、その主人公の存在がありません。なぁんて、ほんまに一個人のワガママですが、東野圭吾の大ファンとしては、あまり書き飛ばして消耗してほしくないのです。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想〔永遠の0〕

2017-01-13 06:52:39 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
〔永遠の0〕



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している読書感想ですが、もったいないので転載したものです。


 なんで今頃「永遠の0」なのかについては、本作の映画化作品についてのコメントや、同作者の「海賊と呼ばれた男」書評に書いたので割愛します。

 いやぁ、しみじみと 勝手な思い込みで本を嫌ってはいけませんねぇ。泣きながら読み終えました。百田作品は全部、こんな作風なのでしょうかねぇ……「海賊~」でも、随分泣かせてもらいましたけど……。
 まず、本作を読んだ上で 映画を振り返るに、いかに映画脚本が良く出来ていて、本作の感動を余さず伝えていた事に感銘を受けました。監督・脚本の山崎貴 刮目して見るべし……です。この脚本なら、原作者・百田尚樹が納得したのも理解できます。原作者が映画を見て号泣したのも宜なるかなです。
 さて、私が本作発刊当時に本書を手にしなかったのは作者・百田氏の過去のイメージもさる事ながら、結構 悪評が高かった為でもあります。一番多かったのは「どこかで一度読んだような事柄で繋いである」ってやつで、中には「剽窃」と断じる人もいました。
ここが私のいかん所で、過去にも 山崎豊子が剽窃家だとの風説に影響され、山崎作品を遠ざけるという愚を犯しています。今では山崎豊子に向けられた剽窃疑惑は、山崎に書かれては不利益を被る陣営が作り上げたデマだと解って、山崎作品は遅ればせながら殆ど読み終えました。
 本書に向けられた剽窃疑惑は、これは言い過ぎでしょう。但し「いつかどこかで読んだような~」という感覚については、まぁ 判らんでもありません。
 戦後、もう既に70年です。兵士として実際に戦った世代は殆ど亡くなっておられます。当時を知るには記録映像にあたるか、著作に触れるかしかありません。しかも、映像や写真には間違ったキャプションが付けられていたり、著作にも偏った思想で書かれた物が多数存在します。
 当時を正確に認識するのは日々 困難になっています。そんな現状下、信頼に足ると評価される資料は限られており、当時を描こうとする「戦争を知らない世代」は、皆さん同じ資料を手にせざる得ない訳です。
 主人公たる宮部久蔵と、生き残りの戦友達は これら資料の中に記された人々の移し絵です、描かれるシーンは実際にその人々が遭遇体験、あるいは目と心に焼き付いた日常です。内容が似てくるのは仕方ない事だと思います。
 確かに、先次大戦記録を読まれた向きには「耳にタコ、目にイカ(?)」な証言が大半を占めますから「これはナンジャイ?」と思われるかもしれません。しかし、これら戦時証言を組み合わせて「宮部久蔵」という人物を 血肉を持った存在として作り上げた作者の手腕は一流です。
 現在の十代には「大東亜戦争」をフィクションだと思っている人が本当に存在します。さすがに、大多数では無いでしょうが、私が知るだけで数人いますから、ひょっとしたらかなりの数存在するかも……大戦を知ってはいても詳しくは知らない層とあれば十代と言わず、上の世代にもかなり存在するでしょう。そんな人々が、小説を読む楽しみで本書を手にする事を考えれば、この作品の存在意義は途轍もなく大きいと思えます。
 我々の世代(現50代中~60代中)について言うなら、親から大本営や陸軍の悪口は散々聞いていますが、「海軍さんはスマートだった」なんぞと聞かされて育って来ました。戦艦大和の雄姿、真珠湾攻撃の成功(????) 名機0戦も海軍戦闘機、陸軍アホ/海軍格好ええ~と思ってきたもんです。しかし、その上層部の愚かさは五十歩百歩、海軍だって似たようなもんです。軍令部トップにいたっては、その馬鹿っぷりは見事の一言、前線指揮に当たった将官にしても、作戦に致命的失敗した者は乗艦沈没に際して真っ先に下艦、この人は生き残らねばと思える人程、艦と運命を共にしている。真に優秀で愛国心に溢れる人から死んで行く。これは日本に限らず、いずこの戦場でも証明されている事です。
 我々世代でも一読の意味はあると考えます。かの大戦で、いかに多くの代え難い日本人が散っていった事か……これは日本に住む現在の私達が決して忘れてはいけない事実です。その事を思い起こす起点になります。この事を抜きにしても、人間の生き方、尊厳を描いて秀逸な作品です。

 作者に成り代わりまして、是非ともとお薦めします。

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