夏目漱石の『三四郎』を再読しました。同時に小森陽一氏の『漱石を読み直す』と石原千秋氏の『漱石と三人の読者』を読み、たくさんの示唆をいただきました。『三四郎』の読解のためのメモを残します。
『三四郎』において混乱するのは借金のやりとりです。どうなっていたのでしょうか。整理します
①広田先生が野々宮さんから20円借りる。広田さんの引っ越しの費用だった。
②野々宮が用立てた20円は、妹のよし子がバイオリンを買うための費用だった。
③広田先生はしばらく返せなかったが、答案調べの臨時収入があり返すことになる。
④広田先生は与次郎にその使いを頼む。広田さんはお金を返したのだから、借金問題は解消したことにしてもよさそうだ。(もちろん実際にはこの時点ではまだ返してはいない。)
⑤与次郎はそのお金を競馬ですってしまう。
⑥困った与次郎に三四郎がお金を貸す。三四郎のお金は家賃を払うために仕送りしてくれたお金である。そのために三四郎は家賃が払えなくなる。
⑦与次郎はお金を野々宮に渡す。野々宮さんはお金が返って来たのだから借金問題は解消する。それによってよし子はバイオリンを買ってもらった。
⑧家賃を払えなくなった三四郎は美禰子に借金を頼む。
⑨美禰子は30円を貸す。
⑩三四郎は美禰子から借りた金で家賃を払う。
⑪今度は三四郎は美禰子に30円の借金を返さなければならない。そこで実家に臨時の仕送りを頼む。
⑫実家にいる三四郎の母はそんな三四郎に不信をいだく。そこで母親はお金を野々宮に送り、野々宮から三四郎がなぜお金が必要だったかを問い正してもらってから、三四郎に渡すように野々宮に依頼する。
⑬野々宮は三四郎から話を聞き、三四郎にお金を渡す。
⑭三四郎は美禰子にお金を返す。美禰子の借金は解消される。
その結果どういうことになったのか。そもそも悪いのは与次郎である。競馬ですってしまって、そのお金を返さないのだ。意外なのは三四郎はなぜか与次郎に強く借金の返済を要求しないということだ。この理由は謎である。その競馬ですってしまったお金を穴埋めしたのは三四郎の実家だということになります。
ここに不思議なアイロニーがあります。自由で華やかな東京の生活は実は金にまみれています。そしてみんな苦しい生活をしているのです。野々宮さんも、広田先生も日本で一番の大学で先生をしているのに、お金がありません。かれらの生活を救ったのは田舎の普通の生活をしている人だったのです。
一方、美禰子が結婚したのは、経済的な目的のようです。都会の生活は格差があり、金のあるものにへつらって生きていくしかありません。自由な女であった美禰子がその犠牲になってしまったのです。
田舎嫌いの漱石がこういう、都会の闇を描いているようにも思えます。
jurakuさんのご紹介です。
「三四郎」は、読んでないのですが、借金のループは、ややこしいですね。
無限ループみたい。
与次郎が、一番悪いんですよね。
この作品だけではないですが、昔の本を読んでいると、割と簡単に借金したり住まわせてもらったりするので、びっくりします。
私、バンダイくるんとーとで「夢十夜」と「それから」が出て、特に「夢十夜」は、渋くて~お医者さんでお薬もらう用にしてます