漱石の『虞美人草』を読みました。この本読んだつもりでいたのですが、実は初読でした。漱石の最初の新聞小説。おそらく夏目漱石の小説でなければこの小説は消えてなくなっていたはずです。それくらい小説としての出来はよくない。私も漱石の作品だから最後まで読みましたが、最後まで何がよかったのかわかりません。とは言え、これが書かれた時代はまだ小説の形式や文体が確立していなかった時代であり、試行錯誤の途上だったのだと思われます。
なにしろストーリーが雑すぎます。「藤尾」という女性、そしてその母は性格の悪い女です。自分の利益しか考えていません。ではそれ以外の人物はどうなのかと言われれば、やはりかなり打算的です。最後に正義の味方のように突如として「宗方君」が活躍しますが、そこまでの人物造型は曖昧であり、正義の味方が悪を退治するという勧善懲悪の小説と読むこともできません。つまり人物の描写が雑なのです。裏がないのです。人間そんなに単純ではありません。なんとなく下手な芝居の台本のような作品なのです。
ただし、登場人物を平等に描くという方法を実践しているという点で注目に値します。普通主人公らしい主人公がいるはずなのですが、この小説にはそれがいません。だれが主人公なのかもわかりません。だから読者は感情移入する人物が見つけられません。それぞれの人物を客観的な視点で見つめることになります。これこそ「自然主義」です。もしかしたら漱石は自分なりの「自然主義」を実践しようとしたのかもしれません。
漱石の初期作品は近代という時代との戦いの歴史です。