昔のものを整理していたら、モスクワのペットの市場「鳥の市」に行ったときのことを書いた文を見つけました。
長いのですが、よかったら読んでください。33年前のことです。
ペットのルィノック「鳥の市」
旅行前から時間があったら、ぜひ行きたいと思っていた「鳥の市」。
想像していたよりずっとひろい場所にテントが張ってある。まず入口近くで売っているのは子犬。だっこしたり、バスケットに入れたり、体育館でバレーボールなどを入れておく網かごのようなものに入れたりしている。
プードル、セッター、コッカースパニエル、コリー、セントバーナードなど子犬の親を連れてきているひとも多い。日本で流行のヨークシャテリア、シェットランド・シープドッグは見かけない。
チャンピオン・メダルを首にかけた大きなグレートデンを売っているのは派手な服装のちょっと不良っぽい若いカップルだ。白地に黒い斑のやはり大きな親犬を連れ、だっこした子犬を売っているのはふたりの若い女性で、子犬の値段は二〇〇ルーブリとのこと。
雑種の子犬を連れてきているおじさんもいる。懸命に「子供のいい友だちになるよ」と売り込んでいる。
犬にくらべて子猫は少ない。何の種類か真っ白の子猫は五〇ルーブリ。親猫、しかも目ヤニで目がしょぼしょぼしている猫を連れたおばあさんがいたので声をかけたら、お金はいらないからもらってほしいのだそうだ。猫を連れてきているのはほとんど女のひとだ。
ハムスターは人気のあるペットのようで、たくさん売っている。一匹4、5ルーブリ。ラット、モルモットもいる。
水槽の中にヘビとカメがいる。ヘビはウーシ(ヤマカガシ)で20ルーブリ。水中の巨大なタニシ、トカゲ。小型のウミガメ?は台の上の囲いの中を歩き回っている。
それまで実際に買っているひとに出会わなかったが、熱帯魚のところで一匹ずつ熱心に選んで買っている一四、五歳の女の子がいた。ここは値段が手ごろなためか、子供たちの客が多い。たとえば、ふつうのグッピーは五,六〇カペイキ。水槽への酸素は大抵ドッチボールのような黒いゴムに容れてあり、だんだんしぼんでくる。そうするともう店をたたんで帰り支度をしている。熱帯魚や金魚を売っているのは全員男のひとだった。
水草、イトミミズ、水槽の中の手作りの置物とどれも単品で、それもほんの少し売っているのがのどかで微笑ましい。
「鳥の市」の名の割に鳥は少ない。闘鶏のようなニワトリのヒヨコ、アヒルの子くらいしか気づかなかった。季節にもよるのだろうか。
帰りの乗合タクシーを待っていたとき、父親に連れられた男の子が緊張した表情で籠に入ったハムスターを持っていた。自分だけのペットを手に入れたときのうれしさと不安の入り混じった気持ちを子供のころ私も味わった経験がある。
タクシーを待つ間、みんな、和気あいあいとおしゃべりをしていた。男の子は訊かれて、ハムスターの名はホーマーにすると答えた。乗合タクシーに乗り込み、動き出すとピヨピヨ鳴き声がする。おばさんが黒いビニールのボストンバッグを開けるとなかにアヒルのヒヨコが3,4匹。
あのハムスターもアヒルたちも元気でやっているだろうか。(1989年5月)