駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

萩尾望都『海のアリア』

2020年09月30日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名は行
 角川書店あすかコミックス全3巻。

 夏の朝、ぼくら4人がヨットで沖へ出たとたん、天候が急変した。不思議な火の玉を目撃したあと、4人は海に投げ出され、アベルが行方不明になった。半月後、アベルに似た少年が沖縄で見つかるが…異色SFマリーン・ロマンシア。

 1990年のコミックスで長らく愛蔵していますが、感想をまとめていないことに気づいたので再読してみました。
 音楽とはそもそも数学的に調和が取れたもの、あるいは調和が取れていることが美しいとされ、目指すべきものとされ、なんなら音楽で世界を整え調律しようとする思想もあるような、そういう分野の芸術というか学問というか思考です。それが地球外の波動生命体とか、その結晶生物/鉱物とか、それと感応する演奏家とか、その演奏家自身のトラウマとかその解放とかそうして奏でられる音楽とか芸術とか演奏者と楽器のパートナーシップとか、そういうイマジネーション豊かな、とても濃くにぎやかで楽しい物語です。
 主人公はアベルなんだけれど、途中で記憶喪失になったりすることもあるので、語り手としては当初は友達の十里、次いで双子の弟のコリンが立てられるのだけれど、彼らはそれぞれ中途半端な立ち位置のキャラクターでもあって、やがてアベルが記憶を取り戻しかつ新しい生き方としての自覚を持つようになって動き出すとフェイドアウトしていってしまうので、物語としては構成があまり良くない、ある種の読みづらさを抱えたものになってしまっています。が、ワケわからないままに読み進めるのも楽しい、魅力あふれる作品になっているとも思います。
 アベルが楽器として、それでも演奏家の単なる道具ではなく対等のパートナーであると主張し、アリアドに迫っていくところなんかは、関係性萌えとして読んでもとてもおもしろく、やりようによってはBLっぽくもなりそうなのだけれど、そういう尺はないしそっちの方向には作者の興味もないのか話はあまりそちらには進まず、ちょっともったいなくもあります。ともあれSFとしてとてもスリリングでチャーミング、現代学園もの特有の青春活劇の味わいもきっちりあって、小品と言っていいのでしょうがとても魅力的な、おもしろい一作です。私は大好き。この頃のやや骨太な絵柄も好きです。カラーイラストもとても美しい。音が出ない漫画ですが、音楽を見事に扱った一作でもあります。
 宇宙にとっての地球って、本当にこんな感じなんじゃないかな、とも思ったりします。そうだとしたら、とても楽しそうです。



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