駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

映画『窮鼠はチーズの夢を見る』を観て

2020年09月11日 | 日記
 3月6日にマスコミ試写を観ました。原作漫画に関しはてこちら
 なんか、映画化の発表がされてからもしばらくキャストとかスタッフとかのくわしい情報が流れてこなかったり、撮影が終わっても公開日が全然決まらなかったりしていたようだったので、トラブってるのか、出来に問題でもありそうなのか、ちょっと心配していたんですよね。ようやく公開日が決まって報道なんかも盛り上がって、でも合わせた原作コミックスの重版でまたちょっとモメたりしてるっぽかったのにもヒヤヒヤしました。その後はコロナで公開日が延期にもなりましたね。
 私はレディコミ誌での連載もその後の電子サイトでの配信も読んでいなくて、コミックスも最初のJUDYコミックスではなくその後に出たモバフラフラワーコミックスαで持っています。2004年に第1話が掲載され、最終話の配信は2009年という作品でした(先日、ショート番外編みたいなのが発表されましたが)。映画合わせの重版コミックスでは今のコードに合わせて台詞の文言や性器の描写を一部修正する、ということでしたが、当時もたとえば作中での「ゲイ」と「ホモ」という言葉は意味のある使い分けをされていたものですし、性器ないし性描写ももっと露骨でえげつない他社BL漫画やエロ漫画からしたらいたって上品なものでした。ただ、ジャニーズ主演ということで低年齢の読者も読むようになるかもしれないから、とか都条例その他に大手出版社の刊行物は目を付けられやすいから、とかもあって修正することになったようですし、それは致し方ないかなと思いました。作家のブログも読みましたが、いたってまっとうなことを表明してあったと思いました。今までの重版は、そりゃ2刷りのときこそ初刷りの誤字脱字チェックとかはするけどあとは奥付を修正するだけの流れ作業になるのが普通なので、見過ごしてきたのは罪ですと言われてもはあそーですかとしか版元も言えんだろうな、と個人的には思います。また、映画きっかけで買おうとした人が修正前のものを入手したがったとて、それは先に買っていた人の勝ちだろう、としか言えない気がします。電子書籍に関しても、そもそも購入者は閲覧する権利を買っているだけのものですし、データの変更の権利は各ストアにあって、今までも他の書籍も細かいデータ修正なんか告知もせずに行われてきたはずですよ、と言いたいです。
 だから私はそうした騒ぎよりも、大倉くんも成田くんも名前は聞くし上手いとも聞くけど私は何で見たんだっけ、てかちょっと若くてイメージ違わない?と思ったり、そもそも自分が映画にそんなにくわしくないというのもあるのですが天下の行定作品をテレビで『セカチュー』見ただけという体たらくで、恋愛映画の巨匠っぽいけど所詮男性なんだしどうなんだろう…みたいな心配ばかりしていました。
 なのでホント半信半疑、くらいの気持ちで試写室の席についたのでした。

 で。とても良い恋愛映画になっていたと思いました。
 原作は明らかに少女漫画なんだけれど、あたりまえですがそのままはできなくて、だからいろいろ変換されるし編集されるし改変されたり追加されたりそれこそいろいろ違っているんだけれど、でも、とてもよかったです。
 まず恭一がスニーカー履いてリュック背負って自転車で通勤しているのに仰天したんだけれど、年齢設定が気持ち下がっているし、今どきのリーマン像としてむしろ正しくて、感心しました。離婚後に住む部屋も壁がコンクリ打ちっ放しのお洒落マンションで、原作とだいぶイメージが違うんだけれど似合っていて素敵で、いい位置にシングルベッドがあって窓があるのもいいし、微妙な大きさのソファもすごく効いていました。スツールみたいな椅子の使い方も上手い。それで言うと恭一の部屋着のパーカーの使い方も上手い。原作にはない屋上のくだりもすごくよかったです。ゲイバーに探しに行くくだりも。あ、灰皿もよかったなー。あと家メガネ反則。好き。
 恭一はもっとモサッとしていてもいいし今ヶ瀬はもっと酷薄な美形でもいいんじゃないかな、このふたりだとわりと同じ枠に入っちゃうんじゃないかな私見分けつくのかしら、とかも実は心配していたのですが、さすがふたりとも芝居が上手くて、ちゃんと役になっていてキャラが立っていて、すごくよかったです。恭一のだらしない色気も今ヶ瀬のせつない可愛げも、素晴らしかった。あと女優陣も、私はゆうみちゃんしか知らなかったけれどみんなすごくよかったです。
 ドライブに行くときの車がちょっとレトロでまたお洒落だし、海はものすごく絵になっていました。メインビジュアル、こっちの方がよかったんじゃないかしらん。
 私が観た回の試写ではやたらと笑いが沸いたりもしたのですが、そういう人たちは原作未読なんだろうな、と思いました。そういう笑いの場面ではなかったです。もっと残酷でせつないおかしみ、ユーモラスさの場面だったのになあ。
 一方、濡れ場には息を呑む空気がありましたね。局部が映らないよう工夫されているけれど、全裸のガチンコ撮影だったんでしょうね多分。熱くて激しくて、綺麗。けっこう尺ある。そして音がやたらリアルで、気恥ずかしいやら濡れるやら。ただ、原作ではもうちょっとゆっくりていねいに話が進むので、映画だとふたりがつながるのが早いなと思いましたし、ローション見せたりなんたりしているんだけどやっぱこんなスムーズなはずないやろ、そこはファンタジーだな、と思ったりもしました。男性俳優同士が演じているんだから一見よりリアルだけれど、やはり本当はもっとそこには葛藤があるはずだろう、と思うというか。ただ私はBLならリバ派なので(役割が決まってしまうなら同性である意味がないのではないか…と考えてしまう、所詮ヘテロ脳の女なのです)、そっちもあったのは嬉しかったです。男性批評家なんかはどう観るんでしょうね、自分もアリだわと思うのか絶対ナイなと思うのか。性指向とか性愛とかってけっこうあいまいなものだ、という発見があれば、それだけでも意味はあるのかもしれません。でも引いちゃう人は引いちゃうだろうな、ジャニーズファンのお若いお嬢さんたちはどうかな…
 そしてラストがなかなかに印象的でした。この監督は物語をこう終わらせたかったんですね。あたりまえですがそこに一番の原作との違いを感じました。原作はやっぱり少女漫画だったんだなあ、と思うし、女性の漫画家が描いているからやはり男性へのそこはかとないあきらめが根底にあって、そういうある種の突き放しを内在した、一見甘いハッピーエンドになっていたんだと思うんですよ。でも男性監督はこう描いたというのが、いかにも男性にありがちな責任の取りたがらなさの表れのようでもあるし、中途半端な薄明るい希望の漂わせ方が男性の脳天気さを思わせる気がしました。嫌いじゃないです。所詮私はシスへテロの女…でも、「あ、これで終わるんだ」と感じた瞬間にブラックアウトしてキャストテロップが流れ始めたのです。「えっ、これで終わり!?」じゃなかった。そういうことです。
 BLもユリも私にとってはファンタジーなので、こういうユリも読みたいな観たいなーとかも思いました。異性愛者と同性愛者の面倒くさい両片想い、みたいなシチュエーションが好みなんですよね(笑)。これはこれからの分野かな。
 客、入るんじゃないかなー。とりあえず私は円盤が欲しいです。ひとりでゆっくりまた観たい(笑)し、持っていたいと思う映画でした。はっきり言って私にはなかなかないことです。「10年後に観ても色褪せない、大きな意味での恋愛映画」と監督は語っていましたが、どんな意味でも恋愛映画だと思いました。変に扇情的に騒がれるかもしれませんが、それも込みで、たくさん観られるといいなと思いました。漫画家さんも満足しているといいなあ…


コメント
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