経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

経済対策の適切な評価のために

2016年07月17日 | 経済
 景気が低調なのだから、経済対策も悪くはない。ただ、10兆円規模と聞いて、期待先行のような感がある。巷では、財投5兆円、追加歳出5兆円と言われたりしているが、この程度であれば、大したものではない。財政を危うくすることもない一方、景気を強く押し上げるわけでもない。財政全体に位置づけつつ、2017年度予算まで展望した評価が必要である。

………
 7/15に5月の消費総合指数がオープンになり、意外にも前月比プラスで、4,5月の平均は1-3月期から+0.4となった。この分なら、4-6月期GDPも成長を確保できそうで、緩やかながら着実な回復を見せている。英国のEU離脱で、大幅な株安円高となったが、今週は、元に戻るところまで来た。心配せられたが、一安心というところだろう。こうした中での経済対策となる。

 まず、押さえておくべきは、以前も指摘したように、2016年度は、国・地方・年金を通じて、5.8兆円の緊縮財政になっているということだ。昨年末には景気の停滞は明らかだったのに、GDP比で1%を超える緊縮をしておいて、今度は緩めようというわけだから、日本の御家芸「ストップ&ゴー」の発動である。経済対策は、エンジンを吹かすと言うより、ブレーキを緩めるものと位置づけられる。

 ここで、基礎となる税収を確認しておこう。2015年度の決算額は、56.3兆円と補正予算の数字を0.1兆円下回った。最大の要因は、法人税の0.9兆円もの読み間違えである。補正で0.75兆円の上方修正をしながら、当初予算を割り込むという結果だった。正直、筆者は税務情報を握る当局を買い被り、ここまで悪いとは思っていなかった。6月時点の証券各社の企業業績見通しに従い、「法人税は対前年度マイナス」と予想すべきだったと悔いている。

 この決算額をベースに、2016年度の税収を予想すると57.7兆円となり、予算額の57.6兆円とほぼ同額である。つまり、緊縮の度合いは、予算編成時と変わりがない。ここ数年は、大幅な税収上ブレによる予定外の緊縮が起こっていたが、さすがに、そういうことはない。したがって、経済対策の見どころは、先の5.8兆円の緊縮を、どこまで緩和するかになる。

(表)



………
 経済対策を見る際に注意すべきは、毎年1月に補正が行われていて、秋にするのは、追加と言うより前倒しでしかないことだ。すなわち、前回の1月補正の追加歳出(国費)は3.5兆円であったから、そこまでは現状維持で、これを上回る分だけが本当に景気を浮揚させる力になる。仮に、秋の補正の追加歳出が5兆円とすれば、意味があるのは1.5兆円だけだ。なお、熊本地震のための5月の第一次補正では、予備費0.7兆円と災害救助費0.1兆円が計上され、予備費のうち0.2兆円の使用が閣議決定(5/31,6/14,6/28)されている。残りの0.5兆円は、第二次補正に組み込まれると思われる。

 経済への影響を考える場合、2017年度予算も展望しておく必要がある。まず、税収を予想すると、政府試算の名目成長率2.2%をベースにすれば、59.7兆円に増える。すなわち、併せて歳出も2.1兆円増やさないと、財政中立にならないということだ。予算編成については、2016~18年度の3年間の歳出の伸びを1.6兆円に抑制する方針があり、実際、2016年度は0.5兆円強にされた。このままなら、2017年度の本予算は、1.5兆円程度の緊縮になるだろう。結局、今回の補正で1.5兆円緩和しても、本予算で1.5兆円締め、差し引きは変わらない。

 それくらいなら、補正は少なくて良いから、本予算を拡大すべきだろう。実は、消費税収は2015年度の見積額を0.3兆円上回っている。この分は予定外の安定財源なのだから、「歳出1.6兆円枠」の外として、保育や介護の充実に充ててはどうか。補正はバラマキになりがちだし、翌年には抜け落ちて、景気の押し下げ要因になる。差し引き同じになるとしても、意味のある使い方だろう。 

………
 今回の補正では、税収上ブレがなかったので、財源論が出て来よう。しかし、2016年度に一気の緊縮をし、日銀に0.9兆円も財源隠しをしたがゆえに、こうなったとも言える。普通にできる安定的な需要管理を怠り、景気の陰りに慌てて補正でバラ撒くのではなく、むしろ、補正は減らし、本予算で、労働供給を増やすような再分配に使うべきだ。保育や介護離職だけでなく、給付型奨学金も、社会保険の適用差別を解消する保険料軽減も課題である。これらこそ、真の成長戦略たり得る。20年に渡り、その場限りの財政に終始し、社会的人材投資を後回しにし続けた結果が今の惨状なのだ。 


(今週の日経)
 参院選 改憲勢力3分の2。脱デフレへ10兆円超す対策 首相きょう指示。消費減、育児世帯で深刻・経財白書原案。機械受注5月も減、判断下げ。南シナ海 中国の主権認めず 国際司法が初判断。地方税収、1.9兆円増 15年度40.4兆円に。世界でリスク回避後退 日経平均1万6000円回復。天皇陛下、生前退位の意向。個人消費1.1ポイント下方修正 今年度、政府見通し。財政基礎収支20年度赤字5兆円。

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1 コメント

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 (Unknown)
2016-07-20 06:05:44
>景気が低調なのだから、経済対策も悪くはない。

なぜ「潜在成長率が低いのだから、これ以上の経済政策は効かない」と素直に言えない・・・これがオールドケインジアンの宿命か

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