経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

教養としての社会保障の限界を超えて

2017年06月18日 | 社会保障
 解決策を探る時には、前提を置いて考えがちだ。経済成長の前提に将来推計人口を置いたり、社会保障を設計する際に成長率の見通しを基にしたりする。しかし、人口が減るから成長は見込めない、成長なしには財源が出ないので、少子化対策が打てないとなると、現状に適応するだけの縮小スパイラルへ陥ってしまう。こうした相互依存の難問を解くには、前提を崩す以外に道はない。

 香取照幸著『教養としての社会保障』は時代を切り取る一冊だ。香取さんは、霞が関の官僚として、数々の社会保障改革に関わり、直近では、企業主導型保育事業の実現に尽力した方である。雇用保険料引き下げの好機を捕らえ、年金保険料に付加する企業拠出金を引き上げて保育の財源を確保した手法は、今、話題の「こども保険」の原型になるものだ。そうした方の政策論は、社会保障にとどまらず、時代を知る上で欠かせないものである。

 一般の方にとって、社会保障の来歴、社会・経済・財政との関わり、将来の展望と具体策という本書の内容は、読みやすいし、とても有益だ。ただ、後輩の官僚の皆さんには、その限界も見極めつつ、これを超えるべく読み破ってもらいたい。ポイントは、社会・経済・財政の相互関係の理解と、これらへの社会保障の役割の位置づけだ。香取さんの見方は一般的なものだけに、新たな展望を開くには、彫琢が必要となる。

………
 まず、なぜ、日本はデフレになったかである。経済の成熟に伴う宿命なら前提とするしかないが、デフレは日本だけの現象だ。デフレは、1997年に、消費増税を主軸とする大規模な緊縮財政を行い、経済に需要ショックを与えたことで始まった。その後も、景気が回復しだすと、芽を摘むような緊縮財政を繰り返し、日本経済は長らく名目ゼロ成長に押し込められ、物的、人的、知的な投資に不足することとなった。

 実は、デフレになるまでは、財政赤字はさほどでなく、本当に危機的になったのは、成長を失ってからである。少し景気の回復を待ち、緩やかに財政再建をする経済運営をしていれば、こうはならなかった。そして、企業は、ゼロ成長に順応し、設備や人材への投資を絞り、資金を貯め込むようになる。経営者も、成長ができなければ、収益性と海外投資を追しかない。この結果、非正規労働が蔓延し、非婚と少子化、貧困と格差が拡大することになった。

 社会保障を考える上で、こうした現実を前提とすべきなのか。ところが、現実は、もっと先へと進んでいる。消費増税を先送りし、成長を優先した結果、財政収支は、社会保障基金を統合すると、2018年中には均衡するところまで漕ぎ着けた。すなわち、2019年の追加増税を収支改善に充てる必然性は消え、経済に需要ショックを与えず、成長を持続させるためには、むしろ、人的投資などに積極的に使うことが求められるのだ。

 香取さんのような、福祉充実には財源確保が不可欠という考え方は、真っ当なものではあるけれども、最新の状況を見ながら行わなければならない。殊に、国の財政は赤字でも、地方と社会保障基金の年金には、既に黒字が生じており、消費増税で国の赤字を詰めるなら、地方と年金の黒字を抑えないと、経済に大きなデフレ圧力が加わる。「年金は将来に備えて別腹」とは行かないのである。

(図)


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 経済と社会保障の統合戦略を考える場合には、供給力とマネーを分けて考える必要がある。年金局長でもあった香取さんは、「年金制度の仕組みは働いている現役世代が生み出した付加価値を生産から退いた高齢者に配ることなので、積立方式でも賦課方式でも本質的には同じ」と喝破する。生活を支えるモノやサービスは、その時の供給力に拠るのであって、利用請求権に過ぎないマネーの積み上がり具合ではない。

 では、少子化対策が不十分なままに、年金が黒字を出してマネーを積み上げるのは、適切なのか。今、子供を増やさなければ、将来の支え手は細ってしまう。供給力が乏しければ、お金を持っていても、インフレで減価するだけだ。ならば、今、子育てをする世代が、将来、自分たちが受ける予定の年金を前倒しで引き出すことを可能にし、保育や休業補償に使えるようにすれば良い。これは、経済的に合理的選択となる。香取さんは、企業がマネーを貯め込み、設備や人材に投資しないことを嘆くが、年金も同じことをしている。

 21世紀の経済の特徴は、供給力とマネーの分裂にある。緊縮財政で物価を抑制し、金融緩和で資産価格を高騰させ、バブル的な収益を求める。こうした経済思想が実物と信用を乖離させた。したがって、別に管理することが必要となる。消費増税で実物に課税し、財政や中央銀行の膨らんだ信用を返そうとするといった交錯した試みは悪手である。統合政府の負債は、利子配当課税や金融抑圧によって、管理しつつ包容すべきものだ。

 巨額の負債との同居は気味が悪いかもしれないが、本当に解消するとすれば、企業が必要な実物への投資を恐れた不合理な行動から発生し、政府の借金と裏腹に企業の貯蓄が成立した経緯からすれば、金融資産本体への課税で回収するのが合理的だ。しかし、政治的には、そうも行かない。次善の策として、財政赤字を必要悪として認め、管理で暴走を防ぎつつ、緩いインフレで長期的に溶かすほかないのである。

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 政府は、2014年の消費増税でも「景気後退はなかった」としたようだが、消費と成長に大打撃を与えたことは明白で、運良く外需に救われ、悲惨な事態を免れたに過ぎない。教訓に学ぶ正常な判断力があれば、2019年は、増税幅を1%に刻み、増税と同規模の歳出拡大を用意して、成長を損なわないようにするだろう。その際は、低所得者の社会保険料の軽減に使い、非正規の厚生年金への加入差別を一掃すべきである。

 これでは財政再建にならないと思うかもしれないが、そうではない。成長に伴い、次第に対象者は減り、長期的に収支改善に貢献する。しかも、労働供給を促進し、成長を押し上げることで、税収を伸ばす。就業を増やす以上のOJTはなく、これこそ人的投資と言えよう。低所得の多い保育や介護の待遇改善と人材確保にも役立つし、所得再分配の効果もあり、非正規に苦しむ母子家庭の助けともなろう。

 政策を志す若い人たちに心得てほしいのは、財政は国・地方・社会保障を連結して見ることと、経済を供給力とマネーで分けて考えることだ。昨今の苦境は、財政赤字の削減に焦って成長を損ない、物的、人的、知的な投資ができなくなったことによる。重要なのは、失敗に学ぶことであり、それが形作った現実を安易に前提とせず、相互に依存する前提を多方面から崩すような統合的アプローチを考案することである。


(今日までの日経)
 企業体力 喜べぬ最高、自己資本比率4割超え。育児支援はコストじゃない。FRB・0.25%利上げ、資産縮小9月も視野。需要、供給を超す・10-12月。
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6/14の日経

2017年06月14日 | 今日の日経
 人手不足だけど、賃金が上がらないのはなぜか。まったく、上がってないわけではなく、毎金の現金給与総額は、2016年以降、わずかずつではあるが、上がっている。パート・アルバイトの時給が上がっているのは周知のこと。他方、人手不足だが、フルタイムの求人増加数の1/4は医療介護だ。ここは公定価格で決まるから、上がりようがない。新規求人の増加は、全体では安定しているが、主力の交代が見られる。卸・小売は反動もあって減勢する中、建設が一時の低迷から復活し、製造が強まってきている。建設は一部で賃上げが目立っており、製造はこれからだろう。

(図)



(今日までの日経)
 待機児童解消、待遇改善・シニアが力。1年延命の公的支出どこまで。実質無借金 初の2000社超。自営業からの移動縮小へ・神林龍。
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ウォッチャーに見る景気の波及

2017年06月11日 | 経済
 「景気は何を見たらいいですか?」と聞かれれば、景気ウォッチャー調査を勧めることにしている。主観を対象にしたソフトデータであるものの、発表が早いし、先行性もあり、コメントが親しみやすく、納得感があるためだ。調査機関でも、第一生命研の齋藤麻菜さんとか、ニッセイ研の白波瀨康雄さんとか、若手が担当していて、経済を深める恰好の材料になっていると思う。お二人のレポートは、良く書けていて、いつも読ませてもらってますよ。

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 6/8公表の1-3月期GDP二次速報は、2.2%から1.0%成長に大きく下方修正され、ちょっとガッカリだった。在庫の違いに過ぎず、最終需要はほぼ同じだから、景気の評価に変わりはないのだが、一次速報の2%超の数字は、昨秋からの急速な景気回復を象徴していたからである。反動で4-6月期が高まるとしても、タイミングがズレた感じになる。そこで、今を表しているデータということで、5月分が出た景気ウォッチャー調査を取り上げよう。

 ウォッチャーの長所は敏感な反応だが、激しくて局面がつかみにくいところがある。例えば、季節調整値で見ると、昨秋に回復し、今は後退しているようにも見える。そこで、原始的手法だが、12か月移動平均を取り、原数値と重ね合わせたのが下図である。昨年前半が景気の底だったこともあって、今が緩やかな上昇局面にあることが分かるだろう。そして、原数値が移動平均を上回っていることが加速を示している。

 興味深いのは、移動平均で見ると、景気が波及する前後関係が分かることだ。底離れの月を見ると、企業動向関連が9月、雇用関連が10月、家計動向関連が11月となる。輸出などの追加的需要で、企業活動が上向き、所得が増して、消費が伸びるという順番だ。経済がどのように動くものなのかを、端的に示している。順番からすると、消費はようやく、物価はこれからという局面だろう。

(図1)



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 さらに、ウォッチャーを分解していくと、景気の特徴が手に取るように分かる。次の図は、家計と企業関連の中分類だ。住宅は、消費増税の駆け込みで早くから盛り上がり、大きく下降して、景気を振り回した。そして、足下では、伸び切り感が強い。家計では、小売りに増税前の駆け込みが見られるのは当然だが、飲食やサービスにも高揚感があった。足下では、飲食やサービスに小売り以上の勢いがあり、賃金や物価への波及が期待される。

 また、企業関連を製造業、非製造業の別で見ると、円安基調が長ったにも拘わらず、輸出を担う製造業より非製造業の方が総じて景況観が良い。さすがに、昨秋からの輸出増の局面では、製造業が加速したが、足下では一服し、非製造業が追い越すように高まっている。輸出からの消費への波及がうかがわれるし、非製造業には、インバウンドや底堅い通信が含まれていることもあろう。

 更に分解して小売りの小分類を見ると、家電や自動車は、昨年半ばの比較的早い時期に回復していたことが分かる。通信もそうで、思い返せば、このあたりから景気回復の兆しが出ていたわけだ。他方、百貨店の底入れは、円安になった秋からで、その代わり回復は急だ。衣料も秋以降で、足元で緩やかな回復を見せる。そして、純全たる内需を示すスーパーは、物価高もあってか、底入れを果たしただけで動きは鈍い。

(図2)


(図3)



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 1-3月期GDPは1.0%成長に終わったが、6/7公表の4月消費活動指数は意外に高く、前月比+1.3、前期比+1.1と、4-6月期の高成長を期待させる結果だった。同日の総雇用者所得も、前月比+0.6、前期比+0.5と好調である。そして、5月の消費者態度指数は前月比+0.8であり、揺れつつも着実に水準を上げている。むろん、5月景気ウォッチャーも前月比0.8と着実な回復ぶりだ。

 景気ウォッチャー調査は、21世紀の統計だから歴史も浅く、分析についても、季節調整値が発表のメインになったのが昨秋からと、いろいろ工夫や開発の余地があって、おもしろい知見も、まだまだ引き出せるように思う。その意味で、若手の挑戦と活躍を期待したい。なにしろ、筆者も歳でね。今回のコラムには十数枚のグラフを要し、さすがに体がきつい。誰かやってくれないかなというのが正直な心境だ。


(今日までの日経)
 国の税収、7年ぶり減。法人税、好業績でも伸びず。米景気・車前年割れ、不動産過熱。骨太決定、社会保障・財政落第。GDP下方修正、原油在庫減、かく乱。街角景気、5月も改善。親切コストの見える化・中島隆信。一致指数 増税前超え。JDI誤算の連鎖。5G通信5兆円投資。内定率早くも63%。採用増したい 首位秋田大。佐川が週休3日制。企業主導型保育所、開設急ピッチ。ソフトバンク、定休日導入。

※財政が落第とは、驚くべき認識だ。財政収支は増税見送りの年にも大幅に改善している。エコノミストは数字で評価すべき。
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アベノミクス・4月はロケットスタート

2017年06月04日 | 経済(主なもの)
 4月の経済指標は極めて好調だ。2.2%成長を達成した1-3月期は、2次速報で上方修正が予想されており、4-6月期に入っても、その勢いは続いている。「雇用は増えても、消費は」と言われてきたが、消費中心の成長となっている。次は、物価上昇が見られるだろう。日本経済は、0% 台前半の成長力しかないと見限られていたが、大方の予想を超える健闘ぶりを見せている。特に改革をしたわけではないにもかかわらず。

………
 4月の商業動態の小売業は、前月比+1.4と急伸した。CPIの財が+0.2であったし、インバウンドも含むので、割り引く必要はあるが、4-6月期に消費が2%超の成長を確保するのに、かなりの「貯金」となった。特に、車と衣料が大きく伸びている。これらは振れやすい項目のため、5,6月に反動減が出るだろうが、仮に3月の水準まで戻ったとしても、4-6月期の平均は、前期比+0.7になる。

 5月のデータは、まだ断片に過ぎないにせよ、意外なほど好調だ。車は、引き続き、前年同月を上回り、衣料も、一部企業では良かったようである。ソフトデータの5月の消費動向調査は前月比+0.2となり、季節調整値ではジグザグだが、12か月移動平均で見ると、4月と同様、加速感もある。むろん、消費の背景となる4月の雇用は拡大しているわけだし、遠景にある輸出や建設財出荷も順調だ。

 また、4月の家計調査では、消費水準指数が前月比+2.8にもなった。4月の-2.0の取り戻しが大部分を占めるものの、この半年ほど、大きな振幅の中で回復傾向が見られる。家計調査は、庶民的であり、弱さが大きく出がちで、景気の陰った2015年秋から、被服履物と住居が大きく崩れた。それが、昨年秋に至り、ようやく底入れを果たし、ここに来て、被服履物が上向くまでになった。

 消費と裏表となる物価は、カギとなるサービス(除く帰属家賃)が、極めて緩慢ながらも、上昇を続けている。この数か月は、通信等が落ちて下振れしていたが、4月はトレンドへ戻った。財については、国民生活の上では安定が望ましいけれども、昨秋以来の円安と原油高により、上昇へと転じている。消費が強まるに連れ、物価が高まるのは必然的だ。足下では、実質GDPの家計消費(除く帰属家賃)と政府消費の合計が増税前水準に肩を並べるところに来ており、始まるのは、これからである。

(図)



………
 供給面に目を移すと、4月の鉱工業指数は、前月比+4.0となり、一段と水準を高めた。生産予測も、5月-2.5、6月+1.8と順調である。このままなら、4-6月期は、前期比2%超の高いものとなる。こうした動きは、今後の輸出増を見越したものと言えよう。もう一つの景気の起動力である建設は、4月の建設財生産が+2.0、5月予測が-2.0、6月が+0.4と一進一退だ。住宅投資が頭打ちになっている状況からすれば、満足すべきものだろう。

 設備投資を占う資本財(除く輸送機械)は、更なる高まりを見せている。外需を多く含むと思われるが、4月生産は+8.2、5月予測が+2.8、6月が+1.4である。鉱工業生産の全体以上に資本財が高まるというのは、景気拡大期の典型だ。他方、消費財の生産は、下げては上げを繰り返しているものの、着実に水準を上乗せしている。主役の車は、輸出も好調だが、国内でも売れている。消費財の生産や出荷が増税前水準を超えるのも、間もなくであろう。

 雇用については、有効求人倍率のバブル期超えが話題となったが、女性向きの福祉介護のパートが多いなど、かつてとは質的な違いもある。焦点は、男性の就業者数で、4月の労働力調査では+4万人だった。鈍いながらも増えているとは言え、内訳の雇用者数が低調なのは気になる。新規求人では、建設、製造、運輸といった男性向きのフルタイムの求人が増えているので、今後の浮上に期待したい。

………
 昨年後半からの景気回復局面は、輸出増に、住宅と企業の建設投資が加勢することで始まった。足下では、住宅投資は一服し、引き続き、輸出が牽引する中で、成長は消費へと波及してきた。追加的需要を起点に、雇用増、消費増というパターンであり、消費が増税前水準を超えるようになれば、おのずと物価上昇へつながるだろう。景気は、波及を知ることが大切であり、波に乗ることこそ、経済運営の要諦となる。

 消費は、景気ウォッチャーの動きからすると、まず、車と家電が上昇し、次いで、インバウンドに恵まれた百貨店が続き、足下で、衣料とコンビニが上向き、スーパーはこれからという感じだ。車と家電は、消費増税前の駆込み需要から3年が経ち、買い替え時期が回ってきただけとも言えるが、先送りされなかったのは、景気が順調であればこそだ。こうして、チャンスを活かしながら、景気は加速していく。それは改革に勝るのである。


(今日までの日経)
 出生数 初の100万人割れ。世界の株、時価総額最高。日銀総資産500兆円。設備投資、リーマン前回復・法人統計。所得税収 前年割れ。
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6/1の日経

2017年06月01日 | 今日の日経
 4月の経済指標は、どれも好調だった。あえて言えば、労働力調査の男性雇用者がダレていたのが気がかりなくらいか。新規求人では、引き続き、建設、製造が高めで、運輸も上げてきおり、男性には追い風になっている。とは言え、ロスジェネの氷河期世代は、最後まで課題として残るかもしれない。高度成長期でさえ、中高年の離職者の問題はあったからね。過去の失敗の傷を癒すのは大変だよ。


(今日までの日経)
 外国人を大量採用・派遣エンジニア。待機児童ゼロ 3年先送り。財政目標に新指標。ビール安売り今日から規制。幼児教育 早期に無償化・骨太。「こども保険」構想どう見る。アマゾン・最安値要求撤回、独禁法調査受け。雇用改善正社員も4月求人倍率 最高の0.97。
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