経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の教え

補正により3兆円の緊縮財政に

2016年08月28日 | 経済
 8/24に補正予算案が閣議決定され、各紙には財政規律への懸念が並んだ。しかし、2016年度は、5.8兆円の緊縮財政を予定していたのであり、これが3.1兆円に緩和されただけのことだ。すなわち、財政を締め過ぎて景気が低迷し、慌てて緩めようとするもので、またしても、日本の得意技・財政ストップ&ゴーの発動だ。こうした無計画さ、不安定さが、企業の投資意欲を殺ぎ、成長を阻害するのである。

………
 本コラムで以前に書いたとおり、2016年度は、前年補正で0.4兆円、当初予算で2.4兆円、地方財政で0.8兆円、厚生年金で1.2兆円、日銀の積立てで0.9兆円の計5.8兆円、名目GDP比で1.1%超の緊縮財政を予定していた。日本は、2014~16年度の3年間、GDP比で平均1.2%もの緊縮財政の重荷を背負わせてきたのだから、2015年以降、ほとんど成長できていないのも仕方あるまい。

 日本の潜在成長率は0%台前半とも言われるが、1999年以降、内需の長期トレンドは1.0%であり、民間消費については、リーマンや大震災のショックで落ち込んだ後は、元のトレンドに戻るような高成長すら見せている。こうしたことからすれば、1%を超える緊縮財政を課す経済運営には無理がある。せいぜい0.5%程度の緊縮に抑え、成長との両立を図るべきであろう。

 今回の補正予算では、2.8兆円の建設国債が増発される。皆、もう忘れていると思うが、当初予算では、2.4兆円の国債減額がなされたので、まさに「行って来い」である。こんなことなら、初めから緊縮にしなければ良い。おまけに、「赤字国債の増発ではない」と胸を張るが、「行って来い」にしたために、使途が公共事業に限られることになり、最善のものを選べなくなっている。

 このように、少子化対策や働き方改革といった国民の望む喫緊の課題を後回しにし、財政の都合だけで、やたら緊縮にしたり、急に公共事業にバラまいたりするから、財政は信用を失い、成長力も高まらない。社会的、経済的な必要性より、目先の財政の屁理屈が最優先にされる結果、かつて盤石を誇った民心や競争力は蝕まれ、惨めな様子が散見されるようになった。「財政再建は喫緊の課題」と20年優先し続けた結果が今の日本の人口崩壊である。

………
 経済対策は、2017年度予算にも及ぶらしいが、どういう形になるのだろう。仮に、今回の教訓にかんがみ、緊縮財政を名目GDP比0.5%程度にとどめるとすると、地方と年金が2016年度並みの2.0兆円の緊縮なら、国は0.6兆円の緊縮しかできない。他方、税収は、経済見通しの年央試算を踏まえると、2016年度は予算とほぼ同額の57.7兆円、2017年度は59.7兆円になるだろう。つまり、2.0兆円の増だから、1.4兆円も歳出を増やさないといけない。

 日経によれば、2017年度予算では、最大項目の社会保障費を0.5兆円の増に抑制するようだから、またまた締め過ぎになりそうである。そうなると、またまた補正予算が必要になり、またまたバラまきがなされるという無限ループである。GDP比0.5%の緊縮財政にとどめると言うと、甘く聞こえるかもしれないが、「中長期の経済財政試算」における2018年度以降の平均ペースは0.4%であり、十分なものだ。

 むろん、この0.4%というペースでは、2020年度に基礎的収支をゼロにする財政再建目標には間に合わず、2年遅れとなる。実際には、2017年度の税収は、政府試算より若干上ブレし、2021年度くらいの到達だろう。大事なのは、目標年度に拘るあまり、一気の緊縮で成長を損なわないことだ。多少、達成する年度は遅れようと、緩やかでも着実に財政収支を改善することが早道である。

(図)



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 2017年度予算で1.4兆円も歳出が伸ばせるなら、保育の充実はすんなりできるし、130万円の壁をスロープに変えることも可能だ。これでパートとフルを自由に行き来できるようになれば、働き方は柔軟になり、労働供給力も高まり、企業経営も楽になる。労働改革と言うと、残業や解雇の規制緩和に拘泥しているが、それらがなぜ成長力の強化に結び付くのか、筆者には理解しかねる。利点は「金を使わない改革」というだけではないか。

 もっとも、現実には、手前勝手な財政ルールが優先され、金を惜しむがゆえに改革は遅れ、この国は更に劣化していくに違いない。今年度、締め過ぎたために、緩めざるを得なくなったという教訓は生かされないまま、失態のループは続く。反省も進歩もなく、只々、目の前のタスクに熱中し、「次年度も『当初』の歳出増は5000億円に抑えました」と得意満面になるエリートが舵取りする国の運命とは、そういうものだ。


(今週の日経)
 FRB議長「米、利上げ条件整う」。 社会保障費伸び、5000億円に抑制狙う。消費者物価7月0.5%下落、年内はマイナス圏か。経済対策二段構え 2次補正、まず国費4.5兆円 公共工事積み増し。最低賃金25円アップ 上げ幅最大、平均時給823円。 日本の医療費、世界でも高額
対GDP 新基準で順位急上昇。
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消費増税による屈曲からの脱出

2016年08月21日 | 経済
 春季の経済学会のセッションで「エビデンスに基づく政策」が議論されたようだが、8%消費増税によって、消費が屈曲し、ゼロ成長状態に陥ったというエビデンスは、どう活かされるのだろうか。どれほど国民経済にとって重要であろうと、権威に都合が悪いことは、研究の課題には上がらないのかもしれない。学者の世界にしても、人事が最大の関心事なのだから、仕方のないことではある。

………
 月曜公表の4-6月期GDPでは、民間消費は307.6兆円と、消費増税から2年経つのに、1.6兆円しか増えていない。リーマンショックや東日本大震災の際は、底から1年内に、従前の水準を回復できたのに、未だに駆け込み前の水準から7兆円ものギャップがある。二つの災厄とは異なり、V字回復を示さず、L字となったのたから、単発のショックでなく、永続的に影響を及ぼすような「何か」を原因とすべきだろう。

 4-6月期GDPは、実質成長率が年率0.2%になり、辛うじてマイナス成長を免れた。大きな要因は、外需の寄与度が-0.3と、内需の0.3を相殺したことだ。その中で、民間消費は、前期比0.16%、寄与度0.1だった。うるう年要因で低めに出ていることを勘案すれば、まずまずの結果だろう。目安としては、長期トレンドの0.26%を確保したいからである。これを、住宅と公共事業が共に寄与度0.1で支えている。

 1997年の消費増税の場合も、2年経って、ようやく消費が増加傾向になったが、その背景には、公共事業の復元、住宅の底入れ、輸出増への転換があった。増税後の重みの下、消費を浮揚させるには、そうした牽引役がないと、なかなか難しい。金曜に出た6月の全産業活動指数では、住宅と公共は増加傾向を保つことができた。また、木曜の7月の日銀・実質輸出は、前月比では大きく低下したものの、前々月よりは高く、弱いながらも増加傾向である。

 ここで消費の源となる雇用者の懐具合を知るために、毎月勤労統計を見ると、実質賃金×常用雇用は、今年に入って、加速していることが分かる。このことは、内閣府の月次・総雇用者所得では、より鮮明である。大事なのは、この動きを、住宅、公共、輸出の3つの牽引役を使いつつ、加速していくことだ。今の経済構造は、賃金を増やしても、消費税や社会保険料で中抜きされるため、消費増に結び付きにくい。それだけに、適切な需要管理を心掛け、脱出速度を確保しなればならない。

(図)



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 今回の4-6月期GDPの一般的な評価は、「低迷続く」というものだろう。しかし、足元では成長を取り戻そうとする動きが見られる。これを徐々に育てていく態度が必要だ。今の日本では、「どうせ成長しないから、景気度外視で財政再建をするしかない」とか、「金融緩和や景気対策を吹かせば、一気に回復できる」とか、荒っぽい議論が多い。それによって、成長には最も重要で、大して政策コストのかからない「需要の安定」が害されてきている。

 10%消費増税の二度にわたる先送りは、消費への悪影響の実績を踏まえれば、極めて現実的な判断だ。8%消費増税による消費の屈曲を認めないのでは、経済学者の現実感が疑われるだけだろう。国民が必要とする研究の課題は、どうやって成長を取り戻すかであり、いかに成長と財政再建を両立させるかである。現実を受け入れられず、処方箋も考えないのでは、日本の学者は居ないのと同じで、米国の学者が頼りにされてしまうのは、恥ずかしながら当然ではないか。


(今週の日経)
 円高で内部留保最高。今年度成長率予測・実質0.6%。スーパー店頭物価下落。輸出7月14%減。経済学会、安倍政権との溝深く。「月末金曜」に消費喚起・政府と経済界。家計調査・スマホ入力。意図せぬ円高99円台。GDP・夏以降も低成長予想。GDP統計、透ける課題。

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異次元緩和のマクロ経済的な検証

2016年08月14日 | 経済
 日銀は、9月の金融政策決定会合で「異次元緩和」の総括的な検証を行うらしい。まさか、「一気の消費増税を始めとする緊縮財政で消費が減退し、2年で2%の物価目標は達成できませんでした」という、正直かつ正当な表明がなされるとは思われない。せめて、消費増税を間に挟み、異次元緩和ⅠとⅡを分けて、功罪を論じてもらいたいところだ。

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 企業活動は、需要を見ながらなされているため、追加的な3需要、すなわち、住宅、公共、輸出が景気の先行きを左右する。3需要が景気を先導し、設備や人材への投資がなされ、所得が増え、消費が伸び、それらの需要が更に企業活動を刺激する。これが実際の経済のメカニズムであり、経済運営の要諦は、3需要による景気の起動と、需要の好循環の実現による景気の展開を図ることにある。

 金融緩和は、ローンの低下を通じて住宅に、自国通貨安を通じて輸出に効く。したがって、金融緩和が成功したか否かは、これらを検証すれば良い。前回の図で分かるように、異様な円高のために、2012年春から下り坂にあった輸出は、2013年に入ると反転した。2013年4月の異次元緩和Ⅰ前後の円安による功績と見て良かろう。加えて、海外旅行の国内への移行、外国人旅客の増大も挙げられる。

 住宅は、2013年春頃から急増している。多分に消費増税を見越した駆け込みの始まりだろうが、金融緩和の功績に数えることも可能だ。こうした輸出や住宅の動向を見れば、異次元緩和Ⅰは成功だったと評価できる。並行して、財政出動による公共の増大も景気を浮揚させており、これを低金利で支えてもいる。ここまでは、アベノミクスは順調だった。消費増税の春を迎えぬうちは。

(前回の図)



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 物価は、需要が供給より強いときに上がる。そんな教科書のイロハを無視し、一気の消費増税で需要を抜いておいて、物価が上がると思う方がどうかしている。あとは、このデフレ要因を覆すほどの事象が起こり得るかである。既に、公共と住宅は、執行や供給が困難なくらい伸び切っていた。したがって、本コラムは、2014年に入っても大幅な輸出拡大が見られないことをもって、アベノミクスの失敗を予言し、実際、そのとおりとなった。

 日本だけが消費増税で不況になるのは変だとの声も聞くが、日本の場合、住宅にも課しており、これが駆け込みと反動以上の景気変動のうねりを生む。同じ図で分かるように、今回も急落し、景気の足を引っ張っている。その際、これに抗するように、2014年夏頃から、公共と輸出の増が支えになったことは幸いだった。それらで持ち堪えていなければ、1997年のようなデフレ・スパイラルが勃発しかねなかった。

 こうして迎えた、2014年10月末の異次元緩和Ⅱは、どう評価すべきか。住宅は、2014年末に底入れしたから、自律的な動きとしても、効果なしとは言えまい。問題は、輸出で、急増したものの、すぐに崩れている。おそらく、急な円安をチャンスと見て、春節前に生産と輸出を急増させ、その反動が出たと思われる。つまり、攪乱させただけだった。その後、異次元緩和Ⅱは、輸入物価を上げて、消費に悪影響を与え、そうこうするうち、2015年末の米国のゼロ金利解除を受け、無理な円安水準は、年明けに瓦解する。結局、功なしと判ずべきであろう。

 なぜ、日銀は、異次元緩和Ⅱを断行したのか。そこには、追加の消費増税を実現させようという不純な動機がある。これに肉薄したのが、元TBS記者の山口敬之さんが書いた『総理』である。今にして思えば、増税なんぞしていたら、輸出の崩れと合わさり、相当、悲惨なことになっていただろう。円安株高に幻惑されず、増税路線を排除できたことは、大きな岐路であった。

………
 消費増税後、日本経済は、消費が減っただけでなく、成長もしなくなった。そこで、景気を先導する3需要の指数を合成したものと、消費総合指数を重ね合わせてみよう。合成は、GDPでの規模(住宅:公共:輸出=1:1.6:6.8)で重み付けして足し上げ、適当な数(9.2)で割ったものだ。下図のとおり、その動向は、1か月前の消費と非常に一致していることが分かる。1か月のズレは生産してから輸出するためだろう。

 異次元緩和Ⅱ後の輸出の急増と崩れ、2015年秋の公共の減退と、消費増税後も、経済は揺さぶられどうしである。「3需要で景気を牽引せよ」とまでは言わないが、せめて、攪乱するようなまねをせず、安定させる必要がある。変動リスクにさらされれば、設備や人材への投資は加速しないし、好循環は、ただでさえ消費税や社会保険料の自動ブレーキが重いため、望みがたくなる。

 消費、そして、経済の低迷は、心理や天候を持ち出さなくても、追加的な生産活動の動きで理解可能だ。活発になれば、収入が増えて消費が伸び、消沈すると、収入が減って消費が萎む。ごく単純な理屈である。金融政策について言えば、ひたすら緩和して、やたらと円安にすれば良いというものでなく、頃合いが肝要であったと評せよう。その意味で、異次元緩和は、ⅠとⅡに分けるべきなのだ。

(図)



(今週の日経)
 研究開発の投資総額は2.3%増どまり。マイナス金利で3000億円減益・金融庁。消費者物価0.1%押し上げ・基準改定。やむなく非正規含むと失業率は8%台。機械受注7~9月5.2%増。天皇陛下 生前退位を示唆。配偶者控除、夫婦に転換。街角景気・持ち直しの兆し。
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経済対策よりも必要とされること

2016年08月07日 | 経済
 28兆円の経済対策が決定されたが、確実なのは、補正予算が前年度より0.7兆円増えるということだけで、あとは、前年度との比較で、本当に需要を増加させるものなのかは不透明である。このような需要管理が十分になされていないことが、日本の経済運営の大きな欠陥であるように思われる。

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 景気の原動力は、企業活動が反映される設備投資にある。その設備投資は、追加的需要を見ながらなされており、具体的には、輸出、住宅、公共の三つである。バブルが癒えた1995年からリーマンショック前の2008年までは、2四半期前のこれらによって、ほぼ完全に説明できていた。とりわけ、輸出の影響は大きく、これがあって、財政当局は金融緩和による円安を非常に好むわけである。

 3需要の最近の動きを、全産業活動指数と日銀実質輸出で見ると、アベノミクス開始の2013年に、公共が持ち上がり、住宅も伸びて、財政出動と金融緩和が上手くかみ合っていたことが分かる。消費増税があった2014年以降は、公共が波を打ち、住宅は駆け込みの反動減に入る。問題なのは、2015年後半に、公共が大きく後退したことだ。消費増税の傷が癒えていないのに、あえて公共を抜くようでは、景気が調子を崩すのは当然だろう。

 折悪しく、秋に入ると、住宅も小さな停滞局面に入り、続いて、輸出まで、まったく伸びない状態となった。昨年秋からの軽い景気後退は、こうして形作られたと考えられる。少なくとも、天候が悪いとか、家計調査がおかしいとするよりは、説得的だろう。そして、足元における景気回復は、公共と輸出の底入れと、住宅の再上昇が背景にあると見られる。

 公共は、前倒し執行が始まり、経済対策でも追加されるようなので、景気回復を押し上げる側に回るだろう。若干、心配なのは住宅で、消費増税後の反動減からの回復は、終わりに近いと思われる。また、海外要因で、輸出に異変が起こらないことも願いたい。それにしても、公共を、いったん抜いておいて、景気が陰ると、また戻すというのでなく、安定的に運営してほしい。財政が景気変動を作っていては話にならない。

(図)



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 8/5に厚生年金の2015年度決算が発表され、積立金の運用損が話題となった。しかし、景気を考える上で注目すべきは、そこではなく、基礎的な収支が1兆円改善し、経済には、その分だけデフレ圧力が加わっていたという事実である。おかげで、積立金を運用するGPIFからの納付金が6年ぶりにゼロだったにも関わらず、昨年に続き、積立金を取り崩さずに済んでいる。

 収支改善の大きな要因は、保険料収入が前年度より1.5兆円、5.8%増えたことだ。毎年の保険料の引き上げが2%程だから、残りは雇用と賃金の増加によるものである。他方、給付費等は、特例水準の引き下げもあり、2.4%増に抑制されている。このように、社会保険は、景気回復期には、ブレーキをかけるように働く。ビルドイン・スタビライザーではあるが、デフレからの脱出に速度が必要とされるときには、これを考慮に入れた財政運営がなされなければならない。

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 アベノミクスは、2013年までは成功で、2014年の一気の消費増税は失敗という評価だろう。2014年10月末の異次元緩和Ⅱも、一時的に輸出が増えたが、2015年に入ると、すぐに反動が来た上、輸入物価への悪影響が目立つようになった。その中で、緊縮財政を継続するという無策のまま推移した。2016年に入って、円高株安、熊本地震、英国EU離脱で、ようやく、変わろうとしている。ヘリマネ論議も面白かろうが、もう少し、実態に即した分析に目を向けるべきではなかろうか。


(今週の日経)
 日本国債・綻ぶ鉄の三角形。米雇用25.4万人増。社会保障給付費112兆円。年金積立金4年ぶり減。設備投資10.9%増・政投銀調査。配偶者手当廃止・人事院勧告。経済対策28兆円決定。
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アベノミクス・無策の中の回復

2016年07月31日 | 経済(主なもの)
 6月の経済指標は景気回復が一歩進んだことを示した。緊縮財政の下、昨秋から景気が後退し出しても放置され、年明けの円高株安に驚愕し、熊本地震と英国EU離脱で慌てて対策に走り、とうとう日銀まで動員したが、今時分には、物価安の下支えもあり、景気は癒えているという顛末だ。なぜ、日本経済は低調なのか、これだけ場当たり的なら、当然だろう。しかも、これを嘆くのは、本コラムくらいというのも寂しい。

………
 日経は、6月家計調査の結果について、前年同月比-2.2%を強調するけれども、本コラムが重視する二人以上世帯における実質消費支出の季節調整済指数は、前月比+0.4であった。下図の橙線で分かるように、昨秋からの後退を埋め合わせるところまで来ている。鉱工業指数の消費財出荷も前月比プラスだったことからすれば、6月の消費総合指数は、悪くとも横バイが見込めよう。そうすると、4-6月期は+0.5程になるのではないか。

 この水準は、消費増税後では最も高く、これだけ伸びれば、4-6月期GDPは、明確なプラス成長となろう。前期のうるう年要因の押上げの反動のために、低く出る可能性はあるものの、消費の実態は、10-12月期-0.8の後、1-3月期+0.7に続き、4-6月期+0.5という流れとなる。2期連続のプラスは1年ぶりだ。焦点は、ここから更に伸びて行くかであり、可能性は十分ある。

 まず、家計調査の名目実収入は、順調に伸びて来ており、物価減速によって、実質値は更に押し上げられている。そして、雇用の改善は、衆目の一致するところだ。先週示した5月毎勤の図でも分かるし、6月の労働力調査は、就業者数が前月から大きく伸び、雇用者も堅調であった。6月の有効求人倍率は、1.37倍と+0.01上昇した。ちなみに、沖縄が初めて1倍を超え、全都道府県が達成するに至った。インバウンドが大きく、2011年の底からの3倍増を実現した沖縄こそ、アベノミクスの最大受益者かもしれない。

(図)



………
 6月の鉱工業指数は、世間の悲観に反し、高めの数字となり、4-6月期は、生産、出荷とも、確実視されたマイナスを免れた。7月、8月の予測も、+2.4、+2.3と強い。在庫は前期比+0.4と大きな変動はなかった。設備投資を占う資本財(除く輸送機械)の出荷は、前月比+0.6で、4-6月期の前期比が+3.4と、実に5四半期ぶりのプラスだ。また、建設財出荷は、前月比+4.1で、前期比が-0.2となり、下げ止まりを見せている。消費財出荷も、先月比+0.9により、前期比が0.0と底入れした。これらは、先月に記した期待どおりの動きである。

 以上を踏まえれば、設備、建設、在庫の各投資項目がGDPの足を大きく引っ張るとは思われず、外需は、ニッセイ研の斎藤太郎さんによると、寄与度-0.0のようであるから、やはり、4-6月期GDPは、消費の動向次第となろう。日経の民間調査機関のGDP予測の平均は年率0.5%だが、うるう年の影響が読み難いせいか、バラついている。意外な高成長に振れる可能性も指摘しておきたい。

 こうした中、日経によると、経済対策は、補正予算を4兆円とし、2017年度予算で2.1兆円分を用意するようだ。昨年度の補正予算は3.3兆円だったから、前年度比+0.7兆円であり、増要因は、大半が熊本地震の予備費の組み込みだろう。また、2017年度予算の税収は、前年度比2.1兆円増が見込めるので、歳出を対策分だけ拡大させたとしても、財政は中立となる。アベノミクスのエンジンを吹かすとは、こういうものらしい。

 やたらと補正に積まず、本予算を拡大する方向は、本コラムの主張でもあり、これは評価できる。緊縮をやめ、中立にするだけでも、経済動向無視の日本財政にとっては、大きな一歩だ。中長期の財政財政の試算では、2017年度にGDP比で0.9%も赤字を詰めることになっているが、これには無理があり、ギャップを均すものになる。日経も、当局以上に、急進派の主張にならぬよう注意したい。

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 景気の先導役は、いつも、輸出、住宅、財政の三つであり、これらの追加的需要から、設備投資、賃金、消費へと需要増の輪が自然に広がってゆく。昨秋からの軽い景気後退は、三つの減退が重なり、春からの回復は、三つの底入れによるものだ。経済運営の要諦は、需要の安定を第一とし、無闇な緊縮を試みて輪の拡大を壊さないことである。需要さえ安定していれば、低金利が効き、民草の創意工夫による生産性の向上で自然に成長する。

 日本のエリートの誤りは、財政赤字に焦って需要を抜き、異様なまでの金融緩和を無効化しているとも知らず、上からの「改革」だの、「戦略」だので、成長を実現できると信じていることだ。それでいて、130万円の壁のような成長を阻害する不合理な制度があっても、壁をスロープに変えるのに財源が要ると一知半解すると、威勢が消えて緩慢になる。小出しで手遅れとなり、人口崩壊を余儀なくされた少子化対策の二の舞が見えている。

 本コラムは、毎月の「アベノミクス」シリーズで、経済動向を正確に読み取って見せてきたが、これは予測能力を誇りたいわけではなく、需要重視のコンセプトが、いかに現実を見通せるかを示すためである。また、不合理な制度は、設計次第で、経済的メリットにより、無理なく是正できるものだ。閉塞感があるのは、財政再建至上主義に囚われて、多くの可能性を自ら捨てているだけのことである。


(今週の日経)
 追加緩和、政府と歩調・日銀。経済対策 補正で4兆円。GPIFの15年度運用損5.3兆円。GDP、マイナス予想も。平均寿命 男女とも最高。最低賃金24円上げ、過去最大。基礎収支5.5兆円赤字の試算。

※はるこさん、ありがとう。訂正済。6,8,9が目に厳しいこの頃です。
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