経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

金利で動かない設備投資を動かすもの

2023年08月27日 | 経済
 金融政策では設備投資は動かない。動かすのは輸出と住宅である。需要があれば供給を増やすべく設備投資をするという平凡な理屈である。他方、増税で消費を減らせば、消費向けの設備投資が萎むから、全体としては景気が加速せず、デフレが続く。なまじ、金利が投資を調整するという教科書的知識があると、かえって、現実が見えなくなり、リフレで解決といった「宗教」に陥るのである。

………
 4-6月期GDP1次速報のグラフを素直に眺めると、設備投資の動向が輸出によく似ていることが分かるだろう。そこで、回帰分析という手法を用いて、輸出と住宅で予測値を作ると、ピッタリ重なってくる。専門的には、2010~19年をサンプルに、コクランオーカット法でゼロ切片にすると、重決定R2が0.999くらいになる。要するに、設備投資はほとんど説明できるという意味である。

 2013年の黒田日銀の異次元緩和は、円安にして、輸出を増やし、設備投資を促したから、大成功と言える。しかし、2014年の異次元緩和Ⅱは、更なる円安にしたが、輸出は増えなかった。2016年のマイナス金利に至っては、円安にすらなっていない。金融政策は通貨安による輸出増に使うという公言できぬ悪辣さが肝要であり、円安が景気の害悪になっても金融緩和を改めないようでは、教条に過ぎよう。

 金融緩和は、通貨安とローンを通じて、輸出と住宅を促し、その需要が設備投資を導くから、金融緩和が設備投資に効くようにも見えるが、間接的なので、経路が切れていれば、当然、無効となる。本質的には、設備投資は需要に応じるものなのだ。このことは、鶏と卵の困った関係をもたらす。需要は、究極的には、新たな所得を産み出す設備投資から生じるものだからである。

 このため、設備投資の水準が低い経済では、いつまでも低成長から脱せないし、いったん高くなると、なかなかインフレが収まらなくなる。かつての日本が高成長を果たせたのは、輸出をテコに高められたからだし、デフレに長く苦しんだのは、1997年の極端な緊縮財政で需要ショックを与え、設備投資の水準を落としたからだった。設備投資が需要に応じるということは、金利や雇用がどうあろうと、動き難いことを意味する。

(図) 


………
 需要の動向で設備投資の水準が決まり、成長率が定まり、労働供給との対比で物価上昇率も応じる。金利が設備投資を動かさない以上、経済を安定させる中立金利は存在せず、最適な金利水準もないから、金融政策は本質的に無意味である。せいぜい、輸出と住宅に影響を与えて、多少、需要を動かすのに貢献するだけだ。米国の2022年からの引締め局面は、それを端的に示すものである。

 中国に目を転ずれば、ゼロコロナ解除後も盛り上がらないままであり、輸出や住宅で起動させないと、成長の回復はおぼつかないことになる。それができないと「日本化」だが、先行きは厳しそうだ。その日本は、コロナ対応で抑制されていた消費が解放され、弱いながらも起動したから、これを上手く循環させられるかが焦点になる。いずれにせよ、設備投資、そして、成長を加速するには、需要の調節次第である。


(今日までの日経)
 「強欲インフレ」欧州覆う。FRB議長、米物価鎮圧「長い道のり」。積極融資の姿勢に陰り 銀行の態度、14年ぶり厳しさ。海外マネー、脱中国加速。携帯3社、実質値上げ。


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 住宅と為替に効いて設備投資... | トップ | 8/30の日経 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

経済」カテゴリの最新記事