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●科学技術書・理工学書<ブックレビュー>●「宇宙からみた生命史」(小林憲正著/筑摩書房)

2016-11-17 10:11:13 |    宇宙・地球

書名:宇宙からみた生命史

著者:小林憲正  

発行:筑摩書房(ちくま新書)

目次:第1章 われわれは宇宙の中心か―天動説から地動説へ
    第2章 われわれは何者か―ガラパゴス化した地球生命
    第3章 われわれはどこから来たのか1―生命誕生の謎
    第4章 われわれはどこから来たのか2―生命進化の謎
    第5章 太陽系に仲間はいるか―古いハビタブルゾーンを超えて
    第6章 太陽系外に生命を探る―系外惑星とSETI
    第7章 人類の未来、生命の未来   

 今、人類は“宇宙大航海時代”の入り口に立っているとよく言われる。これだけ聞かされると、夢が広がる一方である。多分これは、“地球大航海時代”の幕開けを連想して、宇宙という新天地が我々人類の前に突然広がるという楽観的な考えがその根底にあるからなのであろう。しかし、“宇宙大航海時代”の幕開けは、これから始まる人類の試練の始まりとも言い得る。例えば、小惑星「ベンヌ」の話をご存じであろうか。実はこの小惑星「ベンヌ」の軌道は、地球の公転軌道と交差しており、今のところ2135年には地球に接近して、月よりも近いところをかすめる通ることが予測されているのだ。もし、何らかの力が加わると、地球に激突するかもしれない。この際、放出されるエネルギーは、TNT火薬3000メガトンの爆発に相当するという。もし、東京に「ベンヌ」が激突したら、東京はたちまちのうちに廃墟となることは避けられない。実は、地球は過去に同様なことに遭遇している。1991年にメキシコ・ユカタン半島の地下に巨大なクレーター「チチュルブ・クレーター」が発見されたが、このクレーターは、当時繁栄していた恐竜を絶滅に至らせた小惑星が地球に激突した跡とされている。また、1908年にはロシア・ツングースカ上空で巨大な隕石が爆発し、約2000平方㎞の範囲の樹木がなぎ倒された。最近では、2013年2月15日、ロシア・チェリャビンスクに直径17mの小天体が18㎞/sで大気圏に突入し、上空20-25㎞で破裂・分裂したことは、まだ我々の記憶に新しい。この時のエネルギーは、広島型原爆の約30倍であったという。

 ことほど左様、宇宙にはまだ我々が知らない、未知の事柄がいっぱい詰まっているのだ。この書「宇宙からみた生命史」(小林憲正著/筑摩書房)は、生命史の観点から宇宙を探ろうとする意欲的なテーマについて書かれた書籍である。テーマは専門的であっても、初心者でも読みこなせるほど噛み砕いて書かれた本なので、宇宙や生命に関心がある人には一読をお勧めしたい。同書の書き出しは、天動説から地動説への変遷から説き起こされているので、誰でも人類の歴史を追って抵抗なく読み進めることができる。そして人類は我々がいる銀河系が宇宙の中心ではないことを認識する。そして宇宙と人体の元素組成が似ていることにも気付く。つまり我々人類は“スターチャイルド”なのだと。さらにDNAという分子が生命現象のすべてをコントロールしているとする分子生物学に到達する。20世紀後半には、分子生物学と宇宙科学の境界に圏外生物学が生まれ、20世紀末になると、圏外生物学をさらに膨らませたアストロバイオロジー(地球および地球外における生命の起源・進化・分布および未来を研究する学問分野)が登場してきたのである。つまり、同書はアストロバイオロジーとはどんな学問で、これからどのような進展が考えるかを平易に解説してある。現時点で、地球以外で誕生した生物は発見されていないが、今後、アストロバイオロジーの進展により、地球以外で誕生した生物が発見されるかもしれないのだ。

 ここで大切なのが生命の誕生が宇宙で普遍的かどうかということ。このことを最初に実験したのはロシアのオパーリンだ。オパーリンは、原始地球大気はアンモニアやメタンを多く含んでおり、これから生じた有機物が海に溶け込んだ後、コアセルベート(分子同士が互いに集まった球状の構造体)が生じ、これが細胞へと進化したと考えた。さらに、スタンリー・ミラーは、1953年にメタン・アンモニア・水素・水蒸気の混合ガス中に火花を飛ばす実験を行い、数種類のアミノ酸を生成させた。それでは、生命の誕生に必要とされる大量の有機物はどこでできたのだろうか。その有力な候補が宇宙なのである。原始地球に届けられた隕石や彗星からの有機物が地球の原始の海に届けられ、それらがさらに反応して生命となった、これが新たな生命誕生の標準シナリオとなったのである。そうなると今度は隕石や彗星のアミノ酸はどこでつくられたかが浮上してくる。有力な説に、太陽系ができる前に、暗黒星雲に中にすでにアミノ酸はできていたという説がある。暗黒星雲中に存在する分子の混合物に陽子線や重粒子線を照射してできる分子をくわしく調べてみると、生成するのはアミノ酸そのものではなく、それよりもはるかに大きい分子で、加水分解後にその一部が切れてアミノ酸になることが分かったのだ。筆者の小林憲正氏はこれを「ガラクタ分子」名付けている。

 ハビタブルゾーン(生命生存可能領域)ということが、最近頻繁に語られるようになってきた。惑星の表面に液体の水が存在できる(生命が存在しうる条件)かどうかである。これまでは、太陽からの距離(0.97~1.39天文単位)に基づく古典的ハビタブルゾーンであったが、最近では、古典的ハビタブルゾーンを拡大させた拡大ハビタブルゾーンが考えられるようになってきた。つまり、惑星がその表面にメタン・エタンの海や内部に水を持つ新しいハビタブルゾーンを考えるようになってきたのである。太陽系の惑星の衛星には、拡大ハビタブルゾーンが適用できそうな候補が上っているし、太陽系外の惑星の発見が相次ぎ、これらの惑星にも拡大ハビタブルゾーンが適用できるのではないかと言われている。そうなると地球以外で誕生した生物が近いうちに発見されるかもしれない。この根拠となるのは、最近急速に研究が進んでいる極限環境生物学の存在だ。地球上でも、従来考えられなかった高温(温泉)、低温(極地)、強酸性や強アルカリ性の湖沼、強度の乾燥(砂漠)、高紫外線、低圧、高圧環境下にも微生物が生存しているということが分かってきた。そうなると宇宙の過酷な条件でも生命は存在できる確率が高くなってきているのだ。宇宙では、熱過ぎる部分を除き、大部分が拡大ハビタブルゾーンに含まれるというから生物の誕生の可能性は十分に考えられる。筆者の小林憲正氏は同書のあとがきで次のように記している。「アストロバイオロジーという新しい学問は、天文学から生物学という様々な自然科学分野の学際領域に位置し、さらに人文・社会科学分野との融合も期待されている。その役目は、私たち、太陽系、地球、生命、そしてヒトの成り立ちを知り、その行方を見守ることである」。この書を読んだ若者が、将来アストロバイオロジーの道を志し、偉大な業績を遺すことが予見できるような書籍である。(勝 未来)


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