“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

科学技術書・理工学書の新刊情報およびブックレビュー(書評)&科学技術ニュース   

●科学技術ニュース●NIMS、竹中工務店と淡路マテリア、長周期・長時間地震動に有効なブレース型FMS合金制振ダンパーを中日ビルに初適用

2023-11-30 09:33:52 |    建築・土木
 物質・材料研究機構 (NIMS)、竹中工務店と淡路マテリアは、Fe-Mn-Si系合金 (FMS合金) を用いた長周期・長時間地震動対策に有効なブレース型FMS合金制振ダンパー (2019年開発) を改良し、中日ビル (愛知県名古屋市・2023年7月竣工) に初適用した。

 竹中工務店、NIMS、淡路マテリアの3者は、一般的な鋼材の約10倍の疲労耐久性を有するFMS合金、およびその特長を生かし、複数回の大地震や長周期・長時間地震動に有効で事業継続性向上に寄与する制振ダンパーを共同開発し、2014年よりプロジェクト適用を進めてきた。
 
 2019年にブレース型FMS合金制振ダンパーを開発したが、さらに適用範囲や設計自由度を拡大するためにはダンパー1基当たりの地震エネルギーの吸収性能を高める必要があった。

 今回の開発では、従来技術では困難であったFMS合金どうしの溶接技術を確立した。

 これにより、2019年に開発したブレース型FMS合金制振ダンパーをベースに、地震エネルギーを吸収するダンパー芯材部分を、平鋼を用いる従来型の矩形から、平鋼を溶接して組み立てた十字形にすることができた。

 この結果、従来型と比較し、改良したダンパーでは1基当たり約2倍の地震エネルギー吸収性能を確保した。この性能向上により、設置するダンパーの総数を減らすことができるため、より自由度の高い建築デザイン・大空間の実現・空間の有効利用が可能となり、超高層建物・大規模建物への積極的な適用が可能となった。

 3者は今後、疲労耐久性に優れ、長周期・長時間地震動対策に有効な同ダンパーを積極的に展開し、建築分野に加え土木、他産業分野への応用を目指す。また、これまで同様、複数回の大規模地震を受けても被害を最小限に留めることが可能な特徴を生かし、地震後の事業継続性の維持に寄与する。<物質・材料研究機構 (NIMS)>
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●科学技術ニュース●ソフトバンクなど、WOTAのシステムで水道インフラに依存しない水供給システムの実証を開始

2023-06-15 09:35:44 |    建築・土木
 ソフトバンク、WOTA、東急不動産および東急リゾーツ&ステイの4社は、東急不動産が保有し東急リゾーツ&ステイが運営するリゾート施設において、全生活排水を再生循環するWOTAの「小規模分散型水循環システム」を設置し、水道インフラに依存しない新たな分散型水供給システムの構築に向けた実証を2023年5月から開始した。

 過疎化が進む地方自治体の他、点在する宿泊・レジャー施設をつなぐように水道管が敷設された広大なリゾート施設では、水道管の修繕費用など水道インフラの維持に関する課題がある。

 4社は、東急不動産・東急リゾーツ&ステイのリゾート施設で、施設に接続することで全生活排水を再生循環するWOTAの小規模分散型水循環システムを活用した実証を行い、リゾート施設が共通で抱える水問題の解決に向けて取り組む。

 最初の取り組みとして2023年5~7月に千葉県市原市にあるゴルフ場「鶴舞カントリー倶楽部」のコース内(1カ所)にWOTAの小規模分散型水循環システムを設置し、まずはトイレの排水の再生循環利用を行い、運用方法や可用性を検証する。

 その後、「東急リゾートタウン蓼科」をはじめとしたリゾート施設でWOTAの小規模分散型水循環システムによる全生活排水の再生循環利用を行い、利用者の受容性や安定的な運用方法を検証する予定。

 検証結果を踏まえて、将来は、東急不動産・東急リゾーツ&ステイのリゾート施設にWOTAの小規模分散型水循環システムを展開し、水道インフラに依存しない新たな水供給システムを構築して水問題の解決を目指す。<ソフトバンク>
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●科学技術ニュース●建設技術研究所など、「レーザー打音検査装置」の社会実装を鉄道トンネルへ拡大

2022-08-16 09:38:56 |    建築・土木
 建設技術研究所は、フォトンラボとの業務提携契約および量子科学技術研究開発機構(QST)との共同研究により、道路トンネルのロボット点検技術として社会実装を進めてきた「レーザー打音検査装置」を鉄道トンネルの覆工コンクリートに対する診断支援に活用した。

 従来、トンネルなどの保守保全作業のうち、点検は専門技術者の目視確認や打音検査により行われ、多くの手間や時間がかかるとともに作業中のつい落などの危険性が伴うものであった。

 また、打音検査を行う技術者によって検査結果にばらつきが生じることや打音検査を実施できる技術者不足も今後懸念され、これを補完・支援するための遠隔・非接触計測技術の社会実装が強く求められていた。

 今回発表したのは、これまでフォトンラボ、量子科学技術研究開発機構と進めてきた道路トンネルにおける診断支援技術の社会実装により得られた経験や知見を活かし、鉄道トンネルの覆工コンクリート目地部に対して実施した「レーザー打音検査装置」を用いた計測と診断支援。

 道路トンネル点検時には、4tトラックに載せられている「レーザー打音検査装置」を鉄道トンネルの保守用のトロ台車へ分散して配置し、鉄道トンネル内へ運搬した。

 鉄道トンネルの覆工コンクリート目地部においては、従来の人力打音検査の結果、性能低下の恐れがある変状と診断された範囲の計測を行い、内部に欠陥のある異常範囲を確認するとともに、定量的なデータとして記録した。

 次回点検時等において、レーザー打音検査装置による計測を行い、振動スペクトルの変化の有無を観察することで、変状の劣化進行に対する定量的な評価が可能となる。

 過年度の点検時に性能低下の恐れがあると診断された変状は、従来の近接目視点検では劣化の進行を定量的に評価することが課題となっている。この課題に対し、レーザー打音検査装置では、定量的な記録を残すことができ、次回の点検時の計測値との定量的な比較を可能とすることで、コンクリートのはく落につながる劣化の進行度を診断することが期待できる。

 このような記録を継続的に取得することで、従来の人が行う近接目視点検の範囲を事前に絞り込むことが可能になり、点検・維持管理活動の効率化、高度化に寄与すると考えられる。

 今回の「レーザー打音検査装置」は、トンネルの覆工コンクリートの目地部に着目して社会実装をしたものだが、今後は様々な変状に対する診断能力の向上と計測時間の短縮化を図り、点検・維持管理活動の効率化、高度化に向けた開発を進める。<量子科学技術研究開発機構(QST)>
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●科学技術ニュース●セレンディクス、慶應義塾大学と3Dプリント住宅 “フジツボ”モデル共同プロジェクトを発表

2022-04-13 09:35:16 |    建築・土木
 国内初の3Dプリンター住宅を完成させたセレンディクス(兵庫県西宮市、小間裕康社長)は、一般向けの「3Dプリンターに最も最適な住宅開発」を目指して慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センターに研究・設計、監修を依頼、2022年秋にプロトタイプの完成を目指す共同プロジェクトを発表した。

 セレンディクスは2018年、“世界最先端の家で人類を豊かにする”を理念に掲げ創業。ファーストミッションとして、30年の住宅ローンに縛られることなく、高性能かつ安価な家を誰もが手に入れられる社会の実現を目指しており、2022年には愛知県小牧市において国内初となる3Dプリンター住宅の施工を23時間12分で成功、世界26ヶ国59媒体で報道されるなど話題となった。

 2021年に発表したグランピング・別荘・災害復興住宅に対応したSphere(10平米・300万円)プロジェクトのリリース後、国内からは一般向け住宅を要望する声が多く寄せられた。これを受けて、3Dプリント技術の世界的な第一人者である慶應義塾大学の田中 浩也教授に協力を依頼。

 田中 浩也教授が代表を務める慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター(2022年3月まではSFC研究所ソーシャル・ファブリケーション・ラボ建築研究ユニット)と共同で一般向け3D住宅のプロトタイプ作成を行うプロジェクト始動に至ったもの。<セレンディクス>




<プロジェクト内容>

構造:鉄筋コンクリート(RC)造平屋

延べ面積:49m2

高さ:4m

設置箇所:愛知県小牧市の百年住宅工場内(予定)

住宅開発主体:セレンディクス株式会社

住宅設計:慶應義塾大学 益山 詠夢 特任准教授

技術監修:慶應義塾大学 松岡 康友 特任准教授

全体監修:慶應義塾大学 田中 浩也 教授
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●科学技術ニュース●大成建設、RC造建築物の耐震性を向上させる新技術「T-HR構法」を開発

2021-05-06 09:34:07 |    建築・土木

 大成建設は、大地震時の揺れによって鉄筋コンクリート造(RC造)建築物の柱と梁の接合部に生じる損傷を防止し、耐震性能を大幅に向上させる技術「T-HR構法」を開発・実用化し、この度、地上48階建て超高層RC造集合住宅に国内で初適用する。

 一般的なRC造建築物の構造設計では、耐震性を確保するため、梁の端部に応力を伝達し、柱梁接合部での塑性ヒンジの回転変形によって地震エネルギーを吸収することで接合部の損傷を防ぐ仕組みが適用されている。

 しかし、大地震による過大な変形が接合部に作用するとヒンジの弾性限界を超え、接合部の内部にまで損傷が進展する恐れがある。この接合部は建築物を支える柱の一部で、損傷すると補修が困難な部位であるため、大地震後でも建築物を継続利用するには、接合部での損傷を避ける必要がある。

 そこで同社は、梁端部の主筋に高強度鉄筋または太径鉄筋を用い、それらを梁中央部の普通鉄筋と機械式継手で接続し、大地震時に発生する塑性ヒンジの位置を柱面から梁中央側に移動させること(ヒンジリロケーション)により、柱梁接合部に生じる損傷を防いで耐震性を向上させる技術「T-HR構法」を開発した。
 
 同構法の特徴は、耐震性能を大幅に向上し、プレキャスト化に対応可能で、短工期で高品質なRC造躯体を提供できる。

 今回、同構法を初適用する建物は、現在、札幌市に建設中の地下2階・地上48階、最高高さ175mの超高層RC造集合住宅。同構法の適用に当たり国土交通大臣の個別認定を取得し、建物地上部の梁端部4,360箇所に同構法を適用しており、大地震に対する安全性を大幅に向上させている。(大成建設)

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●科学技術ニュース●宇部興産など、世界初となる深海でのセメント硬化体の力学特性の計測開始  

2021-04-09 09:34:22 |    建築・土木

 宇部興産、港湾空港技術研究所、海洋研究開発機構、東京工業大学および東京海洋大学の研究グループは共同で、深海インフラ構築に向けたセメント硬化体の力学特性の評価手法を確立し、世界初の実海域におけるデータ計測を開始した。

 同計測によって、深海でセメント硬化体の内部に生じる圧力やひずみを実際の深海底で連続計測することで、将来的に深海におけるインフラ材料の開発や構造物の設計手法の構築に役立つことが期待される。

 同研究は、高水圧が短期間及び長期間にわたって作用することで、セメント硬化体がどのように変形していくかを明らかにすることを目的としている。

 今回、硬化体内部に生じる圧力やひずみを深海底で連続計測する方法を確立した。これにより、深海で起こっている現象だけを抽出してデータを分析、考察することが可能になる。

 同研究グループは、2020年7月に駿河湾沖70kmに位置する南海トラフ北縁部、水深約3500mの海域に硬化体と計測装置を設置した。2021年度中に回収し、計測結果を解析する。(宇部興産)

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★科学技術ニュース★JAXA、極地研、ミサワホーム及びミサワホーム総合研究所、「南極移動基地ユニット」の実証実験実施

2019-09-05 09:36:24 |    建築・土木

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)、国立極地研究所(極地研)、ミサワホーム、ミサワホーム総合研究所の4者は、極限環境下での持続可能な住宅システムの構築を目的とした実証実験を、南極・昭和基地で2020年2月より実施する。

 ミサワホーム及びミサワ総研は、2017年にJAXAが実施する「宇宙探査イノベーションハブ」の研究提案募集において、「建築を省力化する工法技術」と「住宅エネルギーの自律循環システム」の開発による「持続可能な新たな住宅システムの構築」を提案し、採択された。     

 JAXAとミサワホーム及びミサワ総研は、地上における未来志向の住宅や、月面等の有人拠点への応用を目指して共同研究を進めてきたが、宇宙空間における有人拠点に求められる「簡易施工性」「自然エネルギーシステム」「センサー技術を活用したモニタリング」等の技術要素は、南極という環境下においても要求されるという共通点について、極限の環境下で検証することにより、技術の信頼性を高められると考え、南極・昭和基地をフィールドに選定し、「南極移動基地ユニット」を製作し、昭和基地の運営を担う極地研が実施する「第61次南極地域観測隊の公開利用研究」に「極地における居住ユニットの実証研究」を提案した。   

 昭和基地の建物には、1957年の開設当時から、南極の過酷な環境に耐えられる堅牢性と、夏期の限られた期間に建築の専門家ではない隊員でも簡易に施工できる簡易施工性が求められてきたことから、極地研ではこのユニットの技術要素が今後の南極における基地建設にも大いに寄与すると考え、この南極移動基地ユニットの実証実験の提案を採択し、極地研、JAXA、ミサワホーム及びミサワ総研の4者と連携して昭和基地での実証実験に取り組むことになった。

 

 

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★科学技術ニュース★共和電業、橋梁など大型インフラ構造物のモニタリング用高精度カメラを製品化

2018-09-13 09:30:01 |    建築・土木

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクトの成果をもとに、共和電業は、各種構造物の奥行き方向を含むXYZ方向の微小変位を1台のカメラで多点同時に高速で測定するサンプリングモアレカメラを開発し、販売を開始した。

 このカメラを用いることで、遠隔・非接触で橋梁など大型インフラ構造物のモニタリングが可能となる。今後、インフラの維持管理・更新の高度化・効率化を図り、作業時間の短縮や通行規制などの利便性低下の抑制など、人材・技術・財源不足の解決への貢献が期待できる

 国内の多くの橋梁や道路、鉄塔などの社会インフラは、建設から50年以上が経過し、インフラ維持管理・更新のための人材不足やコスト増大の克服が社会課題とされている。そこで、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、既存インフラの状態に応じて効果的で効率的な維持管理・更新などを図るため、的確にインフラの状態を把握できるモニタリングシステムの技術開発プロジェクトを推進している。

 同プロジェクトでは、共和電業、福井大学、ジェイアール西日本コンサルタンツ、4Dセンサーで構成する研究チームがカメラ画像を用いた高精度のインフラモニタリング技術の開発に取り組んだ。

 従来、インフラ構造物の微小変位測定は人が直接現場に測定機器を取り付けるなどして行ってきたため、足場設置などのコスト負担が大きいほか、機器の設置が可能で人の手が届く箇所でなければ作業しにくいなどの課題があった。

 そこで、同研究チームは、遠隔から非接触のモニタリングを実現するために、高精度なカメラ画像による解析技術の開発を進めた。

 この開発成果をもとに、共和電業は、サンプリングモアレ法による高精度なカメラ画像で、各種構造物の奥行き方向を含むXYZ方向の微小変位を1台で多点同時に高速で測定するサンプリングモアレカメラ「DSMC-100A」を開発した。

 

 

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