“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―                 科学技術研究者   勝 未来

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■科学技術ニュース■国際プロジェクト「エンコード」、ヒトゲノムの80%の領域に機能があることを解明

2012-09-28 10:36:18 |    生物・医学

  理化学研究所(野依良治理事長)が参加する国際プロジェクト「ENCODE(エンコード)」は、5年間をかけて、DNAエレメントデータと呼ばれる遺伝子由来の膨大なデータを収集して解析し、ヒトゲノムの80%の領域に機能があることを明らかにした。

 その中で理研オミックス基盤研究領域(OSC:林崎良英領域長)は、独自の遺伝子解析技術CAGE法を用いて、DNAからRNAが合成されるときに重要な役割をもつ領域である「遺伝子転写開始点」の解析に貢献した。

 同プロジェクトでは、ヒトゲノムの1%の領域が解析対象であったパイロットプロジェクトから大きく発展し、全領域を対象に遺伝子機能の解析を試みた。また、今までゲノム情報として重要視されていたタンパク質合成以外の役割を果たす多様な分子の同定とその機能の解明にも焦点が当てられた。

 理研OSCが独自に開発したCAGE法は、ゲノム全体の遺伝子転写開始点の位置とその発現を定量的に調べることが可能。この技術を用いて約62,000の「遺伝子転写開始点」を同定し、それらのデータは、ヒストン修飾や転写因子結合部位とRNA発現の関係の、これまでにない詳細な解析に寄与した。

 今回ENCODEが確立した詳細な解析手法は、今後の解析法の標準として貢献することが期待される。

 今回のENCODEによるデータは、これまでのFANTOMデータと相補的に働き、疾患におけるゲノムの制御機能などの理解に貢献することが期待できる。

 

 

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■科学技術ニュース■理化学研究所、113番元素の3回目の確認成功によりアジア初の命名権に一歩近づく

2012-09-27 10:33:53 |    化学

 理化学研究所は、新たに3個目の113番元素の同位体(質量数278)278113の合成を確認した。113番元素は未認定の元素であり、名前がまだない。今回の合成で113番元素の命名権が認められると、周期表に日本発の名前を、アジアの国として初めて書き加えることができる。

 この278113は、これまでに理研が確認した2個とは異なる新たな崩壊経路をたどったため、113番元素の合成をより確証づけるものとなる。これは理研仁科加速器研究センターの森田浩介准主任研究員を中心とする研究グループの成果。

 1869年、ロシアのメンデレーエフが「元素周期表」を提唱して以来、自然界に存在する元素は、原子番号92番のウラン(U)まで発見されていた。93番以降は人工的に合成され、米国、ソ連、ドイツ、そして最近では114番と116番についてロシアと米国の共同研究グループが存在を報告、元素発見の優先権について国際的な認定を受けている。

 理研ではこれまで、原子番号30の亜鉛(質量数70の70Zn)を光速の10%まで加速させてビームとし、標的となる原子番号83のビスマス(質量数209の209Bi)に照射して、2004年と2005年の2回、原子番号113番、質量数278の278113の合成を確認した。

 新元素の合成を証明するには、その元素が崩壊連鎖を起こして既知核に到達することが重要。この278113は、アルファ崩壊を連続4回起こして原子番号105のドブニウム(262Db)になり、その後2つの原子核に分裂した(自発核分裂)。

 この2回の崩壊連鎖の観測をもとに、2006年と2007年に113番元素発見の優先権を主張しているが、データ数が少ないことなどを理由に、認定されていない状況。

 3回目となる今回は、262Db からさらに2回、合計6回の連続したアルファ崩壊を起こしたことを確認。5回目と6回目のアルファ崩壊は、既に報告されている262Dbと原子番号103のローレンシウム(258Lr)のアルファ崩壊とよく一致していたため、合成した原子核が278113であると分かった。

 262Dbは、自発核分裂かアルファ崩壊で崩壊することが知られている。これら3個の確認を通して両方の現象を確認できたことは、理研が確かに113番元素の合成に成功したことを示している。

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■科学技術ニュース■東工大と産総研、ダイヤモンド半導体トランジスターの動作に世界で初めて成功

2012-09-25 11:12:42 |    電気・電子工学

 東京工業大学の波多野 睦子教授と産業技術総合研究所の山崎 聡主幹研究員らのグループは、ダイヤモンド半導体を用いた接合型電界効果トランジスターを作製し、動作させることに世界で初めて成功した。これは、科学技術振興機構(JST)課題達成型基礎研究の一環としておこなわれたもの。

 グリーンイノベーションの一環として、スマートグリッドの開発が進められているが、そのキーテクノロジーとして1.0kVを超える高い電圧に耐え、低損失でオン・オフできる小型の半導体パワーデバイスの開発が求められている。

 ダイヤモンド半導体は、半導体の中で最も高い絶縁耐圧と最も高い熱伝導率という優れた特性を持つため、候補材料として大いに期待されている。

 しかし、これまで、p型とn型が横方向に隣り合う横型pn接合を形成することの難しさ、特に特定の位置を選択して低抵抗のn型ダイヤモンド半導体を作ることの困難さから、パワーデバイスである接合型電界効果トランジスターは実現していなかった。

 研究グループは、高濃度のリン不純物を添加したn型ダイヤモンド半導体を選択的に形成する結晶成長技術を開発し、これによりn型、p型、n型を横方向に接合した接合型電界効果トランジスターの作製に成功たもの。

 また、このトランジスターはオフ時の漏れ電流が小さく、7桁以上の高いオン・オフ比で動作することも確認した。

 このようにダイヤモンド半導体を用いた接合型電界効果トランジスターの動作が実証されたことで、省エネルギー・低損失パワートランジスターの開発に道が開かれた。

 

 

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■科学技術ニュース■NEDO、米国ニューメキシコ州においてスマートグリッド実証プロジェクト開始

2012-09-24 10:46:41 |    エネルギー

 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が、米国ニューメキシコ州において同州政府等と共同で取組んでいる日米スマートグリッド実証プロジェクトのうち、ロスアラモス郡の実証サイトが完成、本格的な実証運転に入った。

 同州におけるスマートグリッド実証プロジェクトは、NEDOが海外で実施するスマートコミュニティ事業の最初のケースで、アルバカーキ市の実証サイトが既に運転を開始している。
 
 ロスアラモス郡のサイトは、天候により発電出力が変動するPVを大量に配電線に連系(実証サイト内の電力使用に対し最大約75%のPV発電量)し、電力系統用大型蓄電池制御とデマンドレスポンス(需要家による電力消費の調整)を用いることにより、配電線の電気の流れを制御し、品質を確保するシステムを構築し、実証する。

 実証の要素を組み入れたいわゆる需給制御は、世界でも最先端なスマートグリッド実証となる。
 
 同プロジェクトの参加企業は、次の通り。東芝、京セラ、アクセンチュア、伊藤忠商事、伊藤忠テクノソリューションズ、NTTファシリティーズ、サイバーディフェンス研究所、シャープ、日本ガイシ、NEC、日立製作所。

 

 

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「絵でわかるスーパーコンピュータ」(姫野龍太郎著/講談社)

2012-09-17 10:37:35 |    情報工学

書名:絵でわかるスーパーコンピュータ
 
著者:姫野龍太郎
 
発行所:講談社
 
発行日:2012年6月10日 第1刷
 
目次:第1章 スーパーコンピュータとは何か
      コンピュータとスーパーコンピュータの歴史
      コンピュータの性能向上とその限界 ほか

    第2章 スーパーコンピュータはなぜ重要なのか
      スーパーコンピュータを利用する技術の重要性
      スーパーコンピュータを国産として開発することの重要性 ほか

    第3章 世界最速スーパーコンピュータ「京」
      「京」までのスーパーコンピュータ開発プロジェクト
      次世代スーパーコンピュータ「京」開発プロジェクト ほか

    第4章 「京」で何ができるようになるか
      生命科学
      医療 ほか

    第5章 「京」の先へ
      IESP(International Exascale Software Project,Exa FLOPSソフトウェア
      ・国際プロジェクト)

      EESP ほか 

 2009年11月13日、文部科学省予算編成事業仕分けの際に、次世代スーパーコンピュータ開発の予算に対して、仕分け人の蓮舫議員が「世界一になる理由は何があるんでしょうか?2位ではだめなんでしょうか?」と発言して、世間の耳目を集めた。後日、蓮舫議員は、この発言の真意について「世界一になる理由を聞き出すためだった」と弁明にこれ努めていたが、いずれにせよ、この件で、日頃縁の下の力持ち的存在であったスーパーコンピュータ(スパコン)が、一躍時代の寵児に躍り出たという副産物をもたらした。結果的に見ればスパコンという科学技術の塊みたいなマシンが世間に注目されたわけであり、スパコン関係者は、蓮舫議員に感謝しなければならないのかもしれない。そんなことがあった後の2011年11月に、理化学研究所と富士通が開発した次世代スパコン「京(けい)」が、10.51PetaFLOPSという当時世界ランキングで世界最速の座を達成して、称さんを浴びたことはまだ記憶に新しい。このスパコンの名称の「京」とは何を意味するのかというと、10の16乗のことを指し、1秒間に1京回の計算能力を持つスパコンであることで付けられたもの。

 これまで、表面に出ずらい存在だったため、日本のスパコンの実力は一般の人へはほとんど知られていなかったが、「京」以前に世界最速を達成した日本製のスパコンは3機種あった。それらは、1993年「数値風洞」(航空宇宙技術研究所・富士通製)、1996年「CP-PACS」(筑波大学・日立製作所製)、2002年「地球シミュレータ」(海洋科学技術センター・NEC製)である。1994年から1997年にかけての約3年間は、日本は世界最速のスパコンを保有する“スパコン王国”であった。さらに、2002年に開発された「地球シミュレータ」は、その後2年半にわたって世界最速の座にあり、正に世界に君臨してきた歴史を持っている。「地球シミュレータ」が登場した時、一番驚愕したのは米国、つまりIBMだったと言われている。軍事や科学技術計算に欠かせない最高速のパソコンを有することは、即ち、世界で優位な地位を占めることを保証することを意味するからだ。このため世界最速スパコン「京」を追い抜いたのはIBM製のスパコンであったことは、ある意味では当然の成り行きと言える。

 このように、スパコンは現在では、最先端の科学技術開発には無くてはならないマシンに位置づけられ、多くの人がスパコンを知っておく必要に迫られている。しかし、これまで平易に書かれたスパコンの解説書は、ほとんど無かったと言ってもいい。もともと、難しい計算を駆使し、最先端の半導体技術とソフトウェアによってつくられるスパコンを、門外漢の人間にも理解できるように、書き表すこと自体至難の業だ。この姫野龍太郎著「絵でわかるスーパーコンピュータ」(講談社)は、そんな困難な問題を、見事にクリアーして、“素人”でも分るスパコン解説書に仕上がっている。この本を読み終えた暁には、スパコンについて、誰もがいっぱしのことが言えるようになっているから、貴重な本ではある。ただ書名に「絵でわかる」が付いているため、半分得をし、半分損をしているということが言えるかもしれない。「絵でわかる」とあるので、理解し易いというイメージがあり、それなら手に取ってみようか、と考える一般の読者も少なからずいよう。反面、「絵でわかる」とあると、入門者限定の本と考えられがちだが、実際には内容的に的確にスパコンを解説しており、高度な内容も含んでいる。それもそのはず、著者の姫野龍太郎氏は、理化学研究所の情報基盤センター長を務めており、コンピューターの性能を測る「姫野ベンチマークテスト」でも知られるスパコンの第一線の技術者だからである。

 同書の優れた点の一つは、単にスパコンそのものの解説に留まらずに、スパコンを使ったアプリケーションに多くの紙面を割いていることであろう。それが第4章の『「京」で何ができるようになるか』である。ここで紹介されているアプリケーションは、生命科学、医療、ナノ・サイエンス、津波シュミレーション、長期気候変動と気象、ロケット、天文と幅広い分野にわたっている。この中の医療分野一つ取り上げても、「人体モデルと手術シュミレーション」「がん治療への応用」「心臓のシュミレーション」「血栓の生成と輸送のシュミレーション」などが紹介されており、既にスパコンが医療分野に欠かせなツールとなっていることが手に取るように分る。スパコンというと何か、軍事とか素粒子研究など特殊な最先端の科学技術用であると思っていると大きな間違えとなる。この本は、そんな間違えを、読み進むうち知らず知らずにただしてくれる。もうスパコンは特殊なマシンではなく、日常生活に切っても切れない役割を担いつつあることが、この書を通して実感できる。そして読み終わって冒頭の質問「世界一になる理由は何があるんでしょうか?2位ではだめなんでしょうか?」の答えが自然に頭に浮かんでくる。その回答は「スパコンは、既に医療など生活に欠かせないツールとなっており、2位ではだめです。1位でなくてはなりません」。(勝 未来)

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■科学技術ニュース■富士通研究所、ビッグデータの分析シナリオを自動的に推薦する技術を開発

2012-09-14 11:15:29 |    情報工学

 富士通研究所は、業界で初めて、データ分析の専門家が創出した分析シナリオ(テンプレート)の中から、分析対象データの内容や特性に合わせて、適応可能なテンプレートや、組み合わせて利用可能な追加データを自動的に推薦する技術を開発した。

 近年、ビッグデータを機械学習やマイニングなどの技術を用いて分析し、その結果を業務や経営における意思決定に活用する「ビッグデータ利活用」への期待が高まっており、データを収集・蓄積・分析するための基盤や技術、ツールの整備が急速に進んでいる。

 一方、ビッグデータの利活用を推進するためには、業務・業種に関するビジネス知識や統計・マイニングに関する分析知識を兼ね備えた人材が必要であり、そのための人材育成・確保が業界共通の大きな課題となっている。

 今回開発した分析テンプレート自動推薦機能では、データ分析の専門家が創出した「どのようなデータを組み合わせて利用するのか」「分析結果をどのように解釈・活用するのか」といった分析シナリオを、分析テンプレートとして蓄積・再利用する。

 分析対象データの内容や特性に合わせて、適用可能な分析テンプレートや追加データを自動推薦することができるため、蓄積された分析テンプレートを活用することにより、高度な知識やノウハウを持っていなくても、簡単に分析・予測業務を実施することが可能となる。

 同技術は、富士通よりリリース予定の分析ソリューション構築のためのミドルウェア「Interstage Business Analytics Modeling Server」に順次搭載されていく予定となっている。
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■科学技術ニュース■富士通研究所、人工頭脳プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」に参画

2012-09-13 10:48:58 |    人工知能

 国立情報学研究所(NII)の人工頭脳プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」(東ロボ)に、本年度から富士通研究所が、「数式処理・計算機代数」技術をベースに、数学チームとして参画する。

 「東ロボ」はNIIの新井紀子教授を中心にして、1980年以降細分化された人工知能分野の研究を再び統合することで新たな地平を切り拓くことを目的に、2011年にスタートしたもの。プロジェクトとしての目標は、2016年までに大学入試センター試験で高得点をマークし、2021年に東京大学入試を突破すること。

 同プロジェクトでは、教科ごとにチームで担当する体制をとっており、数学については「数学チーム」での活動が進められている。

 富士通研究所では数理的な分析や最適化技術をはじめ、数学の問題を正確に解くために必要となる「数式処理・計算機代数」の研究を長年行っている。そこで、本年度からその技術をベースに、東ロボの数学チームに参画することにしたもの。

 富士通研究所は、「東ロボ」(数学)を通して、NIIと共同で人間中心のITを実現するために必要な技術の開発を行う。これにより、高度な数理解析技術が誰でも容易に使えるようになり、さまざまな現実世界の問題解決のための高度な数理的な分析や最適化などが自動化されることを目指していくことにしている。

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■科学技術ニュース■理化学研究所と東京大学、新しい電界効果トランジスタ(FET)を開発

2012-09-11 10:41:35 |    電気・電子工学

 理化学研究所と東京大学は、強相関酸化物と電気二重層を用いた新しい電界効果トランジスタ(FET)を開発し、固体表面に電荷を貯めるだけで固体全体の電気的性質および結晶構造が変化する新現象を発見した。

 金属の中では、電気を流す働きをする自由電子が存在しており、金属中を自由に動き回っている。しかし、強相関酸化物に代表される特殊な金属では、電子同士が反発し合う効果が強いため、電子が多量に存在するにもかかわらず電気を流さなくなる(絶縁体化する)ものがある。

 このように反発し合う電子を強相関電子と呼ぶが、この強相関酸化物は環境の変化に敏感で、元素を入れ替えたり(化学置換)、磁石を近づけたり(磁場効果)、光をあてたり(光照射効果)、押したり(圧力効果)すると、相転移を起こして電気を流す状態(金属あるいは超伝導状態)や磁石の性質を帯びた状態(強磁性状態)に突然変化する。

 この相転移を電圧で制御することは産業応用上非常に重要であるが、実現した例はこれまでなかった。

 今回、研究グループは、固体と電解液の接触界面に形成される電気二重層の巨大な電界を利用して、強相関酸化物の相転移をわずか1 Vの電圧で制御することに初めて成功した。

 その性質を詳しく調べたところ、固体表面への電荷の蓄積を引き金として、固体内部で反発し合っていた電子が集団で動き出し、電気的な性質だけではなく固体の結晶構造も変化していることが分った。また、この電圧で誘起した低抵抗状態(金属状態)は、電圧を遮断しても長時間保持されることも分った。

 この成果は、次世代の超低消費電力スイッチング素子の実現に新しい道筋を示すだけでなく、不揮発性メモリや光スイッチなどへの応用をも視野に入れることになる。

 今回、室温において1 Vという乾電池程度の電圧で絶縁体と金属をスイッチできることを示したことで、強相関酸化物を主役とする超低消費電力な電子デバイスへの応用の道が拓けると期待できる。

 また、この電圧で誘起した低抵抗状態(金属状態)は、電圧を遮断しても長時間保持されることが分かり、新しい不揮発性メモリとして使える可能性がある。

 さらに、表面を操作するだけで固体全体の性質を制御できることから、従来のFETでは不可能だった体積変化を必要とする光スイッチへの応用も期待できる。例えばVO2は、外気温に合わせて自動的に赤外線を透過/遮断するスマートウィンドウとしての応用が期待されているが、この赤外線に対する透過性をわずか1 Vで電気的にスイッチできれば、大きな産業需要があると考えられる。 

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■科学技術ニュース■東レ、農業用マルチフィルムや紙おむつ用の新素材「生分解性微多孔フィルム」を開発

2012-09-10 10:33:05 |    化学

 東レは、透湿性と防水性を併せ持ちながら、生分解性のある微多孔ポリ乳酸フィルムの開発に成功した。農業用マルチフィルムや紙おむつ・生理用品などの生活資材向けに大きく拡大が期待できる新素材として、2014年までのなるべく早期に生産技術の確立を目指す。

 透湿・防水性のあるフィルムは、農作物の保温や雑草抑制などに効果のある農業用マルチフィルム、紙おむつ・生理用品などのヘルスケア用途、使い捨てカイロなどの包装用途をはじめ、日常のさまざまな場面で広く利用されている。

 従来は主に微多孔ポリエチレンフィルムが使用されていたが、廃棄物処理問題や環境負荷低減の観点から、生分解可能なポリマーへの置き換えが切望されていた。
 
 代表的な生分解ポリマーとしては、ポリ乳酸が挙げられる。透湿・防水性を有するフィルムを製造するには、空気を通し水は通さない微細な孔(貫通孔)を発現させる必要があるが、ポリ乳酸を用いた透湿・防水フィルムは、高コストの溶媒を用いた湿式法での開発報告例があるのみで、生産性の高い乾式法での製造は、技術的に困難とされていた。

 今回東レは、長年培ってきたフィルム製造技術に、独自の高分子技術、粒子分散技術を融合させることにより、乾式法による「貫通孔」を有した生分解性微多孔ポリ乳酸フィルムの創出に世界で初めて成功した。

 今回開発した微多孔ポリ乳酸フィルムは、構成する全てのポリマーが生分解性を有するとともに、バイオマス性が高いため、持続可能な循環型社会の発展に向けて大きく貢献するものと考えられ、同社では早期の実用化に向けた量産技術の開発を加速させることにしている。

 

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「図解 新エネルギーのすべて(改訂版)」(化学工学会編/工業調査会)

2012-09-03 10:44:01 |    エネルギー

書名:「図解新エネルギーのすべて(改訂版)」
 
著者:(社)化学工学会 SCE・Net編(執筆者:岩村孝雄、田中貴雄、田中勉、日置敬、松村真、溝口忠一、持田典秋、山岸千丈、山崎博、弓削耕)
 
発行所:工業調査会
 
発行日:2009年6月20日改訂版1刷
 
目次:はじめに
    改訂版の刊行に寄せて
    総論編 エネルギーの現状と展望
     ・「新エネルギー」を考える
     ・世界のエネルギー状況 ほか
    第1部 自然エネルギー
     第1章 太陽エネルギー
      ・太陽エネルギーの利用
      ・太陽電池の種類と原理 ほか
     第2章 風力エネルギー
      ・風車の種類と発電の原理
      ・風力発電設備の構成 ほか
     第3章 地熱エネルギー
      ・地熱発電の原理と設備
      ・地熱発電施設 ほか
         第4章 海洋・河川エネルギー
            ・中小水力エネルギー
      ・海洋エネルギーのあらまし ほか
     第5章 温度差エネルギー
      ・温度差エネルギーと地域冷暖房
    第2部 バイオマスエネルギー
      ・バイオマスのエネルギー利用
      ・バイオマスエネルギーの活用 ほか
    第3部 廃棄物エネルギー
     第1章 一般廃棄物エネルギー
      ・エネルギー利用に適した廃棄物
      ・ごみ焼却発電の設備 ほか
     第2章 産業廃棄物エネルギー
      ・廃プラスティックのエネルギー利用
      ・産業廃棄物の燃料利用 ほか
    第4部 化石燃料の新利用形態
      ・メタンハイドレート 氷に包まれた天然ガスを利用する
      ・オイルサンド重質油 ほか
    第5部 エネルギー利用の新技術
      第1章 燃料電池
       ・燃料電池の原理と構成
       ・燃料電池の種類 ほか
      第2章 コジェネレーションと分散発電
       ・コジェネレーションシステムの種類
       ・産業用コジェネレーション ほか
      第3章 ヒートポンプと蓄熱
       ・ヒートポンプの種類
       ・産業用ヒートポンプ ほか
      第4章 新エネルギー自動車
       ・ハイブリッド電気自動車
       ・燃料電池自動車 ほか
    全体総括 新エネルギー社会への展望
      おわりに
      参考文献一覧 ほか

 2012年7月1日から再生エネルギーによる発電の普及促進を目的とした「固定価格買取制度」(FIT)がスタートした。太陽光発電の場合、出力10キロワット以上で1キロワット時42円(20年間)という価格となる。以下、風力が出力20キロワット以上で23.1円(20年間)、地熱が出力1.5万キロワット以上で27.3円(15年間)、水力が出力1000キロワット以上3万キロワット未満で25.2円(20年間)、バイオマスがリサイクル木材使用で13.65円(20年間)となっている。このように、わが国においても「固定価格買取制度」がスタートした背景には、二酸化炭素排出量の削減、原子力発電の縮小などの課題があり、これらを実現するには、従来の原子力発電や火力発電に頼っていたエネルギー政策を、再生エネルギーを含む新エネルギーへと傾斜させなければならないという、国家レベルでの課題があるからである。さらに、化石エネルギーの有効利用と、非化石エネルギーの利用拡大を促す「エネルギー供給構造高度化法」など新しい法律の制定により、新エネルギーへの期待は一層高まっている。

 ここで言う新エネルギーとは、どのようなものを言うのであろうか。「自然エネルギー」と「リサイクルエネルギー」とを併せたものが「再生可能エネルギー」で、この「再生可能エネルギー」と「従来型エネルギー新利用形態」を併せたものを、「新エネルギー」と呼んでいる。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)では新エネルギーを「自然の力を利用したり、今まで使われずに捨てていたエネルギーを有効に使ったりする気球にやさしいエネルギー」と定義している。そしてそのメリットを「石油や天然ガスなどの化石燃料消費の軽減」「それに伴う二酸化炭素の排出量削減」であるとしている。現在、東日本大震災による福島原子力発電所の停止をはじめ、日本の各地に設置している原子力発電所の稼働を今後どうするかが、大きな社会問題としてクローズアップされてきている。つまり、従来の原子力発電を新エネルギーがカバーできれば、問題は解決の方向へと向かうはずであるが、現状ではそう容易ではない。そのための一つの施策として、「固定価格買取制度」がスタートしたのではあるが、決して即効性があるものとは言いがたい。逆に一般家庭がしわ寄せを食うだけという見方もあるほどだ。

 そこで、国民の一人一人が新エネルギーに対し正しい知識を持ち、それを国家レベルのエネルギー政策へ反映させねばならない。そのような時に、この(社)化学工学会 SCE・Net編「図解新エネルギーのすべて(改訂版)」(工業調査会)は、有力な手段になりうる書籍である。同書は、前半において、太陽や風力などの自然エネルギーと今後の拡大が期待されるバイオマスや廃棄物エネルギーを紹介している。また後半では、化石燃料の新しい利用形態と、燃料電池に代表されるエネルギー利用新技術を紹介している。これらの中には、まだ開発途上で実用化に至っていないものも含まれているが、近い将来、実用化の実現の可能性が高いと思われる。特に優れた点は、図表と写真がふんだんに取り入れられており、例え初心者であっても、個々の新エネルギーの技術と製品とが良く理解できることである。(社)化学工学会のエキスパートが執筆に参画しているので、内容的にも安心して読めるところがいい。文章も平易に書かれており、専門家でなくても充分に読みこなすことができる配慮がなされている。

 同書を読めば新エネルギーについての基礎知識は充分に付く。これからの社会は、エネルギー政策について国民の一人一人が、十分な知識を身に付け、それに基づいて意見を発信していく仕組みをつくり上げねばならない。同書は、技術者、科学者たちはもとより、一般の生活の中で使用するエネルギーの理解のための実用的な参考書、教科書となっている。このため、わが国のエネルギー政策立案にためには欠かせない存在と言ってもよかろう。新エネルギー政策におけるの今後の課題の一つは、発電コストをいかに下げるかである。いくら声高に原子力発電から太陽光発電への移行を叫んでも、肝心のコストが桁違いに高くては、実現性は低くなる。また、社会全体が早急にスマートグリッドを導入しなければ、新エネルギーも書いた餅に過ぎなくなる。そのためにも、太陽光発電をはじめとした新エネルギー用の送電網の確立はどうしても欠かせない。つまり、発送電分離の議論をより深めて行かねば、新エネルギー導入もなかなか進むことはできない。いずれにせよ、課題の多い新エネルギー政策を推進していく上で、同書は欠かすことのできない教科書役を果たすことになろう。(STR:勝 未来)

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