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君子の交わり

2017-07-25 22:56:53 | Weblog

 

人はお金に、政治家は票に頭を下げる。

安倍政権が閉会中審査に応じたのは、東京都議選で惨敗し、メディアの世論調査で内閣支持率が急落したせいである。毎日新聞調査の内閣支持率26%は衝撃だったことだろう。加計問題の真相究明はともかく、真相究明に協力的であるという印象を世間に示し、安倍政権の不人気度に歯止めをかけるのが狙いだ。一方、野党は疑惑追及によって政権のダメージを拡大させようと追い打ちをかけた。

外に出ると暑いので24・25日の月・火、家で衆参の国会中継を見ていた。

24日の衆議院予算委員会の質疑で、野党議員が質問した。加計学園の獣医学部新設問題が山場にさしかかった2016年の後半、安倍総理は加計学園の加計孝太郎理事長と頻繁に居酒屋、焼き肉店、ゴルフ場で会っていた。そのさい獣医学部新設の件が話題にならなかったのか、と聞いた。

それに対して安倍首相は「一切なかった」「加計学園の申請は1月20日に知った」と答えた。2017年1月20日は加計学園の申請を正式に認めた特区諮問会議の開催日だった。

君子の交わりは淡きこと水のごとし、と荘子は言っている。安倍氏もこれにならって、宰相と教育者にふさわしい清らかな交際ぶりを示唆したのだが――。

だが、このファンタジーは翌25日の参院予算委員会で、過去の答弁と違うではないかと野党に突っ込まれ、「首相、答弁修正し陳謝 加計認識の時期『混同』」(朝日新聞7月25日夕刊)と信頼性の傷口を広げるはめになった。

安倍首相の側近の態度もまた、興味深かった。前川前文部科学事務次官に向って「総理は自分の口では言えないから私が代わって言う」と言ったとされる和泉首相補佐官は、これまで前川氏との面会の記録が残っていないので確認できないとしていた。しかし、24日は態度を変えて前川氏との面会を認めた。その一方で、「こんな極端な話をすれば記憶に残っている。そういった記憶はまったく持っていない。したがって言っていない」(朝日新聞7月25日朝刊)と変則三段論法を使ってみせた。

今治市職員と面会したとされる柳瀬・元首相秘書官(経済産業審議官)は「お会いした記憶はない」と呪文を繰りかえした。NHKの国会中継のカメラが参考人席の柳瀬氏をクローズアップした。森友問題の国会質疑で「ない、ない、ない。記録はない」と突っぱねて安倍晋三・昭恵両氏を固くガード、アッパレ国税庁長官に這い上がった財務省の佐川理財局長と二重写しになって見えた。

ご苦労さま――。

荘子・山木篇は「君子の交わりは淡きこと水のごとし」に続けて次のように言う。「小人の交わりは甘くして醴のごとし。君子は淡くして以て親しみ、小人は甘くして以て絶つ。彼の故無くして以て合う者は、則ち故無くして以て離る」。永田町・霞が関は日本ナンバー1の娑婆である。国会中継に映る記憶や記録をなくした側近たちの姿を、彼らの家族や友人・知人はどんな思いで見ていたのだろう。

昔むかし、役人の世界のせちがらさが嫌になって隠遁生活に入った陶淵明の詩。

  盧を結んで人境にあり 而も車馬の喧しき無し

  君に問う何ぞ能く爾ると 心遠ければ地自ずから偏なり

  菊を采る東籬の下  悠然として南山を見る

  山気 日夕に佳く 飛鳥 相与に還る

  此中に真意あり 弁ぜんと欲して已に言を忘る

 

 (2017.7.25  花崎泰雄)


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