今は昔。内田魯庵がこんなことを書いていた。「大臣が平凡なのは古来から定つてる。畢竟属僚の傀儡に過ぎないのだ。僕に一策がある。弾機(ぜんまい)仕掛の人形を作って大臣の服を着せ大臣の印を持たせて大臣室に置き、属僚恭やしく公書を献ぐれば人形殿は首肯いて印を押す、といふ仕掛にしたら第一内閣を変える手数もなく小十萬の俸給が助かるといふものだ。……世の中に何が楽に出来るかと云って、異形な凬體をして無言で歩く廣告屋と頭数を揃へた伴食大臣位容易なものは無らふ」(内田魯庵「變哲家」『社会百面相 上』岩波文庫)。
『社会百面相』が出版されたのは20世紀の初め。日本が日清戦争で勝利し、日露戦争が始まる数年前である。日本が資本主義にまい進し、アジアの遅れてきた帝国主義国家への道へ向かう頃だった。労働働運動が始まり、ストライキが起き、一部の運のいい社会階級が金と権力を求めて狂奔する埃っぽい時代だった。魯庵の『社会百面相』は当時盛んだった社会小説の代表作の一つとされた。
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2023年9月13日、岸田首相が内閣を改造した。「新しい資本主義」を唱えてみせたが、その言葉で何を実現しようとしているのかは、はなはだ不明瞭で、人気はかげりを見せている。内閣支持率の低迷を何とかしようと5つの閣僚ポストを女性に割り当てた。そのあとの記者会見で岸田首相は「女性ならではの感性や共感力も十分発揮していただきながら、仕事をしていただくことを期待したい」と語った。「女性ならではの感性」「女性ならではの共感力」とは具体的にはどんなものなのか。
朝日新聞9月15日朝刊社会面は「典型的なジェンダーバイアス内面化おじさんの発想。この政権でジェンダー平等は進まないと、絶望的な気持ちになった」と、社会学者の水無田気流氏のコメントを伝えた。
日本国の岸田氏はこんな調子だし、米国のバイデン氏は息子のことで困っている。中国の習氏は政府や軍の高官の首をちょんちょんと切ってはいるが、本人は国際会議への欠席を繰り返し、中国国内に籠りきりだ。ロシア国のプーチン氏も海外出張を嫌って国内にとどまっている。ロシア極東部の宇宙基地で北朝鮮国の金氏と会ったのが最近では唯一の遠出である。
東京はまだ長い残暑が続いている。
(2023.9.16 花崎泰雄)