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■つながろう2016 Hard/Soft (5月28日~6月5日、札幌) 6月5日は11カ所(2)

2016年06月06日 19時30分53秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
承前

 筆者は知らなかったのだが、この「つながろう」というグループ展は、東日本大震災を受けて2012年から毎年、札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)で開かれているらしい。

 作家の顔ぶれは毎年変わっており、ことしは、朝地信介、加藤宏子、岸本幸雄、熊谷文秀、中島義博、菱野史彦、野村裕之、上嶋秀俊、脇坂淳、畑江俊明、西本久子の11氏が名を連ねている。
 ほとんどが道内の第一線で活躍中の顔ぶれ。
 ジャンルは日本画、彫刻、版画、工芸などと多岐にわたり、しかも自発的にグループ展を組織するほどの大の仲良しの人たちというわけでもないので、この組み合わせはなかなかおもしろそう―と思っているうちに、最終日になってしまった。すみません。

 当番で会場にいた野村さんによると、テーマの「Soft/Hard」に沿った作品を出さなくてはならないというしばりがあって、頭を抱えた作家が多かったという。
 合作(コラボレーション)によってその難題をクリアした人もいる。
 冒頭画像は、野村さん、上嶋さん、脇坂さんの3人による共作。野村さんはたくさんの石を並べ、上嶋さんは曲線で囲まれた不定形の絵画を置き、脇坂さんは木片の周囲に針金を巻いたものを配している。
 ぱっと見には、3人の合作とは思えないほど、違和感がない。

 札幌に工房「Zoo factroy」を構えるキシモトユキオさんも、「Soft/Hard」という課題に、まじめに取り組んだ。

 おなじみの、起き上がりこぼし型の作品と、それと同じ大きさの立体が二つ。

 ひとつは、色が刻々と変わる明かりを仕込んだもの、もうひとつはシカの皮を表面に貼ったものだ。
 後者は、おとなのシカと小鹿の皮を交互にはり付けており、手ざわりの違いを楽しめる。小鹿の表面は、バンビのようにまだらになっている。

 ただし、変わり種の2個は、傾けても元に戻る起き上がりこぼしの仕掛けはなく
「時々、同じように傾ける人がいるので、たいへんです」
とキシモトさんは苦笑していた。
 

 日本画家、朝地信介さんの作品。
 先日の「北の日本画展」でも同様の作品を出していて、そのときは、ふうん格子模様だな、ぐらいの雑な感想しか抱かなかったのだが、近づいてよく見たら、格子模様の3分の1は土からできており、そこから草が生えている。

 この作品だけでは「日本画」というのはむつかしいかもしれないが、画材が自然物から作られていることに、あらためて思いをいたすきっかけになる作品だとはいえるかもしれない。

 手前に「よじ登らないでください」という注意書きがあったのには笑った。

 金属の枠は畑江俊明さんが、その中の染色は「ふぁ~」シリーズで知られる西本久子さんが担当した合作。

 西本さんの色鮮やかなチューブ状の作品は、こういう都市空間でのアートにはぴったり。
 できれば、空調の風でふわふわと揺れていればなお良かったが、筆者が見に来たときには、動いていなかった。

 手すきの紙を使って存在感ある彫刻作品を作る加藤宏子さんは、いつもの通り作っていれば「Soft/Hard」となる、珍しい作家。
 台座の代わりに、石のようなものが、最下部で全体を支えている。


 手前は、パワフルな金属彫刻を制作する菱野史彦さん。

 奥は中島義博さん。
 道都大のゼミ展で指導者として知られる中島さんが、この種の展覧会に登場するのは珍しい。
 ネコがモチーフなので「千手観音」ならぬ「千尾観音」。
 「Soft/Hard」ということで、右はシルクスクリーン、左半分は手描きという、ちょっと面倒なプロセスを経て完成させている。


 あれっ。これは誰の作品だろう。 


 筆者が唯一知らない作家で、しかも会場で、通りがかった人にいちばん受けていたのが、これ。
 熊谷文秀さんの作品だ。

 両目が光る、やわらかいようかんのような形状の作品で、向かい合って立った鑑賞者が足踏みをすると、ゆっくりとようかんが起きあがってくるというものだ。
 筆者も挑戦してみたが、なかなかようかん君が垂直にならないので、くたびれてしまった。
 野村さんいわく
「これ、下にWiiフィットが仕込んであるんじゃないかな」。

 考えてみれば、首都圏の美術好きは、ICCなどでインタラクティブアートにふれる機会はいくらでもあるけれど、札幌の一般の人がその種の作品に接する場面はほとんどないわけで、そういう面でも、チ・カ・ホで行われるグループ展にはうってつけの作品であったといえるかもしれない。

 この「つながろう」展には、美術関係者だけではなく、建築関係の人も企画に参画している。おそらく、そういう人のアイデアだと思うのだが、板を敷き詰めてゆるやかにカーブをつけた散策路が、この展覧会のもう一つのヒットといえそうだ。
 公園の遊歩道みたいで、通る人の気持ちを楽しくさせるし、この範囲内に動線を収めることで、結界を設けなくても鑑賞者がみだりに作品に触ることを減らす効果がある。
 木道がしっかりあれば、通る人はみだりに草原へ降りていかないのと同じだ。

 チ・カ・ホの展示では、作品の前に無愛想な仕切りが作られることが多いが、この板敷き散策路を採用すれば、それを避けることができるのではないだろうか。今後も、折に触れて採用してもらいたいアイデアだと思った。


2016年5月28日(土)~6月5日(日)午前9:00~午後8:00
札幌駅前通地下歩行空間 北1条イベントスペース(東)

□つながろう2016 サイト http://tsunagaro.tumblr.com/

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