いまどき日本画の枕詞に「花鳥風月」などを持ち出す人はいないだろうが、そういう昔ながらのクリシェ(決まり文句)がまだ通用するのではないかと思われるくらいに、道内の日本画は、写実志向が強かったと思う。もちろん、そういう写実絵画を否定する気は毛頭ないが、20世紀絵画の最先端の動向を多少なりとも反映する日本画家、そもそも「日本画」とは何かという問いを絶えず突きつける(見る者にも作者自身にも)絵画が、もう少し道内で滲透していても良かったのではないかという思いは消えない。
まあ、全体的な傾向は、どうでもいいことなのかもしれないが、朝地信介さんが、旧来の「日本画的なもの」から遠く離れた位置で作画を続けてきたこと―それも、自覚的に―は、疑いない事実だろう。かといって、ポロックやカンディンスキーやロスコを21世紀前半に表層的に模倣したところで、あまり意味はあるまい。岩絵の具のもつ特性、日本で絵を描くことの意味、そういったことを総合的に勘案しつつ、朝地さんの画業は始まっているのではないか。抽象画のようで、抽象画ではない。微生物に着想を得たような、それでいて広大な世界につながっていて、マクロとミクロが結ばれているような、そういう独自の世界が広がっている。
今回の個展でとりわけ目を引いたのは、支持体10枚を横につなげて長さ9.2メートルの大作にしたてた「そこにあるけしき」である。
描かれているのは、例によって曲線が主の、細胞の顕微鏡写真を想起させるかたちなどで、それらが簡素な背景に浮かんでいるのだが、この展示形式から絵巻物を思い出さない人はあるまい。そこには、具体的な物語も人物模様も描写されていない半面、横長の画面が、なかば必然的に物語形式の想起を惹起するのだ。どういう物語を紡ぐかは、見る側に委ねられているのだといえるかもしれない。
出品作は次のとおり。
けはい (同題9点。F20、P4、F30、F6、M4、P6、M10、F4、M6)
そこにあるけしき (50×920センチ)
はざまにすむもの (同題4点。いずれもF100)
ざわめき たわむれ (同題6点。F4、M6各3点)
かすかなゆらめき (10×16センチ)
2014年3月1日(土)~30日(日)正午~午後6時、火曜休み
ギャラリーレタラ(中央区北1西28)
・地下鉄東西線「円山公園」から約370メートル、徒歩5分。「西28丁目」から約520メートル、徒歩7分
・中央バス、ジェイアール北海道バス「円山第一鳥居」から約690メートル、徒歩9分
・ジェイアール北海道バス「北1条西28丁目」から約270メートル、徒歩4分
(円山公園駅で乗り継いで停留所ひとつぶんだけバスに乗れと言っているのではなく、札幌彫刻美術館や宮の森美術館からの帰り道、ひとつ先にバスを降りて立ち寄るのも一つの手です)
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