道内在住の日本画家が研さんの場として毎年開いている「北の日本画展」。
道展の会員、会友、出品者が大半だが、そうでない人も若干いる。
前々回から会場を時計台ギャラリーに移して全7室を使用。また、毎年テーマを設けて、3回のうちに全員が1回、テーマに沿った絵を発表することになっている。ことしのテーマは「白と黒の挑戦」。
この字面を見ると、「現代における水墨画を問い直す」という問題意識に沿った作品が出てくるのではないかと勝手に期待していたが、いつもの作品から単に色を抜いたような絵を出している人も散見された。もちろん、このコーナー(A、B両室)に力作は多かったのだが。
・上野幾子
道展会友だが、これまでは達者な人物画を描く人だなー、くらいの印象しかなかった(すいません)。今回は、縦に細長い4点の組み作品。フィルムのパーフォレーションを左右にあしらったり、二眼レフやインスタントカメラを手にした人物を登場させたり、パッチワーク風の画面がなかなか小気味よい。裏のテーマは「視覚」だろうか。
・谷地元麗子
昨年は出品していなかった若手の実力派。今回、裸婦は登場せず、白猫6匹と黒猫1匹のみ。背景の文様が凝ったマティエールになっており、日本画ではめずらしい画面処理におどろいた。
・千葉晃世
じぶんの教室展では、墨だけを使った作品を出すなど、このテーマにはふさわしいベテラン。今回の出品作は、意外なことに、ほぼ全面、赤茶色の正方形を連ねている。赤茶色の箔があるとも思えないので、ひとつひとつ描いていったのだろう。「日本画らしさ」を問う意欲作なのかも。
・朝地信介
「ゆらゆら帝国」とはたぶん関係ないと思うが、厚いマティエールと、不定形の色斑、折れ線グラフを思わせる線などが、硬質の音楽性を漂わせる。
・吉川聡子
モノクロームのバラとピンクの花。カラーと「白と黒」をちゃんと対比させているのは、すごいなあ。
・高橋潤
川の近くに立つ女性としゃがむ女性。同一のモデルのようで服装も同じだ。人物も背景もモノクロームで描かれているが、人物が浮かび上がって見えるのは、描法が微妙に異なるから。
というわけで、いわゆる水墨画の人はいなかった。
まあ、雪舟や富岡鉄斎をそのまま現代に持ち込んでもしょうがないのは、たしかなのだが。
・小林文夫
C室なのでテーマ展ではないはずだが、モノクロの世界。いい意味での執拗な描写。ほとんど規則的にならんだ木の幹が、抽象画のようなリズムを生んでいる。
・伴百合野
3点組み。中央は、中近東とおぼしき人物を描いているが、左は布によるコラージュ。右は大胆に木の板を張り付けている。というか、ほとんどの部分が板である。旧来の日本画の枠を超えようとする意欲は健在。
・小島和夫
北海道を離れたはずなのに出品を続けているのはうれしい。トルコか東欧だろうか、冬の服装をした女性の背後でメリーゴーラウンドがまわる。
・大塚博子
この展覧会でたぶん唯一の、男性を主人公にした作品。
・富樫はるか
2点組み。右の絵は、洋品店で買ってきた模様付きの布地をそのまま支持体にしているようだ。
・野口裕司
開いた角度が異なる二つの屏風を重ねたインスタレーション。しかも材質は透明な樹脂板で、手前の屏風は飛沫が、奥の、開いた角度の広い屏風は線が、おもにかかれている。「白と黒の挑戦」というテーマに、もしかしたらもっともふさわしい作品かもしれない。
・川井坦
曇天の下のモスクと尖塔を描いたオーソドックスな風景画。屋根の青はターコイズブルーというのだろうか、印象に残る。
・前田健治
この人こそ「白と黒の挑戦」にふさわしかったのでは? 大木を墨で描き、迫力十分。
・竹澤桂子
彼女はいつも、若者を生き生きと描いている。今回は、若者だけでなく、彼女を取り巻く紙袋、化粧品、携帯電話といった「もの」を丹念に描き、ちりばめている。ありがちな批判でも手放しの礼讃でもない、地道な観察眼が光る。
・田村直子
なんと短冊50本をならべている。たしかにこれも、日本的な支持体だもんなあ。「マンガ」「キャラクター」になることをためらわない人なので、元気な作品になっている。
出品作は次の通り。
◆「白と黒の挑戦」
・A室
上野幾子「眼」
羽生 輝「北辺の地」
駒澤千波「予感」
北口さつき「女(ひと)」
谷地元麗子「いつか見た夢」
千葉晃世「地」
古瀬真弓「決意」
百野道子「まなざし」
・B室
朝地信介「ゆらゆらする音」
宮町舞子「この先のどこか」
吉川聡子「ケルビム」
高橋 潤「川辺」
村木 愛「眺め」
岡 恵子「枯花のrondo」
笠嶋咲好「連(れん)」「輪(りん)」
丸野仁美「予感」
◆一般作品
・C室
小林文夫「カラマツ」
山本孝子「トレド遠景」
安栄容子「カタチをとどめて」
佐藤弘美子「桜降る日」
中野邦昭「コスモス」
伴百合野「扉」
上野秀実「雨のにおい 星の声」
大塚さつき「彩華」
小島和夫「冬の陽だまり」
佐久間敏夫「椿」「南の花」「カサブランカ」
・D・E・F室
樋口雪子「バラ」
大塚博子「summer days」「遊」「擬」
申 明淑「黎明」
富樫はるか「夏の思い出」
池田さやか「さくらさくら」「喫む」
野口博司「W」
陳 曦「異境のひと」
横川 優「春夢」
小林智恵子「清流」
野口絹代「たびにでる」
川井 坦「冬日」
齋藤美佳「月夜にねむれ」
舟山敦子「花童子」
鈴木恭子「太陽の丘」
前田健治「自然」
高木久仁子「小さな世界へ」「ヒヤシンスのころ」
河内厚子「晩秋」
竹生洋子「霜枯れた落葉」
袴田睦美「華」
・G室
千葉 繁「空」
葛巻真祐「想」
平向功一「Landmark」
内崎さき子「昔を今に」「祥」
竹澤桂子「item」
馬場静子「花花」
田村直子「ワンド」
熊崎みどり「夕凪」
2009年5月18日(月)-23日(土)10:00-18:00(最終日-17:00)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)
深川移動展=6月2日(火)-14日(日)10:00-18:00、月曜休み
アートホール東洲館(深川市1の9。JR深川駅前)
■第23回
■第22回
■第21回
■20周年記念
■第19回
■第18回(5月17日の項)
■第17回
■01年(5月16日の項)
=第21回以外は画像なし
道展の会員、会友、出品者が大半だが、そうでない人も若干いる。
前々回から会場を時計台ギャラリーに移して全7室を使用。また、毎年テーマを設けて、3回のうちに全員が1回、テーマに沿った絵を発表することになっている。ことしのテーマは「白と黒の挑戦」。
この字面を見ると、「現代における水墨画を問い直す」という問題意識に沿った作品が出てくるのではないかと勝手に期待していたが、いつもの作品から単に色を抜いたような絵を出している人も散見された。もちろん、このコーナー(A、B両室)に力作は多かったのだが。
・上野幾子
道展会友だが、これまでは達者な人物画を描く人だなー、くらいの印象しかなかった(すいません)。今回は、縦に細長い4点の組み作品。フィルムのパーフォレーションを左右にあしらったり、二眼レフやインスタントカメラを手にした人物を登場させたり、パッチワーク風の画面がなかなか小気味よい。裏のテーマは「視覚」だろうか。
・谷地元麗子
昨年は出品していなかった若手の実力派。今回、裸婦は登場せず、白猫6匹と黒猫1匹のみ。背景の文様が凝ったマティエールになっており、日本画ではめずらしい画面処理におどろいた。
・千葉晃世
じぶんの教室展では、墨だけを使った作品を出すなど、このテーマにはふさわしいベテラン。今回の出品作は、意外なことに、ほぼ全面、赤茶色の正方形を連ねている。赤茶色の箔があるとも思えないので、ひとつひとつ描いていったのだろう。「日本画らしさ」を問う意欲作なのかも。
・朝地信介
「ゆらゆら帝国」とはたぶん関係ないと思うが、厚いマティエールと、不定形の色斑、折れ線グラフを思わせる線などが、硬質の音楽性を漂わせる。
・吉川聡子
モノクロームのバラとピンクの花。カラーと「白と黒」をちゃんと対比させているのは、すごいなあ。
・高橋潤
川の近くに立つ女性としゃがむ女性。同一のモデルのようで服装も同じだ。人物も背景もモノクロームで描かれているが、人物が浮かび上がって見えるのは、描法が微妙に異なるから。
というわけで、いわゆる水墨画の人はいなかった。
まあ、雪舟や富岡鉄斎をそのまま現代に持ち込んでもしょうがないのは、たしかなのだが。
・小林文夫
C室なのでテーマ展ではないはずだが、モノクロの世界。いい意味での執拗な描写。ほとんど規則的にならんだ木の幹が、抽象画のようなリズムを生んでいる。
・伴百合野
3点組み。中央は、中近東とおぼしき人物を描いているが、左は布によるコラージュ。右は大胆に木の板を張り付けている。というか、ほとんどの部分が板である。旧来の日本画の枠を超えようとする意欲は健在。
・小島和夫
北海道を離れたはずなのに出品を続けているのはうれしい。トルコか東欧だろうか、冬の服装をした女性の背後でメリーゴーラウンドがまわる。
・大塚博子
この展覧会でたぶん唯一の、男性を主人公にした作品。
・富樫はるか
2点組み。右の絵は、洋品店で買ってきた模様付きの布地をそのまま支持体にしているようだ。
・野口裕司
開いた角度が異なる二つの屏風を重ねたインスタレーション。しかも材質は透明な樹脂板で、手前の屏風は飛沫が、奥の、開いた角度の広い屏風は線が、おもにかかれている。「白と黒の挑戦」というテーマに、もしかしたらもっともふさわしい作品かもしれない。
・川井坦
曇天の下のモスクと尖塔を描いたオーソドックスな風景画。屋根の青はターコイズブルーというのだろうか、印象に残る。
・前田健治
この人こそ「白と黒の挑戦」にふさわしかったのでは? 大木を墨で描き、迫力十分。
・竹澤桂子
彼女はいつも、若者を生き生きと描いている。今回は、若者だけでなく、彼女を取り巻く紙袋、化粧品、携帯電話といった「もの」を丹念に描き、ちりばめている。ありがちな批判でも手放しの礼讃でもない、地道な観察眼が光る。
・田村直子
なんと短冊50本をならべている。たしかにこれも、日本的な支持体だもんなあ。「マンガ」「キャラクター」になることをためらわない人なので、元気な作品になっている。
出品作は次の通り。
◆「白と黒の挑戦」
・A室
上野幾子「眼」
羽生 輝「北辺の地」
駒澤千波「予感」
北口さつき「女(ひと)」
谷地元麗子「いつか見た夢」
千葉晃世「地」
古瀬真弓「決意」
百野道子「まなざし」
・B室
朝地信介「ゆらゆらする音」
宮町舞子「この先のどこか」
吉川聡子「ケルビム」
高橋 潤「川辺」
村木 愛「眺め」
岡 恵子「枯花のrondo」
笠嶋咲好「連(れん)」「輪(りん)」
丸野仁美「予感」
◆一般作品
・C室
小林文夫「カラマツ」
山本孝子「トレド遠景」
安栄容子「カタチをとどめて」
佐藤弘美子「桜降る日」
中野邦昭「コスモス」
伴百合野「扉」
上野秀実「雨のにおい 星の声」
大塚さつき「彩華」
小島和夫「冬の陽だまり」
佐久間敏夫「椿」「南の花」「カサブランカ」
・D・E・F室
樋口雪子「バラ」
大塚博子「summer days」「遊」「擬」
申 明淑「黎明」
富樫はるか「夏の思い出」
池田さやか「さくらさくら」「喫む」
野口博司「W」
陳 曦「異境のひと」
横川 優「春夢」
小林智恵子「清流」
野口絹代「たびにでる」
川井 坦「冬日」
齋藤美佳「月夜にねむれ」
舟山敦子「花童子」
鈴木恭子「太陽の丘」
前田健治「自然」
高木久仁子「小さな世界へ」「ヒヤシンスのころ」
河内厚子「晩秋」
竹生洋子「霜枯れた落葉」
袴田睦美「華」
・G室
千葉 繁「空」
葛巻真祐「想」
平向功一「Landmark」
内崎さき子「昔を今に」「祥」
竹澤桂子「item」
馬場静子「花花」
田村直子「ワンド」
熊崎みどり「夕凪」
2009年5月18日(月)-23日(土)10:00-18:00(最終日-17:00)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)
深川移動展=6月2日(火)-14日(日)10:00-18:00、月曜休み
アートホール東洲館(深川市1の9。JR深川駅前)
■第23回
■第22回
■第21回
■20周年記念
■第19回
■第18回(5月17日の項)
■第17回
■01年(5月16日の項)
=第21回以外は画像なし