(前略 引用開始)
医学的にも舌がんの情報は少ない
舌がんに関する「記事数」が少ないというのは、医師でも同じだ。
専門家にとって「記事」とは学術論文のことを指す。学術論文を介して、
最新の情報をシェアする。
アメリカ医学図書館のデータベースを用いて、検索したところ、
「舌がん」という単語をタイトルに含む論文は過去に695報しか発表されていない。
水泳の池江璃花子選手が発症して話題となった白血病については、
「白血病」という単語をタイトルに含む論文は11万8361報も報告されている。
実に170倍だ。
舌がんに関する情報は、一般社会は勿論、医師の間でも
充分にシェアされているとは言いがたい。このような状況では、
しばしばミスや誤解が生じる。
例えば、「堀さんの舌がんを医者が見逃した」という指摘だ。
確かに、堀さんのブログを読めば、そう解釈するかもしれない。
彼女のブログによれば、最初に舌の裏側の口内炎に気づいたのは昨年の夏だ。
「病院で診ていただきまして、そのときは塗り薬や貼り薬、
ビタミン剤などを処方してもらいました」とある。
その後、11月になって堀さんはかかりつけの歯科医を受診する。
レーザー治療を受けたようだが、「それでも治らず、そのうちに、
舌の裏側だけではなく、左の側面にも、固いしこりができてしまいました」
という。この時点で舌の中のほかの場所に転移していたことになる。
実は舌がんは転移しやすいことが知られている。
初診時に30~40%が転移を認めるという報告もある。
歯医者はがんの診察をしない
読者の多くは歯科医なら口腔がんについて詳しいとお考えかもしれない。
「なぜ、このときに舌がんと診断しなかったのか」と思うのも当然だ。
ところが、それも難しい。
歯科医の多くは日常診療でがんを扱わない。2016年の厚労省の
「医師・歯科医師・薬剤師調査」によれば、
開業している歯科医8万9166人中、口腔がんを扱う口腔外科専門医は
909人しかいない。わずか1%。病院勤務医でも9.5%である。
大部分の歯科医は学生時代や研修医時代に口腔がんについて学ぶが、
その後、診療する機会はない。
さらに、堀さんにとって不幸だったのは、関節リウマチで治療中だったことだ。
標準治療薬はメトトレキセート(商品名リウマトレックス)だ。
その添付文書によれば、服用者の20.1%に何らかの副作用が生じ、
肝機能障害と並んで多いのが口内炎で2.2%の患者に生じていた。
この数字は、臨床現場では「よく見かける副作用」と解釈される。
実は、筆者もかつて舌がんを見落としたことがある。
その患者は白血病を患っていた。骨髄移植を受けて白血病は治ったが、
移植後に慢性移植片対宿主病(GVHD)という免疫反応が起こり、
治療に苦慮していた。
慢性GVHDの治療の最中に舌に違和感を訴え、口内炎ができた。
口内炎は慢性GVHDの症状の1つだ。筆者は舌がんの可能性などまったく考えず、
経過を観察した。痛みが伴わないことにもあまり注意を払わなかった。
患者さんの多くは我慢強い。こちらから聞かないと「口内炎が痛いです」とは
言わない人もいる。筆者は「口内炎だから多少痛みはあるだろう」と
勝手に考えて、それ以上の質問はしなかった。
この結果、「痛みがない口内炎」を見逃した。
(後略 引用終了)
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この文章を書いたのは、腫瘍内科の先生のようです。
失礼ながら、「触診」を述べていない点で、
「頭頚部がん」(のどや口腔のがん)には疎いことがわかります。
「触診」をしていれば見つかっていたのは、
前のエントリーで述べました。
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よねが気にかかったのは、舌がんの論文が、白血病の論文より
少ないから、医師が舌がんについて慣れていないがごとく
書いている点です。
論文になる、というのは、何か新しい発見があった、
ということを意味します。
白血病の抗がん剤は、日進月歩。
次々、新薬が登場しています。
ですから、論文の数も増えます。
たいして、舌がんの治療の主体となる、手術や放射線治療は、
そうそう新しい発見があるわけではなく、
だから論文の数も少ない。
こういう「論文」を根拠に、ピントのずれた議論をするのを
個人的に「エビデンスば〇」と、よねは呼んでいます。
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ちなみに、よねは、舌がんは、100名ぐらいの
患者を診たことがありますよ。