安曇野ジャズファンの雑記帳

信州に暮らすジャズファンが、聴いたCDやLPの感想、ジャズ喫茶、登山、旅行などについて綴っています。

吉田 類著「酒場詩人の流儀」(中公新書)

2019-09-28 20:07:39 | 読書

吉田 類(よしだ・るい)さんは、高知県出身のイラストレーター、エッセイスト、俳人で、酒場や旅をテーマに執筆活動を行い、BS-TBSの「吉田類の酒場放浪記」(2003年9月放送開始)に出演している方です。この番組は、人気があって、ファンも多いようですが、BSの聴取環境もないので、僕は見たことがありません。

   

  

帯の裏面に記された出版社の紹介文。

(感 想)

著者の吉田さんについては、居酒屋の紹介を主に行っている人だろうという思い込みで読み始めましたが、読み進むに連れて、その話題の広さ、深さに瞠目しました。酒場、蔵元、肴、お酒の場で出会った人々などお酒にまつわる記述はイメージ通りでしたが、俳句をはじめとする文学、登山、渓流釣り、古代からの歴史、自然保護、映画など話題が豊富です。

軽妙で面白いエッセイです。話題の豊富さに加えて、描写が上手なのも特長です。例えば、美しき菩薩の彫像という一編で『如意輪観音菩薩半跏像が・・・すっと伸びた背筋に彫りの深い美形の仏相。衣が肩から分厚い胸板を伝い、腰回りの水模様にまとわりついて、垂らした右足へ流れ落ちる。黒檀風の光沢に覆われた一木彫と見受けられた。』という文章が目に留まりました。

また、エッセイの内容に相応しい俳句も掲載されています。著者や有名俳人の句ですが、著者作で僕が気に入ったのは、富者の品性という一編の『生酒酌む切子グラスに架かる虹』(きざけくむきりこグラスにかかる虹)、しがらみにグッドバイという一編の『グッドバイを 鞄に詰めて 冬の旅』という二句です。

読んでいるうちに旅に出たくなってきますし、お酒も飲みたくなってきます。余韻の感じられるよいエッセイです。