生涯の心の働は、千段にも万段にも区別して、千状万態の変化を見るべし。 |
古今の学者、この理を知らずして、人物を評するに当り、その口吻として、某は幼にして大志ありといい、某は三歳のときにこの奇言を発したりといい、某は五歳のときにこの奇行ありといい、甚しきは生前の吉祥を記し、または夢を説て人の言行録の一部を為すものあるに至れり。惑えるもまた甚しというべし。 |
今後数千百年にして、世界人民の智徳大いに進み、太平安楽の極度に至ることあらば、今の西洋諸国の有様を見て、びん然たる野蛮の歎を為すこともあるべし。これに由てこれを観れば、文明には限りなきものにて、今の西洋諸国を以って満足すべきにあらざるなり。 |
『文明論之概略』 |
著 : 福沢諭吉 |