「戦争は教室から始まる」北村小夜さんの書籍のタイトルであるが、戦争遂行のために戦前の教育が果たした役割は大きい。その反省から、戦後教育委員会制度が生まれた。ところが、いま、それが事実上解体されようとしていると言っても過言ではない。教育が再び政治の侍女になれば、戦争はいとも簡単に起こる。
中教審答申に反対の声を!
以下、毎日新聞記事を紹介します。
教育委員会制度:首長に教育行政の決定権限を 中教審
毎日新聞 2013年12月10日 12時15分(最終更新 12月10日 13時18分)

教育委員会制度改革を議論している中央教育審議会教育制度分科会(分科会長=小川正人・東京大名誉教授)は10日、首長を教育行政の決定権限を持つ「執行機関」とする答申案を了承した。教育長は首長の下で実務を取り仕切る補助機関、教育委員会は首長への勧告権を持つ「特別な付属機関」に再編する。近く下村博文文部科学相に答申するが、中教審内部に「結果的に首長の権限を強める」と懸念の声があり、与党内にも異論があることから、地方教育行政法などの法改正に向けた党内協議や国会審議で曲折も予想される。
答申案によれば、執行機関となる首長は、大綱などの大方針を策定するほか、議会の同意を得て教育長、教育委員を任命する。
教育長は首長の事実上の「部下」に当たる補助機関となるが、「地方教育行政の責任者」の立場を維持するため、首長からの指示は「教育長の事務執行が著しく適正を欠く場合」や、いじめなどで「児童生徒の生命、身体の保護のため緊急の必要がある場合」など「特別な場合」に限定する。教委は、首長や教育長の判断に政治的中立性の確保などで問題がある場合、勧告できるほか、首長が教育長に指示を出す場合は意見を付けることができる。
一方で、首長を執行機関とする案には異論も多いため、教委を執行機関とする現行制度に近い考え方についても付記した。
首長を執行機関とする考え方は、これまでの議論で「教育長を責任者とする政府の教育再生実行会議の提言と方向が違う」との指摘があるほか、与党内にも反対意見がある。今後、来年の通常国会での法改正に向け与党内で議論が始まるが、首長の教育行政への過度な関与をどう防ぐのかなど、より具体的な制度設計を巡り論戦が予想される。
教委改革は、深刻化するいじめ問題などへの迅速な対応を求める世論に応える形で、今年4月、教育再生実行会議が、非常勤の合議体である教委に代わり、常勤の教育長を地方教育行政の責任者とする改革方針を提言。中教審で議論が引き継がれたが、選挙で選ばれていない教育長の権限を強めることへの反対や、「予算編成や訴訟で最終的に責任が問われるのは首長だ」などの指摘があり、首長を執行機関とする案が浮上。政治的中立性の確保の点で懸念があることから、教委を執行機関とする現行に近い案と並行して議論が進められてきた。【福田隆】
教育委員会制度改革:教育行政、首長が執行 政治的中立性に懸念 教委側「暴走止められるのか」
毎日新聞 2013年12月11日 東京朝刊
教育委員会制度改革を議論してきた文部科学相の諮問機関「中央教育審議会」の分科会で10日、教育行政の最終責任者を教委から首長に改める答申案が了承された。政治家である首長の関与を避けるために一般行政から独立させ、戦後教育行政の象徴でもあった教委は「格下げ」された形だ。市長が主導権を握ってきた大阪市や全国学力テストを巡って知事と県教委が対立した静岡県からは、首長が決定権限を持つことで政治的中立性や教育内容の一貫性が損なわれるとの懸念が出ている。【山下貴史、樋口淳也、渡部正隆、三木陽介】
橋下徹市長の意向に沿った教育施策が進む大阪市。橋下市長は答申案について「ものすごい大改革だ。責任の所在をあいまいにしてきたのが日本の教委制度。役割分担が明確化し、組織として機能するようになる」と歓迎した。
今年度から導入した公募校長制度は市長選時の公約の一つ。11人を採用したが、セクハラや着任数カ月での辞職など不祥事が相次いだ。「困っている。ひどい校長も多い」(市教委職員)と悲鳴も上がったが、橋下市長は「外部人材が組織に入るメリットは計り知れない」と来年度も20人を採用する予定だ。
答申案によれば教委はいわゆる「審議機関」の位置づけで首長への勧告権は持つが、市教委幹部は「市長が暴走した場合、止められるか疑問だ」と声を潜める。制度上の歯止めがなくなり、トップダウンの加速は必至だ。
全国学力テストの結果公表を巡って、川勝平太知事と県教委が対立した静岡県。校長名公表を迫った知事に対し、県教委は「実施要領が学校名公表を認めていない。校長名も同じ」と拒んだが、知事が押し切った。答申案では教育長は首長の「補助機関」で実質、上下の関係になる。
「教育が教委の専権事項でなくなった。閉鎖体質を感じていたので(それを変える)いいチャンスだ」。そう評価する川勝知事とは対照的に、県教委職員は「予算を握る知事の意向に反するのは現状でも難しいのに、これで教育長は名実とも『補助機関』になるのでは」。県内のある小学校校長も「今後は世論に敏感な政治家によるパフォーマンスが増える。山積する問題が解決するとは思えない」と危惧する。
静岡県と同様に学テの結果公表を巡って市教委と対立したことがある佐賀県武雄市の樋渡啓祐(ひわたしけいすけ)市長は首長権限強化には反対の立場で「現行制度でも首長には予算編成権がある」と語る。当初公表に反対だった市教委を説き伏せた経験があり「今も教育行政に絶大な権限を持つ」というのが理由だ。答申案については、独特の言い回しで「同じような提案を武雄市議会にしたら『市長のこれ以上の独裁を許すな』と否決するでしょう。それでいい。私も独裁には反対だ」と語った。
17回にわたった分科会の議論では、首長の権限強化に慎重な意見も強く、答申案では、教委を「執行機関」、教育長を「教委の補助機関」とする現行に近い案も併記された。中教審の答申案が両論併記されるのは異例で、分科会長の小川正人・東京大名誉教授は「首長を執行機関にする案がベースだが、強い懸念もあるので併記した」と話した。
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◇中教審の答申案の骨子
・教育行政の決定権限を持つ「執行機関」を首長とする
・教育長は首長の下で実務を取り仕切る「補助機関」とする
・現行制度で執行機関だった教育委員会は「特別な付属機関」とし、基本方針などを審議し、必要な場合は首長や教育長に勧告できる
・首長は原則として教育の基本方針を策定するほか、議会の同意を得て教育長、教育委員を任命する
・首長から教育長への指示は、緊急の必要がある場合など「特別な場合」に限定する