渡部秀清さんによる『2・12総決起集会~今こそ、反戦・平和の運動を教育と社会に!』の報告です。
2月12日、都教委包囲首都圏ネットワーク主催で、『2・12総決起集会~今こそ、反戦・平和の運動を教育と社会に!』が開かれた(100人参加)。この集会は都教委が2003年に「日の丸・君が代」強制の「10・23通達」を出した後の2005年から毎年2月に開かれ、今回が20回目だった。
2006年当時、教育基本法が改悪されるという状況下、12月23日、改悪反対の「全国集会」が日比谷公会堂で開かれた。この「全国集会」を機に、翌年『教育基本法の改悪をとめよう!全国連絡会』が作られ、2006年12月の安倍政権による教基法改悪まで、6回の全国集会とデモ、新聞意見広告などを行いながら闘った。その時の呼びかけ人は、高橋哲哉・小森陽一・三宅晶子・大内裕和さんの四人だった。
今回の『総決起集会』に私たちは、その内の一人・大内裕和さん(武蔵大学教授)を講師に招いた。
大内さんの演題は、<21世紀ファシズムと戦争にどう立ち向かうのか>だった。大内さんはA4版11ページにも渡る詳細なレジュメを用意された。ここではとてもその全体を紹介することはできないが、レジュメにそって講演の基本的内容を以下に紹介する。
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(最初に)
「10・23通達」はファシズム的体質を持つ。毎日報道される戦争では、殺戮・虐殺が起きている。21世紀のファシズムと戦争と闘うことは「新自由主義」と闘うことでもある。
(1)沖縄・南西諸島の軍事要塞化について
これは戦争準備というより、戦争実行体制づくりだ。2012年に日本政府が尖閣諸島を国有化したときから始まっている。(その後の具体的動きを紹介し)2022年12月の「安保3文書」で、南西諸島が戦略拠点・最前線になることが明確化された。「沖縄本島と南西諸島とのヒエラルキー・差別行動」が利用された。また「米軍基地反対」運動の「分断」工作として、あくまで「自衛隊基地」建設として当初は進められた。
(2)現代版「治安弾圧」としての大川原化工機「冤罪」事件
これはでっち上げである。
2017年 警視庁公安部は経産省の許可を得ずに噴霧乾燥機を輸出した被疑事実で捜査を開始。
2018年 大川原社および自宅に対し捜査・差し押さえ。
2020年 代表取締役、常務取締役、相談役の3名を逮捕、起訴。
2021年 顧問が病院で死去、東京地検公訴取り下げ、裁判終結。遺族らは、国と都に損害賠償を求め 提訴。
2023年 東京地裁、逮捕・起訴などは違法、賠償を命じる。
2024年 国と都は東京高裁に控訴、会社側も控訴。
ここにみられるのは、「経済安全保障推進法」(2022年)の成立と、警視庁公安部外事第一課、経済産業省、検察がセットになった「冤罪」である。その背景には、第二次安倍政権における警察官僚の重用、それに伴う警察官僚と政治権力中枢の関係強化がある。杉田和博は2017年に内閣人事局長を兼任している。北村滋は国家安全保障局長になっている。
(3)転換点としての1984年通常国会(自分が高2の時だった)
この年、臨教審の設置、日本育英会法の改正(有利子奨学金の導入)、国鉄の分割・民営化が行われた。つまり、中曽根政治(「戦後政治の総決算」、「戦後教育の総決算」)以降の新自由主義・国家主義が基本的に定められた。
(4)「新自由主義と国家主義」の結合としての1995年
1994年には、小選挙区制の導入により、右から55年体制を壊し、社会党の解体と保守二大政党の実現による改憲実現へ向かうようになった。
1995年には、日経連「新時代の『日本的経営』が打ち出され、労働者の三分類=差別化(A長期蓄積能力グループ、B高度専門能力グループ、C雇用柔軟型グループ)が進むことになった。
1999年には、労働者派遣法改悪が行われ、それ以降非正規労働者の数が急増した。
国家主義については、グローバル市場維持のための軍事行動(海外派兵)とイデオロギーによる「国民」統合が進められた。
1993年 自民党の「歴史・検討委員会」に、初当選の安倍晋三が委員に抜擢された。
1995年 アジア・太平洋戦争を肯定する「自由主義史観」の登場。
1997年 「新しい歴史教科書をつくる会」結成、日本会議の結成。
2000年 「新しい教育基本法を求める会」、教育改革国民会議の発足。
2001年 「つくる会」教科書検定合格。
となって行き、2003年の教基法改悪による「国家主義教育」へとつながる。
(5)日本政府の新自由主義的再編と自民党の中央集権化・極右政党化
2001年には、大蔵省→財務省(財金分離)、文部省+科学技術庁→文部科学省、通産省→経済産業省(勢力拡大・新自由主義推進)となり、首相直属の機関として内閣府を設置(他の12省庁よりも上位に格付け)、内閣府に通産省官僚が多数登用され、内閣府+経済産業省→新自由主義政策となった。
また、この間、建設業界・日本医師会・特定郵便局・商工会議所の衰退に代わり、日本会議、統一教会、立正佼成会、創価学会(選挙の実働部隊)らによる自民党の宗教的ともいえる極右政党化が進んだ。
(6)21世紀ファシズムのスタートとしての「10・23通達」(石原都政)
(ここには、以下のようなことが書かれていた。)
1999年 石原都知事誕生(極右都政の開始)
2003年「10・23通達」による「日の丸・君が代」強制
→「学校現場の自由」を圧殺、教職員組合への攻撃
「10・23通達」反対運動→21世紀の反ファシズム運動
石原都政は、21世紀の「グローバル都市」東京を目指した。
(アンダーライン部分にあるように、大内さんは「10・23通達」反対運動を、21世紀の反ファシズム運動と位置付けている)
(7)憲法改悪のリハーサルとしての教育基本法改悪を実現した
安倍政権は「任期中の改憲」を主張、教育基本法改悪を実現した。また、実質的には経産省内閣(→財務省軽視)となった。経産省・通産省の前身は商工省であり、対米開戦時の商工大臣は岸信介であった。岸信介は、鮎川義介(日産コンチェルンの創始者)、松岡洋右(日独伊三国軍事同盟の際の外務大臣)と姻戚関係で、15戦争を主導したパワーエリートの親族ネットワークの中心にいた。
安倍政権の下で、経済産業省は教育分野に介入、「未来の教室」プロジェクトとして<学びの個別最適化>を打ち出した。それはEdtech(エドテック)と呼ばれ、教育(Education)×テクノロジー(Tecnology)の造語であり、教育領域にイノベーションを起こすビジネス、サービス、スタートアップ企業などの総称である。
これに対し、教職員組合運動は文科省だけではなく、官邸と経済産業省との対決が重要。しかし、実際には官邸・経済産業省の新自由主義改革を文科省との協調によって「防戦」する戦略を取っている。その結果、未曾有の教員不足問題が浮上している。
第二次安倍政権の最大の特徴はメディアコントロールであった。目標は「NHKと朝日をおさえこむ」こと。国谷裕子をはじめ政府に批判的なキャスターの「首切り」、政権批判的なコメンテーターの排除が行われ、メディアに登場する極右・安倍支持のコメンテーターは激増している。
(櫻井よし子、岩田明子、橋下徹、古市憲寿、三浦瑠璃、ひろゆき、落合陽一、成田悠輔・・・・)
(8)1980年代の新自由主義から、21世紀の極右・ファシズムへ
ここでは、アメリカのレーガン、イギリスのサッチャーなどにより新自由主義がはじまったこと、その延長線上に中曽根〜安倍がいることが述べられた。
(9)私自身の活動
レジュメには2003年の「教育基本法改悪反対!12・23全国集会」以後の大内さんの活動が紹介されていましたが、割愛されました。
(10) 岸田政権
「出世払い」制度と経済的徴兵制として、教育未来創造会議(岸田首相が議長、2021年12月発足)で、
「大学卒業後の所得に応じた『出世払い』」制度導入を提言した。これは「親負担」から「本人負担」へとなるもので、学生がマイナンバー登録になれば、政府は貧しい家庭の出身で健康な若者を捕捉可能となる。これは「経済的徴兵制」への動きとなるだろう。(以下岸田政権による軍拡・戦争準備について触れ、)2023年統一地方選挙における維新の台頭は、日本における21世紀型ファシズムである。
(11)当面の課題と今後の運動のポイント
(これについては、時間不足で大内さんは十分説明できませんでした。が、重要な指摘があると思いますので、以下、レジュメに載っている部分で補います。)
①21世紀ファシズムとしての「維新」とどう対抗するのか
「維新」との主戦場の一つは東京だ(2024年2月現在、都議会議員127名の内、維新は1名)。維新の「多摩川超え」をどう阻むか。
(小池百合子都知事辞任後、橋下徹立候補の危険性がある)
②「格差と貧困」、階層政治・階級政治を組み込んだ運動を
安保法制闘争と選挙での野党共闘について、現行選挙制度で「3分の1」は取れるが、過半数は取れない。憲法9条+25条(雇用と社会保障)が重要だ。維新の教育無償化政策、小池百合子の教育無償化は格差拡大になる。「私立」と「公立」の差を無視する「普遍主義」だから。これは、左派から出てきた「無償化」を右派が簒奪したものだ。すでに「貧困層の固定化と中間層の解体」が急速に進行している。
③1970年代後半以降の新自由主義グローバリズムについて
極右独裁の台頭と世界戦争という時代状況をつかむこと。1980年代以降の新自由主義で急速な格差拡大が起きている。「米国経済における億万長者の影響力は1980年代以降大幅に拡大し、米国における財産の集中度は、20世紀初頭のヨーロッパ並みの高さに迫っている」
(トマ・ピケティ『来たれ、新たな社会主義』みすず書房)
ロナルド・ドーア『金融が乗っ取る世界経済』(中公新書、2011年)には、「日本経済のアングロ・サクソン化は、米国が西太平洋における軍事的覇権国であり、日本と安全保障条約を結んでそこに基地を持ち、その基地を移設しようとする内閣(たとえば鳩山内閣)を倒すくらいの力がある、という事情と密接な関係がある」と述べてある。
30~40年後の西太平洋における覇権国家は中国だろう。GDPとしては2030年代半ばに中国は米国に追いつく可能性が高い。しかし、軍事的には米国の優位はその時点でも揺らいでいない可能性が高い。20世紀前半の帝国主義戦争のような領土争いではなく、21世紀の戦争はグローバル市場の維持と基軸通貨(ドル・元)をめぐる争いとなろう。2024年米国大統領選挙はトランプ(「力こそ正義」)勝利の可能性がある。すると「米国―イスラエル」同盟強化が一層進み、中東を発端とする第3次世界大戦勃発の可能性がある。
④戦争開始後、戦時中の「抵抗」(レジスタンス)を想定した反戦平和運動・改憲阻止闘争、資本主義の「先」を意識した社会認識と運動の重要性
「9条改憲阻止」や「軍事費2倍増反対」にとどまらず、沖縄・南西諸島のリアルな実態を共有し、「憲法9条を実行する」実践。戦争が開始された場合の抵抗」を具体的に想定した反戦平和運動・改憲阻止闘争のヴァージョン・アップが必要だ。労働者・市民・住民がどのような場所でいかなるかたちで戦争への抵抗が可能かを共有し、集団として構想と実践を深める必要がある。
1990年前後の「社会主義の終焉」(実際にはソ連型共産党一党独裁の終焉)から2020年代の「資本主義の終焉」へ。つまり、グローバル資本主義の延長上の世界戦争と「新しい世界」構想の重要性だ。
冷戦崩壊後 旧ソ連・東ヨーロッパが市場経済化した。しかし、新自由主義グローバリズムの矛盾は「マイナー・チェンジ」では乗り越え不可能だ。
「格差と貧困」是正し、気候変動にストップをかけるためには、資本蓄積を最大公理とする社会の転換、「民営化」から再公有化、資本の私的所有から「社会的所有」「資本の社会化」への移行が必要だ。平等、循環型経済、労働者・市民参加型の「社会主義的連邦主義」だ。そのための理論と実践が重要だ。
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以上、大内さんは、1980年代からこれまでの新自由主義による社会と教育の変遷をたどり、演題にあるように「21世紀ファシズムと戦争にどう立ち向かうのか」について具体的に語ってくれた。
アンケートには、
・「時代の流れと新自由主義と教育の問題についてよくわかりました。」
・「大内さんの講演を聞いたのは久しぶりでしたが、現在のディストピア的状況のよって来るところと、今後起こるであろう事態について、めりはりのある話で、非常に面白く聞きました。研究と社会変革とを一つの実践として展開されている大内さんに敬意を表します。」というような声が寄せられました。