薫 風 ~KUNPOO~

初夏に薫る爽やかな風に思いをよせ、YukirinとKaorinが日々の出来事などを綴るページです。

これが憲法だ!

2006-12-01 | 本  棚
■ 長谷部恭男・杉田敦著『これが憲法だ!』朝日新書。憲法学者の長谷部東大教授と政治学者の杉田法政大学教授との対談。市川弘正氏との対談『社会の喪失』と同じような構成か。

■ もっとも、対談とは言っても、どちらかというと杉田氏が長谷部氏に対し一方的に斬り込んで行く感じ。立憲主義、憲法第9条、国民主権等、これまでの憲法解釈に対する杉田氏の鋭い突込みに対して、これを受ける側の長谷部氏の回答は終始歯切れが悪い。

■ 立憲主義の建前のもと、憲法の規定によって政府の権力を縛って抑制するといいながら、実際には主権者である国民の行動をも制約しているのではないか。憲法改正手続き事態を難しくしていることもしかり。デモクラシーの観点からは、国民にも少なからず責任のいったんはあるはずである。

■ とかく憲法学者は、「環境権」や「知る権利」などの新しい権利に対しても、「憲法13条の幸福追求権があれば対応可能」として新しい権利を憲法典に盛り込む憲法改正にも後ろ向きだ。もしそうであるならば、極端な話、憲法13条だけあれば他の権利条項は必要ないのではないか。国家権力に対して懐疑的あるからこそ、様々な国民の権利を文書化して残し、細部についても決めておく必要があるのではないか。

■ 確かにそうだよなぁ~。学校では基本的人権云々とあれこれ習ったけれど憲法13条さえあれば、自由権だの平等権など、みんな含まれちゃうからねぇ。そう言われてみれば、他の権利条項なんていらないジャン。憲法っていうと、どこか神聖なもののような気がするけれど、国家を法人と見立てるならば――しょせん憲法なんて会社における定款のようなものと考えるならば――、議会や選挙制度など統治機構以外は必要ないのではなかろうか。

■ 結論的には、二人とも今の段階では憲法を改正する必要はないというところに落ち着くのだけれど、東大教授が「抑制された必要最低限の常備軍は必要」と発言するあたりは、世の中も変わったな~、と思ってしまいます。「絶対平和主義は、(中略)私的なサークルを通じて広めていただくのは大いに結構ですがたとえば国家が国民全員に強制できるような考え方ではない」とまで言い切ってしまうとは…。

■ (憲法)解釈の技は法律家のなせる「芸」だという。でも、民法など私法の領域では、比較的学界と裁判所が共同し判例を通じて実務界をリードしてきた感があるけれども、どうして憲法の分野では双方の解釈に大きな乖離が生じてしまって相容れなかったのか。要はイデオロギーの対立ということなのかもしれないが、そのあたりももう一度考え直してみる必要がありそうだ。(という私の意見は、とある私的サークル内ではきわめて少数派なのだな、これが)

■ 新聞の評論など読んでも、いつも杉田氏の論評は的確に論点を捉えているので、とても魅力的な学者さんです。この本でも予想外の(政治学的な)ツッコミが面白くて、何度も噴出しちゃいました。