薫 風 ~KUNPOO~

初夏に薫る爽やかな風に思いをよせ、YukirinとKaorinが日々の出来事などを綴るページです。

政治家の日本語

2005-10-22 | 本  棚
■ というわけで都築勉『政治家の日本語』平凡社新書。“ずらす・ぼかす・かわす”というサブタイトルがつけられています。

■ 政治は言葉をめぐって展開する。言葉の選択や使用が政治そのものである。そして、政治家は言葉を操る専門家である。彼らのその能力は、いつも多くの人々に自分の考え方を話して、説得し、また当事者の一人として対立する人々と交渉して、妥結するというような経験を積み重ねることで養われる。そしてわれわれは皆何がしかの程度において政治家である。

■ この本では、主として78年の大平正芳内閣の成立から今日までの四半世紀の間に活躍した政治家たちの言葉を採集して、政治の実際を、言語使用の実際のあり方として、分類、整理しています。都築先生曰く、“政治は恋愛と似ている。どうにかして相手の気をこちらに向かせようと一生懸命努力するのだから”

■ 興味深かったのは、第3章「ぼかす」。今まで、どうして首相談話とか△△宣言とか、あるいは○○決議とかいうものは、あんなにわかりにくいんだろうと思っていましたが、結局は妥協の産物だからなのですね。意見の異なる人たちが一つの言葉に集約させようとするのだから、表現が玉虫色となってしまうのも、ある意味仕方がないこと。複数の神々を持つ民主制社会においては、必然というか、むしろ健全なことなのでしょう。素人には「侵略行為」でも「侵略戦争」でも「侵略的事実」でも、大して変わらない気もしますが、それが実はとても大事な部分なのですね。

■ さて、最近の小泉首相の発言や答弁を聞いていると、意識的にはぐらかしているのか、天然ボケなのか、私にはわかりかねます。ただ、明らかにこれまでの政治家と異なっていると思うのは、やるのか・やらないのか意味不明の言葉が多かった政治の世界で、政治の素人である国民にとっても、わかりやすいこと。郵政解散にしてもしかり、靖国神社の参拝問題にしてもしかり。彼は、やると言ったら必ずやる、有言実行の政治家なのだ(頑固なだけ?)。この前の総選挙で自民党が圧勝したのも、衆議院を解散したあとの、郵政民営化に争点を一本化して国民に訴えた記者会見でほとんど決まっていましたね。

■ というふうに、政治家の言葉に着目できる一冊です。でもやっぱり読んでいて、政治家の“日本語”というのは、いささか違和感があるような気がします。やっぱり、『言葉と政治』という方が、内容にはぴったりだったかも。

<photo:Grassmarket>