麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

四月集を読む・2

2019-07-05 23:02:39 | 短歌記事

 

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四月集を読む・2    鈴木麦太朗

  道端の藪より野良猫飛び出して我はた
  じろぐ総毛をたてて  大柴 侑宏 
 「総毛を立てて」がうまいです。この結
句により歌が活き活きとした輝きを放つこ
とになりました。言うまでもなく「総毛」
と「野良猫」とが響きあって詩を成してい
る訳です。例えば「野良猫」を「縞蛇」に
変えてみると一気に歌がつまらなくなるこ
とでそれがはっきりします。大柴さんは思
わぬところで野良猫に出会って大いにたじ
ろいだようですが、野良猫のほうも大柴さ
んを見てたじろぎ、総毛を立てていたかも
しれませんね。
  お年玉くれしこの子の幼き日われは使
  いき子のお年玉    安部 洋子 
 「お年玉」にはじまり「お年玉」に終わ
る構造が印象的な歌です。意味内容は誰も
が共感できるものです。幼い子供がもらっ
たお年玉はその親が管理するほかはなく、
使ってしまうこともあるでしょう。もちろ
ん私にも経験があります。この歌が構造的
な面白さや共感だけで終わらないのは、そ
のお子様が成長し、安部さんにお年玉を差
し上げている様を、まずは述べているから
です。現在と過去を対比させることで歌に
深みが生まれています。
  サで始まる病院食の魚の名鮭・鯖・鰆
  は出たが秋刀魚・山椒魚はまだ     
             渡辺 東雄 
 サで始まるお魚の名前がずらりと並んで
います。病院食として鮭や鯖や鰆はヘルシ
ーで良さそうな気がします。秋刀魚は落語
の「目黒の秋刀魚」よろしく油抜きをすれ
ば病院食として供される可能性もありそう
です。さて山椒魚は如何に。続く歌に《山
椒魚は両生類との声がするそを食らいたる
ヒトありや否や》とあります。私の中学の
時の先生は、子供のころ沢で山椒魚を生け
捕りにして踊り食いをした、と言っており
ましたので、美味いか不味いかは知りませ
んが実際に食べた人はいらっしゃるようで
す。山椒の香りがする故、山椒魚という名
がついた由、美味いのかもしれません。
  花びらのように初雪降りかかる手のひ
  らに受く口開けて受く 亀岡 奎子 
 雪はあまりに多く降ると交通に支障をき
たしたりするので迷惑なものですが、これ
が初雪となるとなぜか心浮き立つものです。
そんな初雪を見た時の感動を具体的な行動
の描写により活き活きと表現しているとこ
ろが良いのです。まずは手のひらに受けて
確かめ、続いて口を開けて待ち構えていま
す。初雪と一体化しようとしているように
も感じられます。
  盆暮れも休まず精出す真面目の湯元旦
  壺湯に歳を忘れき   西山 数明 
 銭湯の名前として「松の湯」「鶴の湯」
などと同様に「真面目の湯」というものが
あるのかと思い調べてみましたが、そのよ
うな名前の銭湯は無さそうでした。文字通
り真面目に休みなく営業している銭湯なの
ですね。元旦に歳を忘れるとは、なんと粋
な表現なのでしょうか。「壺湯」という選
択も効果的です。西山さんが誰にも邪魔さ
れることなくただ一人で湯を楽しみ、感慨
にふけっている様がよく伝わってきます。
  夢に出でし恋しき人は義足にて真珠の
  いろの路を歩みぬ   馬淵美奈子 
 夢の中の出来事なので何でも有りと言っ
てしまえばそれまでなのですが、とても魅
力的な光景だと思いました。恋しい人がぎ
こちない歩みで真珠のようにひかる道を馬
淵さんの方に向かって歩いてくる。そんな
情景を想像してドキドキする。そういう歌
です。「義足」が効いていてドキドキ感を
増幅させています。          

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