顎鬚仙人残日録

日残りて昏るるに未だ遠し…

山中薬師…廃寺に残った朱塗りの堂宇

2024年07月09日 | 歴史散歩

小美玉市西郷地の廃寺跡にある山中薬師本堂です。


ここには山中山東光院広諦(こうたい)寺という天台宗の寺院があり、旧水戸街道約1キロ北にある天台宗法円寺(茨城町)の末寺として隆盛を極めていました。開基の詳細は不明ですが享禄時代(1530年頃)とも伝わります。明治の廃仏毀釈により明治2年(1869)に無住のため廃寺となりました。


明治10年(1877)に広諦寺本堂(間口12間半22.5m・奥行6間10.8m)を校舎として西郷地小学校が開校、当時の児童数は32名で約10年間使用されています。明治末期には火災により本堂、仁王門が消失し、残ったのは薬師堂だけになってしまいました。


かっての広諦寺本堂は、水戸の天台宗薬王院と同じ形だったという話が残っていますので、規模は少し違いますが室町時代建築とされる水戸の天台宗薬王院本堂の写真です。


仁王門にあった江戸末期の作と伝わる仁王像は、持ち出して焼失を免れたので薬師堂に安置されています。格子と網の間から拝ませていただきました。阿形像183㎝、吽形像190㎝で、頭部、胸部の平面的な形が特徴の桧寄木造りです。


菊のご紋の付いた厨子の中にある薬師如来ご本尊は盗難にあったとされ、光背と連華台のみが残されているそうです。


当初、屋根は茅葦の寄棟造でしたが、昭和23年に瓦葺、平成3年には銅板葺に改修しています。覗いた内部は格天丼となっていました。


建築年代不詳ですが、桁行3間、梁間3間、円柱12本の方形造りで、内陣も円柱、組み物を乗せた造りになっています。


左手にある池は、心という字に掘られたと伝えられ、古来より目の病にご利益があるとされ平癒を祈願して「め」と書かれた布などが奉納されていたそうです。


薬師本堂の南側にある高さ約2.5mの塚は皇諦寺開山初代の高僧の墓と伝わります。石仏類が残っていました。




この山中薬師本堂があった広諦寺の本山は、水戸街道千住宿から17番目の小幡宿の中心にある天台宗の古刹、神明山等覚院法円寺です。


寺伝では天安元年(857)慈覚大師圓仁の開基にして大師の法孫惠海この地に一宇を建立したとされます。

この小幡宿は水戸藩領で陣、脇本陣は置かれず、問屋場(といやば)1軒だけの小規模宿場でした。ただこの法円寺が水戸藩の定宿として使われ、山門や本堂には水戸葵紋が付いています。
※問屋場とは宿場の人馬の継ぎ立てや宿泊に関する業務をしました。


山門や本堂大棟には水戸葵紋の他に菊の紋が見えましたのでアップしてみたのがこの写真です。

調べてみると天台宗は天帝のいる紫微星を支える三つの星の真下にある天台山で開かれたといい、日本国を表す16菊の中央に三ツ星(三諦章・さんたいしょう)を配したのが天台宗の宗紋で、16菊の使用は許されているそうです。


この山中薬師堂は150年前の廃寺ですが、最近でも無住寺や廃寺跡を見かけることがあります。いま全国には77,000くらいの寺院がある中で、そのうち住職のいない無住寺は約17,000になるという数字があります。

若い人のお寺離れによる檀家の減少や葬儀や法事の簡素化による収入減、そして寺院後継者の不足など時代の変化に伴う諸要因が押し寄せているようです。
地域の歴史と密接に結びついている寺社の消滅は寂しいことです。地域との結びつきを強め、いろんなアイディアで親しめる環境つくりに努力している若い住職さんたちにエールを送りたいと思います。

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4 コメント

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Unknown (まりえ)
2024-07-09 08:40:55
おはようございます
こんな立派な寺が廃寺何てもったいないですね
どなたかこのお寺を守って頂ける方との
良い出会いがあるといいですね
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初めましてですか・・・・・ (佐貫卓球ルーム2)
2024-07-09 09:02:45
おはようございます~~~
人も寺も出会いですね
本当に素敵な人だと思える人が40歳過ぎても一人身でいます
出会いに恵まれないのでしょう~~~
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山中薬師堂 (顎鬚仙人)
2024-07-10 08:49:10
まりえさん
ここは地域の方々が管理していられるようなので
何よりです。ただお寺としての再建は難しいのかなと
思いますが…
コメントありがとうございます。
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山中薬師堂 (顎鬚仙人)
2024-07-10 08:50:35
佐貫卓球ルーム2 さん
「人生は出会いで決まる」哲学者マルティン・ブーバーの言葉が
ありますが、出会いに恵まれる人恵まれない人いろいろですね。
事業や寺社運営も協賛してくれる方との出会いが存亡に大きく
関わっているのを見聞きします。
コメントありがとうございます。
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