秋たけなわ、觔斗雲を降りた仙人が彷徨範囲で見つけた秋の実を撮ってみました。
ウメモドキ(梅擬)は、葉や枝ぶりが梅に似ているのが名の由来とか(そんなに似ているとは思えませんが)。鳥の大好物の実には発芽抑制物質が含まれていて、実が糞と一緒に排出されることでその物質が除去され、運ばれた先の地面で発芽するという子孫を増やす仕組みになっているそうです。
コムラサキシキブ(小紫式部)の名をもらった源氏物語の作者の紫式部は、今から1000年ほど前の平安時代の貴族です。当時の宮廷文化を偲ばせる色は、花ことばの「聡明」「上品」にぴったりです。
塀などから顔を出しているのをよく見かけるピラカンサは、南欧や西アジア原産で明治時代に渡来しました。実には毒性があるため一部の鳥しか食べませんが、年を越して周りの実が無くなる頃には毒性が薄くなり、食した鳥が運び種を増やすことが出来るようになります。
ナツハゼ(夏櫨)は紅葉の美しい木、ブルーベリーの仲間でジャムやジュースにも利用できます。野山を跋扈した少年時代には、ハチマキボンボという名で腹に納めました。
実が生り過ぎて枝が垂れ下がったガマズミ(莢蒾・蒲染)です。これも少年時代はヨツズミといって霜が降りると甘くなるといわれていましたが、甘かったという記憶はありません。
クロガネモチ(黒鉄黐)は公園や庭木でよく見かけます。これらモチノキ科の樹皮からは鳥黐(トリモチ)が採れることからの命名で、全体に黒ずんでいるのでクロガネが付きました。
カマツカ(鎌柄)は緻密で固い木材のために鎌や玄能、金槌の柄に使われてきました。
さて地面に目を移し落ちている実を撮ってみました。
ドングリの中でも通常食べられるシイノミ(椎の実)はスダジイの実です。戦後すぐの我が少年時代には近辺の神社境内などは早いもの勝ちでした。今でも殻を割って白い実を齧ると懐かしい薄甘さがしました。
こちらはクヌギやコナラの実のドングリ(団栗)です。戦後の食糧難の時代には渋抜きして食べた話も伝わっています。このドングリを食べて育ったというスペインのイベリコ豚の生ハム、ハモンセラーノは大好物ですが、年金暮らしではめったに口に入りません。
イチョウは雌雄異株です。雌株に生るギンナン(銀杏)は茶碗蒸しや封筒に入れてレンジし塩振ってのつまみが定番ですが、臭くてかぶれる実の処理が大変で最近は拾う人も少なくなりました(かくいう仙人も)。
公園や街路樹には実のならない雄株だけ植えても、実生苗では判別が狂うこともあり最近では接ぎ木苗にして植えていると聞いたことがあります。
さてこのギンナンは茨城県立歴史館のイチョウ並木の落とし物です。ここでもかっては拾う人を見かけましたが今では掃いての処分も大変なようですし、靴で踏んでの車内には微妙な臭いが漂ってしまいます。
梅もどき赤くて機嫌のよい目白頬白 種田山頭火
小式部の才気走れる色にして 高澤良一
をさな子はさびしさ知らぬ椎拾ふ 瀧春一
団栗を踏みつけてゆく反抗期 小国要
ぎんなんをむいてひすいをたなごころ 森澄雄