顎鬚仙人残日録

日残りて昏るるに未だ遠し…

対(つい)の名の植物…②

2023年08月27日 | 季節の花
残暑が続きますねぇ。気象庁の定義では、最高気温が35℃以上の日を猛暑日、30℃以上の日を真夏日、25℃以上の日を夏日というそうですが、お盆過ぎにも毎日にように「猛暑日」「真夏日」が続いています。
そういうことで外出もままならず、また無精して在庫写真の中から「対(つい)」になるような植物を探してみました。

刺身のツマや薬味には欠かせないアオジソ(青紫蘇)は、数本植えておくと便利です。我が家では9月末に実るシソの実をみそ漬けにするため、毎年こぼれ種で出てきた苗を畑に残しておきます。


アカジソ(赤紫蘇)は何と言っても梅干の着色料、それにきれいな色の紫蘇ジュースなどにも使われます。


すでに花期は終わっていますが、ノカンゾウ(野萓草)は一重のワスレグサ属の多年草で、古来よりこの花の美しさを見ると憂いを忘れるといわれ、忘れ草として万葉集にも5首詠まれています。


一方ヤブカンゾウ(藪萓草)は同じワスレグサ属の八重の花です。生育環境は名前の通り藪や草原の茂みを好むような気がします。


そろそろ咲き始める秋の七草オミナエシ(女郎花)…、最近では野原で見かけることが少なくなってきました。名前が付いたのは平安時代から、おみな(女郎)は高貴な女性、「えし」は古語の「へし(圧)」で、美女をも圧倒する美しさから名付けられたという説などがあります。
万葉集では14種詠まれています。
      をみなへし 咲きたる野辺を 行き廻り
          君を思ひ出 た廻り来ぬ   大伴家持
(女郎花の咲き乱れている野辺をめぐり歩いていると、あなたを思い出し回り道してきました)


対の名そのもののオトコエシ(男郎花)、オミナエシに対立させて名が付けられたとされますが、葉や茎も大きく太く毛深いのでまさに「男」の名にぴったりです。


ワールドカップで大活躍の女子サッカーチームの愛称にもなった「大和なでしこ」は、このカワラナデシコ(河原撫子)のことです。秋の七草でそのしなやかな茎や葉、繊細で可憐な花を、古い時代の女性像にたとえて言われてきました。

大洗海岸の松林で見つけたハマナデシコ(浜撫子)、その名の通り海辺に自生する同じナデシコ科ナデシコ属の多年草です。


秋の初め爽やかな芳香でその存在を知るキンモクセイ(金木犀)…原種のギンモクセイに対し、黄金色の花をつけることから名前が付いたといわれています。木犀は樹皮が動物のサイ(犀)の皮に似ていることに由来するそうです。


こちらが原種のギンモクセイ(銀木犀)…、花の色が白か淡黄色で香りもやや弱く花の数も少ないとされます。17世紀頃に中国から渡来しモクセイ(木犀)とよばれていましたが、明治になって金木犀が入ってくると、区別のために銀木犀とよばれたそうです。

それにしても夏の暑さが年々厳しくなるのは、地球温暖化のせいとすれば、我ら子孫はそれに耐えうるように進化していくのでしょうか。温暖化の元凶にもなるクーラーも、電気代の値上がりもあって控えめにして青息吐息の仙人は、来年の夏は乗り切れるか心配です。

暑いのに熱帯植物館…食虫植物展

2023年08月22日 | 季節の花

茨城県立植物園で食中植物展が開催されています。
入り口の券売り場で確認したら、熱帯の植物が植えてあるので会場の冷房はないとやはり予期した通りの返事…気温34℃のなか勇気を出して入場しました。

食虫植物は虫を捕食する植物で、捕虫葉と呼ばれる虫を捕らえるように発達した葉の仕組みにより次の4つに分類されます。

《落とし穴式》

捕虫葉は筒状の袋のようになり、その内側から出る匂いにつられて、虫が袋の中に落ちると、蓋が閉まり、袋の底にたまっている消化液で昆虫を消化します。



この種は約90種ありますが、その総称的な和名はウツボカズラ(靫葛)です。会場ではネペンテス、サラセニアなどの名前でいろんな品種が展示されていました。

《挟み込み式》

捕虫葉の内側に「感覚毛」という組織があり、昆虫が触れるとわずか0.5秒で挟み込みます。閉じ込められた昆虫は1週間程度で消化されてしまいます。

代表的な品種は、ハエトリソウです。YouTubeで葉がパタンと閉じるこの捕獲の様子がいろいろ出ています。

《粘着式》

捕虫葉の裏側に、腺毛という細い毛がびっしりと生え、そこから出る粘着液で虫を捕獲し、葉の内側に巻き込まれる仕組みになっています。この粘着液には消化酵素が含まれていて、昆虫は消化されてしまいます。

仙人の少年時代には、この粘着式のモウセンゴケを湿地でよく見かけましたが、いつの間にか消えてしまいました。これも昆虫が捕まる動画がYouTubeで見られます。

《吸い込み式》

水中の葉や茎に付いている小さな袋状の捕虫葉に、プランクトンなどの微生物が触れると口が開き水と一緒に袋の中に吸い込まれます。このムジナモは牧野富太郎博士が28歳のとき、江戸川河川敷で見つけ、ムジナ(貉)の尾に似ていることから名付けました。

食虫植物は、基本的には光合成能力で自ら生育できますが、荒野や湿地など栄養分が足りない土地では虫を捕食することでそれを補い、成長と繁殖に役立てているそうです。
いずれも捕虫する様子がYouTubeで見られるので面白いですよ。



エアコンの効いた隣室では、朝ドラ「らんまん」の主人公牧野富太郎博士関係の資料が展示されていて生き返りました。

茨城にも何度か足を運んだ博士の、茨城県に関係のある標本を東京都立大学牧野標本館からお借りしたものも展示されていました。その中のひとつ、ツクバネは、実の形が羽根つきのツクバネ(衝羽根)に似ているので命名されたビャクダン科ツクバネ属の落葉低木です。

真夏の熱帯植物館…、暖房経費はかからない時期でしょうが、夏休みでもさすがに人影はほとんどありませんでした。

家康関連の所蔵品展示…茨城県立歴史館

2023年08月16日 | 歴史散歩

7月末までの企画展で展示された所蔵品や寄託品の中で、放送中の大河ドラマ「どうする家康」に因んだ家康関連の所蔵品も展示されましたので、その一部をご紹介します。(ドラマの写真はNHKのページより借用いたしました)


晩年に出家した家康の生母、伝通院の肖像画は、白頭巾を被り右手に数珠を持つ美しい花模様(五七桐と桜)の小袖を着用した尼僧姿で描かれ、小紋高麗縁の上畳に座っています。
政略結婚の駒として今川、織田、徳川の勢力の間で翻弄された一生でしたが、慶長7年(1602)伏見城でその生涯を閉じました。家康は徳川家の菩提寺芝増上寺の管する小石川の無量山寿経寺に葬り、その法名により伝通院と改称させました。

松嶋菜々子が演じた於大の方(伝通院)と正室瀬名(有村架純)の一コマです。
伝通院の父は三河刈谷城主水野忠政、母は於富(華陽院)です。於富は忠政と死別した後に松平清康(家康の祖父)に再嫁し、娘の於大と共に岡崎城に移り、於大は清康の子弘忠に嫁し家康を生むのです。父の松平弘忠17歳、母於大の方(伝通院)15歳の時の子でした。
しかし家康3歳の時に父方の叔父水野信元が織田信長に加担したことから於大は離別され、のちに三河坂部城主久松俊勝に嫁ぎました。

ドラマでは水野信元を寺島進、久松長家(俊勝)はリリーフランキーが演じました。信元は讒言により武田方との内通の疑いで、信長の命を受けた甥家康によって三河大樹寺において殺害されました。


東照大権現像(重要文化財)
幕末の文久3年、将軍後継職の徳川慶喜(当時は一橋家当主)が14代将軍家茂の上洛に同行し東本願寺の所蔵する家康像を見て「まるで神君(家康公)が生きているようだ」と感嘆し模写させたものと伝わり、重要文化財に指定されています。


「鬼作左」とよばれた家康三奉行の本多重次着用と伝わる立葵紋入り陣笠です。
本多作左衛門重次は享禄2年(1529)に父信正の子として三河国に生まれ、剛毅な性格から「鬼作左」とよばれました。今回の大河ドラマでは一族の本多忠勝、忠真、正信が出ていますが、重次の出番はシナリオにはなかったようです。

同じく本多重次着用と伝わる立葵紋入り陣羽織です。
黒羅紗地に南蛮風の絵柄の裏地、背面に朱で丸に立葵紋(本多家の家紋)を配しています。
日本一短い手紙として知られる「一筆啓上 火の用心 お仙泣かすな 馬肥やせ」の一文は、重次が天正3年(1575)の長篠の戦いの陣中から妻にあてて書いた手紙とされています。


家康判物 水野忠重宛
本能寺の変後、武田氏の旧領甲斐で所領の安定に努めている家康のもとに、叔父の水野忠重が賤ケ岳の戦況と織田信雄を援け滝川一益を攻めるという報告の返信で、柴田勝家討ち死にの報が各方面から上がってきていると記されています。

その野忠重の肖像画です。
家康の生母於大の弟、水野忠重は当初織田信長に仕える兄信元に属しましたが、永禄4年(1561)から家康の家臣となり数多の戦功を挙げます。天正8年(1580)信長から兄信元の旧領を与えられて家臣となり、その後信長、信雄、秀吉に仕え秀吉死後に家康に仕えています。慶長5年(1600)関ケ原の戦い直前に酒宴の席で刺殺されますが、嫡男勝成は徳川家の大名として老中などを勤めた水野一族の祖となりました。 

黒漆塗変わり兜
水野忠重が元亀3年(1572)三方ヶ原の戦いで家康から拝領したと伝わる、形や鍔や装飾に変わった形を採用した兜です。


東照宮遺訓
有名な家康の遺訓とされる「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし…」を最後の将軍徳川慶喜が明治になってから書いたもので、落款などから静岡隠棲時代のものとされます。近年の研究では、水戸藩2代藩主徳川光圀の遺訓とされる「人のいましめ」をもとに、旧幕臣池田松之助が維新後に創作し東照宮に奉納したものとされています。


太刀揃え 則包作(重要文化財)/黒漆菊桐紋散蒔絵鞘糸巻太刀揃 
後陽成天皇から秀吉、家康と伝授され家康11男の水戸藩初代頼房が水戸東照宮に奉納した太刀と伝わります。

「作品保護のため」という理由で撮影禁止だった展示品も、所蔵品などは概ね撮影可になってきている最近の情勢なので、お陰様で紹介することができました。

対(つい)の名の野草…①

2023年08月09日 | 季節の花
ままならぬブログ更新も猛暑のせいにしてそれでも何とかネタを…と在庫写真の中から対の名前の花を探してみました。

ハハコグサ(母子草)はキク科ハハコグサ属の多年草、別名ゴギョウ(御形)は春の七草として知られています。全体が白い綿毛に覆われて母親が子を包みこむように見えるので、名が付いたという説などがあります。


同じハハコグサ属でも薄褐色の地味な花のチチコグサ(父子草)…、やはり白い毛に覆われています。名前の由来は、黄色い花の母子草に対して地味な花なので付けられたとか、母子草同様いろんな説があるようです。


ヒトリシズカ(一人静)はセンリョウ科チャラン属の多年草です。源義経の愛妾静御前が舞っている姿から名付けられたというのが、人気のある定説になっています。


フタリシズカ(二人静)も同じ科に属し、名前は謡曲「二人静」で静御前とその亡霊の舞う姿から付けられたといわれます。実際には花穂が二本どころか数本あるものも多く見かけられます。


キンラン(金蘭)は、ラン科キンラン属の地生ランの一種で、近在の野山で見かけますが、この植物は自然界の菌根菌との共生でないと生育できないのが理解されず、盗掘されて個体数が減少しています。


同じ属のギンラン(銀蘭)も同じような状況で開花するため、金銀並んで咲いているのが見かけられましたが、近年開発、乱獲などのため数も激減し、どちらも多くの都府県で絶滅危惧種に指定されています。


よく似ているハルジオン(春紫菀)とヒメジョオン(姫女菀)は、北米原産のキク科ムカシヨモギ属、日本全国に繁茂し、要注意外来生物に指定され、侵略的外来種ワースト100にも選定されています。


区別が難しいとされますが、花びらの幅が狭い(1㎜以下)のがハルジオン、やや広い(1.5㎜)のがヒメジョオン…また茎が空洞なのがハルジオン、空洞でないのがヒメジョオンなどの見分け方があります。


シロツメクサ(白詰草)はマメ科シャジクソウ属、別名クローバーの方が知られています。オランダから江戸時代に入ってきたガラス器の緩衝材として乾燥したクローバーを使用していたので「詰め草」という日本名が付きました。


ムラサキツメクサ(紫詰草)は、アカツメクサともいわれ日本へは明治初期に牧草用としてシロツメクサとともに移入され今では牧草の他に、ミツバチの蜜源、グラウンドなどの地被植物として広く利用されています。

暑い頭で思いついたのを並べてみました。対になるかどうかあやしいものもありますが、また探してみたいと考えています。


夏の早朝…天然クーラーと露草

2023年08月01日 | 季節の花

久しぶりに早朝5時前の田んぼの畔道を歩いてみました。この時間の気温は24℃、やがてすぐに35℃超えになる日中の暑さが嘘のような涼しさです。


上がったばかりの太陽の陽射しは、これから襲う殺人的な強烈さはありません。
ここは近辺でも知られた米どころで、もうすでに稲穂が付いた田もあり、8月末には稲刈りが始まります。


びっしょりの朝露の中で、名前の通り露を纏いながらツユクサ(露草)が花を開き始めました。


折りたたんだような苞の間から青い二枚の花弁と透明で小さな花弁が顔を出しています。1日花で早朝に咲きだし、午後には萎んでしまいます。


陽が当たらないところでは、まだ眠っている花もあります。

時間の有り余る仙人はまた、覗いた花の中を調べてみました。

雄しべは6本ありますが、長い2本のO型雄しべが本物の雄しべですが、根元の4本は黄色くて目立つけれど花粉をほとんど出さない仮雄しべで、昆虫を呼び寄せる役目といわれています。
多くの植物には自家受粉を防ぐ仕組みがありますが、開花時間が短いツユクサは、種子を作ることを優先して、花が萎む時に雌しべと雄しべを密着させ、自家受粉を行うそうです。

まわりで目を覚まし始めた草花を探しました。

朝咲いて昼には萎むアサガオに対して、昼の間も咲いているヒルガオ(昼顔)、咲いたばかりの羨ましい瑞々しさです。


似たようなヒルザキツキミソウ(昼咲月見草)、北米原産で観賞用として輸入されものが野生化しています。同じマツヨイグサ属で夕方に咲く月見草に対し、昼間に咲くので命名されました。


同属のユウゲショウ(夕化粧)、夕方に淡紅色の艶やかな花を咲かせるので命名されましたが、今では昼間どころか朝から咲いています。


朝陽に輝くエノコログサ(狗尾草)、通称「猫じゃらし」で知られています。最近よく利用するGoogleレンズで調べるとキンエノコロ(金狗尾)と出ていました。


こちらは「要注意外来生物」のワルナスビ(悪茄子)、棘が見えるでしょうか、加えてすごい繁殖力…牧野富太郎博士がいたってストレートに命名しました。明治39年に成田市の御料牧場で発見した博士は自宅に持ち帰って植えたためその根絶に苦労した話が著書「植物一日一題」に載っているそうです。


同じ外来種の野性化でもまだ可愛さのあるバーベナは、南米原産の多年草で和名はヒメビジョザクラ(姫美女桜)、多くの種類があるそうです。


同じ仲間のヤナギハナガサ(柳花笠)、別名「三尺バーベナ」で同じクマツヅラ科というのが分かります。


アメリカザリガニが日陰に潜んでいました。裂きイカを餌に釣り上げて遊んだわが孫たちもすっかり青年になり、また仙人の好物スルメイカも不漁ですっかり高級品になりました。
稲や水草を切ってしまう被害から「条件付特定外来生物」に指定され、ペットとして飼育できても野外に放したりすることを禁止する法律が6月1日に施行されました。

40分程度の気持ちよい散歩でも帰宅時には汗びっしょりかいてしまいました。