スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

人口分布とその増減

2007-01-26 08:11:13 | スウェーデン・その他の社会
2006年スウェーデン統計年鑑が出版された。経済や社会などを様々な側面から数値的に捉えた大きな統計資料だ。“2006年”といいつつも出版作業が実際に行われたのが2006年なので、各項目で使われている統計は最新のものでも2005年のようだ。

その中の一項目である「人口」を見てみると、広大な国土を持つスウェーデンの人口分布が概観できる。出生と移入民のおかげで人口は着実に成長し、現在910万人。しかし、その分布はかなり不均等だ。世界の貧困問題を「南北問題」と呼んだりするが、スウェーデンの人口分布・過疎問題も同様に「南北問題」と言っても過言ではないかもしれない。ただし、この場合、調子がいいのは「南」であり、困窮しているのは「北」であるが。

下の地図は、2005年における人口の変動を市(コミューン)ごとに表したもの。青が濃いほど人口上昇率が高く、逆に赤が濃いほど人口の減少が激しい所だ。まさに「赤い北部」と「青い南部」だ。2005年に人口上昇率が一番高かったのはなんと俗称「スウェーデンのエルサレム」と呼ばれるJönköping(ヨンショーピン)市だという。(ちなみに私はこの2005年にJönköping市からGöteborg市に移出しているので、トレンドに逆らったことになる)

Jönköping市は80年代には人口減少に悩まされていた斜陽の街だったのだが、それまで細々とあった職業訓練的な大学機関を大きく拡張したことや、メッセ(見本市会場)の成功、流通業・製造業を中心に産業が盛んになったことなどで、今では魅力のある地方都市になっているようだ。

逆に人口の減少率が一番高いのは北部のKramfors(クラムフォシュ)市。工業で栄えた1940年代の44000人に比べ、今では人口が半減したとか。

地図から左に向かって線が5本延びているが、これはそれぞれの線の以北に総人口の●%、以南に●%の人が住んでいる、ということを示している。例えば、一番上にある線が示しているのは、その線より北に10%、南に90%の人が住んでいることを示しているのだ。こうして見て行くと、人口分布で見た場合のスウェーデンの「重心」は、Flen市とStrömstad市を結ぶ線上にあるようだ。

スウェーデンの過疎問題について個人的に付け加えれば、戦後、過疎が進行したものの60・70年代のころは、自然に囲まれて住みたい人々による「緑の波」が都市部から田舎に向かって起きたため、過疎の進行にも歯止めがある程度かかったという話を聞いたことがある。しかし、その後、80年代、90年代には都市部集積が再び激しくなり、今に至っている。ストックホルム・ヨーテボリ・マルメなどでは、慢性的・恒常的な住宅不足が続く。しかも、マルメでは、コペンハーゲンで勤務するデンマーク人が、家賃と生活費の安さを理由に、スウェーデン側に住み、毎日、電車で海峡を渡って通勤する人も急増しているとか。

一方、産業が停滞し、過疎に悩まされる地域では、経済理論によると、賃金が低下していくため、企業がその安くなった労働力を利用しようとして、その地域で操業を希望するようになり、雇用が生まれ、逆に、都市部では賃金が上がり、労働コストが高くなるので、企業は出て行く、というプロセスを経て、全体としてバランス(均衡)が保たれるようになる、と考えられる。しかし、企業がそんな過疎地に活動拠点を移しても良い、と考え、過疎化に歯止めがかかるまでに雇用が生まれるためには、よほど賃金水準が下がらなければならないが、現実の話として、そこまで賃金が下がることは難しい。しかも、賃金が下がりすぎると、人口はさらに退出して行き、企業にとっての魅力も減少する。先進各国をみても、その理論どおりに行っている国はほとんどないようだ。しかも、スウェーデンに関して言えば、集団交渉によって賃金格差がなるべく抑えられ、また、比較的手厚い失業保険のおかげもあり、賃金が過疎地で低下することは若干に限られる。

そのため、賃金の調整プロセス以外の方法で、過疎防止を積極的に行っていかなければならない。産業に関しては、電話オペレーターのコールセンターなど、輸送費や距離に縛られない産業を盛んに誘致したり、努力はしているようだが、あまりうまくいっていないようだ(スウェーデンの市外電話は国内一律だが、これは地方活性化の観点からは望ましいだろう)。また、過疎地では余った住宅がたくさんあるので、外国からの移民・難民に来てもらおうと誘致する動きも一部であったが、住宅はあれど雇用なき地域に住みたい人がたくさんいるわけではない。

上の地図は、外国生まれの住民の占める割合を示したもの。赤が濃いほど、その割合が高く、青いほど低い。ちなみに「外国生まれの住民」には移民第一世代は含まれるが、スウェーデン生まれの移民第二世代は含まれないことに注意(逆に、親の仕事の関係でたまたま国外で生まれた根っからのスウェーデン人も僅かながら混じっている)。広域ストックホルムを始め、街の大きさに比べ大学関係者の多いウプサラや、見えにくいがヨーテボリやスコーネ地方(マルメ・ルンド)で割合が高いほか、ヨンショーピン市から南にかけて高いことが分かる。ヨンショーピン以南のスモーランド地方の小さなコミューン(市)には、伝統的に製造業を中心とする中小企業が数多く存在し、現在でも景気はいい。だから、そのように雇用があるところに移民・難民の人々は集まってくるのだろう。北方のフィンランド国境や、オスロへの途上のノルウェー国境も赤くなっているのは、そのあたりでは国境をまたいだ行き来が盛んなことを示しているのではないだろうか。


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