スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

暗闇の中の小さな希望

2009-04-20 07:49:13 | スウェーデン・その他の経済
今年の2月に、GM傘下のSAABが窮地に陥り、スウェーデン政府に救済を求めたとき、産業大臣は「トロルヘッタン(SAABの本社がある町)は、これからは自動車生産以外のことに従事する、そういう心積もりを今からしておきなさい」と冷たく言い放した。

スウェーデンの産業政策の一つの基本は、斜陽産業や倒産しかかった企業は救済するよりも淘汰し、溢れた労働力をより生産性の高い産業や成長企業へ移動させていくべき、という考え方だ。そして、このプロセスで発生する失業に対しては、寛大な失業保険給付や職業訓練(または大学教育)を国が責任を持って行う。経済全体で見た場合、非効率な産業・企業が淘汰されることで生産性が向上するうえ、社会全体で失業者を一定期間、保護するため、経済の構造転換に対する抵抗が緩和され、転換がスムーズになる。

しかし、これがうまくためには、溢れた労働力を吸収してくれる「活発な」成長産業・成長企業が存在する、もしくは生まれてくることが大きな条件となる。

では、仮にSAABがなくなった場合、それに代わる新しい産業って何なのだろうか? これについては、SAAB、Volvoやその他の自動車関連産業が集まるヴェストラヨータランド地方(Västra Götaland、ヨーテボリが中心)の行政府やスウェーデン政府も様々な楽観的憶測を提示してきた。環境技術、風力発電、波力発電etc、いわゆるクリーンテク(clean tech)といわれる産業だ。

他方、自動車業界の側も、生き残りのためには、省エネ・環境車に力を入れていかなければならない、という危機感をますます強めてきた。バイオガス・カー、電気カー、ハイブリッド・・・。これらの技術は以前から開発が進められ、スウェーデン政府も研究開発に公的なお金を注いできたものの、すぐに目玉商品の生産が始まり、溢れた労働力を吸収してくれるわけではない。何事も時間がかかる・・・。

と思っていたら、興味深いニュースが飛び込んできた。変革は意外と早くやってくるかもしれないことを示唆するニュースだった。
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「ヨーテボリ近郊に新しいバッテリー工場がオープン。この一帯の自動車関連産業に希望を与えてくれるかもしれない」

出典:Dagens Nyheter

ヨーテボリから北に20kmほど行ったところにAle(アーレ)という市(コミューン)があるが、ここに新しいバッテリー工場が完成したのだ。しかも、バッテリーを作るだけでなく、それをFiatの小型車に埋め込み、電気自動車として販売もするのだそうだ。

バッテリー工場はAlelion Batteriesという地元の小さな企業が建設したもの。この企業は、アメリカや中国からバッテリーのコンポーネントを輸入し、それを組み合わせて大型バッテリーを製造する。そして、この工場の隣には、Autoadaptという別の会社が工場を建設中で、ここで電気自動車が作られる、という仕組みになっている。

電気自動車の車体はFiat 500という既成モデルで、これまでガソリン仕様だったものを、電気仕様にするということなのだ。ポーランドにあるFiatの工場から、ガソリンエンジンを取り付ける前のFiat 500の車体を輸入し、これにAlelionが製造したバッテリーを装着し、その他の関連部品も取り付ける。

この新しいプロジェクトは、新型のバッテリー生産に力を注いできた地元の小さな企業Alelion BatteriesとFiatがうまく協力関係を築くことで可能になったという。Fiatがこの小さな企業をパートナーに選んだ理由は「Alelionはリチウム・イオンによる新世代バッテリーを製造するノウハウを持っているから」という。

この企業にはこれまで20人ほどの技術エンジニアが研究開発に携わってきた。近いうちにバッテリー製造で30人、電気自動車製造で30人の新規雇用を行っていく予定だという。電気自動車の生産台数は今年は100台ほどだが、来年は300台、その後はさらに規模を拡大していく見込みだ。

暗いニュースばかりだったヴェストラヨータランド地方をほっとさせてくれるニュースだ。バッテリー工場の完成記念式に立ち会った県知事は、願いを込めてこう祝辞を述べている。

京都会議から、次のコペンハーゲン会議までの道程は、実はこのAle(アーレ)を経由しているんだと、私は確信しているよ。私たちは環境によい再生可能な電力の発電に力を入れてきたのだから、これからは電気自動車の生産にも力を注いでいこうではないか!」


上機嫌のヴェストラヨータランド県知事
出典:Göteborgs Posten