本が好き 悪口言うのもちょっと好き

読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

外套・鼻  ゴーゴリ

2006-12-06 | 小説

 ゴーゴリは意外にユーモアがあると、最近読んだ本にかいてあったので、買ってみました。ちなみに、岩波文庫版ですが、裏表紙の定価を見てみると、300円です。アマゾンでは、同じ本が483円になっているのは、どうしたわけなんでしょうか。

 

 ”外套”は、ある小役人アカーキエウィッチの哀しい物語です。彼は、書類を写すことしか能がない。これといった趣味もなく、楽しみもないが、養う家族もない一人暮らしなので、安い給料でもなんとかやっていっている。

 

 ついぞどこかの夜会で彼を見かけたなどということのできる者は、誰一人なかった。心行くまで書き物をすると、彼は神様が明日はどんな写しものを下さるだろうかと、翌日の日のことを今から楽しみに、にこにこほほえみながら寝につくのであった。このようにして、年に四百ルーブルの俸給にあまんじながら自分の運命に安んずることのできる人間の平和な生活は流れていった。

 

 そんな、彼がいよいよ着古した外套を新調せざるを得なくなった時、最初は年収の1/3以上の値段に驚愕し、あたふたするが、腹を決めて新調することにすると、今度はそのこと自体が、彼の生活のハリになっていく。

 

 毎晩の空腹にすら、彼はすっかり慣れっこになった。けれど、そのかわりにやがて新しい外套ができるという常住不断の想いをその心に懐いて、いわば精神的に身を養っていたのである。

 

 そして、いよいよその外套が出来上がり、それを着て役所に出た日には、役所じゅうの話題となり、いつも彼のことをバカにしている同僚達が入れ替わりにやってきては、その外套を誉めそやした。しまいには、副課長がやってきて、その日の夜の夜会に彼を招待する。新しい外套を着て出かけられる嬉しさに、普段なら決して承諾することのないその誘いも受けるのだが、その夜会の帰りに、追剥ぎに、その外套を盗まれてしまうのだ。その後、そのショックで、生きる気力を失い、死んでしまう・・・・。

 

 なんて哀しい物語。人はまじめに生きれば生きるほど滑稽に見えてしまうのですねぇ。いまから150年前の世界ですが、役人の世界は、驚くほど変わっていない。ロシアという独特の雰囲気はかもし出していますが、日本の当時のお役人だって、そして今だって、似たようなもんだと思います。

 

 のアカーキエウィッチのような、”能”もないが、”罪”もない人間というのは、当時でも生きにくかったのですね。それでも、今の時代なら、彼がやっていたような仕事は、機械に代替され、居場所がないでしょう。だけど、人間の本性がさほど変わっていないと言うことは、アカーキエウィッチは現代にも結構存在するはずだと思います。そういう人たちは、今、社会の中で、どんな風に生き延びているのかと心配になります。

 

 多くを望まれても応えられないが、多くも望まない。実は、そんな人間は決して少なくないはず。個性を求められ、クリエイティブな人間こそが、価値があると信じさせられている今の社会で、こういう人たちがもしかしたら、引きこもったり、ホームレスになったりしているのでなければよいのですが・・・・。

 

 もう1篇の”鼻”は実に荒唐無稽なお話。これも役人を主人公にしたロシアの雰囲気漂う、古くて新しい、面白い作品でした。