ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『真実 パトリシア・ニール自伝』を読んで

2016年08月07日 | 本(小説ほか)
エッセイ集『一人になった繭』(澤地久枝著、文春文庫・1999年)の中に「愛情の美学」と題して、
ゲーリー・クーパーとパトリシア・ニールの恋愛について書いてあった。
そのことに興味をそそられて早速、『真実 パトリシア・ニール自伝』(パトリシア・ニール/リチャード・ディニュート著、兼武進訳、新潮社・1990年)を読んだ。

パトリシア・ニールは、1926年にケンタッキー州パッカードで生まれる。
10歳の時に朗読を学び、その関連で演劇に興味を持ち、本格的にその世界に入っていく。
そして、19歳の時にブロードウェーで初舞台を踏み、翌年、リリアン・ヘルマン作の『森の他の部分』(森の別の場所)が成功する。
それと共に、ハリウッドから声がかかる。

映画2作目の『摩天楼』(キング・ヴィダー監督、1949年)でゲーリー・クーパーと共演し、恋に落ち入る。
クーパー46歳、ニールが21歳の時である。
当時ゲーリー・クーパーには、妻ロッキーと娘のマリアがいて、結局、二人の仲は破局する。

その後、リリアン・ヘルマンのパーティーの席で作家ロアルド・ダールと知り合い、1953年、27歳の時に結婚。
しかし、60年代になると次々と不幸に見舞われる。
1960年、長男のテオが、生まれて4カ月の時に交通事故に会い、脳に障害を受ける。
翌年は、関係はなくなったと言っても、あのクーパーが死亡。
そして1962年、7歳の長女オリヴィアが風疹にかかり、それがもとで脳炎になり死亡する。

そんな失意のうちの時期だったが、『ハッド』(マーティン・リット監督、1963年)によりアカデミー賞主演女優賞を受賞する。
喜びはつかの間で、翌年1965年の39歳の時、5番目の子を妊娠中に脳卒中で倒れる。
そのために記憶、言語、手足などの機能障害となり、懸命なリハビリの末、少しずつ回復に向かう。
しかし、最後には夫ロアルドの不倫が影響して、1983年に離婚。

人生は、人それぞれで何ひとつ同じものはない。
現時点を生きるということ。その先に待ち受ける運命は誰にもわからない。
パトリシア・ニールの場合、栄光と失意がごちゃ混ぜになって、これが一人の人間の味わう人生かと考えてしまう。
それこそ、これがフィクションでないのが不思議なくらいの物語である。

ゲーリー・クーパーとの出会い。妊娠、中絶。
一緒に家庭を持てないことの絶望。そのパトリシア・ニールの想いが切ない。
ロッキーと娘マリアに憎まれて30年ほど経ったある日、偶然にマリアと再会する。
そのマリアが「ひとりっ子だから、もう一人、兄弟が欲しかった」と言う。
パトリシア・ニールが中絶し、生まれてくるはずだった子のことを二人は思い描く。和解。
和解は、その後ロッキーともなされる。
ロッキーのアパートで、マリアとパトリシア・ニールとの三人の食事。
亡きゲーリー・クーパーを中心とした想いの食事。解きほごされた感情とおだやかな雰囲気が漂う。

家族に見放され、すべてを失ったパトリシア・ニールは、マリアの紹介で知った修道院を訪れる。
怒りと絶望にまみれた彼女に、修道院長は「過去にこだわることをやめて、自分の人生を取り戻すこと」を諭す。
そして、修道院長のいう「ほかのすべてが奪われてしまった後にも残っている愛、そのような愛に至る道」を探し求めるために、この自伝は書かれている。
だから、赤裸々な内容がその時々の感情のまま、素直に隠し立てなく綴られている。

読み終わって、ひとりの人生を垣間みる思いと同時に、その心持ちに感動を覚えずにはいられなかった。

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6 コメント

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ぜひ読んでみたい一冊です。 (ラブ・コスモス)
2016-08-11 19:25:10
ろこさんのブログであなた様のブログを知りました。
ブログを閉じてからのコメントでどうぞお許しください。

読むにつれ、主人公の波乱にとんだ人生に心ひかれました。
ゲーリー・クーパーのこと、そして、大変魅力があり、その文才に感銘しているロアルト・ダールのこと・・・。
誰しも一生は演劇にしたいほど、それぞれに辛く、けれども美しく彩られています。
特に素敵な出会いを持った主人公の魅力にぜひとも触れたいと思います。

ご紹介有難うございます。
幾度かあなた様の過去の記事を読ませて頂き、私の映画鑑賞とダブっていたことがとても嬉しく思いました。
暫くすると、ブログも削除したいと思っておりますが、今後も楽しみに記事を読ませて頂こうと思います。
ろこさんに感謝!です。
返信する
>コスモスさんへ (初老ytおじ)
2016-08-12 01:44:06
コスモスさん、コメントありがとうございます。
実は、コスモスさんのこと去年の秋頃から存じていました。
そして先月、ろこさんの記事でコスモスさんがブログを閉じられることを知り、
淋しい思いと、もっとしっかりとした読者になればよかったと反省しています。
このパトリシア・ニールの自伝、たくさんの人物が出てきますが、知っている人も多いと思いますので、
とっても興味深くもあり、十分にお勧めできる作品だと思っています。

返信する
悲恋と波瀾 (ろこ)
2016-08-13 16:36:16
こんにちは。
 悲恋が発端の波乱万丈な女優人生。
 愛する人との別れも悲しいですが、わが子との死別。
 脳卒中の身に離婚の悲哀。

 華やかな銀幕のスターであるがゆえに味わう浮沈の人生に、残されたものがこの自伝とは運命とはあざといものです。

 素晴らしい書評に魅せられました。

 

 
 
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>ろこさんへ (初老ytおじ)
2016-08-13 18:42:33
パトリシア・ニールの人生を知って、平凡な自分の生活と比べて、驚くことばかりでした。
自分の身の回りを考えた場合、私の不注意で子供に大怪我をさせてしまったということはあっても、
徹底的な不幸というものは知りません。
これが、たぶん一般的な人生ではないでしょうか。
自伝で、人の人生を知るということ。
昔、ルソーの「告白録」に感銘したのと、「チャップリン自伝」がすごく興味深かったぐらいしか記憶にありません。
今回これを読んで、今後、バーグマンなどの自伝も読んでみたいなと思ってしまいました。
なお、ろこさんの関係でコスモスさんからメッセージを頂きました。ありがとうございます。
今、ろこさんが紹介して下さった「レターズ」を読んでいます。
「パンとペン」も購入しましたが、こちらを読むのはもう少し後になりそうです。
返信する
Unknown (ろこ)
2016-08-13 19:24:35
そうでしたか。
 人にはそれぞれ大なり小なり浮沈があり、悲喜がありますね。
 私のブログ再出発に際して、表向き応援の顔をして、とんでもない糾弾の刃を向けた、ひどいコメントを目撃した唯一の方が初老ytおじさまでした。
 その時、私を援護してくださったこと、一生忘れません。
 そんな小さな出来事にも、人間の表の顔、裏の顔がある事を知りました。

 困った時こそ真の友と言う言葉があります。
 初老ytおじさまは「困った時の真の友」という感じがします。

 パトリシア・ニールを救ったのは、奇しくも、敵味方のような関係だったクーパーの娘マリアであり、彼女が紹介した修道院だったとは、運命の細い糸を思います。
 
  映画を通して人間の機微を感じるのは、その感受性と人間性に負うところ大だと思います。
 映画のレビューにも初老ytおじさまの人間的魅力がにじんでいて、一味もふた味も違うように思います。
 
 パトリシア・ニールの自伝のレビューを通して、人生というものを考えさせられました。
 一つのレビューから、それを読む人に様々な感興を呼び起こすのは、書評・レビューを書いた人の力ですね。
 ありがとうございました。読んでみたいと思います。
 
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>ろこさんへ (初老ytおじ)
2016-08-13 23:53:01
二度もコメントありがとうございます。
私がこの自伝を読むきっかけになったのは、澤地久枝さんのエッセイでした。
それも、たまたまブック・オフで偶然手にした本です。
偶然にしても、やはり惹かれるものがあったと思っています。
最近読書は細々としていますが、読むことはいいことですね。
ろこさんのブログ、話題がいろいろと富んでいて毎回楽しみにしています。
これからもよろしくお願いします。
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