ポケットの中で映画を温めて

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『女帝 小池百合子』を読んで

2020年06月17日 | 本(小説ほか)
話題の本、『女帝 小池百合子』(石井妙子著、文藝春秋社:2020年5月刊)を読んだ。

彼女は平成のはじまりに、華々しくテレビ界から転身して政治家となった。
二世、三世ばかりの政界で、たとえ政権交代があろうとも、沈むことなく生き抜いた。
「権力と寝る女」、「政界渡り鳥」と揶揄されながらも、常に党首や総理と呼ばれる人の傍らに、その身を置いてきた。
権力は入れ替わる。けれど、彼女は入れ替わらない。そんな例を他に知らない。

男の為政者に引き立てられて位を極め、さらには男社会を敵に見立てて、階段を上がっていった。
女性初の総理候補者として、何度も名を取り上げられている。
ここまで権力を求め、権力を手にした女は、過去にいない。
なぜ、彼女にだけ、それが可能だったのか・・・
(本書、序章 平成の華より)

そもそも、この作品化の動機は、小池がカイロ大学留学時に同居していたという早川玲子さん(仮名)の証言である。
著者は、身の危険も感じていると言う早川さんの元、カイロに飛び立ち当時の手帳やメモ、資料を譲り受けて調査する。

それを基に著者石井妙子は、小池百合子の生い立ちまで遡り、そこから今日に至る彼女の実像を探ろうとする。
第1章 「芦屋令嬢」
第2章 カイロ大学への留学
第3章 虚飾の階段 
と進み、その後 
第4章 政界のチアリーダー
第5章 大臣の椅子
第6章 復讐
第7章 イカロスの翼 と続く。
そして、 終章 小池百合子という深淵 で、今現在そのものの姿を記述する。

そこに描かれるのは、小池百合子の父親からの何らかの影響であり、果たしてカイロ大学を本当に卒業したのかの検証である。
そして、小池が権力志向主義であり、政策もないのに、いかにトップに上り詰める方法に知恵を働かせているかを、
彼女の著作物を検証し、その相互の矛盾点も小池自身の書き物や、当時の週刊誌等の記事によって暴き出す。

そのえぐり出される人間性は、
言っている内容が時と場合で違っても気にしない。
自分のプラスになる者には徹底してすり寄り、そのための努力は厭わない。
そして、もしこの人物が使えなくなったと思えば切り捨て、そればかりか、今までの味方でも敵と定めたら、徹底的に潰しにかかる、というもの。
余りにものえげつなさに、本当にそうだろうかとも疑問符を付けたくなるが、それも小池自身の言動によって実証する。

例えば、カイロ大学の卒業証書、証明書の件。
偽造はいくらでも出来ると言われるそれらの証書を、今までに見せたのは数回のみ。
それも、それが本物であるのか検証できない不明確な方法によってである。
それに対して、一緒に同居していた早川玲子さんは、卒業したと言う時期は、日本の父親から帰国を促されその後中退したのであり、
第一、その直前には進級試験に落第したと、当時の日記等で証明する。

それを後になって、「カイロ大学を卒業した日本人は、私の前には10年かかった人が一人いるだけで、私は4年で卒業し、それも首席だった」と吹聴する。
それが本当だったら凄いことである。何しろ、学生数10万人の中での首席である。
難解なアラビア語をまともにできない外国人の小池が首席ということは、実際の話どういう意味合いになるのか。

でもなぜ、そんな昔のことである大学の卒業の認否について、他人がそんなに拘るのかという疑問する人も出てくるであろう。
それについては、そもそも小池百合子がこのことを原点として「物語」を紡ぎ、要所要所でPRを重ねて現在に至っている、という事実がある。
だからこのことは、小池という人物の肝心かなめの大本の話だからである。

今月8日に、カイロ大学は学長名で「コイケユリコ氏が1976年10月にカイロ大学文学部社会学科を卒業したことを証明する。
卒業証書はカイロ大学の正式な手続きにより発行された」と声明は発表した。

だが気をつけてみなければいけないのは、腐敗がまかり通る軍事政権のエジプトでの、国家機関の配下のカイロ大学であると言うこと。
エジプトは、日本からの巨額の経済開発援助を受けており、その大学は政治から独立していない。
片や、小池の方はカイロ大学にも人脈を持っているようで、そんな大学のコメントは軽々しく信用しない方がよいと考えられる。
単純な疑問は、そのようなところから声明を出させるより、卒業証書、証明書をオープンに披露した方がよっぽど信用性が高いのに、なぜしないかということ。

久々に活字に没頭でき、読んでいる時間を忘れさせてくれた。
そこに書かれている文字は小難しくなく、それこそ夢中で推理小説を読む時のような快感も与えてくれた。
その内容は、今時点にぴったりマッチしているのは当然としても、やはり筆の力の面白さがベストセラーになる要素としてある。

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