原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

たかが水、されど水。

2014年02月07日 09時57分31秒 | ニュース/出来事

 

先日の道新に目につく記事があった。「無殺菌天然水、国内初の製造。札幌産ナチュラルミネラルウォーター」。審査に1年もかけてようやくパス。会員に定期販売するそうだ。なんでも欧州の基準ではナチュラルウォーターと呼べるのは一切の加工を認めない自然のままであることが条件。日本ではろ過や加熱した水もナチュラルウォーターとして認められているが、欧州に輸出する際は表示を変更するとか。正直、たかが水に何故これほどこだわるのか、と思ってしまった。というのも、わが町では欧州基準のナチュラルウォーターが無料でいくらでも噴出しているからである。

 

ホクレンがかつて売り出した「摩周の霧水」がそれだ。ただ売る際にろ過していた。販売戦略に問題があったのか、商品力がなかったのか、ビジネス的には惨敗。かなり前に撤退している。でも、ここの住民は現在でも本物のナチュラルウォーターを無料で毎日好きなだけ飲料している。お金を出して購入する人が少し気の毒に思えるほど自由だ。

 

そもそも、水商売というのはいつ頃からビジネス化されたのだろう。水の豊富な日本では、昔から水は空気みたいな存在だった。無ければ問題になるが、いつもおいしい水がふんだんにある生活が縄文時代から続いていた。水文化では世界でもトップ水準の国であったと思う。

いまから30年から40年ほど前、フランスのエビアンが携帯用の小さなボトルに入れて売りだしたのがきっかけであったと思う。欧州仕立ての水文化が日本にも押し寄せた。ファッションに敏感な若者から火がついた。これまでの日本の水文化が一気に萎んでしまったかのようであった。

実は、欧州の水は日本人には極めてまずく感じる。水道水といえども飲めたものではない。カルキの匂いが充満している。水道水などは慣れないと一発でお腹を壊す。慣れた欧州人は飲めるらしい。だが、さすが食事と一緒にだとまずいとずっと感じていたのではないだろうか。そこで生まれたのがナチュラルウォーターとガス入りのウォーターをレストランに用意させる習慣だ。これが一つの文化となった。水もお酒やワイン同様、お金で買うことにしたのである。買わなきゃならないほど、まずい水を毎日飲んでいて我慢の限界にきたともいえる(欧州の皆さんごめんなさい)。日本では今でもレストランでは水は無料サービスが当たり前。初めて日本に来たアメリカ人などは驚く。なによりも水道水が飲めるなんて、当初はほとんど信じられていなかった。彼らにとって水道水はトイレの水と変わらないというイメージがあるからだ。日本の縄文時代からの豊かな水資源を知らないのだ。

 

だが、日本のメーカーはこうした欧米のやむにやまれない事情とは別に、一種の流行で飲料水の販売に手を染める。日本のおいしい水が次々に売られるようになり、いつの間にか浸透していった。東京では水道水までペットボトルに入れて売られている。東京の水道水はそれほどおいしいということなのだ。ま、日本の水の良さを世界にアピールチャンスでもあるわけだから、こうした販売戦略はそう悪くはなかった。だが、思ったより日本の水が世界で普及していない(データはないが、海外で経験したところから断言する)。理由がある。日本の水の大半は軟水。実は日本以外の国の水はほとんどが硬水。つまり硬水の味に慣れた欧米人には日本の軟水は馴染めないのである。意外にこんな基礎的なことが気づかないものだ。日本の水は旨いだろうと自慢しても欧米人は少しばかり複雑な顔ををする。水が合わないというのはこういうことなのだ。

別の良い例がある。スコットランドでウイスキーを飲むとき、脇に添える水はやはりハイランドの水に限る。スコッチウイスキーの味に見事に調和する。この感覚は日本の水では味わえない。硬水の水は日本人にはあまりおいしいと感じないのだが、ウイスキーと合わせると見事に生きてくる。硬水の水でウイスキーは作られるからなのだと、スコットランドで教わった。なるほど、土地にあった水というものはやはりあるものなのだ。日本の水文化ばかり強調しても意味はない。

日本でも同じことがある。鹿児島の芋焼酎だ。鹿児島の独特の風習に割水がある。それぞれの家で芋焼酎に水を継ぎ足して二三日置くと見事な味に変わる。それを客に出してもてなすのだ。どこの家でもこの割水の焼酎があると聞いた。この水こそ日本古来の軟水。こうして考えると、たかが水といえどバカにできない。そこまで考えてきて、ナチュラルウォーターにこだわった札幌のメーカーの気持ちがようやく分かってきた。

 

聞くところによると、水道水を飲料水として飲める国は、日本を含めて世界で13カ国しかない。あとの国は水道水はまったく飲める代物ではないらしい。もちろん都市部と地方では多少の差があるのだが、日本はどこでも安心して水道水を飲むことができる。日本に生まれたことに感謝したい。ちなみに水道水が飲める国は以下に列挙した。あくまでもインターネットの情報なのであまり正確ではないかもしれないし、ここにあげられた国でも田舎はどうも保証の限りではない。日本、アラブ首長国連邦(アジアではこの二カ国だけ)。モザンビーク、レント、南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリア、クロアチア、スロベニア、ドイツ、フィンランド、アイルランド、アイスランドの13カ国。アメリカ大陸は南も北も全滅らしい。中国が日本の水資源を狙う理由もここにありそうだ。彼らの周辺にはいい水がないのだ。砂漠では水は血の一滴に匹敵する。水をめぐって戦争まで起きた。イスラエルでは今も水確保は軍事的秘密の一部だ。たかが水だが、されど水なのだ。

 

札幌メーカーの水商売の成功を祈りたい。


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2 コメント

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日本の技術は世界一です。 (原野人)
2014-02-09 10:22:42
まさしく日本の水文化は世界一です。技術開発も含めて。水道水がうまいのは単に水資源だけではありません。そこには見事な技術力があります。これこそ世界に輸出できる技術です。実際、海水を真水化する技術はすでに輸出されています。都市によって水道水の味が違うのも事実です。海寄りの町と山間の町では味も違います。こうした微妙な味の違いが分かるのも日本だけかもしれません。水の技術を使って世界に飛び出している人もたくさんいるようです。日本人は凄いと思います。
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水で叱られた話! (numapy)
2014-02-07 11:56:04
出身地の水道局に努めてる友人がいます。
帰省した際、一献酌み交わし、釣りの話から大いに盛り上がりました。
当然、渓流やらなにやら、水の話になる。東京の高度浄水処理の話にもなりました。
そこで、一言余計なことを言った「日本の水道水は均一だから…」
この一言に彼は怒りました。「それは認識不足である。アンタは水を理解してない!」
「カルキの濃度はある程度数値化されてるけど、水の成分はどの岩層を通ったかで全く違う」
講義はこの後、30分は続いたのでありました。
標茶の水は美味いですね。阿寒湖の伏流水はビジネス化しようとしてる人がいますが、
どうもあきらめたようです。
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