原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

寒雀(かんすずめ)

2012年12月28日 07時37分47秒 | 自然/動植物

 

クリスマス寒波とかいう寒気団が北の国を包んでいるらしい。道東は連日、零下20度を突破する朝を迎えている。これだけ寒いと気持ちが開き直る。思い切って外に出てみた。雪を踏むとキュッキュッと懐かしい音。「そうだ、これが冬の音だ」と納得。雪原を眺めると、枯れ草に一羽のスズメ。身を切るような風の中で、何やら楽しそうだ。嬉々とした声をあげていた。丸々と太った体を見て、なるほどこれが寒雀かと、二度目の納得。先人たちはこんな何気ない日常を歌にし、文字で紡いでいた。自然とともに日常があることをあらためて感じる。

 

寒雀は季語にもなっている。大寒の頃のスズメはふとって、やけに元気に見える。そんなところから冬の季語になったらしい。また全身の羽毛を膨らませている様から「ふくら雀」ともいう。俳句や短歌に登場するから記憶にある人も多かろう。

一方で、寒雀といえば焼き鳥の最上級の呼び名であった。最近は焼き鳥にスズメを使うことはほとんどないが、昔はスズメが焼き鳥の定番であった。なかでも寒雀は肉に脂が乗っていて、最もおいしいと、人気であったとか。いつ頃からなのだろうか、スズメが焼き鳥屋さんから消えてしまったのは。きっと何か理由があったに違いない。スズメの数が少なくなったせいかもしれない。

 

寒雀と言えば、やはり太宰治を思い出す。短編小説の「チャンス」に出てくる。「人生はチャンスだ、結婚もチャンスだ、恋愛もチャンスだ、としたり顔で教える苦労人が多いけれど、私はそうではないと思う」。こんな書き出しで始まる、ちょっとおかしな短編小説。その中ほどで、芸者同士が料亭で言い争いになり、次第に気色ばむ太宰治は、料理として出された雀の焼き物に心を奪われ、子供の頃に経験した寒雀を回想する。

『しかし、私の思いは、ただ一点に向かって凝縮されていたのである。炬燵の上にはお料理のお膳が載せられてある。そのお膳の一隅に、焼き鳥の皿がある。私はその雀焼きが喰いたくてならぬのだ。頃しも季節は大寒である。大寒の雀の肉は、こってりと脂が乗っていて最もおいしいのである。寒雀と言って、この大寒の雀は、津軽の童児の人気者で、罠やら何やらさまざまな仕掛けをしてこの人気者をひっとらえては、塩焼きにして骨ごとたべるのである。ラムネの玉くらいの小さな頭も全部ばりばり噛みくだいてたべるのである。頭の中の味噌はまた素敵においしいということになっていた。甚だ野蛮な事には違いないが、その独特の味覚の魅力に打ち勝つ事が出来ず、私なども子供の頃には、やはりこの寒雀を追いまわしたものだ。』(チャンスより抜粋)

 

経験者は、どんなに寒い日でも寒雀を見ると、きっとよだれが出たに違いない。残念ながら、いまだ寒雀を食したことはない。が、こんなものを読まされると、一度は経験したくなる。野鳥専門の焼鳥屋などにはあるのだろうな、今でも。気がつけば、自然を愛でる気持ちより、食い気が先走る自分がそこにいた。まだまだ、修行が足りないようで、と反省しつつ、今年もまた終わりなんとしている。

 

今年も多くの方にご訪問をいただき、感謝しております。懲りずに、来年もまたよろしくお願いいたします。しばらくは厳しい寒さが続きます。皆様のご健康をお祈りいたします。

この正月もまた、深い酔いの中で過ごすつもり(酔眠期ともいう)。目覚めるまでの1月8日まで、しばしブログも休ませていただきます。また、来年まで。よいお年(神様)をお迎えください。


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2 コメント

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冷凍庫より低い! (numapy)
2012-12-28 17:05:53
そうですか、太宰治のね、寒雀ね。
なかなかいい話を聞きました。
今度寒雀の句に何とかこの話を入れるよう考えてみます。
それにしても寒い!冷凍庫の中にいるより寒い!
いよいよ冬籠り、です。
今年もお疲れ様でした。よいお年を。来年もよろしくどうぞ。
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来年はいいと思います。 (genyajin)
2012-12-29 10:04:06
12月にこれだけ寒いと2月は意外に暖かいもの。結構楽天的に考えてます。政治も変わり、世の中も変わります。きっと良い年になると思います(願望ですが)。
今年はアクシデントがありましたが、きっと来年はいい年になると思います。
元気のままで新年会でもやりましょう。
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