今日の出来事

どこへでも風の吹くままに。 http://www.geocities.jp/syanagio/index.html

8月の鯨

2005-02-06 | 映画・舞台・テレビ
 DVDで観ました。ほとんど事件らしい事件も起こらない淡々とした映画です。登場人物は6人?老人です。盲目の姉と、未亡人の妹、その60年来の友人。リタイア直前の大工、ロシア革命時の亡命貴族、著医薬の不動産屋。岬の先の別荘とその周辺で過ぎる老姉妹の日常は、かたくなに昔を守る風情があります。
 プライドが高い姉を献身的に世話しながらも、閉塞感にとらわれる妹。二人の暮らしは慎ましく過ぎていく。そこに、パトロンを亡くした紳士(昔からの知り合い)が現れる。妹との間に流れる微妙なムードを察した姉が、皮肉に的確に紳士の下心を暴きたててしまう。妹との間に出来た溝は決裂寸前まで行くんだけれど、若い頃から訪れを待ち焦がれていた「8月に現れる鯨」への憧憬が関係を修復してくれる。岬から眺める雄大な海が美しいです。
 主人公たちは若い頃の服を大切に着続けていて、淡い色合いのオーガンジーやシフォンのふんわり感が素敵です。特に秀逸だと思ったのは、正装した妹が50年以上も前に死別した夫との結婚記念日に、二輪のバラを飾って写真立てを前にワイングラスを傾けるところ。静かな夜更け、極上のテーブルセッティング。穏やかな表情にわけもなく泣けてしかたがありませんでした。海風が吹き付けるベランダで妹が姉の柔らかな長い白髪をブラシで梳くシーンも、言葉がない美しさでした。老いるということの悲しさと豊饒さ。ラストで、かたくなだった姉が、妹の意に沿い、海の見える出窓を出入りの大工に頼むシーンも感動しました。よい映画です。

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