映画とライフデザイン

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映画「パリ13区」ジャック・オディアール

2022-05-01 17:44:54 | 映画(フランス映画 )
映画「パリ13区」を映画館で観てきました。


映画「パリ13区」はフランスの奇才ジャック・オディアール監督が2021年カンヌ映画祭に出品した現代若者の偶像を描いた18禁作品である。パリ13区はセーヌ川の南側にあるパリには珍しく高層ビルが立ち並ぶエリアで、アジア系も含めて多様な人種が住んでいる。1980年代ごろはパリでタクシーに乗ると運転手がベトナム人で、中国人は少ないと思ったが、パリ13区には多いようだ。久しくパリに行ったことのない自分は街の存在を知らなかった。

大胆な性的描写がきわだつ映画である。
現代フランス人の若者の性への考え方は、平均的日本人の思考を超越している。もともとベルナルド・ベルトリッチ監督の映画ドリーマーズに登場する1968年5月革命時代におけるフランスの若者も一歩進んでいた。映画では開放的な裸の女性も出てくる。「パリ13区」に共通するものを感じる。純粋な白人のフランス人だけが登場する映画でなく、アジア系、アフリカ系のフランスで育った若者がメインになる。ジャック・オディアール監督は直近トレンドの多様性にも焦点を合わせる。

18禁とはいっても、現代ネット社会を見据えた話の流れになっている。性的交わりを見せる場面が多いにも関わらず、映画の中身は奥が深く計算され尽くしている。


コールセンターでオペレーターとして働く台湾系のエミリー(ルーシー・チャン)のもとに、ルームシェアを希望するアフリカ系の高校教師カミーユ(マキタサンバ)が訪れる。二人は即セックスする仲になるものの、ルームメイト以上の関係になることはない。
同じ頃、法律を学ぶためソルボンヌ大学に復学したノラ(ノエミ・メルラン)は、年下のクラスメートに溶け込めずにいた。金髪ウィッグをかぶり、学生の企画するパーティーに参加した夜をきっかけに、元ポルノスターでカムガールの“アンバー・スウィート”本人(ジェニーベス)と勘違いされ、学内中の冷やかしの対象となってしまう。大学を追われたノラは、不動産会社に勤めるカミーユの同僚となり、二つの物語がつながっていく。(作品情報 引用)



⒈ジャック・オディアール監督
ジャック・オディアール監督作品では2000年代前半の「リードマイリップス」真夜中のピアニストに強い衝撃を受けた。特に「真夜中のピアニスト」の主人公は悪徳不動産屋というべき辛辣な地上げをする男だ。そんな男にも子どもの時に習っていたピアノに才能があり、アジア系美人ピアニストから指導を受けるストーリーで、善悪のコントラストが印象に残った。


今度も元教員のアフリカ系男性が不動産業に携わるストーリーで「真夜中のピアニスト」を連想する。台湾系のエミリーが祖母の所有するアパートに1人住まいでなくルームメイトを求めてひと稼ぎを目論む。眺めのいいアパートだ。所有のマンションにもう1人賃貸人を呼び込むのは今の日本ではあまり聞かない。大学を辞めたノラも賃貸系の不動産のリーシングに携わる。ジャック・オディアール監督に不動産の素養があるのかな?

⒉脚本の力
1974年生まれの米国の作家エイドリアントミネ原作の3つの作品が元になっている。映画を観終わると、うまい具合に3つの作品の要素をひとつにまとめたなと感心する。ジャック・オディアール監督のインタビューによると、原作を読んで「登場人物が自分には思いつかないオリジナリティーあふれる人物像」だと思ったようだ。初老の域に入った自分も監督の気持ちには同意する。

フランスではジュリア・デュクルノー監督のパルムドール作品TITAN をはじめとして女性監督の活躍が目立つ。2人の女性映画人セリーヌ・シアマとレア・ミシウスとともに脚本を書き上げたという。物語の原型というのは古今東西似たようなものであっても、登場人物は現代的で進化している。しかも、フランスの若者には昔の感覚ではありえない思考がある。さすがに70代のジャック・オディアールではこの飛んでいる若者たちの心境は読めないでしょう。

18禁で性描写も多い作品であっても奥が深いと思わせる構造には、女性的な感覚を織り込んだことが大きい。


⒊大胆なルーシーチャン
映画が始まり、いきなりバストトップを露わにした女性の裸が見える。中国系のようだ。ルーシー・チャンである。2000年生まれでまだ若い。ルームメイトになったというだけで、アフリカ系の男性とすぐ交わってしまうその心境にぶっ飛ぶ。ベットシーンも大胆である。ひょんなことでコールセンターを失職してしまうが、その後の自由奔放さにはついていけない。


⒋ノエミ・メルランと両刀使い
その一方で、大学に復学したノラが金髪のカツラをかぶってダンスパーティーに登場したことで、ポルノスターに間違われて落胆して辞めてしまう。アレ、この子見たことがあるなと気がつき、2020年の傑作燃ゆる女の肖像の主人公を演じたノエミ・メルランと気づく。今回の脚本セリーヌ・シアマが監督した作品だ。途中からレズビアンムードが強くなる映画でノエミ・メルランは全裸で女性同士交わっていた。

ここでは勤めた不動産屋の同僚となったアフリカ系の男性カミーユと全裸でカラダを合わせる。モノクロで色彩が強調される男性の黒い裸がまとわりつき刺激的だ。おいおい、こんなにくっついているけど、男は前貼りしているのか?と気になってしまう。大きすぎて前貼り無理か?


自分が間違えられたポルノスターに接触するという展開がおもしろい。最初は課金サイトで女性同士トークするだけだったのが、Skypeで話すようになるのだ。どんどん親密になっていく。こんな展開は単なるポルノではない面白い展開だ。
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