映画とライフデザイン

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映画「終戦のエンペラー」 トミーリージョーンズ

2013-08-02 05:59:41 | 映画(洋画 2013年以降主演男性)
映画「終戦のエンペラー」を劇場で見た。

マッカーサー元帥が日本に来たあと、天皇陛下と面会する話は普通のまともな日本人なら誰でも知っている話だ。軍服のマッカーサーにモーニング姿の天皇陛下が訪問し、一緒に写した写真を見て日本国民の誰もが驚いたという。戦後生まれの自分にはよく理解できない部分もある。実はこのご対面には準備段階があったというのが映画の主旨だ。

そこにはフェラーズ准将がからんでいた。当然事務方のおぜん立てがあったと思っていたが、正直彼のような存在がいることは知らなかった。ここではその昔付き合っていた日本人女性アヤの逸話と彼女とのラブストーリーも語られる。その話がちょっとうっとうしい気がする。それでも改めて今の日本があるのは天皇陛下とマッカーサーのおかげであると言い切れる何かを感じさせる映画だ。

1945年8月30日の厚木基地
第二次世界大戦で無条件降伏した日本にダグラスマッカーサー(トミー・リー・ジョーンズ)が降り立つ。
彼は直ちにA級戦犯の容疑者たちの逮捕を命じる。マッカーサーに同行していた日本文化の専門家であるボナー・フェラーズ准将(マシュー・フォックス)は自決を止めるため、部下たちを急がせる。元首相東條英機(火野正平)は自ら胸を撃つが、心臓を外して未遂に終わる。マッカーサーはフェラーズに、戦争における天皇(片岡孝太郎)の役割を10日間で探れと命じる。連合国側は天皇の裁判を望み、GHQ内にも当然と考える者たちがいたが、マッカーサーは天皇を逮捕すれば激しい反乱を招くと考えていたのだ。フェラーズは天皇を無実とする証拠をみつけるために高官に会う。

13年前大学生の頃、フェラーズは日本人留学生アヤ(初音映莉子)と恋に落ちるが、彼女は父の危篤のため帰国した。フェラーズがアヤの捜索を頼んでいた運転手兼通訳の高橋(羽田昌義)から、アヤが教員をしていた静岡周辺は空襲で大部分が焼けたという報告が届くが。。。

このあとフェラーズは近衛文麿(中村雅俊)、宮内次官の関屋貞三郎(夏八木勲)そして天皇に最も近い相談役である内大臣木戸幸一(伊武雅刀)と会う。木戸から天皇が降伏を受諾し玉音放送に踏み切る際に、軍部が皇居を襲撃したという経緯を聞かされる。その話を証明する記録は全て焼却していないのだ。天皇を無罪に持ち込む証拠はない。そういう報告をフェラーズはするしかない。
そうなると、マッカーサーは天皇に直接会うしかないのだ。

歴史上の人物が次々現れる。

近衛文麿が首相になった時、日本全国が沸いたという。日本人は血統がいい人を好きである。公家の本流の血を継ぐ彼は貴公子然として格好がよかったそうだ。それを中村雅俊が演じる。フェラーズとの面会で近衛文麿は英語で会話するのだ。これは意外だった。慶応英語会OBの英語自慢中村雅俊が天皇を弁護する。戦争開戦当時、天皇を差しおく勢いで、無理やり軍部が戦争開戦に持ち込んだという。軍部を悪者にして、自分は逃げてしまおうとする魂胆が見え見えだ。結局出頭がいやで自殺する。映画では彼の自殺部分は終わってから語られるだけだった。いかにも近衛はお坊ちゃん。そういえば孫の細川首相も最初はカッコよかったが、すぐ逃げだしたよなあ。近衛はもう少し調子のいい奴の配役が良かったか?

東京裁判の資料というと、木戸孝一日記がずいぶんと引用されている。

自分もずいぶんと読んだものだ。天皇の側近である彼が一番よく丸秘事項を知っていたのは間違いないだろう。意外だったのは、最初進駐軍からの出頭命令に木戸が逃げ回っていたということ。それは知らなかった。映画の中で准将が「天皇が死刑になるのだったらお前のせいだぞ」といって呼び出す場面がある。
三船敏郎が阿南陸軍大臣を演じた「日本のいちばん長い日」という映画がある。それこそここに描かれている将校たちが天皇の録音レコードを懸命に回収しようとする場面を描いたものだ。あの映画での木戸の振る舞いを忘れてしまったが、こいつも調子いいお坊ちゃんといったイメージがぬぐえない。

火野正平が東條英機を演じる。雰囲気はある。
でもセリフが少ない。アメリカから見たら、ヒトラーと同じくらいの独裁者といったイメージだろう。でも現実にはそこまでの権力を彼が持っていたとは思えない。戦後何から何まで東條のせいにしてしまったのはアメリカ人であり、戦後の日本人たちだ。
自分は戦後天皇が語られた「昭和天皇の独白録」を読んだ時、ものすごい衝撃を受けた。
昭和天皇が誰よりも信頼していたのは東條英機なのだ。
「報告もよくするし、真面目だ」と何度も東條をかばう。
逆に松岡洋右外相あたりは最悪だ。彼は国際連盟を辞める時のパフォーマンスが有名で、英語の堪能な外交の天才とも言われた。ソ連が最終的に裏切った「日ソ中立条約」を締結したのも松岡の功績だった。でも天皇は三国同盟締結もヒトラーに買収されたんじゃないだろうかと言い切る。この辺りは一般の会社内の人間関係に通じる。真面目な男は好かれる。

マッカーサーに日本は本当に助けられている。

もともと北海道をソ連が占領しようとしたところを阻止したのはマッカーサーだ。日本がもし2つに分れていたら、朝鮮戦争ならぬ日本分裂戦争が起きていてもおかしくないのだ。しかも「アカ嫌い」と言われるマッカーサーの考え方もいい方向にはたらいた。「天皇がいなくなったら、日本中で抗争が起きる」というのは極論かもしれない。でも共産主義者が戦後まもなく増えたのは事実である。しかも貧しい人たちは多い。教室では日教組のダメ教師たちが戦前の反対の思想教育を植え付けている。きっとアカ化がもっと激しい動きを見せ日本はおかしくなっていただろう。

そして昭和天皇だ。右翼を怖がる日本では映画で天皇を語れない。外国映画でしか見れない実像だ。

特攻や玉砕も辞さなかった狂信的な軍隊が天皇の「聖断」により武器を捨てた。この事実は大きい。天皇の戦争責任についてはずいぶんと語られている。大元帥閣下である。天皇が開戦を止められなかったのか?という人もいる。でも違う。日本社会独特の「空気」によって軍部というより日本国民すべてが一気に突き進んでいたのだ。先ほどの松岡洋右の国際連盟脱退も天皇は反対していた。でも松岡が旧国連で一席ぶったことで、日本中の称賛を浴びた。一種の心神喪失である。天皇は従わざるを得ない。しかも終戦に向かっては一億総玉砕だ。誰もがそのつもりである。狂っている。自分がどうなってもいいからもうやめてくれといった天皇がいなかったらどうなったのか?我々は存在しなかったかもしれないのだ。

いずれにせよ、戦後の2人の英断をもう一度考えさせてくれただけでも見る価値はあった気がする。
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